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IMF・世界銀行春会合およびG7、G20財務大臣・中央銀行総裁会議等の概要(2022年4月20~22日、於:アメリカ・ワシントンD.C.)

国際局国際機構課長 飯塚 正明/国際局国際機構課 明石 悠誠
国際局開発機関課長 田部 真史/国際局開発機関課 三浦 駿人

2022年4月20日から4月22日にかけて、アメリカ・ワシントンDCにおいて、G20財務大臣・中央銀行総裁会議(G20)、G7財務大臣・中央銀行総裁会議(G7)、国際通貨金融委員会(IMFC)、世界銀行・IMF合同開発委員会(DC)等の国際会議が開催された(対面とオンラインのハイブリッド形式)。一連の会議では、本年2月24日以降のロシアのウクライナに対する侵略戦争をめぐって、ロシアに対して厳しい非難の声が上がる等、異例の対応が取られるとともに、侵略戦争の世界経済への影響や、ウクライナ支援等が議論の中心となった。
以下本稿では、各会議における議論の概要を紹介したい。

1.G20財務大臣・中央銀行総裁会議(2022年4月20日)
G20については、2021年議長のイタリアからインドネシアに引き継がれて以来、2022年2月17、18日にジャカルタで開催された会議に続く2回目の会議となった。
冒頭の世界経済セッションにおいては、ウクライナのマルチェンコ財務大臣の対面での参加を得て、ロシアのウクライナに対する侵略戦争による世界経済への影響等について議論が行われた。日本からは、ウクライナとの連帯を表明するとともに、ロシアの侵略戦争について、国際秩序の根幹を揺るがす行為で明白な国際法違反であることを指摘し、厳しく非難した。その上で、エネルギー・食料価格の高騰、サプライチェーンの混乱といった、ロシアの侵略戦争によって世界経済が直面する多くの困難に協調して取り組む必要性があり、(1)一刻も早く平和を取り戻すことが世界経済にとって最も重要であり、制裁措置によって戦争のコストを高めることも含め、国際社会が一致団結してロシアに圧力をかける必要があること、(2)ウクライナや周辺国に対して、国際金融機関と連携して迅速に支援を提供する必要があり、日本としてもウクライナに対する世銀との協調融資を増額(注)すること、(3)エネルギー・食料価格の高騰に対処し、脆弱国への支援を強化する必要があること、等を指摘した。

(注)4月G20・G7においては1億米ドルから3億米ドルへの増額を表明した。その後、5月のG7ペータースベルク会合において、6億米ドルに倍増する旨表明している。

この他、今回のG20では、国際保健、国際金融、サステナブル・ファイナンス等についても議論された。
国際保健については、将来のパンデミックに対する予防・備え・対応の強化に向けた取り組みが議論された。多くの国が、既存の国際保健システムにおける資金ギャップに対処するため、国内資金や既存機関の取組を補完する新たな資金メカニズムを設立する必要性があることに同意した。具体的には、世界銀行に新たな基金を設立することが最も有効な案として、多くの支持を集めた。
SDR(特別引出権)のチャネリング(注)について、多くの国が、気候変動・パンデミック等に対応するための強靱性・持続可能性トラスト(RST)の新設がIMFにおいて合意されたことを歓迎した。日本からは、2021年8月に行われたSDR新規配分額の20%のチャネリングをプレッジするとともに、RSTへの最初の貢献として、10億ドル相当のSDRとそれに見合う準備金を拠出することを表明した。また、低所得国の債務問題については、多くの国が低所得国の債務救済に関する「共通枠組」の早急な進展・予見可能性向上が必要であると強調した。

(注)SDR(特別引出権)は、国際的な流動性を創出するため、IMFが創出し、加盟国に配分する合成通貨。配分されたSDRは、SDR金利を支払うことで米ドル等の自由利用可能通貨に交換可能。

新規配分されたSDRは、IMFの全加盟国に対して、出資割合に応じて分配されるため、低所得国に配分されるのは全体の約3%に留まる。これを受け、先進国等に配分されたSDRの一部を支援の必要な低所得国等に自発的に融通(チャネリング)する議論が行われている。

2.G7財務大臣・中央銀行総裁会議(2022年4月20日)
G7については、2022年1月に議長がイギリスからドイツに交代し、独議長下で初めてとなる対面形式での会議を行った。
今回のG7においては、ウクライナのマルチェンコ財務大臣の参加を得て、ロシアのウクライナに対する侵略戦争や、戦争の世界経済への影響、ウクライナ支援に関する議論が行われ、会議後に共同声明が発出された。以下、発出された共同声明の概要について紹介したい。
まず、G7として、ロシアのウクライナに対するいわれのない不当な侵略戦争を強く非難した。また、国際機関や多国間フォーラムは、もはやこれまで通りにロシアとの間で活動を行うべきではないとした上で、直前に開かれていたG20や、IMF、世銀の会議を含む国際フォーラムへのロシアの参加は遺憾であると表明した。
同時に、ウクライナ国民及び同国政府に対する揺るぎない支援と心からの連帯を表明した。2022年以降で、240億米ドルを超える相当の追加的支援を提供・プレッジしており、必要に応じて更なる対応を取る準備ができていると表明した。
また、ロシアのウクライナに対する侵略戦争によって生じた経済的課題に対処することに引き続きコミットすることを表明した。戦争によって高まる代償を負わねばならない世界中の全ての国々と連帯するとともに、自ら作り出したものではない危機で苦しむ脆弱国の利益のために、全ての利用可能な手段を用いることを支持した。
ロシアに対する制裁に関しては、進行している事態の激化に対応し、ロシアに対してこの戦争の代償を更に高めるため、世界中のパートナーと緊密に協調した行動をとり続けると表明した。プーチン大統領やその支援者は、戦争の社会的、経済的結果に対する全ての責任を負っていることを指摘するとともに、G7による制裁は第三国及び世界経済への損害を最小限にするため、的を絞った方法で設計されていることを確認した。また、制裁の回避、迂回あるいは穴埋めの試みを阻止するためにパートナーと引き続き緊密に連携して取り組むことを確認した。

3.国際通貨金融委員会(IMFC)(2022年4月21日)
国際通貨金融委員会(注)においては、ロシアのウクライナに対する侵略戦争によって世界経済が直面する多くの困難や、その中でIMFが果たすべき役割について議論が行われ、議長声明が発出された。議長声明においては、国連のロシアに対する非難決議を想起するとともに、ウクライナに対するロシアの戦争が甚大な人道的影響をもたらし、世界経済に有害な影響を及ぼすことを認識するとされた。こうした中で、IMFは、エネルギー価格上昇や食料不安等で特に影響を受けている国を始め、国際収支ニーズを抱える加盟国に資金支援を提供する重要な役割を有することが確認された。

(注)国際通貨・金融システムに関する問題についてIMF総務会に助言及び報告することを目的として1999年に設立。以降、春・秋の年2回開催。今回は第45回目。

日本から発出したステートメントでも、ロシアの侵略行為を厳しく非難した。同時に、現下の困難を乗り切るために、法と信頼に基づく多国間協調が一層重要であり、IMFが引き続き国際通貨金融システムの安定に中心的な役割を果たすとともに、最後の貸し手として触媒機能を果たすことを期待すると述べた。
また途上国支援の強化について、現下の課題と併せて、気候変動やデジタル化への対応等の中長期的な構造課題にも、早急に対応する必要がある旨指摘し、複合的な困難に直面する途上国に対してIMFが支援を強化することを支持した。こうした観点から、既述の通り、日本としてもSDR新規配分額の20%のチャネリングをプレッジすること等を表明した。また中央銀行デジタル通貨(CBDC)やその他のデジタルマネーについて、IMFがコア・マンデートとして取り組むことを強く支持するとともに、日本管理勘定(JSA)にデジタルマネーウィンドウを創設し、1,500万米ドルを新たに貢献したことを表明した。

4.世界銀行・IMF合同開発委員会(DC)(2022年4月22日)
世界銀行・IMF合同開発委員会(注)においては、ロシアのウクライナに対する侵略戦争のウクライナ及びウクライナの周辺国を含む開発途上国への影響、デジタル化と開発、開発とマクロ経済の安定のための債務問題の取組等について議論が行われ、議長声明が発出された。議長声明においては、IMFC同様、国連のロシアに対する非難決議を想起するとともに、エネルギーや食糧及びその他のコモディティの価格上昇を通じた世界の途上国への影響についての懸念を表明した。そして、世界銀行グループが、各国が緊急の食糧安全保障及び社会的保護のニーズに対処することを支援するために、資金提供、政策及び分析支援を拡大することを求めた。

(注)開発を巡る諸問題について、世界銀行・IMFに勧告及び報告を行うことを目的として1974年に設立。以降、春・秋の年2回開催。今回は第105回目。

日本から発出したステートメントにおいては、ロシアのウクライナ侵略を厳しく非難するとともに、世界銀行グループがロシア及びベラルーシでのプログラムを迅速に停止したことを評価した上で、世界銀行のウクライナ支援への日本の協調融資の増額を改めて表明した。
また、持続可能で包摂的な成長を実現するために必要な点として、まず(1)新型コロナウイルス感染症のパンデミックの収束と国際保健システムの強化を図るとともに、(2)気候変動への対応及び(3)デジタル化の推進が不可欠であり、そのうえで、こうした取組を持続可能な形で支えるため、(4)質の高いインフラ投資の推進を通じて成長の土台を構築しつつ、(5)パンデミックの中で一層悪化した債務の脆弱性に対処する必要があることを指摘した。これら分野において世界銀行グループに期待する点を述べるとともに、日本として、信託基金への拠出等を通じて貢献・協力していくことを表明した。