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長井市における地方創生の取り組み

長井市総合政策課総合戦略室 主任 安部 惇士


長井市は山形県南部にある人口約2.7万人の小規模地方都市です。大正時代からの企業誘致に伴い、郡是製絲(グンゼ)や東京芝浦電気(東芝)など、製造業を中心とする企業城下町として発展してきました。
近年は企業の撤退や人口減少等で厳しい情勢の中ではありますが、第2期長井市まち・ひと・しごと創生総合戦略(以下、第2期総合戦略)を策定し、地域資源を活かした地方創生に積極的に取り組んでおります。平成29年11月には、東北財務局と金融機関、長井商工会議所との間で、山形県内初、東北で2例目(当時)となる「地方創生の連携に関する協定」を締結し、地方創生を強力に推進しています。
ここでは第2期総合戦略の中でも、各施策を牽引する重要な取り組みである5つのリーディングプロジェクトについて紹介いたします。

1.特色ある長井の教育の展開
第2期総合戦略では、「子育て」と「教育」をメインテーマに掲げ、子育て世代に選ばれるまちを目指しており、教育では、英語教育やキャリア教育、ICTを活用した教育などを推進しております。
なかでもキャリア教育では、小学生や中高生を対象とした起業体験ワークショップ「会社をつくろう」を開催し、連携協定を締結する金融機関からスタッフとして協力いただき、より実践的な取り組みがなされています。
さらに、「黒獅子のさと教育ローン利子補給補助金」を創設し、連携金融機関で受けた教育ローン等の利子の一部を補助することで教育に係る家計負担の軽減に向けた支援を行っています。
写真 連携金融機関のスタッフによる融資交渉体験

2.子育てワンストップサポート体制の整備
子育て支援の充実を図るべく、子育て世代包括支援センターを中心に、近隣市町村で初設置となる病児保育施設の開所や、子育て応援アプリを使った支援サービスを提供しています。さらに、市保健センター内に設置する「すまいるるーむ」において、子育て、教育、福祉の相談をワンストップで受付し、子育て世代の妊娠・出産から子育てまでをトータルでサポートしています。
また、グンゼ(株)、グンゼ開発(株)と連携し、PPP(官民連携)の手法により共同で多機能型図書館と子育て世代活動支援センターを兼ね備えた公共複合施設「くるんと」を整備しています。令和5年のオープンに向け、総事業費41億8千万円で整備を進めているところです。
写真 公共複合施設「くるんと」完成予想図

3.スキルを活かせる多様な仕事づくり
市民が豊かさとやりがいを感じられる働く場の確保につながるよう、地域産業の競争力の強化や人材育成として、新しい産業の育成につながるビジネスチャレンジコンテストの実施や、インキュベーション施設「イノベーションLab.長井i-bay」によって新しい仕事の創出や創業支援に取り組んでおります。
また、関係人口や移住人口の増加を図るため立ち上げたパラレルワーク(複業)のマッチングサイト「PARASUKU」により、Uターン希望者と市内企業との関係づくりを推進し、身に付けたスキルを長井で活かし輝く場を作っています。

4.未来技術の活用に向けた環境整備
NTT東日本山形支店と「ICTを活用したスマートシティ社会実装による地域活性化に向けた連携に関する協定」を締結するとともに、国の地方創生推進交付金の採択を受け、令和3年度から5年間で総額約8億2千万円の事業費を活用し、幅広い分野でデジタル化を促進し、「スマートシティ」の実現に向けた取り組みを進めています。
主な取り組みとしては、市民や観光客が市内限定で使えるデジタル地域通貨「ながいコイン」を導入することにより、地域の経済循環の創出やキャッシュレス決済の普及、決済データ等を活用した経済活性化を図っております。
また、デジタル技術を活用し、無人でも運営できる店舗「スマートストア」による買い物機能の維持確保に取り組んでいます。
さらに、ドローンの普及、活用促進による産業の効率化や、eスポーツ大会の開催をきっかけとした交流・関係人口創出に係る取り組みを進めています。
写真 デジタル地域通貨「ながいコイン」の利用イメージ

5.コンパクトシティ・プラス・ネットワークと健康まちづくり
中心市街地における都市機能の効率的な集約、再整備を進めると同時に、コミュニティセンターを核とした周辺地域の小さな拠点を公共交通ネットワークでつなぐ、コンパクトシティ・プラス・ネットワーク構想を推進しています。
中心市街地では、遊休施設であった「旧長井小学校第一校舎」について、国の地方創生推進交付金及び拠点整備交付金の採択を受け、免震・耐震工事やリノベーションを行いました。「学び」と「交流」の拠点として、平成31年のオープンから令和4年4月には利用者が20万人を突破し、新たなにぎわいを創出しています。
また、山形鉄道長井駅やまちなか交流施設を併設した市役所新庁舎が令和3年オープンするなど、賑わいと暮らしやすさを併せ持った都市機能の充実を図っています。
さらに、市内6地区のコミュニティの機能充実を目指し、地域に密着した、防災・福祉・健康づくりなどの取り組みを展開しており、健康で幸せに住み続けられるまちづくりに取り組んでおります。

写真:「学び」と「交流」の拠点「旧長井小学校第一校舎」


スマートシティの実現に向けて
地方創生コンシェルジュ 東北財務局山形財務事務所長 皆川 修磨
豊な自然にあふれ、最上川舟運により栄えた商業都市である『水と緑と花のまち長井市』では、あらゆる分野に最新のデジタル技術を活用し、人口減少等地域の課題解決や地域活性化に生かそうと様々な取組みを行っています。
地方の良さと都会の便利さを享受し、誰もがいつまでも安心して暮らすことができる『スマートシティ長井』の実現に向け、積極果敢に取組む同市に今後もご注目ください。



ひまわりを活かし、みんなで創るまちづくり

まんのう町地域振興課 課長 松下 信重


1.まんのう町の概要
まんのう町は、人口約17,700人、面積は194.45km2を有し、町の約7割を森林が占めています。香川県の南西部に位置し、町の南部には、標高1,000メートルを超える県最高峰の竜王山や大川山を主峰とする阿讃山脈が徳島県との県境をまたぐように連なっています。町の中央部には、日本最大級の灌漑用ため池「満濃池」があり、讃岐平野の農地約3,000ヘクタールを潤しています。
町の基幹産業は農業で、農家1戸当たりの経営耕地面積は約50アールとなっており、兼業農家が大半を占めています。町では、平成18年からの15年間で人口が約3,000人減少し、65歳以上の高齢化比率も37.6%となるなど、人口減少と少子高齢化が急激に進んでいます。この影響を受け、農業では担い手不足や従事者の高齢化による耕作放棄地の増加などが大きな課題となっています。

2.ひまわりの里の経緯
米の生産調整として減反政策がおこなわれる中、満濃池の西側に位置する帆山地区では、地域が一体となり、地域を4つのブロックに分け、その内の1つのブロックを転作田として、ローテーションをおこなっていました。転作田では大豆などを生産していましたが、地域の若者が流出し、地域が衰退していたことから、地域を元気にしようと、平成元年度に話題性のあるひまわりを転作田23アールに試験的に作付けしました。
すると、近くにある老人ホーム施設の入居者が、太陽に向かって咲いているひまわりを見て「元気をもらったよ。」とにこやかに微笑んでくれました。翌年からは栽培面積を徐々に増やし、平成29年度には7ヘクタールにまで拡大しました。
ひまわりの種子からは良質なひまわりオイルがとれます。当初、ひまわりの種子の収穫は、ひまわりを一本一本手で刈り取り、天日干しをし、網で擦るなど、すべて手作業でおこなっていました。長時間・重労働の作業となっていましたが、平成28年度に、地方創生交付金を活用し、収穫機や乾燥機を導入したことにより、大幅な時間と労力の削減を図ることができました。
また、搾油についても、当初は外部委託していましたが、平成10年度からは搾油機を導入し、地域での食味の試験を経てひまわりオイルの販売を開始いたしました。
その後もより良いオイルにするための試行錯誤を繰り返し、平成29年度には地方創生拠点整備交付金を活用し、高品質のオイルを製造する設備を整備いたしました。
このようにして完成したひまわりオイルは、薬品を使用しない圧搾方式で搾油している自然そのもののオイルとなりました。栄養価も、他のオイルと比較してビタミンEやオレイン酸を多く含み、抗酸化作用も高くなっています。色はひまわりの花びらと同じ、濃い鮮やかな黄色であり、わたしはプラチナイエローと呼んでいます。

写真:ひまわりの里の風景
写真:ひまわりオイル

3.観光資源を活用し、地域活性化
持続可能な農業にしていくためには、農業所得の増大を図り、農業の担い手を確保することが急務となります。まんのう町では、ひまわりで6次産業化を推進していますが、最後の3次産業(販売業、サービス業)の部分が大変重要で、ひまわりオイルやドレッシングなど関連商品の販売を増大させ、農業従事者に還元する取り組みを実施しています。
しかしながら、オリーブオイルなどは広く認知されていますが、ひまわりオイルの認知度はまだまだ低く販売の増大につながっていません。
高額な費用をかけて有名タレントを起用し、PRをおこなうのも一つの方策ですが、地域住民が自分たち自身でアイデアを出し合いながら取り組むことで、この課題だけではなく他の地域課題にも対応できる力が付いていくものと信じています。
ひまわりを観光資源として、ひまわりに関心を持っていただくよう、地域住民がインスタ映えのするスポットづくりなどをおこなった結果、現在では、ひまわりの開花時に約4万5千人がひまわりの観覧に訪れるようになりました。
また、地域学習として、地域住民が地元の小学生にひまわりの栽培から収穫、オイルの製造方法まで一連について授業したり、製造したひまわりオイルを学校給食で提供したりしています。関心を持った子ども達からは、ひまわりオイルのPR方法などが提案されています。このような取組みを通じて、子ども達が地域で育ち、のちに地域への誇りやふるさとへの愛着を持ってもらえればと期待しています。
このほかにも、地元の大学とひまわり関連商品の販売拡大、交流人口の増大、新商品の開発、栽培における問題解決などの共同研究をおこなっています。さらに、包括連携協定を締結している事業者等も巻き込み、誘客を図る事業に協力をしていただいています。大勢の関係者が参加することで、問題解決の知恵やひまわりに関わる者の輪が更に大きく広がっていくことが期待されます。
この輪を私どもは「ひまわリンク」と名付け、多くの方と関わりを持つよう、仕掛けています。
このひまわリンクは、ひまわりオイルを販売している全国の自治体とオイルサミット*1をおこなうなど、全国へと広がっています。
ひまわりを観光資源として活用し、ひまわりに関心を持っていただくことで、ひまわり関連商品の販売拡大と地域への訪問客増加により、交流が生まれ、地域が元気になっていくものと思っています。

写真:小学生4年生のひまわり栽培体験
写真:ひまわり迷路(大学生と包括連携協定締結事業者作成)

4.最後に
農村地域は、食料生産の場であるとともに地域住民の生活の場であり、農地、水、農業用施設、集落が面的・空間的に一体不可分となって、農業の持続的な発展の基盤としての役割を有しています。この農村地域を次の世代につないでいくためには、魅力ある農業にしていかなければなりません。このひまわりの里づくりが美しく活力のある農村の礎になるよう、頑張っている地域を応援してまいりたいと思います。


ひまわりの力で地域を元気に!
地方創生コンシェルジュ 四国財務局総務部総務課企画調整官 田中 慎一
地域に元気をとり戻そうと住民自身の手で始めたひまわりの栽培は、最初は小規模な取り組みでしたが、地域で一体となり粘り強く取り組んだ結果、今では多くの観光客が訪れるようになりました。
今後はひまわりオイルの販路拡大が1つの課題となりますが、住民自らがアイデアを出し合い、解決しようと取り組む姿は、厳しい暑さに負けずまっすぐ空に向かって伸びるひまわりのような力強さが感じられます。当局もひまわり活用の企画提案支援を継続することで応援していきたいと思います。



災害からの復旧、そして持続的発展へ

九州財務局理財部融資課 前 上席調査官 原田 康郎


1.はじめに
人吉市は、熊本市の南方約80kmの鹿児島県及び宮崎県との県境、九州山地に囲まれた人吉盆地に位置します。鎌倉時代から明治維新まで続いた相良氏の城下町で、人吉・球磨(くま)地域の中心地として栄えてきました。
主要産業は林業や稲作を中心とした農業、観光で、泉質がよいと評判の人吉温泉が有名なほか、市の中央部を流れる球磨川を下る「川下り」や、ラフボートで川を下るウォータースポーツ「ラフティング」が人気です。球磨川の流れは速く、山形県を流れる最上川、長野県、山梨県及び静岡県を流れる富士川とともに日本三大急流のひとつに数えられています。
令和4年3月31日現在の人口は30,763人で、熊本地震前の平成28年3月31日と比べると2,782人減少、10年前と比べると約5,000人減少しており、人口減少が続いています。

写真:球磨川とラフティング

2.災害からの復旧
近年、人吉市は二つの大きな災害の被害を受けました。
平成28年4月に発生し、県内に大きな被害をもたらした熊本地震では、当市でも震度5弱を観測し、市役所庁舎が破損するなど被害を受けました。総額約49億円の事業費をかけた市役所庁舎の復旧事業には財政融資資金が活用され、熊本地震から6年経過した本年(令和4年)5月、新庁舎が開庁しました。
鉄筋コンクリート造5階建の新庁舎は、「木のぬくもりを感じられる空間」をコンセプトに人吉・球磨地域の木材がふんだんに使われており、市民に親しまれています。
また、激甚災害に指定された令和2年7月豪雨では、県内において人吉・球磨地域の被害が特に大きく、球磨川が氾濫して当市の中心市街地などが浸水し、住家や公共土木施設(道路、河川、下水道等)、農地・農業用施設(水路、林道等)等に甚大な被害をもたらしました。
この公共土木施設や農地・農業用施設等の復旧事業においても財政融資資金が活用され、補助災害復旧事業や単独災害復旧事業等の起債により、被災から2年が経過した令和4年度においても復旧事業が続いているところです。

写真:人吉市役所新庁舎(外観)
写真:人吉市役所新庁舎(内観)
写真:農業用施設(農道)の復旧(復旧前)
写真:農業用施設(農道)の復旧(復旧後)

3.持続的発展へ
当市においては、前述の災害復旧事業のほか、公共事業等(農業農村整備事業)や一般補助施設整備等事業等において財政融資資金が活用されていますが、令和2年国勢調査結果に基づき、令和4年4月1日付で、当市が過疎地域として新たに指定されたことを受け、財政融資資金の活用という観点では、大きな転機を迎えることになりました。
過疎地域とは、過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法に基づき、人口要件及び財政力要件で判定されるものです。過疎地域に指定された市町村は、過疎地域持続的発展計画を策定すると、本計画に基づくインフラ事業や地域活性化事業等、幅広い事業に過疎対策事業債(主に財政融資資金が配分)の起債が可能になり、財政融資資金の活躍の場が広がることになります。
当市においては、令和4年度以降、過疎対策事業債の活用が予定されていることから、財政融資資金が当市の持続的発展の一助になるものと考えられます。

4.おわりに
以上のように、財政融資資金は災害復旧事業のほか、住民生活に密着した防災・減災・国土強靭化事業に加え、地域のライフラインを支える上下水道事業や病院事業、更新時期を迎えた公共施設等の効果的な改修・更新事業等に対して活用されています。
これらの事業は、直接的あるいは間接的に地域の持続的発展に資するものと考えられることから、九州財務局では、財政融資資金の供給等を通して、今後とも地域の持続的発展に貢献してまいります。
(写真提供)人吉市

*1) 全国ひまわりオイルサミット…ひまわりやひまわりオイルで地域振興に取り組んでいる自治体等が共同でPRするとともに、情報交換、交流・連携を通じ、活動を全国に広めることを目的として、2016年から始まった取組。