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特集 令和5年度税制改正(国税)等について


主税局総務課 税制企画室長 齊藤 郁夫


令和5年度税制改正及び防衛力強化に係る財源確保のための税制措置については、令和4年12月16日に「令和5年度与党税制改正大綱」が決定され、12月23日に「令和5年度税制改正の大綱」(以下、政府大綱)が閣議決定された。
本稿においては、政府大綱を中心に説明したい。なお、文中意見等にわたる部分は、筆者の個人的見解である。

1.令和5年度税制改正の基本的考え方等
大胆な金融政策、機動的な財政政策等により「もはやデフレではない」という状況を創り出してきた一方、四半世紀に及ぶデフレ構造の下、平均賃金やGDPの伸びは主要先進国を大きく下回ってきた。足元では、新型コロナウイルス感染症への対応が引き続き必要なことに加え、少子化の加速、安全保障環境の変化、原材料価格高騰や円安の影響による物価高など、日本経済・財政を取り巻く環境は厳しい。
こうした諸課題や個人金融資産等の日本のポテンシャルを踏まえ、令和5年度税制改正においては、家計の資産を貯蓄から投資へと積極的に振り向け、資産所得倍増につなげるため、NISAの抜本的拡充・恒久化を行うとともに、スタートアップ・エコシステムを抜本的に強化するための税制上の措置を講ずる。また、より公平で中立的な税制の実現に向け、極めて高い水準の所得について最低限の負担を求める措置の導入、グローバル・ミニマム課税の導入及び資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築を行う。具体的な改正内容等は、2.~5.のとおりである。
最後に、防衛力強化に係る財源確保のための税制措置について政府大綱で決定した内容を6.に記述する。


2.成長と分配の好循環の実現
(1)NISA制度の抜本的拡充・恒久化
「資産所得倍増」「貯蓄から投資へ」の観点から、NISA制度を以下のように抜本的に拡充した上で恒久化する。(資料1)
・非課税保有期間を無期限化するとともに、口座開設可能期間については期限を設けず、NISA制度を恒久的な措置とする。
・一定の投資信託を対象とする長期・積立・分散投資の枠(「つみたて投資枠」)の年間投資上限額を40万円から120万円に拡充する。
・上場株式への投資が可能な現行の一般NISAの役割を引き継ぐ「成長投資枠」を設けることとし、「成長投資枠」の年間投資上限額を120万円から240万円に拡充するとともに、「つみたて投資枠」との併用を可能とする。
・一生涯にわたる非課税限度額を新たに設定した上で、1,800万円とし、「成長投資枠」については、その内数として1,200万円とする。

(2)スタートアップへの再投資に係る非課税措置の創設
スタートアップ・エコシステムを抜本的に強化する観点から、保有株式の譲渡益を元手に、創業者が創業した場合やエンジェル投資家がプレシード・シード期のスタートアップへの再投資を行った場合に、再投資分につき20億円を上限として株式譲渡益に課税しない制度を創設する。(資料2)

(3)オープンイノベーション促進税制の見直し
スタートアップ企業の出口が現在はIPOに偏重していることから、既存企業によるM&Aを後押しする必要がある。スタートアップ企業の成長に真に資するM&Aを後押しする観点から、既存株式を取得した場合にもオープンイノベーション促進税制の適用を可能とし、M&Aから5年以内に「成長要件」を満たした場合は減税メリットがその後も継続する仕組みとする。(資料3)

(4)研究開発税制の見直し
研究開発費の増加インセンティブを更に強化するため、「一般型」について、試験研究費の増減率に応じた税額控除率のカーブを見直すとともに、試験研究費の額が大きい企業を中心に、税額控除上限(法人税額の25%)に到達した企業に対してもインセンティブ強化となるよう、試験研究費の増減に応じて、税額控除の上限も変動させる制度を新たに導入する。(資料4)また、ビッグデータやAI等を活用したサービス開発に係る試験研究費について、新たなサービス開発を促すため、既存のビッグデータを活用する場合も税制の対象とする。(資料5)
さらに、「オープンイノベーション型」について、幅広いスタートアップ企業との共同研究・委託研究を促すため、研究開発型スタートアップ企業の範囲を大幅に拡大する。(資料6)

(5)企業による先導的人材投資の促進
大学や高等専門学校等を設置する学校法人の設立費用として企業が支出する寄附金について、早期から寄附金の募集を可能とし、スピード感を持って学校経営を進めるための一助とするため、個別の審査を受けなくても全額損金算入が可能となる枠組みを設ける。(資料7)
また、高度な研究人材への投資を促し、国際競争に資するハイレベルでオープンなイノベーションを促進する観点から、博士号取得者や、一定の経験を有する研究人材を外部から雇用することに対し、研究開発税制における優遇措置を創設する。(資料8)
さらに、不足が指摘されているデジタル人材の育成・確保を促すため、DX投資促進税制において、人材育成・確保等に関連する事項を要件化する等の見直しを行う。(資料9)


3.経済のグローバル化・デジタル化・グリーン化への対応
(1)新たな国際課税ルールへの対応
2021年10月にOECD/G20「BEPS包摂的枠組み」において、経済のデジタル化に伴う課税上の課題への解決策に関する、市場国への新たな課税権の配分(「第1の柱」)とグローバル・ミニマム課税(「第2の柱」)の2つの柱からなる国際的な合意がまとめられた。我が国は、BEPSプロジェクトの立上げ時から国際課税改革に関する議論を一貫して主導してきたところであり、本年のG7議長国を務めることも踏まえ、引き続き、制度の詳細化に向けた国際的な議論に積極的に貢献するとともに、国際合意に則った法制度の整備を進める。(資料10)
「第2の柱」については、制度の詳細に係る国際的な議論の進展や、諸外国における実施に向けた動向等を踏まえ、対象企業の事務手続きの簡素化に資する措置を含め、所得合算ルール(IIR)に係る法制化を行う。なお、軽課税所得ルール(UTPR)と国内ミニマム課税(QDMTT)は、OECDにおいてこれから実施細目が議論される見込みであり、令和6年度改正以降の法制化を検討する。(資料11)

(2)エコカー減税の見直し
新型コロナウイルス感染症等を背景とした半導体不足等の状況を踏まえ、異例の措置として現行制度を本年末まで据え置く。据置期間後は、2035年までに乗用車の新車販売に占める電動車(※)の割合を100%とすることを目指す政府目標と整合的な形に見直す観点から、制度の対象となる2030年度燃費基準の達成度の下限を3年間で段階的に80%まで引き上げる。(資料12)
(※)電気自動車、燃料電池自動車、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド自動車


4.経済社会の構造変化も踏まえた公平で中立的な税制への見直し
(1)極めて高い水準の所得に対する負担の適正化
NISAの抜本的拡充・恒久化やスタートアップ・エコシステムの抜本的強化とあわせて、税負担の公平性の観点から、極めて高い水準の所得について最低限の負担を求める措置を導入し、令和7年分以降の所得税から適用することとする。
具体的には、株式の譲渡所得のみならず、土地・建物の譲渡所得や給与・事業所得、その他の各種所得を合算した所得金額(基準所得金額)から特別控除額(3.3億円)を控除した金額に、22.5%の税率を乗じた金額が納めるべき所得税の金額を超過した場合に、その超過した差額を追加的に申告納税することとする。基準所得金額の計算上、スタートアップに再投資する場合の優遇税制の適用を受けた株式譲渡益やNISA制度の非課税所得は対象から除外することとし、また、政策的な観点から設けられている特別控除を控除した後の所得金額とする。(資料13)

(2)資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築
(ア)相続時精算課税制度の使い勝手向上
相続時精算課税制度は、その選択後は生前贈与か相続かによって税負担が変わらず資産移転の時期に中立的な仕組みとなっており、暦年課税との選択制は維持しつつ、同制度の使い勝手を向上させる。具体的には、申告等に係る事務負担を軽減する等の観点から、相続時精算課税においても暦年課税と同水準の基礎控除(110万円)を創設する。(資料14)
(イ)暦年課税における相続前贈与の加算
現行、相続開始前3年以内に受けた贈与は相続財産に加算することとなっている。暦年課税においても、資産移転の時期に対する中立性を高めていく観点から、相続財産に加算する期間を7年に延長する。その際、過去に受けた贈与の記録・管理に係る事務負担を軽減する観点から、延長した期間(4年間)に受けた贈与のうち一定額(100万円)については、相続財産に加算しないこととする。(資料14)


5.円滑・適正な納税のための環境整備等
(1)適格請求書等保存方式の円滑な実施について
消費税の複数税率制度の下において適正な課税を確保する観点から、本年10月に施行される消費税の適格請求書等保存方式(インボイス制度)については、引き続き、円滑な制度移行に向けて、事業者に対する支援を一層きめ細やかに行っていく必要がある。このため、制度の周知・広報の徹底や予算面での支援に加え、新たな税制上の措置として、これまで免税事業者であった者がインボイス発行事業者になった場合の納税額を売上税額の2割に軽減する3年間の負担軽減措置を講ずることにより、納税額の激変緩和を図る。(資料15)
また、インボイス制度の定着までの実務に配慮し、一定規模以下の事業者の行う1万円未満の取引について、インボイスの保存がなくとも帳簿のみで仕入税額控除を可能とする6年間の事務負担軽減策を講ずる。(資料16)
さらに、振込手数料相当額を値引きとして処理する場合等の事務負担を軽減する観点から、少額の返還インボイスについて交付義務を免除する。(資料17)
これらの取組みを着実に進めつつ、制度への移行に当たり混乱が生じないよう万全の準備を進める観点から、改めて政府内の関係府省庁で連携して必要な体制を構築し、予算による支援措置や税制上の措置を丁寧に周知するとともに、事業者が抱える問題意識や課題を丁寧に把握しながらきめ細かく対処していく。

(2)電子帳簿等保存制度の見直し
電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存制度については、電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存をすることができなかったことにつき相当の理由がある事業者等に対する新たな猶予措置を講ずるとともに、他者から受領した電子データとの同一性が確保された電磁的記録の保存を推進する観点から、検索機能の確保の要件について緩和措置を講ずる。(資料18)
また、信頼性の高い電子帳簿への更なる移行を目指す観点から、過少申告加算税の軽減措置の対象となる優良な電子帳簿について、その範囲を合理化・明確化することにより、一層の普及・一般化を図る。(資料19)

(3)課税・徴収関係の整備・適正化
仮装・隠蔽の積極的な行為を伴わないため重加算税の対象とはならないものの、税に対する公平感を大きく損なうような事例が生じている中、申告義務を認識していなかったとは言い難い高額な無申告に対し、無申告加算税の割合を引き上げる。また、連年にわたって繰り返し無申告加算税等を課される者が行う更なる無申告に課される無申告加算税等を加重する措置を講ずる。(資料20、21)

(4)酒税の特例措置の見直し
地域性などを踏まえた多様な酒類の製造などに積極的に取り組み、酒類業の健全な発達に寄与する中小事業者に対して支援を行う観点から、新たな酒税の軽減措置を講ずる。あわせて、現行の酒税の特例措置は廃止し、新たな特例措置への移行に伴う激変緩和のための経過措置を講ずる。(資料22)

(5)災害による被害へのきめ細かな対応
大規模な災害の発生に備え、著しい被害に対する不安を解消する観点から、一層の税制上の対応を講じることが重要である。こうした点を踏まえ、特定非常災害法上の特定非常災害による損失に係る雑損失及び純損失の繰越期間について、損失の程度や記帳水準に応じ、例外的に3年から5年に延長する措置を講ずるほか、相続時精算課税の下で受贈した土地・建物について、災害により一定以上の被害を受けた場合は、例外的に相続税の課税価格を再計算することとする。


6.防衛力強化に係る財源確保のための税制措置
我が国の防衛力の抜本的な強化を行うに当たり、歳出・歳入両面から安定的な財源を確保する。税制部分については、令和9年度に向けて複数年かけて段階的に実施することとし、令和9年度において、1兆円強を確保する。具体的には、法人税、所得税及びたばこ税について、以下の措置を講ずる。
(1)法人税
法人税額に対し、税率4~4.5%の新たな付加税を課す。中小法人に配慮する観点から、課税標準となる法人税額から500万円を控除することとする。

(2)所得税
所得税額に対し、当分の間、税率1%の新たな付加税を課す。現下の家計を取り巻く状況に配慮し、復興特別所得税の税率を1%引き下げるとともに、課税期間を延長する。延長期間は、復興事業の着実な実施に影響を与えないよう、復興財源の総額を確実に確保するために必要な長さとする。
廃炉、特定復興再生拠点区域の整備、特定復興再生拠点区域外への帰還・居住に向けた具体的な取組みや福島国際研究教育機構の構築など息の長い取組みをしっかりと支援できるよう、東日本大震災からの復旧・復興に要する財源については、引き続き、責任を持って確実に確保することとする。

(3)たばこ税
3円/1本相当の引上げを、国産葉たばこ農家への影響に十分配慮しつつ、予見可能性を確保した上で、段階的に実施する。
以上の措置の施行時期は、令和6年以降の適切な時期とする。