国債企画課・海外投資家係 大野 聖広/松山 泰大/栗田 大地
日本国債IRについて
現在、日本は多額の国債残高を抱えており、国債の安定消化・安定保有の観点から、幅広い投資家層による国債保有を促進することが重要な課題となっています。また、多様な投資家が様々な投資ニーズに基づき国債を保有することは、市場の状況が変化した場合にも取引が一方向に流れることを防ぎ、市場を安定させる効果もあると考えられます。
こうしたことから、財務省では、銀行や生命保険会社等の国内機関投資家のみならず、海外投資家へのアプローチも重要なテーマと捉え、海外投資家の国債保有促進に向けた取組みを進めてきました。平成17年(2005年)の開始以降、これまで累計43か国・地域、延べ320都市を訪問しました(令和2年3月末までの訪問数。以後、令和4年4月まで新型コロナウイルス感染症の感染拡大のため現地訪問せず、オンラインベースのIR面談を実施(延べ109件、本記事末尾にコラム有り))。
日本国債IR活動はこれまでも本誌で紹介され、直近は令和元年7月号で特集されました。それから3年程経過しました。この間に、新型コロナウイルス感染症の感染拡大(令和2年度~)、日本銀行による「より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検」(令和3年3月)、米国FOMCによる量的緩和の縮小(テーパリング)の決定(令和3年11月)や政策金利の引き上げ(令和4年3月)、ロシアによるウクライナ侵攻(令和4年2月~)など日本国債市場に影響を与える出来事が起きています。そこで、今回は、令和2年度以降(令和2年4月~)の日本国債IRの面談から得られた率直な意見・情報を基に、足もとの海外投資家の投資動向、海外投資家が日本をどのように見ているのかについてご紹介します。
海外投資家の投資動向
海外投資家の投資目的別分類
ひとくちに海外投資家といっても、中央銀行等(外貨準備の運用)、国際金融機関、年金基金、生命保険会社、資産運用会社などのリアルマネー投資家と言われる機関投資家のほか、ヘッジファンド等、様々な海外投資家が存在します。これまでの日本国債IRを通じて延べ2,000件以上の海外投資家との面談を実施(図1 日本国債IRにおける面談先の地域・業種分布)しました。海外投資家と聞くと、国債の短期売買を繰り返して収益を追求するイメージを持つかもしれませんが、実際はそれだけではなく、日本国債への投資目的は様々です。数千億~数兆円の日本国債を安定的に保有する中央銀行などのリアルマネー投資家も相当数います。
そこで今回は、海外投資家の日本国債への投資目的を、独自に次の4つに分類し、その概要を紹介させていただきます。
(1)収益の追求
(2)キャッシュの管理
(3)資産負債管理(ALM)
(4)流動性規制対応、担保需要等
1つ目は「収益の追求」についてです。多くの海外投資家は、利息収入やキャピタル・ゲイン(売却益)狙いで、様々な投資戦略により日本国債に投資しています。最も多く聞くのが、「日本国債市場は低金利かつ低ボラティリティの環境下であるものの、保有するドル等の外貨から通貨ベーシススワップを利用して日本国債に投資すれば、プレミアムを得られ日本国債への投資妙味がでてくるため、短中期の日本国債に投資している」という意見です。この投資戦略だけを採用しているとは限りませんが、ここ2年間の日本国債IRを通じ、外貨準備を運用する中央銀行、国際機関、年金基金、資産運用会社など幅広い業種の海外投資家から同様の意見が聞かれました。
次によく聞かれたのが、債券のインデックス運用です。特に、一部の中央銀行や資産運用会社等は、債券インデックスをベンチマークにして、自社の債券ポートフォリオと債券インデックスとの価格変動を近づけるよう、債券インデックスの採用銘柄の構成に合わせて日本国債を自社のポートフォリオに組み入れる投資戦略をとっています。
このほか、ヘッジファンドは、デリバティブを駆使して積極的にリスクをとったり、比較的短期での投資を繰り返して収益を高めようとしたりすると言われています。
2つ目の「キャッシュの管理」については、多額の現預金を保有する海外投資家が次の投資先が決まるまでの現預金の運用で、比較的リスクが低く、かつ流動性が高い短期債に投資する場合が挙げられます。この場合、基本的には、満期償還後に再投資を繰り返すことが多いです。例えば、現預金が多い海外事業会社はこの目的で日本国債などの債券に投資する場合があります。
3つ目の「資産負債管理(ALM)」については、金利変動リスクを軽減させる目的で、バランスシート上の資産と負債のデュレーション・ギャップを埋めるように(特に資産のデュレーションを延ばすために)日本国債を保有する場合もあります。例えば、海外の生命保険会社は当該目的で超長期の日本国債を購入する場合があります。
4つ目の「流動性規制対応、担保需要等」については、海外の銀行がバーゼル規制で求められる流動性カバレッジ比率を満たすため、算出時に分子に計上される適格流動資産(High Quality Liquid Assets; HQLA)として日本国債を保有することもあります。また、海外の金融機関の日本支店が、緊急時に日本銀行からドルを調達できるよう日本銀行に対する差出担保用に日本国債を保有することもあります。なお、日本の金融機関の海外支店がFedからドルを調達する目的で、Fedに対する差出担保用に日本国債を国際決済機関の振替口座に保有する場合もあります。
このように、海外投資家の日本国債への投資目的は様々であるため、それぞれのニーズに応じ、きめ細やかな情報提供をすることが国債の安定的な保有につながると考えています。
なお、「市場が不安定になった時の海外勢の逃げ足は速い」という意見も聞かれることがありますが、全ての海外投資家の投資行動を一律に論じることはできないと考えられます。例えば、一部の中央銀行は為替政策のために円貨を保有し、その運用として日本国債に投資しています。また、短期債に投資する海外投資家も、短期売買を繰り返すのではなく満期まで保有し、満期償還後に再投資を行う場合が多いほか、資産負債管理(ALM)や適格流動資産(HQLA)管理を目的に中期~超長期債に投資する生命保険会社や銀行等においても、安定的な保有が見込まれます。
海外投資家の地域別分類
振替制度上、日本国債の最終投資家の地域別分布を網羅的に把握できませんが、国際決済機関(カストディアン)を含む保有者の地域別分類については、日本国債を含めた、居住者の発行する債券全体における保有者の国籍別分類が、国際収支統計(「証券投資等残高地域別統計(負債)」財務省、日本銀行)で公表されています。同統計によれば、海外投資家の地域別の保有額(令和3年末)は、(1)欧州113.3兆円、(2)北米42.9兆円、(3)アジア39.3兆円となっています。国別の保有額を見ると、上位3か国は(1)アメリカ40.9兆円、(2)ベルギー35.3兆円、(3)ルクセンブルク34.9兆円となっています。
なお、いわゆるタックスヘイブンなど複数の国に所在する口座を通じて日本国債を保有する海外投資家も存在するとも言われています。
海外投資家のプレゼンス
日本国債市場での海外投資家のプレゼンスについて次の3つを紹介します。
1つ目に、日本銀行公表の資金循環統計によれば、令和3年12月末において、海外投資家による日本国債の保有割合(ストックベース)は14.3%、保有額は175兆円ですが、短期債に限ればその割合は61.4%となり、短期債の保有割合の高さが特徴の一つとして挙げられます。足もとで日本の短期債の利回りがマイナスにも関わらず、海外からの投資が盛んな主な理由は、「海外投資家の投資目的別分類」でも述べた通り、ドル等を保有する海外投資家が通貨ベーシススワップを利用すると、ドル等の出し手である当該投資家がプレミアムを享受できる状況が続いており、このプレミアムを加えた日本の短期債の利回りは、海外投資家の自国の短期債よりも魅力的な水準となるためです。
2つ目に、海外投資家は、保有割合に比べて、流通市場でのプレゼンスが大きいことが知られています。例えば、日本取引所グループの投資部門別取引状況によれば、近年では国債現物取引の3割超が海外投資家によるものであり、国債先物取引に至ってはその比率は6割を超えています。
3つ目に、日本国債IRで面談した海外投資家からは、「現地時間において、あらかじめ価格や数量を指定して証券会社に入札を依頼し、東京時間で実際に入札を代行してもらう」との意見もよく聞かれ、流通市場だけでなく発行市場においても海外投資家が積極的に参加している点が挙げられます。
海外投資家から見た日本
最後に、日本国債に投資する海外投資家が日本をどのように見ているのか、以下紹介します。
(1)日本経済について
昨年10月の岸田政権の発足以降、同政権の掲げる「新しい資本主義」の具体的な政策、同方策の経済効果、新型コロナウイルス感染症対策、日本経済の見通しなどについて、多くの海外投資家から質問がありました。一部の海外投資家からは岸田政権に対する期待も聞かれました。
他方で、高齢化や少子化などの構造的な問題への対応に関心を示す海外投資家もいました。
(2)債務残高対GDP比、格付について
一部の海外投資家は、日本の債務残高対GDP比に関し、中長期的なリスクとなる懸念を抱いており、「信用力を維持する取組が大切」といった意見が聞かれました。
また、「今の格付に関わらず、日本経済・財政状況を総合的に判断して日本国債に投資しているが、現状よりも格下げとなれば、投資スタンスを見直さざるを得ない」という意見も聞かれました。
(3)日本国債について
2022年以降、日本国債と利回りの上昇が続く米国債とを比較し、日本国債が低利回りである点を指摘する海外投資家もいました。他方で、日本国債の流動性(換金のしやすさ)の高さを評価する意見が多く聞かれました。
このほか、今後も借換債を含めた日本国債の大量発行を余儀なくされる中で、日本銀行が金融政策の正常化に向かった場合に備えて、日本国債の安定消化に向けた取組に関心を示す海外投資家もいました。
おわりに
国債発行当局としては、引き続き、海外投資家による日本国債の安定的な保有に向け、引き続ききめ細やかな情報を提供していくことが重要であると考えています。
〈コラム〉日本国債IRのリアル
筆者の一人(大野、以下私)は令和2年7月、官民交流で財務省に出向し、主に日本国債IRを担当しました。私が一番注力しましたのが、オンラインによる日本国債IRの開催です。この機会に、日本国債IRのリアルな内容をお伝えしたいと思います。
通常の日本国債IRは現地の投資家との対面面談が基本スタイルですが、私が着任した令和2年以降は新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、外国出張ができなくなりました。そこで、オンライン会議ツールを活用し、PC画面の向こう側の投資家と面談することとしました。
オンラインIRは出張事務が不要で、距離の壁を簡単に越えられます。このメリットを活かし、出張しにくい地球の裏側の国々(ペルーやブラジル等)の投資家との面談も実現しました。また、米国の投資家と面談後10分休憩を挟んでカナダの投資家と面談という感じで効率的にIRを実施できるようになりました。他方で、課題も見えてきました。例えば、時差により早朝7時や深夜10時に開始する面談もしばしばありました。お互いの現地時刻に合わせ“Good morning”、“Good evening”と挨拶を交わす場面は印象的なのですが、画面越しでは、相手の「空気」を読んだり財務省の「熱量」を伝えるようなことは、リアルのコミュニケーションに比べて難しく感じられました。
世界中を飛び回れなかったとは言え、多くの投資家とお会いできたのは大変貴重な経験でした。そう思いつつ、オンライン会議のメリットと課題とを総括して出向元に戻る準備をしていたところ、5月にパリへ出張することが決まり、この度最初で最後となる海外出張を経験して参りました。現場ではウェブIRでは難しかった「空気感」や「熱量」を直に肌で感じることができ、非常に有意義な面談を行うことができました。財務省における最後のチャンスにこのような経験をすることができ、素晴らしい業務の締めくくりができたと思っています。
写真:オンラインIRの様子 左から栗田、大野、松山
日本国債IRについて
現在、日本は多額の国債残高を抱えており、国債の安定消化・安定保有の観点から、幅広い投資家層による国債保有を促進することが重要な課題となっています。また、多様な投資家が様々な投資ニーズに基づき国債を保有することは、市場の状況が変化した場合にも取引が一方向に流れることを防ぎ、市場を安定させる効果もあると考えられます。
こうしたことから、財務省では、銀行や生命保険会社等の国内機関投資家のみならず、海外投資家へのアプローチも重要なテーマと捉え、海外投資家の国債保有促進に向けた取組みを進めてきました。平成17年(2005年)の開始以降、これまで累計43か国・地域、延べ320都市を訪問しました(令和2年3月末までの訪問数。以後、令和4年4月まで新型コロナウイルス感染症の感染拡大のため現地訪問せず、オンラインベースのIR面談を実施(延べ109件、本記事末尾にコラム有り))。
日本国債IR活動はこれまでも本誌で紹介され、直近は令和元年7月号で特集されました。それから3年程経過しました。この間に、新型コロナウイルス感染症の感染拡大(令和2年度~)、日本銀行による「より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検」(令和3年3月)、米国FOMCによる量的緩和の縮小(テーパリング)の決定(令和3年11月)や政策金利の引き上げ(令和4年3月)、ロシアによるウクライナ侵攻(令和4年2月~)など日本国債市場に影響を与える出来事が起きています。そこで、今回は、令和2年度以降(令和2年4月~)の日本国債IRの面談から得られた率直な意見・情報を基に、足もとの海外投資家の投資動向、海外投資家が日本をどのように見ているのかについてご紹介します。
海外投資家の投資動向
海外投資家の投資目的別分類
ひとくちに海外投資家といっても、中央銀行等(外貨準備の運用)、国際金融機関、年金基金、生命保険会社、資産運用会社などのリアルマネー投資家と言われる機関投資家のほか、ヘッジファンド等、様々な海外投資家が存在します。これまでの日本国債IRを通じて延べ2,000件以上の海外投資家との面談を実施(図1 日本国債IRにおける面談先の地域・業種分布)しました。海外投資家と聞くと、国債の短期売買を繰り返して収益を追求するイメージを持つかもしれませんが、実際はそれだけではなく、日本国債への投資目的は様々です。数千億~数兆円の日本国債を安定的に保有する中央銀行などのリアルマネー投資家も相当数います。
そこで今回は、海外投資家の日本国債への投資目的を、独自に次の4つに分類し、その概要を紹介させていただきます。
(1)収益の追求
(2)キャッシュの管理
(3)資産負債管理(ALM)
(4)流動性規制対応、担保需要等
1つ目は「収益の追求」についてです。多くの海外投資家は、利息収入やキャピタル・ゲイン(売却益)狙いで、様々な投資戦略により日本国債に投資しています。最も多く聞くのが、「日本国債市場は低金利かつ低ボラティリティの環境下であるものの、保有するドル等の外貨から通貨ベーシススワップを利用して日本国債に投資すれば、プレミアムを得られ日本国債への投資妙味がでてくるため、短中期の日本国債に投資している」という意見です。この投資戦略だけを採用しているとは限りませんが、ここ2年間の日本国債IRを通じ、外貨準備を運用する中央銀行、国際機関、年金基金、資産運用会社など幅広い業種の海外投資家から同様の意見が聞かれました。
次によく聞かれたのが、債券のインデックス運用です。特に、一部の中央銀行や資産運用会社等は、債券インデックスをベンチマークにして、自社の債券ポートフォリオと債券インデックスとの価格変動を近づけるよう、債券インデックスの採用銘柄の構成に合わせて日本国債を自社のポートフォリオに組み入れる投資戦略をとっています。
このほか、ヘッジファンドは、デリバティブを駆使して積極的にリスクをとったり、比較的短期での投資を繰り返して収益を高めようとしたりすると言われています。
2つ目の「キャッシュの管理」については、多額の現預金を保有する海外投資家が次の投資先が決まるまでの現預金の運用で、比較的リスクが低く、かつ流動性が高い短期債に投資する場合が挙げられます。この場合、基本的には、満期償還後に再投資を繰り返すことが多いです。例えば、現預金が多い海外事業会社はこの目的で日本国債などの債券に投資する場合があります。
3つ目の「資産負債管理(ALM)」については、金利変動リスクを軽減させる目的で、バランスシート上の資産と負債のデュレーション・ギャップを埋めるように(特に資産のデュレーションを延ばすために)日本国債を保有する場合もあります。例えば、海外の生命保険会社は当該目的で超長期の日本国債を購入する場合があります。
4つ目の「流動性規制対応、担保需要等」については、海外の銀行がバーゼル規制で求められる流動性カバレッジ比率を満たすため、算出時に分子に計上される適格流動資産(High Quality Liquid Assets; HQLA)として日本国債を保有することもあります。また、海外の金融機関の日本支店が、緊急時に日本銀行からドルを調達できるよう日本銀行に対する差出担保用に日本国債を保有することもあります。なお、日本の金融機関の海外支店がFedからドルを調達する目的で、Fedに対する差出担保用に日本国債を国際決済機関の振替口座に保有する場合もあります。
このように、海外投資家の日本国債への投資目的は様々であるため、それぞれのニーズに応じ、きめ細やかな情報提供をすることが国債の安定的な保有につながると考えています。
なお、「市場が不安定になった時の海外勢の逃げ足は速い」という意見も聞かれることがありますが、全ての海外投資家の投資行動を一律に論じることはできないと考えられます。例えば、一部の中央銀行は為替政策のために円貨を保有し、その運用として日本国債に投資しています。また、短期債に投資する海外投資家も、短期売買を繰り返すのではなく満期まで保有し、満期償還後に再投資を行う場合が多いほか、資産負債管理(ALM)や適格流動資産(HQLA)管理を目的に中期~超長期債に投資する生命保険会社や銀行等においても、安定的な保有が見込まれます。
海外投資家の地域別分類
振替制度上、日本国債の最終投資家の地域別分布を網羅的に把握できませんが、国際決済機関(カストディアン)を含む保有者の地域別分類については、日本国債を含めた、居住者の発行する債券全体における保有者の国籍別分類が、国際収支統計(「証券投資等残高地域別統計(負債)」財務省、日本銀行)で公表されています。同統計によれば、海外投資家の地域別の保有額(令和3年末)は、(1)欧州113.3兆円、(2)北米42.9兆円、(3)アジア39.3兆円となっています。国別の保有額を見ると、上位3か国は(1)アメリカ40.9兆円、(2)ベルギー35.3兆円、(3)ルクセンブルク34.9兆円となっています。
なお、いわゆるタックスヘイブンなど複数の国に所在する口座を通じて日本国債を保有する海外投資家も存在するとも言われています。
海外投資家のプレゼンス
日本国債市場での海外投資家のプレゼンスについて次の3つを紹介します。
1つ目に、日本銀行公表の資金循環統計によれば、令和3年12月末において、海外投資家による日本国債の保有割合(ストックベース)は14.3%、保有額は175兆円ですが、短期債に限ればその割合は61.4%となり、短期債の保有割合の高さが特徴の一つとして挙げられます。足もとで日本の短期債の利回りがマイナスにも関わらず、海外からの投資が盛んな主な理由は、「海外投資家の投資目的別分類」でも述べた通り、ドル等を保有する海外投資家が通貨ベーシススワップを利用すると、ドル等の出し手である当該投資家がプレミアムを享受できる状況が続いており、このプレミアムを加えた日本の短期債の利回りは、海外投資家の自国の短期債よりも魅力的な水準となるためです。
2つ目に、海外投資家は、保有割合に比べて、流通市場でのプレゼンスが大きいことが知られています。例えば、日本取引所グループの投資部門別取引状況によれば、近年では国債現物取引の3割超が海外投資家によるものであり、国債先物取引に至ってはその比率は6割を超えています。
3つ目に、日本国債IRで面談した海外投資家からは、「現地時間において、あらかじめ価格や数量を指定して証券会社に入札を依頼し、東京時間で実際に入札を代行してもらう」との意見もよく聞かれ、流通市場だけでなく発行市場においても海外投資家が積極的に参加している点が挙げられます。
海外投資家から見た日本
最後に、日本国債に投資する海外投資家が日本をどのように見ているのか、以下紹介します。
(1)日本経済について
昨年10月の岸田政権の発足以降、同政権の掲げる「新しい資本主義」の具体的な政策、同方策の経済効果、新型コロナウイルス感染症対策、日本経済の見通しなどについて、多くの海外投資家から質問がありました。一部の海外投資家からは岸田政権に対する期待も聞かれました。
他方で、高齢化や少子化などの構造的な問題への対応に関心を示す海外投資家もいました。
(2)債務残高対GDP比、格付について
一部の海外投資家は、日本の債務残高対GDP比に関し、中長期的なリスクとなる懸念を抱いており、「信用力を維持する取組が大切」といった意見が聞かれました。
また、「今の格付に関わらず、日本経済・財政状況を総合的に判断して日本国債に投資しているが、現状よりも格下げとなれば、投資スタンスを見直さざるを得ない」という意見も聞かれました。
(3)日本国債について
2022年以降、日本国債と利回りの上昇が続く米国債とを比較し、日本国債が低利回りである点を指摘する海外投資家もいました。他方で、日本国債の流動性(換金のしやすさ)の高さを評価する意見が多く聞かれました。
このほか、今後も借換債を含めた日本国債の大量発行を余儀なくされる中で、日本銀行が金融政策の正常化に向かった場合に備えて、日本国債の安定消化に向けた取組に関心を示す海外投資家もいました。
おわりに
国債発行当局としては、引き続き、海外投資家による日本国債の安定的な保有に向け、引き続ききめ細やかな情報を提供していくことが重要であると考えています。
〈コラム〉日本国債IRのリアル
筆者の一人(大野、以下私)は令和2年7月、官民交流で財務省に出向し、主に日本国債IRを担当しました。私が一番注力しましたのが、オンラインによる日本国債IRの開催です。この機会に、日本国債IRのリアルな内容をお伝えしたいと思います。
通常の日本国債IRは現地の投資家との対面面談が基本スタイルですが、私が着任した令和2年以降は新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、外国出張ができなくなりました。そこで、オンライン会議ツールを活用し、PC画面の向こう側の投資家と面談することとしました。
オンラインIRは出張事務が不要で、距離の壁を簡単に越えられます。このメリットを活かし、出張しにくい地球の裏側の国々(ペルーやブラジル等)の投資家との面談も実現しました。また、米国の投資家と面談後10分休憩を挟んでカナダの投資家と面談という感じで効率的にIRを実施できるようになりました。他方で、課題も見えてきました。例えば、時差により早朝7時や深夜10時に開始する面談もしばしばありました。お互いの現地時刻に合わせ“Good morning”、“Good evening”と挨拶を交わす場面は印象的なのですが、画面越しでは、相手の「空気」を読んだり財務省の「熱量」を伝えるようなことは、リアルのコミュニケーションに比べて難しく感じられました。
世界中を飛び回れなかったとは言え、多くの投資家とお会いできたのは大変貴重な経験でした。そう思いつつ、オンライン会議のメリットと課題とを総括して出向元に戻る準備をしていたところ、5月にパリへ出張することが決まり、この度最初で最後となる海外出張を経験して参りました。現場ではウェブIRでは難しかった「空気感」や「熱量」を直に肌で感じることができ、非常に有意義な面談を行うことができました。財務省における最後のチャンスにこのような経験をすることができ、素晴らしい業務の締めくくりができたと思っています。
写真:オンラインIRの様子 左から栗田、大野、松山