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恐竜が人間に送るメッセージ
 
北海道大学総合博物館教授 小林  快次
 
 
「私たち人間は、間違いなく絶滅する。それも100%の確率で。」
新聞やテレビ、ネットでは世界中での絶滅についてニュースが飛び交っているが、どこか対岸の火事と思っていないか。「絶滅」について私たちにメッセージを送っているのが「恐竜」なのだ。
約6,600万年前、現在のメキシコのユカタン半島に直径10キロ程度の隕石が衝突する。衝突の中心地から2000キロメートルの範囲は数千度の熱に覆われ、衝撃で生まれた熱をもった粒子は地球上を襲ったという。衝撃は、高さ数百メートルの津波も発生させ世界各地を襲った。その後、硫酸の雨が降り注ぎ、長い衝突の冬が恐竜たちを襲った。寒くて暗闇の続く世界。植物たちは枯れ、植物食恐竜は致命的なダメージを受ける。植物食動物を食べていた肉食恐竜は食べ物を失い次第に数を減らしていった。こうして次々と絶滅の連鎖反応が起き、1億7千万年間続いた恐竜の世界は幕を閉じた。致命的な環境変動によって絶滅したのは恐竜だけではなかった。当時地球上に生息していた約75%の生物が絶滅したといわれている。
生命が地球上に誕生してから約38億年。この途方もなく長い年月の間に生物は多様化し、現在の世界を作っている。その間に、生命は誕生と絶滅を繰り返していった。約6,600万年前に起きた致命的な絶滅を大量絶滅という。このような大量絶滅は、生命史38億年の中で5回起きている。その中で最も壊滅的だったのが、約2億5千万年前で9割とも言われている。5回のどれも恐ろしい大量絶滅だが、もう一つ「隠された大量絶滅」がある。それは「第六の大量絶滅」だ。それは一体いつ起こったのか。いや、起こったのではなく、今現在が「第六の大量絶滅」といわれている。この現在の大量絶滅は、人間の存在により引き起こされているものであり、約2億5千万年前に起きた9割の生命がいなくなった大量絶滅よりも壊滅的とも考えられている。
恐ろしいのは、このような生命史上経験したことのない壊滅的な大量絶滅が現在起こっているにも関わらず、日常生活での実感がないことだ。種の絶滅はテレビで報じられることがあるが、実際にそれを感じることはない。それは、私たち生活の中の微視的な時間の流れと、実際に地球で起こっている巨視的な時間の流れの感覚が違うからだ。私たち恐竜研究者にとって、1千万年前はつい最近、百万年前なんて昨日のことのような感覚で、通常の人が感じる時間の長さとは比べ物にならない。古生物学者の時間の流れに視点を合わせた時、これまで見えていなかったことが見えてくる。巨視的な視点で、人間の世界を見ると、私たちの未来が見えてくる。それは、決して明るいものではなく、絶滅をいう恐ろしい出来事なのだ。
では、解決策はなんだろうか。問題は、「絶滅するか否か」ではなく、「いつ絶滅するか」である。人間の持つ知能と技術により、人間はここまで繁殖し地球を蝕んでしまった。その一方で、人間には他の動物にない「考える力」と「伝える力」がある。ここまで繁殖した数を逆手に取り、今こそ私たち人間が手を取り合い、他の動物にはない「力」を使って、人間という種の寿命が一年でも長くなるよう「人間の延命処置」をするべきではないだろうか。恐竜のように絶滅を待つのではなく、私たちの未来の子供達のために、地球というゆりかごを1日でも長く持続できるようにするべきではないだろうか。恐竜は、そのようなことまで教えてくれる。