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証拠金規制入門―中央清算されない店頭(OTC)デリバティブ規制について―


東京大学 公共政策大学院 服部 孝洋*1


1 はじめに
筆者が記載した「OTCデリバティブ規制入門」(服部, 2022)では金融危機以降、OTC(Over-the-Counter, 店頭)デリバティブ市場において導入された規制改革の概要とともに、中央清算機関について説明を行いました。金融危機以降、その反省から、標準的なOTCデリバティブ取引において中央清算機関(Central Counterparty, CCP)で清算を行うことを促す改革がなされました。もっとも、現時点でも日本証券クリアリング機構(Japan Securities Clearing Corporation, JSCC)において中央清算がなされるOTCデリバティブは金利スワップやクレジット・デフォルト・スワップ(Credit Default Swap, CDS)にとどまります。そのため、例えば、為替スワップなどのように流動性が高いOTCデリバティブを含め、多くのOTCデリバティブ取引について中央清算機関でクリアリングされていないのが現状といえます。
中央清算機関でクリアリングがなされていないOTCデリバティブ取引について規制を課すため、現在、証拠金規制と呼ばれる規制が導入されています。証拠金規制とは、中央清算されないOTCデリバティブ取引に関し、大手金融機関同士の取引について当初証拠金を受け渡すとともに、期中に変動証拠金を受け渡すことを義務化する規制です。この規制は金融危機を再び起こさないための規制といえますが、本稿で説明する通り、受け渡すこととなる証拠金の金額が巨額になりえることから、金融機関による反対が大きかった規制の一つとされています。
本稿では、筆者が記載した「OTCデリバティブ規制入門」(服部, 2022)を前提とさせていただくため、OTCデリバティブ規制全体について確認が必要な読者はまずは同論文をご一読いただければ幸いです。なお、筆者が記載してきた債券や国債の一連の入門シリーズは筆者のウェブサイトにまとめて掲載してあります*2。

2 証拠金規制
2.1 証拠金規制の概要
服部(2022)で説明した通り、OTCデリバティブ規制では、標準的なOTCデリバティブ取引について中央清算機関でクリアリングする義務が課され、これを清算集中義務といいました。もっとも、中央清算機関で清算されるOTCデリバティブ取引は、金利スワップやCDSなど一部にとどまります。そのため、中央清算機関でクリアリングされないOTCデリバティブへの規制も必要となります。
証拠金規制の導入に際し、2011年に実施されたG20カンヌ・サミットにおいて、国際的に整合的な証拠金規制に係る基準を策定することが求められました。それを受けて、2013年に、バーゼル銀行監督委員会(Basel Committee on Banking Supervision, BCBS)と証券監督者国際機構(International Organization of Securities Commissions, IOSCO)が証拠金規制のフレームワークを公表しました。その後、各国で段階的な導入が始まります。米国と日本では、2016年9月から、欧州でも2017年2月から段階適用が開始されました。
服部(2022)で説明したとおり、証拠金は当初証拠金と変動証拠金に分かれます。変動証拠金はデリバティブの時価が変化した場合、その都度受け渡す証拠金である一方、当初証拠金とは、金融機関がデフォルトした場合、クローズアウトするまでのリスク(ポテンシャル・フューチャー・エクスポージャー)に対処するための証拠金といえます。我が国の証拠金規制では当初証拠金と変動証拠金それぞれに規制が課されており、前者はマーケットの変動等を勘案して必要に応じて受け渡す一方、後者は一定の金額を超えた場合*3、日次で受け渡すことが求められています。
証拠金規制の肝は当初証拠金にあるといえます。たしかに、当初証拠金そのものは金融機関の間でCSA(Credit Support Annex)契約を通じて金融危機前から受け渡しがなされていたといえます(CSA契約については後述します)。しかし、証拠金規制の導入により、当初証拠金を受け渡すことのルールが明確化されたという意味で、証拠金規制の導入はそれまでにない非連続的な変化といえます。詳細は後述しますが、証拠金規制では、破綻時にその担保が返ってこなくなることを防ぐために信託やカストディアンに分別管理する(相手先の破綻リスクから遮断する)ことを求めるほか、証拠金の算出方法が具体的に定められました。
2.2 保有期間10日間の99%ヒストリカルVaR
前節では証拠金規制において当初証拠金が重要である点を強調しましたが、まず、読者に抱いてほしいイメージは、保有期間10日間の99%ヒストリカルVaR(Value at Risk)で(証拠金規制における)当初証拠金を計算するというものです。VaRとは過去のデータに基づき算出される統計的なリスク計測手法です。保有期間10日間の99%ヒストリカルVaRとは、過去のマーケットデータに基づき、1%番目に大きな損失額を、そのポジションにおけるリスク量にするという考え方です。例えば、過去5年のデータを取得し、あるデリバティブの10日間の価格の変化を計算したうえで、損失率が大きいデータから順番に並び替え、1%番目に損失率が大きいデータが、5%の価格の下落であったとします。この場合、仮にそのポジションが1億円であれば、500万円を当初証拠金として受け渡すということです。服部(2022)では中央清算機関でクリアリングする場合における当初証拠金の算出方法は、保有期間5日間の99%期待ショートフォールと説明しましたが、証拠金規制では、保有期間が5日から10日と2倍になっている点に注意してください(保有期間が5日から10日になっているのは中央清算機関の場合、クローズアウトの期間が短いからですが、詳細は服部(2022)を参照してください)。
実際の当初証拠金の算出にあたっては、「標準的手法」と「内部モデル法」という2つの方法が認められています。前者はデリバティブ取引の想定元本に「掛け目」を掛け合わせる形で簡易的に計算がなされますが、筆者の理解では「標準的手法」は、「内部モデル法」で計算した場合に比べ、証拠金の金額が大きくなること等を背景に、「内部モデル法」が用いられる傾向があります*4。
服部(2021a)で説明しましたが、VaRはデュレーションなどと異なり、様々な資産のリスク量を統合化できるというメリットを有しています。ある金融機関に膨大な取引があったとしても、それを統合することで、「今のポジションのリスク量は〇〇億円です」という形でリスク量を集約することができるわけです。証拠金規制ではその集約したリスク量を証拠金の金額として用います。実際にVaRを計算するにあたっては、Standard Initial Margin Model(SIMM(「シム」と読みます))と呼ばれる業界標準のモデルがあるのですが、その詳細は後述します。
2.3 証拠金の分別管理
証拠金規制において当初証拠金が重要である点を強調しましたが、「分別管理」*5が求められている点も重要な特徴です(一方、変動証拠金に関しては分別管理は不要であり、ネッティングされる点に注意してください)。例えば、読者が金融機関のトレーダーで、他の金融機関Aと取引をしたとします。その場合、前述のとおり、保有期間10日間の99%VaRに立脚して当初証拠金を計算し、信託やカストディアンを通じて、双方で当初証拠金を受け渡す必要があります。具体的には算出された金額が1億円であれば、読者は1億円の証拠金を差し出すとともに、A社から1億円の証拠金を受け取ります*6。当初証拠金の場合、このようにお互い受け渡すという点が重要なポイントです(ネッティングするわけでなく、「グロスベース」*7での受け渡しが求められているわけです)。また、信託やカストディアンという第三者を介して証拠金を受け渡すという点も重要な特徴です。
ここでは読者と金融機関Aの取引を考えましたが、そのヘッジとして、読者が別の金融機関Bと逆方向の取引を行ったとしましょう。同じように保有期間10日の99%VaRを算出し、1億円の当初証拠金を相互に受け渡す必要性が生まれますが、証拠金規制では、この証拠金について先ほどの証拠金とはネッティングせず、別々に管理しておく必要があります(図表1 証拠金規制における分別管理のイメージが分別管理のイメージです)。読者がA社と取引した契約をヘッジするため、B社と逆のポジションをとった場合でも、それを相殺することはできず、別々に証拠金を計算して受け渡す必要があるわけですから、分別管理により証拠金が非常に大きなものになるというイメージを持てると思います。
ここでは簡単化のため1つの取引を例にしましたが、現実的には読者が金融機関のトレーダーであれば、A社やB社と様々な取引を行なっていると考えるのが普通です。そのため、A社およびB社との取引のポートフォリオから保有期間10日間の99%VaRを計算し、その金額の証拠金を受け渡すという形がとられています。
2.4 証拠金規制の対象と導入時期
以上が証拠金規制の概要になりますが、ここからもう少し細かな論点について説明をしていきます。前述のとおり、証拠金規制では、あくまで大規模な金融機関同士が、中央清算機関でクリアリングされないOTCデリバティブ取引をする際に求められる規制です*8。逆に言えば、事業会社や小規模の金融機関が取引する場合、証拠金規制の対象にはなりません。例えば、事業会社がある金融機関から為替スワップを使ってドルファンディングをした場合、これは大規模な金融機関同士の取引ではないため、証拠金規制の対象にはなりません。また、大規模な金融機関が小規模の金融機関と取引をしたとしてもその対象にはなりません(金融機関の場合、小規模であっても監督指針によりCSA契約の締結により変動証拠金の受け渡し等が求められますが、この点は3節で説明します)。このような措置が取られた背景には、金融危機で経験したような大手金融機関の破綻によるシステミック・リスクを防ぐことが証拠金規制の主たる目的であるからと考えられます。
また、OTCデリバティブ取引の中でも、為替スワップや通貨スワップにおける元本部分の為替リスクについては規制対象になっていない点も大きな特徴です。為替スワップや通貨スワップはそれぞれ最も取引されているOTCデリバティブ取引の一つといえますが、標準化が困難である等を理由に、中央清算機関では清算されていません(為替スワップや通貨スワップの詳細は服部(2017)を参照してください)。その意味では証拠金規制の対象になりますが、あくまで金利リスク部分に証拠金が求められ、元本部分の為替リスクについては求められていません(もっとも、グレゴリー(2018)は証拠金規制においてこのような措置に異論もあると指摘しています*9)。
証拠金規制は、2016年9月から導入が始まりましたが、当初はグループ全体で対象となるデリバティブの想定元本が420兆円を超える巨大な金融機関から導入が始まり、その後、順次、導入がなされています。最終段階のフェーズ6においては、地域金融機関や生命保険会社等へも適用され、その影響が大きいことから、当初証拠金を示すIM(Initial Margin)を用いて、「IMビッグバン」ということもあります*10。
2.5 証拠金の管理および適格担保
上述のとおり、分別管理など金融危機を防ぐという観点で様々な規制が敷かれているわけですが、証拠金規制において、受け取った当初証拠金を運用できない点も重要な特徴です。変動証拠金は、日々の時価の変動を受け渡しますから、勝ち負けを相殺することもできますし、受け取った証拠金を運用することもできます。しかし、証拠金規制における当初証拠金については、例えばレポに出すなどの形で運用することは認められておらず、いわば金庫に入れておくというイメージで保管することが求められています。証拠金規制ではお互いに多くの当初証拠金を受け取るわけですが、これはあくまでデフォルトしてからクローズアウトするまでに用いる資金であり、この証拠金を用いて、高いリスクを有する資産で運用を行うとすれば本末転倒といえます*11。
実際にどのような資産で証拠金の受け渡しをするかについても、証拠金規制ではシステミック・リスクを防ぐため、保守的な措置が取られています。例えば、証拠金に用いることができる資産は、現金などの流動性が高い資産でなければなりません。仮に流動性が低い資産を差し出した場合、ディスカウント(ヘアカット)される設計がとられています。特に金融危機時にはいわゆる誤方向リスク(Wrong Way Risk)が問題視されました。誤方向リスクとは、カウンターパーティの信用力とエクスポージャーの大きさが逆相関を持っている、すなわち、デリバティブ取引のエクスポージャーが大きくなる場合に、カウンターパーティの信用力が悪化し、デフォルトの確率が上がるという状況を指します*12。誤方向リスクが金融危機を深刻化させたとの反省から、BCBSにおいて誤方向リスクの適切な管理の重要性が指摘されました。証拠金規制において、このように差し出せる資産を限定している点は誤方向リスクへの対応と解釈できます*13。

3 証拠金規制とCSA契約
これまで証拠金規制における証拠金の取り扱いについて説明してきましたが、実際の証拠金の受け渡しはCSA契約に基づいてなされます。その意味で証拠金規制は、証拠金規制が求める内容と整合的なCSA契約を義務化する規制という側面も有しています。そもそも、清算集中義務や証拠金規制が始まる前から、特に大手の金融機関では証拠金を受け渡す慣行が広がっていました。デリバティブ市場では、ISDA(International Swaps and Derivatives Association)と呼ばれる業界団体が存在し、ISDAが作成したデリバティブ取引に関する基本契約の雛形が広く使われています。これはISDAマスターと呼ばれており、OTCデリバティブ取引の契約書の業界標準になっています。CSA契約とは、ISDAマスターにおける付属(Annex)契約であり、デリバティブ取引における担保に関する契約はCSA契約を通じてなされています。
2016年以降、証拠金規制の導入により厳密な証拠金の受け渡しが求められるようになったことで、証拠金規制の内容と整合的なCSA契約の締結がデリバティブ取引で求められるようになりました。ISDAマスターそのものは1985年に導入され*14、CSA契約は1994年から1995年にかけて導入*15されたとされています。当初の利用者は大手の金融機関に限定されていましたが、金融危機を受けて厳格な証拠金の受け渡しが求められるようになりました。証拠金規制においては、当初証拠金と変動証拠金それぞれに対して、証拠金規制対応のCSA契約の雛形が公表されています*16。証拠金規制に対応するため、既存のCSA契約について変更を加えたり、規制に対応した新規のCSA契約を締結し直すことが行われています。
前述のとおり、証拠金規制は大規模な金融機関に課されているものの、小規模の金融機関についても監督指針を通じて変動証拠金についてCSA契約の締結が求められている点には注意が必要です。具体的にはOTCデリバティブ取引残高が3,000億円以上の金融機関に対しては金融商品取引業等に関する内閣府令(業等府令)に基づき、変動証拠金について規制が課されています。加えて、3,000億円未満である金融機関についても、CSAの締結による変動証拠金の受け渡しについては監督指針に基づく規制が課されています。例えば大規模な金融機関と小規模な金融機関の間で中央清算機関におけるクリアリングがなされないOTCデリバティブ契約を結んだ場合、CSA契約の締結が求められることになります(この場合、少し緩やかな規制になっています*17)。
このようにCSA契約を通じて広い主体に対して証拠金が求められることは、もちろん金融危機を防ぐという側面もありますが、金融機関にとってもプラスに寄与しえます。例えば、読者が比較的小規模の金融機関(金融機関A)とデリバティブ取引を行ったとします。そのヘッジのため、大規模の金融機関(金融機関B)と、逆方向のデリバティブ取引を行ったとします。この場合、ヘッジをしているため、一方の取引の損益がプラスであれば、他方はマイナスになります。もっとも、もし仮に金融機関Aとの間でCSA契約がなされていないと、例えば、読者が小規模の金融機関Aとの取引で勝ちのポジションである場合、大規模の金融機関(B)には変動証拠金を差し出さなければならない一方、小規模の金融機関(A)からは受け取れないということが起こります(図表2 取引相手の一方にCSA契約がないケース)。この場合、読者はこの証拠金を調達してこなければなりません。実は、金融危機時には勝ちポジションの相手から証拠金を得られないことで資金がショートするということが問題になったのですが、仮に、金融機関AともCSA契約を結ぶことができれば、金融機関Aから証拠金を受け取ることができますから、資金のショートを防ぐことができます。このような観点でみると、多くの金融機関に証拠金取引を求めることは金融システムの安定化に寄与するといえます(この点について後ほど違う観点で議論します)。
前述のとおり、CSA契約とはISDAマスターの付属契約ですが、実際のCSA契約では証拠金について詳細に規定されています。ISDAマスターやCSA契約の詳細に触れることは本稿の目的を超えるため、東京三菱UFJ銀行(2014)など実務家向けに記載されたテキストを参照していただければ幸いです。

4 Standard Initial Margin Model(SIMM)とは
4.1 SIMMが用いられる背景
前述の通り、証拠金規制における当初証拠金を算出するうえで、保有期間10日間の99%ヒストリカルVaRが用いられます。そのため、例えば過去のデータを数年間取得して、そのデータを用いてヒストリカルVaRを計算するというのが一案です。もっとも、実務的には、VaR相当額を算出する業界標準の簡易的な計算方法があり、この方法が広く用いられています。この方法はISDAのStandard Initial Margin Model(SIMM)と呼ばれており、この手法はバーゼル規制における市場リスク規制の標準的方式と整合的になっています。本節ではここからSIMMについてごく簡易的に説明をしていきます。
実務的にSIMMが活用されている理由は複数あります。第一に、前述の通り、証拠金規制ではお互いに当初証拠金を受け渡しますから、その金額は膨大になります。そのような中、各金融機関がそれぞれ異なる計算方法を用いた場合、受け渡す証拠金に大きな違いが生まれ、混乱が生じる可能性があります。そこで各金融機関がSIMMという統一のフレームワークを用いることで、算出される証拠金に大きな乖離が生まれることを防ぐことが可能になります*18。第二に、膨大にあるデリバティブ取引に関するヒストリカルVaRを計算することは非常に手間がかかります。その一方、SIMMを用いれば非常に簡易的にヒストリカルVaR相当額を算出することができます。SIMMの仮定は、専門家から見ると驚くくらいシンプルですが、その一方で保守的に算出する工夫もなされており、十分な証拠金の受け渡しが可能になっています(詳細は後述します)。
ISDAはSIMMを定期的にアップデイトしています。これまで通貨ベーシスを新たなファクターに追加するなどの改定がなされています。また、このモデルの正しさに関する検証もなされており(バックテスティングといわれています)、各金融機関はその結果をISDAに提示するなどしています。

BOX 1 ISDA契約におけるプロトコル
デリバティブ契約では、業界団体であるISDAの統一フォーマットを用いることで取引を円滑にする工夫がなされています。しかし、ISDAの契約の変更が必要になることがあり得ます。そこで各主体が一定の契約に批准することで、批准した間で新しい契約に書き換える仕組みが存在しており、これをプロトコルと呼びます。図表3 プロトコルのイメージがプロトコルのイメージです。図表3ではA、B、Cがプロトコルに批准することによりその範囲で既存契約を書き換え、合意がなされているといえます。服部(2021b)では「『国際スワップ・デリバティブズ協会(International Swaps and Derivatives Association, ISDA)』が定めるフォールバック規定を取り込んだデリバティブについてはISDA準拠の契約がほとんどであり、契約者が同意した場合、既存契約を書き換える仕組み(プロトコル)が存在しています。このプロトコルに批准することにより、LIBOR移行のプロセスを円滑に進める工夫がなされています」(p.23)としており、LIBORの移行についてプロトコルが用いられた点を指摘しています。

4.2 感応度アプローチ
ここから証拠金規制におけるSIMMを用いたVaRの計算のイメージを説明します。まず、SIMMでは、感応度アプローチ(Sensitivity Based Approach)と呼ばれる手法を用いてVaRを計算しています。感応度アプローチとは、直観的には、トレーダーなどが有する各ポジションのリスク量を、まずは感応度に分解した後、ボラティリティ(標準偏差)や相関関係などを利用して、VaRを算出するというものです。服部(2021a)ではグリッド・ポイント・センシティビティ(GPS)と呼ばれる感応度を用いてVaRを算出する例を取り上げましたが、感応度は、例えば10年金利が1bps変化した場合にどの程度損失が発生するかを表します。服部(2021a)では、VaRの計算方法の一つとして「分散共分散法」と呼ばれる手法を紹介し、自らのポジションを感応度に分解すれば、各感応度のボラティリティや相関係数を算出することにより、簡易的にVaRを算出できることを説明しました。
このように感応度に分解してリスク管理をすることは、実務的に非流動的なデリバティブを管理するうえでも広く用いられています。例えば、非流動的なデリバティブを担当するトレーダーは、自らのポジションをグリークス(デルタやガンマ等)と呼ばれる感応度に分解したうえで、その各リスクを潰す(ヘッジする)ことでリスク管理をしています(グリークスについては筆者が記載した「国債先物オプション入門」やハル(2016)を参照してください)。その意味で、中央清算機関でクリアリングされないような非流動性資産について感応度アプローチを使うことは、実務と整合性がある手法を用いているとみることができます。
また、流動性が低いデリバティブについて過去のプライスのデータを得ること自体が困難という問題点もあります。SIMMにおける各感応度として採用されているリスク・ファクターは、例えば2年金利や10年金利など、過去のデータを容易に取得できるがゆえ、モデルを用いてそのリスク量を各感応度に落とし込めば、仮にそのデリバティブそのものの価格推移が見えなかったとしても、VaRを算出することができます。
モデルを用いて感応度を計算するというと直観的にわかりにくいかもしれません。例えば、感応度に立脚した金利リスクの代表例としてデュレーションがありますが、10年国債の場合、そのデュレーションは10程度とされています*19(デュレーションと債券の年限はおおよそ一致するのですが、そのロジックについては筆者が記載した「金利リスク入門」をご参照ください)。デュレーションが10とは、イールドカーブがパラレルに1bps上昇した場合、(100円あたり)10銭程度の損失を計上することを意味しますが、この事例をみても、実際のデータがなかったとしても、モデルがあれば感応度を算出できることがわかります*20。
このような観点で見れば、SIMMを用いることとは各社のモデル選択の自由を認めたうえで、共通して用いられる簡易的な手法を採用していると解釈することもできます。後述しますが、各種感応度を計算するモデルは、SIMMにおいてブラックボックスになっています。このようにすると各社が証拠金を低くするようなインセンティブを有すると感じるかもしれませんが、実際にはアセット・クラス(プロダクト・クラス)*21間の分散効果を認めないなど保守的な運営がなされています。
4.3 具体的な計算のイメージ
感応度の定義
ここからSIMMの計算方法についてごく簡単にそのイメージを説明していきます(実際の詳細な計算のイメージはSIMMのドキュメントをみてください)。例えば読者が金利デリバティブのポジションを有していたとします。そのうえで、例えば5年金利や10年金利が1bps動いた時に、そのポジションの時価がどのように変化するかを計算します。これはある金利が1bps動いた場合の損益ですから、金利の感応度を考えているといえます(本節では簡単化のために金利の感応度だけを考えます)。Skをある年限の金利が1bps変化したときのデリバティブの時価の変化とすると、下記のように表現できます*22。
V(rk)は現状の時価であり、V(rk+1bp)はある年限の金利(rk)が1bps上昇した時の時価です。Skは具体的には1年金利や2年金利を動かした場合の時価の変化として把握されます。ここではVというブラックボックスの関数で記載されていますが、ここはいわば各社がモデルを用いて計算する部分になります(服部(2021a)では、日本国債について各金利が1bps動いた時の感応度の具体例を紹介しています)。
リスク・ウェイトを掛けることで感応度毎のリスク量を算出
SIMMでは、このようにモデルを使って感応度を算出したうえで、SIMMが提供するリスク・ウェイト(RWk)を掛け合わせることで、感応度毎のリスク量を計算します。具体的には、先ほど言及した感応度に対して、各年限のボラティリティを掛け合わせることで(WSk=RWksk)、各グリッド毎のリスク量(WS1 … WSk)を計算します*23。前述のとおり、例えば、10年金利が1bps変化した時の時価の変化を感応度として把握するわけですが、実際に10年金利の動きをみると、10年金利が(1営業日で)1bps動いているわけではありません。そのため、1bps動いた感応度を実際の過去の動きに立脚した値に変換するため、過去の値から算出したボラティリティと感応度を掛けることで、実際の動きに立脚したリスク量に変換します。例えば、過去のデータによると10年金利が1日で±5bpsのレンジ*24で動いている場合、1bpsの変化で計算した感応度を5倍することで、実際の変動に立脚したリスク量を算出できるわけです。これがWSk=RWkskのイメージになります*25。
行列計算によりVaRを算出
SIMMでは、そのうえで、下記のような行列計算をすることで、各感応度を統合してVaRを算出し、それを受け渡す当初証拠金の金額とします*26。
この式はという形でも表現することができますが(Pklは金利グリット間の相関係数)、SIMMのドキュメントではこの表現が用いられる点に注意してください(これはスタンダードなVaRの計算方法ですが、上記の式からVaRの算出のイメージを掴みたい読者は服部(2021a)やリスク管理のテキストを参照してください)。
SIMMがシンプルな理由:ボラティリティや相関係数がISDAにより指定されている
SIMMが特に簡易化されている点は、各感応度のボラティリティや相関係数を自ら推定するわけではなく、ISDAにより指定されている点です。金融機関のリスク管理で実際にVaRを計算する場合、各金融機関がボラティリティや相関係数などをもちろん自ら推定するのですが、SIMMの場合、本来推定すべき値がISDAにより与えられているということです。特に、SIMMでは多くの通貨の金利について同じボラティリティや相関係数を指定するなど、驚くくらいシンプル化されています。実際には通貨毎で金利の水準や変動が全然違うということは読者も実感があるでしょうから、SIMMにおいてVaRの算出が著しくシンプル化されているという印象を持つと思います。SIMMでは、感応度として用いられるグリットも指定されています(例えば金利については2週間、1か月、3か月、6か月、1年、2年、3年、5年、10年、15年、20年、30年毎に感応度を計算します)。
SIMMにおける簡易化は合意の工夫と解釈することも大切
もっとも、前述の通り、このような単純化は、金融機関毎に似た値を算出するための工夫と理解することも非常に重要です。VaRの計算では、計算に用いるデータの期間を少し変えるだけで、全く違う値になることが頻繁に起きます。その背景には、データの期間を変えることで、ボラティリティや相関係数の値が大きく変わることがあります。逆に言えば、SIMMにおいてボラティリティと相関係数が指定されていることで、各金融機関で算出される証拠金の金額が似通ったものとなり、合意しやすい証拠金を算出することが可能になるとみることもできます。
また、あくまで感応度を計算するためのモデルは各社に裁量がある点にも目を向ける必要があります。例えば金利感応度では、Sk=V(rk+1bp)-V(rk)という抽象的な関数で評価されていましたが、これは感応度を計算するモデルの選択が許容されているとみることもできます。
プロダクト・クラス毎に算出された証拠金を合算
ここまで金利を例として用いてきましたが、SIMMにおけるアセット・クラス(プロダクト・クラス)は、金利・為替、クレジット、株、コモディティに分類されており、それぞれで算出されたVaRを合計することで証拠金の金額を計算します。具体的には、
という計算をします。これは金利だけでなく、クレジットや株、コモディティについて単純合計することで証拠金を計算しているわけですが、これはプロダクト・クラス間での分散効果が働かないこと(相関係数が1)を意味しています。このような仮定は、VaRを算出する上で保守的な計算をしていると解釈することができます。
以上がSIMMの特徴になりますが、ここまで線形代数を用いた説明をしてきたため、感応度に立脚してVaRを計算することで、計算が簡易化されることのイメージは付きにくいかもしれません。実際に計算してみると最低限の線形代数の知識さえあれば非常に簡単にVaRを計算できることが実感できるため、詳細を知りたい読者はリスク管理に関する実務家のテキストを参照することをお勧めします。また、本稿ではSIMMのイメージを掴むことを目的としているため、金利のデルタのみに焦点をあてましたが、実際にはヴェガ(Vega)や非線形リスク(Curvature)も考慮されています。その詳細を知りたい読者はSIMMのドキュメントやAndersen and Pykhtin(2018)などを参照してください。

5 その他の論点
5.1 XVAとは
最後に、服部(2022)や本稿において取り上げられなかったその他の論点について簡潔に整理します。例えば読者が金融機関とOTCデリバティブ取引の契約を結ぶ際、取引相手となる金融機関の信用力が高い場合は安心して取引できます。しかし、仮に取引相手の信用力が低いケースでは、その分不利(カウンターパーティ・リスクが高い)な契約だと考えられます。そのため、実際に取引する際には、信用力が低い相手の場合、取引価格にその分の調整を求めることが合理的に思われます。現在、デリバティブの価格にこの調整を行う慣行が普及しており、「信用評価調整(Credit Valuation Adjustment、CVA)」と呼ばれています。
CVAとはいわばカウンターパーティ・リスクの市場価値に相当するものですが、金融危機時にカウンターパーティ・リスクが顕在化したことから、OTCデリバティブ取引においてカウンターパーティ・リスクを考慮する必要性が高まりました。CVAの直観的なイメージは、貸出における貸倒引当金に類似しています。貸出では、貸出先が倒産する可能性を考慮し、その確率や倒産した際の回収率を見積り、貸倒引当金を計上することが通常です。OTCデリバティブ取引においても、貸出と同様、相手がデフォルトすることにより損失を被るのですから、カウンターパーティがデフォルトした場合を見越して引当金を積む必要があるといえます。CVAはこのような文脈でデリバティブ取引におけるカウンターパーティ・リスクの貸倒引当金と解釈することができます(デリバティブの時価から、その引当金に相当するCVAを控除することでデリバティブの公正価値が計算できます)。
金融危機以降のデリバティブの評価において、CVA以外についても様々な調整が求められています。例えば、読者がA社と標準的なOTCデリバティブ契約を結ぶ一方で、そのヘッジとしてB社と同種の契約を結んだケースを考えます。その際、A社との契約にはCSA契約がなく、証拠金の受け渡しがない一方、B社との契約についてはCSA契約を締結しており、証拠金の受け渡しがあるとしましょう。これは前節で取り上げた事例になりますが、前述のケースと同様、仮にB社との契約の時価がマイナスに動いた場合、読者はB社へ証拠金を差し出さなければなりませんが、A社からは証拠金を受けとることができません。したがって、読者はB社へ差し出す証拠金を自ら調達してくる必要があり、それは読者にとって追加的なコストになります。それゆえ、読者にとってA社との契約については事前にこのコストを調整した価格を求めることが合理的です。これはいわば証拠金の受け渡しがないことに係る調整になりますが、これをFunding Value Adjustment(FVA)といいます。現在の標準的なデリバティブ契約では中央清算機関やCSA契約を通じて証拠金の受け渡しをすることが多いのですが、証拠金の受け渡しがないケースでは、デリバティブの価格にFVAを調整する慣行が広がっています。
実は、中央清算機関や証拠金規制に伴う当初証拠金の受け渡し等についても調整が求められます。例えば、前述のとおり、中央清算をするうえで当初証拠金を差し出す必要がありますが、その資金については自分で調達してくる必要があります。この場合、読者自身のクレジット・リスクが反映された相対的に高い金利を支払う必要があります。一方、証拠金を差し出すことから得られる金利は無リスク金利程度であり、高い金利で調達して低い金利で運用するという構図が生まれます。デリバティブの価格にはこの部分のコストも調整することが合理的に思われますが、これをMargin Value Adjustment(MVA)といいます。このようにカウンターパーティ・リスクに係る調整についてはCVA、FVA、MVAという形で表現されるため、これらを総称してXVAと表現することが一般的です*27。ちなみに、実際にMVAの値を計算するには、証拠金の金額が将来のポジション変動に依存するため、シミュレーションをする必要があります。その詳細についてはグレゴリー(2018)などを参照していただければ幸いです。
5.2 バーゼル規制における証拠金の取り扱いについて
本稿では証拠金規制について考えてきましたが、同規制はバーゼル規制の一つとされています*28。もっとも、バーゼル規制において証拠金の取り扱いについては、証拠金規制以外でも様々な改革がなされているといえます。
具体的には、バーゼル規制においてデリバティブ取引については、「与信相当額」を用いて信用リスクアセットを算出します。「与信相当額」とは、いわばデフォルト時のエクスポージャー(Exposure at Default)であり、貸出の場合は明確であるため、バーゼルIIでは貸出を主に強調した仕組みがとられていました*29。もっとも、金融危機時に問題となったデリバティブ取引に係る信用リスクについては、規制の整備が不十分であった側面が指摘されています。具体的には、デリバティブ取引の信用リスクアセットを算出するうえで、バーゼルIIで導入されたカレント・エクスポージャー方式(Current Exposure Method, CEM)と呼ばれる非常にシンプルな手法が広く用いられていました*30。CEMでは、信用リスクアセットを「与信相当額×掛け目」というシンプルな計算式で算出しますが、与信相当額の算出に当たっては証拠金について簡便な取り扱いがなされています*31。
CEMは簡便性という観点では有益ですが、これまで述べてきた当初証拠金の影響等を考慮していないなどの問題点を有しているといえます。例えば、グレゴリー(2018)ではCEMについてネッティングの便益の認識が単純化されている点や担保の取り扱いが単純化されている等の問題点を指摘しています*32。そこでバーゼルIIIではCEMに代わる手法が提案されています。例えば、標準的手法(SA-CCR)では、相対ネッティングがある場合、様々な証拠金の特徴を考慮したうえで与信相当額が算出される仕組みになっています*33。グレゴリー(2018)ではSA-CCR導入の目的として、OTCデリバティブ取引に対して、簡便性を維持しながら、実際のリスクに即した規制資本の計算手法を提供することや、中央清算機関に対する資本規制に向けての土台作りをすることが指摘されています*34。
ちなみに、SA-CCRについては当初、2017年に適用開始が予定されていましたが、世界的に導入が遅れていました。もっとも、国際統一基準行および内部格付手法採用行等に対して我が国では2023年3月に、CEMからSA-CCRなどの手法へ移行される予定です。SA-CCRなどデリバティブ取引に係る信用リスクアセットの取り扱いについてはバーゼル規制の中でも複雑な点であるため、詳細は今後取り上げることを予定しています。

6 おわりに
本稿ではOTCデリバティブ規制について取り上げました。次回は国債市場における非価格競争入札を取り上げることを予定しています。

*1)本稿の作成にあたって、富安弘毅氏、仲田信平氏、中山季之氏、藤原哉氏等、様々な方に有益な助言や示唆をいただきました。本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。
*2)下記をご参照ください。
https://sites.google.com/site/hattori0819/
*3)デリバティブの時価が少しが動いただけで証拠金を受け渡さなければならない場合、その事務負担が大きくなります。そのため、7,000万円を上限とする最低引渡額を設定することができます。
*4)標準的手法についても、例えば、複雑な商品についてモデルでの計算ができないなどを理由に使われることがあります。
*5)信託又はカストディアンに預託することが求められています。
*6)後述する通り、金融機関Aと金融機関Bはモデルに基づきそれぞれ当初証拠金を計算するため、計算された両者の値が一致するとは限らない点に注意が必要です(実務的には双方の計算値の小さい額あるいは大きい額をやり取りするなどの工夫がなされているようです)。また、その乖離が大きい場合、感応度を比較するなど、双方で原因の調査をするとされています。
*7)変動証拠金はどちらかが勝ったらどちらかが負けるといういわばネットの概念ですが、証拠金規制では当初証拠金をネッティングせず、グロスで受け渡すという規制が課されています。
*8)取引規模の小さい金商業者等も変動証拠金の受け渡しを行う必要がある(想定元本3,000億円以上は業等府令、3,000億円未満は監督指針により変動証拠金の授受が求められている)点に注意が必要です。適用範囲の詳細については業等府令や鈴木(2016)などを参照してください。
*9)詳細はグレゴリー(2018)のp.171を参照してください。
*10)IMビッグバンについてはコロナの影響から2回延期されています。詳細は下記を参照してください。
https://www.fsa.go.jp/news/r1/shouken/20190924-1.html
https://www.fsa.go.jp/news/r1/shouken/20200415-1.html
*11)証拠金規制における当初証拠金は、このように分別管理やその証拠金の運用ができないことから、この規制の対象となる金融機関は、差し出す証拠金を調達する中で金利負担が発生する一方、受け取った証拠金を運用できないため、大きなインパクトがあるとされていました。
*12)ここでの定義は富安(2014)を参照とした書きぶりをしています。詳細は同書のp.282を参照してください。
*13)グレゴリー(2018)でも証拠金規制における「担保は『誤方向』、すなわちカウンターパーティのデフォルトと相関するものであってはならない」(p.170)と指摘しています。
*14)グレゴリー(2018)のp.83を参照。
*15)三菱東京UFJ銀行(2014)を参照しています。
*16)証拠金規制に関係ないデリバティブついては従来のCSAが用いられることがあります。なお、CSAは日本法版CSA、NY州法版CSAなど複数ある点に注意が必要です。
*17)例えば、残高が3,000億円以上の金融機関には変動証拠金は毎日受け渡す必要がありますが、これ以外の金融機関には、日次よりも低頻度で定期的に変動証拠金の受け渡しが求められるなど、後者は若干緩やかな規制になっています。
*18)グレゴリー(2018)では、「内部モデルの機能設計には大幅な解釈の余地があるので、カウンターパーティ同士の紛争を招き、さまざまなモデルの当局承認を得るべく多大な労力を要することが避けられないだろう。ISDAは主要な銀行とともにSIMM(Standardized Initial Margin Method)を開発してきたが、これは別々の証拠金モデルが方々で使われてしまい、当初証拠金に関する紛争が避けられなくなるような事態を防ぐためである」(p.176)としています。
*19)ここではGPSではなく、デュレーションとして例を挙げている理由は、10年国債のデュレーションが10弱であるということを実務家は皆知っているため、より直観的であると感じたからです(デュレーションもGPSと同様、感応度です)。デュレーションとGPSの関係については服部(2021a)を参照してください。
*20)国債の価格をキャッシュフローの割引現在価値として表現し、各年限の金利を動かした場合に時価がどの程度になるかをすることで感応度を計算します。筆者が記載した「金利リスク入門」のBOXに数式を用いて説明しているため、詳細はそちらを参照してください。
*21)ここではSIMMのドキュメントに基づき、プロダクト・クラスという表現を用いています。
*22)ここでの表記はSIMMのマニュアルに沿っています。
*23)実際には、これにconcentration risk factorを掛け合わせていますが、これはこの点はわかりやすさのために捨象しています。
*24)厳密にいえば信頼区間で考える必要がありますが、ここでは省略しています。詳細は筆者が記載した「国債先物オプション入門」などを参照してください。
*25)ちなみに、バーゼル規制では、標準的手法により信用リスクアセットの計測の際に、「与信額×リスク・ウェイト」という計算をします。
*26)日本語の文献では、斎藤(2017)が金利デルタをベースにSIMMの説明をしています。
*27)本稿では、DVAやKVAなど、その他のXVAについては触れていません。これらの詳細はグレゴリー(2018)を参照してください。
*28)例えば、BCBSによる「Progress report on adoption of the Basel regulatory framework」においても「Margin requirements for non-centrallycleared derivatives」という項目が存在します。
*29)グレゴリー(2018)では「バーゼルIIの枠組みで主に強調されたのは、ローンのように比較的エクスポージャーが固定されている金融商品であった」(p.235)としています。
*30)富安(2014)では、「海外の大手金融機関のほとんどは内部モデル方式を使っているが、日本では、歴史的にカレントエクスポージャー方式が多く用いられてきた。しかし、近年日本においても、先進行を中心に内部モデル方式への移行を検討するところがふえつつある」(p.85)としています。
*31)CEMの与信相当額は、「再構築コスト」と「アドオン(ポテンシャル・フューチャー・エクスポージャーに相当する部分)」の合計として定義されており、「再構築コスト」は計算基準日の時価評価額です。アドオン(ポテンシャル・フューチャー・エクスポージャーに相当する部分)は想定元本×掛け目で計算されます(ここでの記述は吉藤(2020)のBOX12を参照しており、詳細は同書を参照してください)。SA-CCRでは証拠金の取り扱いが改善されていますが、これは注33を参照ください。
*32)グレゴリー(2018)ではCEMの問題点として4点指摘しており、その他にはアドオンに関する問題点が指摘されています。詳細は同書のp.246~247を参照してください。
*33)SA-CCRと呼ばれる手法では、与信相当額を「乗数(1.4)×(再構築コスト+ポテンシャル・フューチャー・エクスポージャーのアドオン)」としています。そのうえで、再構築コストについてはマージン・アグリーメントの有無(変動証拠金授受の有無)により分かれます。マージン・アグリーメントがある場合、再構築コストはmax(デリバティブの時価合計-正味の取得担保額、変動証拠金のマージンコールとならない最大値、0)であり、証拠金の取り扱いが精緻化されています(ここでの説明は吉藤(2020)のBOX12を参照としています)。ここでは再構築コストのみを紹介しますが、将来の潜在的なエクスポージャー(ポテンシャル・フィーチャー・エクスポージャー)の算出方法についても担保が考慮されるような仕組みになっています(紙面の関係上割愛しますが、詳細は吉藤(2020)やBCBSのドキュメントなどを参照してください)。
*34) グレゴリー(2018)では、SA-CCRの導入の目的として、「一つ目は、相対の店頭デリバティブに対し、簡単だがリスク感応的な規制資本計算の手法を提供することである。二点目は、中央清算機関に対する資本規制に向けて、同様によりリスク感応的な計算の土台を提供することである」(p.247)としています。

参考文献
[1].斎藤祐一(2017)「金融規制の複合的影響を考慮したXVA」金融研究 第36巻第2号
[2].鈴木利光(2016)「非清算店頭デリバティブ取引の証拠金規制 <訂正版>」大和総研
[3].富安弘毅(2014)「カウンターパーティリスクマネジメント(第2版)」きんざい
[4].服部孝洋(2017)「ドル調達コストの高まりとカバー付き金利平価」『ファイナンス』10月号、56-63.
[5].服部孝洋(2021a)「グリッド・ポイント・センシティビティ入門―日本国債およびバリュー・アット・リスクの観点で―」ファイナンス3月号、80-88.
[6].服部孝洋(2021b)「リスク・フリー・レート(RFR)入門-TONA,TORF,OISを中心に-」『ファイナンス』12月号、14-24.
[7].服部孝洋(2022)「店頭(OTC)デリバティブ規制入門-清算集中義務と中央清算機関(CCP)について-」『ファイナンス』7月号、20-31.
[8].三菱東京UFJ銀行(2014)「デリバティブ取引のすべて~変貌する市場への対応~」きんざい
[9].吉藤茂(2020)「図説 金融規制の潮流と銀行ERM―続・金融工学とリスクマネジメント」きんざい
[10].ジョン・グレゴリー(2018)「xVAチャレンジ―デリバティブ評価調整の実際」きんざい
[11].ジョン・ハル(2016)「フィナンシャルエンジニアリング〔第9版〕―デリバティブ取引とリスク管理の総体系」きんざい
[12].Andersen, L., Pykhtin, M.(2018)「Margin in Derivatives Trading」Risk Books