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PRI Open Campus~財務総研の研究・交流活動紹介~11

・財務総研のマレーシア中小企業銀行への技術協力

財務総合政策研究所 総務研究部 国際交流課 研究員 横山 日向子/

同 上席研究員 金井 優洋/同 研究員 町田 孝陽/同 係員 岩嵜 智亮


・財政金融統計月報の紹介
財務総合政策研究所 資料情報部 資料情報編集室前室長 西村 吉弘/

資料情報編集室前調査官 笹渕 崇雄



・財務総研のマレーシア中小企業銀行への技術協力
財務総研はこれまで東南アジアの4ヵ国(ベトナム、マレーシア、ラオス及びミャンマー)に対して、中小企業の育成・発展の支援を目的とした、中小企業向けに資金を供給する政策金融機関への技術協力を行ってきました。実際の協力にあたっては、日本の中小企業向け政策金融についての知見を有する、日本政策金融公庫国民生活事業本部(日本公庫)と連携し、活動しています。
今回のPRI Open Campusでは、マレーシア中小企業銀行(SME Bank)に対して行った技術協力に関して取り上げ、
・ 技術協力の概要
・ 新型コロナウイルス感染症の影響が広がる中でマレーシア政府が中小・零細企業や金融セクター向けに行った政策
・ フォローアップでヒアリングしたマレーシアの中小企業の現況と今後の課題
についてご紹介します*1。


1.財務総研によるマレーシア
中小企業銀行への技術協力
マレーシアの政策金融機関であるマレーシア中小企業銀行(SME Bank)が日本公庫の融資審査ノウハウについて関心を示したことをきっかけとして、2008年に財務総研は同行への技術協力を開始しました。
SME Bankは、2005年にマレーシアインフラ開発銀行*2の中小企業融資部門とマレーシア工業技術銀行*3が統合して設立されたマレーシアの政策金融機関です。クアラルンプールにある本店のほか、マレーシア国内に26の拠点を有し、従業員数は約1,000名(2021年時点)、融資業務に加え、経営支援や信用保証等の事業を行っています。2020年12月時点で、同行の顧客企業数は約5,000社、融資総額は73億リンギット(2,190億円*4)となっています。顧客企業数の規模別の内訳では、小規模企業が最も多く全体の51.0%、次いで零細企業が36.9%、中規模企業が11.2%、大規模企業が0.9%となっています(以下、零細企業、小規模企業及び中規模企業をまとめて、中小企業等という。マレーシアにおける中小企業等の定義は、図表1 マレーシアにおける中小企業等の定義)。業種別では、卸売業が27.1%、製造業が13.8%、建設業が8.8%、その他サービス業等が50.3%となっています。
2008年当時、マレーシアでは、2006年から2010年にかけての経済開発計画である「第9次マレーシア計画」が進められており、国際競争力を高めるため、中小企業等の育成が課題の一つとされていました。具体的には同計画において、SME Bank等を通じて中小企業等の資金調達環境を改善することが示されており、同行は、より多くの資金ニーズに迅速に対応することが求められていました。
財務総研が、2008年から2011年にかけて日本公庫と連携して実施したSME Bankへの技術協力は、同行の中小企業等向け融資審査手法、特に小規模・零細企業や新規開業企業に対する融資審査手法を改善し、融資審査期間を短縮することを目的に行われました。財務総研と日本公庫は、セミナーの開催を通じて日本公庫の新規開業向け融資審査手法等のノウハウを提供したほか、SME Bankの職員を日本に招へいし、申込書の受領や契約書の発行といった業務オペレーション方法の共有を行いました。また、日本公庫のこれまでの経験を踏まえ、SME Bankが実施した融資審査用フォーマットの改定についても助言等を行いました。
こうした支援の結果、技術協力終了時に行ったアンケートの結果等を通じて、同行の融資審査に要する日数が約23%短縮されたことが確認されたほか、SME Bankの職員からは、「新規開業企業への評価に関して、より効果的な手法を確立することができた」、「調査項目が整理され、どのレベルの職員でも使いやすく、標準化された調査が可能となった」といった評価を受けました。

2.新型コロナウイルス感染症が中小企業等に与えた影響及び中小企業等向けの支援施策
マレーシア政府は、第9次マレーシア計画以降も引き続き中小企業等の発展に注力しています。直近では、2021年から2030年までの国家開発計画を盛り込んだ「Shared Prosperity Vision 2030(SPV2030)」において、「中小企業等によるGDPへの貢献割合を50%にする」といった目標が定められています。
しかし、SPV2030が発表された翌年の2020年には、新型コロナウイルス感染症が流行し、マレーシアの中小企業等は大きな打撃を受けました。新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う活動制限令によって、2020年に同国内の中小企業等が被った損失額は総額約407億リンギット(1兆2,210億円)とされており*5、また、SME Corp. Malaysia*6によれば、2020年1月から2021年7月までの間に国内の中小企業等の企業数が約7.3%減少したと報告されています*7。それに伴い、新型コロナウイルス感染症流行以前の2015年から2019年までは、マレーシアのGDPに対する中小企業等の貢献割合は上昇傾向にありましたが、2020年以降下落し、2021年時点では37.4%に留まっています(図表2 マレーシアのGDPに占める中小企業等の割合の推移)。
新型コロナウイルス感染症の拡大による経済活動の停滞を受け、マレーシア政府が経済対策として実施した総額5,300億リンギット(15兆9,000億円。2021年のGDP*8の約34.3%に相当)の支援プログラム(図表3 新型コロナウイルス感染症流行後の主な経済政策*9)のうち、約2,700億リンギット(8兆1,000億円)が中小企業等の支援に充てられており、市中銀行が行った融資の返済猶予や賃金助成金の支給といった施策が実施されました。
その後、2021年6月に発表された国家国民福祉経済回復パッケージ(PEMULIH)以降、追加の支援プログラムは発表されていません。しかし、2021年9月に発表された第12次マレーシア計画(2021-2025)において、イスマイル・サブリ首相は中小企業の復興を継続的に支援すると述べています。また、「経済の再生」を一つの柱としている同計画において、デジタルトランスフォーメーション等により中小企業等の改革を進め、新たな成長源とすることが掲げられており、中小企業等は単なる支援対象ではなく、今後、経済回復の牽引役となることが期待されています。

3.財務総研による技術協力後の
フォローアップ
財務総研とSME Bankは、2011年に技術協力が終了した後も、交流を継続しています。2022年2月には、技術協力の効果の維持・確認等を目的としたフォローアップ活動として、財務総研、日本公庫及びSME Bankの三者によるオンラインでの意見交換会を開催しました。
意見交換会には、SME Bank から、融資審査部門やリスク管理部門の職員等が参加し、財務総研と日本公庫の参加者と活発な議論が行われました。議論の中では、新型コロナウイルス感染症の拡大後の中小企業等の概況や、中小企業等向けに行った政府の支援プログラムについて、日本公庫とSME Bank双方から共有がありました。特に、SME Bankからは、マレーシアにある中小企業等の8割以上がインバウンド需要の減少の影響を大きく受けるサービス業であることから、今後そういった業界をどう支援していくか、また、返済猶予といった支援プログラムの期間満了後の対応が今後の課題であるとの説明がありました。
加えて、SME Bankから、「技術協力から約10年が経過したが、その時に学んだ知識・スキルを活かし、信用スコアのシステム改修を行っている」、「現在も審査時には、技術協力の際に作成したフォーマットをベースに、その後適宜改良して使用している」と紹介される等、当時の技術協力で提供されたノウハウが、その後のSME Bankの業務運営において活かされていることが示されました。
写真 オンラインによる意見交換会の様子

4.おわりに
財務総研が、東南アジア諸国の政策金融機関に対する中小企業金融の技術協力を開始してから、約20年となりました。
今回はマレーシアの中小企業支援についてご紹介しましたが、他の開発途上国においても、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う経済悪化への政策対応として、政府や中央銀行による中小企業への金融支援が実施されており、今後、これまで財務総研が技術協力を行った4ヵ国以外の国についても支援のニーズは高まると考えています。
引き続き、財務総研がこれまでに築いてきた各機関との関係を活かしながら、ポスト・コロナ時代の様々な課題について知見を共有しつつ、中小企業の育成・発展を通じた各国の持続的な成長や、将来的な日本との協力関係強化に繋がるよう、技術協力を継続していく必要があると考えています。

コラム マレーシアの経済情勢
新型コロナウイルス感染症の拡大以前のマレーシア経済は、やや減速しつつあったものの、2019年通年で実質GDP成長率は前年比+4.4%を維持していました(図表4 実質GDP成長率)。しかし、2020年1月にマレーシア国内で初めて新型コロナウイルス感染症が確認され、その拡大を背景に、2020年第1四半期(1~3月)の実質GDP成長率は前年同期比+0.7%に落ち込みました(図表5 需要項目別実質GDP成長率(前年同期比))。そうした中、3月にはASEAN諸国の中で最大の感染者数を記録注1し、マレーシア全土で活動制限令注2が発令されました。これにより経済活動が大きく制限され、第2四半期(4~6月)の実質GDP成長率は前年同期比▲17.1%とアジア通貨危機以来最悪の落ち込みを記録しました。第3四半期以降もマイナス成長が続き、2020年通年の実質GDP成長率は▲5.6%と、これもアジア通貨危機以来、最悪の落ち込みとなりました。
2021年に入って、一時は落ち着いた新型コロナウイルス感染症が再び拡大し始め、4月には3度目の活動制限令が発令されました。更に6月には全国的に国が必要不可欠と認めたサービス以外の全ての経済活動を制限する大規模なロックダウン注3が実施され、マレーシア経済に大きな打撃を与えました。しかし、9月以降段階的に制限が解除され、経済活動が再開された第4四半期は、実質GDP成長率が前年比+3.6%となったほか、2021年通年では、+3.1%と2年ぶりのプラス成長を記録しました。
2022年の第1四半期は、+5.0%のプラス成長を記録。新型コロナウイルス感染症関連の封じ込め措置の解除等から個人消費が回復し、2四半期連続のプラス成長となりました。
今後の見通しとしては、力強い内需や外需の継続的な拡大、労働市場の改善等に支えられ、今後も回復が続くことが予想されています。一方、リスク要因としては、世界経済の成長鈍化や地経学的分断リスクの悪化に伴うサプライチェーンの混乱、新型コロナウイルス感染症の再拡大といった要因が指摘されています注4。なお、IMFによると、2022年のマレーシアの実質GDP成長率予測は+5.1%のプラス成長が見込まれています(2022年7月時点)。

(注1)2020年3月31日時点の累計感染者数は、マレーシア:2,766名、タイ:1,651名、インドネシア:1,528名、フィリピン:1,546名、シンガポール:879名(マレーシア保健省公表)。
(注2)2020年3月18日より実施。宗教、スポーツ、社会、文化に関するイベントを含む集会の禁止、宗教施設、事業所、学校等の閉鎖、出入国制限等の措置。強制力があり、違反した場合には逮捕もしくは罰金が科せられる。
(注3)国境を越えた移動の禁止、屋内活動の規制、学校と大学の閉鎖、及び日常生活に不可欠な業種以外の業務停止が指示された。
(注4)マレーシア中央銀行(2022)、なお、マレーシア中央銀行が8月12日に発表した2022年第2四半期(4~6月)の実質GDP成長率は、前年同期比で+8.9%のプラス成長となり、伸び率は22年第1四半期(+5.0%)から加速した。

(参考文献)
・日本語文献
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JETRO(2020a)「2019年のGDP成長率は4.3%、輸出入と製造業の鈍化が響く」(https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/02/2ba2f0a5bb04e94f.html)(2022年8月5日閲覧)
JETRO(2020b)「新型コロナウイルスの影響軽減へ景気刺激策を発表」(https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/03/e5ebb4db8e496d7f.html)(2022年8月8日閲覧)
JETRO(2020c)「マレーシア新政権が景気刺激策見直し、経済やサプライチェーンへの懸念続く」(https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/03/7abb2c2372c8a3a5.html)(2022年8月8日閲覧)
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JETRO(2020e)「景気刺激策第3弾を発表、中小企業支援に焦点当て100億リンギの追加措置」(https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/04/caadacd492fcba80.html)(2022年8月8日閲覧)
JETRO(2020f)「短期経済回復計画を発表、賃金助成制度の拡充や外国投資優遇も」(https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/06/a6cf7f9123575ded.html)(2022年8月8日閲覧)
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・英語文献
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マレーシア中央銀行(2021)「BNM Annual Report 2020」(https://www.bnm.gov.my/o/ar2020/index.html)(2022年8月22日閲覧)
マレーシア中央銀行(2022a)「Quarterly Bulletin 1Q 2022」(https://www.bnm.gov.my/-/quarterly-bulletin-1q-2022)(2022年8月9日閲覧)
マレーシア中央銀行(2022b)「Quarterly Bulletin 2Q 2022」(https://www.bnm.gov.my/-/quarterly-bulletin-2q-2022)(2022年8月18日閲覧)

プロフィール
財務総合政策研究所 国際交流課研究員
横山 日向子
2019年に日本生命保険相互会社へ入社。2022年4月から財務総研の研究員として、主に中国、東南アジアの経済情勢について調査・研究を行っています。

財務総合政策研究所 国際交流課上席研究員
金井 優洋
2011年に大同生命保険株式会社に入社。2020年4月から財務総研の研究員として、中国、東南アジアの経済情勢を調査・研究しています。2022年4月から同上席研究員を務めています。

財務総合政策研究所 国際交流課研究員
町田 孝陽
2011年に株式会社日本政策金融公庫へ入社。2021年4月から財務総研の研究員として、特に東南アジアの中小企業金融の状況に着目しながら、調査・研究を行っています。

財務総合政策研究所 国際交流課研究交流係員
岩﨑 智亮
2018年に東京税関に入関。2021年7月から財務総研に勤務しています。



・財政金融統計月報の紹介


財政金融統計月報とは

財政金融統計月報(以下「月報」という。)は、財務省の主要な業務統計や一般に公表されている統計資料などを基に財政、金融、経済の重要な事象について具体的に解明し、部内執務の参考と一般の利用に供することを目的として1949年8月の創刊から70年以上、刊行を続けている統計資料集です。
月報は、毎号、特定のテーマについての特集号となっており、現在は、内外の財政金融、経済全般に関して公表されている経済統計などを収録した国内経済、国際経済の特集号のほか、財務省の主要な所管行政を取り上げて掘り下げた業務統計を収録した国有財産、租税、予算、財政投融資、法人企業統計年報、国際収支、国庫収支、対内外民間投資、関税、政府関係金融機関等、地域経済の特集号があります。それぞれ所管する部局が執筆し、財務総合政策研究所が編集・刊行を担当しています。原則として毎年同様のテーマを取り上げており、同じ特集を遡れば、長期の動向を把握することが可能です。月報という名称ですが、財務省の所管行政に関する13種類の年報を刊行しているといったほうがよいのかもしれません。
月報の巻頭にある解説部分などが大蔵省、財務省の正史にあたる「昭和財政史」、「平成財政史」*10などの編纂の基礎資料としても利用されているほか、一般の方からの問い合わせも多く、なかには海外からの照会もあるなど、広く活用されています。

財政金融統計月報の創刊
1948年には月報の前身にあたる財政経済統計年報*11(以下「年報」という。)が大蔵省及び日本銀行の共同編集により刊行されています。年報のはしがきには「戦時中の空白となった統計を充実し、終戦後の新事態に応ずる諸統計を採録し、戦前戦後を通ずる我が国財政、金融、経済の実情を伺う各種の資料を提供するため、大蔵省及び日本銀行がその共同の事業として昭和元年以降の財政、金融、経済関係の重要統計を総合的に蒐集編纂」とあり、昭和元年(1920年)から同23年(1948年)3月までの財政、金融、経済の主な統計がこの一冊に掲載されています。戦時中の統計について、「特殊なものを除き大部分を充填することができたが(中略)原資料の関係でなお未完成まま残されたものがある」、「計数の誤謬の存するものが多く、(中略)できる限り点検整備に努めたが、なお不十分な点がないとはいえない」などとあり、苦労の跡がうかがえます。
1949年8月に年報を引き継ぐかたちで月報が創刊されました。創刊号は昭和24年度予算特集号です。編集後記には「膨大な予算書を80ページ内外に圧縮し、豊富な注釈や参考諸表をそえ、わかり易くまとめたので、不十分の点が多いが、一般が利用するには便利のもの」とあります。当時は一般の方が予算書などの資料を入手することは難しかったと思われますので、大変貴重な取り組みでした。
創刊当初について、テーマは現在よりも柔軟に設定され、専売事業(第14号ほか)、中央銀行制度(第85号)、造幣・印刷事業(第235号)のほか、物価(第167号)のように統計はほぼ掲載されず経済理論研修生の論文を掲載した特集号もありました。

コラム 創刊のことば
創刊号には当時の大蔵次官である長沼弘毅氏の「創刊のことば」を掲載しております。そこには「大蔵省関係の統計は、國民経済に深い関係をもつものでありながら、從來このような月報のなかつたことは、今から思えば非常な欠陥であつたというべきであろう。政府も國民も、財政経済の推移につき、特に注意深くみまもつて行かなければならない折から、この月報が各方面に廣く利用され、さきに刊行した「財政経済統計年報」とともに、財政経済の民主化に役立つ」とあります。当時、アメリカ、イギリス、フランスなどの主要国では既に各種統計を完備し、広く利用されていました。そうした中特にフランスの「統計法令月報」について、「間口が廣く形式にとらわれないで、極めて実用的な編集である。(中略)月々この月報にのる事項はいろいろ異るが、一年を通じてみれば、年間の財政経済の推移が総合的にはつきりわかり、数年を通じてみれば、權威ある基礎資料が集大成されて、これを綴れば、たちどころにフランス財政史が出來る」と言及しつつ、月報が目指すべき姿が示されています。

さいごに
月報は政府刊行物サービスセンターや官報販売所で販売しています。また、2022年5月に、これまで国立国会図書館や連携している図書館に来館していただかないとご覧いただけなかった創刊号から1972年刊行の第250号までについて、インターネット公開を開始しました*12ので、財務総研ホームページ、国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)・デジタルコレクションのページからこれまでに刊行されたすべての特集号を閲覧、印刷ができます。
さらに、財務総研ホームページでは1973年以降の月報のデータについてはPDFに加えExcelでも掲載しており分析などに利用しやすくなっています。
月報が今日まで長らく刊行していることは、皆様に広く利用されているからこそだと思っています。今後も有用な統計資料集として、また財務省の所管行政を理解していただく一助となるように努めてまいりますので、引き続きご愛顧のほどよろしくお願いします。なお、月報の掲載内容は、財政、金融、経済の実態を的確に反映できるよう適宜見直すことがありますことをご了承ください。皆様からも月報に対するご意見、ご希望等をお寄せいただければ幸いです*13。

プロフィール
財務総合政策研究所 資料情報部
資料情報編集室前室長
西村 吉弘
2000年に中国財務局に入局し、預金保険機構を経て、2011年より財務省で勤務しています。2020年7月から2022年6月まで資料情報編集室長。

財務総合政策研究所 資料情報部
資料情報編集室前調査官
笹渕 崇雄
2014年に広島国税局に入局し、2018年より財務省で勤務しています。2021年7月から2022年6月まで資料情報編集室調査官。

財務総合政策研究所
POLICY RESEARCH INSTITUTE, Ministry Of Finance, JAPAN
過去の「PRI Open Campus」については、
財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。
https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html

*1) 本稿の意見に係る部分は、全て執筆者の個人的見解であり、財務省及び財務総研の見解でない事をお断りする。また、紹介する経済データ等は、執筆時点での情報である。
*2) 1973年に設立された政策金融機関。その後、マレーシア開発銀行へと再編され、石油・ガス工業等のインフラ産業を対象に融資を行っている。
*3) 1979年に設立された政策金融機関。海運業や製造業等の資本集約的な産業に対して融資を実施していた。
*4) 1リンギットあたり30円で計算(2022年7月末時点の為替レートは、1リンギット=29.91円)。以下同様。
*5) NNA(2021b)
*6) 起業家開発協力省(MEDAC)の下にある中央調整機関(設立は2009年)。関連する省庁にわたる中小企業等の開発プログラムの実施を調整するほか、中小企業等や起業家に関する調査やデータの普及等に取り組んでいる。
*7) マレーシアでは、2022年2月時点で122万社以上の中小企業等が登録されており、同国内の企業数の約97%を占めている。
*8) 1兆5,454億リンギット(約46兆円)。
*9) 返済猶予措置は2020年9月末に終了。
*10) 財政史(『明治財政史』シリーズから『平成財政史‐平成元~12年度』シリーズ)はこちらからご覧ください。
https://www.mof.go.jp/pri/publication/policy_history/index.htm
*11) 財政経済統計年報はこちらのページの最後にリンクを掲載しておりますのでご覧ください。
https://www.mof.go.jp/pri/publication/zaikin_geppo/hyou1.htm
*12) 財政金融統計月報はこちらからご覧ください。
https://www.mof.go.jp/pri/publication/zaikin_geppo/zaikingedl.htm
*13) 内容についてのお問い合わせのほか、ご意見・ご要望はこちらからお寄せください。
https://www2.mof.go.jp/enquete/opinion.html