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特集 令和5年度税制改正(関税)について


財務省関税局関税課 関税企画調整室長 北條 敬貴


令和5年度関税改正については、国税と同様に、与党における税制改正プロセスを経て、「令和5年度税制改正の大綱」(令和4年12月23日閣議決定)にその内容が盛り込まれた。
本稿においては、「令和5年度税制改正の大綱」のうち関税の主な項目について説明したい。

1.暫定税率等の適用期限の延長等
関税においては、政策上の必要性等から、とうもろこしや麦芽等412品目において、時限的に基本税率より低い関税率が暫定税率として定められている。国内の生産者及び消費者等に及ぼす影響、国際交渉との関係、産業政策上の必要性等を考慮し、412品目に係る暫定税率の適用期限を1年延長する。
ウルグアイ・ラウンド合意に基づいて関税化された米、麦、乳製品等については、輸入数量が一定の水準を超えた場合等に関税率を引き上げる特別緊急関税制度が設けられている。国内産業を保護する必要があること等から、特別緊急関税制度の適用期限を1年延長する。
加糖調製品(砂糖と砂糖以外のココア粉やミルク等の混合物)については、関税と糖価調整制度における調整金の合計がWTO譲許水準となるように課されており、調整金収入を国内産糖への支援に充当している。加糖調製品と国産砂糖に価格差があること等を踏まえ、国内産糖への支援の原資となる調整金の拡大が可能となるよう、加糖調製品のうち6品目の暫定税率を引き下げる。
航空機部分品等免税制度については、航空宇宙産業における国産困難な部分品等の免税輸入によるコスト削減を通じて、航空宇宙産業の国際競争力強化に資するものとなっている点を踏まえ、その適用期限を3年延長する。
加工再輸入減税制度については、国産の材料を一旦輸出して海外で加工した後、再び輸入する際に、当該原材料相当分に課される関税を軽減することで、国産材料の利用促進と生産コストの削減による産業全体の活性化及び競争力の強化を図っている点を踏まえ、その適用期限を3年延長する。


2.個別品目の関税率の見直し
プロポリス原塊及びセルラーバンブーパネルについては、HS委員会(関税分類の国際会議)における分類決定を受けて分類変更されることとなるが、分類変更による過度な税負担を避ける必要があること等から、移行先において、税細分を新設した上で、現行と同じ水準の関税率を設定する。
(参考1)プロポリス原塊
ミツバチが植物やミツバチ自身の分泌物等を練り合わせて、巣に作られる粘土状の物質。
(参考2)セルラーバンブーパネル
芯材を平行又は格子状に並べ、その両面に竹製の合板等を貼り合わせた構造のもの。


3.急増する輸入貨物への対応
越境電子商取引(EC)の利用拡大に伴い、輸入申告件数が年々増加しており、特に通販貨物の輸入が急増していることに加え、FS利用貨物の輸入も目立っている。こうした中、航空貨物等による不正薬物や知的財産侵害物品の密輸が増加しているとともに、FS利用貨物については、輸入時点では売買が成立しておらず取引価格が存在していない中で、不当に低い価格で輸入申告し、関税等をほ脱する事案が顕在化している。
このような状況に対応するため、税関が審査・検査を行うべき貨物の絞込みに資するよう、輸入申告項目に「通販貨物に該当するか否か」(ECプラットフォームを利用して販売した通販貨物の場合は「ECプラットフォームの名称」を含む。)、「国内配送先」及び「輸入者の住所及び氏名」を追加する。
また、税関事務管理人制度について、税関が税関事務管理人を通じて行う非居住者への調査等の実効性を高めるため、非居住者が税関事務管理人の届出をしない場合に、税関長が一定の国内関連者を税関事務管理人として指定できる等の規定を整備する。さらに、適切な者が税関事務管理人として届出され、又は税関長が適切な者を指定できるよう、税関事務管理人の届出項目に「届出者(非居住者)の事業」等を追加する。
(参考3)FS利用貨物
ECプラットフォーム事業者等が海外の販売者等に対して提供する国内での倉庫保管、配送等の代行サービス(フルフィルメントサービス:FS)を利用して国内で販売することを予定して輸入される貨物。
(参考4)税関事務管理人制度
非居住者が自ら輸入者となってFS利用貨物を輸入する場合等には、非居住者は輸入申告等の事務を処理させるため、国内居住者を税関事務管理人として定め、税関長に届け出ることとされている。通関業者や非居住者の関連者を定めることが多い。


4.知的財産侵害物品の認定手続における簡素化手続の対象拡大
税関の認定手続(輸入貨物が知的財産侵害物品か否かを認定する手続)においては、平成19年に商標権等を対象とした簡素化手続が導入されたが、特許権等については、輸入差止件数が少なかったこと等から、その対象に含めなかった。
近年、越境ECの進展等に伴い、特許権等に係る輸入差止件数が増加し、権利者にとって、証拠・意見の提出に伴う業務や弁理士・弁護士への依頼費用等の負担が大きくなっている。
そのため、権利者の事務負担軽減等の観点から、認定手続における簡素化手続の対象に特許権、実用新案権、意匠権及び保護対象営業秘密を追加する。
(参考5)簡素化手続
輸入差止申立てに係る貨物について、輸入者が知的財産侵害の該否を争わない場合に、税関長が、権利者に証拠・意見の提出を求めることなく侵害の該否を認定する手続。


5.入国者が携帯等して輸入する加熱式たばこに係る簡易税率の新設
入国者が携帯等して輸入する加熱式たばこについては、簡易税率の適用はなく、関税、たばこ税、消費税及び地方消費税が課されるが、特にたばこ税額の計算方法が複雑であることから通関手続に時間を要しており、また、入国者にとっても課税額の予見可能性が低いという問題がある。
そのため、迅速通関等の観点から、加熱式たばこに係る簡易税率を新設し、水準については、課税対象としてスティック型及びリキッド型を区分して法令に規定した上で、スティック型1本当たり15円、リキッド型1個当たり50円とする。


6.植物防疫法の改正に伴う保税関連の規定の整備
関税法上、外国貨物を置くことができる場所は保税地域に制限されているが、政令で定める貨物等については、保税地域外に置くことが可能となっている。
国際植物防疫条約に基づく国際基準の策定等に伴い、植物防疫法が改正され、現在、輸入植物等について実施されている検疫検査の対象に、輸入される「検疫指定物品」(中古農機等)が追加された。(令和5年4月施行)
そのため、港又は飛行場の植物防疫所等(一部は保税地域外)に置かれる検疫指定物品を、輸入植物等と同様に取り扱うことができるよう、政令上の「保税地域外に置くことができる貨物」に追加する。


7.保税蔵置場の許可手数料等に係る納付期限の緩和
保税蔵置場の許可手数料等は1か月分ごとに毎月納付することとされているが、納付のための十分な期間を確保する観点から、国の歳入の納付期限の原則を踏まえ、初月分の納付期限を許可等の日から20日以内(現行は10日以内)に緩和する等の規定の整備を行う。


8.納税環境の整備
内国税の改正の状況を踏まえ、関税の加算税制度について、輸入者による適正な申告を確保する観点から、納税額が300万円を超える部分に係る関税の無申告加算税の割合を20%から30%に引き上げるとともに、前年及び前々年の関税について無申告加算税等を課される者が行う更なる無申告行為に対して課される無申告加算税等を10%加重する措置を整備する。
また、関税関係帳簿の代用とする輸入許可通知等の電磁的記録の保存について、通達で規定している、改ざん防止措置等の保存要件に従うべき旨を、明確化の観点から政令に規定するとともに、内国税の改正の状況を踏まえ、関税関係書類をスキャナ保存する場合において求められる保存要件等を緩和する。

図表.【プロポリス原塊及びセルラーバンブーパネルの例】
図表.【税関事務管理人の指定】