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コラム 経済トレンド98

日本の宇宙産業の発展に向けて

大臣官房総合政策課 調査員 楠原 雅人/河野 愛


本稿では、日本の宇宙産業における現状と課題、発展に必要な施策について考察する。

宇宙産業の経済規模
これまでの宇宙開発は国の機関が主導して進められてきたが、民間主導の宇宙開発へシフトしようとする動きが活発になっている。そのため、諸外国では民需が拡大し、アメリカやフランスを中心に航空宇宙工業生産(売上)高が増大しているが、日本では官需が9割であり、生産(売上)高も横ばいの状態が続いている(図表1 宇宙機器産業の需要タイプ別売上高構成(左:米国、右:日本),図表2 世界各国の航空宇宙工業生産(売上)高の推移)。
諸外国では、民間企業の参入を促すため、早い段階から法制度の整備が進められてきた(図表3 宇宙産業に関する法整備の状況)。これにより2000年ごろから米国を中心にベンチャー企業が台頭し、ロケットの打ち上げや小型の人工衛星の開発・運用等、人工衛星のデータ解析に至るまで、さまざまなビジネスが行われている。
一方、日本では、2017年に宇宙活動法や「衛星リモセン法」が施行され、その翌年に「宇宙ベンチャー育成のための新たな支援パッケージ」が発表されたが(図表4 宇宙ベンチャー育成のための支援パッケージ(一部抜粋))、ベンチャー企業等の新規参入者の数は依然として少ない。
(出所)株式会社日本政策投資銀行「日本における宇宙産業の競争力強化」、一般社団法人 日本航空宇宙工業会「航空宇宙産業データベース 令和3年8月」、株式会社野村総合研究所「宇宙ビジネスが支える法制度」、内閣府「宇宙ベンチャー育成のための新たな支援パッケージ」

世界の宇宙産業と宇宙ベンチャー
ロケットの再利用や3Dプリンタ技術の応用、自動化による人件費の削減等により、小型衛星の製造コストを含めた打ち上げ費用が減少したことから、小型衛星の打ち上げ数は増加している(図表5 小型衛星(300kg以下)の打ち上げ推移)。打ち上げ数が増えたことで、小型衛星による観測写真などの民需が本格化し、多くのプレイヤーが参加するようになっている。
世界の衛星打ち上げ数の7割以上を占める米国では、投資家の支援のもと起業家による宇宙事業参入が活発であり、政府需要から民間市場へ販路を拡大している(図表6 衛星打ち上げ数の割合(2015-2020年))。2021年には8社もの宇宙ベンチャーが上場を果たすなどベンチャー企業の台頭が著しい。
技術の進展による打ち上げ費用の低下は、宇宙ビジネスへの参入障壁を下げ、既存事業の伸長や新たな産業の誕生に繋がり、2040年代には宇宙産業の市場規模は約120.2兆円に達すると予測されている(図表7 宇宙産業の市場規模予測(世界))。そのうち、インターネットと衛星ブロードバンドが売上の5割弱のウェイトを占めるようになると見込まれている(図表8 宇宙産業における売上割合の変化(世界))。
(出所)一般社団法人 日本航空宇宙工業会「令和2年度政府衛星データのオープン&フリー化及びデータ利用環境整備・データ利用促進事業費 調査報告書」、NewsPicks Brand Design「【なぜ】2021年、コンサルが人工衛星を打ち上げる」、Morgan Stanley「Space:Investment Implications of the Final Frontire」「The Space Economy’s Next Giant Leap」

日本の宇宙産業と宇宙ベンチャー
官需の割合が高い日本においては、宇宙ベンチャーの活躍は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共創する企業にとどまっており、欧米に比べると、その数は遥かに少ない(図表9 事業領域別スタートアップ企業(日本))。日本の宇宙ベンチャーは、投資家からの認知度が低く、投資家も少ないため、ベンチャーキャピタルからの資金調達が得られにくいと言われている(図表10 宇宙ベンチャーの資金調達額の推移(左:世界全体、右:日本))。
宇宙ベンチャーの参入を促進するべく、昨年「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」が施行された。これに伴ってJAXAは、JAXAの研究開発成果をより効果的に活用できるビジネスや、新しい市場形成及びイノベーションを喚起するようなビジネスに対して、出資等による支援ができるようになった(図表11 研究開発法人による出資の拡大について(制度の変遷))。
今後、こうした手法を活用した事業の拡大を含め、日本の宇宙産業市場規模も拡大していくことが期待されている(図表12 宇宙産業の市場規模予測(日本))。
(出所)総務省「宙を拓くタスクフォース」報告書、文部科学省「国立研究開発法人審議会(第18回)配付資料」、株式会社NTTデータ経営研究所「長期的な宇宙ビジネス市場規模の試算」

衛星データ利活用の促進
宇宙ビジネスの中では、インターネットと衛星ブロードバンドのウェイト拡大が見込まれており、それらを用いた衛星サービス事業が大きく進展していくことが期待される。これまでも、リモートセンシング※による衛星データ利活用ビジネスの市場が、年平均11.4%で拡大してきた(図表13 衛星データ利活用ビジネスの市場規模(世界全体))。
※人工衛星や航空機などに搭載したセンサー(測定器)を用いて、大気や地表の状況を広域的かつ短時間で観測すること。
日本に限定した衛星データ利活用ビジネスの市場規模は、2030年代早期において、既存活用領域で約521億円と想定されている。また、民間企業によるマーケティング等への活用領域の拡大が実現されれば、その潜在的な市場を含めて約963億円まで拡大すると見込まれている(図表14 衛星データ利活用ビジネスの市場規模(日本))。これまで、衛星データは気象や地理の分野において多く利活用されてきたが、今後新たな分野での利活用が進むことで、利活用ビジネスの潜在的な市場がさらに拡大していく可能性がある(図表15 分野別のリモートセンシング利用例)。
衛星データ利活用ビジネスが新たな分野に拡大し、宇宙ベンチャーがその担い手となれば、宇宙産業の経済規模が大きくなり、GDPの成長にも貢献することが期待される。
(出所)株式会社NTTデータ経営研究所「衛星データ利活用ビジネスの国内市場(将来目標)」、内閣府「衛星データをビジネスに利用したグッドプラクティス事例集【第2版】」
(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。