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コラム 経済トレンド102

 
日本における女性の活躍推進について
 
大臣官房総合政策課 調査員/ 山口  晶子/伊藤  恭平
 
 
本稿では、女性の活躍の障壁になっていると考えられる性別役割意識と男性の長時間労働について考察する。
 
求められる女性の活躍
労働力人口の減少が予想される中で(図表1. 労働力人口の変化)、女性の活躍が促されることは日本経済の成長にとって極めて重要である。一人当たりの平均実質賃金が下がっている中では(図表2. 平均実質賃金の指数推移)、世帯のすべての構成員の所得が上昇することで、家計の所得を高めることが期待される。
近年、女性の就業者数は継続して増加している。ただし、非正規雇用の割合が高く(図表3. 平均実質賃金の指数推移)、正規雇用においても管理職比率が非常に低い(図表4. 男女別役職割合)。現状では、男女の就業形態や賃金に大きな差がある。
(出所)総務省「労働力調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」、厚生労働省「毎月勤労統計調査」「賃金構造基本統計調査」
 
女性活躍の障壁(1)性別役割意識
女性の就業状況の特徴として、非正規雇用の割合が高いことや、管理職比率の低さを挙げたが、その背景について検討したい。
正社員以外の労働者における就業形態の選択理由を見ると、「家庭の事情(家事・育児・介護等)と両立しやすいから」という理由が女性においては全体の4割を占める最大の理由である一方で、男性においては1割未満に留まり(図表5. 正社員以外の労働者の現在の就業形態を選んだ理由)、家事・育児・介護等は女性が主体的に担うべきであるという性別役割意識が背景にあることが推察される。
実際に家事関連に費やす時間は依然として大きな男女差があり、妻が正規雇用である共働き世帯においてもその傾向は見られる(図表6. 男女別の家事関連時間の推移)。また、「組織のリーダーは男性の方が向いている」「大きな商談や大事な交渉事は男性がやる方が良い」といった、職場における性別役割意識も存在し(図表7. 職場における性別役割意識)、家事負担に加え、女性のキャリアアップの足枷となっている可能性がある。
(出所)厚生労働省「令和元年就業形態の多様化に関する総合実態調査」、総務省「令和3年社会生活基本調査」、内閣府「令和3年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究」
 
女性活躍の障壁(2)男性の長時間労働
「男性が仕事、女性が家事・育児」から「男女ともに仕事と家事・育児を行う」という役割意識の変化にあたって、何が必要であるのか検討したい。
Goldin(2014)やCha and Weeden(2014)によれば、米国の労働市場では、高収入の職業では、労働時間が延びるにつれて所得は非線形的に増えていくという特徴が見られる(図表8. 仕事の種類別労働時間に対する賃金変化)。日本では、無限定に働く正規雇用者の早い昇進が、長時間労働へのリターンとなっているとの見方もできるだろう。
男女の結婚、就業、家事育児参加の意思決定モデルを用いて考えると、夫の長時間労働へのリターンが大きく、夫が家事・育児に参加せずに仕事に専念するという選択を取ることが合理的である場合には、妻が本格的に就労しキャリアアップを図ることは困難になる。女性も男性と同様にキャリアを追求することが合理的であるためには、男性が家事・育児に参加できるよう、長時間労働を是正する必要がある(図表9. 男女の結婚、就業、家事育児参加の意思決定モデル)。
(出所)Goldin, Claudia(2014)「A Grand Gender Convergence:Its Last Chapter」、Goldin, Claudia(2021)「Career and Family:Women's Century-Long Journey toward Equity」、Youngjoo Cha and Kim A. Weeden(2014)「Overwork and the Slow Convergence in the Gender Gap in Wages」、大湾秀雄「働き方改革と女性活躍支援における課題ー人事経済学の視点から」「仕事・働き方・賃金に関する研究会:性別役割分業、長時間労働とジェンダーバイアス」
 
女性活躍推進に向けた今後の展望
女性の活躍推進にあたって、様々な課題がある中で、本稿では性別役割意識と男性の長時間労働を挙げた。長時間労働への高いリターンが「男性が仕事、女性が家事」という分業特化のメリットを増幅し、各人に性別役割意識を定着させるとともに、企業においても男性の長時間労働を前提とした業務設計が行われ、女性のキャリアアップの大きな障壁となっていると考えられる(図表10. 長時間労働および性別役割分担の定着)。日本男性の平均労働時間は先進国の中でも高い水準にあり(図表11. 先進国における男性の1日当たり労働時間の比較)、女性の活躍を推進するにあたっては、男性の働き方から変える必要があるであろう。
女性の活躍推進を評価されている企業の取り組みを見ると、テレワークや短時間勤務の整備や、業務の繁忙調整により、仕事と家庭の両立をサポートすることに加え、女性管理職候補の選抜育成といった取り組みも見られる(図12. 女性の活躍推進が評価されている企業の取り組み例)。企業の経営陣が本気で労働環境の整備および業務の再設計等に取り組み、性別を問わず、一人ひとりが、様々なライフステージに応じて柔軟に働くことを可能にすることで、女性の活躍が促進されることを期待したい。
(出所)OECD.stat「Balancing paid work, unpaid work and leisure(2020)」、上田淳二・鶴岡将司「仕事・働き方・賃金を巡る変化と課題ー一人ひとりが能力を発揮できる社会に向けて」、各社HP
 
(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。