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店頭(OTC)デリバティブ規制入門-清算集中義務と中央清算機関(CCP)について-

東京大学 公共政策大学院 服部 孝洋*1


1 はじめ
本稿は店頭(OTC, Over The Counter)デリバティブ規制の概要を説明することを目的としています。金融危機時にはリーマン・ブラザーズが破綻したこと等を発端にOTCデリバティブ市場で混乱が起こりました。その反省から、OTCデリバティブ取引に関し様々な規制改革がなされました。具体的には、2009年のピッツバーグ・サミットや2011年のカンヌ・サミットを契機に、標準的なOTCデリバティブについては中央清算機関を通じて清算する義務が課されるとともに、中央清算されないOTCデリバティブについても証拠金の授受を求める方向性が示されました。
OTCデリバティブ規制は、金融機関の実務家にとっても比較的専門性の高い分野であり、相対的に日本語の文献が不足しています。そこで本稿では、コンパクトに金融危機以降に導入されたOTCデリバティブ規制の概要について解説します。今回の論文ではOTCデリバティブ規制の全体像や清算集中義務、中央清算機関の役割に焦点をあてます。次回の論文では、中央清算機関で清算されないOTCデリバティブ規制である証拠金規制について説明します。なお、筆者が記載してきた債券や国債の一連の入門シリーズは筆者のウェブサイトにまとめて掲載してあります*2。


2 OTCデリバティブの概要と中央清算機関の役割

2.1 OTCデリバティブとは
服部(2021a)などでも丁寧に説明しましたが、OTC市場とは、証券会社等を通じて取引される相対市場を指します。本稿で取り上げるOTCデリバティブとは、デリバティブの中でも、OTC市場で取引されているデリバティブになります。例えば、日経225先物や国債先物の場合、OTC市場ではなく、取引所で取引されていますから、これはOTCデリバティブではなく、上場デリバティブになります。一方、例えば、金利スワップの場合、証券会社と相対で取引をすることから、金利スワップはOTCデリバティブの例になります。
債券やデリバティブなど多くの金融商品はOTCで取引されていますが、OTC取引ではオーダーメイドの商品の組成が可能になるほか、上場に適しないデリバティブについても取引が可能になる等、様々なメリットを有しています。その一方、上場のデリバティブ(例えば国債先物など)は標準化や証拠金などを通じて取引所取引が可能になっており、高い流動性が実現しています。

2.2 カウンターパーティ・リスクとは
これまでOTCデリバティブについて筆者は様々な観点で取り上げてきましたが、本稿で焦点をあてる重要な特徴は、もし仮に取引相手が倒産した場合、その契約が履行されない(あるいは損失等を計上する)可能性があるという点です。取引所における取引では、なじみのない投資家同士で取引したとしてもきちんと履行するための仕組みがとられており、(詳細は後述しますが)もし仮に相手がデフォルトしたとしても安定した運営が可能になります。しかし、例えば、読者がOTCデリバティブ契約を金融機関と結び、仮に1年後、その金融機関がデフォルトした場合、この契約は履行されなくなります。このようなリスクをカウンターパーティ・リスクといいます。
金融危機以前は、金融機関が倒産することが稀であったことから、カウンターパーティ・リスクは認識されていませんでした。筆者が記載した「金利指標改革入門」(服部, 2021a)では、LIBORは大手金融機関の調達金利でありながら、金融危機以前は金融機関が倒産することはほぼあり得ないと考えられていたことから、実務的にはリスク・フリー・レートとして取り扱われていたという話をしました。もっとも、金融危機時にリーマン・ブラザーズが倒産することで、OTCデリバティブにおけるカウンターパーティ・リスクが強く認識されるようになりました。
OTC取引において、特に問題である点は、金融機関が倒産することでその影響が他の金融機関に伝播していくことです。実際、多くのOTCデリバティブの契約をしていたリーマン・ブラザーズがデフォルトすることで、その取引相手にも多大な影響を与えました。そのため、金融危機の再発を防ぐという意味では、カウンターパーティ・リスクを軽減するための規制が必要といえます。

2.3 金融危機により重要性が高まった中央清算機関
前述のとおり、デリバティブ取引には上場デリバティブとOTCデリバティブがあるのですが、重要な点は、金融危機時においても取引所で取引されている上場デリバティブは問題なく機能したことです。例えば国債先物の場合、大阪取引所を通じて売買をしますから、取引の相手は個別の金融機関ではなく、取引所になります。取引所取引は、適時証拠金を求めることにより、仮に相手が取引を履行できなくなったとしても損失がカウンターパーティに及ばない措置が取られています。いわば、取引所で取引される上場デリバティブでは、仮に相手がデフォルトしたとしてもうまく機能するような仕組みを有していたといえます。シカゴ・マーカンタイル取引所(Chicago Mercantile Exchange, CME)のメラメド氏は自身の著書で、金融危機時に多くの金融機関が破綻の危機にさらされる中、取引所は安定的に機能したと誇っています*3。
そこで、OTCデリバティブについても、取引所のような機関を通じて取引を行い、適切な証拠金の受渡を行えば、仮に金融機関が破綻したとしても、その伝播を防ぐことが可能であるように思われます。例えば、金利スワップを行う場合、図表1 「中央清算なし」と「中央清算あり」でみたOTCデリバティブのイメージの左図のような形で、筆者と読者で直接取引するのではなく、右図のような形で、筆者と読者の間に取引所が入るということです。政府としては出来る限り、OTCデリバティブについて取引所のような中央機関を通じて取引をさせるとともに適切な証拠金の授受を求めることで2008年に起こった金融危機の再発を防ぐことが可能になります。
ここまでわかりやすさを重視するため、取引所や中央機関という表現を使いましたが、このような機能を果たす機関を中央清算機関(Central Counterparty, CCP)といいます。中央清算機関は、清算(クリアリング)を取引所のような中央機関で行うわけですが、そもそも清算自体、多くの読者にとっておそらく馴染みの薄い概念と思われます。我々がモノを買う場合は、モノを受け取り、お金を渡すことで決済が終了します*4。しかし、金融機関では、決済を行う前に事前準備を行います。例えば金融機関同士の取引の場合、同じ相手と無数に取引を行いますから、その取引について一つ一つ資金の受け渡しをするのではなく、例えば反対取引であればネッティングすることが可能です。特にデリバティブ取引で様々な取引をすると、ある金融機関にとって勝ちポジション(ある取引では評価益が発生しているポジション)がある一方、別の取引では負けポジションになっていることがあります。そのため、そのような勝ち負けについて差し引きをすることで効率化が図れます。このような事前準備を「清算(クリアリング)」といいます。なお、最終的にお金の受け渡しをして、債権・債務を解消することを「決済(セトルメント)」といいます。
中央清算機関の役割については後述しますが、このようなクリアリングを行うことにより、多くのOTCデリバティブの取引相手を中央清算機関に集約することが可能になり、カウンターパーティ・リスクの削減に寄与します。富安(2014)でも中央清算機関について「両当事者に入って決済を行い、カウンターパーティ・リスクを削減する機関」(p.365)と説明しています。


3 OTCデリバティブ規制について

3.1 清算集中義務
前述のとおり、カウンターパーティ・リスクを防ぐために、標準的なOTCデリバティブ取引を中央清算機関で取引させる考え方を説明しましたが、ここからOTCデリバティブ規制の概要について説明していきます。図表2 OTCデリバティブ規制における清算集中義務と証拠金規制のイメージは金融庁が作成した資料の抜粋になりますが、この図の左側のように、例えば、金融機関Aが金融機関Bや金融機関Cとデリバティブ契約を結んでいた場合、金融機関Aがデフォルトすることは金融機関Bや金融機関Cに影響を与え、さらにそれが他の金融機関に影響を与える可能性があります。これはOTCデリバティブ取引においてカウンターパーティ・リスクが看過できない際に発生しうる伝播効果です。そこで図表2の右上のように中央清算機関を仲介して取引がなされるようになれば、取引相手は中央清算機関になり、仮に金融機関Aが倒産したとしても、金融機関Bや金融機関Cへの伝播を防ぐことができます。
このように中央清算機関で清算が可能なOTCデリバティブ取引について、中央清算機関の利用を義務付けることを「清算集中義務」といいます。清算集中義務については2009年のピッツバーグ・サミットでその必要性が指摘され、我が国では、2012年より、一定の金融商品取引業者に対し、金融商品取引法*5によって義務付けられています*6。このように法的に標準的なOTCデリバティブの清算集中を義務付けることで、金融危機時のような混乱の再発を防止しているわけです。
清算集中義務の対象は、基本的には、前年度のOTCデリバティブ取引の想定元本合計額が3,000億円以上の金融商品取引業者同士の取引です*7。規模の大きな金融機関同士の取引が対象となっており、例えば金融機関と事業会社が金利スワップを結んだ場合、その対象になっていない点が特徴です。このように比較的大きな金融機関を対象としている背景には、金融危機で経験したような大手金融機関の破綻が伝播していくシステミック・リスクを防ぐことにあると解釈できます。
清算集中が義務化されて以降、中央清算されるデリバティブの割合は増加しています。図表3 中央清算機関により清算される金利デリバティブの取引量は円金利のOTCデリバティブの中で最も流動性が高い円金利スワップ取引におけるクリアリングの比率を示していますが、円金利スワップについては、8割を超える取引が中央清算機関によってクリアリングされています。デリバティブの業界団体であるISDA(International Swaps and Derivatives Association)によれば、グローバルでみても、金利商品については6割以上のOTCデリバティブが中央清算機関でクリアリングされています*8。

3.2 中央清算機関でクリアリングされないOTCデリバティブ
もっとも、注意すべき点は、現時点においても、デリバティブ取引のすべてが中央清算機関でクリアリングされているわけではないという点です。日本では金利スワップやCDS(Credit Default Swap)といった標準的なデリバティブはクリアリングがされていますが、中央清算機関でクリアリングされていないOTCデリバティブも少なくありません。図表4 デリバティブ市場全体の分類がデリバティブ市場と中央清算の関係を示していますが、上場デリバティブは原則、中央清算がなされていますが、OTCデリバティブについては中央清算がなされているデリバティブと、そうでないデリバティブが存在しています。
読者に理解していただきたい点は、すべてのデリバティブ取引を中央清算機関で清算することは現実的ではないという点です。例えば、デリバティブの中には流動性が低いデリバティブであったり、標準化が難しいデリバティブも存在します。中央清算のためには標準化やシステム化などが必要であることを考えると、ほとんど取引がなされない商品やそもそも標準化に向かない取引の中央清算は現実的ではありません。例えば、我が国における為替スワップについてはOTC市場で活発に取引されているものの、標準化が難しいこと等の観点から、今でもクリアリングがされていません。また、金融機関は仕組商品などの組成のために、非標準的なデリバティブ(エキゾチック・デリバティブ)の取引をしていますが、これは標準化に向かないデリバティブ取引といえます。前述のとおり我が国においては、金利スワップとCDSのみがクリアリングされているため、それ以外のOTCデリバティブは、原則、中央清算されないデリバティブになります。

3.3 証拠金規制:中央清算機関でクリアリングされないOTCデリバティブ規制
中央清算機関でクリアリングした場合、厳格な証拠金の制度が適用されます。したがって、中央清算機関でクリアリングされないデリバティブについて厳格な証拠金規制がない場合、いわば抜け道ができてしまいます。例えば、標準的なデリバティブから少しずれたデリバティブ契約を行えば、清算集中義務を回避することが可能になってしまうリスクもあり、その場合、金融機関が標準的ではないデリバティブを取引するようなインセンティブを与えてしまうという結果になりかねません。
このため、中央清算機関でクリアリングされないデリバティブについては証拠金規制と呼ばれる、より一層厳格な証拠金が求められる仕組みが導入されました(図表2の右下です)。証拠金規制については、2011年のカンヌ・サミットでその重要性が指摘され、我が国においては、バーゼル銀行監督委員会(Basel Committee on Banking Supervision, BCBS)と証券監督者国際機関(International Organization of Securities Commissions, IOSCO)で合意された「中央清算されないデリバティブ取引に係る証拠金規制」の最終枠組みをベースに、2016年から段階的に導入がなされています。
詳細は次回の論文で説明しますが、証拠金規制では、例えば分別管理*9など、金融機関自身が厳格に証拠金を管理することが求められています(中央清算機関でクリアリングした場合は中央清算機関が証拠金の分別管理等を実施しています)。基本的には金融機関にとって清算集中した方が、コストが低くなるように規制が定められており、金融機関は中央清算機関でクリアリングされるデリバティブを取引するようインセンティブが与えられていると解釈することができます。

3.4 当初証拠金と変動証拠金
変動証拠金
ここまで金融危機の再発を防ぐために証拠金の重要性についてたびたび指摘しましたが、ここから証拠金の役割についてより厳密に考えていきます。例えば、仮に筆者と読者の間で10年の金利スワップを結んだとして、読者が1%で固定受け、変動払いのポジションであったとします。これは読者は毎年筆者から1%の固定金利を受け取る一方で、(TONAなどの)変動金利を支払うポジションといえます。その後、金利が低下して、市場で取引される金利スワップが0.5%になったとします。この場合、読者のポジションは市場に比べて(0.5%ではなく1%の固定金利をもらえるという意味で)有利なポジションといえます。そのため、読者は勝ちポジションといえますが*10、仮に筆者が倒産した場合、読者のこの勝ちポジションは失われるという意味でカウンターパーティ・リスクがある状況です。
もっとも、筆者と読者で上述のように時価が動いたら、その都度証拠金を受け渡しするようにしておけばこのリスクをヘッジできるといえます。このように時価が動くたびに受け渡しをする証拠金を「変動証拠金(Variation Margin)」といいます。

当初証拠金
このように時価が動くごとに証拠金を支払えば十分に思われるかもしれませんが、実際にカウンターパーティが倒産した場合、その相手との契約のヘッジ等を迅速にできるとは限りません。例えば、先ほどの例でいえば、筆者と読者が金利スワップの契約を結んでおり、筆者が仮に倒産した場合、金利スワップの時価はそれ以降も刻々と動いていきます。特に金融危機のような場合は、往々にして自分にとって損失が拡大するようにマーケットが動く可能性があります。このように倒産してから実際にポジションがクローズアウトするまでの潜在的なリスク量をポテンシャル・フューチャー・エクスポージャーといいますが、このための証拠金も必要となります。このリスクのための証拠金を「当初証拠金(Initial Margin)」といい、取引開始のタイミングでこの証拠金を渡すことになります。
図表5.当初証拠金と変動証拠金の関係は当初証拠金と変動証拠金の関係を示しています。取引時点では時価はゼロ*11ですが、その後、マーケットの変化に伴い時価が変化します。この時価の変化に伴うリスクは変動証拠金を受け渡すことでカバーされます。その一方、仮に相手がデフォルトした場合、クローズアウトするまで一定の時間がかかり、さらに損失が膨らむ可能性がありますが、当初証拠金はこのリスクをカバーします。

OTCデリバティブ規制の主軸は当初証拠金
変動証拠金と当初証拠金は両方とも重要ですが、OTCデリバティブ規制によるインパクトという観点では、特に重要なものは当初証拠金です。実際のところ、大手金融機関の間で取引されるOTCデリバティブについては金融危機以前からも、CSA(Credit Support Annex)*12と呼ばれる契約を通じて変動証拠金を受け渡す商慣行が一定程度広がっていました*13(CSA契約については次回の論文で詳細に説明します)。その一方、特に金融危機の経験を踏まえて、クローズアウトまでのリスクに対処するために、OTCデリバティブ全般において最初に十分な証拠金を渡すというのは、金融危機以降の規制で生まれた新しい発想とみることもできます*14。
実際、マーケットに与えるというインパクトにおいても、特に証拠金規制における当初証拠金は非常に大きいものになります(その理由は次回の論文で説明します)。当初証拠金を差し出す場合、金融機関はその資金をファンディングしなければなりませんから、その金利負担が発生することになります。証拠金規制においてはこの当初証拠金の額が巨額になりえることから、金融機関が負担しなければならないコストが膨大になりえます。そのため、導入以前はマーケットを壊しかねないなどと証券会社等が反対した経緯がありました。

3.5 その他のOTCデリバティブ規制
本稿では、清算集中義務と証拠金規制に焦点をあてますが、これ以外にも金融危機の反省を受けてOTCデリバティブ規制の改革はなされています。例えば、OTCデリバティブ市場は相対取引であることから、その全容を政府は掴むことが困難といえます。そのため、2009年のピッツバーグ・サミットでは、OTCデリバティブについては取引情報蓄積機関(Trade Repository)と呼ばれる組織を発足し、取引情報を報告する重要性を指摘しました*15。日本では、金融庁に報告する機関としてDTCCデータ・レポジトリー・ジャパン株式会社が2013年4月より業務を開始しています。
また、OTCデリバティブ市場は、口頭を通じた取引(いわゆるボイス・ブローカーを経由した取引)が主流であり、この商慣行が取引の不透明性を生んだことから金融危機が深刻化したという指摘もなされました。例えば、OTC市場においても日本国債であれば日本相互証券(いわゆるBB)が提供する板を見ることができます。一方、OTCデリバティブでは、トレーダーがマイクを通じてプライスを出すという商慣行が今でもよく用いられており、口頭でやりとりするのであれば価格の透明性が低いとみることもできます。そこでピッツバーグ・サミットでは、一定のOTCデリバティブについては電子取引基盤の使用を義務付ける必要性が指摘されました。我が国では、2015年9月から電子取引基盤使用義務も開始されており、具体的には想定元本の平均残高が6兆円以上の金商業者等の間における一般的な(プレーンバニラ型*16の)円金利スワップ取引(期間は5、7、10年物に限る)については、金融庁に登録された金商業者が提供する電子取引基盤の使用が義務化*17されています*18。


4 中央清算機関の役割

4.1 日本証券クリアリング機構(JSCC)
ここから中央清算機関について焦点を当てて説明していきますが、そもそも中央清算機関についてあまりなじみのない読者も少なくないと思います。そこでまずは実際の中央清算機関について紹介します。我が国における代表的な中央清算機関は、日本証券クリアリング機構(Japan Securities Clearing Corporation, JSCC)になります。JSCCとは2002年に国内5証券取引所及び日本証券業協会の出資により設立し、その後、日本国債清算機関や日本商品清算機構の合併を経て現在に至っています。我が国の中央清算機関として、JSCC以外にも、ほふりクリアリング(JASDEC DVP Clearing Corporation, JDCC)、東京金融取引所(Tokyo Financial Exchange, TFX)が存在します。
国際的にも、中央清算機関は複数存在します。特に有名な機関は、米国におけるCMEと欧州におけるLCH(London Clearing House)です。円金利デリバティブのクリアリングのサービスはCMEやLCHも提供しています*19*20。その意味で、中央清算機関も、取引所と同じように国際競争にさらされているとみることができます*21。
現在、JSCCがクリアリングしている円建てのOTCデリバティブは、金利スワップとCDS(インデックスCDSとシングルネームCDS)です。歴史的には、JSCCは2011年7月よりCDS、2012年10月より金利スワップ(IRS)取引の清算業務を開始しました。金利スワップについては、2013年2月に変動金利をユーロ円TIBOR(ZTIBOR)*22とするスワップのクリアリングを開始するなど、中央清算できる商品を拡大しています。
クリアリングされているOTCデリバティブは中央清算機関によって異なります。例えば、スワップションはJSCCではクリアリングされていませんが、CMEではドル金利のスワップションについてクリアリングがなされています。前述のとおり、どのような商品をクリアリングできるかは標準化や流動性等に依存します。特に流動性については各国で各種デリバティブがどの程度活発に取引されているかにも依存するといえます。実際、先物を見ても各国で取引されている範囲や流動性は大きく異なります(これまで筆者の論文で説明してきましたが、金利先物一つとっても、我が国では現在ほとんど取引されていませんが、米国ではユーロドル先物やフェデラル・ファンド(FF)金利先物、SOFR先物など複数の金利先物が活発に取引されています)。

4.2 中央清算機関が果たす役割
マルチラテラル・ネッティングおよび証拠金の効率的な配分
前節では具体的に中央清算機関について説明しましたが、ここでは中央清算機関が果たす役割について少し丁寧に議論をしていきます*23。中央清算機関が有する重要な役割の一つは、マルチラテラル・ネッティングです。図表7 ネッティングがそのイメージですが、AとBがデリバティブ契約を行ったとして、Bがそのヘッジのために、Dとデリバティブ契約を行い、さらにCとDが順々にヘッジしていたとします。図表7における矢印に数値が記載されていますが、これは契約数を意味しています。この場合、図表7の左側をみてもらうと、実質的には、AとDだけの契約になるのですが、もし中央清算機関を通じて取引をしていないとAからDの4つの金融機関で複雑な取引関係が生まれてしまいます。一方、中央清算機関を通じた取引にすれば、中央清算機関が複雑な取引を相殺して、図表7の右側のようにAとDの取引に集約することができます。
マルチラテラル・ネッティングの重要な効果として、証拠金の効率的な配分も挙げられます。もし図表7の左側のように多くの取引を相殺しないままであれば、各金融機関ごとに証拠金を出し合う必要性が生まれますから、証拠金がより一層必要になるということが起こりえます。一方、複雑な取引を中央清算機関がネッティングすることにより取引の集約化がなされて、効率的な証拠金の配分が可能になります。

保険機能と清算基金(デフォルト・ファンド)
中央清算機関はカウンターパーティ・リスクについて保険会社のような機能も果たしています。図表8 カウンターパーティ・リスクに対する保険に記載しているとおり、AとB、さらに、CとDという形で相対で取引をすると、もし仮に相手がデフォルトした場合、その損失をカウンターパーティーが被ることになります。しかし、図表8の右側のような形で中央清算機関を通じた取引にすることにより、取引相手は中央清算機関になりますから、カウンターパーティ・リスクを減少させることができます*24。また、中央清算機関からみれば、多くの金融機関からリスクを集めることでリスクをプーリングするとともに分散化することが可能になります。
もちろん、金融機関がデフォルトすることにより、中央清算機関に損失が発生し、中央清算機関が破綻する可能性も考えられます。そこでそのようなリスクに備えて中央清算機関は清算基金(デフォルト・ファンド)を有しています。金融機関は中央清算機関に当初証拠金を差し入れており、この証拠金を用いることができるのですが、危機時にはその当初証拠金では足らない可能性があります。そのため、仮に危機が発生した場合、どのような損失になるかを算出したうえで、その損失がカバーできるような資金の拠出を清算基金に求めています。JSCCについては、ストレス時の損失を算出したうえで、当初証拠金を引いた「担保超過リスク額」を計算します。そのうえで、上位2社の担保超過リスク額を按分するような形で各金融機関の拠出額を算定しています。
なお、実務的には中央清算機関でOTCデリバティブを清算した場合、カウンターパーティ・リスクはないと評価されます(現行のバーゼル規制についてもそのように取り扱われていますが、詳細はBOX 1を参照してください)*25。その背景には前述のような中央清算機関においてカウンターパーティ・リスクに対する措置が取られているからです。ただし、バーゼル規制では中央清算機関向けのエクスポージャーに対する資本賦課が課されている点に注意が必要です(この点もBOX 1を参照してください)。

4.3 JSCCにおける金利スワップの事例
ここから実際に当初証拠金と変動証拠金のイメージを掴むため、最も国内で用いられており、JSCCでクリアリングされている円金利スワップの事例を取り上げます。まず、金融機関がJSCCに差し出す証拠金は、これまで説明した(1)当初証拠金、(2)変動証拠金に加え、(3)日中証拠金があります。(1)については後述しますが、変動証拠金と日中証拠金の違いは、前者は16時時点のポジションに基づく証拠金(15時時点でのイールドカーブで算出)である一方、後者は12時時点(11時時点でのイールドカーブで算出)での証拠金という違いです*26。つまり、JSCCでは1日2回、変動証拠金が求められていることになります。なお、前述のとおり、上位2社の超過リスク額を按分するような形で、清算基金への拠出も求められています。

当初証拠金:5日間の期待ショートフォールで算出
OTCデリバティブ規制において特に重要なものは当初証拠金ですので、その計算方法について確認します。中央清算機関に対する当初証拠金の算出について注意すべき点は、リスク管理で広く用いられているVaRでなく、期待ショートフォールというリスク指標が用いられている点です*27。VaRとは、服部(2021)で説明した通り、過去のデータに立脚してリスク量を算出する方法です。仮に、5日間の99%VaRを計算したい場合、例えば、過去5年間のデータをとってきて、それぞれの日において過去5日間の時価の変化(スワップレートの変化)を計算します。そのうえで、損失が大きかったものから並べ替えをして、ちょうど1%番目に悪かったシナリオを金利リスク量として採用するということです。これは「過去の経験からみて1%番目に悪かったシナリオ」(これをパーセンタイル値といいます)をリスク量として採用するという発想です。
もっとも、金融危機において、VaRは危機時に起こる稀ないイベント、いわゆるファットテール・イベントを上手く捉えられないという問題が指摘されました*28。すなわち、せいぜい数年前からのデータに立脚した1%程度のシナリオであれば、それ以上に悪いシナリオが十分起こりえるということが明らかになったわけです。しかしながら、VaRでは1%番目以降の損失についての情報を得ることはできません。そこで、VaRを改善するリスク指標として登場したものが期待ショートフォールです(期待ショートフォールついては、リスク管理の実務だけでなく、バーゼル規制でも用いられています)。
期待ショートフォールのイメージを掴むために、ここでは具体的な計算のイメージを説明します。図表9 期待ショートフォールに基づいた金利スワップにおける当初証拠金算出のイメージはJSCCのウェブサイトにおいて期待ショートフォールについて説明している図を抜粋したものです。期待ショートフォールでは、悪いシナリオの1%以下に起こるイベントの中で平均値をとるという考え方をとります。すなわち、先ほどの例であれば過去のスワップレートの変化を用いて損失が大きかったものから並び替えをするのですが、「過去の経験からみて1%番目に悪かったシナリオ」ではなくて、「悪いシナリオに相当する1%分の中で平均的に起こる損失」を計算するということです。具体的には、過去5年間のデータから悪いシナリオ1%のデータをとってきて、そこから平均値を計算するということです。ハル(2016)では、「VaRが『どの程度事態が悪化しうるのか?』を問題としているのに対し、期待ショートフォールは「もし事態が悪化した場合、予測されうる損失はどれくらいか?」を問題としている。期待ショートフォールは、N日間においてVaR損失よりも大きい損失が発生した場合の条件付き期待損失である」(p.772)としています*29。
JSCCのウェブサイトでは、金利スワップの当初証拠金について「損失額の上位1%の平均値をとる証拠金とします」とありますが、ここまで読んだ読者はこれが期待ショートフォールであることがわかるはずです*30。なお、当初証拠金についてはさらに「流動性チャージ」*31と呼ばれるものを追加的に合算して計算されます。

4.4 清算参加者がデフォルトした場合の厳格な取り決め
次回の論文で詳細に説明しますが、中央清算機関でクリアリングされないOTCデリバティブについては、証拠金規制で10日間における99%VaRが求められています。前述のとおり、JSCCでクリアリングされるリスク量は5日間の期待ショートフォールであるため、中央清算されないデリバティブにおいて考慮している期間が「5日間」から「10日間」に延びていることから、クローズアウトするまで2倍の時間を要すると想定していると解釈できます。
実際、中央清算機関では、仮に清算に参加する金融機関が破綻した場合に、どういう順序で処理していくかが具体的に決まっており、クローズアウトまでの時間が短いことが制度的にも裏付けられています。JSCCについては、まずは破綻した金融機関が差し出していた証拠金を用い、それでも足らない場合は中央清算機関の参加者が負担するという手続きになります(その手続きは細かく定められていますが、詳細はJSCCのサイトを参照してください*32)。グレゴリー(2018)では当初証拠金を計算するうえで「マージンリスク期間は、当初証拠金の必要性を最も左右するものである」(p.159)としたうえで、中央清算機関の場合、「直接相対する市場よりも素早くポジションをクローズアウトすることが可能である。なぜなら、外部のいかなる干渉も受けることなく清算参加者のデフォルトを宣言し、迅速かつ有効なデフォルト処理手続きの発動に動けるからである。こうした理由から、概して中央清算機関では当初証拠金の計算に5日間という前提が用いられる」(p.320)と指摘しています(もっとも、中央清算機関でクリアリングする場合、前述の清算基金への拠出が求められる点に注意が必要です)。

4.5 クライアント・クリアリング
OTCデリバティブの清算集中義務については前述のとおり、基本的には前年度の想定元本合計が3,000億円を超える金融機関に義務が課されています。もっとも、比較的小規模の金融機関にとって、直接中央清算することは現実的ではありません。そのため、大手の金融機関を通じて間接的に中央清算機関でクリアリングを行っています。このように間接的に中央清算機関でクリアリングすることをクライアント・クリアリングといいます。
図表10.クライアント・クリアリングのイメージがそのイメージです。例えば、地銀Aが金利スワップを結んでいる場合、証券会社Aを通じて中央清算機関で清算するというイメージです。このように地銀Aは証券会社Aの下にぶら下がり、証券会社AがJSCCなどでクリアリングすることになります。この場合、地銀Aに対して「間接清算参加者」、証券会社Aに対して「直接清算参加者」という表現を使うこともあります。なお、このように間接的にクリアリングに参加した場合、前述のクローズアウトに時間がかかりえることから、JSCCの金利スワップのクリアリングについては、前述の5日間ではなく、7日間の期待ショートフォールで当初証拠金を計算することになっています。

BOX 1 中央清算機関向けエクスポージャーに対する資本賦課
バーゼル規制の考え方は服部(2020)で説明しましたが、バーゼル規制では、リスク・アセットに対して、一定程度、自己資本で資金調達をすることが求められています。バーゼル3では、中央清算機関向けのエクスポージャーについて、信用リスク・アセットを算出することが求められるようになりました*33(このように信用リスク・アセットが算出されるようになると、それに対して自己資本で一定程度調達する必要が生まれます。金融機関が有するリスクをリスク・アセットとして考慮すること(第一の柱の中で取り扱うこと)を「資本賦課」といいます)。具体的には、実際に取引することに係るエクスポージャー(トレード・エクスポージャー)に加え、中央清算機関に預託済みの清算基金に係るエクスポージャー(他の参加者が破綻して拠出済みの清算基金が費消されるエクスポージャー)について、一定の計算式で信用リスク・アセットに加えるよう制度変更がなされています。どのように算出するかに当たっては、相手となる中央清算機関が適格であるか、直接清算参加者あるいは間接清算参加者であるかなどに依存する仕様になっています(具体的な計算方法に関心がある読者は実務家が記載したバーゼル規制の書籍などをご参照ください)。
バーゼル規制では、デリバティブそのものについて「派生商品取引・オフバランス取引等の信用リスク・アセット」を算出する必要があり、デリバティブのカウンターパーティ・リスクであるCVAリスクについても信用リスク・アセットとして計上されるよう要請されています。しかし、中央清算機関を相手とするものについてはCVAリスクを計測する必要はないとされています*34。バーゼル規制では、中央清算機関向けのエクスポージャーの方が、リスク・アセットが小さくなるようルールが作られており、リスク・アセットの算出という観点でも、中央清算機関で清算するようインセンティブが与えられていると解釈できます。なお、本稿ではカウンターパーティ・リスクを考えるうえで、証拠金の重要性を強調しましたが、バーゼルIIIでは、「派生商品取引・オフバランス取引等の信用リスク・アセット」を測定するためのアプローチについても、証拠金の効果を適切に評価できるよう改定されています。この点については本稿では詳細について言及しませんが、今後の論文で議論をする予定です*35。


5 おわりに
本稿ではOTCデリバティブ規制の全体像や中央清算機関の役割について説明しました。その他の文献を参照したい読者は富安(2014)や宮内(2015)、羽渕(2018)などを参照してください。次回は証拠金規制の概要に加え、証拠金の算出のために用いられるSIMM(ISDA Standard Initial Margin Model)について解説します。


参考文献
[1].鈴木利光(2012)「CCP向けエクスポージャーの資本賦課【金融庁告示改正】バーゼルIIIの「ラスト・ピース」が法制化へ」大和総研
[2].富安弘毅(2014)「カウンターパーティリスクマネジメント(第2版)」きんざい
[3].服部孝洋(2020)「金利スワップ入門―基礎編―」『ファイナンス』8月号、56–65.
[4].服部孝洋(2021a)「グリッド・ポイント・センシティビティ入門―日本国債およびバリュー・アット・リスクの観点で―」『ファイナンス』3月号、80–88.
[5].服部孝洋(2021b)「銀行勘定の金利リスク(IRRBB)入門―バーゼル規制からみた金利リスクと日本国債について―」『ファイナンス』6月号、60–69.
[6].服部孝洋(2021c)「金利指標改革入門―店頭(OTC)市場とLIBOR不正操作問題について―」『ファイナンス』11月号、10–19.
[7].服部孝洋(2022)「金利先物およびTIBOR入門―ユーロ円金利先物を中心に―」『ファイナンス』1月号、41–51.
[8].羽渕貴秀(2018)「OTCデリバティブ規制改革とFMI原則―清算集中義務・マージン規制からCCPの再建・破綻処理まで」きんざい
[9].福本葵(2014)「店頭デリバティブの清算機関・取引情報蓄積機関・電子取引基盤」『証券経済研究』第85号、37–51.
[10].三菱東京UFJ銀行(2014)「デリバティブ取引のすべて~変貌する市場への対応~」きんざい
[11].宮内惇至(2015)「金融危機とバーゼル規制の経済学」勁草書房
[12].吉藤茂(2020)「図説 金融規制の潮流と銀行ERM―続・金融工学とリスクマネジメント」きんざい
[13].望月一成・大井秀敏・藤丸峻介(2020)「電子取引基盤の使用義務に関する日米間の相互依拠枠組み 店頭デリバティブ市場の分断回避に向けて」『金融財政事情』(2020年6月22日号)
[14].ジョン・アーマー, ダン・オーレイ, ポール・デイヴィス, ルカ・エンリケス, ジェフリー・ゴードン, コリン・メイヤー, ジェニファー・ペイン(2020)「金融規制の原則」きんざい
[15].ジョン・グレゴリー(2018)「xVAチャレンジ―デリバティブ評価調整の実際」きんざい
[16].ジョン・ハル(2016)「フィナンシャルエンジニアリング〔第9版〕―デリバティブ取引とリスク管理の総体系」きんざい
[17].レオ・メラメド(2010)「先物市場から未来を読む」日本経済新聞出版社
[18].Menkveld, A. and Vuillemey, G,(2021)“The Economics of Central Clearing” Annual Review of Financial Economics 13, 153–178.

*1) 本稿の作成にあたって、富安弘毅氏、仲田信平氏、藤原哉氏等、様々な方に有益な助言や示唆をいただきました。本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。
*2) 下記をご参照ください。
https://sites.google.com/site/hattori0819/
*3) メラメド(2010)は「業績、歴史、財力を備えた錚々たる金融機関でさえ、揺らいだり倒れたりした前例のない世界規模の金融溶解のさなかにあって、CMEは完全無欠に機能した」(p.15)と指摘しています。
*4) ここでの説明は下記の日銀のウェブサイト等を参照しています。
https://www.boj.or.jp/paym/outline/wkkey6.htm/
*5) 金商法156条の62。
*6) 2010年に金融商品取引法が改正され、2012年から規制が適用されています。
*7) 厳密にいえば、CDSと金利スワップで異なる取り扱いがなされており、3,000億円以上の規定は金利スワップに設けられています。対象除外や経過措置の詳細については金融庁ウェブサイトや富安(2014)などを参照してください。
*8) ここではISDAによる「Key Trends in the Size and Composition of OTC Derivatives Markets」を参照しています。詳細はISDAのウェブサイトを参照してください。
*9) 清算機関向け監督指針III-3-6では、清算機関に対して、参加者担保と顧客担保の分別が求められています。ここの記載は、「金融機関の目から見た場合には、自ら取引相手から証拠金を徴求して分別管理するよりも、清算機関を利用したほうが実務上の負担が軽い」という趣旨の記載をしている点に注意してください。なお、下記の「金融商品取引清算機関等に関する内閣府令」およびJSCC「金利スワップ取引清算業務に関する業務方法書」も参照してください。
「金融商品取引清算機関等に関する内閣府令」
第十八条 法第百五十六条の十一に規定する内閣府令で定めるものは、金銭及び金融商品取引清算機関が業務方法書において定める有価証券であって、当該金融商品取引清算機関が、業務方法書の定めるところにより、清算預託金として他の財産と分別して管理するものとする。
JSCC「金利スワップ取引清算業務に関する業務方法書」
第86条 当社が、清算参加者の当社に対する債務等を担保する目的で清算参加者から預託を受ける金利スワップ清算基金、当初証拠金、第三階層特別清算料担保金及び破綻時証拠金は、金融商品取引法第156条の11に規定する清算預託金とする。
第87条 当社は、前条の清算預託金の全額を、清算預託金を預託した清算参加者又は清算委託者のために、当社が定める方法により分別して管理するものとする。
*10) 筆者が記載した「金利スワップ入門」で説明したとおり、金利スワップは債券のように考えることができます。詳細は服部(2020)を読んでもらいたいのですが、読者が固定受けのポジションの場合、10年国債のロングと似たリスクをとっていることになります。例えば、10年金利スワップのデュレーションを(単純化して)年限で近似して10とすると、本稿の事例では、100円に対して10×0.5=50銭の評価益を計上していることになります。
*11) 金利スワップを受けた場合、固定金利の現在価値を受け取り、変動金利の現在価値を払いますが、これらは等価であるため、金利スワップを結んだ時点における現在価値(Present Value)は理論的にはゼロになります。実際、スワップを締結した時点では資金の受払はありませんし、ファイナンス理論でもこのような想定をします。詳細は服部(2020)を参照してください。
*12) CSA契約とは、「ISDA Master Agreementの付属(Annex)契約で、オフバランス取引(デリバティブ取引+為替取引)から発生する信用リスクを担保授受により極小化し、より安心かつ安定的に取引を実施するためのツール」(三菱東京UFJ銀行(2014), p.328)です。CSA契約やISDAマスター契約の詳細は三菱東京UFJ銀行(2014)やグレゴリー(2018)を参照してください。
*13) 三菱東京UFJ銀行(2014)では、「CSA契約は、1994~95年にかけて登場したが、当初の利用者は大手の金融機関に限定されており、契約条件も拡大のペースも非常に穏やかなものであった。しかしながら、リーマン・ブラザーズの破綻を契機に市場取引における信用リスクが強く意識されるようになったため、各社が積極的にCSA契約の推進を開始し、契約条件も実効性の高い厳格なものが志向されるようになった」(p.332)としています。
*14) なお、証拠金規制の導入など金融危機以降のOTCデリバティブ規制の前から、CSAの中に独立担保額(Independent Amount)が設定されています。この発想は当初証拠金と同じであり、担保の受け渡しの間のエクスポージャー変動に対する保険的な担保という位置づけです。独立担保額は三菱東京UFJ銀行(2014)では「取引先に対するエクスポージャーとは関係なく、設定される担保金額のこと」(p.335)としています。これは当事者間の合意で決まるものなので当初証拠金規制のように計算ルールが定まったものではありません。
*15) 福本(2014)では、G20の改革プログラムは、以下の4つの要素から構成されている点を指摘しています。
(1)標準化されたすべての店頭デリバティブ契約は、適当な場合には,取引所または電子取引基盤を通じて取引されるべきである。
(2)標準化されたすべての店頭デリバティブ取引は、中央清算機関(CCP)を通じて決済されるべきである。
(3)店頭デリバティブ契約は,取引情報蓄積機関(trade repositories)に報告されるべきである。
(4)中央清算機関を通じて決済されないデリバティブ契約は、より高い所要自己資本賦課の対象とされるべきである。
*16) プレーンバニラのデリバティブとは、デリバティブ取引において「標準的な取引を表すのに使われる用語」(ハル 2016、p.1308)です。逆に非標準的なデリバティブをエキゾティック・デリバティブということもあります。
*17) LIBORの恒久停止に伴い2021年12月に電子取引基盤規制の対象も一部改正されています。詳細は下記等を参照してください。
https://www.fsa.go.jp/news/r3/shouken/20211105/20211105-3.pdf
*18) ここでの記述は望月・大井・藤丸(2020)に基づいています。詳細を知りたい読者は同論文をご参照ください。
https://www.fsa.go.jp/frtc/kikou/2020/20200622.pdf
*19) 例えばLCHでクリアリングされる円金利スワップ・レートと、JSCCでクリアリングされる円金利スワップ・レートがずれることがあり、JSCC-LCHスプレッドなどと呼ばれます。本来ならば同じ円金利スワップレートであるため同じプライスが付されるべきであり、一物一価が成立していないように思われますが、規制などで説明される傾向にあります。
*20) 現在、日本で外国清算機関免許を取っている外国清算機関(CMEやLCH等)は、本邦金融機関に対して円金利スワップの清算サービスを提供していません。本邦大手金融機関の中には、日本本社はJSCCのメンバーになっている一方、欧州に拠点を有する海外現地法人はLCHのメンバーになっている場合もあるため、日本本社における取引はJSCCを通して、海外現地法人における取引はLCHを通してクリアリングされるという側面もあります。
*21) アーマー等(2020)では「清算機関同士の競争は、時間の経過とともに、本来はカウンターパーティの信用リスクやその他のリスクを軽減するために設計された、証拠金や担保の質、損失分担、その他のメカニズムに対して有害な『底辺に向けた競争(race to the bottom)』が始まる可能性がある」(p.270)と指摘しています。
*22) ZTIBORについては服部(2022)を参照してください。
*23) ここでの記述についてはMenkveld and Vuillemey(2021)に基づいています。
*24) 実務的には中央清算機関でクリアリングする取引の場合、CVAやDVAなどはないと想定します。
*25) ここではCVAやDVA、FVAという観点でカンターパーティ・リスクがないと記載しております。この場合、別途MVAの問題が出てきますが、MVAについては次回の論文で説明します。
*26) 正確には、変動証拠金は、「16:00時点の各金利スワップ清算参加者のポジションについて、15:02時点のイールド・カーブを使用して算出したNPVと前営業日の15:02時点のイールド・カーブを使用して算出したNPVとの変動をカバーする金額」、日中変動金は「12:00時点の各金利スワップ清算参加者のポジションについて、11:02時点のイールド・カーブを使用して再計算した当初証拠金相当額に、同イールド・カーブで再計算した変動証拠金相当額(前営業日の変動証拠金算出時点から当該日中証拠金の算出時点までのNPVの変動額)を加減した金額」です。
https://www.jpx.co.jp/jscc/seisan/irs/margin/shokokin.html
*27) バーゼル規制においても、例えば「トレーディング勘定の抜本的見直し(FRTB)」などVaRでなく、期待ショートフォールを使う流れが見られています。
*28) 吉藤(2020)では「リスク指標として広く使われているVaRについては、以前より『リーマンショックのようなテールリスクをとらえられない』『劣加法性を満たさない』等の欠点が指摘されていた」(p.133)と指摘しています。もっとも、過去のデータに立脚したうえで、分布の端の1%の平均値をとることでどれくらいファットテール事象を捉えられるかについて疑問を有する実務家もいますし、また、その数学的な良さも実務的にはさほど大きな問題にならないとみる実務家もいます。実際には金融危機時にVaRという指標の問題点は明らかになったため、何らかの異なるリスク指標が求められた側面もあります。期待ショートフォールそのものは金融機関のリスク管理に幅広く用いられていますが、その有益性は今後検証されていくものだと感じています。
*29) ちなみに、期待ショートフォールを利用するうえで、正規分布を想定しないことが前提です。正規分布を想定するのであれば、従来のVaRを信頼区間99%から99.5%などとより保守的にすることと本質的な違いはありません。
*30) ちなみに、JSCCではExponential Weighting Moving Average法と呼ばれる方法が用いられています。これは「金利変動の動向を迅速に反映させるため、最近の金利変動の動向を基準として過去のマーケットデータの変動シナリオを修正する手法」と説明されていますが、直観的には現時点に近いデータに対して重いウェイトを置いて期待ショートフォールを計算しているということを意味しています。
*31) JSCCによれば、「金利スワップ取引の年限の区分(テナーバケット)ごとに、ポジションの感応度(PV01)に対して清算参加者へのマーケットサーベイに基づいて設定されるアスク・ビッド幅を乗じて算定します」としています。流動性チャージの考え方については富安(2014)などを参照してください。
*32) 中央清算機関は仮に清算参加者がデフォルトした場合に、どのようにその損失を補填するかについてあらかじめ定めています。例えば、JSCCについては「まずデフォルターズペイということで、破綻清算参加者の負担(証拠金等)により補償することとしており、その後にサバイバーズペイということで、破綻清算参加者以外の清算参加者の負担(清算基金等)により補償することを基本としていますが、清算機関としてのリスク管理を適切に行うためのインセンティブを保つため、破綻清算参加者以外の清算参加者の負担に先立ち、JSCCの負担により補償することとしています」としています。詳細は下記を参照してください。
https://www.jpx.co.jp/jscc/risk/default-waterfall.html
*33) 鈴木(2012)では、改正前では「CCP 向けエクスポージャーについては、現行規制上、一般的に(当該エクスポージャーが日々の値洗いにより担保でカバーされている場合に限り、)エクスポージャー額を「ゼロ」とする取扱いが認められて」(p.3)いたとしています。
*34) 告示 第二百七十条の二。
*35) バーゼル規制における信用リスクに関する各モデルについては吉藤(2020)のBOX 12が簡潔に整理しています。

図表6.OTCデリバティブ規制の導入のイメージ