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コラム 経済トレンド88

日本の観光の現状と今後の展望
大臣官房総合政策課 深澤  瑛介/中山  晃一/楠原  雅人

本稿では、外国人旅行客誘致の重要性とマイクロツーリズムの可能性について考察する。

日本の観光における方向性と課題
・日本人の国内旅行消費額は、経済の成熟化とともに増加してきたが、他方で人口は減少局面に入っており、内需は頭打ちになる可能性が高くなっている(図表1.日本の人口推移と日本人国内旅行消費額推移)。外国人旅行客による観光需要の拡大が重要な課題と認識される中で、観光庁は2017年に「新たな観光立国推進基本計画」を策定し、訪日ビザの発行要件緩和や航空ネットワーク拡大等が実施されてきた。
・2019年には、外国人旅行客数3,200万人、外国人旅行消費額約4.8兆円と過去最高の数字を記録した。さらには、2030年までの外国人旅行客数6,000万人、外国人旅行消費額15兆円達成が目標として掲げられている(図表2.外国人旅行客数と外国人旅行消費額の推移)。
・しかしながら、2019年の外国人旅行客の約6割は東京都、大阪府、京都府、千葉県の4都府県を目的地としており(図表3.外国人旅行客の目的地(2019年))、京都や浅草といった主要観光地では、外国人旅行客があふれかえり、街の混雑や交通渋滞、騒音等が発生し国内旅行者の足を遠ざけてしまう「オーバーツーリズム」という問題が発生していた。

新型コロナウイルス感染拡大による打撃
・2020年は東京オリンピック・パラリンピックの開催が予定され、2019年以上の外国人旅行客の獲得が期待されていたが、新型コロナウイルス感染拡大以降、外国人旅行客数は激減し、2020年は412万人と前年比87.1%減となった。また、2020年の日本人国内宿泊旅行者数も、1億6,070万人と前年比で48.4%減少した。
・急減した観光需要の喚起策として「GoToトラベル」事業が実施されたものの(図表4.日本人国内宿泊旅行者数とGoToトラベル事業利用者数(2020年))、感染再拡大により事業は停止されており、結果的に2020年の日本国内における旅行消費額は、10.0兆円と、2019年の半分以下にまで落ち込んだ。
・感染拡大以降、宿泊施設の稼働率は大きく低下し(図表5.宿泊施設タイプ別の客室稼働率推移)、2020年1年間で宿泊業者の倒産は2019年対比約1.5倍の118件と大幅に増加した(図表6.宿泊業の年間倒産件数)。また、観光庁の「主要旅行業者の旅行取扱状況速報」によると、主要旅行業者の旅行商品取扱高は2019年対比69.9%減の1.46兆円まで落ち込むなど、観光業界全体が苦境に立たされている。

国内の旅行消費額の回復に向けて
・感染拡大により、自宅から1~2時間程度で移動できる地域で安心・安全に過ごす「マイクロツーリズム」が注目を集めている。温泉や地元の食材を堪能できる等、地域により様々な内容が提供され、県内宿泊者数の増加に寄与しているが(図表7.県内県外延べ宿泊者数の推移)、足元の国内宿泊旅行単価は2019年と比べて低下しており(図表8.国内宿泊旅行単価の推移)、減少した国内の旅行消費額の穴埋めには限界がある。
・アジアや欧米に居住する海外観光旅行希望者のアンケートでは、新型コロナウイルス終息後に行きたい国として、日本が高い順位で挙げられている(図表9.次に旅行したい国に関するアンケート)。潜在的な外国人旅行客の観光需要は大きく、現時点で、2022年に国際航空旅客輸送は2019年の対88%まで回復すると見込まれている(図表10.国際航空旅客輸送量の推移見込み)。
・国内の旅行消費額回復のためには、地域外の国内旅行者の需要を取り込んでいくことも必要であるが、宿泊日数や旅行消費額を比較すると、外国人旅行客は国内旅行者を遥かに上回っている(図表11.平均宿泊日数と平均旅行消費額の比較(2019年))ことから、国際的な人の移動が、安心・安全を伴って復調していくことに合わせ、再び外国人旅行客の需要を取り込んだ対応をしていくことが求められる。

マイクロツーリズムの可能性
・本来、マイクロツーリズムは、地域内居住者の需要喚起を目的としているが、外国人旅行客が訪日旅行に期待することの中には、マイクロツーリズムが提供しているものと合致しているものがある(図表12.外国人旅行客が訪日旅行に期待すること、図表13.マイクロツーリズムが提供しているものと外国人旅行客が訪日旅行に期待すること)。そのため、マイクロツーリズムの提供内容を外国人旅行客向けにブラッシュアップすることにより、外国人旅行客の需要を取り込む新たな観光地の創出につながる可能性がある。
・そしてこの新たな観光地が、外国人旅行客が旅行経路として多く利用する「ゴールデンルート」内にあれば(図表14.ゴールデンルート)、そこでの滞在時間や旅行消費額の増加が見込まれる。また、「ゴールデンルート」外であっても、観光地としての魅力が向上することで、外国人旅行客が利用する新たな観光ルートが開拓されることも期待できる。
・新たな観光ルートが開拓され、これまでとは異なる観光地で過ごす時間が増加することで、以前から抱えていた「オーバーツーリズム」という課題が緩和される可能性がある(図表15.都道府県別インバウンド宿泊者数(2019年))。マイクロツーリズムを積極的に推進することは、足元の観光需要創出という観点だけでなく、中長期的に外国人旅行客数や旅行消費額の増加を目指していく上でも有効な手段になり得ると考える。

(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。