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自治体マネジメントが作る持続可能なまち
視察相次ぐ「境町モデル」のまちづくり 
 
茨城県境町 町長 橋本  正裕
 
 
1.はじめに
境町は茨城県西南部にある小さなまちです。人口は約2万4,000人。鉄道の駅がなく、人口減少や少子高齢化の課題を抱える、どこにでもあるありふれた田舎町です。その境町に今、続々視察が訪れています。
私が境町長に就任した平成26年3月当時、境町の財政状況は常に悪く、将来負担比率は184.1%と危機的状況にありました。普通ならコスト削減や行政サービスの縮小・停止などを考える所ですが、夕張市の例では、緊縮財政は人口流出を招き衰退が加速しています。そこで、境町では収入を増やすことにしました。就任してすぐに、圏央道境古河IC周辺の開発と企業誘致、ふるさと納税、太陽光発電になど新しい収入源の開発に着手。その結果、ふるさと納税では平成25年度6万5,000円だった寄付が令和3年度には48億5,211万円、5年連続関東1位、茨城県内では7年連続1位となるまで成長しました。
新しい財源の獲得により、町の財政状況はまだまだ厳しいものの、大幅に改善出来ています。
 
2.自治体マネジメントによる持続可能なまちづくり「境町モデル」
財政改善をはじめ、これまでの8年間で境町では様々な政策を展開しています。人口についても、移住定住政策に着手してから7年間のうち5年人口の社会動態がプラスに転じ、施策の効果が現れてきています。
移住定住政策以外にも、新しい財源を活用して様々な取り組みを行っています。拠点整備も積極的に進めており、ここ数年の間に新国立競技場を設計した隈研吾氏の手による建築が6つ境町に完成、令和4年度中にもう1件完成する予定です。
さらに隈研吾建築群の他にもスポーツ施設や子育て施設、公園、シェアオフィスなどを数多くの拠点を整備しています。
これだけ施設を作ると負債が増え、ハコモノ行政として首長はリコールされてしまうでしょうが、境町では借金を返済しながら新しい拠点を建設することに成功しました。これを実現しているのが「境町モデル」による施設設置と運営です。
「境町モデル」では、施設の建設にあたり拠点整備交付金などの補助金を活用して、町財政の負担をなるべく減らす工夫をしています。境町の隈研吾建築の一つで、令和元年に完成した地場産品の研究開発施設「S-Lab」も補助金を活用して作られた施設です。
「S-Lab」は特産品の研究開発施設であり、ここで町の新しい特産品として開発された干し芋が、ふるさと納税で大変人気を得て現在では年間2億円の寄付を頂ける大ヒット商品になっています。町が投資して設立した施設が、雇用や働き先を創出する場となり、そこで生まれた産品が新しい収入源となるという地域経済の活性化を生み出すことができました。
多くの場合、この経済効果が生まれた、という所で良しとして終わりになりがちです。「境町モデル」ではそこで終わらず、その先も投資を回収する仕組みを作りました。「S-Lab」もそうですが、町の公共施設は民間の事業者に入ってもらい、家賃を頂いています。さらに施設の運用管理費はこの民間事業者が負担するため、町の費用負担は0円で施設が運営できています。
運用費を0円に抑え、建築費用は補助金をできるだけ活用、町が負担した残りの建設費用は家賃で回収する。この「境町モデル」で施設を運営すると、10年~15年かけて建築資金を回収した後は、そのまま町への収入になり、プラスになっていく仕組みです。
投資を回収するのは、企業であれば普通の考え方です。これまでの取り組みを通じて、自治体も企業と同様に、リサーチやマーケティングなどをしっかりと行い、自治体をマネジメントすることが必要だと感じています。そうすることで、財政難や人口減少など、地方の抱える課題を解決し住み続けられるまちが実現可能になると考えています。
写真:境町の隈研吾建築 第7弾「(仮称)境町地域産業研究開発拠点施設」
 
3.自治体に必要なのはスピード感と説明責任(アカウンタビリティ)
財政指数や人口動態、ふるさと納税の寄付額などの数値でみても、境町のさまざまな取り組みが効果を発揮していることが解ると思います。これらの実績を評価していただいたのか、今、境町へ訪れる視察団が増えてきています。中でも視察先として一番注目されているのが、自動運転バスの公道定常運行です。自治体では全国初の取り組みとなるため、視察や取材、バスファンなどが全国から連日、自動運転バスのために境町を訪れるようになりました。
境町が自動運転バスを導入したのは、高齢者や交通弱者を助けるために、今すぐ導入できる仕組みだったから、シンプルにそれだけです。自治体が新しい事を始めるのには、予算や採算性、安全性など高いハードルを越えなければなりません。それでも今必要だからすぐやるべき、と思い導入を決めました。それと同時に、同じように公共交通の課題に悩む自治体が、境町のような小さな町ができるなら、うちでもできるのでは、と、先行踏襲や横並びで、導入しやすくなれば、とも考えています。
ここで注意が必要なのですが、新しいことを始めるには「説明責任(アカウンタビリティ)を果たすこと」が重要です。今ある課題を解決するには、今、素早く着手するべきですが、それ以上に議会や住民の合意形成を図るため、説明責任をしっかり果たす必要があります。全員の理解を得て、住民や議会、行政が同じ方向を見ることで、スピード感をもって政策を実現することが可能になるのです。
写真:自治体では全国初、公道を定常運行する自動運転バス「さかいアルマ」
 
4.おわりに
境町で行っている取り組みはどこの自治体でも真似ができるものです。境町を一つのモデルとしていただくことで、多くの地方の課題を解決する糸口になるのではと思います。きっと皆さまの地域の課題解決のヒントになると思います。ぜひ一度、境町に視察にお越しください。お待ちしております。
 
写真:境町の隈研吾建築 第1弾「さかいサンド」
写真:境町の隈研吾建築 第2弾「道の駅レストラン茶蔵」
写真:境町の隈研吾建築 第3弾「S-Lab」
写真:境町の隈研吾建築 第4弾「S-Gallery」
写真:境町の隈研吾建築 第5弾「モンテネグロ会館」
写真:境町の隈研吾建築 第6弾「S-ブランド」
 
境町で進む「好循環」なまちづくり 地方創生コンシェルジュ
 
関東財務局水戸財務事務所長 梅村  知巳
 
 
境町では、にぎわいや経済振興を生み出す拠点整備や施策が積極的に進められています。中でも、自動運転バスの公道定常運行の導入については、鉄道がなく公共交通が脆弱である町の課題の解決と地域経済の活性化が両立されている事例として各方面から大きな注目を集めております。
かつての町の財政は危機的状況にありましたが、こうした先駆的な取組みから生まれる経済効果が、新たな施策の実現につながる好循環を生み出しています。
境町の持続可能なまちづくりは、同じ課題を抱える団体にとって、一つのモデルになるのではないでしょうか。
 
図表.境町の財政指数(町資料より抜粋)
図表.境町の人口の社会動態(町資料より抜粋)
 
 
 
どうする岡崎!~市の持続的発展、観光産業都市をどう創り上げていくか~
 
東海財務局融資課 上席専門調査員 森田  真二
 
 
愛知県岡崎市は、県の中央部に位置し、名古屋まで電車で30分、大阪まで新幹線で1時間半、東京まで約2時間と、都市圏へのアクセスに恵まれています。輸送機器関連やエレクトロニクス、メカトロニクスなど先端産業も進出しバランスのとれた工業化が進んでおり、また、日本さくら名所100選に選ばれ、徳川家康生誕の岡崎城のある岡崎公園など、四季を感じられる公園も数多くあるなど、住みやすい街です。
1.岡崎市シティプロモーション戦略
岡崎市は、平成26年3月に『岡崎市シティプロモーション戦略』を策定、「将来にわたり、市が活力を維持し持続的に発展するため、魅力づくりを発信し、それを市内外に発信する活動」を中心に据え、市の魅力向上のための地域の課題解決に取り組んでいます。
 
2.QURUWA(くるわ)戦略
岡崎市が所在する西三河地域には、自動車メーカーや研究開発・生産拠点があり、多種多様なサプライヤー企業が数多く立地する世界的な自動車産業の拠点でもあることから、当市にも多くのビジネス客が訪れます。
こうした中、当市では、公民連携によるまちづくりとして『QURUWA戦略』(面としてエリア全体の価値と暮らしの質の向上を目指す主要回遊動線の構築)を進めています。
市の中心部を流れる乙川のリバーフロント地区の整備、観光の発着点となる名古屋鉄道東岡崎駅前の再整備をはじめ、コンベンション施設の整備、ホテルの誘致が計画されています。この駅前再整備には財政融資資金が活用されています。
コンベンション施設を核に、会議、研修、商談会、学会やレセプション等、これまでにない規模での様々な交流が予想されます。MICEの推進により、ビジネスや学術研究分野等のネットワークを取り込み、新たなビジネスの機会やイノベーションの創出を図るとともに、中心市街地の活性化と新たな交流、賑わいをもって観光産業都市の創造につながることが期待されています。
事業期間  :令和3年度~7年度
全体事業費 :1,016百万円
国費    :508百万円
財政融資資金:12百万円(令和3年度)
 
3.新たな交流・賑わいの取組み
平成28年、岡崎市長が、地元を拠点に活動する地域密着型YouTuberの『東海オンエア』を「岡崎観光伝道師」に任命し、現在に至っており、観光客の増加や地域活性化に大きく貢献しています。彼らが紹介した飲食店、施設、企画などは人気を集め、経済効果は年間約40億円、移住者の年間消費額は約2億円と推計されています。
 
4.AIによる地域特性分析
当市は、『AIによる地域特性分析』を取り入れることにより、地域特性の把握を表面的な分析で留めず、計画の質を高めるよう取り組んでいます。
その一例として、祖父母・子ども・孫が同居・近居している「3世代同居・近居率」が38.5%(平均29.2%)と、当市が中核市の中で最も高いことがわかりました。また、「3世代同居・近居率」を目的変数として「中核市要覧」の各データとの相関性を分析したところ、“3世代同居・近居率が高いと合計特殊出生率も高い”との相関関係が浮かびあがり、「合計特殊出生率を高める最も大きな要素の一つは、祖父母による子育てサポート(安心感)である」との考えのもと、これを当市の強みとして施策に活かそうとしています。
 
5.スマートシティ構築
当市は、国の『スマートシティ関連事業』に選定され、先進的技術を地域課題の解決などのまちづくりに活かす先駆的なプロジェクトを進めています。
その一例として、アプリを活用し、まちのコンテンツ魅力を発信して、商店街へ人流を誘導することや、アプリからの人流経路情報、既存人流カメラからの人数情報、属性推定情報による人流分析を行い、まちなかでの混雑時に人の流れや滞留する場所、誘導のポイントを把握し、より安全で継続可能なイベントの実現に向けて改善を目指す取り組みをしています。
 
6.おわりに
令和5年NHK大河ドラマ『どうする家康』は、当市が舞台となります。当市は、岡崎城、その周辺設備改修事業をはじめとした『「どうする家康」関連事業』に令和4年度に10億円を計上、「どうする家康活用推進課」を新設しました。
大河ドラマ館の目標来場者数70万人、市内観光入込客数170万人増、直接観光消費額70億円増など、波及効果を含め、およそ100億円の経済効果が見込まれています。
戦国時代から歴史の中心地として発展を続けてきた岡崎市。
今までの岡崎市、現在の岡崎市、そして、これからの『どうする岡崎!』にも目が離せません。
※資料提供:岡崎市
 
 
久米島町誕生から20年目の節目を迎えた“今”
 
久米島町 企画財政課 参事 喜友村  薫
 
 
1.はじめに
久米島町は、平成14年4月1日に旧具志川村と旧仲里村が合併し、今年で20歳を迎えます。
本町は、沖縄本島那覇市の西方約100kmの東シナ海に位置し、久米島本島及び奥武島・オーハ島の有人離島、鳥島・硫黄鳥島などの無人島から構成されています。
本町の人口は国勢調査によりますと、1995年に1万人を割り込み、その後は1年間に約100人というぺースで人口減少が進んでいます。国立社会保障・人口問題研究所によりますと2040年には人口が5,832人まで減少することが予測されており、人口減少に歯止めをかけるための施策を展開していくも、一度崩れ始めた人口減少はそう簡単には止まってくれません。
写真:【久米島町の位置図】
 
2.更なる人口減少のピンチ
- 島唯一の高校の存続危機 -
久米島町には、島唯一の高校(普通科・園芸科)があるため、近隣の小規模離島の様に義務教育課程修了と同時に沖縄本島を中心とした高等学校へ進学するような厳しい環境にはありませんが、少子高齢化が顕著になるのと同時に久米島高校の定員割れが続いたことから、「沖縄県立高等学校編成整備計画」において園芸科の募集停止の方針が示されました。廃科となった場合、子どもたちの学びの選択肢が狭まり島外進学を選ぶ生徒が増える可能性があり、それにともなって一家転出が増え、人口減少が加速し、島の衰退にもつながりかねない、島の将来を大きく左右する問題となりました。
第1次産業が主要産業である本町にとって園芸科は看板学科でもあるため、町民有志、行政、教育委員会が結束して「久米島高校魅力化プロジェクト」に取り組み、その一環として、地元の有志の方が親代わりになり、里親の元で生活しながら学校へ通う離島留学を新たにスタートしました。
久米島高校への離島留学制度が徐々に認知されるとともに、町営寮「じんぶん館」を整備したことによって、1学年10名として30名まで受け入れが可能となりましたが、現在では、1学年10名の定員を大幅に超える応募を受け、キャパシティーの問題でお断りするケースも多くなっています。
写真:【町営寮:じんぶん館】
 
3.地域おこし協力隊員による無料校内塾や町営塾
久米島町では、沖縄県内で一番多くの地域おこし協力隊員を採用(令和4年7月現在:16名)し、町内の各種課題に取り組んでいます。
特に教育部門に力を入れており、2校の中学校にそれぞれ2名の支援員を配置しています。支援員は授業に追い付けない生徒が出ないようサポートを行いながら、放課後に生徒が自主的に通う「まなびや」(無料校内塾)を開講し、宿題や学期テスト、受験対策など幅広く支援を行っています。
また、高校生向けの町営塾では、生徒一人一人の学力に見合った学習力向上へのアドバイスや生徒と向き合いながらの個人指導や集団講座、グループワーク等を通して学力向上に取り組んでいます。
また、同協力隊の任期は3年間と決められていますが、首都圏域等から着任した協力隊員が任期終了後に久米島での起業や地元企業へ就職するなど定住に繋がるケースも少なくありません。
 
4.空き家対策
久米島町は人口減少に伴い空き家が増加し、また、空き家を貸したくても位牌があるため、人に貸すことができない状況でした。そこで空き家対策として、位牌を預かる町営の納骨堂を建設したところ、利用者が増加し、空き家の解消に繋がっています。
また、本町では「空き家ハンドブック」を作成し、空き家バンクの登録をお知らせしています。移住者と家を貸したい方をマッチングさせるため、家主に空き家バンクへ登録を奨め、空き家を求めている方が家主との交渉が成立した場合に空き家改修費用の一部を助成する制度も設けています。
 
5.人口減少にSTOP✋
人口減少に歯止めをかけるため、子育て世代への支援策も強化しています。
久米島町には常駐の産婦人科医がおらず、出産時(35週6日までに)を迎えると島外へ出向いての出産となることから、二重生活の経済的負担軽減を図るため、本町では出産助成金の支給のほか1人当たり5万円の出産奨励金の支給を行っています。さらに、新婚生活支援事業として、結婚に伴う住居の取得、リフォーム、家賃の初期費用等の応援金として上限30万円を支給しています。
また、移住・定住促進として、島の情報の一元化(住む・働く等)を図ることを目的に平成28年度に「島ぐらしコンシェルジュ」を古民家に設置し、移住への相談全般に対応しています。
「島ぐらしコンシェルジュ」のメンバーは、地域おこし協力隊として沖縄県外から久米島に着任した方々です。移住に際しての悩みや不安、聞きたい情報を察知し、きめ細やかな対応のおかげで、「島ぐらしコンシェルジュ」を発足してから150組を移住に繋げた実績を上げています。
移住をお考えの方、久米島ってどんな島なんだろう? など「島ぐらしコンシェルジュ」が丁寧にご説明いたしますのでお気軽にお問合せ下さい。
TEL=098-894-6488(毎週月曜日休館日)
写真:【島ぐらしコンシェルジュ拠点の古民家】
 
離島自治体の新たな取組みに期待
 
沖縄総合事務局財務部理財課上席調査官 比嘉  則之
 
 
人口が増加している沖縄県においても多くの離島で人口減少が課題となっています。
久米島町では、離島留学生が町役場の職員に採用されるなど成果も現れており、空き家対策などによる移住・定住の取組のほか、同町ではPPP/PFIの官民連携に向けた取り組みも積極的に進めています。人口減少の課題を抱える自治体のフロントランナーとして今後の更なる取組を期待します。