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PRI Open Campus~財務総研の研究・交流活動紹介~10

「仕事・働き方・賃金に関する研究会-一人ひとりが能力を発揮できる社会の実現に向けて」 神林龍座長インタビュー
財務総合政策研究所総務研究部長 上田 淳二/総括主任研究官 鶴岡 将司/前研究官 山本 高大/総務課研究企画係長 千葉 友愛

The Seventh Tokyo Fiscal Forum―Fiscal Policy after the COVID-19 crisis:Toward a Resilient, Inclusive, and Digital Future in Asia―
財務省総合政策研究所 前主任研究官 曽我 奈津子/主任研究官 安藤 健太/主任研究官 伴 真由美/前研究官 山本 高大/前研究員 網谷 理沙/研究員 椛田 大介


「仕事・働き方・賃金に関する研究会-一人ひとりが能力を発揮できる社会の実現に向けて」
神林龍座長インタビュー
財務総合政策研究所(財務総研)は、2021年10月から2022年5月にかけて「仕事・働き方・賃金に関する研究会-一人ひとりが能力を発揮できる社会の実現に向けて」を開催しました。
研究会では、仕事・タスクの男女分布の変化、税制や社会保障制度が人々の行動に及ぼす効果、男女の固定的役割分担を解消し長時間労働を減らすためのマネジメントの役割、自営と雇用の間での人の移動が人的資本の形成に及ぼす影響など、仕事・働き方・賃金に関するテーマについて、活発な議論が行われました。その議論の内容は、本年6月に、研究会の報告書として財務総研のウェブサイトで公表されています*1。
本稿では、研究会の座長を務めていただいた神林龍一橋大学教授に、研究会の議論のポイントや、仕事・働き方・賃金について今後考えるべき点について、お話を伺いました。

神林龍 一橋大学経済研究所教授
2000年に東京大学で博士号(経済学)を取得した後、東京都立大学助教授、スタンフォード大学経済学部客員研究員などを経て、2015年より現職。専門は労働経済学で、日本の労働市場に関して多くの実証研究を行っている。2020年に日本学士院賞受賞。

上田淳二 財務総合政策研究所総務研究部長
1994年、大蔵省(当時)入省。財政・経済政策に関する幅広い業務に従事するとともに、京都大学経済研究所や国際通貨基金等において様々な経済分析も実施。2020年より現職。

【報告書の主な論点】
○働き方は変わったのか?
・自ら就業を調整する動きはみられるのか?
・自営業の位置づけの変化
○男女間のギャップを埋めるために何をすべきか?
・働き方の柔軟性を高める取組み
・ジェンダーバイアスを回避する対応
○必要な第三者介入は何か?
・取組みの見える化を活用
・就業形態に依存しない人的資本の蓄積をする必要

1.研究会の狙いと期待
(上田総務研究部長)このたびは、財務総研の研究会の座長を引き受けていただき、ありがとうございました。この研究会を始めるにあたっては、仕事・働き方・賃金に関して、マネジメントの役割、税制や社会保障制度の影響、タスクの分布の変化、自営と雇用の移動といった一見関係なさそうに見える様々なことが、互いに関係しつつ、例えば男女の賃金や労働時間の違いなど、日本の労働市場で観察される特徴的な現象の大きな要因となっているのではないか、また、それらが今後の仕事・働き方・賃金のあり方にも無視できない影響を及ぼしていくのではないか、といったことを出発点として考えていました。それぞれの論点について、研究を行っている方々にメンバーとしてご参加いただくとともに、神林さんには、座長として全体の議論をまとめていただきました。おかげさまで、様々な論点を関連付けながら議論を整理していただき、ありがたく思っていますが、研究会での議論を振り返ってみていかがでしょうか。
(神林教授)これまで労働市場については、税制の影響なら税制の影響だけ、マネジメントの役割であればマネジメントの役割だけ、雇用の流動性であれば雇用の流動性だけというように、様々なテーマについて、それぞれ切り分けられた別々の議論が行われてきたと思います。本来は、全体像をきちんと見てみようという試みがなされて然るべきでした。今回の研究会では、様々なテーマを並べてみて、その組み合わせが日本の労働市場のパフォーマンスと関係がありそうだということが分かってきたのではないかと思います。それぞれの論点について、きちんと精緻に議論していくのは、これから先に求められる話になると思いますが、最初のとっかかりとしては悪くない報告書になったのではないかと考えています。
(上田)財務省の研究所で、日本の仕事・働き方・賃金といったテーマでの研究会を開催することの意義について、どのように思われますか。
(神林)財務省での研究会は、実際に制度を所管している他の省庁の研究会と比べて、一つ一つの問題に対してのスタンスが中立的という印象です。まあ、税制以外はという限定付きですが。制度を所管している省庁には、自分たちが直接何かをしようとする意欲があり、どうしても自分たちがあらかじめ想定している考え方に沿った議論を取り上げてしまう傾向がありますが、この研究会では、色々な議論を両論併記でニュートラルに取り上げることができたという意味で、有用だったのではないかと思います。
(上田)こうした研究会の場は、行政官にとっては、研究者との間でのインタラクションを持ち、様々な知見を得るために有益な機会だと考えていますが、研究者の立場からは、どのような意義があると考えていますか。
(神林)一つはこちらから行政官に対して何か影響を及ぼすという点。研究会というかたちであれば、行政官の方も中立的な形で参加してくれますし、研究者は、様々な研究を、相互に矛盾しているかもしれないことをあまり気にせずに、こうした研究があるよ、こういう見方があるよと提示することができます。その結果、共通の知識を持つことができるのは大きなメリットではないかと思っています。
もう一つは行政官の側から研究者の側に働きかけることもできます。もちろん、それぞれの研究者によって感覚は違うと思いますが、研究者側はどういう研究ができるかを常に考えています。行政官の側から、制度や行政として保有しているデータに関して新たな情報を提示していただくことができれば、研究者にとっても役に立つことも見つかっていくと思います。
(上田)今回は、研究会メンバーの児玉直美先生に、賃金センサスの個票データを利用した分析を行っていただき、さらに研究を継続していただくことをお願いしています。税務データなどの行政データの利活用については、共同研究という枠組みが設けられ、少しずつではありますが、財務省全体としても前に進めているところです。いずれにしても、行政官と研究者がインタラクションできる場があるというのは大事だと思っています。

2.長時間労働プレミアム
(上田)今回の研究会の議論を始めるにあたっては、Claudia Goldinが、長時間労働に対して賃金のプレミアムが発生することが、男女間の賃金格差に大きな影響を与えているということを提唱したことを、議論の一つの起点としてきました。こうした議論は、男女間の賃金格差や均等待遇をどのように実現していくのかを議論していく際に、実務家にとっても有益な視点を提供しているように思いました。
(神林)Claudia Goldinのいう長時間労働プレミアム*2の考え方は、彼女が有名だったので注目され、最近になって市民権を得た話ではありますが、人的資源管理論(Human Resource Management; HRM)の実務家の間では、長時間連続して働くことの生産性へのメリットとして古くから指摘されていました。生産性は、時間に応じて等比級数的に急激に上がっていくところで、労働時間に例えば8時間という上限枠を設けると、生産性の上昇を制約することになるといったようなことは、それこそ100年近く前から言われていたことです。実際に、企業の中には、そういった仕事の仕方をして生産性が高い人がいることは分かっていたわけで、それでこその「高度プロフェッショナル制度」の導入だったわけです。ところが、この論理を職業の区別や業務の遂行と結びつけ、全体の男女間賃金格差に影響を与えているという話はなされてきませんでした。Goldinの研究は、その連関に注目したのが非常に画期的なところです。日本においても、男女間賃金格差が生じる要因として、技術やマネジメントによる部分が少なからずあるかもしれないということで、実務家の人もかなり関心を持つようになるのではないかと思います。
(上田)男女間賃金格差をなくしていこうとすると、長時間労働プレミアムを減らしていくことが求められるわけですが、一方で、従来のマネジメントの考え方としては、困難な仕事を乗り越えることによって生産性を上げることができるという側面も強調され、任された仕事は期限内に長時間労働を行ってでも絶対に実現するという経験を経ることで能力が上がるというキャリア形成観もあり、長時間労働が肯定されてきた面もあると思います。これについてはどのように考えておられますか。
(神林)私自身はそうした議論についてはリベラルな立場です。長時間労働をしたい労働者は一定程度いるでしょうし、長時間労働でこそ成果がでる職場も一定程度あるでしょう。そういう人達に長時間労働はやめなさいと強制するのは原理的にはナンセンスだと思っています。ところが、好むと好まざるとにかかわらず、長時間労働せざるを得ない格好に落とし込まれてしまう人が少なからずいるところに大きな問題があります。長時間労働を、自発的にやっているのか、非自発的にやっているのかを区別するのは、非常に難しいと思います。ただ、長時間労働が強制されるような外的な条件を識別して変えることはできるはずなので、そういった部分はどんどん変えていく必要があると思います。たとえば、Goldinは、「タスク構成を独立して、切り分け可能なものにせよ」と提唱していますが、こういうやり方で外的条件を変えることは可能でしょう。

3.「ジョブ型」と「請負型」
(神林)Goldinのいうように、仕事を構成する一つ一つのタスクを独立したものにできれば、生産性が時間に対して逓増することが起こりにくくなるという見方は理解できます。これはいわゆる「ジョブ型」的な発想に近いと言えるでしょう。
ただ、この見方には強力な反論があります。むしろ包括的に仕事を与えた方が自分で自由に時間を管理できるため、長時間労働がなくなる、もしくは長時間労働があったとしても、実質的な仕事の密度、労働の強度を自由に調整することができるので、最終的に身体に対するダメージを軽減することができるようになるかもしれないという意見です。これは「請負型」で、実際にアウトプット、アウトカムで評価をしましょう、やり方は任せますということになります。日本的長期雇用では、一人一人が、仕事を請け負っているような形で長時間労働をやっているという面もあったかもしれませんね。
伝統的な自営業の研究によれば、自営業主について統計をとると、10時間とか12時間といった長時間労働が結構普通にある一方で、社会生活基本調査などを見てみると昼休みをきっちり取れていたりします。食住近接があり、食事の時間には自宅に帰って、夕食を食べた後にまた職場に戻ることはありますが、節目できちんと自宅に帰って子供の世話をする、あるいは保育園に迎えに行くということができるといった時間配分になっているのでしょう。トータルの労働時間、拘束時間は長いですが、それを細切れにすることが実はできているというのが自営業の働き方です。それはジョブが明確になっているからではなくて、自分で仕事をマネージできるからです。いつのタイミングでどう仕事をするかが裁量的で、自分に全部任されており、リスクを全部自分で取りますから、自分で本当にマネージできてしまうので、そういう働き方ができていると考えるべきだと思います。
「ジョブ型」による解決が一方の極にありますが、もう一方の極には自営業的な「請負型」の働き方による解決があって、そのバランスをどうとっていくかを考えなければいけないと思います。
(上田)例えば、最近では美容師の中でも技術の高い人はフリーランス化する動きが結構進んでいるようですね。他の業種でも固定的な雇用形態にこだわらず、プロジェクトベースで柔軟にフリーランスなどを雇用し、請負方式を活用するようになる方向なのかなと思います。プロフェッショナルな人にとってみれば、やり方次第では居心地が良くなるようなことなのかもしれません。ただそうしたときに、契約者保護とか労働者保護がなければ、非常に立場の弱い労働者も出てくることも課題になるのかなと思います。
(神林)そういうことですね。美容師さんの場合には、市場がセグメント化されて、多少高価でもきちんとした仕事をしてほしいという需要も強いので、きちんと技術を持った人の価格が高くなっている。そうなると、技術をもった人たちは独立する、自分でやるというインセンティブが強くなって、実際そうなっていると思います。うまく市場経済が作用してバランスがとれる例なのかもしれませんが、一方で、千円カットで働く人たちを全部請負でやっているケースもあり、美容師業界の全部が全部うまくいっているわけではないでしょう。最低限のラインをどうやって底上げするのかは別途考えなければいけないことだと思います。ここで注意しなければいけないのは、その最低限のラインをどうやって底上げするかと、プロフェッショナルな人たちのキャリアをどう構成するかは、確かに結びついてはいると思いますが、当座、別な話だと考えて動くべきだろうという点です。この2つの問題を混在させるのは良くないと自分は考えています。
(上田)最低限のラインの底上げについては雇う側が一方的に使い捨てる形にならないように、何らかの第三者の介入の視点が必要になる一方で、高度な技能を持つ人については、市場原理がうまく作用する形でサービスの質を評価できる形になると良いということですね。
(神林)そうですね。そのメカニズムの使い分けは意識しないといけないと思います。通常の市場経済では、自分の効用関数が先にあって、この商品がこういう内容であれば自分にとってこれぐらい役に立つことは分かる。その商品の内容に関して不確実性がある場合には、そうした不確実性をいかにして取り除くかを考えれば良いわけで、リスクの問題はあるかもしれませんが、逆選択にさえ陥らなければ市場自体は成立します。こういう場合、データを使って最低限のラインを客観的に検証して、現実にするという考え方は有効でしょう。
ところが、弁護士、医師、教師といったような職業だと、そもそもサービスの受け手がどういうサービスを受けるべきか分からない状態から出発します。たとえば、医師の場合、あなたはこう治療されるべきだとアドバイスするのが仕事です。患者が医学的に誤っていることを望んだ場合、それを認めるのは、果たして医師の仕事なのか、ということになります。教育についても、受験産業があっていろいろと混同されてしまいがちなのですが本質的には同じです。教師は、基本的に、生徒に対して、あなたはこれを勉強するべきだと判断して教えるのが仕事です。こういう場合は、第三者が最低限のラインを検証するのは容易ではありませんし、ましてや現実にすることができるのかどうか疑問が残ります。
(上田)それを支えるものが、本来的にはプロフェッショナリズムで、プロフェッショナルによるガイダンスなのでしょうね。
(神林)そうです。ただ、プロフェッショナリズムだとかプロフェッショナルによるガイダンスだからといって、完全に自由裁量に任されるわけではありません。たとえば医療の世界では、標準治療手順が決まっています。経済学の世界でも、標準的な経済学の教授方法が決まってきています。アメリカの経済学会では、常に経済学教育に関する特別部会が設けられていて、経済学を教える標準的カリキュラムなどが共有されるようになっています。その標準手順に沿えば、あとは教員の自由裁量と競争原理という形になりますが、公的な手順の設定と自由裁量のバランスは、プロフェッショナルの各分野で探していかないといけないと自分は考えています。

4.今後の論点:労働契約ときめ細やかな情報収集
(上田)日本において、今後、仕事・働き方・賃金のあり方を考えていく際には、どのようなテーマについてより深く考えていかなければならないとお考えでしょうか。
(神林)労働市場については、労働契約をどう考えるかが、本質的な問題だと考えています。本来、法律や契約を書けば、その意味しているところが明確に分かり、法律や契約条項に違反している状態も定義できると考えます。しかし、労働市場の場合には、労働契約で書かれていることが何であったとしても、それと異なる実態が、労使で合意すれば公平・公正な取引だと理解されることが多く、現場が、契約やら法律やらをおいて先にいってしまうことがあります。結局、法律や契約は軽視されすぎていて、その契約関係に入っていない人から見ると何が起こっているか分からなくなります。それに、そもそも何かまずいことがあったときに立ち返る基本的なルールがなくなってしまいますから、その結果として、一方的に被害を受けてしまう人たちが出てきてしまいます。そのため、紛争が起こった時には、どうやって関係を直すのか、それぞれに則して修復ルートを作りながら社会的公正性を担保していくという、やっかいなやり方をとる必要があります。こうした迂遠なやり方に嫌気がさして、現場のフレキシビリティを多少犠牲にしてでも、事前に労使関係を客観化しておくべきだという要望がでてきて、「ジョブ型」狂騒曲で踊っているのかもしれません。つまり、労働市場の場合には、労使の自由裁量をどこまで制限するべきかを考えないといけないと思います。
ところが、社会保障の場合には全く逆です。法律に定められた杓子定規の判断基準が末端まで浸透していて、本来であれば手当てをしなければいけない人達が、救いあげられなくなりつつある。例えば、生活保護の水準は、行政での恣意的な決定が法律上排除されていますが、本来であれば被保護世帯の事情はそれぞれなわけで、保護水準も様々なわけですよね。行政の末端での政策担当者の現場での自由裁量をどの辺まで認めるかを考えることで、社会のフレキシビリティを適当なところに着地させることが求められていると思います。
(上田)個別の判断を行っていく際の難しさは、それぞれの人の置かれている状況が千差万別で、それをデータとして把握することは困難であるために、細かくルールを作って適用することが困難であったということが大きな理由だと思います。逆に、データをきちんと丁寧に集めることによって、より実態に近い評価ができるようになっていくことによって改善されるという方向性は考えられるのでしょうか。
(神林)より多くのデータを集めて詳細な情報を吸い上げられるようにすると、そのデータから構築されたルールでカバーできる範囲が広がり、そのルールから零れ落ちる人の数を減らしていくことができると思います。この関係を意識したうえで、データを作り出す過程そのものに介入することが必要になるのではないかと思います。例えば、ケースワーカーとその被保護者の間で話しあって、こういう援助が必要だということを合意できたとしたら、それを説得的なものにするためにデータを作り、そのデータに基づけば是認できるというような調整ができれば、よいのではないでしょうか。このプロセスについては、データ生成を自動化すればよいと考える人たちもいますが、自分は、データを意図的に作り出すということをした方がよいのだろうと思います。
(上田)この辺りの感覚は、個人主義の米国では全く異なるでしょうし、欧州でも全く異なるのだろうと思いますが、どのように異なっているとお考えでしょうか。
(神林)欧州の場合には、自動的に獲得できる情報をもとにルールを作るという考え方が根底にあって、逆に、意図的に作り出さなければいけない情報を諦めているふしがあると感じます。意図的に情報を作り出した場合には、必ずバイアスがかかるので、自動的に獲得できる情報だけに基づいてルールを構築しようという考え方が徹底している。その中で、零れ落ちた人たちに対しては、いざとなったら公共の力によって、強制的になっても状況を改善させようとするというのが、欧州の特徴ではないかなと思います。
一方で、日本の場合には、政府が強権を発動して人々に行動を強いることが非常に嫌がられる文化です。このため、一人ひとりの要求にあったような形で援助していくために意識的な情報収集を積極的にやっていくことが求められているように思います。
(上田)きめ細かい情報をすくいあげるという観点からは、最近、日本の企業や役所の組織の中でのHRMを考える際に、アウトプット評価に加えて、個々人のモチベーションやエンゲージメントなどを評価しようとする取り組みがかなり進んでいると言われます。また、個々の人々のモチベーションを上げるために、1on1ミーティングが推奨されていますが、神林先生はどう考えていらっしゃいますか。
(神林)日本では、なぜ1on1ミーティングをやらなければいけないのかがあまり整理されないまま、急速に広がってしまった印象があります。本来であれば、業務に関して技術的に集めることのできる情報は、マネジメントは着々と集めるべきであって、1on1ミーティングはその代替にはなりません。本来やるべき情報収集ができていないのを、1on1ミーティングでお茶を濁しますという話になっていないかは気になっています。まずは、情報化やDXをきちんと進めるべきという方向が一方にあると思います。その車の両輪のもう一方として、1on1ミーティングがいいのか、それともMany to Manyミーティングの方がいいのかは良く分かりませんが、情報を意図的に作り出すようなプロセスを設ける必要があるのは間違いないと思います。機械的にすくい上げられる情報と、意図的に作り出さないといけない情報の二つがあることを明確に念頭に置かなければならない。もちろん、意図的に情報を作り出す場合には、どのようにして公平公正に把握するかという問題があります。さまざまな情報をどう集めるかを考えた時に、1on1ミーティングが有効だと考えればそれをやればよく、グループミーティングのほうが有効だと思えばそれをすれば良いのです。何がわかっていて、何がわかっていないか、そして何をしなければならないかという目的意識を明確にして、ミーティングがその中で何がどういう役割を果たすべきかを考えることができれば、そんなに悪いことにはならないのではないでしょうか。
行政、HRM、教育といった分野ごとに得られる情報のバランスは違うと思いますが、そうした情報の活用方法を丁寧に考えて行くということが必要になってくるのではないかなと思います。

5.今後の論点:企業の生産性
(上田)職場における日本人のワークエンゲージメントが低いのではないかということが最近よく指摘されますが、その議論をどうご覧になっていますか。
(神林)誤解を恐れずに言えば、賃金との見合いだと思っています。その他の条件を一定とした場合のワークエンゲージメントを考えないといけませんが、調査の設計でそれが出来ているようには思えません。まあ、意図的にそうなっていると思うのですが。ともかく賃金などの条件を一定にした場合を、本当のワークエンゲージメントだと考えて、それが低いのかどうかは、私は分かっていないと思います。
また、1990年代以降、平均的にみて賃金が上昇しにくくなっているということは指摘されていますが、平均で見ていいのかという話は気になっています。90年代初頭のバブルの崩壊、2002年のITバブル後の調整不況、2008年のリーマンショックと、幾度か不況が起こり、その後景気回復が起こっているのですが、景気回復の段階で、回復している企業とそうでない企業があり、それが企業規模によって相当異なっています。特に、景気の回復過程で、中小企業の生産性が上がってこないというのが、平均的に生産性が上昇していないことを説明する大きな要因だったのではないでしょうか。
日本の停滞の理由として、日本的な雇用慣行の下にある大企業の労務管理上の問題点を指摘する見方もありますが、そのことは、中小企業の生産性の伸びの低下とは論理的に関係ありません。中小企業においては、いわゆる日本的雇用慣行が原因で生産性が落ちていたわけではありません。もちろん、労働市場全体として、大企業が日本的雇用慣行を堅持するために中小企業の経営が大きな影響を受け、それゆえに中小企業の生産性が下がっているという理屈は考えられるのですが、間接的なものにすぎません。
自営業者と非正規労働者とのトレードオフの関係や、生産性が落ちても市場から退出しない企業が多いこと、サプライチェーンのグローバル化が進む中で低賃金国の企業競争相手になったことなど、様々な側面が考えられると思います。90年代以降の動きを考える際には、そうした点にまで目を向けて考えないといけないのではないかと思います。
(上田)本日は、多岐にわたるテーマについてお話しいただき、ありがとうございました。

「仕事・働き方・賃金に関する研究会」報告書
近年、働き方改革が様々なかたちで進められ、女性の労働参加率も上昇しているものの、仕事・働き方・賃金については、性別による違いも引き続き存在しています。生産性と賃金が上昇する経済の好循環を実現しつつ、社会や家庭における役割分担の柔軟な変化を促していくためには、多くの課題があります。本研究会は、今後、一人ひとりが能力を発揮できる社会を実現するために、どのような仕組みや制度の見直しが必要かとの観点から、男女の賃金格差をはじめ、労働市場に関するデータを踏まえた今後の課題についての調査研究を行ったものです。
はじめに 神林 龍 一橋大学経済研究所教授
第1章 仕事・働き方・賃金を巡る変化と課題―一人ひとりが能力を発揮できる社会に向けて―
    上田 淳二 財務省財務総合政策研究所総務研究部長
鶴岡 将司 財務省財務総合政策研究所総務研究部総括主任研究官
第2章 職業とタスクからみる仕事と賃金のジェンダー格差
麦山 亮太 学習院大学法学部政治学科准教授
第3章 チャイルドペナルティとジェンダーギャップ
古村 典洋 京都大学経済研究所特定准教授/財務総合政策研究所コンサルティングフェロー
第4章 自営業者の働き方―職業・収入・制度・仕事環境に着目して
仲  修平 明治学院大学社会学部社会学科准教授
第5章 性別役割分業、長時間労働とジェンダーバイアス
大湾 秀雄 早稲田大学政治経済学術院教授
第6章 女性の労働参加・労働時間の選択
児玉 直美 明治学院大学経済学部経済学科教授
第7章 男女間賃金格差の国際比較と日本における要因分析
山本 高大 財務省財務総合政策研究所総務研究部研究官
桃田 翔平 財務省財務総合政策研究所総務研究部研究官
笹間 美桜 財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員
網谷 理沙 財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員
玄馬 宏祐 財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員
鶴岡 将司 財務省財務総合政策研究所総務研究部総括主任研究官
「仕事・働き方・賃金に関する研究会―一人ひとりが能力を発揮できる社会の実現に向けて」の情報はこちらからご覧いただけます。
http://www.mof.go.jp/pri/research/conference/fy2021/shigoto.html

※なお、本報告書の内容や意見はすべて執筆者個人の見解であり、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではありません。

The Seventh Tokyo Fiscal Forum―Fiscal Policy after the COVID-19 crisis:Toward a Resilient, Inclusive, and Digital Future in Asia―
財務総合政策研究所は、IMF財政局、アジア開発銀行研究所(ADBI)とともに、「Tokyo Fiscal Forum」(TFF)というフォーラムを、2015年以降開催しています。TFFは、アジア諸国の財政に関する制度や運営を支援するIMFの技術協力を土台としつつ、アジア各国のハイレベルな政策担当者の間で現状や課題を共有し、アジア域外からの有識者とも意見交換できる場を、日本のイニシャティブの下に提供しています。これまで5回のフォーラムを東京で開催し、コロナ禍の下での2020年は第6回フォーラムをオンラインで開催し、2021年12月にはTFF関連イベントとしてオンラインセミナーを開催しました。
今般、第7回目となるフォーラムを、2022年6月22日および23日の2日間にわたって、オンライン形式で開催しました。「財政の信認強化」と、「持続可能な開発目標(SDGs)達成のための資金調達」、「政府活動のデジタル化」の3つを大きなテーマとして、21か国からゲストやパネリストを招き、在京大使館や国内の研究者等も含め、全体で110名超が参加するイベントとなりました。セミナーにご貢献をいただいた発表者、参加者、IMF及びADBIその他関係者の皆様にこの場を借りて厚く御礼を申し上げるとともに、フォーラムで発表された内容について、読者の皆様に紹介させていただきます。(肩書きは開催当時のものです。)

The Seventh Tokyo Fiscal Forum議事次第
【歓迎挨拶】
Vitor Gaspar IMF財政局局長
Juan Toro IMF財政局副局長
栗原毅 財務総合政策研究所長
【オープニング・プレゼンテーション】
Sanjaya Panth IMFアジア太平洋局副局長
【セッション1:財政の信認強化】
議長:吉野直行 慶應義塾大学名誉教授
発表者:
(1)Paolo Mauro IMF財政局副局長
(2)宮本弘暁 東京都立大学教授
(3)Delphine Moretti IMF財政局地域アドバイザー
【セッション2:アジアにおける財政枠組みに関するラウンド・テーブル・ディスカッション】
議長:John Beirne ADBIリサーチ副部門長
発表者:
(1)上田淳二 財務総合政策研究所総務部長
(2)Md Farishzan Ismail マレーシア財務省財政経済局プリンシパル・アシスタント・ディレクター
【セッション3:持続可能な開発目標(SDGs)達成のための資金調達ニーズ】
議長:片山健太郎 IMF財政局審議役
発表者:
(1)Valerie Cerra IMF財政局アシスタント・ディレクター
(2)Thomas Beloe UNDP Sustainable Finance Hub プログラム・チーフ
(3)Dora Benedek IMF財政局副部門長
【セッション4:政府活動のデジタル化】
議長:伊藤隆敏 コロンビア大学教授兼政策研究大学院大学教授
発表者:
(1)Moritz Piatti 世界銀行シニアエコノミスト
(2)Maun Prathna カンボジア経済財政省事務局次長兼FMISプロジェクトマネジメント常任副議長
(3)Baatarsuren Batsaikhan モンゴル国税庁
リスクマネジメント部部門長
【閉会挨拶】
園部哲史 ADBI所長
河内祐典 財務総合政策研究所副所長

オープニング・プレゼンテーション
Sanjaya Panth氏(IMFアジア太平洋局副局長)から、アジア太平洋地域のマクロ経済と財政の課題について説明が行われました。アジアにおける人の移動については、概ね新型コロナウイルス感染拡大前のレベルに回復しているものの、中国においては、厳格な封鎖により依然として供給と輸出に混乱が生じているとの説明がありました。アジアの経済成長率については、ウクライナ侵攻による食料と原油の価格の大幅な高騰および欧州からの低調な需要の影響を受け、豪州やインドネシアのような一次産品輸出国を除いて見通しは下方修正されています。また、インフレ率に関して、ウクライナ侵攻以降特に上昇しているが、コロナ後の経済回復のため財政出動が見込まれる中、金融政策と財政政策のバランスの取り方が非常に重要で困難なものとなっているとの指摘がありました。次に、持続可能な開発目標(SDGs)を達成するためには、アジアにおいても追加的な財政支援が必要である一方、気候変動の影響を強く受けている太平洋島嶼国において目標達成のための財政支出の余裕がないとの課題が示されました。最後にデジタル化に関しては、新型コロナウイルス感染拡大を契機にアジア諸国ではデジタル化が促進され、特に中高所得国にとって、生産性の向上や税収の増加をもたらすものである一方、構造的な失業やプライバシーの問題に対処する必要があると指摘されました。

セッション1:財政の信認強化
このセッションでは、アジア経済が、ウクライナ侵攻によるエネルギー・食料の価格高騰により、新型コロナウイルス感染拡大からの経済回復が阻害されている中、いかに財政政策を運用するかについて発表が行われました。
1.財政の信認強化について
Paolo Mauro氏(IMF財政局副局長)は、直近1年半でエネルギー・食料の価格の高騰が続く中で、ソーシャル・セーフティ・ネットが強固な国においては、市場原理をうまく機能させるために、国際価格を国内価格に転嫁することを許容する一方で、ソーシャル・セーフティ・ネットが弱い国については、国民が安定的に食料を手にできるよう、緩やかに国内価格へ転嫁する政策が必要と説明しました。また、パンデミック後においては、特に新興国において、低い実質GDPや高い公債残高が継続するとの予測が示されました。IMFは財政の信認強化の課題に取り組んでおり、各国が、エネルギー・食料価格の高騰への対応および投資・開発のニーズを考慮しながら、市場や国民生活に安心を与えるため、中期的な財政枠組み(fiscal framework)を構築することの重要性が強調されました。
2.高齢化社会における財政政策について
宮本弘暁氏(東京都立大学教授)は、高齢化が財政政策の効果に与える影響についての実証的な分析を紹介しました。それによれば、高齢化の下では財政乗数は小さく、景気後退期において、総需要を支えるために必要とされる財政刺激策を実施することに備えるためには、好況時に十分な財政余力を確保する必要があることが指摘されました。また、財政出動によるアウトプットへの効果が小さいことを考慮すると、構造改革を含む他の経済政策が内需を支える上でより重要な役割を果たす必要があること、労働供給を増やすための様々な政策は、高齢化社会においてアウトプットを増加させるのに役立つだろうと述べました。
3.財政リスク管理について
Delphine Moretti氏(IMF財政局地域アドバイザー)は、財政リスク管理について、IMFが掲げている効果的な4つのステップについて紹介しました。多くの国では、財政リスクについてある程度まで特定し、予算書の中でリスクを説明しているものの、定量化および分析能力が開発されていない場合には、適切なリスク回避やリスクを緩和するための戦略の設計、リスクに対する適切な引当を困難にしていることが指摘されました。財政リスク管理とは、政府が情報に基づき政策を決定し、財政の弾力性を高めるためにどのような政策を講じるか説明する機会であり、財政の信頼性の必要条件となると強調しました。

セッション2:アジアにおける財政
枠組みに関するラウンド・テーブル・ディスカッション
このセッションでは、ポストコロナ時代を見据えた財政再建や財政フレームワークの再強化に向けた取組みについて、日本およびマレーシアの政策担当者から紹介され、議論が行われました。
1.日本における取組みについて
上田淳二氏(財務総合政策研究所総務研究部長)からは、コロナショック下における日本の財政運営について、補正予算の編成によって必要な措置をとるための支出が行われたこと、ポストコロナの課題に対応するため「新しい資本主義」が提唱されていること等が紹介されました。また、コロナショックのような大きな経済的ショックに直面した国は、短期的にはアウトプットギャップを縮減することで経済の持続的な落込みを避けようとする一方、中長期の財政の持続可能性を維持する必要があるため、そのトレード・オフを意識して意思決定を行う必要があるが、様々な不確実性が高い中では、その意思決定を行うことが難しくなることが指摘されました。
2.マレーシアにおける取組みについて
Md Farishzan Ismail氏(マレーシア財務省財政経済局プリンシパル・アシスタント・ディレクター)より、同国の財政フレームワークを強化するための財政責任法(FRA)策定プロセスについての説明が行われました。FRA導入の目的は、適切な財政運営のために必要とされる様々な要素を明確化し、原理や原則、目的や責任主体を明確化し、組織的な仕組みを強化することにあり、現在、FRA法案の最終ドラフトの策定段階に到達しており、2022年9月または10月に国会に提出することを検討していることが説明されました。

セッション3:持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けた資金調達ニーズ
このセッションでは、新型コロナウイルス感染拡大やウクライナ侵攻によるエネルギー・食料の価格高騰によって、各国における持続可能な開発目標(SDGs)の実現がより困難になっているとの認識の下で、(i)包摂的な成長(inclusive growth)を達成するための統合的なフレームワーク、(ii)国レベルでのSDGsの資金調達のための計画プロセスの強化と課題解決のための枠組み、(iii)開発資金調達戦略を評価するツール等について説明が行われました。
1.包摂的な成長を実現する方法について
Valerie Cerra氏(IMF財政局アシスタント・ディレクター)は、包摂的な成長(Inclusive Growth)について、発表者を含むIMF職員が執筆した書籍*3(2021年12月出版)の内容を説明しました。近年は、国々の間の不平等は縮小傾向にある一方で、それぞれの国の中での不平等が一層拡大していることが問題となっており、先進国や新興大国で一層その傾向が強く、インフォーマルセクターでの雇用、ジェンダー間のギャップ、金融システムへのアクセスなど、様々な問題について、適切な措置をとっていくことの必要性が説明されました。特に、東南アジア地域では、気候変動問題に対する耐性が非常に脆弱な国もあり、国際社会が協力して取り組む必要性が高いことが指摘されました。
2.アジアにおける国家財政の統合的な枠組みについて
Thomas Beloe氏(UNDP Sustainable Finance Hub プログラム・チーフ)は、持続可能な開発のための資金調達の枠組みに関して、各国ごとの統合された資金調達フレームワーク(Integrated National Financing Framework;INFF)を設ける取り組みを説明しました。INFFでは、一国の中で行われている様々なSDGsを実現しようとするための投資計画と、SDGsの実現に向けた官民それぞれの資金調達計画とが連携していない状況を解消するために、様々な投資計画とそのための官民それぞれの資金調達計画を統合し、官民がそれらの垣根を越えて協働することを目指しており、すでに80か国以上の途上国でそのような取組みが進められていることが説明されました。IMFや世界銀行などの国際機関は、INFFを進めるための支援を積極的に行っており、持続可能な開発を達成できる方法の経験やイノベーションを共有することが望ましいことを指摘しました。
3.戦略的な開発資金調達に向けたマクロ経済の長期フレームワークついて
Dora Benedek氏(IMF財政局副部門長)は、SDGsに関連する政策の評価に使える長期マクロ経済フレームワークについて説明しました。特にIMFが今回調査対象とした4つの低所得国では、新型コロナウイルスの発生によって、従来通りの目標を2030年までに達成するためには、多額の追加支出が必要であり、特に人的資本とインフラへの投資を行い、改善することの重要性、さらなるドナーからの支援の必要性が指摘されました。

セッション4:政府活動のデジタル化
このセッションでは、公的な収入・支出等の財政に関する仕組みの管理(Public Financial Management)の効率性と透明性を高めるために、公共サービスの提供方法を改善し、歳入管理を強化するためのPFMのデジタル化に関する国際的な取組みやカンボジア及びモンゴルの取組みについての紹介が行われました。
1.PFMのデジタル化に関する国際的な取組みについて
Moritz Piatti氏(世界銀行シニアエコノミスト)は、PFMのデジタル化には、効率性を高め、説明責任と透明性を促進し、危機の時代に必要なサービスの継続性を確保するための多くの可能性を秘めていると述べました。一方で、各国は、デジタル化に対する投資を増やしているが、デジタル化とPFMの関係は非常に複雑であり、多くの要因が互いにどのように影響し合っているかを理解する必要があることを強調しました。
2.カンボジア
Maun Prathna氏(カンボジア経済財政省事務局次長兼FMISプロジェクトマネジメント常任副議長)は、カンボジアにおける予算の企画・立案及び執行のデジタル化をはじめとするFMIS(Financial Management Information System)についての近年の取組み、システム利用の利点、今後の課題について説明しました。FMISプロジェクトは、透明性や説明責任向上、業務に要する時間の効率化に資することが期待される一方で、人材育成や関係者間での共通認識の形成が課題となることが強調されました。
3.モンゴル
Baatarsuren Batsaikhan氏(モンゴル国税庁リスクマネジメント部部門長)は、モンゴル国税当局におけるデジタル化によるデータ活用について紹介しました。従来、モンゴル国税当局には複数の独立したシステムがあり、データベース構造は分散していましたが、ADBから支援を受け、ORACLEやClouderaといった機械学習やAI分析ツールを導入した結果、税務調査や税務評価に関するデータ処理や分析の時間を大幅に短縮することができ、また過少申告の追跡が容易になり、税収が増加したとの説明がありました。また、Neo4Jを用いた高速なビッグデータ分析により、1万人の納税者間の相関関係について20~30秒間で分析が可能となったとの報告がありました。
今回のTFFセミナーのアジェンダおよび発表資料は、財務総研のウェブサイト(https://www.mof.go.jp/pri/research/seminar/tff2022.html)に掲載されていますので、ご参照ください。

執筆者(代表)プロフィール
前主任研究官
曽我 奈津子
2009年4月に東京税関に入関。これまで主に財務省関税局で国際交渉や税関行政の企画立案等の業務に従事してきました。2020年7月から2022年6月まで財務総研で勤務していました。

財務総合政策研究所
POLICY RESEARCH INSTITUTE, Ministry Of Finance, JAPAN
過去の「PRI Open Campus」については、
財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。
https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html

*1)https://www.mof.go.jp/pri/research/conference/fy2021/shigoto.html
*2)代替要員を確保しにくく、長時間労働になりやすい職業ほど、単位時間あたりの賃金も高くなる事象。そうした職業においては男性の割合が高いことが、米国の労働市場における男女間賃金格差を説明するとの研究が注目された。
*3)Valerie C., Barry E., Asmaa E.G., and Martin S.(2021)“How to Achieve Inclusive Growth” https://global.oup.com/academic/product/how-to-achieve-inclusive-growth-9780192846938?cc=jp&lang=en&