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「世界の難民問題、日本からできること」

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR) 緊急事態・保安・供給局 局長 下澤 祥子

今年に入り、ロシアのウクライナ侵攻により、第二次世界大戦以降、最大かつ最速に拡大した難民危機が起こり、これにアフリカ、アフガニスタンなど各地域で発生している危機も加わって、紛争、暴力、人権侵害、迫害によって故郷を追われた人の数が、史上初めて1億人を超える衝撃的な記録となりました。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、国連機関のひとつで、主な任務は、難民に対する国際的保護、難民の諸権利(強制送還の禁止・就業・教育・居住・移動の自由など)の確保、緊急事態における物的援助、その後の自立援助、更に難民問題の解決へ向けた国際的な活動を先導、調整することです。本部はスイスのジュネーブ。世界137カ国に事務所が置かれています。
私が率いる緊急事態・保安・供給局は、緊急事態への備えと対応、職員の安全確保、サプライチェーン管理などに関して、組織としての戦略的な方向性を策定し、地域局や各国事務所による実施を支援しています。
ウクライナでは、2014年のウクライナ東部での紛争後も国内避難民などに救援物資や避難所を提供していました。このたびの危機に際しては起こり得る緊急事態への計画を策定、リソース、スタッフ、物資の備えを強化する計画を進めていました。スタッフに関しては、90年代に第8代国連難民高等弁務官を務めた緒方貞子さんの任期中に構築された「緊急対応ロスター」制度に基づき、ロスター登録したスタッフを72時間以内に緊急現場に派遣することも行っています。
私自身もかつて、緒方高等弁務官の補佐官を務めていた際、コソボ難民の緊急対応のため、アルバニアへ72時間以内に派遣され、3か月間、「緊急対応チーム」の一員として、ほぼ休みなく活動したことが、今の立場でも役に立っていると思います。
ウクライナに話を戻しましょう。この人道危機は、かつてないほどの規模とスピードで悪化し、UNHCRは各国政府へ緊急資金支援を要請しました。日本政府からは、3月に2,560万米ドルの緊急人道支援、4月に1,450万米ドルの緊急無償資金協力、さらには政府が海外で備蓄している毛布、ビニールシート、スリーピングマットなどの物資支援、UNHCRの備蓄倉庫からの緊急輸送の支援を実施いただきました。更に、多くの日本企業、地方自治体、個人の方々からの温かいご寄付によって、活動を続けています。
今回の危機で特筆すべきは、ウクライナから出国した難民の9割が、女性、子どもと高齢者であることです。着の身着のまま逃れた人にはまず緊急物資を提供しているのですが、それぞれの人によってニーズが異なり、さらにはこの危機が中長期化してきている現状で、特に役に立っているのが現金給付です。
UNHCRの現金給付プログラムは、極度に困窮していたり、苦しい立場に置かれている難民を保護する支援で、保護や医療など、さまざまな目的で実施されています。最低限のセーフティネットであり、難民自身が仕事を得たり、社会的サポートを受けることができるまでの間、生きるために必要不可欠なもの、最もニーズの高い用途への効果的な対応を目指したものです。難民が必要なものを購入したり、家賃の支払いなどを行うことで、難民の自立、そして地元の経済への貢献にもつながります。
日本にいると、難民問題はとかく地球の裏側のどこかで起きているという認識になりがちです。無関心ではいられないという意識への転換が必要です。現在1億人もの人が難民もしくはそれに準ずる移動を強いられていることは、世界人口の1%以上が苦しんでいるということになります。ウクライナ危機によって、広がった日本における難民支援と連帯の輪が更に拡大していくことを願っています。

UNHCRホームページ
https://www.unhcr.org/jp/