このページの本文へ移動

還流する地下資金―犯罪・テロ・核開発マネーとの闘い―10 安全保障の試金石・金融制裁

IMF法務局 上級顧問  野田 恒平

図表.本章の範囲

要旨
■金融制裁の有効性を巡る第1の問題は、カネがヒトやモノの流れとして、近隣友好国を通じて対象国に流れていく可能性があること。これを防ぐ為には、国際的な働掛けに加え、友好国の手前における各国のアウトバウンドの国境管理強化が必要。
■第2の問題は、米国の単独制裁乱発によるドルの長期的な地位低下の恐れ。米国の制裁対象拡大に伴い、その遵守を求められる金融機関等の負担は大きい。イラン制裁を巡っては、EUにより独自の決済機関が設立される等、既にドル離れの動きも。
■第3に、特定対象制裁(TFS)に固有の実施困難性が挙げられる。BOや国籍ロンダリングの存在により、機械的な制裁対象への対応だけでは、実効性が確保されない。国内外に亘る、当局間の連携と情報交換の枠組みを確立することが不可欠。

ロシアのウクライナ侵攻に端を発し、経済制裁の議論が再び注目を集めている。その中核にあるのは、経済の血脈であるカネの流れを遮断するという金融制裁である。経済制裁自体は国際社会において以前から安全保障上のツールとして用いられてきており、これまでの、その最も主要な対象国の一つは北朝鮮である。国際社会の声を無視した北朝鮮の行動に対しては、経済活動全般に亘る厳しい制裁が取られてきた(図表1:北朝鮮制裁に係る安保理決議)*1。しかし、制裁を受けた北朝鮮はその振舞いを改めるどころか、2022年に入ってからも累次のミサイル発射実験を繰り返している。
かかる度重なる北朝鮮の挑発的行動を前に、「果たして制裁は効果を上げているのか」という懐疑の声はかねてより多い。制裁の有効性が減殺される根本的な原因は、最終的には今日の国際社会の主権国家体制と、その下での、冷戦構造の残滓を背負った大国を軸とした対立構造にある。他方で、世界が当面はそのような状況を所与とせざるを得ない以上は、現行の制度的枠組の中で、どのように少しでも制裁の実効性を高めていくかを考えていかざるを得ない。
前章までで、政府による汚職や国家的テロ支援の問題を見てきたが、本章で取り上げる核兵器開発等に係る資金は、それらにもまして明瞭な形での「国家的」地下資金である。FATF基準に取り込まれたのは比較的最近ながら、その成否に国際社会の真価が問われる領域と言えよう。

写真:北朝鮮のキム・ジョンイル前総書記は、自身の支配基盤強化のため、労働党直轄の資金としての外貨獲得メカニズムを確立させたと言われる。(出典:kremlin.ru, CC BY 3.0)

1.FATFにおける制裁の位置付け
まず始めに、そもそも経済制裁とはどのようなもので、それがFATF基準とどのような関係に立つのか、整理しておく必要がある。FATF基準の下での地下資金対策には、マネロン・テロ資金、そして大量破壊兵器等の開発に関わる資金規制の、3本の柱がある(図表2:FATFのマンデートの拡大(再掲・財務省作成))。そして「制裁」と呼ばれるものは、この内のマネロンを除いた2つに関連する。具体的には、勧告6及び7において、各々アル・カーイダ等のテロリスト及び北朝鮮・イランの制裁対象者に対する資産凍結等の措置を定め*2、有効性指標10の一部及び11がそれぞれの勧告に対応し、各国の実施状況を測定する役割を担っている*3。これらは、犯罪捜査・マネロン規制を淵源とする地下資金対策のその他の部分とは一線を画した、安全保障の系譜に乗る枠組みである*4。
FATF基準に含まれている制裁は、国際社会においておよそ「制裁」と呼ばれるものの中で、ほんの小さな部分集合に過ぎない(図表3:各種制裁の関係性(概念図・筆者作成))。そもそも国連の集団安全保障上の措置は、軍事的なものと非軍事的なものに分かれるが、前者については、当初想定されていた憲章上の「国連軍」は今までのところ組成されたことはなく、加盟国による個別軍事行動の許可により実施されてきた。もっとも、それも血が流れる最後の手段であり、多くの場合まずは非軍事的措置、即ち経済制裁が実施される*5。経済制裁と言っても、ヒトの移動制限やモノに係る禁輸等幅広いが(図表1)、最も効果が高いものとして期待されているのが金融制裁である。金融は経済の血流であり、この流れが遮断されてしまえば、あらゆる経済活動が困難となる。
この金融制裁の中にも、銀行間送金の完全遮断や一定の投資活動の規制等、様々な類型があるが、FATF基準の中に取り込まれているのが、特定対象金融制裁(TFS:Targeted Financial Sanctions)と呼ばれるものであり、国全体ではなく特定の個人や団体に限定して、資産凍結等の金融的措置を行うというものである*6。とは言え、これまで安保理決議が出されたTFSの全てが、FATF基準の中に取り込まれている訳ではない。TFSは、これまで多くの個人・団体に対して取られてきているが、前述の通り現時点でFATF基準と関連付けられているのは、アル・カーイダのようなテロリスト等のほか、北朝鮮・イランの2か国に関する個人や団体であり、これらは、いずれも核兵器等の大量破壊兵器開発に絡むものである*7(図表4:これまで我が国においてとられた資産凍結等の措置と、その根拠等(網掛けがFATF基準でカバーされているもの))。
ここで、留意点を3点示しておきたい。
まず第1に、FATF基準の発展を時系列的に見ると、2001年の9.11を受けた、テロリストという非国家主体に対するTFSが最初に取り込まれている。しかし、上記の通り金融制裁は国連の非軍事的措置という大きなカテゴリーの中に位置付けられるものであり、その一義的な対象は特定の国家である。この意味では、国家的アクターを念頭においた拡散金融の方がTFSとしても基本形であり、テロリストを対象としたTFSは、むしろ応用的なものと言える。実際、国連の歴史においては国家的主体に対する制裁の方が、歴史はずっと長い。本章において、TFSを主として拡散金融に関わるテーマとして取り上げるのも、その為である*8。
第2に、上述の通りFATF基準に取り込まれているのは、今日において各国が国連安保理の場で合意し、かつ、それが更に既存の地下資金対策の枠組みと関連付けられることにも合意した、極限の最大公約数であるという事実である。特に、北朝鮮・イランに対してのTFSは、それが核不拡散に関連したものであるために、大国同士が地政学的な対立を超え、核保有国としての共通利益の一致を見て、地下資金対策の文脈に置かれることとなったものだ。これらのTFSの実効性すら担保できないというのであれば、およそ非軍事制裁全体の存立が疑わしいということになってしまう。よってその成否は、安全保障という文脈で今日の国際社会に提示された、試金石の一つとも言えるものである。
第3に、国連安保理決議に基づくマルチラテラルな制裁の仕組みの存在は、各国が独自の判断によって、個別の制裁措置を行うことを妨げるものではない(図表3・4)。日本も北朝鮮に対して付加的な独自制裁を行っているが、世界通貨ドルを持つ米国の単独制裁(米国財務省OFACによるもの。第8章参照)は、時としてFATF基準を軸とした地下資金対策の国際協調の枠組みと緊張関係をもたらすこともあり、また、金融機関等のコンプライアンスの観点からも、重大な関心事項である。もっとも、その乱発がなされればドルの地位低下を推し進める潜在的要因の一つとなり、ひいては、金融制裁全体の実効性を減殺させる可能性があるとも指摘される。この点に関しては、後述する。
以上の理解を前提に、冒頭において提示した「制裁は効果があるのか」という大きな問題意識に立ち返ってみよう。その実効性に疑義を投げ掛ける言説を、本稿が対象とする地下資金対策上の金融制裁に関して分析すると、(1)経済制裁一般に当てはまる指摘と、(2)それがカネに関わる金融制裁であるが故のもの、そして、(3)金融制裁の中でも、更に特定の対象に限定されたTFSであることに起因する論点と、3つのレイヤーに属する議論が混在している(図表5:「制裁の有効性」を巡る論点整理(筆者作成))。以下においては、これら各々について問題の所在を整理し、それに対してどのような対応が可能であるかを検討していく。

2.国境管理:地下資金対策の盲点
制裁履行を徹底しない友好国
ヒト・モノを含む経済制裁の実施一般に関し、一部の国が実施に不熱心であることが、その実効性を低下させているとの指摘がなされることがある(第1レイヤーの問題)。
実際、例えば対北朝鮮制裁に関して、中国が日本や米国程には真摯でないである可能性は、両国が基本的には友好関係にあることから、容易に想定される。中国に対する直近のFATF相互審査においては、拡散金融規制の実施に「根源的な欠陥がある」等として、関連する勧告7・有効性指標11両方について、4段階で最低の評価となっている*9。もっとも、再三述べてきた通りFATFの審査はあくまで技術的な観点に特化して行われ、政治性は排除されるべきというのが理念であって、報告書の中でも政治関係に対する言及はない。とは言え、FATFからこのような明確な低評価を下されていることは、同国の制裁に対する取組みの現状を把握する一助にはなるだろう。
そして、中国と北朝鮮は国境を接している。金融制裁に関して言えば、北朝鮮に資金を持ち込もうとした場合、格別に複雑なスキームに頼らずとも、現金や金塊等の価値代替物を、人手を使って越境させることで、比較的簡単に達成できてしまう可能性はある。この点、中国の側が必ずしも意図的にそのような持込みを支援している必要まではなく、取締りに不熱心であるというだけで充分である。経済制裁が、ヒト・モノ・カネに分かれる旨前述したが、これはあくまで便宜的な分類であり、実際には当然ながら相互に多くの重なりがあることに注意しなければならない(図表6:経済制裁の各分野の関係性(概念図・筆者作成))。資金の流れは、ヒトやモノといった有体的な形態を伴っても生じ得るのであり、金融機関間の送金だけを見ていれば良いというものではないのである。現実問題として、国際的な決済システムから実質的に遮断されている北朝鮮にとって、原初的とも言える、現金や価値代替物である金塊等の持込みは、資金獲得の有力な手段と見られている*10。
制裁対象国と友好関係にあり、そしてそれが故に制裁実施に不熱心な周辺国を想定した場合、そのような周辺国は、世界全体から制裁対象国に開かれた、資金の抜け穴となる可能性がある。まず、何れの国の税関・入国管理当局も、基本的には輸入・入国といったインバウンドにプライオリティを置いており、輸出貨物・出国旅客といったアウトバウンドには、多くのリソースを割いていない。これは、各国当局の責務が、一義的には自国への麻薬等の禁制品の密輸防止や、関税の適正な賦課徴収といった点にあることを考えれば当然である。我が国の関税法においても、禁制品は国内への持込みが禁止されているのと同様に、国外への持出しも禁止されているのだが*11、その執行の程度には大きな開きがある。海外から帰国した際、空港では必ず手荷物検査を受けるが、出国の時に検査を受けた経験を持つ人は、ほとんどいないのではないだろうか。しかし、各国がそのような不均衡な国境管理体制を取っていたとしても、通常は問題にはならない。なぜなら、ある国にとってのアウトバウンドは受け手国にとってのインバウンドであり、そこで厳格な国境管理上の執行がなされるのであれば、国際社会の総体としては、規制が適正に行われるはずだからである。
他方で、拡散金融規制を想定した場合、これは、極めて不都合な真実となり得る。拡散金融規制が対象とする核開発等の資金が、本質的に受け手国自身が裨益する地下資金であって、当該国はその国境管理上の防圧に対し、当然インセンティブを持たない。そうであれば、資金が他国から持ち出される際に、制裁違反が疑われる場合は止めるほかないが、前述の通り、アウトバウンドの国境管理はどの国も脆弱である。もっとも、例えば北朝鮮に、日本や韓国から直接に大量の現金を持ち込むことは、現実として難しい。しかし、中国のような友好国を経由することで、持込みは遥かに容易となり得る。この場合国際社会としては、当該友好国に対し、制裁対象国との関係での管理徹底を促し続けることは当然に必要だ。しかしそれに加えて、根本的にはその前段階の元々の「仕出国」のアウトバウンド段階で、執行を強化することが望ましいだろう。各国の現状における、インバウンドとアウトバンド間の投入リソースの著しい不均衡は、経済制裁の実効性を著しく減殺している可能性があることを認識せねばならない。とは言え当然のことながら、各国ともインバウンドと全く同じ人員・体制をアウトバウンドに投じることは、現実的に期待できないだろう。よって、アウトバウンド管理について、制裁対象国への資金移転リスクを貨物・旅客ごとに適切に判定し、効率の良い検査体制を整えることが不可欠である。その為には、国内機関相互及び国境をまたいだ当局間のインテリジェンス情報の、適時の共有も求められることになろう*12。
「自由貿易区域」という抜け穴
また、カネとモノの接点という意味で、もう一つ大きな問題点として取り上げるべきなのが、自由貿易区域(Free Trade Zone)の存在である*13。これは中継・加工貿易等の目的で用いられる特定のエリアで、特別税関区域(Special Customs Zone)、自由港(Free Port)等様々な呼称と若干ずつ異なる機能があるが、その定義上のエッセンスは、域内において関税が免除されており、かつ税関当局の貨物の管理が弱いことである*14。世界税関機構(WCO)が2018年に行った調査では、回答があった加盟国61か国においてだけでも、これらの機能を有する区域が2,300以上もあるとされており、エコノミスト誌の2015年の調査では、この数字は世界全体として4,300にも及ぶ*15。勿論、関税を免除することは各国の自由であるが、問題は、それらの区域において税関の監視機能が実質的に機能していない例が多く、大げさに言えば、ある種の「治外法権」のような状態にあることである。このような場所では、現金の収受や積荷の入替え、申告価格の改ざん等が容易に行われ得るため、地下資金対策上のもう一つの致命的な抜け穴となりかねない。FATFもかかる事態を憂慮し、既に2010年の段階で警鐘を鳴らしている*16。今後、自由貿易区域の統制強化と、その為の国際協力の枠組みを整えることが急務である。
なお、FATF基準においても、国境管理の分野について全く沈黙している訳ではない。勧告32はキャッシュ・クーリエ(現金運搬者)に関連し、15,000ドル以上の現金移動については、適切な申告制度とそれに伴う罰則を設けること等を要請している。しかし、これはあくまで法的な制度論であり、実際の水際での検査や、自由貿易区域内の運用の在り方などについては、現状では言及がない。第4章で述べた通り、FATFはその沿革上、今に至るまで各国の金融監督と警察当局を中心としたフォーラムであり、ヒトとモノの管理に係る議論は、必ずしも大きな位置付けを占めてきたとは言えない。対する税関当局の側も、これまで地下資金対策への認識と取組みは、十全とは言い難かった*17。しかし、カネも一たび現金等の有体物の形態を取ればモノの問題であり、それが手荷物として運搬されればヒトの問題でもあるという当たり前の事実を、改めて認識する必要がある。各国の税関・入国管理当局及び関連する国際機関を、これまで以上に地下資金対策を巡る議論に関与させ、要すればその結果をFATF基準の中に反映させていくことが望まれる。

写真:北朝鮮と国境を接する中国東北部の街・丹東。写真奥の鴨緑江に架かる中朝友誼橋を挟み、北朝鮮は目と鼻の先である。日米は同地所在の金融機関に対する送金について、禁止又は厳重確認の要請を行っている(出典:IMAGO Images, 102706892)

3.米国の単独制裁とドルの地位
イラン制裁とドル離れ
次に、世界経済におけるドルの地位がただでさえ凋落傾向にある中で、米国の単独制裁乱発が更なるドル離れを加速させ、ドルの力に頼っている金融制裁の効果は長期的に見れば低減せざるを得ない、という見解が存在する(第2レイヤーの問題)。
冒頭述べた通り、経済制裁には特定国が単独で発動するものもあり、その典型が、米国財務省・OFACによる独自の金融制裁である(図表3・第8章参照)。そのような単独制裁は、ドル決済依存へのリスク認識を高め、既に他の通貨や暗号資産に脅かされているドルの地位低下に拍車をかけることで、米国ひいては世界が、金融制裁のツールを失う結果となる、というのが、この主張の眼目だ*18。これは、外部からの指摘というだけに留まらず、米国財務省自身が抱き続けてきた懸念でもある。実際、米国政府において金融制裁の中核的役割を担いつつも、財務省は過度の制裁乱発には難色を示してきた。最近の例では、トランプ政権当時のムニューシン財務長官は制裁に慎重な立場を取ったものの、最終的には外交的要請に押し切られた形となった経緯が、国家安全保障問題担当の大統領補佐官であったボルトン氏によって後に明かされている*19。
しかし、ムニューシン長官をはじめとする懸念は、決して杞憂ではない。このような副作用が実際の形で現れたのが、トランプ政権における対イラン制裁の復活に際してであった。選挙期間中からイラン核合意(JCPOA)を批判していたトランプ大統領は、2018年5月、同合意から一方的に離脱し、解除していた制裁を順次再適用した。同年11月には、イランの生命線とも言える石油取引の禁止を打ち出したが、これにより、米国内のみならず日本を含めた他国企業も、限られた例外措置の範囲内を除き*20、原則としてイランとの石油取引ができなくなってしまった。米国一か国の措置に過ぎない取引禁止に、なぜ別の法管轄域に属する企業が従わざるを得ないのであろうか。実は、それこそが基軸通貨ドルの力である。この時、石油取引禁止とセットでもう一つの措置が発表されているが、それは、このようなモノの取引禁止を裏側から担保する、金融制裁であった。具体的には、外国金融機関のイラン中銀・制裁対象イラン金融機関との取引等を禁止し、これに違反した外国金融機関には、米国での銀行間決済の禁止、即ちドル決済からの締出しが行われることとされた。言うまでもなく、国際貿易の大半はドルで決済されており、この血流を遮断するという措置により、米国は実質的に、実体経済上の措置にまで自国の政策を及ぼしている。そして、このような広範な制裁とそれに伴う罰則適用は、日本を含む米国外の金融機関にとっても大きなビジネス・リスクである。
EUはこの時に、ドルの軛から逃れるべく、独自の動きに出た。2019年1月31日、英独仏が中心となって、JCPOA継続のためにイランとの円滑な金融取引を実現すべく、ドル以外での決済を実現する特別目的事業体(SPV)の設立を発表したのである。この機関は、「貿易取引支援機関(INSTEX:Instrument in Supporting Trade Exchanges)」と名付けられた。これは、唐突に出てきた動きではない。対イラン制裁を巡っては、欧米はクリントン政権下から対立を続けていた。更に、先般のトランプ大統領の制裁復活に当たっては、EUはこれに対抗していわゆる「ブロッキング規制」を発動したが、これは、欧州委員会が認めた場合を除き、EU域内の者が米国の単独制裁に従うことを禁止する、という対決的な内容を含むものであった。度重なる米国のユニラテラリズムに、欧州も遂に業を煮やしたといったところであろう*21。
米国は、数多くの経済制裁根拠法を持つ。この中には、キューバ、イラン、リビア、北朝鮮といった対象国を特定した立法もあるが、最も基本となるのは、国家緊急経済権限法(IEEPA:International Emergency Economic Powers Act)と呼ばれる、大統領への包括的な授権法である*22。IEEPAは、「米国の国家安全保障、外交政策、経済に対する国外からの異常な脅威(unusual and extraordinary threat)」に対応するために大統領が国家緊急事態を宣言し、制裁等を発動できる、とするものである*23。この法律は、端的に言えば若干濫用に近い運用がなされており、「米国への脅威」を拡大的に解釈し、大統領令によって多くの制裁を執行している。近年の例では、2021年2月にミャンマー軍関係者への金融制裁を行ったが、この時の根拠となったのも、IEEPAの下での「米国への脅威」であった*24。更に、近年では大統領令においても具体的な制裁対象者までは特定せず、財務省による指定に任せているが、この議会・大統領・財務省と続く授権の連鎖に従い、既に大枠として制裁対象となっている国については、頻繁に対象者リスト(Specially Designated National(SDN)List)の増補が行われる。結果として、文字通りのリスト形式では一覧性に欠ける程の、膨大な制裁対象者「データベース」が構築されており、コンプライアンスの観点から、この全てに意を配らねばならない事業者の負担は、米国内外を問わず膨大である。このようなビジネス・コストも、長期的にはドルの覇権に負の影響を及ぼすことは確実と思われる。
さて、時として発露する米国のユニラテラリズムを抑制するには、FATFのような国際場裡において、かかる単独制裁の過剰な実施による弊害を正面から議論し、メンバー国からの辛抱強いピア・プレッシャー(相互圧力)によって、少しでも一過性の政治的動機に基づく制裁乱発を抑制するよう、働き掛けていくしかないだろう。勿論、FATF自体が世界通貨ドルの力にその実質的強制力の源泉を求めている以上、その所有者たる米国を制御していくのは、容易ならざることは間違いない。しかし、逆に言えば正にそのドルの力が急速に弱まるような事態は、FATFメンバー共通の関心事項として、懸念を呈すべき問題なのである。そして、他方でそれを批判する側も、脛に傷を持つような行動は避けねばなるまい。例えば、EUは2015年以降、FATFから離れた独自の取組みとして、地下資金対策上のハイリスク国のリスト化を行っている。この作業は当初、その選考過程の不透明さが批判された。米国の単独制裁と比せば遥かに影響は小さいものの、このような単独行動は、やはりFATFを軸とした地下資金対策の国際的協調とは、摩擦を引き起こし得るものである。
当然のことながら、金融制裁の本質が外交政策であることを考えれば、各国が独自の外交的考慮によって制裁を発動することは、それが須らく批判されるべきものではない。現に、我が国は北朝鮮に対して、国際基準よりも厳しいレベルでの経済制裁を課していることは、既に述べた通りである。しかし、そのような単独制裁は、当該個別国が置かれた状況に照らして適切であり、その適用・解除の基準にも、ある程度一貫した方針があるものとして評価されていなければ、国際社会からの信認は揺らいでしまう。トランプ政権下でのイランへの制裁再適用を巡る一連の経緯は、米国以外の多くの国が、JCPOAの枠組みを一応の機能を果たしているものとして評価していた中で、国内政治向けのパフォーマンスとして捉えられたことは紛れもない事実であり、ドル決済を継続することが、ビジネス・リスクとしてもはっきり認識される事態ともなった。地下資金対策の今後を考えるに当たり、大きな教訓を残した出来事であったと言えよう。

写真:ペルシャ湾に面したイラン・アサルーイェの石油精製施設(出典:Tasnim News Agency, CC BY 4.0)
写真:2016年、現地の習俗に則したいでたちでテヘランでのザリーフ外務大臣との会談に臨む、EUのモゲリーニ上級代表(職責はいずれも当時)(出典:Tasnim News Agency, CC BY 4.0)

「SWIFTからの排除」の意味
補論として、対露制裁に関連して昨今盛んに報じられているSWIFTについて、少しだけ触れておきたい。2022年のロシアのウクライナ侵攻に関連し、EU理事会は3月2日に、ロシアの大手7金融機関を国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除する旨、決定した。SWIFTは、民間機関でありながら国際決済に係る電文送受信を担う金融の基幹インフラであり、ここから排除された金融機関は、機動的な決済に携わることが困難となる。そして、EUに続いて日米含むG7各国も同様の排除を決めたと報じられているが*25、このような措置を法的に求めることができるのは、EU及びその決定を受けたベルギーのみである。なぜなら、SWIFTはベルギー国内に所在しており、同国の法管轄に服すると考えられているからだ。つまり、EUはその気になればユニラテラルな措置として、SWIFTからの特定国の金融機関を排除することができる。金融制裁という枠組みにおいて、世界通貨ドルの力を源泉とした米国とは全く違う態様で、実はEUが決定的な「切り札」を持っているという事実は、認識しておく必要があろう。
他方、このような強い威力にも拘らず、SWIFTからの排除は、ことTFSについては有効なツールとはなり得ない。現在の電文の構造上、送金先の個人や法人を個別に排除したり、ましてやその背後のBOを辿って電文送信を止めたりすることはできないのである。要すれば、SWIFTからの排除は特定国の金融機関を丸ごと排除するには極めて有効である反面、ファイン・チューニング(微調整)は効かない措置である、と言い換えることもできる。対露制裁が話題になっている今こそ、その潜在的な威力及び限界の両面につき、正しい理解を持っていなければならない。

4.イラク・国連汚職から生まれたTFS
最後に、制裁対象とされた者は様々な方法でアイデンティティーを偽れる為、資産凍結等の措置は効果がない、とする指摘がある。これは、FATF基準に取り込まれた金融制裁が、特に特定対象金融制裁(TFS)であるということに起因する困難性である(第3レイヤーの問題)。
この点、指摘される通りTFSが非常に実施困難な制度であることを、十分に実感を持って認識することから始めねばならない。拡散金融規制について言えば、TFSの対象は核兵器等の大量破壊兵器の開発に関連する個人・団体である。関連すると言っても幅広く、直接に開発・研究に携わったりその指揮・監督を行う者だけでなく、その為の資金獲得に携わる者が広く含まれる。もっとも、抽象的にそう言うのは簡単であるが、実際にそのような者を資産凍結等の対象として網羅するのは、容易ではない。再び、北朝鮮の例に則して見てみよう。北朝鮮体制内において外貨獲得活動の中核を担うのは、第39号室と呼ばれる、総書記直轄の秘密組織である。しかしこの他にも、国務委員会傘下で軍経済を担当する第二経済委員会や武器取引を担当する人民武力省、朝鮮労働党の内閣・計画財政部等があり、これらが各々多くの海外フロント企業を通じて外貨稼ぎを行っているとされる*26(図表7:キム・ジョンウン体制の下での、北朝鮮の外貨獲得に関連する機構(中嶋(2018)より))。何れの組織が獲得した外貨が、どれだけ兵器開発に振り向けられているかは不明であり、かつ、カネに色目が付かない以上は余り意味がない議論とも言え、資金を遮断しようと思えば、理想的にはこれらの組織に関わるフロント企業を、須らく制裁対象としなければならないだろう。
しかし、言うまでもなくそれは途方もなく難しい作業である。一時点での数の多さに加え、専制的な体制を取る国家が国ぐるみで行っている外貨獲得事業において、次から次へと新たなフロント企業を作ることはいともた易い*27。通常のビジネス活動を装っていても、その利潤が核開発資金として流れている可能性もある。このように、TFSという仕組みを考えると、日本が北朝鮮に対して独自制裁として取っているような対象国への支払いの原則全面禁止のような措置の方が、実効性確保は明らかに容易である*28。
では、なぜ今日ではTFSが金融制裁ひいては経済制裁全体の中核となっているのであろうか。その歴史は、イラク戦争に遡る。1990年に国連が取った当初の対イラク制裁は通商の全面禁止であり、13年間に亘りほとんどの産品の取引きを禁止するという、非常に厳しいものであった。しかしこれは、イラク国内の無辜の民を苦しめるという、大規模な人道上の問題を惹起し、批判の声が高まった。その解決の為に、「石油・食糧交換プログラム(Oil-for-Food Programme)」が考案され、これによってイラクからの石油の輸出が認められる一方、その代金は食料品・医療品等の購入のみに当てる為に管理することとされた。もっとも、このスキームは資金の使途を巡って汚職を生み、国連は設立以来最悪の権威失墜を経験した*29。
この一連の経緯は、国連に深いトラウマを残した。そして、これ以降の国連による通商上の制裁は、その実施当初から、基本的に武器等にその対象が限定されることとなった*30。今日の主流であるこの制裁の形態は、特定制裁(Targeted Sanctions)・限定的制裁(Selective Sanctions)と呼ばれるほか、スリムなという意味と、人道に配慮した賢い制裁という含意を掛け詞にして、「スマート・サンクション」という名前も付けられている*31。TFSは、このようなモノに関する特定制裁を、文字通り金融の領域に敷衍したものである。しかし、例えばモノの世界で、武器と食料が容易に区別が付く一方、武器を買う資金と食料を買う資金では、峻別は難しい。色目の付かないカネは、本質的には「特定」制裁というコンセプトと親和性が低いのである。従って、その使途に着目した規制だけでは実効性を確保することができず、自ずと、そのカネに関わるヒトに着目した形での金融制裁が、中心的な役割を果たしていくこととなる*32。
個人・団体を指定しての資産凍結という手法は、このような歴史的背景を伴う産物である。国連のイラクの苦い経験を踏まえれば、TFSの実効性確保は課題として認識されつつも、国家全体を対象とした包括的な金融制裁という措置は最後の手段として保留され、今後とも、TFSがまずは初期設定としての金融制裁であり続けざるを得ないであろう。よって、技術的制約の中で少しでも実効性を上げる為の方途を検討することが、地下資金対策の文脈においても建設的な態度である。
しかし残念ながら、それには特効薬はない。地道ではあるが、国連及び各国インテリジェンス間の協力により、必要に応じて、制裁対象とすべき者を安保理において機動的に追加指定すること、そのように指定された者・団体を、各国は速やかに国内法的にも制裁対象とすること*33、そして、表面的な名義の背後に対象者が実質的支配者(BO)として隠れているケースをあぶり出す作業を、国際的なレベルで充実させていくより他ないのである*34。第6章で述べた通り、現行制度の問題の根幹は、資本関係を介さない法人等の支配関係については自己申告に頼る中、真の意味での検証メカニズムが、世界的に見ても各国においてほぼ存在しないことである。これは、マネロン・テロ資金規制を含む、地下資金対策の基盤に関わる制度的欠陥と言える。BOに関しては、事業者が民間ベンダーから提供される情報等をベースに確認作業を行っているが、官の側が主体的に検証を行っていない現状は、官民のバーデン・シェアリングとして適切な在り方かは疑わしい。
この点、当初の情報は法人等の自己申告によるにせよ、その後は何れかの公的機関が継続的な調査を実施し、情報の真正性を確保することが望ましいだろう。勿論、全ての法人等を調査することはできないので、適切なリソースの配分が必要となる。その際に有効であるとして提唱され、実際、欧州のいくつかの国では実施されているのが、BO情報の公開による、社会的な監視である。即ち、国として提出されたBO情報をデータベース化した上で、誰にでもアクセス可能にする。そして、そこにあるデータに疑義を抱いた人は、当局に情報提供できるようにするのである。ただし、このような情報公開は、最終的には当局が実質的な検証のための調査権限を付与されることと一体になって、はじめて奏効するものであることには、注意を要する。そして、このような取組みが各国において行われた後には、そのようなデータベース同士が国際的に連結され、各国間の情報共有と、更なる相互検証作業が不断に継続されていくことが望ましい。制裁対象者はしばしば、国を跨いで資金を動かすネットワークを持っている。それを取り締まろうと思えば、一つの国・地域だけで完結するということはあり得ない。
BOの問題に加え、一定の投資と引き換えに他国の国籍を取得し、真の出身国を偽装できる国籍ロンダリングへの対応も重要である。制裁対象国の資金獲得に携わる人物が、元々の国籍を偽って金融システムにアクセスしていることが、現状、十分に想定されるからだ。この為には、国際租税の取組み同様、黄金パスポート制度によって裨益している国も巻き込んだ、世界的な規制の枠組み作りが急務である(第6章参照)。もっともこれらの提言は、今日の状況を踏まえた実務感覚からは、夢物語であると言われても仕方がない。既に述べた通り、FATFという強力な実質的強制力を持つ国際的なプラットフォームにおいてすら、これらの取組みは山の裾野にしか至っていないのである。しかし、それを遠い理想として議論の俎上にすら載せようとしないのであれば、それはTFSの実効性確保を始めから放棄することと同義であろう。
以上、FATFの射程であるTFSについて、その有効性を高めるための方策を検討した。これらの論点の内いくつかは、地下資金対策一般に敷衍し得るものである。加えてカネの流れの実態としても、本稿の通底した主題である地下資金の還流という文脈で、例えば北朝鮮に制裁をかいくぐって送られる資金の一部は、マネロン規制の対象でもある、麻薬密売等の犯罪収益である可能性が濃厚であることは、第2章で述べた通りである(図表8:地下資金の還流(概念図・再掲)(筆者作成))*35。このような地下資金の流れを包括的に理解し、対策を整備していかなければならない。その際の幹となるのは、お題目に留まらない、各国内及び国家間双方に亘る、真の意味での共働である。TFSは、経済制裁の部分集合に過ぎないものの、その実効性が確保されれば、最も大きな効果が期待されるものである。安全保障を巡る営為は、究極のところ、武力を以って武力に応えるという負の連鎖に陥らず、如何にしてより平和的な方法で国家関係を安定に導けるか、という一点の目的に集約される。繰返しになるが、今やFATF基準の一部を構成するTFSは、地下資金対策の単なる一要素ではなく、未来に向けた安全保障体制の成否を、少なくとも部分的には占う存在であると言っても決して過言ではないのだ。
ここまでの連載を通して、地下資金対策の3本の柱であるマネロン・テロ資金規制、拡散金融について一通り見て来た。次章では一旦話を原点であるマネロン規制に戻し、刑事政策上のいくつかの重要論点に、焦点を当てる。
※本稿に記した見解は筆者個人のものであり、所属する機関(財務省及びIMF)を代表するものではありません。

*1)日本はこれらに加え、独自の制裁として、人道目的かつ10万円以下の支払等を除く北朝鮮に対する支払の原則禁止等、更に厳しい措置を取っている。
*2)勧告6は、安保理決議第1267号(1999年)及びその後継の決議及び第1373号(2001年)等のテロリスト制裁関連決議、勧告7は大量破壊兵器の拡散及びこれに対する資金供与の防止・抑止・撲滅に関する安保理決議で指定された個人又は団体に対し、「その保有する資金その他資産を遅滞なく凍結するとともに、如何なる資金その他資産も、直接又は間接に、これらの指定された個人又は団体によって、若しくはこれらの個人又は団体の利益のために利用されることのないよう」にしなければならないこととしている。
*3)FATFがこれまでに公表した関連ガイダンス等は、以下の通り。
Guidance on Proliferation Financing Risk Assessment and Mitigation, FATF, June 2021
Guidance on Counter Proliferation Financing – The Implementation of Financial Provisions of United Nations Security Council Resolutions to Counter the Proliferation of Weapons of Mass Destruction, FATF, February 2018
The Implementation of Financial Provisions of United Nations Security Council Resolution to Counter the Proliferation of Weapons of Mass Destruction, FATF, June 2013
Best Practices Paper – Sharing Among Domestic Competent Authorities Information Related to the Financing of Proliferation, FATF, February 2012
Proliferation Financing Report, FATF, June 18, 2008
*4)なお、北朝鮮・イランの大量破壊兵器開発に係る資金規制については、これらの兵器の拡散をもたらす資金調達という意味で、「拡散金融(Proliferation Finance)」という呼称が用いられ、本稿においても既に随所で使用してきた。イメージが持ちづらく、余り良い用語とは言えないが、他に適当な用語がないため、引き続き通例に倣うこととしたい。
*5)岩沢雄司『国際法』東京大学出版会、2020年3月27日、P.718-729
吉村祥子編著『国連の金融制裁:法と実務』東信堂、2018年8月30日、第1章(吉村)
*6)“The term targeted financial sanctions means both asset freezing and prohibitions to prevent funds or other assets from being made available, directly or indirectly, for the benefit of designated persons and entities.”(FATF Glossary)
*7)なお、現在北朝鮮・イラン両者は、自分たち自身の地下資金対策の取組みについてもFATFから不十分と認定され、ブラックリストに掲載されている。今日のFATFという存在の一断面は、この2か国に金融面で、様々な方向性から国際的圧力をかける枠組みであると描写することもできよう。
*8)他方でテロ資金規制については、資金供与の犯罪化及びそれに基づく捜査・訴追といった、マネロン規制の延長上に乗った刑事政策としての制度設計と、元々は外交・安全保障上の措置である金融制裁が混在する構成になっており、混乱を招来している側面があることには注意が必要である。
*9)People’s Republic of China, Mutual Evaluation Report, FATF, April 2019, P.107-112, P.195-196
*10)以下は、直接的にはマネロン・テロ資金規制に係る文献であるが、その基本的構造や脅威は拡散金融とも共通するものである。
Money Laundering through the Physical Transportation of Cash, FATF, October 2015
Money Laundering / Terrorist Financing Risks and Vulnerabilities Associated with Gold, FATF, July 2015
Money Laundering and Terrorist Financing through Trade in Diamonds, FATF, October 2013
*11)関税法第69条の2は、違法薬物、児童ポルノ、知的財産権侵害物品等を「輸出してはならない貨物」として掲げ、これらについては没収の上、廃棄できることとしている。
*12)竹内舞子『経済安全保障としての拡散金融対策と安全保障管理―省庁や業界の垣根を超えた取組みを―(特集/経済安全保障とリスク管理〈1〉)』CISTEC Journal No.198、2022年3月
Customs – FIU Cooperation Handbook, Egmont Group & WCO, March 27, 2020
また、輸出入に係る申告価格を偽る等して価値を移転させる手法によるマネロン(TBML:Trade Based Money Laundering)も、税関当局が国内・国際双方のレベルで関与して取り組むべき大きな問題であるが、この点、以下参照。
Trade Based Money Laundering – Risk Indicators, FATF & Egmont Group, March 2021
APG Typology Report on Trade Based Money Laundering, Asia/Pacific Group on Money Laundering, July 20, 2012
Trade Based Money Laundering, FATF, June 23, 2006
*13)Kenji Omi, “Extraterritoriality” of Free Zones:The Necessity for Enhanced Customs Involvement, Research Paper No.47, World Customs Organization, September 2019
*14)WCOを中心に策定された、税関実務に係る改正京都議定書(RKC:Revised Kyoto Convention)の定義によれば、「“free zone” means a part of the territory of a Contracting Party where any goods introduced are generally regarded, insofar as import duties and taxes are concerned, as being outside of the Customs territory.」(同議定書付属書D第2章)
*15)Special Economic Zones, Political Priority, Economic Gamble, The Economist, April 4, 2015
*16)Money Laundering Vulnerabilities of Free Trade Zones, FATF, March 2010
*17)Chang-Ryung Han & Robert Ireland, A Survey of Customs Administration Approaches to Money Laundering, Research Paper No.36, World Customs Organization, March 2016
*18)Hiroshi Watanabe, Usability of US Dollars in the Market – Brief Comments, Bretton Woods:The Next 70 Years, Reinventing Bretton Woods Committee, September 2015
Daniel Depetris, Recalibrating Sanctions to Preserve US Financial Hegemony, Defense Priorities, February 5, 2021
Enea Gjoza, Counting the Cost of Financial Warfare – Recalibrating Sanctions Policy to Preserve US Financial Hegemony Defense Priorities, November 11, 2019
Dethroning the Dollar – America’s Aggressive Use of Sanctions Endangers the Dollar’s Reign, The Economist, January 18, 2020
*19)John Bolton, The Room Where It Happened – A White House Memoir, Simon & Schuster, 2020, P.365-367
*20)制裁の根拠法である「2012年度国防授権法」には、イラン産原油の購入を相当程度削減した国の金融機関は上記制裁を免除する例外規定があり、日本に関しては2018年11月5日から2019年5月2日までの間、この例外規定が適用され制裁が免除されていた。
*21)中嶋猪久生『「貿易取引支援機関(INSTEX)」の創設―米国との対立構造の中で生れたEUによるイランとの取引決済システム―(特集/安全保障とドル覇権<2>)』CISTEC Journal No.180、2019年3月
寺中純子『EUとEU企業の対イラン米国制裁への対応動向(特集/欧米等の法規制・制裁動向<4>)』CISTEC Journal No.177、2018年9月
*22)杉田弘穀『アメリカの制裁外交』岩波書店、2020年2月20日
梅川健『アメリカ大統領権限と緊急事態法制:国際緊急経済権限法と経済制裁を中心に(特集/米国の制裁、規制を巡る動向<1>)』CISTEC Journal No.191、2021年1月
*23) 1701. Unusual and extraordinary threat; declaration of national emergency; exercise of Presidential authorities
(a) Any authority granted to the President by section 1702 of this title may be exercised to deal with any unusual and extraordinary threat, which has its source in whole or substantial part outside the United States, to the national security, foreign policy, or economy of the United States, if the President declares a national emergency with respect to such threat.
(b) The authorities granted to the President by section 1702 of this title may only be exercised to deal with an unusual and extraordinary threat with respect to which a national emergency has been declared for purposes of this chapter and may not be exercised for any other purpose. Any exercise of such authorities to deal with any new threat shall be based on a new declaration of national emergency which must be with respect to such threat.
*24)Executive Order 14014 of February 10, 2021
I, JOSEPH R. BIDEN JR., President of the United States of America, find that the situation in and in relation to Burma, and in particular the February 1, 2021, coup, in which the military overthrew the democratically elected civilian government of Burma and unjustly arrested and detained government leaders, politicians, human rights defenders, journalists, and religious leaders, thereby rejecting the will of the people of Burma as expressed in elections held in November 2020 and undermining the country’s democratic transition and rule of law, constitutes an unusual and extraordinary threat to the national security and foreign policy of the United States. I hereby declare a national emergency to deal with that threat.
*25)Russia’s military aggression against Ukraine:EU bans certain Russian banks from SWIFT system and introduces further restrictions, Council of the EU Press release, March 2, 2022
『ロシア7銀行をSWIFTから排除 EU決定、最大手は対象外』日本経済新聞、2022年3月2日
谷口栄治『SWIFTからのロシア銀行排除をみるポイント ~制裁の実効性確保と国際金融システムへの影響に注目~(リサーチ・アイ No.2021-073)』日本総研、2022年3月3日
吉沼啓介『EU、ロシア7銀行のSWIFTからの排除を採択、3月12日開始』JETRO、2022年3月3日
*26)中嶋猪久生『北朝鮮による「マネー」と「石油」のロンダリング―制裁をくぐり抜けてきた手口とその支援主体(特集/拡散金融<2>)』CISTEC Journal No.177、2018年9月
なお、北朝鮮の金融セクターについては、以下参照。
朝鮮半島経済研究会『朝鮮半島リポート24~26回:北朝鮮金融業の現状(上・中・下)―「北朝鮮の産業2020」から』日本経済研究センター、2021年6月30日・7月6日・7月13日
*27)Advisory on North Korea’s Use of the International Financial System, Financial Crimes Enforcement Network (FinCEN), United States Department of the Treasury, November 2, 2017
尾崎寛『イランに対する金融制裁によるイランビジネスへの影響(特集/イラン制裁における輸出管理への影響<2>)』CISTEC Journal No.129、2010年9月
*28)我が国の金融制裁実施について、前掲・吉村(2018)第6章(福島俊一)
*29)後年にはその顛末がベースとなり、『バグダッド・スキャンダル(原題:Backstabbing for Beginners)』として映画化された。
*30)具体例としては、ソマリア(1992年)、リベリア(1992年)、ルワンダ(1994年)、ユーゴスラビア・コソボ地区(1998年)等。
*31)本多美樹『国連による経済制裁と人道上の諸問題:「スマート・サンクション」の模索』国際書院、2013年9月1日
*32)金融制裁の対象者のリストアップが、初めて大規模かつ本格的に行われたのが、9.11を契機とした対テロリスト制裁である。国連による経済制裁は、制度的沿革としては国家的主体を念頭に置いたものであったが、テロリストという非国家的主体に対して展開されたリスト化という手法が、翻って北朝鮮やイランのような、国家的主体に属する個人・団体に向けても後に広く取られるようになったことは、ある意味での「ねじれ」として興味深い。
*33)FATF基準(勧告6・7等)は、TFSの「遅滞なき(without delay)実施」を求めているが、これは、FATF用語集において、安保理において対象者として指定されてから「数時間の間(within a matter of hours)」と定義されている。日本を含む複数の国が、この基準を遵守できていないとして、相互審査において指摘を受けている。
*34)竹内舞子『国連による北朝鮮制裁の有効性―その効果と課題―』国際安全保障第48巻第2号、2020年9月
竹内舞子『国連安保理による北朝鮮金融制裁―最近の制裁違反の傾向及び実務上の課題―』国際商取引学会年報、第23号、2021年
*35)Report of the Panel of Experts established pursuant to resolution 1874(2009), United Nations Security Council, November 2010