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システム上重要な銀行入門-「大きすぎて潰せない(TBTF)」問題について-


東京大学 公共政策大学院 服部 孝洋*1


1.はじめに
本稿ではシステム上重要な金融機関(Systemically Important Financial Institutions, SIFIs)に対する規制について説明することを目的としています。2008年の金融危機時には、巨大な金融機関が倒産することが他の金融機関に伝播することを通じて金融システム全体が崩壊する可能性が指摘されました。政府は結果的に、巨大な金融機関を救済するため、公的資金を用いたわけですが、このように巨大な金融機関を救済せざるを得ないことを「Too big to fail(TBTF)、大きすぎて潰せない」問題といいます。仮に「大きすぎて潰せない」ことを金融機関が予期した場合、その救済を前提に過度なリスクテイキングを行うなどモラルハザードの問題が深刻になりえます。また、2008年の金融危機時には、国民の資金を用いて、報酬が高いとされる金融機関を救済したことについて国民から強い批判がありました。そこで、金融危機以降、G20、金融安定理事会(FSB, Financial Stability Board)を軸に、金融システムに影響を与える金融機関、すなわち、「システム上重要な金融機関」に対して様々な規制が導入されました。
具体的には、G20首脳は、2011年11月、カンヌ・サミットにおいて、グローバルなシステム上重要な金融機関に関する政策枠組みを合意しました。その後、金融危機以降の規制改革の中で、システム上重要な金融機関に対して、追加的な資本を求めるとともに、秩序ある破綻を可能にするための制度が整備されました。本稿では、その中でも、システム上重要な「銀行」に焦点を当てます(秩序ある破綻処理については今後の論文で取り上げます)。
なお、本稿では筆者がこれまで記載した一連の金融規制の文献を前提とするので、基礎的な知識の確認が必要な読者は「バーゼル規制入門」(服部, 2022)などをご一読ください。筆者が記載してきた金融規制や債券の入門シリーズは筆者のウェブサイトにまとめて掲載してあります*2。


2.システム上重要な金融機関とは
2.1 TBTF問題への対処方法
服部(2022c)でも説明したとおり、銀行が倒産した場合、特に問題である点は、銀行の破綻が他の銀行の破綻をもたらすなど、連鎖的な影響を与えうることから、政府には救済のインセンティブが生まれる点です*3。特に金融機関が最終的に救済されることが分かっていれば、過度なリスクテイクを行う可能性も生まれます。したがって、TBTF問題に対処するためには、(1)そもそも巨大な金融機関が倒産しないようにすること、さらに、(2)仮に倒産したとしても可能な限り公的資金を使わず、秩序ある破綻を可能にするための制度が必要といえます。
(1)巨大な金融機関が破綻する可能性を低下させる方法として、(Tier1資本の軸となる)「普通株式等Tier1資本」(Common Equity Tier 1, CET1)*4をより一層求めることが考えられます。服部(2022c)で説明したとおり、Tier1資本とは、「生き延びるための資本*5」ですから、Tier1を厚めにすることは巨大な金融機関の破綻確率を低下させることにつながります。
もっとも、仮に資本を厚くしたとしても、巨大な金融機関が倒産する確率をゼロにすることは不可能です。そこで、(2)仮に倒産したとしても、公的資金を使わず、株主と債券保有者にその損失を負担させる工夫も必要といえます。このように破綻に伴うコストを株主や債権者に負担させることを、ベイルアウト*6に対比させて、「ベイルイン」といいます。「ベイルイン」については、服部(2022c)で説明したとおり、金融危機以降の改革により、Tier2などの要件が見直されましたが、特に巨大な銀行について秩序ある破綻を可能とするため、現在、TLAC(Total Loss-Absorbing Capacity)規制と呼ばれる規制が追加的に課されています。巨大な金融機関の秩序ある破綻については今後の論文で取り上げることを予定しています。また、我が国については公的資金注入のスキームは残されていますが、この点についても今後の論文で取り上げます。

2.2 G-SIBs/D-SIBsバッファー
ここから、金融機関の中でもバーゼル規制の対象となる銀行に絞り議論を深めていきますが、服部(2023)では、国際的に活動する銀行についてはCET1比率4.5%だけでなく、追加的な資本バッファーが求められることを指摘しました。服部(2023)では「資本保全バッファー」および「カウンターシクリカル・バッファー」を取り上げましたが、図表1. 各種自己資本比率の階層構造の右上にある「G-SIBs/D-SIBsバッファー」がシステム上重要な銀行に対する追加的な資本バッファーです。
システム上重要な銀行については、(1)グローバルの金融システムに影響を与える銀行と、(2)国内の金融システムに影響を与える銀行に分かれており、その対応が異なる点が重要な特徴です。例えば、日本のメガバンクなどが破綻した場合、国内だけでなく、海外でも多くのビジネスを行っていることから、国際的な金融システムに影響を与える可能性を有しています。このような銀行は、グローバルにシステミックな影響を与える銀行という意味から、「グローバルなシステム上重要な銀行(Global Systemically Important Banks, G-SIBs)」と呼ばれます(G-SIBsは「ジー・シブズ」と読みます)。
一方、日本ではプレゼンスが高く、一定程度、海外展開はしているものの、他国の金融システムに影響を与えるほどではないという銀行も存在しています。当該銀行は国内の金融システムに影響を与える銀行という意味から、「国内のシステム上重要な銀行(Domestic Systemically Important Banks, D-SIBs)」と呼ばれます(D-SIBsは「ディー・シブズ」と読みます)。
前述のとおり、金融システムへの影響が大きい銀行に対しては、追加的にCET1比率を高めることが要請されていますが、これを「G-SIBs/D-SIBsバッファー」や「G-SIBs/D-SIBsサーチャージ*7」などといいます。金融システムへの影響が大きい銀行に対し、より一層CET1比率を高める理念は理解できると思いますが、難しい点はどのようにシステム上重要な銀行を特定するかです。もちろん、資産などの点で規模が大きな銀行は、破綻した際、金融システムへの影響が大きいと考えられます。しかし、2008年の金融危機時には、リーマン・ブラザーズなどの投資銀行(証券会社)がシステミックリスクをもたらしたわけですが、資産の規模という観点のみで評価した場合、システム上重要な金融機関と認識されないリスクがあります。金融システムにおける伝播などの観点では、例えば、どれくらい他の金融機関と密接な関係を有しているかや、金融機関が有する複雑性、クロスボーダーでの活動などを考慮する必要があるといえます。
現在、バーゼル銀行監督委員会(Basel Committee on Banking Supervision, BCBS)が定めた手法に基づき、G-SIBsを特定しています*8。具体的には、まず、主要な銀行について、グローバルで見た金融システムにおける重要な度合いを指数化するうえで「G-SIBスコア」を計算します。そのうえで、このスコアに立脚し、どの程度追加的なCET1比率が求められるかを定めます(その結果はFSBが承認し、公表しています)。その一方、D-SIBsについては、各国当局が定めることになっています。D-SIBsは国際的にはシステム上重要でないものの、国内ではシステム上重要であることから、バーゼル規制のパスポート機能*9などの観点でみれば、各国当局がその基準を決めることに合理性はあるといえます。

2.3 FSBの役割
そもそもFSBとは、財務省や中央銀行・監督当局からなる金融安定化フォーラム(Financial Stability Forum、FSF)*10を前身とし、FSFを強化・拡大するかたちで2009年に設立された組織です*11。2008年の世界金融危機への対応を契機に、G20首脳会合(サミット)が開催されるようになりました。G20の首脳・大臣のリーダーシップの下で金融規制改革が推進される中、第1回G20サミットにてFSFの拡大・強化が求められました。FSBの議長はG20財務大臣・中央銀行総裁会合に出席し、G20に対して金融規制に関し、報告する役割を担います。すなわち、FSBがG20に対して、金融監督当局全体を代表して報告し、指示を受けることになりました。
G20から出された指示は、FSBを経由して、BCBSや証券監督者国際機構(International Organization of Securities Commissions, IOSCO)、保険監督者国際機構(International Association of Insurance Supervisors, IAIS)など基準設定主体メンバーとの間で割り振りを決める、あるいは、FSBそのものが担当する形になりました。BCBS、IOSCO、IAISはFSBのメンバーでもありますので、G20から指示があった場合、FSB内で役割分担を相談して決めている、とも言えます。例えば、G-SIBsへの規制はBCBS、保険関連についてはIAISが決めており、破綻処理関係についてはFSBが担っています。
上記の文脈でいえば、TBTFの問題に関し、G20は、FSBに対して、グローバルのシステム上重要な金融機関(G-SIFIs)にかかる問題について指示を出しました。この段階では対象は「金融機関」全体であるため、銀行に限ってはおらず、FSBはいわばG-SIFIs対策を担っているといえます。このうち、銀行監督を担うBCBSがシステム上重要な銀行、すなわち、G-SIBsに対する対応を引受け、保険監督を担うIAISがシステム上重要な保険、すなわち、Global Systemically Important Insurers(G-SIIs)に対する対応を引受けた、と整理されます。このように、FSBは、各部門間をまたがる案件を統括する役割を担うとともに、BCBSなど各主体に落ちないような案件を担うことになります。図表2. G20関連書会合関連図は秀島(2021)より抜粋してきた図ですが、FSBは基準設定主体をメンバーとして含んでおり*12、それらとの調整を行いつつ、G20へ報告を行います(G20から指示を受けます)。
冒頭で記載したとおり、システム上重要な金融機関に対する規制については、カンヌ・サミットにおいて、グローバルなシステム上重要な金融機関に関する政策枠組みが合意されました。2011年11月に、BCBSがG-SIBsの選定手法を公表するとともに、FSBがG-SIBsのリストを公表しています。G-SIBsに対する追加的な資本バッファーは、2016年から2019年にかけて段階的に導入され、2019年からはG-SIBsに対して1%~3.5%のバッファーが求められています。一方、D-SIBsに対しては、2012年にBCBSで枠組みが定められました。我が国では、金融庁が国際合意に沿って2015年からD-SIBsを指定しています*13。

2.4 G-SIBsに対する追加的な規制
G-SIBsに指定されるかどうかは対象となる銀行にとって極めて重要な問題です。特に、G-SIBsに指定されると、前述の通り、そもそも破綻する確率を下げるため、追加的にCET1比率が求められることになりますし、監督上の目線も引き上げられます。また、秩序ある破綻を可能にするため、TLAC規制が課されるとともに、再建・破綻処理計画を規制当局へ提出する必要があります。このように、G-SIBsに指定されると、対象となる銀行の行動に大きな制約が生まれます(私の実感では、システム上重要な銀行に指定されることは銀行にとって名誉でもなんでもなく、追加的な制約を生むだけと解釈されています)。TLAC規制についていえば、我が国では3メガバンクと野村ホールディングス(HD)がその対象になっています。
また、我が国でD-SIBsに指定された場合でも、D-SIBsバッファーという形でCET1比率の追加が求められるほか、必要に応じてTLAC規制や再建計画の策定といった追加的な規制が課される場合もあります。例えば、我が国では特に欧州でのビジネスが大きい野村HDはD-SIBsでありながらTLAC規制が課されています。また、欧州ではD-SIBsであっても欧州版TLAC規制の対象になるなど、各国によってその状況が異なる点にも注意してください。
3G-SIBsの選定方法と追加的に求められる資本バッファー

3.1 G-SIBsの定義
ここから現在の規制において、G-SIBsをどのように選定しているかを議論しますが、前述のとおり、G-SIBsの選定において重要な点は、金融システムへの影響度合いを多面的に考慮している点です。秀島(2021)では、G-SIBsの選定方法については、国際合意に至るプロセスが特に困難であったことを指摘しています。金融危機以降、規制改革が始まったわけですが、Tier1やTier2の定義等についてはバーゼル規制の中で長い歴史があり、制度変更についての経験がありました。しかし、システム上重要な銀行をどのように選定するかは、金融危機以降、初めて真剣にBCBSで検討されたため、より一層その調整が困難になりました。事実、導入時の選定方法が必ずしも完璧ではないことから、現在も定期的に見直されています。
非常に重要な点は、銀行の規模のみに立脚してG-SIBsを定義しているわけではない点です。秀島(2021)では、規模だけで評価した場合、中国の銀行が非常に多くなるなど、現在のG-SIBsとはかなり違った顔ぶれになることを指摘しています。また、植田(2022)は、「世界金融危機で見たように、リーマン・ブラザースなどの投資銀行(証券会社)やAIGなどの保険会社でも、またそれほど規模が大きくない金融機関でも金融システムやマクロ経済に大きなコストがかかる場合があり、規模が大きいというよりも、『金融システムの中で重要な位置を占めていること』(systemically important)が、救済のより適切な対象となる条件である」(p.154)としています。すなわち、TBTFを防ぐという意味では、金融機関が潰れた場合、どの程度、金融システムに影響を与えるかが重要であり、その金融機関が有する相互連関性や複雑性などの要因を考える必要があるわけです。

3.2 G-SIBスコアとバケッティング・アプローチ
G-SIBsを指定するうえで、具体的には、二段階のアプローチが取られています。まず、「G-SIBスコア」と呼ばれる指数を構築します。このように指数に基づきG-SIBsを選定する手法を「指数ベース測定方式(indicator-based measurement approach)」といいます。そのうえで、この指数を各銀行について計算し、図表3のバケットに当てはめることでG-SIBsの判定およびどの程度追加的にCET1比率が求められるかが定められます。このようにバケットを用いる方法を「バケッティング・アプローチ(bucketing approach)」といいます。詳細は後述しますが、G-SIBスコアは、(1)規模(Size)に加えて、(2)相互連関性(Interconnectedness)、(3)代替可能性/金融インフラ(Substitutability/financial institution infrastructure)、(4)複雑性(Complexity)、(5)クロスボーダーな活動(Cross-jurisdictional activity)の5つの評価基準に立脚し指数化されます。
例えば、ある銀行のG-SIBスコアが300であった場合、図表3. G-SIBスコアとサーチャージの関係をみると区分は2であり、CET1比率が1.5%追加的に求められることになります。図表3をみると、上限は3.5%である一方、G-SIBスコアが130を下回る場合、G-SIBsではないという判定がなされることが分かります(計算事例は後程確認します)。
なお、G-SIBsの判定にあたっては、4つの原則*14に基づき、当局が一定の調整を加えられるようになっています。この背景には、前述の方法だけに則ると、実際にG-SIBsに分類すべき銀行が捉えられない可能性があるからです。これはG-SIBスコアそのものが完璧でないことを規制当局が一定程度認識しているともいえますが、国際機関が有するモデルでは、このような問題からスタッフによる一定の調整がなされることが少なくありません*15。筆者の知る限り、我が国ではこの調整はいまだ発動されていませんが、ノルディアなど、他国ではすでに事例がある点にも注意してください*16。
G-SIBsについては、G-SIBスコアに立脚して、G-SIBsの対象行を毎年見直しています。また、G-SIBsを選定する枠組みそのものについても、定期的に見直されています。当初、その枠組みの見直しは3年に1度とされていましたが、2021年11月に、必要に応じて改定される形に変更されました*17。また、G-SIBスコアの更新に伴い、銀行に求められる追加的な資本が変更された場合、FSBからG-SIBsのリストが公表されてから14か月後にその対応が求められる点も特徴です*18。

3.3 G-SIBスコアの定義
ここで、G-SIBスコアについて、もう少し丁寧に説明します。まず、G-SIBスコアは下記のように定義されています*19。
分子であるBank indicatorは、図表4. G-SIBスコアの内訳にある5つの評価基準の平均になります。例えば、規模(Size)であれば、レバレッジ比率を計算する際の分母であるエクスポージャー額になります(それぞれの項目については後述します)。5つのカテゴリーのウェイトは同じウェイト(20%)とされています。もっとも、図表4に記載されているとおり、各評価基準の中に、細分類があり、例えばクロスボーダーな活動であれば、与信と負債でそれぞれ10%とされています。
一方、分母であるSample totalは、この指標を標準化するものであり、バーゼルⅢのレバレッジ比率をベースにしてセレクションされた75の銀行のデータを用いて計算されます(その結果は国際決済銀行(Bank for International Settlements, BIS)のウェブサイト*20で公表されています)。上記の定義式にはEuroと記載されていますが、この計算をするうえでユーロ建て*21に直されることを意味しています。また、このようにSample totalで割っていることから、G-SIBスコアは相対的な値であることが理解できます。ちなみに、米国の銀行については、このG-SIBスコアに加えて、FRBによる評価(これをMethod 2といいます)も加わりますが、FRBによるMethod 2については後述します。

3.4 G-SIBスコアにおける評価基準の詳細
以下では、(1)規模、(2)相互連関性、(3)代替可能性/金融インフラ、(4)複雑性、(5)クロスボーダーな活動についてそれぞれの定義を簡単に整理します。
(1)規模
前述の通り、規模についてはレバレッジ比率を算出する際に用いられるエクスポージャーの合計額になります。

(2)相互連関性
相互連関性とは、金融機関がどのように相互に依存しているかであり、ある銀行が破綻した場合、他の銀行にどれくらい伝播するかを捉える指標と解されます。具体的には、金融システム内において、どの程度貸出があるかや、OTCデリバティブの(ネットでみた)時価評価などで捉えられます。

(3)代替可能性/金融インフラ
代替可能性とは、当該銀行が金融システムについてどの程度他の金融機関に代替されない金融サービスを提供しているかを指す一方、金融インフラは金融市場におけるインフラ的なサービスを提供する度合いになります。例えば、銀行は決済などを担っており、金融機関のインフラを提供しているといえます。代替可能性は、その性質からすると本来は「代替不可能性」と呼ぶべきかもしれません。

(4)複雑性
複雑性とは、当該銀行が行う金融サービスの複雑性を指しますが、中央清算されていないOTCデリバティブの想定元本やレベル3資産(市場価格等に基づき公正価値を計算することが難しい資産)、トレーディング及び売却可能有価証券の額が対象となっています。

(5)クロスボーダーな活動
クロスボーダーな活動とは、当該金融機関がどの程度クロスボーダーの取引を行っているかであり、クロスボーダーの与信・負債の額で捉えます。

3.5 計算事例
G-SIBスコアの計算例は次のとおりです*22。図表5. G-SIBスコアの計算例を見てもらいたいのですが、まず評価指標の一つである「規模」に着目すると、3列目に2,000と記載されています。この値をSample totalである80,000で割ったうえで、10,000を掛けることで、「規模」のIndicators score(bps)が計算されます。このような計算を「規模」以外の評価指標についても行います。
上記を前提に、評価指標の細分類を集約した値が図表6. G-SIBスコアの計算例です。この図表は、評価基準毎のキャップを考慮したうえで最終的なスコアを計算することを示しており、G-SIBスコアはその単純平均である282.5bpsと計算されます。この値を用いて、以前提示したバケットの表(図表3)を参照すると、1.5%だけCET1比率の追加が求められることがわかります。

3.6 G-SIBs選定方法の見直し
前述のとおり、G-SIBsの選定手法の見直しについては3年に1度とされていましたが、2021年11月に、必要に応じて改定される形に変更されました。例えば2018年に公表された改訂版G-SIBs選定手法において変更された箇所は、(1)対外与信・対外負債指標の計算方法の見直し、(2)証券トレーディング指標の追加、(3)保険子会社の算入、(4)開示規制の見直し、(5)バケット低下時におけるG-SIBsサーチャージの取扱いの明確化、であり、2020年末より実施されるとされました*23。特に、「代替可能性/金融インフラ」の項目に「証券トレーディング」という小区分(ウエイト3.33%)が追加され、その代わりに「証券引受」のウェイトが半減しています。もっとも、コロナの影響を考慮し、この導入が延期され、2022年から改定された手法に基づくG-SIBスコアが公表されています。


4.システム上重要な銀行に関するその他の論点
4.1 D-SIBsの定義
前述のとおり、G-SIBスコアが130を下回った場合、G-SIBsという取り扱いはなされませんが、各国当局によって国内でシステム上重要であると判断されれば、D-SIBsとして取り扱われます。G-SIBsは2011年に公表されましたが、2012年にBCBSは、「国内のシステム上重要な銀行の取扱いに関する枠組み」に係る最終報告書を公表しています。G-SIBsに対して、D-SIBsフレームワークはG-SIBsフレームワークの補完的な位置づけとされています。
D-SIBsの判定については、規模、相互連関性、代替可能性、複雑性という4つの評価基準に基づいており、クロスボーダーな活動という点以外はG-SIBスコアの基準と整合的です*24。図表1にあるとおり、D-SIBsバッファーは金融庁長官の指定により0.5%~1.5%とされています。
我が国については、連結ベースで総資産が15兆円以上の国内の銀行等が評価対象とされ、前述の「規模」、「相互連関性」、「代替可能性/金融インフラ」、「複雑性」の4つの基準に関連する12指標を用いて、各銀行等のスコアが算出されます(図表7. D-SIBs選定にかかる評価指標を参照してください)。国際統一基準の適用を受ける者(最終指定親会社を含む)を対象に、当該スコアに加え、特定の市場における重要性等、各銀行等の特性も踏まえた総合的判断を行い、システム上重要と評価された銀行等をD-SIBsに選定しています。

4.2 「ウィンドウ・ドレッシング」の問題
G-SIBsに指定された場合、当該銀行の行動に大きな制約がかかるため、各銀行はより重い規制がかからないよう、年末にかけてバランスシート(BS)を調整するとされています*25。G-SIBsに関する規制を、「大きすぎて潰せない」銀行にならないようインセンティブを与えるものと解釈すれば、こうした調整はシステム上重要な銀行にならないよう、金融セクターで工夫していると解釈することができます。一方、規制対象が判定されるタイミングだけBSを調整して規制を逃れようとする行動は、「ウィンドウ・ドレッシング」と指摘されることもあります。
特に、年末では、このように規制要因でBSを調整することがマーケットに影響を与えうることから、市場参加者の中でも注目を受けています(証券会社などは毎年11月に発表されるG-SIBスコアについて各種レポートをリリースしています)。そもそも、金融危機以降、規制要因により、年度末や四半期末に金融資産の価格が変動することは様々な場面で見られています。例えば服部(2017)は為替スワップや通貨スワップの観点でこの議論を行っています*26。
金融機関によるBSの調整については国際機関や中央銀行などもすでに分析を行っており、論文内で、ウィンドウ・ドレッシングという表現が使われることも少なくありません*27。特に、BISのワーキングペーパーであるGarcia et al. (2021)は、欧州の銀行を対象に、G-SIBsバッファーを減らすよう、年末にかけてBSを圧縮すると指摘しています。同論文では、資産・負債を圧縮するほか、OTCデリバティブの圧縮なども指摘しています。また、Fed NoteであるBerry et al. (2020)は、米国の銀行のデータを用いており、OTCデリバティブの取引を圧縮することで、バッファーを減らす努力をしていることを指摘しています。
富安(2023)は金融危機以降、欧米の銀行はG-SIBスコアを下げている一方、日本と中国の銀行はG-SIBスコアを上昇させている点を指摘しています。同書は、「単純にこうした銀行のプレゼンスが大きくなっているという理由のほかに、欧米銀行のリスク削減努力の影響もある」と指摘しています。

4.3 「指数ベース測定方式」と「バケッティング・アプローチ」以外の手法
前節で述べた通り、現在、G-SIBスコアは、「指数ベース測定方式」と「バケッティング・アプローチ」が用いられていますが、筆者の理解では、規制当局が有するそれまでの知見に基づき構築したと理解しています。秀島(2021)も、「専門家の定性的な判断(感覚)を定量化する試みと理解できる」、「最初に選定されたG-SIBsの顔触れを見渡した際には、担当部会メンバーの間でホッと胸を撫でおろす感覚があった」(p.142)と指摘しています。
一方、別のアプローチを用いてシステム上重要な金融機関を指定する方法もありえます。例えば、学術研究では、Adrian and Brunnermeier(2016)により提示されたCoVaRを用いてシステミックリスク指標を構築することも考えられます*28。また、ニューヨーク大学スターン校のVolatility and Risk Institute(V-Lab)はSRISKとよばれるシステミックリスクの指標を算出しています。もっとも、これらの計測には株価が必要であり、上場していない銀行の計算が困難であるなど実務的な問題がある点には注意が必要です。
また、バケッティング・アプローチでは図表3のようなバケットを用いてG-SIBスコアからCET1比率のサーチャージを算出しますが、例えば、G-SIBスコアと線形の形で、CET1比率を求めるということも可能です。この場合、求められるCET1比率のチャージが1.5%や2%などのようにデジタルな値にならず、例えば1.81%などの細かい値になるうるため、バケッティング・アプローチを用いることで実務的に上乗せされるCET1比率の算出が容易になるというメリットを有しています。しかし、このようにバケッティングを作る副作用として、金融機関がCET1比率のチャージがさらに上乗せされないようギリギリのラインにG-SIBスコアを誘導するインセンティブを与えてしまっている(逆に言えばギリギリのラインになるまではG-SIBスコアを減らすインセンティブが生じない)可能性もあります。

4.4 TBTF問題の実証分析
前節では、ウィンドウ・ドレッシングの問題について一定の分析がなされている点を指摘しましたが、実証研究も進んでおり、2021年にFSB自身もTBTF改革に関する報告書*29を公表しています。例えば、ギリシャがユーロ圏に入ることで、その金利がドイツ国債の金利に収斂していった一因として、ギリシャが救済されることを考慮して投資家がプライシングを行ったことが考えられます。このように見ると、金融機関の調達コストに立脚することで、投資家がその発行体に対し、どの程度、救済の可能性を考慮しているかを測ることができます。植田(2022)では、このように調達コストに立脚したアプローチとして、IMFの国際金融安定性報告書(Lambert et al. 2014)の手法を紹介しています。具体的には、(1)欧米の大銀行とそれ以外の銀行における社債金利差を調達コストとして調べる、(2)大手格付け機関の格付けをリスクの代理変数として用いる、(3)格付けによらず銀行ごと、当局ごとの違いを反映させたTBTFによる調達金利の差を測る、というアプローチです。詳細は植田(2022)を参照していただきたいのですが、2010年代を通じて救済の可能性がある程度少なくなっていること、ただ、その可能性はまだ存在することなどを指摘しています。
また、G-SIBsバッファーの影響についても一定の学術研究が進んでいます。例えば、Favara et al. (2021)は、米国のデータを用いて、G-SIBsバッファーは貸出に負の影響を与えたものの実体経済には影響を与えなかったと指摘しています。

4.5 FRBによるMethod 2
G-SIBsに対する資本バッファーを定めるうえで、米国ではFRBによる手法も用いれており、これをMethod 2といいます。具体的には、前節で説明したMethod 1とMethod 2により求められるCET1比率を比較し、より厳しい値が用いられます。服部(2022b)で記載したとおり、バーゼル規制は各国における最低限の規制であり、各国にはそれ以上に高い規制を課す自由が認められています。ここで紹介した国内基準が国際基準より厳しい場合のみ国内基準を採用するという米国の方法はその事例の一つと解されます。
読者に注意を促したい点は、そもそもある米銀がG-SIBsとして指定されるかどうかはあくまでG-SIBスコア(Method 1)で定められる点です。G-SIBスコアが130以上である米銀をまずはG-SIBsとしたうえで、そのサーチャージの度合いについて、Method 1とMethod 2により求められるCET1比率を比較するということです*30。
Method 1とMethod 2の重要な違いの一つは、Method 1は相対指数であるのに対して、Method 2が絶対指数である点です。富安(2023)はこの違いについて「すべての銀行が規模をふやせばMethod 1のスコアは一定であるのに対して、Method 2ではスコアが全員上昇してしまう」と指摘しています。前節で説明したG-SIBスコアは相対指数ですが、その背景には、当時、初めてG-SIBスコアを採用したことから絶対値に基づく指数を構築することが困難であったことなどが考えられます。もっとも、相対的ではなく、絶対的な意味で、各銀行のシステム上重要な度合いが上昇する可能性もあり得、Method 2ではこの点が考慮されているとみることができます。なお、Method 1とMethod 2にかかるその他の違いとして、Method 2では短期のホールセールファンディングへの依存度も考慮されており、評価基準は類似しているものの、異なる点がある点に注意してください。
図表8. Method 2の評価指標は、Method 2の評価基準をみたものですが、Method 1と似通っているものの、そのウェイト等が異なる点、また、Method 2では「代替可能性」の代わりに「ホールセールファンディング」が考慮されていることが確認できます。Method 1の各項目の合計は100%になりますが、Method 2では各項目の合計が100%になるとは限らない点も確認できます。また、Method 2では図8に記載してあるとおり、固定の係数が用いられますが、これは2012年から2013年の集計データにより算出されています(詳細はFederal Register(2015)を参照してください)。
Method 2ではバケッティングも異なる点に注意してください。具体的には図表9. Method 2のスコアとサーチャージの関係を用いて、Method 2によるサーチャージを算出しますが、Method 1とは異なり、サーチャージが3.5%を上回ることがある点が確認できます。実際、これまで採用されているG-SIBsのサーチャージは、サーチャージがより厳しいMethod 2に基づく傾向がみられています*31。


5.終わりに
本稿はシステム上重要な金融機関について取り上げました。TBTF問題についての経済学的な議論は、植田(2021)の第9章で取り上げられているため、経済学との関連を知りたい読者は同書を参照してください。次回は預金保険および金融機関の破綻処理について取り上げることを予定しています。

BOX システム上重要なCCPとシステム上重要な保険
本稿ではシステム上重要な銀行について焦点を当てましたが、システム上重要な金融機関は銀行だけではありません。服部(2022a)で説明した通り、標準的なデリバティブは、中央清算機関(Central Counterparty, CCP)を通じて清算することが求められています。例えば銀行Aと銀行BがOTCデリバティブ契約を結んだ場合、CCPを通じて清算を行うことになります。この場合、その債権債務関係は銀行Aと銀行Bではなく、銀行AとCCP、銀行BとCCPという形で、CCPに置き換わることになります。そもそも金利スワップは、円ベースだけで想定元本が1,000兆円を超えるマーケットですから、標準的なデリバティブをCCPで清算することを義務付けることで、政府がCCPをシステム上重要な金融機関に変化させたとみることもできるでしょう。
システム上重要なCCPについては、決済・市場インフラを担う決済・市場インフラ委員会(Committee on Payments and Market Infrastructures, CPMI)とIOSCOによって、FMI原則に基づき、CCPへの規制が課されています。FMI原則とは、金融市場インフラ(FMI)が順守すべき原則を示したもので、CPMI-IOSCOによって2012年に公表されました*32。この原則の対象は、システム上重要な資金決済システムやCCPなどとされています。FMI原則では金融市場インフラへのガバナンスや信用リスクなど詳細にルールが定められています。具体的な規制の整備については、CPMIとIOSCOで議論されたルールが、各国の監督機関により法制化されていくというプロセスを経ます(我が国では金融商品取引法および監督指針に落とし込まれます)。FMI原則については、羽渕(2018)が我が国で定番のテキストになっているため、詳細を知り合い読者は同書を参照してください。
本稿で説明したとおり、システム上重要な金融機関には、システム上重要な保険(G-SIIs)も存在します。特に金融危機時にはシステミックリスクを防ぐこと等を背景に、AIGの救済がなされたことから、保険のなかにもシステム上重要な金融機関が存在することは明らかです。G-SIIsの認定については、FSBとIAISで議論が進められ、2013年からG-SIIsの認定がなされており、その後定期的に見直しが行われていました。その認定方法はG-SIBスコアと類似性がありますが、保険ビジネスを考慮して各評価基準やそのウェイトが異なっています(図表10. 保険セクターと銀行セクターにおける各カテゴリーの比較を参照)。もっとも、2020年よりG-SIIs指定が一時停止されており*33、2022年に、FSBはG-SIIsについてモニタリングをしながら、必要があればアクションするなどと決定しています*34。G-SIBsと異なり、G-SIIsに対しては資本の追加的なバッファーが求められていない点が決定的な違いです。本稿ではG-SIIsについては紙面の関係で取り上げませんでしたが、その詳細を知りたい読者は中村(2020)などを参照していただければ幸いです。
なお、現在、システム上重要な「証券会社」は指定されていませんが、そもそも、金融危機時に多くの独立系証券会社が銀行に転換したため、その対象が少なくなっています。日本の場合、規模の大きな独立系証券会社が存在しており、その意味で、いわば独自路線とも解釈できる一方、例えば野村HDはG-SIBsの計算対象になっており、そのスコアが大きければG-SIBs化します。そもそもG-SIBスコアに複雑性や相互連関性を含めている背景には、商業銀行にはない投資銀行のリスクを捉えようとしていることがあります。
我が国の独立系投資銀行への規制の大きな転換点は、2010年の最終指定親会社制度の導入です。この時、野村HD、大和HDに対して、連結ベースでバーゼル準拠の健全性規制を求めることになりました。現在、野村HDと大和HDはD-SIBsに指定されています。野村HDは、破綻したリーマン・ブラザーズの欧州部門を継承したことから、欧州でのビジネスが特に大きく、TLAC規制が課されています。

参考文献
[1].植田健一(2022)「金融システムの経済学」日本評論社
[2].植田健一・服部孝洋(2019)「グローバル・インバランスとIMFによる対外バランス評価(EBA)モデルについて」PRI Discussion Paper Series(No.19A-06)
[3].鈴木利光(2012)「国内のシステム上重要な銀行に係る枠組み BCBSによるD-SIBフレームワーク(最終):2016年から追加資本賦課」大和総研
[4].鈴木利光(2015)「D-SIBsのリストとバッファー水準の指定」大和総研
[5].富安弘毅(2023)「カウンターパーティーリスクマネジメント(第3版)」きんざい
[6].服部孝洋(2017)「ドル調達コストの高まりとカバー付き金利平価」『ファイナンス』10月号、56–63.
[7].服部孝洋(2022a)「店頭(OTC)デリバティブ規制入門-清算集中義務と中央清算機関(CCP)について-」『ファイナンス』7月号、20-31.
[8].服部孝洋(2022b)「バーゼル規制入門―自己資本比率規制を中心に―」『ファイナンス』、28-39.
[9].服部孝洋(2022c)「AT1債およびバーゼルIII 適格Tier2債(B III T2債)入門―バーゼルIII対応資本性証券(ハイブリッド証券)について―」『ファイナンス』12月号、14–24.
[10].服部孝洋(2023)「資本保全バッファー(CCB)およびカウンター・シクリカル・バッファー(CCyB)入門―バーゼル規制における資本バッファーを通じた「プロシカリティ」への対応について―」『ファイナンス』2月号、〇.
[11].羽渕貴秀(2018)「OTCデリバティブ規制改革とFMI原則―清算集中義務・マージン規制からCCPの再建・破綻処理まで」きんざい
[12].秀島弘高(2021)「バーゼル委員会の舞台裏」金融財政事情研究会
[13].中村亮一(2020)「ソルベンシー規制の国際動向:保険会社の資本規制を中心に」保険毎日新聞社
[14].森田宗男(2015)「国際金融規制改革の最近の動向」『証券レビュー』日本証券経済研究所[編]55(1), 1-67.
[15].みずほ証券バーゼルIII研究会(2019)「詳解 バーゼルIIIによる新国際金融規制〈改訂版〉」中央経済社
[16].Adrian, T., Brunnermeier, M. (2016)「CoVaR」American Economic Review, 106(7), 1705-1741.
[17].Basel Committee on Banking Supervision(2014)「The G-SIB assessment methodology – score calculation」
[18].Berry, J., Khan, A., Rezende, M. (2021)「How Do Global Systemically Important Banks Lower Capital Surcharges?」Working Paper
[19].Favara, G., Ivanov, I., Rezende, M. (2021)「GSIB surcharges and bank lending:Evidence from US corporate loan data」Journal of Financial Economics 142(3), 1426-1443.
[20].Federal Register. (2015)「Regulatory Capital Rules:Implementation of Risk-Based Capital Surcharges for Global Systemically Important Bank Holding Companies」
[21].Furukawa, K., Ichiue, H., Kimura, Y., Shiraki, N. (2021)「Too-big-to-fail Reforms and Systemic Risk」Bank of Japan Working Paper Series(No.21-E-1)
[22].Garcia,L., Lewrick, U., Sečnik, T. (2021)「Is window dressing by banks systemically important?」BIS Working Papers
[23].Lambert, F., Ueda, K., Deb, P., Gray, D., Grippa, P. (2014)「How Big Is the Implicit Subsidy for Banks Considered Too Important to Fail?」Global Financial Stability Report(Chapter 3)

*1) 本稿の作成にあたって、河合美宏氏、川名志郎氏、吉良宣哉氏、富安弘毅氏、秀島弘高氏に加え、匿名の有識者から有益な助言や示唆をいただきました。本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。
*2) 下記をご参照ください。
https://sites.google.com/site/hattori0819/
*3) 2008年9月にリーマン・ブラザーズが破綻した際には、救済は行われず、金融市場や実体経済に大きな混乱が生じたことから、むしろ「公的資金を使った救済をしなかったのが問題ではないのか」といった見方もあろうかと思います。ただ、そうした意見が強くなったことから、翌月のAIGという保険会社の破綻に際しては公的資金を使った救済を行わざるを得ない状態になりました。また、同年3月のベア・スターンズの破綻の際には、FRBの資金を使った救済合併が行われました。「3月に救済を行っていなければ9月には救済の期待が高まらず、あそこまで混乱しなかった筈だ」との意見もあります。いずれにしても、「金融機関が損失を発生させた場合に、その尻拭いを公的部門が行い、当該金融機関の株主や債権者は守られる状態は避けなければならない」ということでしょうし、そのためには「実際に破綻が生じた場合には金融市場や実体経済に悪影響を及ぼさないよう、秩序立った処理が行えるようにしておくのが必要」ということでしょう。
*4) 詳細は服部(2022b)を参照してください。
*5) Tier1資本が「生き延びるための資本」と解される理由については服部(2022c)を参照してください。
*6) 危機に陥った企業や国に対して国や中央銀行・国際機関のような公的主体が資金を注入すること一般を「ベイルアウト」と呼びます。ただし、「ベイルアウト」という言葉は幅広い意味で用いられており、政府がリスクをとって資本を注入するような場合から、一時的な資金貸付のようなケースまで、幅広く用いられる傾向があります。
*7) 「システム上重要な金融機関には追加的な資本賦課をすべきだ」という文脈で議論をしている際には「サーチャージ」という用語がしっくりしていたのでしょうが、未達になった場合の社外流出制限の掛け方が他のバッファーと一体とされることになってからは、「バッファー」の用語の方が混乱を招かないように思われます。
*8) 下記の通り、G-SIBスコアの方法を取り扱っているのはBCBSです。
https://www.bis.org/bcbs/gsib/
*9) バーゼル規制のパスポート機能については、服部(2022b)をご参照ください。
*10) 1999年に設立されたFSFは銀行・証券・保険についての別々の分野別の監督をすることにより、不整合が生じたり、抜け漏れが生じないかなどのチェックをする調整機能のような役割を担っていましたが、FSBになり、様々な機能が強化されるとともに重要性が非常に大きくなりました。
*11) ここでの表現は下記の日銀のサイトを参照にしています。
https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/intl/g06.htm/
*12) 詳しくはFSBのCharterを参照してください。
https://www.fsb.org/wp-content/uploads/FSB-Charter-with-revised-Annex-FINAL.pdf
*13) 詳細は鈴木(2015)などを参照してください。
*14) 4つの原則は下記の通りですが、詳細を知りたい読者はみずほ証券バーゼルIII研究会(2019)の第7章などを参照してください。
(1)The bar for judgmental adjustment to the scores should be high:in particular, judgment should only be used to override the indicator-based measurement approach in exceptional cases. Those cases are expected to be rare.
(2)The process should focus on factors pertaining to a bank’s global systemic impact, ie the impact of the bank’s distress/failure and not the probability of distress/failure(ie the riskiness)of the bank.
(3)Views on the quality of the policy/resolution framework within a jurisdiction should not play a role in this G-SIB identification process.5
(4)The judgmental overlay should comprise well documented and verifiable quantitative as well as qualitative information.
*15) 例えば、植田・服部(2019)ではIMFのグローバル・インバランスにかかるモデルを説明していますが、ここでもスタッフ調整がなされるフェーズがあります。
*16) 例えば、Risk.netにおける「What’s Finnish for ‘too big to fail’? Strange case of Nordea highlights flaw in G-Sib assessments」などを参照してください。
https://www.risk.net/our-take/6209381/whats-finnish-for-too-big-to-fail
*17) 詳細は下記を参照してください。
https://www.fsb.org/2021/11/fsb-publishes-2021-g-sib-list/
*18) FSBの資料では「The capital buffer requirements for the G-SIBs identified in the annual update each November will apply to them as from January fourteen months later」としています。詳細は下記をご参照ください。
https://www.fsb.org/wp-content/uploads/P211122.pdf
*19) 詳細は下記を参照してください。
https://www.bis.org/bcbs/publ/d296.pdf
*20) 詳細は下記を参照してください。
https://www.bis.org/bcbs/gsib/denominators.htm
*21) ユーロ建てであることに、対象国が多かったことも考えられますが、国際比較をするうえではどこかの通貨建てで揃える必要はあり、米国がドルに対して特段こだわりがなかったこともあったとされています。
*22) BISの資料の事例をそのまま用いているため、評価基準が古い点に注意してください。
*23) 詳細は下記を参照してください。
https://www.fsa.go.jp/inter/bis/20180709-1.pdf
*24) 「国内のシステム上重要な銀行の取扱いに関する枠組み」では、特定メソッドの開発など、11の原則が記載されていますが、詳細を知りたい読者は鈴木(2012)を参照してください。
*25) 日本国内でも、金融機関がG-SIBスコアの上昇を抑えるために対応をとっていると報道される事例があります(日本経済新聞「農林中金、CLO投資圧縮 国際規制を警戒」(2021/11/24)など)。なお、資産等の項目によっては調整に時間が掛かるものもあり、年末に減らそうとすると前後数ヶ月は減った状態になるものもあり、どこまでが「年末だけ」と言えるかについては様々な意見があるかもしれません。
*26) なお、こうした動きは、G-SIBスコアだけではなく、レバレッジ比率規制や法人税額等、一時点のBSやPLに対して賦課されるものに関して全般的に発生するより幅広い問題でもあります。
*27) 例えば、BISのワーキングペーパであるCarcia et al. (2021)は「Is window dressing by banks systemically important?」というタイトルで論文を記載しています。
*28) 日銀のワーキングペーパーであるFurukawa et al. (2021)ではCoVaRに加え、SRISKを用いて、「大きすぎて潰せない問題」に対する改革の効果を検証しています。
*29) https://www.fsb.org/wp-content/uploads/P010421-1.pdf
*30) Berry et al. (2021)では「The method 2 score does not determine whether a bank is a GSIB:As mentioned in this subsection, the GSIB status is determined by the method 1 score alone. A bank’s GSIB surcharge is the higher of the method 1 and 2 surcharges, which are increasing functions of the method 1 and 2 scores, respectively.」と指摘しています。
*31) 例えば、BCBSの下記のRegulatory Consistency Assessment Programmeでは、「Method 2 generally results in higher surcharges than Method 1」としています。
https://www.bis.org/bcbs/publ/d369.pdf
*32) ここでの記載は、羽渕(2018)を参照としています。
*33) 詳細は下記を参考してください。
https://www.fsa.go.jp/inter/iai/20191120/20191120.pdf
*34) 詳細は下記を参照してください。
https://www.fsb.org/2022/12/2022-resolution-report-completing-the-agenda-and-sustaining-progress/