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コラム 経済トレンド87

中食、外食市場の動向と課題
大臣官房総合政策課 調査員 白井  斗京/髙根  孝次

本稿では、近年拡大している中食、外食市場の動向と、課題について分析を行った。

近年の食事のトレンド
・核家族化の進行や共働き家庭の増加を背景に、外食や中食を日々の食事に利用する動きが見られ、それぞれの市場規模は成長している(図表1 中食、外食の市場規模の推移)。(中食とは、調理食品の購入や、弁当や惣菜等のテイクアウト、デリバリーを利用する等、家庭外で調理された食品を家庭や職場に持ち帰って食べる食事形態を指す。)
・中食、外食の消費内訳を見ると、外食の割合が徐々に低下し、調理食品の中で「弁当」や「他の主食的調理食品」(パスタや炒飯等)が増加している(図表2 中食、外食の消費内訳)。中食を利用する理由としては、「時間がない」「調理・片付けが面倒」等、時間の節約のための理由が多い(図表3 中食を利用する理由(世帯別)(複数回答))。共働き家庭が増え、また一人暮らしの若者・高齢者が増えること等で時短ニーズが高まるなか、より簡便に食事を準備できる中食の消費が伸びていると考えられる。

新型コロナ感染拡大下での食の変化
・新型コロナ感染拡大下の食の変化を確認すると、外出自粛により外食が落ち込む一方、食料支出全体での落ち込みは少なく、内食(自炊)や、中食へのシフトが生じたと考えられる(図表4 食品群別消費量)。
・内食の例として「穀類」・「野菜」の消費を見ると、新型コロナ感染拡大初期の2020年3月~8月に増加したが、その後は外食が回復するにつれて、減少する動きをしている。一方、「調理食品」の消費は新型コロナ感染拡大下でも増加を続けている(図表4)。食料支出に占める構成比では、2020年4月に「野菜」類の増加と外食の減少、2021年4月にその逆の動きが見られ、「調理食品」の割合は一貫して増加し、中食消費の増加がみられる(図表5 各年4月の食品群別消費金額、構成比)。
・また、図表4、5の「家計調査」では「外食」に含まれる、テイクアウト、デリバリー市場も堅調に成長している(図表6 テイクアウト・デリバリー市場規模)。大手デリバリーサービスの拡大等により、新型コロナ感染拡大前からこれらの市場規模は成長していたが、感染拡大期に際しては、人との接触を避けられることがメリットとなり、2020年も成長が続いたとみられる。
・以上を総合すると、新型コロナの感染状況が落ち着くにつれ、外食市場も増加しながら、図表1のように、中食市場がより大きく伸びるトレンドに戻ることが見込まれる。

中食、外食の栄養価
・しかし、中食で購入する弁当や惣菜等や、外食の食事については、栄養価を懸念する声も存在する。
・先行研究においては、市販弁当に含まれる食材、栄養素は、厚生労働省の示す目標値(一日の摂取量)の3分の1((ニアイコール)1食分)と比較すると、野菜が10分の1程度、食塩は1倍~2倍程度であることや(図表7 コンビニの幕の内弁当に含まれる栄養素)、外食、調理済み食品を利用する消費者は脂質が多く、食物繊維が不足する傾向にあることが指摘されている(図表8 外食・中食利用者の摂取栄養素)。
・中食や外食の増加が進むことで、野菜摂取量の減少や、脂質摂取量の増加が進む可能性がある。国民健康栄養調査によれば、野菜摂取量、脂肪エネルギー比率ともに厚生労働省の示す目標値には各年代で到達しておらず、2019年はそれ以前と比較すると、目標値からより遠ざかっている(図表9 年齢別野菜摂取量、図表10 年齢別脂肪エネルギー比率)。

満たされぬ健康的な中食、外食需要
・このような、中食、外食の栄養バランスに対しては、消費者は満足していないように見受けられる。
・野菜不足の原因として消費者が最も多く挙げているのが、「外食や中食の利用が多い」ことである(図表11 野菜摂取量が不足している原因)。上述のように、中食、外食では十分な野菜が取れないということを消費者も認識していることが分かる。
・しかしながら、中食購入時に重視するポイントを尋ねたアンケートでは、「自由に選べる」という品揃えとほぼ同じ割合で「栄養バランス」を重視するという消費者が多い(図表12 中食購入時に重視するポイント)。栄養バランスを重視しているものの、そのような選択肢が少ないという消費者の意識が反映され、飲食業者への希望として、「野菜たっぷりのメニュー」や「減塩のメニュー」等、栄養バランスに配慮した品揃えを希望する割合が大きくなっている(図表13 飲食業者の食品提供への希望)。
・今後も中食、外食利用は拡大するとみられるが、簡便さだけではなく、栄養面についても消費者のニーズを取り入れたメニューの拡充が必要となるだろう。

(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。
(出典)一般社団法人日本惣菜協会「2021年版惣菜白書」、総務省「家計調査」、農林水産省「食料・農業及び水産業に関する意識・意向調査」(平成27(2015)年3月公表)、株式会社富士経済「外食産業市場を多角的に分析」、難波 友美・串田 修・村山 伸子「コンビニエンスストア弁当の野菜量とエネルギー、脂肪エネルギー比率および食塩相当量との関連の検討」、小林 真琴・小林 ゆかり・小林 良清「青年期から中年期をターゲットとした健康づくり施策(食環境整備)の検討ー平成19年度県民健康・栄養調査結果からー」、厚生労働省「国民健康栄養調査」、東京都「令和2年度第6回インターネット都政モニターアンケート『都民の食習慣と外食・中食の利用状況』」、FBS株式会社「2017年度中食1000人アンケート結果」