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ファイナンスライブラリー

評者 渡部 晶

分配された公共ガバナンス~エージェンシー、オーソリティその他の政府部内・部外の公共主体 ココデ出版 2021年11月 定価 本体3,000円+税  OECD 編著/平井 文三(翻訳)

本書は、OECDの公共マネジメント委員会(現 公共ガバナンス委員会)が2002年に編集・出版した「Distributed Public Governance:Agencies , Authorities and Other Governance Bodies」を邦訳したものである。
訳者の平井文三氏は、総務省人事・恩給局総務課人事制度研究官などを経て、現在は亜細亜大学法学部教授(行政学、地方自治論)である。平井教授は、OECDのこの分野の成果について積極的に翻訳活動を行っている。『官民パートナーシップ:PPP・PFIプロジェクトの成功と財政負担』(監訳、OECD編著、2014年、明石書店)は本誌2014年12月号、『図表でみる世界の行政改革OECDインディケータ』のうち直近の2019年度版は本誌2021年4月号で紹介している。
本書の構成は、「総括報告」、「原則を求めているエージェンシー(Allen Schickメリーランド大学公共関係学院教授(現名誉教授)執筆)」の後、カナダ、フランス、ドイツ、オランダ、ニュージーランド、スペイン、スウェーデン、イギリス、アメリカの9カ国の事例紹介、「分配された公共マネジメント:エージェンシー、オーソリティその他の政府主体のコントロールと説明責任に関する諸原則」となっている。
約20年前の本書を翻訳した理由については、「訳者あとがき」に詳しく触れられている。
すなわち、ひとつは、平井教授が翻訳の労をとったOECD公共ガバナンス委員会編「世界の行政改革 21世紀のグローバル・スタンダード」(2006年 明石書店 原著はModernising Government:The Way Forward(2005))の中での組織改革の部分の記載が不十分で底本を紹介する必要性を感じたことである。「世界の行政改革」は、上記の「総括報告」を基礎としている。
もうひとつは、日本の独立行政法人の参照対象が日本での改革の流れの中で、当初の英国の職員は公務員のままで変わらない執行エージェンシーから、非省公共団体(Non-Departmental Public Bodies:NDPB)と呼ばれるものに入れ替わっていることである。
平井教授が、全体の整理としては、上記の「原則を求めているエージェンシー」が理論的背景もベースにして分かりやすいという。ここで執筆者のSchickは、「エージェンシー」という用語を「法的又は制度的に国家及び中央政府から分離されているものと、そうでないものの両方をカバーしている」と便宜的に用いている。
「エージェンシーは、省の足枷から解放されるため、本来、適応性と応答性がより高い」が、「あらゆる世代には、そのお気に入りのマネジメントのスタイルがあり、グッド・プラクティスの概念の進化につれ、政府の組織構造も深化する。エージェンシーに対する現在の魅力は、最終的なものではないだろう。実際、さほど遠くない未来に統合された省が好まれるように戻っても、驚くべきことではない」とする。
主に独仏伊英瑞洪の6カ国の動向を分析した「比較行政学入門ーヨーロッパ行政改革の動向―」(2021年3月 成文堂 原著2019年)では、エージェンシー化の頂点は1990年代であったとする。また、ポストNPMの動向は、『「全政府」アプローチの意味での統合コントロール』だとしている。Schickの当時の洞察の深さを裏打ちしている。
平井教授は、Schick論考の第4節「省の能力を回復する」において、「重要な問題は、エージェンシーに効率的に運営を行う裁量があるかではなく、省に、その所管するエージェンシーを効果的に誘導し、これらのエージェンシーの業績を監視するインセンティブと機会があるかないかでなければならない」という記述を紹介する。
そして「今の日本の独立行政法人制度が機能しているかどうかのメルクマールとして、なお有効であろう」とする。
2012年12月から取り組まれた独立行政法人改革では、日本でのNPMの本質の1つと考えられる「調達の合理化」が研究開発法人への対応の中で極めて大きな論点となった。2013年12月の「独立行政法人改革等に関する基本的な方針」では、主務大臣や契約監視委員会のチエックのもと「調達の合理化」を目指すこととされたが、まさに上記の平井教授の指摘と符合すると感じた次第である。