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春の風物詩 桜の通り抜け

造幣局理事長 山名 規雄/造幣局広報官 福本 周五

浪速の春を飾る風物詩として、人々に愛されている造幣局の桜の通り抜け。令和2年、3年は新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から中止となりましたが、今年は事前申込制とし、入場者数の上限を設けるなど新型コロナウイルス感染防止対策を徹底した上で3年ぶりに開催し、令和になって初めての開催となりました。
令和4年4月13日から19日までの7日間、造幣局構内旧淀川沿いの全長約560mの通路を解放し、多くの方に楽しんでいただきました。
現在、造幣局にある桜は、138品種335本あり、関山(かんざん)、松月(しょうげつ)、普賢象(ふげんぞう)、楊貴妃(ようきひ)などの八重桜が主(大半は遅咲きの八重桜)で、大手毬(おおてまり)、小手毬(こでまり)など、他ではめったに見られない珍種の桜も見ることができます。

写真:満開の桜でにぎわう桜の通り抜け通路(令和4年)

1.桜の通り抜けのはじまり
今や造幣局の代名詞の一つともなった「桜の通り抜け」。明治16年、時の遠藤謹助造幣局長の「市民とともに楽しもうではないか」との提案により構内の桜が一般開放されたのが始まりで、令和5年には140周年を迎えます。ここでは、その略史と通り抜けを支える現役職員の日々の奮闘についてご紹介します。

2.明治・大正の通り抜け
江戸時代、旧藤堂藩蔵屋敷で里桜を育成しており、造幣局は敷地と共にその桜を受け継いだと言われています。
通り抜け通路は当初約1kmありましたが、明治31年に約560mに短縮。明治42年時点で18品種287本、品種は一重の「芝山(しばやま)」が半数を占めていました。
大正に入ると来場者も増え、同6年には戦前最高の約70万人を集めました。当時は重工業の発展期で、煤煙で桜が枯死する事態も起こっています。「芝山」が半減し、一重八重の「御車返(みくるまがえし)」が主流を占めるようになりましたが、その後これも激減するなど、品種の変遷が激しかったのがこの時代です。大気汚染に弱い桜樹の維持管理のために外部専門家の手を借りるなど、多大な努力を払っていました。

写真:大正時代の桜の通り抜け

3.昭和・平成の通り抜け
第2次世界大戦中の昭和17年には空襲警報発令により通り抜けは開催期間途中で中止され、また、昭和20年6月の大空襲では約500本中300本の桜が焼失しました。その後復活に向けた努力が行われ、昭和22年に再開。順次桜樹の補充も行われ、昭和26年には夜間開放も始まっています。
昭和30年代中頃には工業復興に伴い再び大気汚染の問題が持ち上がりました。現在主流を占める八重の「関山」は、この頃から本数が急増しています。
長く門外不出であった通り抜けの桜ですが、昭和40年に北海道松前町に移植され、また同町から寄贈を受けました。平成3年には長野県高遠町から同県天然記念物である「高遠小彼岸桜(たかとおこひがんざくら)」の寄贈を受けるなど、外部との交流が行われるようになりました。
昭和58年には通り抜け100周年を迎え、各種記念行事も行われています。
平成2年、通り抜けの桜が全国の「桜の名所100選」に選ばれ、これを記念して「桜の通り抜けの由来碑」が建立されました。平成17年には、史上最多となる114万7千人の来場者を記録。一方で、平成23年には、同年の東日本大震災を考慮し、ライトアップの中止等を行うとともに、会場で被災者支援募金も行われました。

写真:多くの人でにぎわう桜の通り抜け通路(平成17年)

4.令和の通り抜け
令和になって初めて開催する桜の通り抜けは、デジタルを活用し、インターネットでの事前申込制により入場者数の上限を設けるとともに、マスクの着用、入場口での検温及び手指消毒をお願いするなどの新型コロナウイルス感染対策を徹底し、開催しました。
「桜の通り抜け」では、桜に親しみを持っていただくため、数多くの品種のうちから一種を「今年の花」として選んで紹介しています。令和4年の「今年の花」は「福禄寿(ふくろくじゅ)」でした。
この「今年の花」は、これまで造幣局が選定しておりましたが、今回、若手職員の企画提案による新たな取り組みとして、来場いただいた方からの人気投票により、来年(令和5年)の「今年の花」を選んでいただくこととしました。投票方法は、桜の通り抜けの時期に開花する17種類の桜に2次元バーコードが表示されたプレートを配置し、来場者が「いいね」と思った桜の2次元バーコードをスマートフォンで読み取り投票していただきました。投票の結果、「松月(しょうげつ)」が第1位に選ばれました。この結果はホームページにも公開しております。

写真:令和4年の花「福禄寿」:花弁は波打つようなしわがあり、花弁数は15~20枚。

コラム(桜の通り抜け動画の紹介)
造幣局の公式YouTubeチャンネルでは、実際に会場に来られない方でも通り抜けを楽しんでいただけるよう、通り抜けの魅力をギュッと凝縮した動画を若手職員が企画しました。
また、造幣局の魅力たっぷりの動画も公開していく予定です。ぜひ見に来て下さい。
【おうちで通り抜け】体感!ワクワク!気象予報士・蓬莱さんと通り抜け♪
https://www.youtube.com/watch?v=B-Oh0Otzc9A
令和4年造幣局「桜の通り抜け」(2022年4月撮影)
https://www.youtube.com/watch?v=Pb5WzC0mNYE

写真:投票用2次元バーコードの配置イメージ

写真:投票完了時のスマートフォンの画面イメージ

写真:令和5年の花「松月」:花は最初淡紅色で次第に白色となり、花弁数は25枚程度。

コラム(桜に関する講演会)

令和4年3月、造幣局創業150周年を記念して、植木職人として京都・仁和寺御室御所に仕えておられ、桜守としても知られる植藤造園第十六代目当主 佐野藤右衛門氏をお招きし、「造幣局の歴史とさくら」についてお話いただきました。なお、造幣局には、春日井(かすがい)、黒田百年(くろだひゃくねん)、御信桜(ごしんざくら)、二尊院普賢象(にそんいんふげんぞう)など佐野藤右衛門氏により作出・育成された桜があります。

5.花のまわり道(広島支局)・
桜のさんぽ道(さいたま支局)
広島支局では平成3年より造幣局創業120年を記念して「花のまわりみち」(令和4年4月現在64品種216本)を、さいたま支局では令和3年より造幣局創業150年及びさいたま支局開局5周年を記念して「桜のさんぽ道」(令和4年4月現在23品種100本)を開催しております。
令和4年の「花のまわりみち」では、広島観光親善大使に来場者のお出迎えをしていただき、「桜のさんぽ道」では、若手職員のアイデアによるフォトコンテスト、コインくんとの写真撮影会、土日の工場見学、クイズラリーなどのイベントを行い、ご来場された方々に楽しんでいただきました。

6.通り抜けの桜守
令和5年で140年周年を迎える桜の通り抜け。この桜の通り抜けの桜は、1年を通じて枝の剪定や病害虫駆除等を行うことにより、その美しさが保たれています。これらの維持管理を行い、桜の通り抜けを陰で支えている職員は「桜守」と言われ、現在、施設課の渡邊秀勝技能長がその役割を担っています。今回は、日々桜の管理に奮闘している渡邊技能長の手記を紹介いたします。
私は平成3年4月に入局し1ヶ月間の研修の後工作課営繕係(現施設課保全係)という部署に配属されました。配属されて初めての仕事、それは先輩職員に桜の通り抜け通路に連れて行かれ桜樹についた毛虫を取ること(害虫駆除)でした。思い返せば配属された時から桜に携わっているのだなとしみじみと感じます。
桜にまつわる諺といえば「桜伐る馬鹿、梅伐らぬ馬鹿」が有名です。桜は枝を切るとそこから腐りやすくなるので切らないほうがよく、梅は枝を切らないと無駄な枝がついて花が咲きにくくなるので切ったほうがよいとされているためで、歴代の桜の担当者は諺どおり枝をできるだけ切らずに支柱や縄での吊り上げ等で手入れを行っていました。
ただ、これまでの経験上、支柱で押し上げたり、吊り上げたりすると負担がかかってしまうのか、その枝は枯れることが多く、逆にそのようなことをしなくていい程度に枝を切ってあげたほうが桜樹に負担をかけず良いのではないかとの考えから、私が担当者になってからは花が咲く前までに切除(剪定)を行うようにしています。これは、桜の通り抜けで観覧されるお客様が垂れた枝や支柱により被害に遭うことなく安全に通行していただくためでもあります。
また、冒頭に書いた害虫駆除ですが、春に発生する毛虫と秋に発生する毛虫がいます。
いずれの毛虫も博物館を訪れるお客様や工場見学にお越しになるお客様が被害に遭わないよう気をつけて駆除していますが、秋に発生する毛虫に関しては一般的に桜樹の葉を全て食べつくされると来春に花が咲かなかったり、開花期がずれたりするおそれがあるといわれているため特に気を付けて駆除しています。
桜の通り抜けの桜は本数が多く、また多くの品種が植えられています。品種を増やすためには購入することになりますが、購入した後通り抜け通路に直接移植する場合と、一旦養成地に移植して時期をみて通り抜け通路に移植する場合があります。

本数を増やすためには、購入する場合と接ぎ木を行う場合があります。購入する場合は先述と同じく直接通り抜け通路に移植するか養成地に移植しますが、接ぎ木の場合は通り抜けに移植できる大きさに育つまで養成地にて育成します。
現在、通り抜けにある桜は樹齢50年を超えるような古木が多くあります。一般に桜の寿命は40~60年といわれており、品種や本数をどう維持していくか難しい課題ではありますが、これからも多くのお客様に安全に桜の通り抜けを楽しんでいただけるよう努めていきたいと思っています。

写真:桜樹の管理を行う渡邊技能長
写真:養成地より通り抜け通路への桜樹の移植

職員一丸となり開催することができた令和4年の桜の通り抜け。これからも多くの方に安全に桜の通り抜けを楽しんでいただけるよう、一層努力をしていきたいと思っております。

写真:珍しい色とりどりの桜に大喜びの子供達(令和4年)

コラム(桜の貨幣セットの販売)
造幣局では、令和4年銘の未使用の5百円から1円までの6種類の通常貨幣と純銀製年銘板1枚をケースに収納した貨幣セットの販売をしております。カバーケースの表面のデザインはそれぞれ「今年の花」となっております。なお、桜の通り抜け貨幣セットにつきましては、来年は人気投票で選ばれた「今年の花」がデザインされます。
こちらは、造幣局のミントショップ及びオンラインショップでご購入いただけます。
https://www3.mint.go.jp/(在庫限りで無くなり次第終了。)
写真:桜の通り抜けの貨幣セット
写真:花のまわりみち貨幣セット