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特集 令和5年度国債発行計画について


理財局国債企画課長 吉田 修


本稿では、昨年12月23日に公表した令和5年度国債発行計画の内容を中心として、国債発行を取り巻く最近の動きについて概要を説明したい。
1.現下の国債市場の状況
令和4年初め、欧米の長期金利が急速に上昇し、国内長期金利の上昇も加速した。2月から3月にかけては、国内長期金利は日本銀行が変動範囲の上限としている0.25%に接近し、これを受け、日本銀行は、3月・4月に連続指値オペ等を実施した。さらに4月の金融政策決定会合において指値オペの毎営業日実施を決定した。6月には、各国の中央銀行の利上げ姿勢が強まり、国内長期金利が一時0.265%をつけるなど債券市場が変動する中で、日本銀行はチーペスト銘柄(当時、残存7年程度の10年利付国債の銘柄)を対象とする連続指値オペを実施した。9月~10月にかけては、各国中銀の利上げが継続されるなかで、超長期ゾーンのボラティリティが高まる場面も見られた。12月には、日銀金融政策決定会合において、長短金利操作の運用について、「国債買入れ額を大幅に増額しつつ、長期金利の変動幅を従来の『±0.25%程度』から『±0.5%程度』に拡大する」ことが公表されたことで、ほぼ全てのゾーンで金利上昇した。その後は、日本銀行が各年限において、機動的に買入れ額のさらなる増額や指値オペを実施すると公表し、長期金利が0.5%を下回る場面も見られたが、足元では変動幅の上限である0.5%近辺で推移している。(図1. 各年限の金利の推移)。


2.令和5年度国債発行計画の概要
市場環境や債務管理上の課題を踏まえつつ、昨年12月に実施した「国債市場特別参加者会合」及び「国債投資家懇談会」等において、市中発行の年限構成等について市場関係者(機関投資家、証券会社等)との対話をきめ細かく実施し、令和5年度国債発行計画を策定した。以下にその概要を述べる。
(1)発行根拠法別発行額
令和5年度の国債発行総額は205.8兆円となっており、前年度当初比▲9.3兆円と減少傾向にはあるものの、引き続き高い水準が続いている。
発行根拠法別の内訳(表1 令和5年度国債発行計画の概要 左)をみると、まず、一般会計予算の歳入となる新規国債(建設国債・特例国債)は、前年度当初比▲1.3兆円の35.6兆円となっている。
復興債は、東日本大震災からの復興のための施策に要する費用の財源に充てるため、復興特別税等の収入が確保されるまでのつなぎとして発行されるものであり、令和5年度は0.1兆円の発行を予定している。
GX経済移行債(仮称)は、今後10年間で150兆円を超えるGX投資を官民協調で実現していくため、創設されるものであり、令和5年度中からの発行を予定している。その額は、令和5年度分の0.5兆円のほか、令和4年度第2次補正予算で先行的に措置した1.1兆円分に係る借換債を合わせれば、1.6兆円となる。具体的な発行方法については、これまでの国債と同様に、同一の金融商品として統合して発行することに限らず、国際標準に準拠した新たな形での発行も目指して検討する。そのためには、(1)市場における一定の流動性確保、(2)発行の前提となる民間も含めたシステム上の対応、(3)調達した資金の支出管理(支出のフォローアップ、レポート作成等)等の難しい課題を解決し、国際的な認証を受けて発行していくことが必要となる。このため、関係省庁による検討体制を早期に発足させることとされている。
財投債は、財政融資の新規貸付規模や財政融資資金全体の資金繰り等を勘案した結果、令和5年度は前年度当初比▲13.0兆円の12.0兆円となっている。
借換債は、過去に発行した国債の満期到来に伴う借換えのために発行するものであり、国債発行総額の大半を占めている。令和5年度の借換債発行額は、前年度当初比+4.6兆円の157.6兆円となっている。

(2)消化方式別発行額
消化方式別の内訳(表1右)をみると、まず、カレンダーベース市中発行額は、前年度当初比▲8.3兆円の190.3兆円となっている。その年限構成については、利付債の毎月の発行額は全年限において令和4年度2次補正後を維持したうえで、前年度からの減額を短期債の減額に充てることとした。
これにより、カレンダーベース市中発行額全体のうち短期債が占める割合は、前年度当初の30.4%から26.6%まで減少し、結果として、平均償還年限が8年1か月に長期化する見込みとなった(図2. カレンダーベース市中発行額及び平均償還年限の推移)。
消化方式別の内訳(表1右)における「その他」には、個人向け販売分や、公的部門(日銀乗換)が含まれる。
個人向け販売分は、足元の販売状況等を踏まえ、前年度当初比+0.6兆円の3.5兆円としている。
また、公的部門(日銀乗換)は、日本銀行が保有する国債が満期を迎えた際に、その一部について借換債を引き受ける制度である。令和5年度は、国債発行総額や市場環境等を踏まえ、前年度当初比▲0.2兆円の2.0兆円としている。


3.おわりに
令和5年度国債発行総額は、引き続き高い水準となっており、国債発行残高(財投債含む)は、令和5年度末に約1172.4兆円に達すると見込まれている(図3. 国債発行総額及び残高の推移)。また、近年発行が多額となっている短期債について、令和5年度国債発行計画においては、市中発行額に占める割合を縮減しているものの、依然として従前の2割程度よりは高い水準にある。
今後も借換債を含めた国債の大量発行を余儀なくされる中、これらの国債を確実かつ円滑に発行しつつ、中長期的な調達コストの抑制を図っていく観点から、国債管理政策は一層重要となっている。
国債発行当局としては、引き続き国債市場の動向を注視しつつ、市場関係者との緊密な対話を行い、中長期的な需要動向を見極め、安定的で透明性の高い国債発行に努めていく所存である。