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特集 1872年に発足し150周年を迎える税関のあゆみと未来に向けた取組み

日本は、幕末のペリー来航をきっかけに鎖国から開国へ歩みだした。安政5(1858)年の欧米5か国と締結した修好通商条約により、翌安政6(1859)年に箱館(函館)、神奈川、長崎が開港し、それぞれの開港地に運上所が設置された。これが税関の前身である。
その後、明治5(1872)年に運上所は「税関」と改称され、「税関」としての歴史が始まった。今号の特集では、貿易の伸長と共に歩んできた税関の歴史を振り返りながら、150周年を迎える関税局・税関の取組みについて紹介する。取材・文 向山 勇

呼称統一した際の「照復文書」
写真:井上馨氏と渋沢栄一氏が呼称統一に関わっていた。


税関の役割
貿易の健全な発展に取り組む

安全・安心な社会の実現、貿易の健全な発展のために
税関の歴史を振り返る前に、「税関」がどういった役割を果たしているのかを紹介する。
日本と外国との間で様々な商品が行き交う貿易は、我が国の産業を発展させ、国民生活を豊かにする原動力である。
ただし、国境を越えて商品が行き交う上では、守らなければならないルールがある。
海外から不正薬物等の社会悪物品が国内に入ると国民の生命・健康が脅かされ、また、我が国で開発された製品や技術が海外に不正に流出すれば国の安全を損なうことにつながりかねない。更に、安価な外国商品の流入により国内産業の発展が阻害されるおそれがある。このため税関は、輸出入貨物の検査を実施することで輸出入してはならない貨物を水
際で阻止したり、外国からの貨物に対して関税等を徴収することで、貿易の健全な発展の
ために重要な役割を果たしている。
また、税関は、国際社会の安全、内外の社会経済秩序の維持にも貢献するため、世界全体で流通を阻止すべき薬物、テロ関連物資、知的財産侵害物品を取り締まるとともに、世界税関機構(WCO)等の国際機関や外国税関と協力しながら、世界規模での通関の迅速化による貿易の促進を図っている。
では、今日の税関が長い歴史の中でどのように成長してきたのか。150周年の歴史を「誕生」、「飛躍」、「進化」の3段階に分けて紹介する。


税関の歴史
幕末に設置された「運上所」が「税関」へと改称し正式に発足した

誕生
近代国家の成立とともに税関行政の基礎が確立
幕末から輸出入貨物に対する税の徴収及び入出港する船舶の監督等を行っていた「運上所」が明治5年11月28日(1872年)、「税関」に改称された。明治19(1886)年には「税関官制」が制定され、税関の職制、機構等の官制面における基礎が固まった。
一方、我が国は、幕末に欧米5か国と結んだ修好通商条約により、自国の関税率を設定したり、改正する権利(いわゆる関税自主権)を喪失していた。これが、修好通商条約が「不平等条約」と呼ばれる所以であり、この状態は、明治44(1911)年の日米通商航海条約の締結及び関税定率法の施行までの間、続いた。
安政6(1859)年、わずか3つの開港から始まった外国との貿易では、主に生糸やお茶等が輸出され、綿織物や毛織物等が輸入されていた。
その後、日清・日露戦争等を通じて我が国が対外的に勢力を拡大した時期、国内では繊維産業や製鉄、造船等の重工業が飛躍的に発展し、原材料を輸入、製品を輸出する形で我が国の貿易量は飛躍的に伸長した。これにより、昭和元(1926)年の開港は41港にまで増加し、各地には多くの税関官署が設置されていった。

飛躍
戦後の高度成長による貿易の伸長
戦時中、貿易が停滞し、一時的に閉鎖されていた税関は、外国貿易の再開と共に終戦後間もなくして復活した。当時の主な業務は海外からの引揚者の為替管理の事務や敗戦の混乱に乗じて横行しはじめた密貿易の取締りであった。
我が国は戦後の復興を経て、高度経済成長期を迎えた。経済成長に比例するように、昭和35(1960)年から昭和44(1969)年までの10年間で貿易額は約3兆764億円から約11兆1,649億円へと一気に拡大した。
このように急増する輸出入貨物の流れを停滞させないよう、税関においては、新たな制度やシステムを導入し、通関の迅速化を図った。昭和41(1966)年には関税の申告納税制度を導入し、昭和53(1978)年には通関業務を電子化した航空貨物通関情報処理システム(Air-NACCS)を導入する等、通関手続を合理化し、貿易の加速化に対応していった。
さらに、平成3(1991)年には、貨物の早期引取りを可能とするよう、貨物の到着前に輸入申告に対する審査を行う予備審査制を導入したほか、平成18(2006)年には、法令遵守等の体制が整備された事業者に手続きの緩和・簡素化等のベネフィットを提供する認定事業者(AEO)制度を導入し、貿易の円滑化とセキュリティの確保の両立に取り組んだ。
国際的な面に目を向けると、戦後の国際貿易は「関税及び貿易に関する一般協定(GATT)」が規律していたが、日本を含むGATT加盟国による自由化交渉を通じて貿易の自由化が進む中、国際的にも貿易円滑化は重要なテーマとなっていった。
平成14(2002)年に我が国にとって最初の経済連携協定(EPA)がシンガポールとの間で発効したことを皮切りに、現在までに21のEPAが発効又は署名済であるが、それぞれの協定にも貿易円滑化の規定が盛り込まれている。また、GATTを発展的に引き継ぎ、平成7(1995)年に設立された世界貿易機関(WTO)においても、貿易円滑化協定がまとめられ、平成29(2017)年に発効した。日本人(御厨事務総局長)が組織のトップを務めるWCOにおいても、税関手続の国際的な標準化・簡素化を通じた貿易の円滑化を推進している。
関税局・税関は、こうした国際的な貿易の自由化・円滑化の枠組みづくりに積極的に参画・貢献するとともに、国内の税関手続の不断の見直しを通じて、貿易の円滑化に取り組んでいる。出入国者についてみると、昭和39(1964)年に日本人の海外旅行が自由化されて以降、同年から昭和48(1973)年までの10年間で出入国者数が約102万人から約615万人まで急増した。その後も増加の一途をたどり、アジアを中心とした旺盛なインバウンド需要も相俟って、令和元(2019)年の出入国者数は、過去最多の約1億264万人を記録した。
このようにヒト・モノの動きが活発化する中、不正薬物等の密輸手口は多様化・巧妙化し、税関では、迅速な通関を確保しながら厳格な取締りを実施するため、順次、麻薬探知犬やX線検査装置等の検査機器を導入したほか、近年においては、AIやドローン等の先端技術を用いた取締・検査機器の活用を開始した。税関は、多様化・巧妙化する密輸やテロ等の新たな国際的な脅威にも対応するために、常にその時代の最新機器を使用しながら密輸阻止に取り組んでいる。

進化
「スマート税関構想2020」で世界最先端の税関を実現へ
明治5(1872)年の発足から令和4(2022)年までの150年間、税関は時代の変化に対応しながら進化してきた。
これからも貿易の健全な発展と安全・安心な社会を実現し、国民一人ひとりの幸せを守っていくため、変化する社会情勢に応じ、中長期ビジョンで取り組む必要がある。
そこで令和2(2020)年6月に打ち出したのが、「スマート税関構想2020」である。
写真:1867錦絵「東都名所 鉄砲洲明石橋之景」に描かれた江戸運上所
写真:1869設置当初の新潟運上所。今も建物が現存している。
写真:18861886年制定の「税関官制」(抄)
写真:大正時代の監視艇
写真:昭和初期に密輸されたアヘン
写真:1952通関窓口の様子
写真:1953(上)長崎税関。(下)東京税関。
写真:1972沖縄地区税関。
写真:1998海上巡回により不審事象や不審船舶の発見、漁船等を利用した洋上取引への対処等で活躍。
写真:2001コンテナ貨物の全量取出検査は1本当たり2時間程度かかるが、この装置では10分程度で検査が可能となり、検査時間が大幅に短縮された。
写真:2005貨物や手荷物に付着した薬物や爆発物の微粒子を即時に探知できる。
写真:2019鳥島南西方沖において洋上取引された覚醒剤約1トンを静岡県賀茂郡南伊豆町の海岸において摘発(6月)。


世界最先端の税関へ
中長期ビジョン「スマート税関構想2020」で貿易の健全な発展と安全な社会の実現を目指す

世界最先端の税関への取組み
関税局・税関においては、「貿易の健全な発展と安全な社会、そして豊かな未来を実現する『世界最先端の税関』を目指す」ことを目的として、令和2(2020)年6月に税関行政の中長期ビジョン「スマート税関構想2020」を公表し、税関手続のデジタル化や先端技術の積極的な導入等の様々な施策を進めている。

税関を取り巻く新たな環境変化への対応
一方、「スマート税関構想2020」を取りまとめた後においても、ヒト・モノ・カネの流れの趨勢的な拡大に加え、(1)越境電子商取引の拡大による輸入小口急送貨物の加速度的な増加、(2)民間部門のデジタルトランスフォーメーションを含む経済社会全体のデジタル化の急速な進展、(3)経済安全保障上の脅威への対処を含む新たなニーズの出現等の内外のダイナミックな構造変化は、税関を取り巻く環境を大きく変化させている。
関税局・税関においては、スマート税関構想をベースとしつつ、こうした環境変化に対応できるよう新規施策を加えることを検討しており、税関発足150周年を機に取りまとめる予定である。
写真:チャットボットの導入(税関ホームページの改善)
写真:税関検査場電子申告ゲートの導入


税関150周年記念事業
税関の役割と社会的意義について理解を広め150周年事業を通じて組織力を強化
関税局・税関においては、
(1)150周年を機に、これまで税関が果たしてきた役割・社会的意義について国民の皆
さんに理解を深めていただく
(2)150周年事業を通じて、職員の士気向上及び一体感の醸成による組織力強化を図る
ことを目的に、様々な工夫を凝らしながら150周年事業を実施する予定である。

イベント
税関発足150周年記念式典
▲令和4年11月28日 財務省主催の式典を開催予定
全国での税関展、業務体験会等
▲イベントの詳細は税関発足150周年特設サイト(税関ホームページ)に掲載
写真:記念式典、全国での広報活動、業務体験会等を通じて、幅広く税関について理解を深めてもらいたい。

外部団体との連携事業
税関150周年記念シンポジウム
▲令和4年11月開催予定
日本通関業会、日本関税協会、輸出入・港湾関連情報処理センター(株)の3者共催でシンポジウムを開催。
小中学生絵画コンクール
▲令和4年9月9日募集締切
小中学生に税関の仕事を知ってもらうため、日本関税協会と関税局・税関との共催で絵画コンクールを実施。
大学生フォーラム
▲令和5年3月実施予定
日本通関業連合会と関税局・税関との共催で、大学生を対象としたフォーラムを実施予定。貿易やサプライチェーン等に関する諸問題について研究し、活発な議論を行ってもらう。
プルーフ貨幣セット
▲令和4年10月頃、造幣局発売予定
特殊切手
▲令和4年11月28日、日本郵便発行予定
写真:大学生フォーラム開催チラシ
写真:小中学生絵画コンクールリーフレット

情報発信
税関発足150周年特設サイト
▲令和4年4月開設
税関ホームページに特設サイトを開設し、税関の年表、各税関の紹介、現存する旧税関
庁舎(ゆかりの地)の紹介のほか、関税局・税関の150周年事業についても掲載。
動画制作
▲令和4年3月制作
税関の歴史、これまで取り組んで来た事柄をまとめた動画を制作。
広報記念誌
▲令和5年3月までに制作予定
税関のあゆみ、歴史を振り返りながらの業務紹介等で構成された記念誌を制作。作成済みの一部記事(税関のあゆみ等)については、特設サイトに掲載。
職員による制作物
▲ポスター、ロゴマーク、キャッチコピー、業務風景等の写真
150周年を機に各職員の広報マインドを高めながら、広報資材として活用する様々なコンテンツを職員が制作。150周年事業を盛り上げながら職員の一体感の醸成と組織力強化を図る。
写真:最新情報は特設サイトで
写真:ロングバージョン動画
写真:ショートバージョン動画
写真:水際で守る 日本の未来
写真:職員が制作したポスター、ロゴマーク、キャッチコピー
写真:業務風景等の写真を募集するためフォトコンテストを実施


150周年事業プロジェクトチームを設置
税関の発信力を高め 広報の強化へつなげる

プロジェクトチームが企画立案からPR活動まで担当
関税局税関調査室に150周年事業担当チームを立ち上げ、150周年事業の企画立案、全国税関や関係団体と協力しながら事業を実施し、税関をPRする活動を行っている。
日本の企業活動のグローバル化が進み、また、越境電子商取引の拡大により、インターネットを利用して個人で海外から商品を輸入できる時代になり、以前と比べ税関は、より国民の皆さんに近い存在になっている。
150周年事業担当チームは、150周年事業を通じて、より税関の発信力を高め、税関を少しでも身近に感じてもらい、税関の役割・意義について広く国民の皆さんに理解いただけるよう、この機会に広報強化につなげていきたい、そう意気込んでいる。
各税関においてもプロジェクトチームを立ち上げ、150周年事業に取り組んでいる。
写真:プロジェクトメンバー
写真:150周年特設サイト


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若手メンバーで構成する「かもめプロジェクト」
税関150周年を盛り上げるべく、令和2(2020)年に若手職員(係長、係員クラス)で構成されたプロジェクトチーム「かもめプロジェクト」を立ち上げ、今年で3年目を迎える。若手職員が自分たちのニーズ等に基づいた様々なアイデアを提案し、意見を出していくことで、より幅広い世代の方々に税関への興味を持ってもらえるような150周年事業を企画・実施している。
かもめプロジェクトが携わっている事業には、広報記念誌、フォトコンテスト、プルーフ貨幣セット、特殊切手等がある。
「かもめプロジェクト」という名称もチームのメンバーによって名づけられた。かもめは「税関の歌」の歌詞である「流れる雲よ舞うかもめ」の一節からとられており、150周年を迎える税関が、これからも時代に合わせて更なる発展を遂げられるように、という思いが込められている。
写真:かもめプロジェクトメンバー(令和4年7月現在18名で活動中)
図.税関は「税」と「関」=二つの顔を持つ機関
図.税関の3つの使命