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特集 年次別調査と四半期別調査を実施 法人企業統計に見るコロナ禍の日本企業の姿

法人企業統計調査は、法人の資産や負債、損益等を調査するもので、法人の企業活動の実態を把握することができる。2021年度の調査結果をもとに、コロナ禍の日本企業の経営状況を俯瞰してみよう。
取材・文 向山 勇
 
 
法人企業統計調査の目的とは
法人の企業活動の実態を明らかにするために営利法人等を調査
 
年次別調査と四半期別調査を実施し、調査結果を公表
法人企業統計調査は、法人の企業活動の実態を明らかにすることを目的に、営利法人等を調査対象とし、その資産、負債及び純資産の状況並びに損益等について調査している。調査対象は、資本金規模が一定以上の法人については全て、それ以外の法人についてはコンピュータにより無作為に抽出している(図表1 調査対象法人の選定方法参照)。実際の調査は、全国の財務局及び財務事務所等を通じて行われており、自計記入(企業が自ら記入)を依頼する方法がとられている。
調査には、確定決算計数を調査する年次別調査と四半期ごとの仮決算計数を調査する四半期別調査があり、年次別調査は9月に、四半期別調査は3月、6月、9月、12月に調査結果を発表している。
調査結果は、景気に関する政府の公式見解「月例経済報告」や、経済・財政政策立案の基礎資料として利用されているほか、四半期別GDP速報など国民経済計算の作成にも利用されている。また、民間では業界団体、金融機関、各種研究機関等が産業・景気動向を分析する際などに広く利用される。
 
貸借対照表や損益計算書にかかわる情報を集計
法人企業統計調査は、日本企業全体の「貸借対照表」や「損益計算書」にかかわる情報を主に集計しているともいえる。企業は、経営を行うために「お金」を必要とする。貸借対照表は(1)そのお金をどこから調達してくるか、(2)事業でそのお金をどのような形で使っているか、をまとめたもの。損益計算書は、利益(または損失)の発生に関する情報をまとめたもので、企業が日々どのような成果を上げ、そのためにいくらの費用がかかっているのかを知ることができる。
法人企業統計調査を見れば、日本企業全体の資金調達と資金の活用、損益の状況を把握することができる。
 
 
2021年度法人企業統計調査に見る企業収益
売上高は4年ぶりの増収 経常利益は2018年度を超え過去最高に
 
売上高は対前年度比6.3%の増収
経常利益は前年度比33.5%の増益
2021年度の法人企業統計調査によると、売上高は前年度比6.3%増となり、2020年度の落ち込み分(▲8.1%)の過半を回復した。増収は4年ぶりで増加率は2004年以来の高さとなった。
売上高を業種別にみると、ほぼ全ての業種で対前年度比増加している。新型コロナウイルスによる感染症の影響が緩和されたことから、需要の増加等の影響があったと考えられる。また、製造業と非製造業に分けてみると、製造業の方が強い結果となった。製造業の中でも、自動車や船舶への需要増加や、販売価格改定の恩恵を受ける鉄鋼などでは増加率が高くなっている。一方で非製造業についても4年ぶりの増加となった。
経常利益は対前年度比で33.5%の増益となった。これは、直近でピークをつけた2018年度より約70億円多く、過去最高を更新した。
経常利益を業種別にみると、電気など一部の業種ではエネルギー価格の上昇などにより減益となっているものの、2020年度に経常赤字化した運輸・郵便、飲食、生活関連等が黒字に転じた。その結果、ほとんどの業種で前年度比増加となり、2019年度の水準を超えている。経常利益の増加には、売り上げの大幅な増加が寄与した。
また、経常利益に対する営業外収益の影響は、主に政府の企業支援策によるものが続いていると考えられる。特に中小企業ではその影響が大きく出ている。
 
設備投資は中堅・中小企業で感染拡大前の水準まで回復
設備投資については感染拡大前の2018年度の水準には戻っていないものの、2021年度は対前年度比9.2%増となった。特に増加率が高かったのは中堅・中小企業で、ほぼ感染拡大前の水準まで回復している。
設備投資を業種別にみると、鉄鋼や食料品などの一部の業種で減少したものの、景況感が改善する中で、特に非製造業の業種において前年度比増加となっている。鉄鋼が減少したのは事業再編に伴う工場閉鎖や事業譲渡が要因となり、食料品では前年度の投資に対する変動減が要因となった。
賃金(従業員給与・賞与)を見ると、感染症の落ち着きによる経済活動の再開を見据え、人手不足解消の観点から3年ぶりに増加に転じ、2018年度や2019年度の水準までほぼ回復している。業種別にみると、ほとんどの業種で増加しており、特に、対前年度比で10%超増加した情報通信機械や小売、卸売などの寄与が大きい。
労働分配率(注)は、感染症の拡大による経済活動の停滞を受け、計算式の分子である「人件費」の減少に比べ、分母の「付加価値額」の減少が上回ったことで、上昇傾向にあった。しかし、2021年度は対前年度比2.6%減と4年ぶりの減少となっており、大企業が最も低い水準(52.4%)となっている。
今回の減少の要因は、好調な企業収益を背景に、「付加価値額」の増加幅(対前年度比9.8%増)が、分子である「人件費」の増加幅(対前年度比5.7%増)を上回ったことが挙げられる。
(注)「労働分配率」は法人企業統計調査の結果を基に以下の計算式で算出。
労働分配率=人件費÷付加価値額
※人件費=従業員給与・賞与+役員給与・賞与+福利厚生費
※付加価値額=(営業純益(営業利益一支払利息等)+人件費+支払利息等+動産・不動産賃借料+租税公課)
 
 
2021年度法人企業統計調査に見る企業のバランスシート
利益剰余金(内部留保)残高は増加したものの
有利子負債の増加で自己資本比率は低下
 
企業のお金の集め方と使い方がわかる「貸借対照表」
2021年度の法人企業統計調査をもとに日本の企業全体の貸借対照表と損益計算書を作成すると、P9の図のようになる。
貸借対照表は、企業のお金の集め方と使い方を表したもので、右側に「お金の集め方」、左側に「お金の使い方」が表示されている。「お金の集め方」は主に(1)株主が出資したお金や利益を積み上げたお金である「株主資本」と(2)借入金や企業が社債を発行して集めた「他人資本」に分かれる。バランスシートでは前者は純資産、後者は負債と表記される。
貸借対照表の左側には、集めたお金をどう経営に役立てているかが記載される。例えば、事業に必要な設備を購入した場合には「有形固定資産」に記載され、お金として保有している場合には「現金・預金等」に記載される。
図の貸借対照表では、期中変化を記載している。法人企業統計調査では、毎年、一部の調査対象企業が異なるため、同じ調査対象企業の期首と期末を比較したバランスシートの期中変化は、年次推移より実態を表していると言える。
2021年度の期中変化を見ると、感染拡大を受け、企業は資金繰り悪化への対応や手元資金の積み増しに動いたとみられ、有利子負債が引き続き増加した。その内訳をみると、長期借入金及び社債による資金調達が引き続き行われている。その結果、企業の現金・預金等も引き続き増加している。
 
日々の経営の成果と費用が分かる「損益計算書」
「損益計算書」とは、日々の経営の成果である「収益」(売上など)から、それを実現するためにかかった「費用」を差し引き、一定期間に企業が得た「利益」を計算した書類のこと。利益には4つの種類があり、本業で得た利益は「営業利益」、副業など本業以外の損益を含めたものが「経常利益」となる。また、急遽かつ一時的に収入や費用を加味したものが「税引前当期純利益」、さらに法人税などを支払った後の金額が「当期純利益」となる。
2021年度の損益計算書では、1,448兆円の売上高に対し、営業利益54兆円、経常利益84兆円、税引前純利益84兆円、当期純利益は63兆円となった。
 
内部留保は32.1兆円増
自己資本比率は2年連続減少
内部留保の推移をみると、2012年以降増加が続いており、2021年度の残高は対前年度差32.1兆円増(うち大企業:14.4兆円増、中小企業:9.5兆円増)となった。しかし、業種別にみると、サービス業や不動産では、対前年度差で大きく減少した。また、配当金は近年着実に増加している。
一方で自己資本比率は、内部留保の蓄積に伴い2019年度まで8年連続で上昇し、過去最高を更新していたが、2020年度以降は利益剰余金の増加幅に比べて、有利子負債の増加に伴う総資産の増加幅が大きかったことから、2年連続で自己資本比率が減少、2021年度は対前年度差0.2%pt減となった。また、中堅企業の自己資本比率は着実に増加しており、初めて大企業を上回った。
業種別では、製造業よりも非製造業の方が、自己資本比率は低い。対前年度差でみると、娯楽(19.8%pt減)や宿泊(6.2%pt減)で下落幅が大きくなっている。
(注)本特集記事における図表は、財務省法人企業統計調査(金融業、保険業を除く)を基に作成している。
 
 
column
「地域企業における設備投資の現状及び今後の方針について」(特別調査)
財務省では、財務局長会議において、全国の財務局からの管内経済情勢報告に加え、特定のテーマについて、各財務局等が管内の企業等に調査(ヒアリング)を行い、分析結果を併せて報告している。
令和4年11月1日に公表した特別調査の結果*によると、設備投資を「計画通り実行する見込み」と答えた企業の割合は69.6%であった。一方、「計画を下回る」と回答した企業は18.2%であった。
今後の設備投資において重視する目的について、「設備の更新」に次いで「省力化・効率化」の回答が多かった。
また、「脱炭素対応」については、「海外企業との取引において求められる」などの声が聞かれた。
*財務省「「地域企業における設備投資の現状及び今後の方針について」(特別調査)」
https://www.mof.go.jp/about_mof/zaimu/kannai/202203/tokubetsu.pdf
 
図表2.調査項目
図表3.今後の公表予定
図表4.企業収益(売上高と経常利益)の推移
図表5.売上高の業種別変動率(2021年度)
図表6.経常利益の業種別推移(2021年度)
図表7.設備投資の推移
図表8.設備投資対前年度比・寄与度(2021年度)
図表9.賃金(従業員給与・賞与)の推移
図表10.賃金(従業員給与・賞与)の対前年度比寄与度(2021年度)
図表11.労働分配率の推移
図表12.当期純利益と配当金・社内留保の推移(フロー)
図表13.内部留保(利益剰余金)の残高・対前年度差(2021年度)
図表14.内部留保(利益剰余金)の残高の推移(ストック)
図表15.有利子負債の推移(期中変化)
図表16.現金・預金等の推移(期中変化)
図表17.損益計算書(2021年度)
図表18.貸借対照表(2021年度)
図表.今事業年度における設備投資の現状
図表.今後の設備投資における重点項目の目的(重要度の高い順に3項目まで)