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特集 改正商標法及び意匠法に対応し関税法を改正 税関における知的財産侵害物品の差止状況と取締りの強化

改正商標法及び意匠法に対応し関税法を改正 税関における知的財産侵害物品の差止状況と取締りの強化

税関における知的財産侵害物品の差止めは、2年連続で2万8,000件を超え、高い水準が続いている。そんな中で改正商標法及び意匠法により、海外の事業者が郵送等によって模倣品を日本国内に持ち込む行為は、商標権及び意匠権の侵害行為となることが明確化された。税関でこれに対応した取締りを行うため関税法が改正されたところ、今回の特集では知的財産侵害物品の差止状況と取締りの強化について紹介する。
取材・文 向山 勇

差し止めた知財侵害物品の例
写真:クッション(著作権)
写真:シールでロゴが隠されていた例
写真:エアロゾル生成装置のカートリッジ(特許権)
写真:ゲーム機用操作器(意匠権)
写真:衣類(商標権)

令和3年の税関における知的財産侵害物品の差止状況
差止件数は2年連続で2万8,000件超え依然として高水準の状態が続く

仕出国別の差止件数ではベトナム、フィリピンの増加が目立つ

令和3年の知的財産侵害物品の差止めは28,270件で前年比6.7%減となったものの、2年連続で2万8,000件を超える高水準の状況が続いている。
これを仕出国(地域)別で見ると、中国来の輸入差止件数が引き続き最多になり、全体の77.4%を占めている。ただし、中国の占める割合は過去10年で最も低い割合となっており、代わってベトナム、フィリピンの増加が目立つ。
ベトナムを仕出国とする差止件数は前年比220.7%の3,033件となり、全体の10.7%を占めた。また、フィリピンを仕出国とする差止件数は、前年比175.1%の1,112件で3.9%を占めている。
輸入差止件数とは、税関が差し止めた知的財産侵害物品が含まれていた輸入申告または郵便物の数をいう。一方で、輸入差止点数は税関が差し止めた知的財産侵害物品の数をいい、例えば、ある一件の輸入申告の中に20点の知的財産侵害物品が含まれていた場合は、「1件20点」となる。差止実績は昭和62年から公表しており、令和3年の差止件数は過去5番目に多い状況となっている。


図表.仕出国(地域)別・件数(上位国)

健康や安全を脅かす危険性のある物品の差止めが目立つ
権利別に見ると、件数ベースでは、令和3年は偽ブランド品などの商標権侵害物品が96.0%と全体のほとんどを占め、続いて偽キャラクターグッズなどの著作権侵害物品が2.4%となった。点数ベースでは、商標権侵害物品が最も多く75.9%を占め、次いで著作権侵害物品の11.8%となっている。商標権侵害物品の点数は前年比149.2%と大幅に増加したが、これは家庭用雑貨、医薬品、靴類の点数が増加したことが原因となっている。
品目別に見ると、件数ベースでは、財布やハンドバッグなどのバッグ類がトップ(28.8%)で、衣類、靴類と続いている。なかでも靴類の輸入差止件数が前年と比べて約2倍に増加しており、これはシューズアクセサリー、スポーツシューズの件数が増加したことが影響している。点数ベースでは、使用又は摂取で健康や安全を脅かす危険性のある物品の輸入差止めが継続している。特に電気製品が104,848点で前年比62.0%増、医薬品が21,502点で同579.2%増となっている。
続いて、輸送形態別に見ると、件数ベースでは、郵便物が91.3%と大半を占めている状況は、例年と変わっていない。一方、点数ベースでは、郵便物が43.1%、一般貨物は56.9%となっている。一般貨物の点数が466,420点で前年比36.0%増となったが、これは食器、マスク、電気製品等が増加したことが影響している。
また、令和3年の特徴としては、新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって、商標権を侵害するマスクの輸入差止め、また、キャラクター関連では流行した「鬼滅の刃」関連の侵害物品の差止めが目立っている。

図表.輸入差止件数・点数の推移
図表.品目別件数(上位品目)

商標が付されていない模倣品に意匠権や特許権などで対応
知的財産侵害物品の輸入差止めは、輸入差止申立てに基づき行われている。輸入差止申立て制度は、知的財産のうち、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権及び育成者権を有する者または不正競争差止請求権者が、自己の権利を侵害すると認める貨物が輸入されようとする場合に、税関長に対し、当該貨物について侵害物品かどうかを認定する手続きを執るべきことを申し立てる制度。
つまり、自らの権利を侵害するような物品がどういうもので、そうした物品が輸入されようとした場合に、税関で差し止めて欲しいことを権利者が申立てる仕組みになっており、令和3年末の時点で税関は703件の申立てを受理している。その内訳は商標権が434件、次いで意匠権の123件、著作権の90件となっている。
商標(ロゴ)が付されていない模倣品が輸入されるケースとして、たとえば、アップル社のマークの付されていないアップル社製イヤホンの模倣品などがあるが、こうした商標のない模倣品は、税関で差し止めることが困難となる。そこで、権利者の中には商標権以外の意匠権や特許権などの権利についても税関へ申立てを行うことによって、商標が付されていない模倣品についても税関で差止められるように対応している事例がある。
具体例を挙げると、前述のアップル社製イヤホンを意匠権で追加の差止申立てを行った例や、「BAOBAO」の文字を図形化した商標に追加して、幾何学模様の商標についても差止申立てを行った例などがある。

図表.品目別点数(上位品目)

令和3年に輸入差止めが目立った物品の例
令和3年に差止めが多い物品、増加した物品

写真:Tシャツ(商標権)
写真:トレーニング器具(意匠権)

健康や安全を脅かす危険性のある物品

写真:マスク(商標権)
写真:バッテリー(商標権)

告発事例
著作権を侵害する「鬼滅の刃」DVDの密輸入事犯を告発。
東京税関は、茨城県警察と共同調査を実施し、著作権を侵害する「鬼滅の刃」の映像が記録されたDVD(合計175セット、525枚)をマレーシアから密輸入しようとした日本人3名を関税法違反で告発した。(令和3年2、3月)

差止回避工作事例
他の物品の外箱の中に意匠権を侵害するイヤホンを隠匿。
外箱の中から別の外箱を発見し、中身を取出したところ、意匠権を侵害するイヤホンが発見された。

図表.商標が付されていない模倣品に対する権利者の対応

2022年3月に関税法を改正
海外の事業者を仕出人とする模倣品の水際取締りを強化

税関の認定手続で個人使用目的との主張が増加
知的財産を侵害する疑義のある物品を税関の審査・検査で発見した場合には、それが知的財産を侵害する物品かどうかを認定するための手続きを執ることとされている。これを「認定手続」と呼ぶ。
認定手続には通常手続と簡素化手続がある。通常手続では疑義物品を発見した際、権利者と輸入者の双方に対して認定手続の開始を通知する。その上で権利者、輸入者から証拠・意見が提出され、それを元に税関では、その物品が侵害物品に該当するかどうかを認定。該当する場合には税関は当該物品を没収することができ、該当しなければ輸入が許可される。
一方で、輸入差止めの申立てが受理された貨物のうち一部の権利(特許権、実用新案権、意匠権、営業秘密以外の権利)については、簡素化手続を執ることとされている。簡素化手続では、まず疑義貨物を発見した際に、輸入者に対して(1)認定手続を開始する旨、(2)疑義貨物が侵害物品に該当するか否かを争うかどうか、を書面で通知する。
輸入者が争う意思を示さない場合は、税関において差止申立ての内容から侵害の該否を認定する。簡素化手続では「輸入者から争う旨の申出がない場合には権利者が書類を提出しなくてもいい」との点で手続きが簡素化されている。
輸入者が争う意思を示す場合は、輸入者、権利者の双方から提出される証拠意見の内容によって侵害の該否を認定する流れになる。
この簡素化手続の中で、「侵害物品に該当しない」と争う旨の申出が近年増加している。令和3年の認定手続開始件数は32,694件だったが、そのうち争う旨の申出件数は4,080件で1割強の輸入者が争う旨を申し出ている。そのほとんどが、「個人使用が目的である」との主張であり、多くの主張が認められ輸入が許可されている。
こうした状況を踏まえ、令和3年5月に特許法等の一部を改正する法律が成立・公布された(施行日は、公布の日から1年6月を超えない範囲内で政令で定める日)。
同法において商標法と意匠法が改正され、海外の事業者が模倣品を郵送等によって日本国内に持ち込む行為は、商標権及び意匠権の侵害行為となることが明確化された。
従来は日本にいる者の事業性がポイントになっており、事業性のある者であればその輸入は権利侵害行為とされていたが、事業性のない者であれば侵害行為にはあたらなかった。
今回の改正により、海外の者に事業性があり、その者が模倣品を郵送等で日本国内に持ち込めば、侵害行為に該当することが明確化されたため、日本にいる者に事業性がない場合、つまり個人使用の目的で輸入する場合であっても、海外事業者が持ち込む模倣品は侵害物品に該当することになる。
これを受けて、新たに権利侵害となることが明確化された行為に係る物品を税関の取締対象とするため、関税法の改正が行われた。
改正内容は大きく3つある。

図表.認定手続の流れ
図表.認定手続における争う旨の申出の推移
図表.改正商標法及び意匠法の概要

〈関税法の改正内容〉
1 改正商標法等で権利侵害となることが明確化された行為に係る物品を、関税法の「輸入してはならない貨物」として規定するとともに、認定手続の対象とした。
2 改正商標法等で権利侵害となることが明確化された行為に係る物品を輸入した事業性のない者は、関税法上の罰則の対象としないこととした。
3 認定手続一般において、疑義貨物を輸入しようとする者が、当該物品が侵害物品に該当しない旨を主張する場合に、税関長が当該者に対して、その旨を証する書類の提出を求めることができるよう、規定を整備した。
このうち3については、これまで税関は、輸入者に対して証拠・意見の提出が可能であることを通知することしかできなかった。今回の改正で輸入者に証拠や意見の提出を求めることが出来るようになり、侵害の該否を適切に認定できるようになることが期待されている。
提出を求める書類は、通達で例示されており、認定手続では税関から輸入者に対してこうした書類を証拠書類として求め、侵害の該否を判断していくことになる。

図表.改正後の関税法の規定
図表.輸入者に提出を求める書類の例(「認定手続開始通知書」から抜粋)