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地域開発金融機関(RDBs)の年次総会について


前国際局開発機関課課長補佐 影山 昇*1


1 概要
国際開発金融機関(MDBs)のうち、特定の地域における開発を支援する地域開発金融機関(RDBs)であるアジア開発銀行(ADB)、米州開発銀行(IDB)グループ、欧州復興開発銀行(EBRD)及びアフリカ開発銀行(AfDB)グループについては、例年、春頃にそれぞれ年次総会を開催している。
昨年は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、全てのRDBsの年次総会がバーチャル形式での開催となった。本年は、IDBグループの年次総会については、新型コロナウイルスの感染状況等も踏まえ、3月にバーチャル形式*2で開催された一方、EBRDとAfDBグループの年次総会については、5月に加盟国等が物理的に出席する対面形式*3で開催された。*4
これらの年次総会は、各地域の開発課題等について、加盟国等が一堂に会して議論を行う重要な会議であるところ、開催順に沿って、概要を紹介したい。

2 米州開発銀行(IDB)
第62回年次総会・米州投資公社(IIC)
第36回年次総会(3月28日)
IDB第62回年次総会及びIIC第36回年次総会は、当初、本年3月にウルグアイのプンタ・デル・エステにおいて、対面とオンラインのハイブリッド形式で開催予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大等の影響を踏まえ、バーチャル形式で開催されることとなり、日本からは、緒方副財務官が臨時総務代理として出席した。
年次総会では、主にIDBグループの新しい価値提案(Value proposition)の実現に向け、IDB・IICのビジネスモデル等に係る更なる分析を求める総務決議案等について議論が行われた。
日本は、総務決議案について、民間セクターの果たす役割が益々大きくなる中で、IDBグループの業務においても民間セクター業務の更なる主流化に向けてグループ間のシナジーを強化する重要性を指摘し、IICにおける理事会構成や資金拠出方法の柔軟化等を含むガバナンスの見直しや多数国間投資基金(MIF)による革新的な業務遂行の必要性を強調した。
また、日本は、総務演説の中で、ウクライナ情勢等のリスクがもたらす不確実性が中南米・カリブ(LAC)地域の実体経済に及ぼす影響を注視していく必要性を指摘するとともに、(1)新型コロナウイルスの感染拡大による影響を世界で最も受けた地域の一つであり、かつ、2030年までに高齢化が最も速いスピードで進む地域になると予測されるLAC地域におけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の推進や、(2)各国の実情を踏まえた温室効果ガスの排出抑制や適応・強靭化等の気候変動への対応、(3)サイバーセキュリティ等にも配慮したデジタル化の推進の重要性を強調した。

3 欧州復興開発銀行(EBRD)
第31回年次総会(5月10日~11日)
EBRD第31回年次総会は、本年5月10日~11日にモロッコのマラケシュにおいて対面形式で開催され、日本からは、大家財務副大臣が臨時総務代理として出席した。
年次総会では、ロシアのウクライナ侵略による影響等について議論が行われ、総務会合(プレナリーセッション)ではウクライナのマルチェンコ財務大臣が出席して発言した。日本は、ロシアのウクライナ侵略について、力による一方的な現状変更の試みであり、国際秩序の根幹を揺るがす、明白な国際法違反であることを指摘し、厳しく非難した。そのうえで、EBRD総務会が迅速にロシア及びベラルーシによるEBRD財源の利用停止を決定したことを歓迎するとともに、国際社会がウクライナ及び周辺国に対する支援に緊急に取り組む必要性を強調しつつ、日本として、EBRDのウクライナ向け支援を後押しするため、27.5百万ドルの技術支援用資金をウクライナ支援向けに移転することを表明した。
こうした議論を踏まえ、議長総括では、(1)EBRDは組織として、ロシアによる攻撃を非難し、又、ロシアに対して軍を撤収するとともに、EBRD設立協定の原則(民主主義・法の支配・市場経済等)に従うことを要請すること、(2)ロシア及びベラルーシによるEBRD財源の利用停止に係る迅速な決定と、モスクワ及びミンスクにある現地事務所の閉鎖を歓迎すること等が言及された。
また、日本は、総務演説において、将来的にEBRDの支援対象地域のサブサハラ・イラクへの拡大について議論をすることは問題ないとしつつ、現状では、EBRDはウクライナ及びその周辺国への支援を最優先すべきであり、今後のウクライナについての情勢や支援ニーズを十分に見極められるようになった段階で、具体的な拡大についての判断を行うべきと指摘した。更に、今般、EBRD東京事務所が新たな拠点にオフィスを構えるとともに、新しい人員・機能を加えて、その体制が強化されたことに言及しつつ、東京事務所が一層重要な役割を果たすことへの期待を示した。

4 アフリカ開発銀行(AfDB)
第57回年次総会・アフリカ開発基金(AfDF)
第48回年次総会(5月23~27日)
AfDB第57回年次総会及びAfDF第48回年次総会は、本年5月23日~27日にガーナのアクラにおいて対面形式で開催され、日本からは、神田財務官が臨時総務代理として出席した。
年次総会では、新型コロナウイルスや気候変動、債務、更にはロシアのウクライナ侵略により、アフリカ諸国が直面している複合的な危機への対応について議論が行われた。
G7等が連携してロシアのウクライナ侵略を厳しく非難する中で、コミュニケにおいても、(新型コロナウイルスの感染拡大だけでなく、)ロシアのウクライナ侵略により深刻化している課題に対する取組の重要性が明記された。
また、日本は、総務演説において、アフリカ諸国が直面する複合的な危機を乗り越え、持続可能で包摂的な成長を実現するためには、(1)食糧安全保障・栄養を確保する持続可能な農業、(2)実効的なトランジションと適応対策、(3)保健分野の支援の強化、(4)債務の持続可能性の回復と透明性の確保が必要不可欠であることを指摘した。そのうえで、日本としてAfDBの取組を支援するため、日本の二国間の信託基金である開発政策・人材育成信託基金(PHRDG)やアフリカ民間セクター向け支援基金(FAPA)を通じて、新たに総額約20万ドルを貢献することを表明しつつ、本年8月に開催される第8回アフリカ開発会議(TICAD8)に向けて、アフリカ自身が主導する持続可能な発展をAfDBグループと共に一層後押ししていくことを強調した。

5 終わりに
新型コロナウイルスの感染拡大や気候変動、ロシアのウクライナ侵略等により、国際社会が深刻な危機に直面する中で、主要な加盟国の代表が集まり、国際社会としての団結を示すことが極めて重要であるところ、一連のRDBsの年次総会は、国際社会の課題を議論し、強いメッセージを発信する場として、その重要性を改めて示す機会となった。現下の危機を乗り越え、強靭かつ持続可能な復興を促進するに当たり、今後もRDBsが果たす役割に期待したい。

*1)本稿において意見の表明に当たる部分は、筆者個人の見解であり、財務省や日本政府の意見を代表するものではない。
*2)IDB事務局や議長国等、一部の出席者は、物理的に開催地で会議に出席。
*3)物理的な出席が困難な一部の加盟国はオンラインで会議に出席。
*4)ADBの年次総会については、本年5月にスリランカのコロンボでの物理的な開催を予定していたが、スリランカ国内における新型コロナウイルスの感染状況等を踏まえ、5月にバーチャル形式で、規模を縮小した総務会(ADBの財務諸表や純益処分に関する審議のみ)を行った上で、本年9月26~30日にフィリピンのマニラにあるADB本部で通常の年次総会で行うことが決定された。