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AT1債およびバーゼルIII適格Tier2債(B III T2債)入門―バーゼルIII対応資本性証券(ハイブリッド証券

 
東京大学 公共政策大学院 服部  孝洋*1
 
 
1.はじめに
「バーゼル規制入門」(服部, 2022)では自己資本比率規制について取り上げ、金融危機をうけて、普通株式等Tier1資本(CET1)が導入されるなど、自己資本の質の向上が図られたと説明しました。図表1. バーゼルIIIにおける自己資本の内訳は、服部(2022)でも紹介した図表になりますが、CET1比率がかつて2%*2であったところ、バーゼルIII以降では4.5%が求められていることがわかります。その一方で、図表1には、「その他Tier1」と「Tier2」も記載されており、金融危機以降の規制改革の中で、基礎的項目であるTier1や補完的項目であるTier2についてもその定義が見直されています。具体的には、前者をいわば「生き残るための資本」であるゴーイング・コンサーン・キャピタルとする一方、後者を「秩序ある破綻のための資本」であるゴーン・キャピタルとして定義しなおしました。
既存のテキストはAT1やTier2の定義そのものについて詳細に説明をする傾向にありますが、本稿の特徴は、その要件だけでなく、その市場や債券としての特性についても焦点を当てている点です。現在、「その他Tier1資本」を満たすための債券はAT1債(Additional Tier 1債)と呼ばれる一方、Tier2を満たすための債券は、バーゼルII時に発行されていたTier2債と区別するため、バーゼルIII適格Tier2債と呼ばれています(実務家は、BaselIII適格Tier2債を略して「BIIIT2債」と記載する傾向があります)。BIIIT2債は、本稿で説明する実質破綻時損失吸収条項など新しい条件が加わっており、それまで発行されていたTier2債からその性格が大きく変化しています。2010年代後半から、我が国では、AT1債やBIIIT2債は定期的に発行されており、今では資本市場で普及した商品になっています。なお、債券をイメージした説明を行いますが、BIIIT2債や後述するAT1債については、ローンなどの形式もとりうる点に注意してください。
本稿では「バーゼル規制入門」(服部, 2022)を前提とするので、自己資本比率規制そのものの知識の確認が必要な読者は同論文をご一読ください。また、通常のバーゼル規制のテキストではAT1を説明した後、Tier2について説明をしますが、本稿では相対的にシンプルなTier2を説明した後、AT1を説明するという流れを採っています。なお、筆者が記載してきた債券や国債の一連の入門シリーズは筆者のウェブサイトにまとめて掲載してあります*3。
 
 
2.バーゼルIII適格Tier2債(BIIIT2債)
2.1 ゴーイング・コンサーン・キャピタルとゴーン・コンサーン・キャピタル
服部(2022)で強調したとおり、バーゼル規制では損失吸収力という基準で、会計とは異なる自己資本が定義されました。仮にある銀行の(会計上の)自己資本が1000億円である中、2000億円の損失を計上した場合、残りを預金のみで調達していれば、預金者が損失を計上する可能性があります。その一方、自己資本1000億円に加え、劣後債で1000億円調達していれば、もし仮に2000億円の損失をして破綻したとしても、自己資本の提供者である株主に続き、劣後債の保有者に責任をとってもらえるため、預金者には損失が及ばないと考えられます。
仮にある銀行がすべて預金で調達したら、その損失が預金者に及ぶ可能性がありますが、普通株式などによる調達が十分であれば、損失を計上したとしても、株主がその損失を吸収することになります。そもそも会計では継続企業であることを「ゴーイング・コンサーン」といいますが、普通株などは当該銀行の継続を助けることから「ゴーイング・コンサーン・キャピタル(going-concern capital)」といいます。
一方、劣後債は上述のとおり、仮に破綻した場合、預金者に損失が及ばないように秩序ある破綻を可能にするための資本といえます。この場合、ゴーン(gone)という破綻の意味合いを込めて、「ゴーン・コンサーン・キャピタル(gone-concern capital)」と表現されます。直観的にはTier1は「生き延びるための資本」である一方、Tier2は、「安全に破綻するための資本」と解釈できます。劣後債の場合、破綻しなければ損失負担をしないため、生き延びている間は資本としては使えない性質のもの、とも言えます。
服部(2022)では従来のバーゼル規制において劣後債も一定程度自己資本として考慮されていたところ、金融危機により損失吸収力を高めるという意味で、資本の質の向上が図られたと説明しました。具体的には、バーゼルIIIにおける重要な特性は、Tier1とTier2の分類を、前者がゴーイング・コンサーン・キャピタル(生き延びるための資本)、後者がゴーン・コンサーン・キャピタル(安全に破綻するための資本)という観点で、その要件を厳格化したといえます*4。
 
2.2 バーゼル規制で求められる自己資本比率
ここでバーゼルIII以降の自己資本の定義を確認します。服部(2022)で強調したように、バーゼルIIIではCET1という損失吸収力が高い資本が軸に据えられました(一定の調整項目がありますが、CET1は株式に近い概念といえます)。バーゼルIII以降、国際統一基準行に対しては、資本保全バッファーも加え、CET1比率が7%(=4.5%+2.5%)になることが求められています。また、その他にカウンター・シクリカル・バッファーやシステム上重要な銀行に対する追加的なバッファーも求められています*5。
もっとも、その一方で、Tier2についてもゴーン・コンサーンという観点でその定義を見直したうえで(その定義は後述)、かつて4%まで認められていたところ、バーゼルIIIでは、2%を上限に自己資本に含めることが認められています。図表2. バーゼルIIIにおける自己資本向上のイメージがバーゼルIIとバーゼルIIIにおいて求められる自己資本比率について比較したものですが、Tier2の比率が下がるとともに、CET1の割合が上がっていることがわかります。また、各種バッファーにより大幅に資本が求められていることがわかりますが、これらについては次回の論文で説明することを予定しています。
 
2.3 ベイルアウトとベイルイン
服部(2022)ではそもそも銀行が預金取扱機関であり、満期変換機能を有することから規制が課されていると議論しましたが、アーマー等(2020)では、銀行の破綻が他の業態における破綻と異なる点について次のような論点で整理しています。第一に、銀行の場合、破綻の可能性が疑われると、急速にその価値が失われてしまうこと、第二に、銀行業は負債の主体が預金であり、その元本保証が決定的に重要であること、第三に、銀行の規模や数によって、外部に生ずるコストが大きくなるという論点を挙げています。もっとも、それ以上に重要な点として、銀行の破綻による「伝播効果」を挙げています。つまり、ある銀行が破綻した場合に、ドミノ式に他の銀行にも影響を与えるということになり、そのことが銀行を救済することのインセンティブを生んでいるとしています。
政府による銀行の救済は「ベイルアウト(bail out)」と呼ばれますが、そもそも上述のとおり、構造的にベイルアウトのインセンティブがあることから、アーマー等(2020)は、「銀行破綻に伴うマイナスの外部効果を最小限」(p.509)にしつつ、「その処理の主たるコストを株主と債券保有者に負担させ、その後で、本当に必要なら、納税者に負担させる」(p.509)としており、納税者に負担させる前に、株主と債券保有者に負担させることの必要性を指摘しています。このように破綻に伴うコストを株主や債権者に負担させることを、ベイルアウトに対比させて、「ベイルイン(bail in)」といいます(ベイルインのため、AT1債やTier2債に加えられた条項を「ベイルイン条項」ということもあります)。金融危機時にベイルアウトがなされたことへの強い政治的批判がバーゼルIIを見直し、現在のバーゼルIIIへと至る重要な要因になりました。
 
2.4 実質破綻時損失吸収条項件:PON条項
上述の観点で、Tier2債がバーゼルIIIにおける規制資本として認められるため、破綻処理が始まるタイミングで*6、確実に損失吸収ができる措置が求められるようになりました。この条件を、バーゼル規制の用語では「実質破綻時損失吸収条項」、あるいは、PON条項(PONV, Point of Non-Viability)といいます(実務家はPONVを「ポン・ブイ」と読みます)。これは実質的に破綻が認定されたタイミングで、バーゼルIII適格のTier2債の元本削減等を行うということです。この条項が含まれるようになった点がバーゼルIII適格Tier2債の最大の特徴といえます。わが国の例で言えば、それまでの劣後債では劣後事由は破産と会社更生だけとなっており、実際の銀行の破綻処理では破産や会社更生は使われることが想定されていないため、実質的には損失吸収が考えにくかった点が改善されたといえるでしょう。
重要な点は実質的な破綻の認定ですが、我が国では、破綻に瀕した金融機関に係る金融危機への対応の枠組みである預金保険法の第二号措置、第三号措置、あるいは、特定第二号措置の認定が行われたタイミングとされています*7(これは自己資本比率規制に関するQ&A*8で定められています)。これが発動される具体的な要件は、主に銀行の債務の支払い停止や債務超過およびそれらのおそれです(図表3. 預金保険法における破綻処理スキームを参照)。したがって、国際統一基準行について債務超過が起きて、前述の条項が発動された場合、Tier2債が全額元本削減される(例えば読者がBIIIT2債を100円持っていた場合、それが0円になる)ことになります。
我が国におけるベイルインの特徴は、発行される債券の社債要項に、特定第二号措置が認定されれば元本が削減されるという実質破綻時免除特約が付される点です。これは社債の契約によりベイルインがなされることから、「契約上のベイルイン(contractual bail-in)」といわれています。しかし、他国では契約上のベイルインではなく、行政が判断したら元本削減等がなされるという形式が採られており、これは「法的ベイルイン(statutory bail-in)」と呼ばれています。
なお、本稿では預金保険についての詳細は触れませんが、そもそも、預金保険とは、銀行が預金保険に入ることで、銀行が破綻した場合、預金者に対する一定程度の預金等を保護する制度です。その意味で、通常、銀行が破綻した場合、預金の定額保護がなされます。しかし、我が国又は当該金融機関が業務を行っている地域の信用秩序の維持に極めて重大な支障が生ずるおそれがあると認められた場合に、第二号措置ではペイオフコスト超の支援を行うこと、また、第三号措置で一時国有化がなされることが定められています*9。前述の特定第二号措置とは、2014年に改正預金保険法の施行に伴い作られたもので、銀行だけでなく、証券会社や銀行持株会社など広い主体を対象にしている点などがその特徴ですが、金融システムに著しい混乱があるときに発動される措置です(預金保険については今後の論文で取り上げる予定です)。
 
2.5 その他の要件
これまでBIIIT2債として認められる要件として、PON条項のみを説明しましたが、これ以外にも「劣後性」、「長期性」などの要件が求められています。正確にはTier2の要件として合計10要件が求められていますが、ここでは特徴的な点のみ紹介します(詳細を確認したい読者は金融庁の告示や北野・緒方・浅井(2015)などを参照してください)。
 
劣後性
まず、バーゼルIIIにおけるTier2の条件として、劣後性を有している必要があります。具体的には、通常の債券(いわゆるシニア債)よりは劣後するという条件です。
 
長期性
また、Tier2の条件として、資本としての性質を高めるため、満期は定めてもよいものの、長期性を満たす必要があるとされています。具体的に、満期は発行後5年以上経過した後に満期が設定される必要があります(5年債以上である必要があります)。
 
早期償還条項
発行体が早期償還をする場合は発行から5年以上経過後である必要があります*10。早期償還とは、発行体(この場合、金融機関)が判断すれば満期の前に早期に償還することができる権利(オプション)です。例えば、あるBIIIT2債の満期が10年であり、5年後に早期償還条項が付されているとします。この場合、仮に5年後に発行体がその権利を行使したら、その行使時点で100円で償還されるという仕組みになっています(発行体は100円で買い戻すオプションを買っており、読者はそのオプションを売っているので、その分、Tier2債の金利にオプション料が上乗せされている点に注意してください*11)。
 
ステップアップ金利の禁止
金利の支払い方法については、ステップアップ金利が禁止されています。ステップアップ金利とは、例えば、今の金利が1%の固定であるとして、5年後に1.25%になり、6年後に1.5%などという形で金利が徐々に上がっていく(ステップアップしていく)金利の支払い方式になります(こういう利払いがなされる債券はステップアップ債といわれ、通常、仕組債などの形で発行されています)。金利が途中でステップアップしていくと、発行体からすれば金利が上昇していくため、その債券に早期償還条項がある場合、早期償還の権利を行使するインセンティブが生まれます。そのため、ステップアップ金利を認めてしまうと、満期を短くしうることから、長期性としての性質が弱くなると考えられます。
 
2.6 日本におけるBIIIT2の発行状況
最後に日本の発行状況について確認します。我が国では、2014年3月にみずほフィナンシャルグループが邦銀初のBIIIB2債をドル建てで発行しました*12。三井住友フィナンシャル・グループがそれに続き米ドル建て債を発行しましたが、三菱UFJフィナンシャル・グループは2014年6月に円建てでBIIIB2債を発行しています*13。その後、地銀なども含め、主に円建てを中心にBIIIT2債の発行が進みます(後述しますが、AT1債の場合、円建てがメインです)。
図表4. 我が国におけるBIIIT2債(円建て)の発行状況が発行されたTier2債(円建て)の推移になりますが、2014年から発行が始まり、2017年にピークを迎えています。その後低下傾向にありますが、満期や早期償還条項があることから、定期的に発行される点に注意をしてください。また、利率については2014年以降低下傾向にあり、2020年のコロナ禍に一時的に上昇していますが*14、2016年から横ばいに推移しています。
BIIIT2債の年限についてはこれまで10年債が主体ですが、15年債や20年債なども発行されています。早期償還条項が付されていない債券もありますが、早期償還条項がある場合、5年後に早期償還条項が設定される傾向があります(実務家は最初の5年は早期償還(コール)がかからないという観点から、ノンコール5(NC5)と表現します。一方、早期償還条項が付されていない通常の債券をブレット債ということもあります)。前述のとおり、我が国では基本的には円建ての債券が主体ですが、米ドル建てなど外貨建てのBIIIT2債も一定程度、発行がなされています。
 
BOX 1 バーゼルIIIにおけるTier2を巡る議論
秀島(2021)によれば、金融危機を受けてバーゼルIIIへ向けた規制改革を検討する中で、Tier2について残すべきかどうかの議論がなされたとしています*15。具体的には、Tier2がそもそも必要かどうかの議論を行ったうえで、破綻時に損失吸収力がある資本があった方が良いという判断から2009年12月の市中協議案ではTier2は残される形で提案されたとしています。もっとも、実際には劣後債が損失吸収をする事例が少ないことから、破綻処理が始まった段階で確実に損失吸収ができるような要件(実質破綻時損失吸収条項件)が追加されることになりました。
また、我が国において、Tier2という補完的項目が残されたのは国際統一基準行のみという点も重要です。服部(2022)で説明したとおり、バーゼル規制はあくまで国際的にビジネスを展開する銀行が対象とされており、国際的にビジネスを展開しない銀行(国内基準行)については、バーゼル規制と整合性があるものの、少し緩やかな規制が課されています(国内基準行についてはコア資本/リスク・アセットが4%以上求められています)。「コア資本」という概念はバーゼルIIIで新しく導入されましたが、「コア資本」には劣後債が含まれていません。その理由として、国内基準行については、過去の事例をみると、破綻前に公的な介入がなされることが少なくなく、劣後債の投資家は実質的な負担を免れるという点でモラルハザードの要因になりえる点や、Tier2債を発行していた金融機関が質の高い資本を十分に有していないという問題点が指摘されました*16。さらに、実質破綻時損失吸収条項件を含んだTier2債を国内基準行が発行した場合、適正な市場が生まれるかどうかについて不確実性があること等から、Tier2債を資本から外すという判断がなされたとされています。
 
 
3.AT1債について
3.1 資本と負債の境界線
本節からAT1債について説明をしますが、そもそも「その他Tier1(AT1)」とは、服部(2022)で説明したCET1には含まれないものの、前述のゴーイング・コンサーン・キャピタルとして基礎的項目(Tier1)に位置づけられる資本です。AT1とは、Additional Tier1の略(直訳すれば「追加的Tier1」)ですが、日本語では「その他Tier1」と訳されます。債券の性質としてみた場合、AT1債は、CET1よりは損失吸収力が弱いものの、バーゼルIII適格Tier2債に比べると、破綻に至る前に十分な損失吸収がなされる債券と考えられます。
前述の劣後債の例からもわかるとおり、株式と負債は単なる二分法ではとらえきれず、その中間的な資金調達手段も少なくありません。例えば、株式にも優先株のように配当を優先的に受けられるものの、議決権に制限があるものがあります。劣後債の中でも満期がない債券(永久劣後債)であれば、株式に似通った性質が生まれてくることになります。また、一定の条件で債券から株式に転換される転換社債も存在します。このようにしてみると、資本と負債は単純に二分されるわけではなく、グラデーションがあることに気づきます。債券と株式の両面性を持つ有価証券は、株式と債券のハイブリッドであることからハイブリッド債と呼ばれることもあります。
 
3.2 ゴーイング・コンサーン・トリガー
AT1債の条件を満たすためには、BIIIT2債とは異なり、「ゴーイング・コンサーン・キャピタル(生き延びるための資本)」であることから、実質的な破綻の前に損失吸収を行う仕組みが必要になります。BIIIT2債にはPON条項(実質破綻時損失吸収条項)がありましたが、ゴーイング・コンサーン・キャピタルとしての性質を満たすためには、PON条項のように実質破綻後の条項だけでなく、その前に、早い段階で損失吸収がなされる仕組みが必要です。
具体的には、AT1債の場合、前述のPON条項に加えて、CET1比率が一定以下になった場合、元本が削減される仕組みが採られています(AT1債では株式に転換されるものも含むのですが、ここでは現在、日本で発行されている元本削減型を前提に説明します)。すなわち、CET1比率が5.125%を下回った場合、AT1債の元本削減がなされる仕組みが付されています(5.125%より大きく下回ったら元本削減がより大きくなる点に注意してください)。この条件をゴーイング・コンサーンのための元本削減であることから、ゴーイング・コンサーン・トリガーといいます。
金融商品の性質としては、AT1債へ投資した場合、普通の社債や劣後債に比べて金利が高い一方で、発行体の自己資本が薄くなってきたら元本削減がなされるリスクがあります。ただし、そのような状態であれば、当然株価も大きく下がっているでしょうから、株式よりは相対的にリスクは低いという商品になります。株式の場合、もちろん、リスクが高い分、高いリターンが付されるため(発行体からみると高い調達コストを負担する必要があるため*17)、銀行サイドとしては認められる範囲(具体的にはTier1資本のうちの1.5%)でAT1債を発行するインセンティブを有しています。なお、我が国ではCET1比率が5.125%を下回ったら、下回った分を元本削減するという元本削減型のみが発行されていますが、もし仮にその後資本が厚くなり5.125%以上になったら元本が回復するというAT1債も発行されています(このようなAT1債を「元本回復型」と表現することもあります)。
ちなみに、本稿では債券の形式をとるAT1債の発行が我が国で進んでいることから、ここまで債券を前提とした説明をしてきましたが、その他Tier1(AT1)を増やすために、優先株という形式をとることも可能です。優先株の場合、そもそも株式であることから、ゴーイング・コンサーン・トリガーは設定されませんが、PON条項などは求められている点に注意してください。
なぜ日本では株式転換型ではなくて元本削減型が普及しているか
これまで元本削減型を例に説明をしてきましたが、我が国でも制度上、株式転換型も許容されています。株式転換型とは、ゴーイング・コンサーン・トリガーにヒットした場合、株式に転換される債券になります。そもそも一定の条件で株式に転換する債券自体は転換社債などの形で広く流通しています。しかし、我が国では筆者が知る限り元本削減型のみが発行されています。海外でAT1債について言及される場合、株式への転換という意味を含むCoCo債(Contingent Convertibles Bond)が紹介されることが少なくないですが、我が国では元本削減型のみ発行されているという意味で、CoCo債は発行されていないと解釈できます*18。この背景として、転換価格の設定が実務的に難しいことや、新株予約権の場合、取締役会の決議が必要など、手続き上の難しさがあることなどが指摘されています。
また、元本削減型の場合、普通株も飛び越えて損失吸収することが起こりえる点にも注意が必要です。特にゴーイング・コンサーン・トリガー条件が高く設定され過ぎると、資本が少し薄くなった段階で元本が削減されてしまうということが起こりえます(この点は海外との比較で後述します)。秀島(2021)は、元本削減型であると普通株も飛び越えて損失吸収することもありえることから、元本削減型だけでなく、株式転換型も加わったという当時の議論を紹介しています*19*20。
 
3.3 AT1に求められるその他の性質
これまで、AT1債として認められる要件として、PON条項に加え、ゴーイング・コンサーン・トリガーの2点を挙げましたが、それ以外に求められている性質もあります。Tier2の要件と類似している部分も多いのですが、AT1債の要件として合計15要件が求められています。Tier2と同様、特徴的な部分のみに焦点をあてますが、その詳細を確認したい読者は金融庁告示や北野・緒方・浅井(2015)などを参照してください。なお、図表5. AT1債とBIIIT2債の比較がこれまで説明してきたAT1債とBIIIT2債の性質を比較した表になります。
永久性
Tier2債と比較した重要な違いとして、(「長期性」でなく)「永久性」が求められている点が指摘できます。株式と負債の重要な違いは満期の有無であり、満期がなければより株式に近い性質を有するといえます。AT1債の場合、満期がないことが要件とされており、これは株式に近い性質を有すると解釈されます。満期がない債券はしばしば永久債と呼ばれています。
早期償還条項
BIIIT2債と同様、5年以上経過した場合、早期償還を行うことが認められています*21。我が国の場合、5年あるいは10年後に早期償還条項が設けられることが多いことから、早期償還がなされることを前提にすると、実質的に、満期は5年あるいは10年ということになります。もっとも、早期償還条項はあくまで発行体がそのメリットに応じて行使するかどうかを判断することができるため、行使されない可能性がある点に注意が必要です。
そもそも、必ず早期償還を行うということになると永久性としての要件が弱くなることから、金融庁告示では「償還又は買戻しについての期待を生ぜしめる行為を発行者が行っていないこと」という要件が求められています(前節では指摘しませんでしたが、Tier2にもこの要件は求められています)。我が国ではこれまで早期償還がなされていますが、欧州では早期償還をしないこと(コールスキップ)はしばしば起きています(この点は後述します)。なお、Tier2債と同様、AT1債でも、ステップアップ金利は早期償還へのインセンティブを与えることから禁止されています。
利払いの制限
AT1債については一定の条件で利払い制限が課される点も重要な特徴です。バーゼルIIIでは、資本保全バッファーとしてCET1比率が2.5%だけ追加で求められていますが、資本保全バッファーの重要な役割は銀行の資本が薄くなってきたときに資金流出を防ぐために配当の支払い等を段階的に止めることです。バーゼルIIIでは資本保全バッファーを導入することで、通常時に資本を厚くすることを求めるとともに、ストレス時には配当制限などを通じて資金流出を防ぐ措置がとられています。AT1債の利払い停止については金融庁告示において銀行の裁量とされていますが、損失などにより当該銀行の資本が薄くなっていき、資本保全バッファーの部分に食い込んできた場合、利払いが段階的に制限される商品性になっています(資本保全バッファーについては次回の論文で丁寧に説明します*22)。
AT1債の利払い制限については、マーケットで大きな話題になることがあります。例えば、ドイツ銀行が発行したAT1債の利払いがなされない可能性について、2016年にマーケットで大きな話題になりました*23。投資家からみると、例えば発行体が大きな損失を計上するなどして、CET1比率が低下して、資本保全バッファーを満たせないということが起こった場合、その債券から利子が得られないというリスクを有しています。AT1債の利払い制限についてはコロナ禍でも話題になりましたが、詳細はBOX 2を参照してください。
 
3.4 日本におけるAT1債の発行状況
図表6. AT1債の発行額(円建て)の推移が日本におけるAT1債の状況です。我が国では2015年3月に三菱UFJ銀行が発行したAT1債が最初のAT1債ですが*24、その発行は2016年がピークであり、その後発行量は減っています。利率については低下傾向にあり、2018年からほぼ横ばいに推移しています。前述のとおり、AT1債には早期償還条項の設定が認められており、典型的には5年あるいは10年後に発行体が早期償還を行う権利を有しています。我が国のAT1債についてはこれまで円建てで発行されている点も特徴です。
 
 
4.その他の話題
4.1 海外のAT1債
本稿では基本的に我が国における事例を取り上げていますが、海外のAT1債が話題になることもあります。ここでは海外のAT1債について掻い摘んで説明をします。
早期償還条項の行使の有無:コールスキップ
まず、海外のAT1債で特に話題になる点は、早期償還の行使がなされない事例があることです。これをコールスキップ(コールの見送り)といいます。前述のとおり、早期償還は発行体(この場合、金融機関)の権利ですから、行使するかしないかの判断は発行体の自由であり、早期償還をしないことで調達コストを下げることができるなら早期償還をしないことになります。具体的には、早期償還をした場合、再度、AT1債を発行することを前提にすれば、発行体の再調達コストは、その時に発行されるAT1債の金利に依存します。仮に再調達により調達コストを下げられるなら、早期償還をするインセンティブがあるといえますが、逆に、再調達により調達コストが上昇するのであれば、早期償還をするメリットはありません。事実、海外の事例をみると、早期償還をしないという事例は多数存在します*25。
再調達することにメリットがあるかどうかは、当該金融機関の信用リスクに依存しますが、金利水準そのものにも依存する点に注意が必要です。例えば、金利が低下している局面であれば金融機関の信用リスクが変わらなかったとしても、再調達する際の金利は低くなりえ、早期償還するメリットは高いと言えます。
その一方で、マーケットでは早期償還条項が行使されないことがネガティブに捉えられることがあります。というのも、発行体がこのオプションを行使しなかった場合、信用リスクの悪化により再調達が困難であることのシグナルになりえるからです。
なお、筆者の理解では我が国ではまだコールスキップの経験はありませんが、これまで繰り返し強調してきたように、あくまで発行体の権利であることを認識する必要があります。また、我が国では金利低下局面が続いていたことが、コールスキップがなされない原因とも考えられます。そもそも、前述のとおり、AT1債における条件として、「償還又は買戻しについての期待を生ぜしめる行為を発行者が行っていないこと」ということが求められているため、コールスキップがない状態が長く続き、投資家側もコールが必ず行われると認識する状態になった場合、AT1債としての要件を満たさない可能性(あるいはそれを考慮した制度設計が必要となる可能性)もあります。
 
BOX 2 AT1債の利払い停止に係るスティグマについて
本稿では損失などで資本保全バッファーが棄損された場合、AT1債の利払いが段階的に停止されていくことを指摘しました。こうした制度設計について、コロナ禍での経験を経て、銀行が資本保全バッファーの取り崩しを過度に控える要因となりえる問題が指摘されています。そもそも資本保全バッファーにおいて、通常時に資本を厚くする一方、ストレス期に資本バッファーを取り崩すことが企図されているため、資本バッファーを取り崩すこと自体は本来問題ありません。しかし、銀行はAT1債の利払い停止がもたらしうるスティグマ(不名誉)を恐れ、バッファーの取り崩しを避ける可能性が指摘されています*26。こうした問題意識もあり、近年英欧当局からは、AT1等の複雑な資本枠組みを問題視し、規制資本から外す方向で見直す必要性も指摘されています*27。資本保全バッファーそのものやこれらの論点については次回の論文で詳細に議論を行う予定です。
 
ゴーイング・コンサーン・トリガー:水準の違い
また他国では、ゴーイング・コンサーン・トリガーが高めに設定されているケースがあります。日本の場合、ゴーイング・コンサーン・トリガーは5.125%とされていますが、他国では7%とされることがあります。例えば、英国では7%が求められていますし、スイスのように、高めのトリガーと低めのトリガーを有するAT1債が発行されている国もあります*28。もっとも、あくまで国際合意は5.125%であることから、日本は国際合意に遵守している点、さらに、国際的にも、5.125%というトリガーが大部分であるという意見がある点に注意してください*29。
アーマー等(2020)は、AT1債のトリガーの設定について、「その発動点が破綻処理の時点からあまり離れていない」(p.548)という特徴を指摘したうえで、トリガーにヒットした場合、当局の介入が既になされており、AT1債は「破綻処理においての元本削減の順序を決定する方策として機能する可能性が高い」(p.549)と指摘しています。また、前述の議論のとおり、ゴーイング・コンサーン・トリガーを高く設定しすぎると早い段階で元本削減がなされることになり、株式より先に損失を吸収する可能性がうまれます。そのため、ゴーイング・コンサーン・トリガーが高ければよいとは限らない点にも留意する必要があります。
株式転換型と元本削減型
我が国における株式転換型のAT1債は、(筆者の知る限り)現時点で存在していませんが、海外では株式転換型の発行もなされています。Avdjiev et al.(2020)は、AT1債やBIIIT2債における発行額の推移を論文内で示していますが*30、当初は、株式転換型が主流であったところ、元本削減型がその後増えていき、元本削減型の方がむしろ主体になっていることを指摘しています。なお、Avdjeiv et al.(2020)は初めて包括的にCoCo債市場に対して実証分析をした学術論文ですが、資本が充実している銀行がCoCo債を発行する傾向があることなど*31を示しています。
優先株が主流である国も
本稿で説明したとおり、我が国では、その他Tier1資本を調達するうえで、AT1債という債券の形式が普及していますが、欧州でも基本的に債券の形で発行されています*32。しかし、筆者が理解する限り、米国では優先株のみが発行されており*33、その要因として税制等が指摘されています*34。前述のとおり、我が国でも優先株の形式を用いることはできますが、優先株でもPON条項など一定の要件が必要である点に注意してください。
 
4.2 AT1債およびBIIIT2債のリスク・ウェイト
服部(2022)では、銀行が銀行株などを保有すると、その銀行が破綻した場合、他の銀行に伝播していく可能性が高まりますから、金融機関が金融株を保有することに規制が課されているという議論を紹介しました。これをダブル・ギアリング規制といいます。AT1債とBIIIT2債は金融機関の資本調達手段ですからダブル・ギアリング規制の対象になっていますが、国際統一基準行と国内基準行で異なる取り扱いがなされています。また、ダブル・ギアリング規制では、国際統一基準行については保有形態が3種類あり(意図的持合、その他金融機関等、少数出資金融機関等)、その形態ごとに取り扱いが異なる点も大きな特徴です*35。
具体的な取り扱いついては、国際統一基準行において、当該金融機関との密接性が上がる場合、自己資本控除の度合いが上がる一方、自己資本控除とならない場合、(標準的手法では)リスク・ウェイトが100%という取り扱いがなされています。また、国内基準行については、自己資本控除はないものの、リスク・ウェイトが250%となっています。リスク・ウェイトと自己資本控除の関係については、服部(2022)のBOX 3に記載されているため、そちらを参照してください。
ここではAT1債とBIIIT2債に絞り説明をしましたが、ダブル・ギアリング規制全体は非常に複雑なので、その詳細を知りたい読者は金融庁の告示や吉井・金本・小林・藤野(2019)などを参照していただければ幸いです。また、ダブルギアリング規制の最近の見直しの概要については小林(2020)を参照してください。
 
BOX 3 TLAC債
本稿ではAT1債とBIIIT2債について取り上げましたが、グローバルなシステム上重要な銀行(G-SIBs)はTLAC(Total Loss-Absorbing Capacity)債も発行しています。これはBIIIT2債と同様、ゴーン・コンサーンの損失吸収力を求めるものですが、TLAC債については預金保険など複雑な論点が多いことから、本稿では紙面の関係上取り上げず、今後の論文で紹介することを予定しています。我が国では、現在、G-SIBsとして指定されている三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループに加え、国内のシステム上重要な銀行(D-SIBs)の一角に指定されている野村ホールディングスがTLAC債を発行しています。
 
 
5.終わりに
本稿ではAT1債とBIIIT2債について取り上げました。国際統一基準行では、資本保全バッファーやカウンター・シクリカル・バッファーなど、追加的な資本賦課が求められています。次回はこれらをテーマに取り上げることを予定しています。
参考文献
[1].神山哲也(2017)「最近のドイツ銀行を巡る課題-訴訟費用,コール条項付永久劣後債のクーポン払い,ビジネスモデルの問題-」『野村資本市場クォータリー』冬号
[2].北野淳史・緒方俊亮・浅井太郎(2014)「バーゼルIII 自己資本比率規制 国際統一/国内基準告示の完全解説」きんざい
[3].小林章子(2020)「ダブルギアリング規制見直しの概要 地域金融機関の将来にわたる健全性の維持と金融仲介機能の継続的発揮を期待」週刊金融財政事情
[4].服部孝洋(2022)「バーゼル規制入門―自己資本比率規制を中心に―」『ファイナンス』、28-39.
[5].秀島弘高(2021)「バーゼル委員会の舞台裏」金融財政事情研究会
[6].吉井一洋・金本悠希・小林章子・藤野大輝(2019)「詳説 バーゼル規制の実務―バーゼルIII最終化で変わる金融規制」きんざい
[7].ジョン・アーマー, ダン・オーレイ, ポール・デイヴィス, ルカ・エンリケス, ジェフリー・ゴードン, コリン・メイヤー, ジェニファー・ペイン(2020)「金融規制の原則」きんざい
[8].アナト・アドマティ、マルティン・ヘルビッヒ(2014)「銀行は裸の王様である」東洋経済新報社
[9].Avdjiev, S., Bogdanova, B., Bolton, P., Jiang, W., Kartasheva, A.(2020)「CoCo issuance and bank fragility」 Journal of Financial Economics 138(3), 593-613.
[10].Borio,C., Farag, M., Tarashev, N.(2020)「Post-crisis international financial regulatory reforms:a primer」BIS Working Papers No 859.
[11].Fatouh, M, Neamțu, I., Wijnbergen, S.(2021)「Risk-taking and uncertainty:do contingent convertible(CoCo)bonds increase the risk appetite of banks?」 Bank of England Staff Working Paper No. 938.
[12].McNamara, C., Tente, N., Metrick, A.(2019)「Basel III D:Swiss finish to Basel III」 Journal of Financial Crises 1(4), 81-90.
 
 
*1) 本稿の作成にあたって、川名志郎氏、吉良宣哉氏、秀島弘高氏など、様々な方に有益な助言や示唆をいただきました。本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。
*2) この図ではバーゼルIIにおいても普通株等Tier1の記載がありますが、これはバーゼルIIIの定義に基づき、バーゼルIIにおける自己資本を再整理していると思われます。北野・緒方・浅井(2014)では1998年のバーゼル銀行監督委員会におけるシドニー合意を経て、Tier1比の半分が通常の株式資本が中心の資本構成になるよう、監督指針が定められたと指摘したうえで、バーゼルIIのTier1比率について「便宜的に、これまでの最低所要普通株式等Tier1比率が2%であったとの説明がなされることもある」(p.40)としています。
*3) 下記をご参照ください。
https://sites.google.com/site/hattori0819/
*4) 秀島(2020)では「バーゼルIIIにおいてはTier1は、going-concern資本、Tier2はgone-concern資本の位置づけをはっきりさせる方向での見直しであった」(p.107)と指摘しています。
*5) なお、欧米ではさらに追加的なCET1の上積みが求められています。詳細は下記をご覧ください。
https://www.bankingsupervision.europa.eu/banking/srep/html/p2r.en.html
https://www.federalreserve.gov/newsevents/pressreleases/bcreg20220804a.htm
*6) 告示Q&Aでは「バーゼル合意において、その他 Tier1 資本調達手段又はTier2 資本調達手段について実質破綻認定時に元本の削減又は普通株式への転換がなされること(以下「実質破綻時損失吸収条項」)が求められる趣旨は、破綻に瀕した金融機関について、本来損失を負担すべきである当該金融機関のこれらの資本調達手段が公的資金によって保護されることを防ぐという点にあると考えられます」としています。
*7) ここでは銀行についての記載になっており、銀行持株会社については預金保険法上の特定第二号措置に相当します。自己資本比率規制に関するQ&Aでは具体的には下記のように記載されています。
銀行については、実質破綻認定時を、(i)当該銀行について第二号措置若しくは第三号措置を講ずる必要がある旨の認定が行われる場合又は(ii)当該銀行について特定第二号措置を講ずる必要がある旨の特定認定が行われる場合を指すこととします。
また、銀行持株会社については、実質破綻認定時を、当該銀行持株会社について特定第二号措置を講ずる必要がある旨の特定認定が行われる場合を指すこととします。
*8) 第6条-Q9を参照。
*9) 前者の事例はありませんが、後者は足利銀行の国有化が事例になります。
*10) バーゼルIIでは初回コール日までが5年未満のものもTier2に算入ができましたが、バーゼルIIIでは算入不可となりました。
*11) オプションの詳細は筆者が記載した「国債先物オプション入門」や「債券オプション入門」を参照してください。
*12) 発行額は15億ドル(10年物、コール無し)です。日本経済新聞「みずほFG、バーゼル3対応の劣後債を発行へ 国内銀行で初」(2014/3/14)を参照。
*13) 400億円(10年物、コール無し)と100億円(10年、NC5年)の2本立てです。日本経済新聞「債券条件 三菱UFJ2本立て劣後債、バーゼル3対応 円建てで邦銀初」(2014/6/20)を参照。
*14) 例えば、2020年6月24日にみずほフィナンシャルグループが起債した10年のブレット債は、利率が0.87%であり、2019年6月13日に発行したブレット債(利率は0.489%)に比べて利率は上昇していますが、例えば、ブルームバーグの記事(「【起債評価】貴重な劣後債、利回りで資金獲得-みずほFG800億円」2020/6/17)では「主幹事によると、市場環境を考慮して昨年6月の前回債と比べ国債や円スワップ対比の上乗せ金利を厚めに設定」とコメントしています。
*15) ここでの記述は秀島(2021)において「自己資本定義部会共同議長としての感想(1)」(p.99-p.101)を参照としています。詳細は同書をご参照ください。
*16) ここの記述は北野・緒方・浅井(2014)を参照しています。詳細は同書のp.212-214をご参照ください。
*17) MM定理との関係については、服部(2022)のBOX3を参照してください。
*18) もっとも、元本削減型をCoCo債と整理するものもあります。例えば、BISのワーキングペーパーでもあり、Journal of Financial Economicsに掲載されたAvdjiev et al.(2020)は、元本削減型(Principal write down)もCoCo債に整理しています。
*19) 秀島(2021)のp.100-101を参照しています。
*20) アドマティ・ヘルビッヒ(2014)は「銀行が社債の自己資本への転換を始めるトリガーの条件に近づけば、混乱が起こる可能性がある。なぜなら転換によって利益を享受する投資家がいる一方、損失を被る投資家もおり、銀行の経営者を含めた多くの関係者がトリガー・イベントが発生したかどうかの見極めに影響を及ぼす行動をとろうとする」(p.255)と指摘しています。
*21) 早期償還条項により永久性が弱くなるという見方もありますが、早期償還条項の設定はバーゼル規制の基準上も認められています。告示では下記のように規定されています。
五 償還を行う場合には発行後五年を経過した日以後(発行の目的に照らして発行後五年を経過する日前に償還を行うことについてやむを得ない事由があると認められる場合にあっては、発行後五年を経過する日前)に発行者の任意による場合に限り償還を行うことが可能であり、かつ、償還又は買戻しに関する次に掲げる要件の全てを満たすものであること。
イ 償還又は買戻しに際し、自己資本の充実について、あらかじめ金融庁長官の確認を受けるものとなっていること。
ロ 償還又は買戻しについての期待を生ぜしめる行為を発行者が行っていないこと。
ハ その他次に掲げる要件のいずれかを満たすこと。
(1)償還又は買戻しが行われる場合には、発行者の収益性に照らして適切と認められる条件により、当該償還又は買戻しのための資本調達(当該償還又は買戻しが行われるものと同等以上の質が確保されるものに限る。)が当該償還又は買戻しの時以前に行われること。
(2)償還又は買戻しの後においても発行者が十分な水準の最低所要連結自己資本比率を維持することが見込まれること。
*22) 金融庁告示では、配当・利払停止の完全裁量について、下記のように定められています。
七 剰余金の配当又は利息の支払の停止について、次に掲げる要件の全てを満たすものであること。
イ 剰余金の配当又は利息の支払の停止を発行者の完全な裁量により常に決定することができること。
ロ 剰余金の配当又は利息の支払の停止を決定することが発行者の債務不履行とならないこと。
ハ 剰余金の配当又は利息の支払の停止により流出しなかった資金を発行者が完全に利用可能であること。
ニ 剰余金の配当又は利息の支払の停止を行った場合における発行者に対する一切の制約(同等以上の質の資本調達手段に係る剰余金の配当及び利息の支払に関するものを除く。)がないこと。
*23) この経緯を知りたい読者は神山(2017)などを参照してください。
*24) 日本経済新聞「三菱UFJ、資本増強 月内に新型債券で1000億円」(2015/3/17)を参照。
*25) Bloomberg「欧州銀行クレジット:AT1債の22年コール日程」(2022/2/25)では初回コールをスキップした銘柄をまとめており、ドイツ銀行やロイズ・バンキング・グループなど残高が大きいものもある一方、初回コールがスキップされた銘柄は「小規模で流動性の低いものが多い」と指摘しています。
*26) ECB資料では「The ECB supports strengthening the features of Additional Tier 1(AT1)instruments to reduce the stigma effects associated with banks cancelling AT1 coupon payments when they fall beneath the level of their combined buffer requirements. The challenges associated with market perceptions of the features of AT1 instruments point to a more fundamental concern over the complexity of the capital framework; the ECB supports further work at the international level to consider ways of reducing the overall complexity of the prudential regime.」としています。詳細は下記をご参照ください。
https://www.ecb.europa.eu/pub/pdf/other/ecb.responsetothecallforadvice~547f97d27c.en.pdf
*27) BOE資料では「Common equity is the quintessential loss-absorbing instrument and is easy to understand. Instruments like AT1 and ‘contingent convertible’ debt have their place in the current framework but they introduce complexity, uncertainty and additional ‘trigger points’ in a stress and so have no place in our stripped-down concept vehicle.」としています。詳細は下記をご参照ください。
https://www.bankofengland.co.uk/speech/2022/april/sam-woods-speaking-at-city-week-2022-developments-in-prudential-regulation-in-the-uk
*28) スイスのバーゼル規制についてはMcNamara et al.(2019)などを参照してください。
*29) Avdjiev et al.(2020)では、「The majority(05 billion)of the CoCos with a mechanical trigger have trigger levels that do not exceed 5.125%, which is the minimum trigger level(in terms of CET1/RWA)required for a CoCo classified as a liability to qualify as AT1 capital under Basel III.」としています。イングランド銀行のWPであるFatouh et al.(2021)は、「In the UK, the supervisory expectation for AT1 CoCo bonds is that they are issued at a trigger level above or equal to 7%. Very few other countries(Switzerland)impose a higher trigger level compared to the Basel regulation of 5.125%」と指摘しています。
*30) Avdjiev et al.(2020)は当初、2017年にBISのワーキングペーパーとしてリリースされ、同論文では2015年までの推移を記載している点に注意してください。
*31) 同論文では、次の4つの事実を見出しています。(1)the propensity to issue a CoCo is higher for larger and better capitalized banks;(2)CoCo issues result in a statistically significant decline in issuers’ CDS spread, indicating that they generate risk-reduction benefits and lower costs of debt(this is especially true for CoCos that convert into equity, have mechanical triggers, and are classified as Additional Tier 1 instruments);(3)CoCos with only discretionary triggers do not have a significant impact on CDS spreads; and(4)CoCo issues have no statistically significant impact on stock prices, except for principal write-down CoCos with a high trigger level, which have a positive effect.
*32) AT1債の要件として、優先株ではなく、債券も認められた背景に、欧州など優先株が普及していない国もあったからという議論があります。
*33) 下記では「The use of CoCos has not been introduced in the U.S. banking industry. Instead, American banks issue preferred shares of equity」と記載しています。
https://www.investopedia.com/terms/c/contingentconvertible.asp
*34) 例えば、「No banks in the United States have issued contingent convertible capital securities to date. Although the Dodd- Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act commissioned a study of such securities by the Financial Stability Oversight Council, the Federal Reserve has not introduced contingent capital requirements. Moreover, potentially unfavorable U.S. tax treatment in respect of interest payments also makes the issuance of such securities unattractive for U.S. banks. As such, relief is not being requested in respect of U.S. financial institutions at this time.」としています。
https://www.sec.gov/divisions/corpfin/cf-noaction/2019/contingent-convertible-capital-securities-032819-501a-incoming.pdf
*35) 「意図的持合」とは、金融機関同士で意図的に持ち合っているケースですが、「その他金融機関等」とは議決権が10%を超える投資先等、「少数出資金融機関」とは保有している議決権が10%以下の投資先になります。