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非価格競争入札入門 ―基礎編―*1


服部 孝洋*2/石田 良*3/早瀬 直人/堀江 葵*4


1.はじめに
本稿は非価格競争入札の制度概要について説明することを目的としています。我が国において国債の大宗は入札によって発行されていますが、その3割程度が非価格競争入札と呼ばれる方式で発行されています。この制度は、入札の対象となっている国債を価格競争入札における平均価格*5で購入できるという制度であり、国債の入札への参加等が義務付けられている国債市場特別参加者(いわゆるプライマリー・ディーラー(Primary Dealer, PD))の権利となっています。
非価格競争入札については、近年、需要が高まっているとの指摘がPDなどからなされており、この制度を理解する重要性は増していると考えられます。そこで本稿では、非価格競争入札の制度概要について包括的な説明を行います。なお、石田・服部(2020)は、国債の入札制度全般を説明しており、同論文と合わせて読むことで、日本国債の入札制度についての概要を掴むことが可能です。また、次回の論文では、海外の制度について説明することを予定しています。なお、国債や債券全般に関する情報については、筆者(服部)のウェブサイト*6に掲載しているため、そちらも参照いただければ幸いです。


2.非価格競争入札とは
2.1 価格競争入札と非価格競争入札
我が国では、国債の大宗が価格競争入札によって発行されていますが、価格競争入札とは、国債を発行する際の価格や販売先を決めるにあたって、入札の参加者である証券会社や投資家が買いたい値段を提示し(応札)、高く応札されたものから順番に購入の権利が与えられる(落札)というものです。詳細は、石田・服部(2020)で説明していますが、我が国では、各落札者が自ら応札した価格で購入する「コンベンショナル方式」と、すべての落札者が同じ価格で購入する「ダッチ方式」とが併用されています(紙面の関係で、これらの方法の説明は割愛します。詳細は石田・服部(2020)を参照してください。40年債で利回り競争入札・ダッチ方式、物価連動国債で価格競争入札・ダッチ方式を採用している以外は、価格競争入札・コンベンショナル方式を採用しています。また、本稿ではコンベンショナル方式を前提とした説明を行いますが、その理由は後述します)。
もっとも、我が国では上述のような価格競争入札だけでなく、非価格競争入札と呼ばれる方式でも国債が発行されています。非価格競争入札とは、前述の価格競争入札(特にコンベンショナル方式)のように入札の参加者が提示した価格で発行するというものではなく、価格競争入札により形成された平均的な価格で発行するというものです。価格競争入札では、例えば、読者が高い価格で応札した場合、割高な価格で購入するリスクがありますし、低い価格で応札した場合、そもそも国債を購入できないリスクも考えられます。それに対し、非価格競争入札では、各参加者(PD)は、予め与えられた枠内で、その入札における平均的な価格で国債を購入することができます。

2.2 非価格競争入札の背景
このような非価格競争入札が実施されている理由の一つとして、投資家に、入札において平均的な価格で購入したいというニーズがあることが挙げられます。例えば、読者が金融機関に勤める日本国債のプロフェッショナルの投資家であれば、日々国債マーケットを分析し、トレーディングの経験も豊富であるため、入札の際にどのような価格で応札すべきかについて、一定の意見が生まれるはずです。しかし、例えば読者が多様な運用資産を有しており、運用資産全体に占める日本国債の割合がごく一部である場合、毎日のように日本国債のマーケットを細かく分析することは困難でしょう。また、海外の投資家にとって日本国債の入札が行われる時間は夜中になりうるなど、入札直前のマーケットを確認することが難しい可能性もあります。
そのような中で、読者が、最安の価格でなくとも日本国債を購入するという方針を持っていたとすれば、入札における平均的な価格で購入したいというニーズが生まれる可能性があります。その意味で、非価格競争入札によって、価格競争入札のみの場合には国債を購入しないであろう投資家の潜在的なニーズが掘り起こされていると解釈することもできます。
我が国における非価格競争入札に関して非常に重要なのは、この制度がPDに与えられた権利であるという点です。ファイナンスの言葉を使えば、非価格競争入札は、PDが行使するかどうかを選択できる「オプション」ということです(債券市場におけるオプションについては服部(2021)や服部・JPX(2022)を参照してください)。PDは財務省により特別な資格を付与された金融機関であり、財務省が国債を発行するにあたって、投資家に対して国債の営業を行います。その際、前述のように、投資家の中には平均価格で買いたいというニーズが存在しうるため、PDとしては平均価格で購入できる枠が予め付与されていれば、その注文に対応することが容易になります(ちなみに、このように平均価格で買いたいという注文を、実務ではしばしば「アベレージの注文」や「アベ注文」といいます)。したがって、発行当局は、PDが果たすべき責任の対価として、このオプションを付与していると捉えることができます(PDの役割については後述します)。

2.3 第I非価格競争入札と第II非価格競争入札
非価格競争入札は、前述のとおり、価格競争入札により形成された平均価格を適用した入札ですが、具体的には、価格競争入札と同じタイミングで実施する「第I非価格競争入札」と、価格競争入札の後に実施する「第II非価格競争入札」に分かれます。第I非価格競争入札は、価格競争入札と同時に応募が行われ、発行予定額のうち一定割合(現在は20%)を発行限度額とし、価格競争入札における平均価格を発行価格とするものです。この入札の特徴は、非価格競争入札に参加する時点で、自分が購入する具体的な価格は分からないものの、「価格競争入札の平均価格」であることは分かっている点です。価格競争入札については10時30分から11時50分までに応札し、その結果は12時35分に発表されます(ここでは利付国債を前提にしています*7)。すなわち、12時35分時点でコンベンショナル方式に基づき、平均価格が決まります。そして、第I非価格競争入札に参加したPDは、価格競争入札で定まった平均価格で国債を購入することになります。前述のとおり、非価格競争入札はPDの権利ですが、各PDには、過去の落札の実績に比例して、事前に利用できる枠が与えられます(詳細な計算式は後述します)。
第II非価格競争入札は、価格競争入札が終わった後に実施される入札です。価格競争入札の平均価格を前提として、14時から14時30分の間に、PDがそれぞれの限度額の範囲で応札を行います。もし、後場に、入札対象銘柄の価格が上昇していれば、平均価格がその時点の市場価格より割安になるため、PDはその権利を行使するメリットを有しています(第II非価格競争入札のオプションを行使して、市場で売ることができれば、キャピタル・ゲインを得られます)。逆に、後場、マーケットにおいて、入札対象銘柄の価格が低下していれば、わざわざ平均価格で購入する必要がないため、第II非価格競争入札へ参加して国債を買うインセンティブは乏しいと考えられます。なお、第II非価格競争入札については、過去の応札実績や当日の落札状況に基づいて、各PDに利用可能な枠が与えられます(詳細な計算式は後述します)。
第I非価格競争入札は、コンベンショナル方式により発行されている国債について実施されています。逆に言えば、ダッチ方式が用いられている40年国債及び物価連動国債については行われていません。そもそも、ダッチ方式では、全員が同じ価格で購入することが前提であるため、同方式下においては、平均価格で購入するというニーズが生まれづらいと考えられます(米国ではダッチ方式が用いられているため、PDに非価格競争入札のオプションは与えられていません*8)。一方、第II非価格競争入札への参加は、後場の状況によって判断されるため、価格競争入札の入札方式に依らずに実施されています(ただし、現在、物価連動国債では実施されていません。また年限が1年以下である国庫短期証券については、第I非価格競争は実施されていますが、第II非価格競争は実施されていません)。
なお、価格競争入札と非価格競争入札以外に、財務省は、2・5・10年国債について「非競争入札」と呼ばれる入札を実施しています。これは、小規模の投資家が価格競争入札の平均価格で購入できる制度であり、前述の第I非価格競争入札と類似したものです。もっとも、この入札は実施される年限が限定されていることに加え、PDの権利ではなく、小規模の投資家に配慮した入札であるという違いがあります。現時点での発行限度額は発行予定額の10%であり、応募限度額は各入札参加者につき10億円です。なお、図表2 発行額に占める非競争入札による発行割合の推移のとおり、非競争入札の利用は、非常に限定的となっています。そのため、本稿では非競争入札ではなく、第I・第II非価格競争入札に焦点を当てます。

2.4 非価格競争入札と価格競争入札の関係
ここで非価格競争入札と価格競争入札の関係について整理します。まず、重要な点は、国債の発行予定額は、価格競争入札、第I非価格競争入札と非競争入札の合計になっている点です。前述のとおり、第I非価格競争入札と非競争入札は、いわばオプションになっているため(前者はPDのオプション、後者は小規模の投資家のオプション)、権利を有する主体は、権利を行使することも権利を行使しないこともできます。その意味で、この権利行使の有無でこれらの発行額が変わりうるのですが、図表3 非価格競争入札と価格競争入札の関係にあるとおり、発行予定額は定まっており、第I非価格競争入札と非競争入札の権利行使がなされなかった場合(あるいは少なかった場合)、その分、価格競争入札での発行額が増えるという形になっています。このような工夫もあって、発行当局は非価格競争入札を実施しながら、安定調達を行うことができると考えられます。
図表3の左図では、2・5・10年国債について、第I非価格競争入札の上限は発行予定額の最大20%、非競争入札の上限は同最大10%となっています。言い換えると、価格競争入札は発行予定額の70%以上をカバーすることになります。前述のとおり、非競争入札は、2・5・10年国債にのみ実施されているため、20・30年国債ではこの部分がなくなり、価格競争入札は80%以上をカバーすることになります。このように発行予定額は安定していますが、価格競争入札により発行される金額は、非価格競争入札及び非競争入札におけるオプションがどの程度行使されるかどうかで変動しうる点に注意が必要です(発行予定額の70-100%の範囲で変動します)。
一方、第II非価格競争入札は、価格競争入札後の市場動向等によっては、全額行使されることもあれば全く行使されないこともあります。第II非価格競争入札の落札額は、その全額が、都度の入札における「発行予定額」の外数です。国債発行計画では第II非価格競争入札分としてカレンダーベース市中発行額の5.5%(令和4年度当初計画の例)が計上されていますが、第II非価格競争入札を行った日の後場の動向次第では、年度を通した調達額が計上額を上回る可能性もあります。そして、多く調達した部分の中には前倒債として積み上がるものもあります(前倒債については服部・稲田(2020)を参照してください)。なお、国債発行計画との関係についてはBOX 1で説明を行います。

2.5 非価格競争入札にかかる制度の変遷
非価格競争入札は、前述のとおり、PDに与えられる権利であり、現在の国債市場特別参加者(PD)制度とともに導入されました。第II非価格競争入札は、PD制度が導入されたタイミングである2004年10月に開始され、第I非価格競争入札は2005年4月に開始されています。
2004年にPD制度が導入されて以来、第I非価格競争入札及び第II非価格競争入札共に、限度額に関して変更が行われています。第I非価格競争入札については、その発行限度額が拡大傾向にあります。具体的には、発行限度額は、当初「発行予定額の10%」でしたが、市場参加者のニーズを考慮し*9、2017年7月に「同20%」へ引き上げられ、第I非価格競争入札で使える枠が2倍*10に拡大しました。
第II非価格競争入札についても2009年に、第II非価格競争入札の旺盛な応募状況に鑑み、応札限度額が「落札額の10%*11」から「落札額の15%」に引上げられました*12。2020年1月には、「前倒債の増加を抑制する施策」の一環から*13、第II非価格競争入札の応札限度額は「落札額の10%」へと引き下げられました。また、2020年4月には、物価連動国債の第II非価格競争入札を取りやめています。


3.非価格競争入札の実際のイメージ
3.1 価格競争入札前
ここから非価格競争入札のイメージを具体的に掴むため、読者がPDの立場になって、非価格競争入札について考えてみましょう。読者は国債を投資家に販売するため、入札において国債の応札を行うわけですが、前述のとおり、価格競争入札に加え、(過去の落札・応札実績等に基づく)自らの限度の範囲で、第I・第II非価格競争入札に参加することができます。入札が始まるまでに、読者は多くの投資家に国債の営業を行い、投資家からの需要に応じて、基本的には価格競争入札に応札します。他方、第I非価格競争入札にも応札できる枠があるため、その時々の判断で第I非価格競争入札にも参加します。読者としては投資家から平均価格で買いたいというニーズが多ければ、自らが有する枠の範囲で積極的に参加することになりますし、それほど平均価格で購入するニーズがなければ、必ずしも枠を使い切る必要はなく、余らせることもあります。価格競争入札と同時に参加するため、11時50分*14までに日銀ネットを通じて応札します(価格競争入札の例は石田・服部(2020)のBOX 2を参照してください)。
図表6 入札により発行される10年利付国債の情報は2022年5月に実施された10年国債入札の情報です(ここから2022年5月の10年国債の入札の結果を用いて解説していきますが、これはあくまで例であり、説明の便宜上用いるだけである点に注意してください)。入札前には、表面利率(いわゆるクーポン)や年限、おおよその発行予定額が開示されます(このような入札の情報は当日の10時30分に開示されます)。発行予定額は、「価格競争入札+第I非価格競争入札+非競争入札」で定まり*16、価格競争入札の額は、第I非価格競争入札及び非競争入札を振り分けた後の残りの額となります。

BOX 1 国債発行計画における非価格競争入札
図表5 国債発行計画:消化方式別は、令和3年度(2021年度)における消化方式別で見た国債発行予定額です。これによると、令和3年度(2021年度)における当初の発行予定額が約224兆円であるところ、個人向け国債の発行額や日銀乗換を除いた、マーケットで発行される金額(いわゆる「市中発行額」)は約219兆円になります。そのうち、第II非価格競争入札等*15の金額は7兆円程度であり、3.2%程度にとどまります。第II非価格競争入札は前述のとおり、後場の市場次第で行使されるかどうかが大きく変わるため、この金額はあくまで当初の想定である点に注意が必要です。
本稿で紹介した第I非価格競争入札と非競争入札は、図表5では「カレンダーベース市中発行額」に計上されています。前述のとおり、毎回の入札において、価格競争入札による発行額は、発行予定額から第I非価格競争入札及び非競争入札を振り分けた後の残りの額となります(本稿で説明したとおり、第I非価格競争入札と非競争入札におけるオプションがどの程度行使されるかには不確実性がありますが、発行予定額は安定しています)。このような特性から、「カレンダーベース市中発行額」は、価格競争入札、第I非価格競争入札、非競争入札の合計額という整理がなされています。

3.2 価格競争入札後
入札の結果は12時35分に発表されます。図表7 価格競争入札の結果は2022年5月に実施された10年国債入札の結果を示しています。募入最低価格が99円53銭と記載されていますが、これは価格競争入札により定まった最も低い発行価格です。詳細は石田・服部(2020)に譲りますが、コンベンショナル方式の場合、発行当局にとって有利である応札価格が高い札から、その応札価格で落札していきます。ここでの最低価格は、発行当局が目標とする発行額に達する価格と解され、経済学の言葉を使えば需要と供給が一致する価格とも解釈できます。
一方、図表7では募入平均価格が99円56銭と記載されています。これは、価格競争入札で発行当局にとって有利である応札価格が高いものから落札していった結果、落札者に割り当てられた額の平均価格を示しています。そして、第I・第II非価格競争入札では、この平均価格で購入することになります。例えば、読者が第I非価格競争入札について100億円応札する場合、99円56銭の価格で、額面100億円分の10年国債を購入できるということを意味します。
その後、読者は、14時30分までに、自分の与えられた枠の範囲で、第II非価格競争入札に参加して平均価格で購入するかどうかを選択することになります。第II非価格競争入札は前述のとおり、読者にとっての「オプション」であるため、行使の有無や金額を選択することができます。仮に、14時30分時点における市場価格が99円56銭より高い場合、平均価格である99円56銭で買えばキャピタル・ゲインが得られます。そのため、読者には、自身の持つ枠内で、第II非価格競争入札に応札するインセンティブがあるといえます。一方、14時30分時点での市場価格が99円56銭より低ければ、わざわざこのオプションを行使して市場価格より高い価格で購入する必要性は乏しいと考えられます。このように、第II非価格競争入札は後場に実施されますが、どれくらい行使されるかについては、価格競争入札後のマーケット次第ということになります。


4.プライマリー・ディーラーからみた非価格競争入札
4.1 国債市場特別参加者の権利
我が国では、国債の大量発行が今後も続くと見込まれる中で、国債の安定的な消化の促進や国債市場の流動性の維持・向上等を図ることを目的に、2004年10月以降、「国債市場特別参加者制度」が導入されています。これは、欧米主要国において導入されている、いわゆる「プライマリー・ディーラー制度」を参考としたもので、国債管理政策上重要な責任を果たす一定の入札参加者に対し、発行当局が「国債市場特別参加者(PD)」として特別な資格を付与しています。
PDは、全ての国債入札において、相応な価格で、一定割合(現在、発行予定額の5%)以上の額の応札をしなければならない「応札責任」や、直近2四半期中に短期・中期・長期・超長期の各ゾーンについて、一定割合以上の額の落札をしなければならない「落札責任」を負っています。また、国債流通市場に十分な流動性を提供する責任や、財務省に対して、国債の取引動向等についての情報を提供する責任も果たす必要があります。
こうした一定の責任を負う対価として、PDにのみ認められている様々な資格もあります。例えば、財務省が開催する国債市場特別参加者会合(PD会合)への参加資格や、第I非価格競争入札及び第II非価格競争入札への参加資格、流動性供給入札や買入消却入札への参加資格などが挙げられます。
このうち、PD会合への参加資格・流動性供給入札及び買入消却入札への参加資格については、全てのPDに等しく与えられています。一方で、第I非価格競争入札及び第II非価格競争入札においていくら応札できるかは、PDごとに異なっており、過去の応札・落札実績等に応じて決定されます。
なお、こうした制度に関する詳細は、「国債市場特別参加者制度運営基本要領(PD要領)」に規定されています。

4.2 非価格競争入札における応札限度額
第I非価格競争入札の応札限度額
前述の通り、第I非価格競争入札及び第II非価格競争入札については、それぞれPDごとに応札限度額が定められています。第I非価格競争入札の枠は、
(1)第I非価格競争入札による発行限度額×各PDの基準落札係数(=直近2四半期中の落札実績)
という式で定まります。「第I非価格競争入札による発行限度額」とは、現在、当該国債の発行予定額の20%に相当します。
また、基準落札係数はPDごとに計算しますが、下記の通り、各PDを合計すると100%になります(iはPDを示す添え字です)。

基準落札係数は直近2四半期中の落札実績に基づいて決められており、直近2四半期中において積極的に(応札ではなくて)「落札」したPDに、より多くの第I非価格競争入札の枠が付与されるという仕組みがとられています*17。国債発行額の20%について第I非価格競争入札で発行されうるところ、直近2四半期中の落札実績に基づき、PD内でその権利を配分するというイメージです。また、基準落札係数はデュレーションで調整された値になります。具体的には、各PDの基準落札係数は、

基準落札係数となります(ここでのΣについては、直近2四半期中の合計である点に注意してください。PD要領では、デュレーション×落札総額を「デュレーション換算値」と呼んでいます。また、�は国債の年限を示す添え字、�はPDを示す添え字です)。このようにデュレーションを掛け合わせることで、デュレーションが長い国債の落札にウェイトが置かれていることになります。例えば、あるPDが2年国債と10年国債をそれぞれ1億円ずつ落札したとしても、10年国債の落札の方が5倍程度、基準落札係数への影響が大きいと解釈されます。これに伴い、結果として競争入札*18において、デュレーションが長い、すなわち金利感応度が大きい国債を落札することに対してより大きなインセンティブが与えられているように見えるかも知れません。これは業者からすると、長い年限の国債の方が金利リスクに関するリスク・テイキングが大きいため、金利リスク量で入札への貢献度を計測しているものと解釈できます。
なお、デュレーション換算に用いる指数については財務省のウェブサイトで公表されています*19。デュレーションとは、ファイナンスで用いられる代表的な金利リスク指標になりますが、そのリスク量はおおよそ国債の年限で近似することができます。詳細は「金利リスク入門」(服部, 2020)を参照してください。
第II非価格競争入札の応札限度額
他方、第II非価格競争入札における各PDの応札限度額は、下記の2つの小さい方で定められます*20。
(2)当該国債の発行予定額×各PDの基準応札係数*21(=直近2四半期中の応札実績)
(3)(同日午前の同じ国債の)各PDの価格競争入札+第I非価格競争入札による落札額(ただし利回り競争入札の場合はその落札額)の合計額の10%(=当日の落札実績)
このように2つの軸で評価されていますが、(3)についてはいわば当日の価格競争入札に対して積極的に参加することに対してインセンティブを与えている仕組みと解されます。(2)だけであれば、直近2四半期中の応札額に基づき定められるため、当日落札しなくても第II非価格競争入札に参加できるということになります。他方、(3)は当日どの程度落札できたかを意味しますから、(2)と(3)の小さい方をPDに与えられる第II非価格競争入札の枠とすることにより仮に過去積極的に応札していたとしても、当日全く落札しなかった場合、枠が与えられないということになります。したがって、金額の枠はあくまで過去の応札額にも依存する形をとりつつ((2))、当日のオークションにおいてしっかりと落札していないと、第II非価格競争入札に参加することができない((3))というインセンティブが付されているとも解釈できます。
なお、実際の入札においては、投資家がPDを経由せずに直接落札することもあるため、第II非価格競争入札については、PDが行使できる枠を合計しても、発行予定額の10%を下回る可能性がある点に注意が必要です。

4.3 近年のアベレージ注文に対する需要の高まり
近年、アベレージ注文のニーズが高まっているというPDからの指摘があります。発行当局とPDは、PD会合で定期的に意見交換をしていますが、PDサイドから度々アベレージ注文のニーズの高まりについて議論が上がっています*22。その一つの理由として、国債発行額が増加する中で、海外投資家のプレゼンスも拡大していることが指摘できます(米国では、全員同じ価格で購入するダッチ方式がとられていることが影響しているのかもしれません)。
前述のとおり、非価格競争入札は、平均価格で購入したいという投資家の需要に対応した措置とも考えられるので、アベレージ注文を受けうるPDのニーズに対応していると捉えることもできます。第I非価格競争入札と第II非価格競争入札を合計すると発行量の30%程度になり、発行量の30%程度が既にアベレージ注文に配慮していると解釈できるかもしれません。この割合は、欧州主要国と概ね同程度になりますが(米国ではダッチ方式を利用しているがゆえ、そもそも我が国や欧州のような非価格競争入札が存在していません)、各国における非価格競争入札については次回の論文で詳細に説明します。

BOX 2 2022年のPD制度の改正
2022年3月末に、PD要領が改訂され、各PDに課せられる応札責任の内容に変更が加えられました。具体的には、それまでは各入札において発行予定額の5%以上の応札を行うことが要領上定められていたところ、改訂後は発行予定額の「100÷PDの数(n)」%以上の応札が求められることになりました。
過去には、応札責任割合をPDの数の分だけ合計した「応札責任による発行予定額のカバー率」は、100%に満たないことがありました。これは、理屈上は、極端に国債の需要が乏しい場合には、制度上「札割れ」が生じうることを意味していました。また、各PDの第I非価格競争入札の枠(応札上限)などは、PDの数に応じて増減しうる一方、PDの各入札における責任の重さは、PDの数に依らず固定されているものでもありました。こうした事情を踏まえ、2022年において、今後、仮に様々な事情でPDの数が増減しても、制度を都度改正せずとも、タイムラグが生じる場合はありますが、基本的には常に発行予定額の100%以上の応札額が確保されるように改正されました。
なお、最低限応札しなければならない額の計算を単純にし、事務リスクを低減する観点から、100÷nの割り算の結果に1未満の小数が発生する場合は、小数第一位の切り上げをすることとしています。また、改正前後のPDの数は20社で不変ですので、制度改正のタイミングで実質的なPDの負担(100÷20=5%)に変更はありません。


5.おわりに
今回は非価格競争入札全般について説明を行いました。次回は海外の非価格競争入札を説明する予定です。

参考文献
[1].石田良、服部孝洋(2020)「日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中心とした入札(オークション)制度と学術研究の紹介―」財務省財務総合政策研究所PRI Discussion Paper Series(No.20A-06).
[2].財務省理財局(2021)「債務管理リポート2021」
[3].服部孝洋(2020)「金利リスク入門―デュレーション・DV01(デルタ、BPV)を中心に―」『ファイナンス』10月号、54–65.
[4].服部孝洋(2021)「債券(金利)オプション入門-スワップションについて-」『ファイナンス』8月号、49-60.
[5].服部孝洋・稲田俊介(2021)「国債整理基金特別会計および借換債(前倒債)入門」財務総研スタッフ・レポート
[6].服部孝洋・日本取引所グループ(2022)「国債先物オプション入門」

図表1.価格競争入札および非価格競争入札におけるタイムラインのイメージ
図表4.価格競争入札及び非価格競争入札の制度の変遷
図表8.応札責任割合の変遷

*1) 本稿の意見に係る部分は筆者らの個人的見解であり、筆者らの所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者らによるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。
*2) 東京大学公共政策大学院特任講師
*3) 財務省財務総合政策研究所客員研究員
*4) コロンビア大学国際公共政策大学院
*5) ここでの平均価格は、価格競争入札の落札額でウェイトをとった加重の平均価格になります。なお、本稿において入札の平均価格と記載した場合、この加重平均価格を指している点に注意してください。価格競争入札の詳細は、石田・服部(2020)などを参照してください。
*6) https://sites.google.com/site/hattori0819/
*7) T-billの場合については時間が異なる点に注意してください。詳細は債務管理リポート等を参照してください。
*8) 米国債の制度については次回の論文で取り上げることを予定しています。
*9) 第70回国債市場特別参加者会合(2017年3月22日開催)議事要旨によると、PDから「『最近、顧客による入札の平均価格での購入ニーズが高くなり、第I非価格競争入札で確保できる量では賄えなくなっている』ため、発行限度額を引き上げて欲しいという声があがっている」ことが、制度変更の背景であると述べられています。
*10) ここでは発行予定額を同一と仮定しています。
*11) ここでの落札額とは、PDごとに算出されるものであり、各PDの(同日午前に実施される同じ国債についての)価格競争入札と第I非価格競争入札による落札額の合計額を表しています。
*12) 第24回国債市場特別参加者会合(2008年12月12日開催)議事要旨によると、第II非価格競争入札については「競争入札後の市況によって需要が大きく異なるが、直近1年間の実績をみると、応募があったケースでは、その9割以上で限度額一杯の応募があった」と説明されており、こうした需要を踏まえ、第II非価格競争入札に関する応募限度額を引き上げたい旨が述べられています。
*13) 第84回国債市場特別参加者会合(2019年12月12日開催)議事要旨を参照。
*14) ここではT-billではなくて利付国債を前提に説明しています。T-billの場合については債務管理リポート等を参照してください。
*15) 財務省のウェブサイト(issuanceplan201221.pdf(mof.go.jp))によると「第II非価格競争入札等として、第II非価格競争入札に係る発行予定額のほか、カレンダーベース市中発行額と実際の発行収入金との差額の見込みを計上している」とされています。
*16) 2年・5年・10年国債の場合、「価格競争入札+第I非価格競争入札+非競争入札」となります(それ以外の年限については「価格競争入札+第I非価格競争入札」となります)。
*17) ここで、「基準落札係数」とは、前2四半期の落札実績に基づいて算出される係数であり、四半期ごとに特別参加者に通知されます。具体的には、それぞれの年限についての各特別参加者の落札総額(競争入札の落札総額に限る)に、財務省が公表するデュレーションを乗じて得た値(以下「デュレーション換算値」という)の合計値が、すべての特別参加者の落札総額のデュレーション換算値の合計値に占める割合(百分率で小数点以下第2位未満を四捨五入して表示したもの)を表しています。
*18) PD要領によると、デュレーション換算値の算出では、「競争入札」の落札額に限定されています。
*19) 直近のデュレーション換算に用いる指数は下記の通り公表されています。
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/meeting_of_jgbsp/press_release/20220401duration.pdf
*20) 正確には「当該国債の発行予定額に各特別参加者ごとの基準応札係数を乗じて得た額(1億円未満は切り捨て)、又は各特別参加者の価格競争入札及び第I非価格競争入札による落札額の合計額(ただし、利回り競争入札の場合はその落札額)の10%に相当する額(1億円未満は切り捨て)のいずれか少ない額」とされています。すなわち、第II非価格競争入札における発行限度額は、実質的に、発行予定額の10%となっています。また、ここで使用された「基準応札係数」とは、前2四半期の応札実績に基づいて、各年限ごとに算出される係数であり、四半期ごとに特別参加者に通知されます。具体的には、前2四半期の入札について、それぞれの入札における発行予定額のうち、各特別参加者の価格競争入札及び第I非価格競争入札又は利回り競争入札の応札額(財務省が、相応な価格でないと判断したものを除く。)が占める割合(百分率で小数点以下第2位未満を切り上げて表示したもの)を、当該直近2四半期分について単純平均(百分率で小数点以下第2位未満を切り上げて表示したもの)した値を指します。
*21) 2022年3月末までは、基準応札係数は「それぞれの入札における発行予定額のうち、各特別参加者の価格競争入札及び第I非価格競争入札又は利回り競争入札の応札額が占める割合を、当該直近2四半期分について単純平均したものから5%を減じた値」という定義でした。
*22) 具体的には「第II非価格競争入札の上限を10%から15%に戻すこともあわせて検討してほしい。」(第86回国債市場特別参加者会合(2020年4月2日開催))、「入札のプレゼンスが増えている中で、海外投資家からの平均落札価格でのオーダーが増えており、注文執行に国債市場特別参加者として難しさを感じている。この現状に対処するために、第I非価格競争入札を国債市場特別参加者1社につき1%分増やすことが望ましいと考える。」(第92回国債市場特別参加者会合(2020年12月11日開催))、「コロナ以降に在宅の顧客が増えたため、セカンダリーでの売買が減っていることに加えて、海外投資家のプレゼンスは上がっており、入札の重要性は増えており、特にアベレージオーダーのニーズが増えているように思われる。そういった中で、当社では、第I非価格競争入札の増額を希望する。」(第95回国債市場特別参加者会合(2021年9月28日開催))、「国債市場特別参加者数が減少傾向にある中、応札責任割合の変更によって国債市場特別参加者の負担増が想定される。従って、第I非価格競争入札の増額と言った措置を検討してもらうことを要望する。」(第98回国債市場特別参加者会合(2022年3月22日開催))といった声が上がっています。