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特集 令和5年度政府経済見通しについて


内閣府政策統括官(経済財政運営担当)付参事官補佐(経済見通し担当) 古川 健


令和5年1月23日に「令和5年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度」(以下「政府経済見通し」という。)が閣議決定された。政府経済見通しは、翌年度の経済財政運営に当たって政府がどのような基本的態度をとるのか、及び、それを踏まえて経済はどのような姿になるのかを示した政府文書であり、内閣府が作成の上、財務省の税収見積もり、延いては予算の前提として用いられたのち、予算の国会提出と同時期に閣議決定されることで最終的に政府見解となる。
今回の政府経済見通しでは、令和4年度の我が国経済は、コロナ禍からの緩やかな持ち直しが続く一方で、世界的なエネルギー・食料価格の高騰や世界経済減速の影響を受け、実質で1.7%程度、名目で1.8%程度の成長になると見込まれている。
令和5年度については、引き続き世界経済の減速は見込まれるものの、「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」(令和4年10月28日閣議決定。以下「総合経済対策」という。)の効果の発現が本格化し、「人への投資」や成長分野における官民連携の下での投資が促進されることから、実質で1.5%程度、名目で2.1%程度の民需主導の成長が見込まれる。
本稿では、令和5年度政府経済見通しの具体的な内容について紹介する。GDPの内訳項目等の詳細な見通しについては、文末の表 主要経済指標を参照されたい。
1.政府経済見通しの位置づけ
政府経済見通しは、政府による公式な経済予測であるのみでなく、今後政策的に実現を目指していく経済の姿を示しているということができる。これは、政府経済見通しが、足もとの経済情勢を適切に踏まえて翌年度の経済を予測するのはもちろんのこと、我が国政府が経済財政運営の基本的態度に基づき実行する各種の施策による効果を織込んでいるためである。すなわち、政府経済見通しは、(1)翌年度の経済財政運営に当たって、政府がどのような基本的な態度をとるのか、(2)そのような基本的態度に基づいて経済財政運営を行うことによって、経済はどのような姿になるのか、という2点について、政府の公式見解を閣議決定により表明する。


2.令和4年度の日本経済(実績見込み)
本年の政府経済見通しによれば、我が国経済は、コロナ禍からの社会経済活動の正常化が進みつつある中、緩やかな持ち直しが続いている。その一方で、世界的なエネルギー・食料価格の高騰や欧米各国の金融引締め等による世界的な景気後退懸念など、我が国経済を取り巻く環境には厳しさが増している。
政府としては、こうした景気の下振れリスクに先手を打ち、我が国経済を民需主導の持続的な成長経路に乗せていくため、「物価高・円安への対応」、「構造的な賃上げ」、「成長のための投資と改革」を重点分野とする総合経済対策を策定した。その裏付けとなる令和4年度第2次補正予算等を迅速かつ着実に実行し、万全の経済財政運営を行う。
こうした下で、令和4年度の我が国経済については、実質国内総生産(実質GDP)成長率は1.7%程度、名目国内総生産(名目GDP)成長率は1.8%程度となることが見込まれる。消費者物価(総合)については、エネルギーや食料価格の上昇に伴い、3.0%程度の上昇率になると見込まれる。


3.令和5年度の経済財政運営の基本的態度
続いて、政府経済見通しにおける翌年の経済財政政策の基本的な態度について述べる。
経済財政運営に当たっては、総合経済対策を迅速かつ着実に実行し、物価高を克服しつつ、新しい資本主義の旗印の下、社会課題の解決に向けた取組を成長のエンジンへと転換し、我が国経済を民需主導で持続可能な成長経路に乗せていく。
今後とも、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略を一体的に進める経済財政運営の枠組みを堅持し、民需主導の自律的な成長とデフレからの脱却に向け、経済状況等を注視し、躊躇なく機動的なマクロ経済運営を行っていく。
かかる認識の下、以下の重点分野について、計画的で大胆な投資を官民連携の下で推進する。民主導での成長力の強化と「構造的な賃上げ」を目指し、リスキリング支援も含む「人への投資」の抜本強化と成長分野への労働移動の円滑化、地域の中小企業も含めた賃上げ等を進める。また、科学技術・イノベーション、スタートアップ、グリーントランスフォーメーション(GX)、デジタルトランスフォーメーション(DX)といった成長分野への大胆な投資を、スタートアップ育成5か年計画やGXロードマップ等に基づき促進する。
さらに、サプライチェーンの再構築・強靱化、企業の国内回帰など、国内での「攻めの投資」、輸出拡大の推進により、我が国の経済構造の強靱化を図る。半導体を始めとする重要な物資の安定供給の確保や先端的な重要技術の育成等による経済安全保障の推進、食料安全保障及びエネルギー安全保障の強化を図る。
こども・若者・子育て世帯への支援等の少子化対策・こども政策の充実を含む包摂社会の実現、機動的で力強い新時代リアリズム外交の展開や「国家安全保障戦略」(令和4年12月16日国家安全保障会議決定及び閣議決定)等に基づく防衛力の抜本的強化など外交・安全保障環境の変化への対応、地方活性化に向けた基盤づくり、防災・減災、国土強靱化等の国民の安全・安心の確保など「経済財政運営と改革の基本方針2022」(令和4年6月7日閣議決定)に沿って重要政策課題に取り組み、その成果を地方の隅々まで届ける。
新型コロナウイルス感染症対策について、ウィズコロナの下、国民の命と健康を守りながら、感染拡大防止と社会経済活動の両立を図る。
経済財政運営に当たっては、経済の再生が最優先課題である。経済あっての財政であり、順番を間違えてはならない。必要な政策対応に取り組み、経済をしっかり立て直す。そして、財政健全化に向けて取り組む。政策の長期的方向性や予見可能性を高めるよう、単年度主義の弊害を是正し、国家課題に計画的に取り組む。
日本銀行には、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、2%の物価安定目標を持続的・安定的に実現することを期待する。


4.令和5年度の日本経済(見通し)
最後に、以上のような政策態度を掲げたのちに見込まれる令和5年度の日本経済の姿を概説する。
令和5年度については、「3.令和5年度の経済財政運営の基本的態度」に基づき、物価高を克服しつつ、計画的で大胆な投資を官民連携で推進するなど新しい資本主義の旗印の下、我が国経済を民需主導で持続可能な成長経路に乗せるための施策を推進する。こうした取組を通じ、令和5年度の実質GDP成長率は1.5%程度、名目GDP成長率は2.1%程度と民間需要がけん引する成長が見込まれる。消費者物価(総合)については、各種政策の効果等もあり、1.7%程度の上昇率になると見込まれる。
ただし、引き続き、海外景気の下振れが我が国の景気を下押しするリスク、物価上昇や供給面での制約、金融資本市場の変動等の影響に十分注意する必要がある。
具体的な項目別の計数は以下の通りである。
(1)各項目の見通し
(ア)実質国内総生産(実質GDP)
(i)民間最終消費支出
コロナ禍からの回復や各種政策の効果、雇用・所得環境の改善が進むことにより、増加する(対前年度比2.2%程度の増)。
(ii)民間住宅投資
総合経済対策による省エネ支援策など各種政策の効果を通じ、増加する(対前年度比1.1%程度の増)。
(iii)民間企業設備投資
新しい資本主義に向けた官民連携投資を始め、総合経済対策を呼び水とした民間投資が促進され、増加する(対前年度比5.0%程度の増)。
(iv)政府支出
総合経済対策による政府支出はあるものの、前年度までのコロナ対策関連経費の減少等が見込まれるため、前年度比では減少する(対前年度比1.9%程度の減)。
(v)外需(財貨・サービスの純輸出)
海外経済の減速に伴い、減少する(実質GDP成長率に対する外需の寄与度▲0.1%程度)。

(イ)実質国民総所得(実質GNI)
海外からの所得増加が見込まれることにより、実質GDP成長率を上回る伸びとなる(対前年度比1.8%程度の増)。

(ウ)労働・雇用
経済の回復とともに雇用環境が改善する中で、雇用者数は増加し(対前年度比0.2%程度の増)、完全失業率は低下する(2.4%程度)。

(エ)鉱工業生産
内需の回復に伴い、増加する(対前年度比2.3%程度の増)。

(オ)物価
消費者物価(総合)上昇率は、エネルギー・食料価格の上昇が見込まれるものの、総合経済対策による電気・ガス料金、燃料油価格の抑制効果等もあって、1.7%程度と前年度より上昇幅は縮小する。GDPデフレーターは国内需要の拡大とともに上昇する(対前年度比0.6%程度の上昇)。

(カ)国際収支
輸入価格上昇の影響を背景に貿易収支の赤字は続くものの、海外からの所得収支がプラスを維持することで経常収支は黒字を維持する(経常収支対名目GDP比1.3%程度)。

図表.(参考) 主な経済指標