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フェデラル・ファンド(FF)市場およびFFレート(FF金利)入門-金融危機以降のFF市場および「最後の貸し手」機能の変遷について-

東京大学 公共政策大学院 服部 孝洋*1

1.はじめに
本稿はフェデラル・ファンド市場(FF市場)の説明をすることを目的としています。FF市場は米国における無担保コール市場であり、そこで形成される金利はフェデラル・ファンド・レート(FFレート、FF金利)と呼ばれています。FFレートは米国において中央銀行の政策金利として用いられており、非常に注目の高い金利といえます。
本稿ではFFレートをコントロールするため、金融危機以降導入された様々な工夫に焦点をあてます。例えば、本稿で説明するリバース・レポ・ファシリティは、金融危機以降、FF市場の流動性が低下する中、FFレートに下限(フロア)を付すために実施されているオペレーションといえます。本稿ではFFレートの上限という観点でFRBによる「最後の貸し手」機能がFF市場に与える影響についても議論していきます。
なお、本稿ではレポ取引やMMFの基本知識を前提とさせていただくため、これらの知識を確認したい読者は筆者が記載した「SOFR入門」と「米国MMF入門」をご一読いただければ幸いです。筆者がこれまで執筆してきた一連の債券入門シリーズについては、筆者のウェブサイトにまとめて掲載してありますので、そちらもご参照いただければと思います*2。

2.フェデラル・ファンド市場と
フェデラル・ファンド・レートの概要

2.1 フェデラル・ファンド市場とは何か
FF市場とは、米国における銀行が中央銀行に預けている預金、すなわち、準備預金*3を貸し借りする市場です。通常の銀行は、業務のために一定の手元流動性が必要ですし、また、規制上も一定の準備預金が求められています。もっとも、ある銀行はその預金が十分にある一方で、ある銀行は不足するということが起こりえます。FF市場は、その場合の資金融通をする市場です。この市場が「フェデラル・ファンド」市場と呼ばれる理由は、連邦(フェデラル)準備システムの中で、資金(ファンド)を融通するからです。
FF市場の参加者は、連邦準備銀行に預金を持っている金融機関になります。具体的には商業銀行やその他の預金取扱機関、海外の銀行の米国支店や政府支援機関(Government Sponsored Enterprise, GSE)などです*4。この市場は、通常はオーバーナイトで貸借を行うため、オーバーナイト市場と呼ばれることもあります。
冒頭で言及したFFレートとは、FF市場で形成される金利です。図表1 フェデラル・ファンド市場における需要曲線と供給曲線がFF市場における需要曲線と供給曲線を示しています。借り手にとって金利が低くなれば準備預金に預ける機会費用が低下するため、需要が増えます(その結果、需要曲線は右下がりのラインになっています)。一方、準備預金の供給は中央銀行によって定められ、一定とします(つまり供給曲線は垂直であるとします)。この需給をバランスする金利が市場で形成されるFFレート(図表における「市場で決まるFFレート」)です。ちなみに、マクロ経済学のテキストではFF市場における需要曲線と供給曲線の変動要因について通常、紙面を割いて説明されますが、ここでは紙面の関係で割愛します(アセモグル・レイブソン・リスト(2020)などを参照してください)。

図表1.フェデラル・ファンド市場における需要曲線と供給曲線

FFレートはこのようにFF市場で取引される金利になりますが、FFレートといった場合、通常はニューヨーク連邦準備銀行(ニューヨーク連銀)によって日々公表されている実効FFレート(Effective Federal Fund Rate, EFFR)を指す傾向にあります。一日の中で多くの銀行がFF市場で貸し借りをするわけですが、むろん、その金利は取引のタイミング等で異なります。実効FFレートは、1日の中で実際に取引されたFFレートを取引高で加重平均(メディアン)したものです(ニューヨーク連銀は実効FFレートをおおよそ9時に公表しています)*5。「リスク・フリー・レート入門」(服部, 2021)でも説明しましたが、我が国における無担保コール翌日物金利(Tokyo OverNight Average rate, TONA)も実際の取引高の加重平均になっており、基本的にTONAは実効FFレートと同じ概念の金利です(本稿では以降、煩雑さを避けるため、FFレートと実効FFレートを特別区別せず記載していきます)。
FF市場の起源は、米国における連邦準備システムの誕生と密接な関係を有しています*6。そもそも米国には中央銀行がない時代があったのですが、不況などを契機に連邦準備システムが確立します(この詳細を知りたい読者はバーナンキ(2012, 2015)などを参照してください)。それに伴い、連邦準備のネットワークに含まれる銀行は、規制上、一定の準備預金が求められることになり、銀行の間で準備預金を貸し借りするマーケットが1920年代に形成されました。
2.2 政策金利としてみたFFレート
FFレートの有する最も重要な特徴の一つは、FFレートが米国の中央銀行の政策金利である点です。伝統的な金融政策は中央銀行が短期金利を操作するとされますが、この短期金利とは米国ではFFレートを指します。ブラインダー(1999)が指摘するとおり、多くの学者や市場参加者は長い間FFレートが米国中央銀行の政策手段の中心であることを認めています。もちろん、前述のとおり、FFレートそのものはFF市場における貸し借りの金利であり、この金利自体が必ずしも重要な経済活動に直接影響を与えるとは限りません。しかし、FFレートは、様々なチャネルを経由して重要な金融指数等に紐づいているとされています*7。例えば、アセモグル・レイブソン・リスト(2020)では、「フェデラル・ファンド・レートが下落するときには、長期実質金利も下落するという傾向がある」(p.412)としており*8、学術研究でもFFレートが様々な変数と関連づいていることをサポートする結果が得られています*9。
ここで簡単に米国の中央銀行の制度を確認しておきます。米国の場合、12の地域を管轄する連邦準備銀行および各地区の連銀を統括する連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board, FRB)*10があり、金融政策の決定はそれらで構成される連邦公開市場委員会(Federal Open Market Committee, FOMC)でなされます。このような制度全体を連邦準備制度(Federal Reserve System)といいます。
FOMCは日銀でいうところの金融政策決定会合に相当するものです。そもそも、短期金利を操作するために国債の売買をすることを公開市場操作(open-market operation)といい、FOMCは連邦準備制度においてopen-market operationを決める委員会(committee)であることに由来します。FOMCでは政策金利の誘導やマネーサプライを調整するために米国債をどの程度購入するか等を決定します(実際の公開市場操作は、金融街に物理的に近いニューヨーク連銀が実施します)。

図表2.米国の連邦準備制度の仕組みはFRB、12の連邦準備銀行、FOMCの関係を示しています。金融政策を定めるFOMCは、12ある連邦準備銀行の総裁の中からの5名*11と、FRBの7名の理事によって組織されます。FOMCでは投票によって意思決定がなされる形がとられています。詳細はウォルシュ・スティグリッツ(2014)などマクロ経済学のテキストを参照してください。

注意すべき点は、FFレートが米国の政策金利ではない時期がある点です。マクロ経済学のテキストで必ず触れられますが、ポール・ボルカー氏が議長であった時期は、米国の中央銀行は短期金利ではなく、マネー・サプライをコントロールしていたとされます。金融政策に関する経済学の代表的なテキストの一つであるWalsh(2017)では、1980年代後半からFFレートを直接コントロールしているとしています。この辺りについても多くのマクロ経済学のテキストで詳細に議論されるため、詳細な議論はそちらに譲ります。

3.FF市場における流動性の低下:IORB(IOER)とリバース・レポの導入

3.1 付利の導入
FF市場について注意すべき点は、金融危機以降、FF市場の流動性が低下している点です。米国では金融危機時の緊急融資や量的緩和によりFRBの準備預金が拡大しました。中央銀行は、例えば国債の売買によって準備預金を増減させることでFFレートをコントロールしているのですが、銀行の準備預金が十分大きい場合、銀行の間で互いに資金の貸し借りを行う必要がなくなります。これはFRBからみれば、準備預金を増減したとしても銀行の行動に影響を与えることができなくなるわけですから、FRBがFFレートをコントロールできなくなるリスクをはらんでいました(FF市場における流動性の低下により、米国のLIBORの代替金利はFFレートではなく、レポ取引に立脚した担保付翌日物調達金利(Secured Overnight Financing Rate, SOFR)が採用された点は服部(2022a)で説明しました)。
バーナンキ(2015)によれば、このような問題に対処するため、例えば緊急融資により準備金が増加した場合、FRBが保有する米国債を売却し、その影響を相殺(いわゆる不胎化)していたとしていますが、それは一時的な対策と整理しています。このような問題に抜本的に対処するため、超過準備預金に金利(付利)を支払うことにより、金利の下限を設定しようとしたものがIOER(Interest On Excess Reserves, 超過準備預金金利)です(2021年7月にIOERはIORR(Interest Rate On Required Reserves, 所要準備付利金利)と統合されて、現在はInterest on Reserve Balances(IORB)と呼ばれています)*12。
超過準備預金に金利を支払うことができれば、銀行にとってそれより低い金利で貸し出すくらいなら準備預金を積み上げたほうがいいわけですから、IOERがFFレートの下限になると考えられました。もっとも、FF市場は複雑であり、その後、FFレートはIOERを下回る金利で推移することになります。図表3 FFレートとIOER(付利金利)の推移は2008年から2013年のFFレートおよびIOERを示しています。これをみるとFFレートがIOERを下回るように推移していることがわかります。
このようなことが起きたメカニズムは次のようなものです。まず、FRBに準備預金を有している金融機関にとって、超過準備預金に金利が付くのであれば、無担保コール市場であるFF市場において付利以下の金利で運用するインセンティブはありません。もっとも、連邦住宅貸付銀行(Federal Home Loan Bank, FHLB)などGSEは制度上、付利の対象外であることから、その余剰資金の一部をFF市場で運用する必要があり、IOER以下で運用するインセンティブを有していました。そのような中、外国銀行がIOERとの裁定取引(FF市場で資金を調達してIOERで運用する)という観点で資金の取り手となることで*13、FFレートがIOER以下で推移するということが発生したわけです*14。

図表3.FFレートとIOER(付利金利)の推移

3.2 リバース・レポ・ファシリティ
FFレートにフロアが生まれるメカニズム
上述のように、付利は当初、FFレートに下限を付すために導入されましたが、FFレートはIOER以下の水準で推移することになります。そこでFRBは、FFレートに下限(フロア)を設けるため、2013年にリバース・レポ・ファシリティ*15を導入しました。図表4 リバース・レポ・ファシリティのイメージがリバース・レポ・ファシリティのイメージです。GSEやMMFなどの短期資金で運用する主体がオーバーナイトで短期資金をFRBに貸し出しますが、その際に担保として米国債をFRBから受け取ります。筆者が記載した「SOFR入門」で詳細に議論しましたが、このような担保付の資金融通をレポ取引といいます。
「リバース・レポ」といわれると複雑に感じられるかもしれませんが、「SOFR入門」で説明したとおり、リバース・レポは担保付きの短期運用です。通常のリバース・レポの場合、例えば、クリアリング・バンク*16を経由してMMFが投資銀行などへ貸し出すわけですが、リバース・レポ・ファシリティの場合は、MMFが貸し出す相手がFRBになります(リバース・レポ・ファシリティはニューヨーク連銀が実施する点は後述します)。前述のように、そもそもFFレートがIOER(IORB)以下で推移した理由は、GSEなど付利の対象にならない主体がいたからです。預金との類似性で説明すれば、MMFやGSE、プライマリー・ディーラー、商業銀行*17など幅広い主体が一定の金利(リバース・レポ・レート)で余剰資金をFRBに預けられるようにすることで、FFレートにフロアを付すという仕組みがリバース・レポ・ファシリティの直観的なイメージです。
読者がGSEの運用担当者である場合、短期運用をするうえで、FF市場において無担保で貸し出すだけでなく、リバース・レポ・ファシリティが導入されて以降、FRBに預ける選択肢も生まれます。読者としては準備預金を積み上げても付利は得られないのでFF市場で運用を行っていたのですが、リバース・レポ・ファシリティが導入されたことでFRBに預けることで一定の金利が得られることになります。そのため、読者としてはFF市場において、それ以下の金利で運用するメリットがありませんから、リバース・レポ・ファシリティの金利が決まれば、おのずとその裁定から、FFレートに下限(フロア)が付されることになります*18。現在、FRBによる利上げについて議論されていますが、FFレートの下限(フロア)という意味合いを考えると、利上げ(利下げ)に際してリバース・レポ・レートも引き上げる(下げる)必要があると解釈できます*19。
リバース・レポ・ファシリティの実際
リバース・レポ・ファシリティでは、ニューヨーク連銀のデスクが毎営業日、米国債を担保として、(MMFなどの)カウンター・パーティに対し、一定の金利でオファーをします(デスクについてはBOX 1を参照してください)。オファー・レート*20は2022年5月時点で0.80%に設定されています(これらの値はその時々の政策に依存するため変わりえる点に注意してください)。オペレーションのイメージは、例えばニューヨーク連銀のデスクが0.8%でオファーした場合、(MMFなどの)カウンター・パーティはそれぞれ自らが貸し出したい額を提示します*21。個別行については応札額に一定の上限が設定されていますが、基本的には応札総額と落札総額は一致しており、固定金利で無制限にMMFなどから借り入れるオペレーションと解釈できます*22。

図表4.リバース・レポ・ファシリティのイメージ

図表5.FFレート、IORB(IOER)、ON RRP(リバース・レポ・レート)とターゲット・レンジの推移はニューヨーク連銀のレポート(Afonso et al. 2022)を抜粋したものですが、FFレートとIORB(IOER)、リバース・レポ・レート(ON RRP)を示しています。この図ではターゲット・レンジにFFレートが入っていることが視覚的にわかるように利上げに伴う金利変化の調整をしているのですが、これをみるとFFレートは基本的にリバース・レポ・レートを上回る形で推移していることが確認できます。もっとも、FFレートは、2019年にIORB(IOER)やターゲット・レンジを上回っていることもわかります。2019年秋にはレポの急騰があったのですが、レポの急騰については今後の論文で説明することを予定しています(FFレートのフロアについては次節で説明します)。

図表6.リバース・レポ・ファシリティ利用額の推移はリバース・レポ・ファシリティの利用額の推移を示していますが、近年、その利用が増えていることがわかります。前述のようにリバース・レポ・ファシリティがどれくらい活用されるかは、MMFなどのカウンター・パーティがどのくらい応札するかに依存します。Afonso et al.(2022)はFFレートがリバース・レポ・レート(すなわちフロア)に近づいている場合、FF市場で運用することとFRBに預け入れることの差異がなくなるので、リバース・レポ・ファシリティの利用が増加する点を指摘しています。前述のように市場で決まるFFレートはFF市場における需給によって決まりますから、例えば、MMFなどの余剰資金が増えることにより、FFレートが低下し、リバース・レポ・レートとの差異が低下することでリバース・レポ・ファシリティが使われるということが起こります。

3.3 FF市場における需要曲線と供給曲線を用いた整理
ここまでの議論を前節で説明したFF市場における需要曲線と供給曲線を用いて整理しましょう*23。まず図表7 金融危機以降のFF市場:IORB(IOER)の効果を見てほしいのですが、FRBはIORB(IOER)を設定することでFFレートに下限を付すことを試みますが、需給を一致させるFFレートがIORB(IOER)を下回ることが常態化します(図表7において「市場で決まるFFレート」が「IORB」を下回っている点に注意してください)。ここではFF市場における供給サイドはFRBに設定されるわけでなく、GSEなどの運用行動(つまり金利が高ければFF市場での資金供給を増やす)により決まると表現しています(供給曲線は右肩上がりになっています)。
そこでFRBは下限を付すためにリバース・レポ・ファシリティを導入し、金利に下限を付します。図表8 金融危機以降のFF市場:リバース・レポ・ファイシリティの効果においてON RRPがリバース・レポ・ファシリティでFRBがオファーする水準(前述の例では0.8%)になります。ここではリバース・レポ・ファシリティのオファー・レート以下では運用する主体がいないため、そこからは水平になります。

図表7.金融危機以降のFF市場:IORB(IOER)の効果
図表8.金融危機以降のFF市場:リバース・レポ・ファイシリティの効果
図表9.金融危機以降のFF市場:フロアにヒットしたケースはMMFなどの余剰金が増えてフロアにヒットしたケースになります。この場合、前述のメカニズムでリバース・レポ・ファシリティの利用が増えることになります。

4.連銀貸出とスティグマ

4.1 「最後の貸し手」機能とバジョットの原則
前節では金融危機以降、FFレートをコントロールするためにFRBが行ってきた工夫について議論をしてきましたが、基本的にはFFレートに下限を付すことを考えてきました。もっとも、前述のとおり、例えば2019年などFFレートはIORB(IOER)の水準を上回ることがあることも確認しました。そこで最後に、FFレートの上限について考えていきます。
FFレートの上限を考えるうえで、ここから中央銀行の「最後の貸し手」機能について着目していきます。そもそも銀行は、例えば多くの預金者が一斉に引き出した場合、その引き出しに対応できず、テクニカルに倒産してしまうということが起こります。その意味で、銀行は脆弱性を有しているとみることができますが、この際に中央銀行が「最後の貸し手」機能を発揮することで銀行危機を防ぐことが期待されています。
しばしば最後の貸し手機能として紹介されるものがウォルター・バジョット氏によるバジョットの原則です。バジョットの原則とは「パニックの期間には中央銀行は相手がだれであれ担保を持っている限りは物惜しみしないで貸し出すべきである」*24というものです。金融危機時などのパニックの際には、中央銀行は優良な資産を担保に、やや高めの罰則金利を求めることで、本当にお金を必要としている銀行に対して最後の貸し手機能を発揮すべきということです。
先ほどのFF市場の需要曲線と供給曲線の図を用いて、最後の貸し手機能がFF市場に与える役割について確認します*25。最後の貸し手機能として、具体的には、連邦準備銀行には連銀貸出(ディスカウント・ウィンドウ)*26という制度があり、銀行は一定の金利(ディスカウント・レート)で借り入れることが可能です。これは日本では基準貸付利率(以前の公定歩合)と呼ばれているものです。連銀貸出をFF市場の観点でみると、銀行からすればFF市場で割高で借りるなら連銀から借りてくることができますから、その意味で、FF市場においてディスカウント・レート以上の金利で銀行は借り入れる必要がありません。そのため、図表10 FF市場における連銀貸出の効果のように、銀行が連銀貸出を用いる限りにおいて、需要曲線はディスカウント・レートの水準で水平になると考えられます。
ちなみに、足もとの準備預金が潤沢な環境において、前述のとおり、FF市場では資金の出し手はGSEが中心となる一方で、主な資金の取り手は外国銀行です。外国銀行はFF市場で資金を調達してIORBで運用するというアービトラージを行っていますから、FF市場での調達金利がIORBを上回ると裁定取引が成立しないことがわかります。その観点では、IORBが通常時はFFレートの実質的な上限となっているという見方もあります(図5でみたとおり、2019年9月などFFレートがIORBを上回ることもある点に注意が必要です)。

4.2 連銀貸出に伴う不名誉:スティグマ
もっとも、このようにFFレートに上限が付されるかは必ずしも明確ではありません。というのも、米国の金融市場ではFRBから資金を借りることは不名誉だとされているからです。これを「スティグマ」といいます。実は、連銀貸出に係る様々な制度的な工夫は、この不名誉(スティグマ)を解消するためのものと解釈することができます。
たしかに、市場から借りずに連銀から借りるということは自らが健全ではなく、市場で借りることができないことを自ら示すとも解釈できますから、出来るだけ借入れをしたくないと考えるのは自然といえます。また、連銀貸出は長い間、金融政策の補完的な役割であり*27、FFレートより低い水準で設定されていました。連銀としてはFFレートより低い水準で不必要に借り入れられたくないことから、厳格な事前審査が求められていました*28。すなわち、銀行にとって当時の連銀貸出は不名誉なだけでなく、様々な不確実性もあったわけです。
このように連銀貸出が有効に機能するためにはスティグマの解消が重要になるのですが、これを防ぐ重要な改革として、2003年の改革が挙げられます*29。具体的には、2003年において、連銀貸出を健全な金融機関に対する貸出である「プライマリー貸出」と健全性に一定の問題がある「セカンダリー貸出」に分けました。そのうえで、健全な金融機関を前提とする「プライマリー貸出」については運用を柔軟化する一方で、「目標金利+100bps」とすることで危機時などに必要な資金を借り入れることができる仕組みになりました。

4.3 金融危機時における連銀貸出*30
もっとも、その後、連銀貸出が積極的に活用されるようになったわけではありません。このことは2008年の金融危機時に問題になります。当時、FRBの議長であったベン・バーナンキ氏は自身の著書で、金融危機時に直面した問題として「FRBからの借入れは不名誉なこと」であり、「FRBからの借入れが知られたら弱っているとみなされる(そしてますます民間資金の調達が難しくなる)のではないかと銀行が不安に思ってしまう」(バーナンキ 2015, p.194)というスティグマの問題を指摘しています。これに対応するため、まずはディスカウント・レート(公定歩合)を従来、「政策金利+100bps」であるところ、「政策金利+50bps」へ引き下げることで連銀からの借入れを容易にしました*31。また、スティグマを解消するため、FRBは各行に連銀貸出を使うように説得するなどしました*32。FRBは連銀貸出において入札方式を導入することでスティグマを解消するという工夫も行っていますが、詳細はBOX 2を参照してください。
投資銀行向けのファシリティ:PDCF
金融危機時には投資銀行(証券会社)への連銀貸出も拡充されます。筆者が執筆した「米国MMF入門」で説明したとおり、投資銀行は預金ではなく、MMFやレポなどホールセール・ファンディングに依存しています。上述の連銀貸出は預金取扱機関を対象としたものですが、リーマン・ブラザーズが破綻したことからもわかるとおり、より深刻であったものは投資銀行の資金調達であったともいえます。実はFRBが投資銀行へ連銀貸出をすることには当時高いハードルがあったのですが、結論的には連邦準備法13条3項を発動し、FRBは投資銀行に対する融資に踏み切ります(これは1930年代の大恐慌以来の措置なのですが、この詳細を知りたい読者はバーナンキ(2015)を参照してください)。
投資銀行に向けた連銀貸出の観点で特に重要なものが2018年3月16日に導入した「プライマリー・ディーラー向け貸出ファシリティ(Primary Dealer Credit Facility, PDCF)」です*33*34。プライマリー・ディーラーとはニューヨーク連銀と直接取引ができる政府公認の業者であり、主に投資銀行で構成されます。PDCFのイメージは図表11 PDCFのイメージに記載してありますが、PDCFは、前述の「プライマリー貸出」の金利でプライマリー・ディーラーに対して貸出を行うものであり、これは従来、連銀貸出の対象が預金取扱機関であったところ、投資銀行を中心としたプライマリー・ディーラーへ最後の貸し手機能を拡充したとみることができます(FRBは2008年9月に担保要件を緩和しています)*35。もっとも、バーナンキ(2015)では「プライマリー・ディーラー融資制度には汚名が伴う(どのような企業もプライマリー・ディーラー向け融資制度から資金を借りる必要があることを認めたくない)」(p.325)などと指摘しており、やはりスティグマの問題が存在したとしています*36。

4.4 コロナ禍で再開されたPDCF
PDCFは2010年に終了しましたが、PDCFはコロナ禍(2020年3月17日)において、短期金融市場を安定化させるために再開されています*37。連銀のスタッフ・レポートであるMartin and McLaughlin(2021)によればPDCFの役割は次のように変容しています。すなわち、2008年においては、サブプライム問題や証券化商品の問題を発端にレポ市場に混乱が起こり、PDCFが設立されました(金融危機時におけるレポ市場の混乱については筆者の「米国MMF入門」を参照してください)。その一方、コロナ危機では経済に与える影響の不透明性が高かったことから、多くの投資家がリスク資産をキャッシュへ転換し、金融市場に広範な影響をもたらす可能性を有していました。そこで、コロナ禍において企業や家計等が資金調達が困難になることを防ぐため、プライマリー・ディーラーにも連銀貸出を開放したわけです。コロナ禍においてPDCFがどのような影響をもたらしたかについては今後多くの実証分析が必要になると思われますが、連銀からリリースされた論文であるCarlson and Macchiavelli(2021)によれば、PDCFによりプライマリー・ディーラーがCPの発行などをサポートするなどプラスに寄与したとしています。

4.5 スタンディング・レポ・ファシリティ(SRF)
最後に、2021年7月に導入されたスタンディング・レポ・ファシリティ(Standing Repo Facility, SRF)を紹介します。そもそも、「スタンディング・ファシリティ(常設ファシリティ)」とは、中央銀行から民間金融機関が短期の借入れ(預金受入れ)を行う制度を指します*38。これまで説明してきたプライマリー貸出などの連銀貸出もスタンディング・ファシリティに相当するものですが、SRFとは、レポについて常設ファシリティを拡張したものです。この制度では主にプライマリー・ディーラーが国債などの適格担保を差し出すことで資金を借り入れられるというレポのオペレーションです。これまで一時的に導入されたPDCFを常設化したとみることもできますが、PDCFに対し、その対象がプライマリー・ディーラーだけでなく預金取扱機関を含むなど、より拡張されたものとして解釈できます。SRFでは、通常の連銀貸出の同じレートがSRFの最低ビット・レート*39となっており、図表10におけるFFレートの上限はSLFのレポ・レートと解釈することもできます*40。*41
*42
SRFが導入された背景には、投資銀行が四半期末や規制等を要因にファンディングが困難になったことから、2019年の秋にレポ・レートが急騰したことがあります。筆者が記載した「SOFR入門」でも投資銀行を軸に議論を展開しましたが、レポ市場の主軸として投資銀行の存在が看過できません。そこで、前述のようなスタンディング・ファシリティをプライマリー・ディーラーにも開放することでレポ市場の安定化を図っていると解釈することもできます。もっとも、SRFについてもスティグマが指摘されており*43、FFレートやレポ・レートの上限として連銀貸出が機能するかはどの程度これらのファシリティを金融機関が用いるかにも依存するといえましょう。

5.おわりに
本稿では、FF市場の基礎的な内容について説明をしました。米国における中央銀行の制度や金融危機時の対応の詳細を知りたい読者はぜひバーナンキ(2012, 2015)を参照してください。また米国における最後の貸し手機能について詳細を知りたい読者は木下(2018)をご参照ください。
次回はFF金利先物の制度や利上げ確率の考え方を説明します。
参考文献
[1]石田良・服部孝洋(2020)「日本国債入門-ダッチ方式とコンベンショナル方式を中心とした入札(オークション)制度と学術研究の紹介」PRI Discussion Paper Series(No.20A-06).
[2]服部孝洋(2019)「イールドカーブ(金利の期間構造)の決定要因について―日本国債を中心とした学術論文のサーベイ―」ファイナンス10月号、41–52.
[3]服部孝洋(2021)「リスク・フリー・レート(RFR)入門-TONA,TORF,OISを中心に-」『ファイナンス』12月号、14-24.
[4]服部孝洋(2022a)「SOFR(担保付翌日物調達金利)入門-米国のリスク・フリー・レートおよび米国レポ市場について-」『ファイナンス』3月号、28-37.
[5]服部孝洋(2022b)「米国MMF(マネー・マーケット・ファンド)入門-ホールセール・ファンディングと金融危機以降の規制改革について-」『ファイナンス』4月号、28-37.
[6]木下智博(2018)「金融危機と対峙する『最後の貸し手』中央銀行:破綻処理を促す新たな発動原則の提言:バジョットを超えて」勁草書房
[7]木下智博(2020)「復活した『最後の貸し手』FRB」『追手門経済論集』第55巻第1号
[8]田中隆之(2014)「アメリカ連邦準備制度(FRS)の金融政策」きんざい
[9]ダロン・アセモグル, デヴィッド・レイブソン, ジョン・リスト(2019)「マクロ経済学」東洋経済新報社
[10]ベン・バーナンキ(2012)「連邦準備制度と金融危機」一灯舎
[11]ベン・バーナンキ(2015)「危機と決断 前FRB議長ベン・バーナンキ回顧録」角川書店
[12]ヘンリー・ポールソン(2010)「ポールソン回顧録」日本経済新聞出版
[13]アラン・ブラインダー(1999)「金融政策の理論と実践」東洋経済新報社
[14]アラン・ブラインダー(2008)「中央銀行の『静かなる革命』―金融政策が直面する3つの課題」日本経済新聞出版
[15]ペリー・メーリング(2021)「21世紀のロンバード街」東洋経済新報社
[16]Afonso, G., Logan, L., Martin, A., Riordan, W., Zobel, P.(2022)「How the Fed’s Overnight Reverse Repo Facility Works」Federal Reserve Bank of New York Liberty Street Economics.
[17]Carlson, M. and Macchiavelli, M(2021).「Primary markets for short-term debt and the stabilizing effects of the PDCF」FEDS Notes. Washington:Board of Governors of the Federal Reserve System.
[18]Martin, A. and McLaughlin, S.(2021)「COVID Response:The Primary Dealer Credit Facility」FRB of New York Staff Report No. 981.
[19]McGowan, J. and Nosal, E(2020)「How Did the Fed Funds Market Change When Excess Reserves Were Abundant?」Economic Policy Review 26(1)
[20]Swanson, E.(2022)「The Federal Funds Market, Pre- and Post-2008」NBER Working Paper 29762.
[21]Walsh, C.(2017)「Monetary Theory and Policy, fourth edition」The MIT Press

BOX 1.ニューヨーク連銀の公開市場トレーディング・デスク
(Open Market Trading Desk, the Desk)
米国の公開市場操作は、ニューヨーク連銀における公開市場トレーディング・デスク(Open Market Trading Desk)と呼ばれる部署で実施されます。英語ではしばしばthe Deskと記載されます。デスクは、プライマリー・ディーラーや大手行とのやり取り等を通じて情報収集をします。また、デスクはFFレートを操作するために各行の準備金の状況等についても調査します。国債の買い切りオペや本稿で説明するリバース・レポ・ファシリティなど、多くのオペレーションはニューヨーク連銀が担っています。実は米国の場合、国債の買い切りオペがモデルに基づき執行されるなど様々な興味深い点があるのですが、これらについては今後の論文で取り上げたいと思います。

BOX 2.金融危機時に導入されたその他のファシリティ
本稿で説明したとおり、FRBは金融危機時において連銀貸出のスティグマを解消するため、連銀貸出の方法として入札(オークション)を用いました。バーナンキ(2015)はその理由として、「今の公定歩合で固定するやり方よりも、潜在的な借り手が資金調達のために行う入札によって金利を設定する方が、FRBから借り入れる不名誉感を減らすことができる。借り手は懲罰金利ではなく、市場金利を払っていると主張できる。入札を行い、落札が決定するまでには時間を要するので、借り手は資金を遅れて受け取るが、彼らが資金不足で切迫していないという証明になる」(p.206)としています。
上記の観点で、2007年12月に新設されたファシリティが「入札型ターム物資金供給ファシリティ(Term Auction Facility, TAF)」です*41。TAFは前述の観点で、連銀からの借入れに対するスティグマを克服できるように設計されました。具体的には、預金取扱機関に対して、28日あるいは84日間の貸出を実施するわけですが、ポイントは前述のとおり入札の形をとる点です。具体的には、ダッチ入札方式により決められた金利が適用されるとされています(ダッチ方式については石田・服部(2020)を参照してください)。
なお、本稿ではPDCFの説明をしましたが、FRBは「ターム物証券貸出ファシリティ(Term Securities Lending Facility, TSLF)」を2008年3月11日に導入しており、これがいわばFRBが行った最初の投資銀行への措置といえます。これはプライマリー・ディーラーが有する非流動性資産を28日間、国債などに交換するオペレーションです。当時、金融危機時に民間セクターが資産担保証券(ABS)などを担保として受け入れなくなったことやヘアカット*42が上昇したことに伴い、プライマリー・ディーラーは資金調達が困難になっていました。そこで、それらの資産を担保に、資金調達の担保として使える米国債を貸し出すことで、プライマリー・ディーラーの資金調達をサポートすることを企図していました。金融危機時に導入した各ファシリティの学術研究の評価については木下(2018)の第4章に記載があるため関心がある読者は参照していただければ幸いです。

*1)本稿の作成にあたって、宍戸知暁氏等、様々な方に有益な助言や示唆をいただきました。本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。
*2)下記をご参照ください。
https://sites.google.com/site/hattori0819/
https://sites.google.com/site/hattori0819/
*3)正確には、準備預金とは「民間銀行が中央銀行に保有している預金と、民間銀行の手元現金の合計」(p.395, アセモグル等 2019)です。
*4)ニューヨーク連銀のサイトでは、「The federal funds market consists of domestic unsecured borrowings in U.S. dollars by depository institutions from other depository institutions and certain other entities, primarily government-sponsored enterprises.」としています。
*5)ニューヨーク連銀のウェブサイトでは「The effective federal funds rate(EFFR)is calculated as a volume-weighted median of overnight federal funds transactions reported in the FR 2420 Report of Selected Money Market Rates. The New York Fed publishes the EFFR for the prior business day on the New York Fed’s website at approximately 9:00 a.m.」としています。
*6)ここでの説明はSwanson(2022)を参照しています。ちなみに、メーリング(2021)によれば、レポ市場はフェデラル・ファンド市場より先に誕生しています。
*7)ブラインダー(2008)は、「フェデラルファンド金利に基づいて行われる重要な経済取引は一つもないのである。銀行貸出金利、債券利回り、為替レート、株価のような重要な金利や資産価格に連邦準備制度理事会の金融政策が影響を及ぼすためには、フェデラルファンド金利の変更が何らかの経路を通じてこれらの金融指数に影響を及ぼさなければならない。このリンクを説明するために通常持ち出されるのが、『期待構造に関する期待仮説』である」(p.141)としています。金利の期待仮説については服部(2019)を参照してください。
*8)アセモグル・レイブソン・リスト(2020)では、第11章で丁寧にFF市場やFFレートが与える影響について説明をしてます。
*9)Bernanke and Blinder(1992)はFFレートが実態経済と密接な関係にあることを実証的な観点で議論しています。
*10)正確には、Board of Governors of the Federal Reserve Systemになりますが、ここではよく使われるFRBという表現を用いています。1935年における法改正前は、Federal Reserve Boardという名称が正式名称でした。
*11)このうちの議決権の1つはニューヨーク連銀の総裁が保有しており、残りの4つの議決権を他の11の連邦準備銀行の総裁が輪番で保有することになります。
*12)実は、超過準備預金に金利を付けることは技術的な要因で2006年に決まっており、2011年に発効することが決まっていましたが、金融危機時に開始時期を早めるという措置をとりました。
*13)McGowan and Nosal(2020)によればFF市場の借り手は主にIOERアービトラージ(FF市場で借り入れて、IOERに預けて利益を得る取引)によるものとしています。相対的に制度的に負担が少ない外国の金融機関が主にその取引を行っているとしています。
*14)外国銀行などがアービトラージなどの観点でFHLBから資金融通を受ける構図が生まれました。このことも、FFレートではなく、SOFRをLIBORの代替金利として利用する理由になりました。詳細は筆者が記載したSOFR入門を参照してください。
*15)正式には「Fixed-rate full-allotment overnight reverse repurchase(ON RRP)facility(固定金利・金額無制限の翌日物リバース・レポ・ファシリティ)」といいます。
*16)クリアリング・バンクやトライパーティ・レポについては筆者が記載した「SOFR入門」を参照してください。
*17)Afonso et al.(2022)では“Through the ON RRP facility, eligible institutions—money market funds, government-sponsored enterprises, primary dealers, and banks—can invest overnight with the Fed through a repurchase agreement(repo).”としています。
*18)ちなみに、リバース・レポ・ファシリティは事実上、MMFの元本割れを防いでいるという指摘もあります。例えば、「米短期市場、金余りで変調、MMF、運用利回りマイナス目前、企業の資金調達に支障も」(2021/06/19 日本経済新聞)などを参照してください。
*19)例えば2015年12月に政策金利を引き上げていますが、これに伴い、リバース・レポ・レートも0.05%から0.25%へ引き上げられています。2022年3月の利上げでは0.05%から0.3%へ、2022年5月の利上げでは0.3%から0.8%へ引き上げられています。
*20)これまでこのオファー・レートをリバース・レポ・レートと記載していました。ここでは実際のオペレーションに沿ってオファー・レートと記載しています。
*21)ここではオーバーナイトで貸し出しをするオーバーナイト・カウンター・パーティ・レポ・ファシリティを前提に説明しましたが、1営業日以上で貸し出しをするターム物のリバース・レポ・ファシリティも存在しています。詳細はニューヨーク連銀のサイトを参照してください。
https://www.newyorkfed.org/markets/rrp_faq
https://www.newyorkfed.org/markets/rrp_faq
*22)制度的にはオファーの上限に達した場合、案分する形がとられています。制度の詳細はニューヨーク連銀のサイトを参照してください。
https://www.newyorkfed.org/markets/rrp_faq
https://www.newyorkfed.org/markets/rrp_faq
*23)ここでの議論はSwanson(2022)を参照しています。
*24)バーナンキ(2012)のp.16から抜粋しています。
*25)ここでの議論はSwanson(2022)を参照しています。
*26)Discount Window(あるいはDiscount Window Lending)は逐語訳すると「割引窓口」ですが、ここは木下(2018)を参照し、連銀貸出と訳しています。木下(2018)によれば、この「割引窓口」という名称が使われている背景には、「かつてFRBが、預金取扱金融機関が持ち込む手形などの有価証券の再割引を行うことで、資金を供給することが多かったという歴的な沿革に由来している」(p.186)と説明しています。
*27)田中(2014)によれば、米国では「早くから連銀の公開市場操作によって準備量がコントロールされており、そもそも連銀貸出はそれを補完するものでしかなかった」(p.50)としています。一方、日本では「1980年代半ばまでの規制金利時代に、預金金利をはじめとする諸金利が公定歩合に連動して上下する金利体系が設定されていたので、公定歩合の設定が何よりも重要な金融政策の手段であった」(p.49)としています。
*28)木下(2018)は「申し込み金融機関に対し、(1)他に利用可能な資金調達手段を先にすべて使いつくすこと、(2)借入れの必要を説明すること、(3)FF市場での運用額が調達額を超過しないこと、の3条件を要求したうえで、貸出実行部署の地区連銀に厳格な事前審査を求めていた」(p.191)としています。詳細は木下(2018)の第4章をご参照ください。
*29)2003年の改革では、「プライマリー貸出」(Primary Credit)、「セカンダリー貸出」(Secondary Credit)、「季節クレジット」(Seasonal Credit)と呼ばれる3つの貸出が導入されます。「セカンダリー貸出」は健全性に問題がある先に対して、連銀によるモニタリングとともに、「プライマリー貸出」より高い金利で貸し出す制度です。「季節クレジット」は、資金需要の季節性に対応する貸出です。2000年以前は調整貸出(Adjustment credit)、長期貸出(Extended Credit)、季節貸出(Seasonal Credit)の3本建てでした。詳細は田中(2014)あるいは木下(2020)を参照してください。
*30)3.2節と3.3節は原則、一次資料に近いという意味で、当時のバーナンキ議長の文献であるバーナンキ(2015)をベースにしています。
*31)その後、さらにディスカウント・レートを引き下げています。これ以外にも、連銀貸出の最長満期を30日から90日に延ばすなどの措置も行っています。
*32)その結果、シティバンクなど大手行が借入れを行い、連銀貸出が増えることになり、一定の成功を得たとしています。もっとも、バーナンキ(2015)ではこの最初の成功は長く続かなかったとしており、「全体で20億ドルをFRBから借りたと大々的に発表した四大銀行は、不名誉ということが明らかに心中にあったのだろう、彼らの発表の中ではっきりとそのお金は必要がなかったと言い放った」(p.199)と指摘しています。
*33)PDCFの制度の詳細は下記などニューヨーク連銀のサイトを参照してください。
https://www.newyorkfed.org/markets/pdcf_faq.html
https://www.newyorkfed.org/markets/pdcf_faq.html
*34)ポールソン(2010)は「大恐慌以降、はじめて投資銀行に公定歩合での貸し出しを行うことにしたのだ。(中略)これによって『投資銀行がFRBの庇護下に入った』という安心感が市場に広がればよいという期待があった」(p.153-154)とコメントしています。
*35)ちなみに、金融危機時にゴールドマン・サックスが証券持株会社から銀行持株会社へ法人格を移行しますが、バーナンキ(2015)は、この移行はFRBから資金を得るためと報じられることがあるものの、これは不正確な理解だとしています。というのも、この時点で前述のとおりPDCFがあったため、投資銀行はすでにFRBから資金融通を受けることができたからです。ここでなぜゴールドマン・サックスが銀行持ち株会社に移行したかは議論しませんが、バーナンキ(2015)は「ゴールドマンの経営陣は監督機関がFRBになったと発表するだけで、短期資金の取り付けリスクを減らすことができると信じていた」(p.58)という見方を提示しています。
*36)バーナンキ(2015)では「リーマンは、3月と4月にプライマリー・ディーラー融資制度から七回資金調達し、量的には27億ドルという巨額になったが、その後利用することはなかった」(p.325)としています。
*37)コロナ禍に再開された各種ファシリティや新設されたファシリティについては木下(2020)を参照してください。
*38)ここでは日銀による「主要国の中央銀行における金融調節の枠組み」を参照としています。具体的には「米国では、貸出制度(Discount Window)が2003年に抜本的に見直され、Primary Credit Program と呼ばれる新たな資金貸付けの仕組みがスタンディング・ファシリティとして機能するようになった」(p.14)としています。詳細は下記の資料を参照してください。
https://www.boj.or.jp/research/brp/ron_2006/data/ron0606c.pdf
https://www.boj.or.jp/research/brp/ron_2006/data/ron0606c.pdf
*39)厳密にはSRFはオークションの形式をとられており、その最低ビット・レート(Minimum bid rate)が連銀貸出と同じ金利になっており、固定されているわけではありません。SRFの詳細は下記を参照してください。
https://www.newyorkfed.org/markets/repo-agreement-ops-faq
https://www.newyorkfed.org/markets/repo-agreement-ops-faq
*40)ちなみに、Afonso et al.(2022)は「Banks are key participants in the fed funds market and adding them as SRF counterparties should enhance rate control by providing a backstop source of liquidity against high-quality assets. As such, the SRF serves as a complement to the discount window」としており、ディスカウント・ウィンドウを補完する役割とみることもできます。
*41)本稿では取り上げていませんが、TAFの導入のタイミングで、通貨スワップによるドル供給も実施しています。通貨スワップについては今後の論文で紹介できればと思っています。
*42)レポにおいて担保として出す場合、その安全性に応じて掛け目が掛けられます。例えば安全性が低い資産の場合だと、100円の価格がついている資産を担保として出しても80円しか借りられないということが起こります。
*43)例えば、「Former Fed Staffer:Standing Repo Facility Suffering From Stigma」(Wall Street Journal, 2022/2/23)を参照してください。