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令和4年度国債発行計画について

理財局国債企画課長 神谷 隆

本稿では、昨年12月24日に公表した令和4年度国債発行計画の内容を中心として、国債発行を取り巻く最近の動きについて概要を説明したい。

1.現下の国債市場の状況と令和3年度補正予算に伴う国債発行計画の概要
令和3年は、1月以降、米長期金利が上昇する中、我が国の金利は緩やかに上昇、2月末に長期金利は一時0.175%をつけた。3月、日本銀行は金融政策決定会合において、「より効果的で持続的な金融緩和」を決定、コロナ禍においてはイールドカーブ全体を低位で安定させる姿勢が明確化された。その後、長期金利は低下し、7月から8月にかけて、新型コロナウイルス感染症の変異型「デルタ株」が世界的に感染拡大する中で欧米各国の長期金利が低下する場面が見られ、我が国の長期金利も一時0%に低下する場面が見られた。その後は、欧米においてインフレ懸念の高まりを背景に欧米の長期金利が上昇し、9月下旬に我が国の長期金利も0.05%~0.10%のレンジで推移した(図1 各年限の金利の推移)。
11月に編成された補正予算においては、必要な新規財源債を調達するとともに、既に国債の市中発行額が過去最大となっていることを踏まえ、市場への影響にも配慮し、財投債の減額等によりカレンダーベース市中発行額を減額した。
なお、令和4年に入ってからは、米国金利等が上昇する中、我が国の金利も上昇している。

図1.各年限の金利の推移

2.令和4年度国債発行計画の概要
令和2年度において、3次にわたる補正予算の結果、国債発行額が100兆円以上増加する中、短期国債(満期が1年以下の国債)の発行が増大し、3年度当初予算ベースにおいても引き続き短期国債の発行額が多額で、市中発行額に占める割合が約4割を占めるようになっていた。短期国債は毎年借換える必要があり、借換えるたびに金利変動のリスクを負うとともに毎年度の借換債を増額させるものであることから、この縮減が国債管理政策上大きな課題となっている。また、コストとリスクの分析では、10年債を増額するとともに2年債等の発行額を減額することがコスト・リスクともに低減させるという分析もなされていた。
令和4年度国債発行計画は、以上のような市場環境や債務管理上の課題を踏まえつつ、昨年11月~12月に実施した「国債市場特別参加者会合」及び「国債投資家懇談会」等において、市中発行の年限構成等について市場関係者(機関投資家、証券会社等)との対話をきめ細かく実施し、市場ニーズの把握に努めた上で、策定したところである(表1 令和4年度国債発行計画の概要)。これらの会合においては、短期債を減額していくという当局の方針に理解を示す意見や、40年債について優先順位の高いものとして増額を希望する意見、10年債について日銀の金融政策のコントロール下にあることから増額・減額いずれも可能という意見、需給環境に鑑み2年債の減額を希望する意見、流動性供給入札(残存1-5年ゾーン)について需給がタイトな状況が継続していることから増額を希望する意見等が聞かれた。

表1.令和4年度国債発行計画の概要

(1)発行根拠法別発行額
令和4年度の国債発行総額は、前年度当初比▲21.0兆円、前年度補正比▲9.3兆円の215.0兆円となり引き続き高い水準が続いている。
発行根拠法別(表1左)の内訳をみると、まず、一般会計予算の歳入となる新規国債(建設国債・特例国債)は、前年度当初比▲6.7兆円、前年度補正比▲28.7兆円の36.9兆円となっている。
復興債は、東日本大震災からの復興のための施策に要する費用の財源に充てるため、復興特別税等の収入が確保されるまでのつなぎとして発行されるものであり、令和4年度は0.2兆円の発行を予定している。
財投債は、財政融資の新規貸付規模や財政融資資金全体の資金繰り等を勘案した結果、令和4年度は前年度当初比▲20.0兆円、前年度補正比+10.0兆円の25.0兆円となっている。
借換債は、過去に発行した国債の満期到来に伴う借換えのために発行するものであり、国債発行総額の大半を占めている。令和4年度の借換債発行額は、令和2年度で大幅に増発した2年債が償還を迎えることもあり、前年度当初比+5,7兆円、前年度補正比+9.3兆円の152.9兆円となっている。

(2)消化方式別発行額
国債の消化方式は、大別すると、「市中発行」、「その他」の2方式に分けられる(表1中)。
大半を占める「市中発行」分のうち、カレンダーベース市中発行額については、前年度当初比▲22.8兆円、前年度補正比▲13.6兆円の198.6兆円となっている。
「その他」には、個人向け販売分や、公的部門(日銀乗換)が含まれるところ、個人向け販売分は、足元の販売状況等を踏まえ、前年度補正比+0.1兆円の2.9兆円としている。
また、公的部門(日銀乗換)は、日本銀行が保有する国債が満期を迎えた際に、その一部について借換債を引き受ける制度である。令和4年度は、国債発行総額や市場環境等を踏まえ、前年度と同額の2.2兆円としている。

(3)年限別発行額
カレンダーベース市中発行額の年限別発行額については、上述のとおり前年度当初比▲22.8兆円、前年度補正後から▲13.6兆円となった。
そうした中、令和5年度の借換債の増加要因となる短期債を前年度当初比▲22.8兆円、前年度補正比▲13.6兆円の60.4兆円とするとともに、市場からのニーズが強い、40年債を前年度補正比+0.6兆円の4.2兆円、10年債を同+1.2兆円の32.4兆円、流動性供給入札を同+0.6兆円の12.0兆円とする一方で、市場からのニーズが低く、償還期限の短い2年債を同▲2.4兆円の33.6兆円としている(表1右)。
この結果、カレンダーベース市中発行額全体のうち短期債が占める割合は30.4%まで減少し(表2 令和4年度カレンダーベース市中発行額及び平均償還年限の推移 左)、新型コロナ対応で短期化した平均償還年限は7年9カ月まで増加する見込みとなった(表2右)。

表2.令和4年度カレンダーベース市中発行額及び平均償還年限の推移

3.おわりに
令和4年度国債発行総額は、引き続き高い水準となっており、国債発行残高(財投債含む)は、令和4年度末に約1139.0兆円に達すると見込まれている。また、3年度補正及び4年度国債発行計画において、課題となっている短期債の発行縮減に努めたものの、依然として従前と比べて高い水準にある。
今後も借換債を含めた国債の大量発行を余儀なくされる中、これらの国債を確実かつ円滑に発行しつつ、中長期的な調達コストの抑制を図っていく観点から、国債管理政策は一層重要となっている。
国債発行当局としては、引き続き国債市場の動向を注視しつつ、市場関係者との緊密な対話を行い、中長期的な需要動向を見極め、安定的で透明性の高い国債発行に努めていく所存である。

表3.国債発行総額及び残高の推移