このページの本文へ移動

アジアにおける地域金融協力の促進(ASEAN+3,日中韓)

国際局地域協力課長 森 和也/地域協力調整室長 日向寺 裕芽子/地域協力課協力第二係長 穴沢 衛/地域協力課企画係長 澤田 駿

2022年5月12日(木)、アジアにおける地域金融協力関連の会議として、第25回ASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議及び第22回日中韓財務大臣・中央銀行総裁会議がビデオ会議形式で開催された。本会議は1997年のアジア通貨危機を契機として、アジアの自助・金融セーフティーネットを構築する機運が高まる中、1999年にASEAN+3財務大臣会議が開催されたことを始まりとする(中央銀行総裁は2012年から参加)。日本は設立段階から議論に積極的にかかわっており、ASEAN+3域内の連携を強化する上で非常に重要な会議となっている。
今年は、新型コロナウイルスのパンデミックやウクライナ情勢により地域経済が大きな影響を受ける中、各国の対応が議論されるとともに、地域金融協力の推進の重要性が改めて認識された。以下、本稿ではこれらの会議における議論の概要を紹介したい。

写真:会合の様子。鈴木大臣は上から二段目一番右、黒田総裁は三段目一番左。

1.第25回ASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議
中国とカンボジア共同議長の下開催され、日本からは鈴木財務大臣と黒田日銀総裁が出席した。会議では(1)世界と域内の経済・金融見通しや政策対応についての意見交換、及び(2)ASEAN+3金融協力について議論しており、以下その概要を紹介する。

(1)世界と域内の経済・金融見通しや政策対応
ASEAN+3マクロ経済リサーチ・オフィス(AMRO)、アジア開発銀行(ADB)、国際通貨基金(IMF)から世界・域内経済の見通しについて説明があった後、域内各国の経済・金融情勢について大臣・総裁間で意見交換を行った。各当局が新型コロナウイルスのパンデミックの影響を緩和するため迅速に対処し、ワクチン接種の推進等の政策対応を行ったことで、2021年の域内成長率は約6%と力強い成長率となったことを確認した。また、本年は、より力強い経済回復を期待する一方、いくつかの先進国における予想よりも早い金融政策の正常化、サプライチェーンの混乱の継続、及び食料・エネルギー価格の高騰は、現下のロシア・ウクライナ紛争も相俟って、域内の貿易、投資、成長、及びインフレの見通しへ下方リスクをもたらし得ることを確認した。なお、日本からは、ロシアによるウクライナ侵略が、アジア経済が直面する困難の主因となっていることも指摘した。

(2)地域金融協力について
ASEAN+3地域の金融協力は、従来から3本の柱に沿って議論を行ってきた。今回は、これらの柱の議論とともに、来年日本がインドネシアと本会議の共同議長を務めることも踏まえ、域内金融協力を更に深化させる新しい議題を日本から提案し、その両者を議論する会議となった。
以下、この従来の3本の柱と新しい議題という形で今回の会議の議論を紹介したい。

ア.【第1の柱】チェンマイ・イニシアティブ(CMIM)
1997年に発生したアジア通貨危機を教訓に、ASEAN+3では、急激な資本流出による危機が生じた国を支援し、危機の連鎖と拡大を防ぐ枠組みとして、2000年に二国間通貨スワップ取極から構成されるチェンマイ・イニシアティブ(CMI)が立ち上げられた。その後、2010年には、これらの通貨スワップ発動の際の当局間の意志決定の手続きを共通化し、支援の迅速化を図るため、CMIのマルチ化契約(CMIM)が締結され、その後も随時、資金規模の倍増といった機能強化が図られてきた。
昨年、要請国・供与国双方の自発性及び需要に応じて(voluntary and demand driven)CMIMが提供する外貨をドル以外の域内通貨(例えば円や人民元)にも拡大したことを受け、今回の会合では、1:昨年末に域内各国の自ら発行する通貨(自国通貨)による支援に関する指針の策定、2:自国通貨以外の域内通貨(第三国通貨)による支援に関する議論の進展、を歓迎した。今後、年内に第三国通貨の支援に関する細則を定めた指針の策定を目指すこととなった。

イ.【第2の柱】ASEAN+3 マクロ経済リサーチ・オフィス(AMRO)
CMIMの実施支援に際しては、ASEAN+3域内経済のリスクを早期に発見し、改善措置の速やかな実施を求めることが必要不可欠である。このプロセスに貢献するためのサーベイランス機関として、AMROが2011年4月に設立された(2016年2月に国際機関化)。日本はその設立以降、所長の輩出や拠出金の貢献などによってAMROを支援してきている。
本会議では、昨年、ASEAN+3首脳会合にAMROが初めて参加したことやAMRO10周年記念イベントが成功裏に開催されたことが歓迎された。また、域内のサーベイランスやCMIMの実施支援等、AMROの業務における戦略的方向性の検討や地域のナレッジ・ハブとしての役割の具体的な方針についての議論の進展が歓迎され、年内に議論が完了することへの期待が表明された。
更に、5月26日に退任する土井俊範所長に対して各国から感謝の意が表明されるとともに、次期所長にリー・コウチン氏が任命されたことを歓迎し、今後実りある連携が行われることへの期待が示された。

ウ.【第3の柱】アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)
アジア通貨危機の一因となった、ASEAN諸国における通貨と期間のミスマッチ(ドル等の外貨を海外から短期で借入れ、自国通貨建てで国内の長期融資を実施)の解消のため、ASEAN+3域内の現地通貨建て債券市場を育成し、域内の貯蓄を投資へと活用することを促進する取組みとして、2003年にABMIが開始された。ABMIの開始以来、ASEAN+3域内の現地通貨建て債券市場は着実に拡大している。
本会議では、上述のミスマッチの解消状況について調査を行っているADBから、調査の中間報告が実施された。また、当該調査の最終結果を基に、ABMIの次期中期ロードマップ策定に向けて、活発な議論がなされることへの期待が表明された。
【新しい議題】
前述の3本の柱はこれまでASEAN+3の域内金融協力の骨子となっており、引き続き重要な議題と考えられる。他方で、気候変動やデジタル化の進展など地域を取り巻く環境が変わる中、域内協力を深化させより一層効果的なものとするため、新しい議題を取り込んだ議論も重要となる。その観点から、日本は自然災害リスクに対する財務強靭性の向上と、金融デジタル化による影響といった議題を説明し、来年に向けてその議論を深めることを提案した。

エ.自然災害リスクに対する財務強靭性の向上
これまで日本は、自然災害リスクに対する財務強靭性の向上に係るワーキング・グループを主導してきた。本会議では、日本が共同議長となる2023年に自然災害リスクへの対応を定例議題化することを目指して、今後議論を進めていくことが承認された。また、定例議題化にあたっては、東南アジア災害リスク保険ファシリティ(SEADRIF)などの既存の枠組みを活用することとされている。
なお、SEADRIFは、自然災害リスクへの対応に保険スキームを活用し、ASEAN諸国の財務強靭性を向上させることを目的としたASEAN+3の枠組みである。日本は立ち上げ段階から議論を主導し、2021年2月には最初の成果物としてラオスを対象とした自然災害保険が開始された。2022年1月には8か国目のメンバーとしてベトナムがSEADRIFに加入し、現在、公共財産(道路や橋等の主要インフラ)保護に係る議論がなされており、今回の会議ではその議論の進展が歓迎された。

オ.金融デジタル化
ASEAN+3地域ではデジタル通貨等の金融デジタル化が急速に進んでおり、各国の経済発展と域内連携をますます強める機会となる一方、金融の安定性の確保、資本規制の変容、危機の伝播速度の増大等、これまでとは異なる新たなリスクや脆弱性が出現する可能性がある。
こうした観点から、日本は金融デジタル化に関する新たなイニシアティブを提起しており、本会議では、金融デジタル化が既存の地域金融取極(RFAs)に及ぼす影響の分析や、金融協力の今後の在り方に関する提言といった成果物を2023年に取りまとめることを見据え、各国の支持・協力の下にAMROの調査や加盟国による議論が進められていることが歓迎された。

他にもインフラファイナンスやフィンテック、トランジション・ファイナンスなどが各国より今後の論点として取り上げられた。

2.第22回日中韓財務大臣・中央銀行
総裁会議
ASEAN+3の会議時に、主にASEAN+3の議題に沿って議論をする会議であり、2000年以降ほぼ毎年開催され、日中韓の3か国で率直な意見交換ができる重要な場となっている。今年は中国議長の下で開催され、日本からは鈴木大臣、黒田総裁が出席した。会議では、域内各国の経済・金融情勢及び地域金融協力について意見交換を行った。なお、鈴木大臣は発言の冒頭で、韓国のチュ・ギョンホ企画財政部長官(日本の財務大臣に相当)及びイ・チャンヨン韓国銀行総裁の就任に対し祝意を述べた。