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新型コロナ感染症対策に係る資金繰り支援について ~令和2年度後半以降の動向~


大臣官房政策金融課 
鳥羽 建/奥山 勇太/小土井 一洋/中川 忠明/大和 史明*1


1.はじめに
令和2年初頭より始まった新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)の感染拡大に対して、政府は日本政策金融公庫(以下「日本公庫」という。)や日本政策投資銀行(以下「政投銀」という。)などの政府系金融機関等を通じて、新型コロナの影響を受ける事業者の資金繰りを支援するために様々な施策を打ち出してきた。新型コロナの感染拡大が始まった際、初動として、どのように資金繰り支援策が企画立案され、そして実行に移されたかという経緯については、神田眞人総括審議官(当時)による寄稿「新型コロナ感染症対策に係る資金繰り支援について」(本誌令和2年8月号)において、包括的に取りまとめられている。*2
新型コロナの感染拡大は、その拡大当初に想定されていたよりも長期化し、感染拡大開始から2年が経った本稿執筆時点(令和4年6月)においても、感染者数の増減の波がありながらも、依然完全な収束には至っていない。結果として、政府系金融機関等による資金繰り支援は2年超にわたり継続されることとなり、官民金融機関による新型コロナ対応の融資・保証の実績は総額で約56兆円にまで上っている。*3併せて、新型コロナの影響の長期化に伴い、社会経済情勢やその中での事業者のニーズも、例えば、当面の事業継続に必要な資金繰りから、新型コロナで毀損した自己資本等の財務基盤強化、そして、いわゆるコロナ禍を通じて積み上がった債務への対応といった形で多様化していくこととなった。その時々の事業者の状況等の変化を反映して、政府系金融機関等による資金繰り支援をはじめとした事業者支援のあり方についても、累次にわたり改正、拡充が行われてきている。
本稿においては、新型コロナ対応としての資金繰り支援の初動についてまとめた本誌令和2年8月号の寄稿を引き継ぐ形で、政府による資金繰り支援が、過去2年に渡りどのように変遷してきたかについて、また、当時の社会経済情勢や事業者の資金繰り動向等を踏まえてどのように政策の検討を行ったのかといった、政策立案の背景等についても担当者の視点から触れながら、取りまとめていきたいと思う。
本稿の意義は以下の二点と考えている。一点目は、新型コロナという複数年にわたる危機的事態において、政府系金融機関等による資金繰り支援という制度が、その時々の社会経済情勢を反映してどのように最適化されてきたかという経緯を網羅的かつ動的に記録している点である。二点目は、そうした制度改正が当時どのような検討を経て実行されてきたかを、政策担当者の視点から記録している点である。執筆陣には過去2年にわたり同施策に従事してきた者を含んでいる。コロナ禍が過ぎ、当時の記憶、記録が散逸する前にこのような形で取りまとめることで、将来的に同施策の内容、経緯等を振り返る上での理解の一助になればというモチベーションの元に、今回の寄稿に至った次第である。
なお、本稿は、当時の業務経験、作業記録、公表資料等を元にして、執筆陣が個人として解釈・構成したものであり、政府や財務省の公式な見解を記すものではない。また、本稿に含まれた情報や制度の説明について間違いがあることも十分にありうる。そのような場合、それらは執筆陣の責に帰するものであることをご承知おきいただきたい。*4


2.令和2年初頭~年央の動向(本誌令和2年8月号の振り返り)
過去2年の制度の変遷に触れていくことに先立って、新型コロナの感染拡大が始まった当時の政府の初動について簡単に振り返りたい。なお、当時の経緯や施策内容については、上述のとおり、本誌令和2年8月号に詳しいところであり、そちらも参照されたい。
令和2年1月16日に最初の新型コロナの国内感染が確認されて以来、政府においては、新型コロナの影響による需要減により経済活動が急速に縮小する中で、事業の継続と雇用の維持が困難になることを防ぐため、未だ危機の規模が不明であった1月末から、企業支援策を迅速に打ち出すとともに、累次にわたり強化してきた。
政策金融においては、最初の国内感染が確認された直後の令和2年1月29日に日本公庫において「新型コロナウイルスに関する経営相談窓口」を設置するとともに*5、翌30日には、政投銀においても「新型コロナウイルス感染症の影響に関する経営相談窓口」を設置し*6、新型コロナの感染の拡大に伴う事業者の資金繰りニーズに応えられる枠組みを整えた。当時は、新型コロナがどのような性質の感染症であるかまだ見当がついていなかったため、まずは一般的な相談体制の整備から着手した。
2月に入ると、国内の感染が徐々に各地域において拡大し、政府が大規模イベントの中止、延期または規模縮小等の対応を要請するなど、新型コロナが、国民生活に対して直接影響を与える問題として、日本社会に急速に認識され始めた。2月13日に、政府は「新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策」第1弾を決定・公表し、日本公庫等において、影響を受ける事業者に対する融資枠の確保や貸付制度の要件緩和等を行った。*7具体的には、以下の施策が採られた。

(緊急対応策第1弾)
・中小企業等の資金繰り支援として、日本公庫等に緊急貸付・保証枠5,000億円を確保
・売上高の減少等の程度に関わらず、セーフティネット貸付の対象とするよう、要件を緩和*8
当時の政策金融による資金繰り支援は、上記のセーフティネット貸付に加え、旅館、飲食店及び喫茶店という、特に新型コロナの感染拡大により影響を受けるおそれのある業種を対象に、衛生環境激変対策特別貸付を発動するなど、まずは、既存制度を活用して可能な限り迅速な初期対応に努めるものだった(当時、後述の新型コロナウイルス感染症特別貸付等の新型コロナに対応した貸付制度は制度検討中であった)。*9あわせて、日本公庫等の政府系金融機関や信用保証協会等では、相談・融資体制の強化のために、新型コロナの感染拡大当初から、事業者の急な資金繰り需要にも対応できるよう、週末においても相談窓口を開き電話相談に対応することとした。*10
3月に入り、感染者数の増加が更に加速するにつれて、このような既存制度の活用による初期対応に次第に限界が見え、政府としても新たな対応の必要性を認識することとなった。
このような状況を踏まえ、政府は、予備費の使用を含め、一層踏み込んだ新型コロナ対応を行うこととし、3月10日に、緊急対応策第2弾を決定・公表した。具体的には、予備費を活用して、新型コロナの影響を受けた事業者を対象とする特別貸付制度を創設するとともに、これまでは中小・小規模事業者に対する支援が主であったところ、中堅・大企業に対しても信用供与が行き渡るよう、商工組合中央金庫(以下、「商工中金」という。)や政投銀による危機対応業務*11を発動した。
このことにより、支援の内容・対象範囲ともに、新型コロナに対応した、本格的な資金繰り支援体制が整備されることとなった。

(緊急対応策第2弾)
・日本公庫等において、新型コロナウイルス感染症特別貸付制度(以下「コロナ特貸」という。)*12を創設
・売上減少の影響が大きい中小・小規模事業者については、コロナ特貸による金利引下げに加え、金利引下げ後の残りの金利分についても、事業者に対して別途利子補給として補填することにより、コロナ特貸等を実質的に無利子化し、「実質無利子・無担保融資」とする*13
・政投銀、商工中金による危機対応業務を実施し、中堅・大企業の資金繰りについても万全を期す
このように体制整備が進んだ一方で、4月に入ると、国内の1日あたりの感染者数が300人規模まで増加したことから、4月7日に首都圏等を対象として緊急事態宣言が発令され*14、同月16日には宣言が全国に拡大した。13都道府県にあっては「特定警戒都道府県」と指定され、最終的に5月25日まで緊急事態宣言が継続されることとなった。
政府は、緊急事態宣言の発令と併せて「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」を決定・公表し*15、同対策に基づき、令和2年度第1次補正予算が編成され、国会審議を経て4月30日に成立した。これにより、予備費に加えて補正予算を活用した一層強力な資金繰り支援が可能となった。また、この時期には、感染者数の急増と先行きの不透明感の高まりから日本公庫等への融資申込みが集中、窓口業務がひっ迫し、融資審査期間が長期化したことを受け、新型コロナ対応の融資制度の申込み窓口を各民間金融機関にも広げ、政府系金融機関に加えて、民間金融機関においても実質無利子・無担保融資の提供を可能とした。*16

(第1次補正予算)
・民間金融機関による融資についても、信用保証によって無担保としつつ、利子補給を組み合わせることにより、その融資を実質無利子・無担保とすることができる制度を創設(本制度は「ゼロゼロ融資」と呼ばれた)
・実質無利子・無担保融資等で、日本公庫等による融資や保証付き民間融資によって既に負っている債務(既往債務)の借換えを可能とする 等
その後、5月7日には1日あたりの感染者数が100人を下回るようになり、第1波のピークを過ぎたものの、緊急事態宣言に伴う休業要請等による事業者への影響は大きく、日本公庫等への融資相談件数は引き続き高い水準にあった。さらに、この頃になると、単なる資金繰りにとどまらず、新型コロナからのV字回復への追加的な資金需要、休業要請等により毀損する財務の健全性への対処等が、新たな事業者の課題として認識されるようになり、政策金融による資本性資金の供給の必要性が議論されるようになった。
このような議論を受け、第1次補正予算の成立から間髪入れることなく編成された第2次補正予算において、実質無利子・無担保融資等の融資枠の大幅拡充に加え、政府系金融機関による資本性劣後ローンの創設といった資本性資金による支援が盛り込まれた。同予算の成立(6月12日)とこれまでの予算措置により、新型コロナ対策として官民金融機関が供与できる金融支援の規模(事業規模)は、総額140兆円ほどというかつて類を見ないものとなった。*17

(第2次補正予算)
・日本公庫等による実質無利子・無担保融資等や政投銀等による危機対応融資の融資枠を拡充
・政投銀・商工中金(中堅・大企業向け)、日本公庫等・商工中金(中小・小規模向け)の資本性劣後ローンを創設*18
・政投銀の特定投資業務、産業革新投資機構、地域経済活性化支援機構等による出資・ファンドを介した支援等を拡充 等


3.令和2年年央~年末にかけての動向
令和2年年央に向け、1日当たりの感染者数が40人程度となり、令和2年5月25日に緊急事態宣言が解除された。しかし、7月から8月にかけて感染は再び急拡大し、8月7日には1日当たりの感染者数が1,600人程度まで増加することとなった。
緊急事態宣言が解除された5月25日の1日当たり感染者数が21人であったことと比べると、3ヶ月の間に76倍に規模が増加したことになり、急激な状況変化があったことがうかがえる。また、まだ新型コロナの特性に係る情報が限られていた令和2年春頃にあっては、新型コロナはインフルエンザ等と同様に高温多湿の環境下に弱く、夏に近づけば感染は終息するのではないか、という見方も報道を中心に一部にあったものの、結果として、そのような期待に反して、新型コロナの感染は長期化することとなった。

新型コロナの影響が長期化する可能性も含め、引き続き事業者の資金繰り需要が拡大することが想定されたことから、政府は、7月1日に、コロナ特貸等について、貸付限度額の引上げ及び金利引下げ限度額の拡充を行っている。具体的には、貸付限度額について、日本公庫国民生活事業(以下「国民事業」という。)の場合は6,000万円から8,000万円に、日本公庫中小企業事業(以下「中小事業」という。)の場合は3億円から6億円に引き上げるとともに、実質無利子化及び金利引下げの限度額についても、国民事業の場合は3,000万円から4,000万円、中小事業の場合は1億円から2億円に拡充されることとなった。*19
また、8月3日には、先述の第2次補正予算に盛り込まれた施策である、日本公庫等による中小・小規模事業者向けの新型コロナ対策資本性劣後ローン(以下、「コロナ資本性劣後ローン」という。)の取扱いが開始された。*20コロナ資本性劣後ローンが導入されたことにより、1月末から開始された中小・小規模事業者向けの資金繰り支援は、以下の3つの施策の柱を基本構造とするものとなった。以後、資金繰り支援について、この3つの柱をベースに、その時々の社会経済情勢に応じて、必要となる制度の継続・改正・拡充の検討がなされていくこととなる。
(1)日本公庫等による実質無利子・無担保融資
(2)民間金融機関による実質無利子・無担保融資
(3)コロナ資本性劣後ローン
9月に入ると、感染状況について、第2波のピークを越えることとなり、改善に向かっていった。
10月になると、海外、特に欧米諸国において感染が再拡大し、欧州主要国では社会経済活動の制限措置を再導入する事態となり、個人消費を中心に新型コロナの影響による経済の下押し圧力が世界的に顕在化する状況となった。また、国内でも、11月に入り、1日あたり感染者数が増加傾向に転じ、11月から翌年(令和3年)1月あたりにかけて第3波が到来することとなった。政府は、年末年始の感染者増加を防ぐため、12月14日に、GoToキャンペーンの全国一斉の一時停止を発表した。*21あわせて、GoToキャンペーンの一時停止をはじめとした感染拡大の影響を受けた事業者に対して、官民金融機関の資金繰り支援を利用しやすくするため、政府は、コロナ特貸の申込要件の一つである売上減少要件の緩和を行った(従来は、「直近1か月」の売上高の対前年比減少を要件としていたが、「直近6か月平均」の売上高を用いた比較も可能とした)。*22
政府として、このように繰り返される感染の拡大と縮小の波に対応する一方で、新型コロナ後の中長期的な経済成長、いわゆるポストコロナを見据えた対応も、政府の検討課題として認識されるようになった。例えば、新事業やビジネスモデルの転換、DXの推進といった前向きな投資、新型コロナの影響を受けた事業者の経営改善や事業再生等への対応など、ポストコロナへの移行を見据えた上で必要な分野へ政策的にどう対応していくか、政府として道筋を示す必要があった。
こうした中、令和2年12月8日、「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」が決定・公表され*23、資金繰り支援については、以下の取組みを行うことが明記された。

(総合経済対策)
・民間金融機関を通じた実質無利子・無担保融資を令和3年3月まで実施する。
・日本公庫等による実質無利子・無担保融資を、感染状況や資金繰りの状況を踏まえ、当面令和3年前半まで継続する。
・中小・小規模事業者等の経営改善や業態転換等に伴う資金繰りを支援する。
同対策の趣旨として、これまでの新型コロナ対策としての資金繰り支援を延長し、依然苦境にある事業者に対する支援を継続することに加え、前向きな投資等を促す新制度の創設、事業再生及び事業承継・M&Aを後押しする貸付制度を拡充することにより、ポストコロナも見据えた多様な資金需要への対応に万全を期すことが企図された。
同対策を受けて、令和2年度第3次補正予算が、12月15日に閣議決定、令和3年1月28日に国会審議を経て成立することとなった。同予算の成立に伴い、追加的な予算措置がなされるとともに、足下の新型コロナや経済の状況、日本公庫等の融資実績等を踏まえて実態に即した資金繰り支援体系の整理が行われ、強力な新型コロナ対策の金融支援の供与を引き続き推し進めることとなった。
また、上記のような、ポストコロナを見据えた政府としての検討を反映し、政策金融の分野においては、
・政投銀の特定投資業務の一環として、「グリーン投資促進ファンド」を設置する
・トランジションファイナンスの促進のため、ツーステップローン及び成果連動型利子補給制度を産業競争力強化法において創設する
といった施策が講じられるなど、グリーン社会の実現に向けた取組みへの支援も、経済対策、補正予算において強化されていった。


4.令和3年初頭~年央にかけての動向
上述のとおり、新規感染者数は令和2年11月あたりから増加し始めていたが、年末が近づくにつれ、更に急激なスピードで増加していった。年末年始の感染拡大防止に最大限の対策を講じる観点から、GoToキャンペーンの一時停止や、各都道府県において感染状況等を踏まえて行われている営業時間短縮の要請等の措置を講じたことや、令和3年1月7日には緊急事態宣言が1都3県に対して発出されたこともあり、回復傾向にあった経済活動にも大きな影響が及ぶこととなった。

上記のような感染状況の悪化とそれに伴う政府の感染拡大防止策により、事業者に影響が及ぶと想定されたところ、事業者の資金繰りに万全を期すべく、金融庁・経済産業省・財務省ほか関係省庁の大臣名で、官民の関係金融機関に対して要請文を累次にわたって発出するとともに、以下のような追加的な支援策を講じた。
・日本公庫等によるコロナ特貸に係る実質無利子化及び金利引下げ限度額の更なる拡充(日本公庫国民事業は4,000万円から6,000万円に、日本公庫中小事業は2億円から3億円に拡充)
・コロナ特貸の申込要件の一つである売上減少要件の緩和(前年等の同時期と比較する直近の売上の期間を1ヶ月間から2週間に短縮)*24
2月以降は、緊急事態宣言の効果もあり、新規感染者数は減少傾向に転じたものの、依然として医療体制への負荷の軽減には至らなかったこともあり、緊急事態宣言は複数回にわたって延長されることとなった。
それまでの資金繰り支援においては、中小・小規模事業者を主な支援対象としてきたが、新型コロナの長期化に伴い、業種という切り口で見ると、これまで地域で多くの雇用を担ってきた飲食業・宿泊業の中堅・大企業に対する影響が深刻化し、金融面での政策対応が求められるようになった。特に、短期的な資金繰り需要に対応するだけでなく、財務基盤の増強を図るため、資本性劣後ローン・優先株等の資本性資金による支援に対するニーズが高まりを見せた。また、中堅企業に関しては、中小企業向け施策の対象とはならないもの、大企業ほど経営基盤が強固でないこともあって厳しい経営環境に置かれており、業種横断的に支援のニーズが高まっていた。
このような社会経済情勢を背景に、3月16日の「新型コロナに影響を受けた非正規雇用労働者等に対する緊急対策関係閣僚会議」において、菅総理大臣(当時)より、これまで多くの雇用を担ってきた飲食業などの事業の継続を支援すべく、資金繰り支援を中心に、金融面の対応策を取り纏めるよう関係省庁に対して指示がなされた。総理指示を受け、各省庁の金融面での支援策を取り纏めた「新型コロナの影響を特に受けている飲食・宿泊等の企業向けの金融支援等について」が策定されるとともに、3月23日の同会議において発表された。*25
「新型コロナの影響を特に受けている飲食・宿泊等の企業向けの金融支援等について」に取り纏められた支援策のうち、政策金融に関する施策としては以下の3点となる。
(1)政投銀・商工中金による中堅・大企業向けの危機対応業務においては、民業補完の観点から、民間金融機関等との協調融資を行うことが原則とされてきたが、その原則を一時停止することで、飲食・宿泊等以外の分野も含め、政投銀・商工中金が単独で積極的な支援を行うことを可能にする。
(2)中堅・大企業の財務基盤増強のため、以下の通り政投銀・商工中金が提供する資本性資金の利便性を向上させる。
・資本性劣後ローンについて、金利水準を当初3年間1%程度に引き下げる(中堅企業は飲食・宿泊等以外の分野も含む)
・飲食・宿泊業の事業者に関しては、政投銀が引き受ける優先株式の配当水準を大幅に引き下げる
(3)政投銀・商工中金に飲食・宿泊部門専門チームを立ち上げ(商工中金は設置済)、事業者のニーズにきめ細かく対応するとともに、審査期間を原則1か月程度に短縮し、迅速な支援を可能にする
支援策の発表後、金融庁・経済産業省・財務省をはじめとする関係省庁から官民金融機関に対し、飲食・宿泊等をはじめとする事業者等への資金繰り支援等に関する要請文を3月25日付で発出した。*26特に政投銀においては、同日付で飲食・宿泊専門チームを立ち上げるなど、審査期間の迅速化に向けた取組を開始するとともに*27、事業者の配当支払いの負担の大幅な軽減を図るべく「DBJ飲食・宿泊支援ファンド投資事業有限責任組合」を設置するなどの対応を行った。*28
こうして措置された飲食・宿泊等向けの支援策に対する事業者のニーズは大きく、支援策が措置された3月末以降、飲食・宿泊等の大企業や中堅企業による資本性資金の調達が進み、令和4年3月末時点で、支援策措置後の中堅企業及び飲食・宿泊等の大企業に対する政投銀による融資実績は100件、金額にして2,496億円、「DBJ飲食・宿泊支援ファンド投資事業有限責任組合」を活用した優先株の引受実績は11件、金額にして575億円となっている。
このように中堅・大企業に対する資本性資金の供給が強化される一方で、次の章で詳述されている通り、新型コロナの感染拡大が始まってから1年以上が経過し、コロナ特貸等の元金返済の据置期間が終了して返済を開始する事業者が増えていった。また、これまでの資金繰り支援や財務基盤の強化は事業者の事業継続に貢献した一方で、事業者の債務は結果的に増えていったこともあり、一部の事業者について、積み上がった債務返済の負担が過重となり完済の目処が多立たなくなってしまう、いわゆる過剰債務問題が新たな政策課題として認識されることとなった。*29同年6月18日に閣議決定された「成長戦略実行計画」においても、「中小企業の実態を踏まえた事業再生のための私的整理等のガイドラインの策定について検討する。」という記載がなされるなど、過剰債務への対応、事業再生・再構築に関する施策の検討が夏以降の重要な課題の1つとなっていった。*30
また、年末に策定された「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」に記載された通り、3月31日に受付終了した民間金融機関を通じた実質無利子・無担保融資に代わり、4月1日より、金融機関による中小企業者に対する継続的な伴走支援などを条件に、信用保証料の事業者負担を大幅に引き下げる「伴走支援型特別保証制度」が開始された。*31本制度は、中小企業の経営者が、ポストコロナ時代への対応を進め、売上高等を回復するために、金融機関などと相談をしながら、早期に経営改善の取組を進めることを後押しするものである。事業者支援の焦点は、当面の運転資金の確保から、前述した過剰債務への対応や売上・収益力の改善へと徐々に移っていった。


5.令和3年年央~年末にかけての動向
令和3年4月23日に緊急事態宣言が発出され、東京都等が再度緊急事態措置の対象となった。当初は、5月11日の解除を想定していたが、感染者数の増加が続いたことから、期間延長と緊急事態措置の対象区域の拡大が累次に渡り行われることとなった。6月にかけて新規感染者数が減少したことを受けて、沖縄県を除き6月後半に解除となったものの、感染力の強いデルタ株の伝播により感染再拡大が懸念されたことから、7月中旬以降、再度東京都等に緊急事態宣言が発令された。*32

この間、緊急事態宣言に伴う営業時間や酒類提供に対する制限、県境をまたいだ移動の制限により、飲食・宿泊業や公共交通といった業種を中心に、業況に影響を受けることとなった。日銀短観の資金繰り判断DIを見てみると、全体として、令和2年9月期に底を打ち、令和3年4-6月期には、総じて回復してきているものの、業種別推移で見ると、飲食宿泊サービスについては、他の業種に比べて回復が遅れている。このような状況を受け、政府は、5月25日に、「当面令和3年前半まで」とされていた日本公庫等による実質無利子・無担保融資の申込期限について、「当面年末まで」延長することを決定・公表した。*33あわせて、4月28日、5月12日、6月10日と累次に渡り、金融庁・経済産業省・財務省ほか関係省庁の大臣名で、官民金融機関に対して、緊急事態宣言下において影響を受ける事業者に対して柔軟に資金繰りに応じるよう要請文を発出した。*34さらに、宿泊業を中心とした、1事業者当たりの貸付金額が大きい業種の資金需要に対応できるよう、7月1日には、コロナ資本性劣後ローンについて、中小企業向けの貸付限度額を7.2億円から10億円に引き上げている。*35
また、上述のとおり、日本公庫等の実質無利子・無担保融資は、令和2年の5月から6月に融資申込が殺到し融資実行のピークを迎えていた。その時期には、多くの借り手がまだ新型コロナが長期化することを予想していなかったため、例えば日本公庫の場合、まずは手元資金を確保するという観点から、6割以上の借り手が融資の元金返済の据置期間を1年以内に設定していた。そのため、その1年後にあたる令和3年6月頃に元金返済の据置期間が終了する事業者が多く生じることとなった。多くの事業者は約定通りに元金返済を開始している一方で、一部、約定通りの元金返済が難しく据置期間の延長等の条件変更を申し込む事業者も見られた。日本公庫等は、そのような事業者に対しては、据置期間の延長等の条件変更に柔軟に対応していった。
8月中旬に入る頃には、デルタ株が猛威を振るい、1日あたりの新規感染者数が2万5,000人ほどまで増加することとなった。緊急事態宣言による行動制限と夏季の行楽シーズンのかき入れ時とが重なったことを受けて、特に飲食・宿泊や観光業といった業種を中心に需要が消失することとなり、資金繰りのさらなる悪化が懸念された。このことを受け、金融庁、経済産業省、財務省等は、9月10日に、あらためて関係大臣名で官民金融機関に対して資金繰り支援についての要請文を発出している。*369月中旬を超える頃には1日あたり数千人程度まで新規感染者数が減少したことから、9月28日には、9月30日を以て、緊急事態措置が終了することがアナウンスされた。
10月に入ると、ワクチン接種の広まりと、緊急事態措置の終了による社会経済活動の再開に伴い、特に新型コロナの影響を受けていた飲食・宿泊業といった業種についても、業況の回復が見込まれた。他方で、経済活動が戻っていくにつれて、仕入れ等が拡大し、必要な運転資金の増加が見込まれたことから、それに伴って生じうる資金繰り倒産を防ぐという観点から、引き続き、事業者の資金繰り需要の動向について注視する必要があった。
11月19日には「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」が閣議決定され*37、対策の本文中で資金繰り支援について、以下のような政府方針が示された。

(経済対策)
・政府系金融機関による実質無利子・無担保融資及び危機対応融資を令和4年3月まで継続する
・新型コロナ特別貸付を事業者のニーズに沿った見直しを行った上で令和4年4月以降も継続する
・事業者のコロナ禍で発生した債務に対して、返済猶予を含む既往債務の条件変更、借換え、資本性劣後ローンの活用等を行う
同対策を受けて、11月24日には、鈴木金融担当大臣、石井経済産業副大臣をはじめとした関係省庁の大臣等が官民金融機関のトップと年末の金融円滑化について意見交換を行った。この会合において、年末・年度末に向けて、運転資金等の需要が高まることを踏まえ、事業者の資金繰りに重大な支障が生じることのないよう、鈴木大臣・石井副大臣より直接要望を行っている。*38
また、12月20日には、令和3年度補正予算が成立し、同補正予算による追加措置も活用しながら、引き続き、日本公庫等による実質無利子・無担保融資等の資金繰り支援を継続していくこととなった。
なお、上述のとおり、日本公庫等の政府系金融機関等では、新型コロナの感染開始当初から、週末についても相談窓口を設けて対応してきたが、年末にかけて新規感染者数が低位で落ち着いて推移しており、また週末相談窓口への相談実績が低位で推移してきたことから、12月末を以て機関による週末の相談窓口対応を終了することとなった。
さらに、令和3年1月より、日本公庫等においては、緊急事態宣言下で急速に売上が減少したような事業者についても実質無利子・無担保融資等によって迅速な支援が可能となるよう、直近2週間の売上が新型コロナ前の同時期比で減少していれば特例的に融資対象としてきたが、この特例についても令和3年11月末を以て終了することとなった。
新型コロナの資金繰り需要が一巡してきたことで、感染状況も注視しながら、徐々にではあるが、平常化に向けた運用の修正が検討されていくこととなった。
なお、政策的な資金繰り支援等の実施によって、令和3年の全国企業倒産は、東京商工リサーチによれば6,030件と57年ぶりの低水準となり*39、コロナ禍の予期せぬ倒産の防止という政策目的の達成がある程度裏付けられることとなったと言える。他方で、令和3年6月に閣議決定された成長戦略実行計画でも言及があったように、コロナ禍が始まってから、資金繰り支援などに伴って積み上がった企業債務を今後どのように解消していくかが潜在的な課題として懸念された。中小企業支援のテーマは、応急処置としての資金繰り支援に加えて、過剰債務対応についても比重が大きくなっていくこととなった。


6.令和4年初頭~足下にかけての動向
令和3年12月下旬以降、オミクロン株の拡大によって新型コロナの新規陽性者数は、再び増加の傾向を辿った。令和4年1月中旬には、療養者数と重症者数の増加を踏まえ、感染の再拡大を防止するため、広島県・山口県・沖縄県、そして東京都等を対象にまん延防止等重点措置が実施されることとなった。当該措置は当初3週間程度の期間とされていたが、医療提供体制等への負荷の状況に鑑み、全ての都道府県で措置が終了したのは3月21日となった。*40

こうした中、新型コロナの影響を受けた事業者について、資金需要が大きくなる年度末を跨いだ資金繰りに引き続き万全を期すとともに、先述の過剰債務対応として、収益力改善や事業再生、再チャレンジを促進するため、経済産業省・金融庁・財務省の連名で、以下の施策等を盛り込んだ「中小企業活性化パッケージ」を3月4日に策定・公表した。*41

(中小企業活性化パッケージ)
〈政府系金融機関による新型コロナ対応の資金繰り支援〉
・実質無利子・無担保融資及び危機対応融資の申込期限を6月末まで延長
・新型コロナ特別貸付の融資期間の延長(運転資金15年→20年)
・コロナ資本性劣後ローンの令和4年度末までの継続
〈増大する債務に苦しむ事業者の事業再生等の支援〉
・新型コロナの影響が大きい飲食・宿泊業等を債権買取等によって重点支援する中小企業再生ファンドの組成
・債務減免を含む中小企業向けの私的整理手続きである「中小企業の事業再生等のガイドライン」の活用
このうち「中小企業の事業再生等のガイドライン」は、全国銀行協会を事務局とし、弁護士・税理士・官民金融機関・中小企業団体等から構成される「中小企業の事業再生等に関する研究会」によって策定され、3月4日に公表された。本ガイドラインは、中小企業者の「平時」や「有事」の各段階において、中小企業者・金融機関それぞれが果たすべき役割を明確化し、事業再生等に関する基本的な考え方を示すとともに、中小企業者の特性を考慮した準則型私的整理手続(債務減免を含む)を定めており、中小企業の円滑な事業再生等を支援することを目的としている。
加えて、3月7日に開催された「中小企業等の金融の円滑化に関する意見交換会」では、鈴木金融担当大臣から直接、官民金融機関の代表に対して、本パッケージに盛り込まれた施策も有効に活用しながら、厳しい経営環境にある事業者の支援にしっかりと取り組むよう要請を行った。*42あわせて、3月8日には、金融庁・経済産業省・財務省の連名で、同様の内容を盛り込んだ要請文の発出を行った。*43
また、日本国内における新型コロナの年初来の感染拡大と並行して、一部産油国の生産停滞等によって世界的に原油価格が高騰を続けた。さらに、2月24日のロシアによるウクライナ侵略などの地政学的な変化が世界の原油価格等に大きな影響を与える可能性が生じ、新型コロナのみならず、ウクライナ情勢・原油価格高騰等により、事業者にさらなる悪影響が及ぶことが懸念された。こうした中、ロシアによる侵攻の翌日(2月25日)には、ウクライナ情勢・原油価格高騰等の影響を受けた事業者に対する支援として、経済産業省・金融庁・財務省等によって、きめ細やかな資金繰り支援を引き続き徹底するよう、官民金融機関に対して要請文が発出されるとともに*44、経済産業省の要請によって、政府系金融機関など全国1000か所に事業者の資金繰り等に係る特別相談窓口が設置され、日本公庫等のセーフティネット貸付の対象要件が撤廃された。*45
さらに、3月4日に公表された「原油価格高騰に対する緊急対策」において*46、ウクライナ情勢や原油価格高騰等の影響を受けて利益率が悪化した事業者に対して、日本公庫等のセーフティネット貸付の金利を0.2%引き下げることを決定した。*47
上述のとおり、3月21日には日本全国でまん延防止等重点措置が解除され、新型コロナの第6波の出口が見えてきたが、ウクライナ情勢に伴う原油価格や物価の高騰による国民生活や経済活動への影響に緊急かつ機動的に対応し、コロナ禍からの経済社会活動の回復を確かなものにする観点から、3月29日に岸田総理大臣によって「総合緊急対策」の策定の指示がなされた。*48この総理指示がコロナ禍における「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」として取りまとめられ、4月26日に公表された。*49
この「総合緊急対策」においては、新たな価格体系への適応の円滑化に向けた中小企業対策等が柱の1つとされ、資金繰り支援については以下の施策等が盛り込まれた。

(総合緊急対策)
〈ウクライナ情勢・原油価格高騰等の影響を受けた事業者の資金繰り支援〉
・日本公庫等によるセーフティネット貸付の更なる金利引下げ(▲0.2%→▲0.4%)
〈新型コロナの影響を受けた事業者の資金繰り支援〉
・実質無利子・無担保融資及び危機対応融資の申込期限の9月末への延長
さらに、5月11日には、新型コロナに加え、ウクライナ情勢・原油価格高騰等により影響を受けた事業者に対して、「総合緊急対策」に盛り込まれたこれらの施策を活用しつつ、寄り添ったきめ細かな支援を徹底するよう、金融庁・経済産業省・財務省等から官民金融機関に対して要請文の発出を行った。*50


7.おわりに
本稿では、政府系金融機関等による新型コロナに対する資金繰り支援が、その時々の社会経済情勢や事業者のニーズの変化に応じて、どのように改正・拡充されてきたかという変遷を時系列に沿って取りまとめた。本誌令和2年8月号が、新型コロナの感染開始当初の数ヶ月間という短い期間に政府としてどのように事業者に対する資金繰り支援態勢を迅速に整備したか、を切り取る「静」のスナップショットとするならば、本稿は、態勢が一旦整備されてからの2年間という時間の流れの中の動向を時点、時点の感染動向、社会経済情勢とともに定点観測する「動」の記録フィルムと言えるかもしれない。2つの寄稿を合わせ読むことで、読者が新型コロナに対する資金繰り支援について多面的に理解することの一助となれば、執筆陣一同として幸いである。
本稿執筆時点において、新型コロナの感染は一時に比べれば落ち着きを見せているものの、新規感染者数の増減の波が依然継続しており、完全な終息に向けた道筋は依然見通しづらい。そして、本稿中でも取り上げてきたように、事業者のニーズは時を経るごとに変わってきている。応急処置としての資金繰り支援策が行き渡り、コロナ禍を生き抜くための当面の資金に対する需要は落ち着く一方で、緊急融資により積み上がった債務を中長期的にどのように解消していくか、事業再生・再構築も含め、どのようにして事業自体の収益力を改善していくか、というように、そのニーズは個々の事業者の事情に応じて多様化してきている。まさにそのような事情を背景に、本年3月に経済産業省、金融庁、財務省の連名で、中小企業の資金繰り、事業再生、収益力改善、再チャレンジ等を支援する「中小企業活性化パッケージ」を公表している。今後、同パッケージの施策を着実に実行しながら、事業者の直面する課題に対して力強くかつきめ細やかに対処し解決していくことが望まれる。
また、足下では、新型コロナに加えて、原油価格・物価高騰等も懸念されている。上述の通り、4月に公表された「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」において、新型コロナ対応としての実質無利子・無担保融資および危機対応融資の9月末までの延長と併せて、原油価格・物価高騰等の影響を受けている事業者のうち、既存の資金繰り支援の対象とならないような事業者のニーズに対しても応えることができるよう制度設計に配慮がなされた上で、資金繰り支援策(金利を引き下げたセーフティネット貸付)が9月末まで措置されている。
現在はVUCAの時代と呼ばれ、将来を予測することが従来以上に困難となっている。このような時代に、政府として求められることは、その時々の社会経済情勢に応じて、動的に変化していく政策の対象者の実態をきめ細やかに把握し、施策の内容を繰り返し検証し、都度必要な軌道修正を通じて真に望ましい施策としていく柔軟な姿勢であろう。新型コロナという複数年にわたる危機的状況への対応の経験をある種のケーススタディとして、その学びを糧として、政府として将来の危機的状況によりよく対処できるよう活かしていくことが重要ではないだろうか。今後、様々な主体において新型コロナ対策の総括が行われていくことになると思われるが、本誌令和2年8月号、そして本稿で取りまとめた記録が、危機的状況下における金融面での事業者支援の参考となり、僅かなりとも、将来のよりよい危機対応に活用されるようなことがあれば、政策担当者として、また執筆陣として幸いである。*51

図表1.国内の感染者数1日ごとの発表数(令和2年初頭から年央)
図表2.国内の感染者数1日ごとの発表数(令和2年年央から年末)
図表3.財政投融資分科会(令和2年10月27日開催)資料2(抄)
図表4.国内の感染者数1日ごとの発表数(令和3年初頭から年央)
図表5.新型コロナの影響を特に受けている飲食・宿泊等の企業向けの金融支援等について
図表6.国内の感染者数1日ごとの発表数(令和3年年央から年末)
図表7.資金繰り判断DIの推移
図表8.官民金融機関の貸し付け条件の変更等の対応状況
図表9.国内のワクチン接種数の推移
図表10.国内の感染者数1日ごとの発表数(令和4年初頭から足下)
図表11.中小企業活性化パッケージ

*1) 執筆者の肩書は、令和4年6月30日現在
*2) 神田 眞人「新型コロナ感染症対策に係る資金繰り支援について」「ファイナンス」令和2年8月号
https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202008/202008c.pdf
また、小澤 研也「(補論)新型コロナ融資への財政投融資の対応」「ファイナンス」令和3年2月号において、新型コロナ融資の財源面について取り上げている。https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202102/202102g.pdf
*3) 令和4年4月末時点で、政府系金融機関による実質無利子・無担保融資等の実績は約101.8万件、金額にして約18.5兆円。民間金融機関による保証付融資の実績は約199.1万件、金額にして約37.6兆円となっている(うち民間無利子・無担保融資の実績は約136.6万件、金額にして約23.4兆円)。
*4) 本稿の執筆に当たっては、政府系金融機関、関係省庁、財務省政策金融課の関係者の方々に多くのアドバイスをいただいた。この場を借りて厚く御礼申し上げたい。
*5) 日本政策金融公庫「新型コロナウイルスに関する経営相談窓口」の設置についてhttps://www.jfc.go.jp/n/info/pdf/topics_200129a.pdf
なお、沖縄振興開発金融公庫における経営相談窓口設置は、1月27日となっている。2月14日には特別相談窓口を設置し、セーフティネット貸付の貸付要件から売上高の減少等の要件を撤廃している。
*6) 日本政策投資銀行「新型コロナウイルス感染症の影響に関する経営相談窓口の設置について」
https://www.dbj.jp/topics/dbj_news/2019/html/20200130_79834.html
*7) 新型コロナウイルス感染症対策本部「新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策」
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/kinkyutaiou_corona.pdf
*8) セーフティネット貸付は、社会的、経済的環境の変化等外的要因により、一時的に業況悪化を来している中小企業者を対象とした貸付制度であるが、その貸付要件として、一定の売上減少要件などが設定されている。当該要件緩和は、売上減少要件等の充足如何に関わらず、新型コロナの影響により資金繰りに著しい支障をきたしていること又はきたすおそれのある事業者も貸付の対象とするものである。
*9) 衛生環境激変対策特別貸付は、かつて平成8年(1996年)に発生した、腸管出血性大腸菌O157による集団食中毒事件をきっかけに、当時の環境衛生金融公庫において創設されたもので、現在の日本公庫(国民生活事業)に承継されている特別貸付制度である。これまでにも平成21年の新型インフルエンザの際などにおいても発動された実績があった。
*10) 経済産業省「新型コロナウイルスに関する経営相談窓口で土日祝日も相談を受け付けます」
https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200228010/20200228010.html
*11) 危機対応業務とは、内外の金融秩序の混乱又は大規模な災害等に対応するため、主務大臣(財務大臣・農林水産大臣・経済産業大臣)による危機認定がなされた場合に、「指定金融機関」が日本公庫からの信用供与を受け、事業者に対する必要な資金の貸付け等を行うもの。現時点においては、政投銀・商工中金が指定金融機関となっている。
*12) 新型コロナウイルス感染症の影響により最近1か月の売上高が前年又は前々年同期比5%以上減少した者等を対象とし、国民生活事業は3千万円、中小企業事業は1億円を上限に、融資後3年目までは基準利率から▲0.9%引き下げた利率とする貸付制度。貸付期間は、据置期間を最長5年としつつ、設備資金は20年以内、運転資金は15年以内となっており、融資限度額は、国民生活事業で別枠6千万円、中小企業事業で別枠3億円となっていた。(※制度創設当時の融資条件)
*13) 「新型コロナウイルス感染症特別貸付制度」を受けている事業者であって、一定の要件を満たした者に対して、借入当初3年間の利子補給を実施することで、実質無利子化するもの。同年5月からは、既往債権の借換部分を含めて対応するよう拡充された。
*14) 新型コロナウイルス等感染症対策推進室「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言(令和2年4月7日発出)」
https://corona.go.jp/news/pdf/kinkyujitai_sengen_0407.pdf
*15) 内閣府「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策~国民の命と生活を守り抜き、経済再生へ~」
https://www5.cao.go.jp/keizai1/keizaitaisaku/keizaitaisaku.html
*16) 金融庁「民間金融機関において実質無利子・無担保融資を開始します」https://www.fsa.go.jp/news/r1/ginkou/20200501-2.html
*17) 過去の危機対応を振り返ると、今般の新型コロナ対策の金融支援の事業規模の大きさが過去に類を見ないものであることがわかる。複数年度にわたる断続的な補正予算措置等によるため単純にその際の対策(事業規模)を比較することは出来ないものの、例えば、新型コロナ対策として、令和2年度第1次及び第2次補正予算にて措置された信用補完制度等による資金繰り支援の事業規模は52.5兆円である一方で、世界金融危機(リーマンショック)時及び東日本大震災時における信用補完制度による資金繰り支援の事業規模は、前者が36.3兆円、後者が10兆円であった。
*18) 元本の満期一括返済、法的倒産時に劣後する弁済順位、擬似配当的な金利設定により、金融機関の資産査定上、自己資本と見なすことのできる融資商品。資本性劣後ローンの活用により事業者の財務基盤の強化や民間金融機関による協調融資の促進といった効果が期待される。
*19) 貸付限度額と金利引き下げ限度額の関係について、具体例を用いて説明すると、例えば国民事業に融資申込をした事業者は制度上、この時点では、8,000万円まで融資を申し込むことができる。この8,000万円のうち、4,000万円は当初3年間について基準金利から▲0.9%の金利引き下げの対象となる(実質無利子化の要件を満たす場合は、中小機構の利子補給により実質無利子)。残りの4,000万円については、約定期間を通して基準金利が適用されることとなる。なお、貸付限度額はあくまで制度の限度額であり、実際の融資金額は融資審査を通して個別に決定されることとなる。
*20) 財政投融資分科会(令和2年10月27日開催)資料2の2頁にて、当時の時系列が整理されている。
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_filp/proceedings/material/zaitoa021027.htm
*21) 首相官邸「GoToトラベルの一時停止及び今年の漢字等についての会見」
https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2020/1214kaiken02.html
*22) 経済産業省「梶山経済産業大臣の閣議後記者会見の概要」https://www.meti.go.jp/speeches/kaiken/2020/20201208001.html
*23) 内閣府「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」https://www5.cao.go.jp/keizai1/keizaitaisaku/keizaitaisaku.html
*24) 緊急事態宣言の発令等により急激に売上が減少した事業者について、実質無利子・無担保融資等の申込要件(直近1ヶ月の売上とコロナ前の同月の比較)を満たすためには、1ヶ月が経ち売上が確定するまで待たなければならず、資金繰りが滞ることが懸念された。そこで、本来であれば直近1ヶ月間等の売上を基準にコロナ前と比較していたところ、特例的に直近2週間以上の売上を基準とすることを認めた。
*25) 内閣官房「新型コロナに影響を受けた非正規雇用労働者等に対する緊急対策関係閣僚会議」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/corona_hiseiki/index.html
*26) 財務省ほか「飲食・宿泊等をはじめとする事業者等への資金繰り支援等について」
https://www.mof.go.jp/policy/financial_system/fiscal_finance/torikumi/20210325_yousei.html
*27) 日本政策投資銀行「新型コロナウイルス感染症に関し、「危機対応業務特別対応室」および「飲食・宿泊専門チーム」の設置について」
https://www.dbj.jp/topics/dbj_news/2020/html/20210325_203173.html
*28) 日本政策投資銀行「飲食・宿泊等をはじめとする事業者に対する日本政策投資銀行の支援策強化について~政府の要請を受けた資金繰り支援や資本性資金による支援の拡充~」https://www.dbj.jp/topics/dbj_news/2020/html/20210331_203199.html
*29) 例えば、東京商工リサーチが令和3年6月に実施した債務の過剰感についてアンケート調査によれば、合計30%強が「過剰債務」状態にあると回答していた。https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20210614_03.html
*30) 内閣官房「成長戦略閣議決定(令和3年6月18日)」https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/seicho/index.html
*31) 中小企業庁「中小企業に対する金融機関の伴走支援や早期の事業再生を後押しするための信用保証制度を開始します」
https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/2021/210325hosyo.html
*32) 内閣官房新型コロナウイルス等感染症対策推進室「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言の実施状況に関する報告」
https://corona.go.jp/news/pdf/houkoku_r031008.pdf
*33) 財務省「政府系金融機関による実質無利子・無担保融資の期限延長について」
https://www.mof.go.jp/policy/financial_system/fiscal_finance/torikumi/20210525_houdou.html
*34) 財務省など「事業者の実情に応じた資金繰り支援等の徹底について(令和3年6月10日)」
https://www.mof.go.jp/policy/financial_system/fiscal_finance/torikumi/20210610_yousei.pdf
*35) 経済産業省「新型コロナ対策資本性劣後ローンの貸付限度額引き上げについて」
https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210608005/20210608005.html
*36) 財務省ほか「事業者の実情に応じた資金繰り支援等の徹底について(令和3年9月10日)」
https://www.mof.go.jp/policy/financial_system/fiscal_finance/torikumi/20210910_yousei.pdf
*37) 首相官邸「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策(令和3年11月19日閣議決定)」
https://www.kantei.go.jp/jp/pages/keizaitaisaku_20211119.html
*38) 金融庁「中小企業・小規模事業者に対する金融の円滑化について」https://www.fsa.go.jp/news/r3/ginkou/20211124.html
*39) 東京商工リサーチ「全国企業倒産状況(年間)」https://www.tsr-net.co.jp/news/status/yearly/2021_2nd.html
*40) 新型コロナウイルス感染症対策本部「新型コロナウイルス感染症まん延防止等重点措置の終了に関する公示」
https://corona.go.jp/emergency/pdf/kouji_20220317.pdf
*41) 財務省ほか「中小企業活性化パッケージを策定しました」
https://www.mof.go.jp/policy/financial_system/fiscal_finance/torikumi/20220304.html
*42) 金融庁「年度末における事業者に対する金融の円滑化について及び事業者等に対する金融の円滑化について等」
https://www.fsa.go.jp/news/r3/ginkou/20220307.html
*43) 財務省ほか「事業者等に対する金融の円滑化について」
https://www.mof.go.jp/policy/financial_system/fiscal_finance/torikumi/20220308_yousei.pdf
*44) 財務省ほか「ウクライナ情勢・原油価格上昇等を踏まえた資金繰り支援について」
https://www.mof.go.jp/policy/financial_system/fiscal_finance/torikumi/20220225_yousei.pdf
*45) 経済産業省「ウクライナ情勢の変化に伴い中小企業・小規模事業者対策を行います」
https://www.meti.go.jp/press/2021/02/20220225002/20220225002.html
*46) 内閣官房「原油価格高騰に対する緊急対策」https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/genyu_kakau/dai1/gijisidai.html
*47) 原油価格高騰等の影響を受けている事業者でも、新型コロナの影響を受けており、かつ売上高が5%減少している事業者であれば、コロナ特貸の対象となる。セーフティネット貸付による支援は、新型コロナの影響を受けないものの、原油価格等のコスト高(利益率の減少)によって苦しむ事業者を主な対象としている。
*48) 首相官邸「コロナ禍におけるウクライナ情勢に伴う原油価格・物価高騰等への対応について(内閣総理大臣発言要旨)」
https://www.kantei.go.jp/jp/content/20220329houdou_siryou.pdf
*49) 内閣官房「コロナ禍における「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/genyukakaku_bukkakoutou/index.html
*50) 財務省ほか「「原油価格・物価高騰総合緊急対策」を踏まえた資金繰り支援の徹底等について」
https://www.mof.go.jp/policy/financial_system/fiscal_finance/torikumi/20220511_yousei.pdf
*51) 今から約一世紀前、「スペイン風邪」流行に際し、当時の内務省衛生局は、「流行性感冒」という報告書を遺しているが、その冒頭において「惟(おも)フニ本病ノ豫防方法ハ尚今後ニ於ケル學術的研究ニ待ツノ要アルヘシト雖(いえども)今次流行ノ際ニ於ケル施設ハ又以テ今後ノ参考資料ト爲スニ足ルモノアルヘキヲ信ス」と述べている(振り仮名を追記している)。今般の新型コロナの経験・学びが将来の危機的事態に対して適切に対応するための糧となることを祈る次第である。