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コロナ危機下におけるフランスの制度改革の行方~医療提供体制改革編・上~

在フランス日本国大使館参事官 大来  志郎

2020年3月に新型コロナウイルスがフランスにおいても大幅流行となって以降、フランス政府の主旋律をなすコロナ対応は、イ)医療資源の確保(感染者への短期的対応)、ロ)移動制限措置の実施(感染防止への短期的対応)、ハ)経済対策の策定(経済活動の落ち込みへの短期的対応)の三つの分野において行われた。これら三つの分野は、対応策の実施の範囲・規模に違いはあれ、どの先進諸国にもある程度共通したものだったように思われる。
一方、フランスはこうした主旋律のコロナ対応とは別に、新型コロナウイルスの流行開始時点で、独自の政策課題をいくつかの分野において抱えていた。そのうち、医療提供体制改革および失業保険改革の行方に着目したものが本稿である。コロナ対応から見ると緊急対応とまでは言い切れない、しかしコロナ対応に深く関係をしてくる、いわば対旋律をなす政策分野において、フランス政府がどのように対応したのかは、興味深い。コロナ危機発生以前から政権が思い描いていた改革の針路と速度を可能な限り維持したいという思いと、コロナ危機の発生を受けた状況に柔軟に対応しなければならないという要請が交錯する中での、フランス政府独自の悩みとアプローチがあったように思われる。
本稿執筆現在において、感染症流行は未だ完全には終息せず、両改革へのフランス政府の対応あるいはフランス社会の反応も終局的なものとはなっていない。その意味で断定的な分析・評価を下すには時期尚早ではあるが、公衆衛生的・経済的危機の下で、いち先進国が悩みながら遂行した政策運営を行政過程・政治過程としていったん記録にとどめることでいずれかの方面の参考に多少なりともなればと考えている。
連載の前半は医療提供体制改革編を、後半は失業保険改革編をお届けする。

1.コロナ危機前の医療提供体制改革の状況
フランスの医療分野については、医療サービスへのアクセスの難しさ、病院・診療所・リハビリ施設等の連携の悪さ、医療従事者の負担増大、治療の質の低下、公立病院の赤字体質等を問題点として指摘する声が従来あった。2017年5月にその5年任期をスタートさせたマクロン大統領の政権は、2018年9月にアニエス・ビュザン(Agnès Buzyn)連帯保健大臣(当時)のイニシアチブの下、「私の保健2022(Ma Santé 2022)」*1という政策パッケージを取りまとめた。2018年から2022年の5か年の工程表を定め、治療の質の改善、医療提供体制の向上、医療従事者の育成、医療サービスへのデジタル技術の導入などに向けた施策を順次開始していた。
しかしながら、2019年に入り、パリのサンタントワンヌ(Saint-Antoine)病院において発生した、患者による救急医療従事者に対する暴力事件を契機に、同病院の看護師やパラメディカルが無期限ストライキに突入した*2。要求事項は、医療スタッフの充実、病床閉鎖の停止、月額300ユーロ規模の報酬引上げなどであった。この救急関係者のストライキは、従来待遇などに不満を抱えている看護師・パラメディカルが多く存在していたフランス全土の救急科に燎原の火のように広がり、例えば2019年8月時点では全国520拠点の救急科のうち217拠点においてストライキが行われている事態となった。これに対してビュザン連帯保健大臣は2019年6月*3、同9月*4、同11月*5と3回にわたり対応策を公表する。例えば、11月の対策は、高齢者医療の分野で働く約8万人のパラメディカルに対して月額100ユーロ(ネット)の特別手当、パリ及びその近郊で働く低所得の看護師・パラメディカルに対して年間800ユーロ(ネット)の特別手当、など3年間で15億ユーロ規模のものだったが、「月額300ユーロの報酬引上げと比較すると程遠い」との反発を招き、看護師・パラメディカルら医療従事者側は抗議・ストライキを継続した。この時期の政府側の一連の対応は、後手に回った感は否めない。

写真:(写真1)ストライキをする救急関係者(Mathias Zwick/Hans Lucas)

2.コロナ危機の発生
2020年3月、コロナ危機がフランスにも到来するという、いわば「外生的な事由」によって、救急関係者は、一年あまりに及ぶストライキから現場に復帰した。新型コロナウイルス流行に際してのフランスの医療従事者の献身的な貢献が高く評価されて世論の後押しを得たことで、政府も主に看護師・パラメディカル等の報酬に関して手をこまねいているわけにはいかない状況が生み出された。3月~5月の第一回ロックダウンの間、毎晩20時には、医療従事者の貢献をたたえるために、住人達は窓から拍手を送る、という動きが自然発生的に沸き起こるほどだった。こうした称賛のコインの表裏として、医療従事者の間にある、報酬、コロナ対応の危険性、長時間・変則勤務などへの不満は増幅しており、政権としても対応が求められた。5月15日にマクロン大統領自らパリのピティエサルペトゥリエール(Pitié-Salpêtrière)病院を訪問し、医療従事者たちとの対話の中で、「2年前に公表をした『私の保健2022』には戦略上、明らかなあやまりがあった」「時間軸と量の面で、病院が置かれている現状と比してまったく不十分な報告だった」などと述べた上で、新たなパッケージ策定の予告を行う*6。これを受けて、5月17日に、ヴェラン(Olivier Véran)連帯保健大臣*7は、Ségur de la santé*8と銘打つ医療全体会議を立ち上げることを公表した*9。

写真:(写真2)オリヴィエ・ヴェラン連帯保健大臣(フランス連帯保健省)

【コラム】フランスの医療提供体制概観 その1
本稿のテーマである、フランスの医療提供体制改革に関連するいくつかの項目を取り上げて、近年の推移や現状を概観する。
フランスの医療機関は、公立病院を中心とする公的機関及び民間非営利機関*10が機関数でも病床数でも7割前後を占め、中心的役割を担っている(図1 医療機関数の内訳(2018年)、2 病床数の機関種別内訳(2018年))。2013年から2018年にかけて、医療機関数(3,125→3,042)、病床数(41.3万床→39.6万床)とも減少しており、こうした医療提供体制の抑制が、コロナ危機に際して問題とされた。
2018年末時点において、医療関係者は約130万人とされ、約4分の3が公的機関関係者である(表1 2018年末におけるフランスの医療関係者の内訳)。看護師・パラメディカル等の多くも公的機関等の従業員となっている。
看護師・パラメディカルの人員数は近年比較的安定的に推移しており、急激な削減等がみられたわけではない(図3 看護師等の人員数の推移)。
公立病院従業員の報酬に関しては、フランスでも近年絶対額では一定の伸びがみられるところである(図4 公立病院従業員の平均賃金(フルタイム換算)の推移)。
一方で、コロナ危機発生以降の報酬を巡る議論においては、フランスの看護師は、平均賃金対比における報酬水準が国際比較上かなり下位(32か国中28番目)に位置していることが報道などでも取り上げられた*11(図5 看護師(病院勤務)報酬の平均賃金対比(2017年))。
また、公的機関で勤務する看護師、パラメディカル等の報酬は公務員としての俸給表によって決定されている。医療施設の経営状況や労働市場の逼迫度に応じて柔軟に賃金調整がなされないことが彼女/彼らの報酬問題の背景となっていると考えられる*12。

3.セギュール医療全体会議の立上げ
このSégur de la santéと呼ばれる会議(以後「セギュール医療全体会議」)は、2020年5月25日に医療関係者300人程度をビデオ会議方式で招いて第一回会合が開催された。議長には、大手の労働組合CFDTの書記長を務めた経験もあるニコル・ノタ(Nicole Notat)氏が起用され、政府側からはフィリップ(Édouard Philippe)首相(当時)やヴェラン連帯保健大臣が参加した。セギュール医療全体会議は以下の四本柱の事項について検討を依頼された。
<第一の柱>医療関係の職を改善するとともに医療従事者への評価を引き上げる
<第二の柱>医療介護サービスに対する投資・財源調達に関する新たな政策を措定する
<第三の柱>医療組織と医療チームの日常を劇的に簡素化する
<第四の柱>地域における保健分野の関係者を利用者サービスの観点から一つにまとめる
よりかみくだくと、第一の柱が看護師・パラメディカル等の報酬引上げなどの待遇改善、第二の柱が医療分野における財政問題への対応、第三の柱が官僚主義的とされる公立病院などの組織改革・ガバナンス改革、第四の柱が病院・診療所連携などの地域医療機能強化、ということになろう。
第一回会合終了後に記者会見に臨んだフィリップ首相は、中途半端な改革でお茶を濁すことはしないと宣言し、2018年から政府が進めてきた医療改革の方向性は維持しつつ、実施を加速すると説明した。*13
このフィリップ首相の発言からは、2018年に「私の保健2022」を策定した段階で盛り込まれていた改革を貫徹したい、単なる報酬引上げに終わることなく総合的な医療提供体制改革にしたい、という政府側の意思が読み取れる。
公立病院サイドも、例えばイルドフランス圏公立病院グループAP-HP(L’Assistance publique – Hôpitaux de Paris)のトップであるマルタン・イルシュ(Martin Hirsch)氏などは、「ボールは政府の側だけにあるわけではない。今般の改革の成否は、病院関係者がこれまでを省み、硬直性から抜け出し、自己を再発見することができるかにかかっている。一律横並びではなく相違を受け入れる、より大きな自由の代償としての責任を負う、診療所・予防施設との懸け橋を作る、そういったことを意味している。これまでの行動様式や縦割りを残したまま、ただ単に小切手が舞い込むことを待っているだけであれば、改革の効果は持続しないだろう。」などと述べ、総合的な改革を求めている*14。*15

写真:(写真3)ニコル・ノタ議長(本人提供)
写真:(写真4)第一回会合終了後のフィリップ首相による記者会見(Franceinfo)

4.看護師・パラメディカル等の報酬引上げをめぐる綱引きと合意
こうした総合的な改革への望みにもかかわらず、セギュール医療全体会議の議論途上における関係者やマスコミの関心は、やはり看護師・パラメディカル等の報酬引上げの規模に集中した。
ヴェラン連帯保健大臣は2020年6月末の段階で看護師・パラメディカル等の報酬引上げに60億ユーロの予算を充当することを提案し*16、7月入るとこの総額が70億ユーロまで相場が上がってきているとされた。当初、政府はこの金額で妥結し、セギュール医療全体会議の終了を狙っていたものの、労働組合側との合意に達することができず会議終了時期を延ばすこととなったと言われている*17。
7月3日には、フィリップ首相の辞任を受けて後任のカステックス(Jean Castex)首相が就任する。カステックス首相は7月6日に新内閣を組閣(ヴェラン連帯保健大臣は留任)したが、就任当初から精力的にセギュール医療全体会議関連の調整に参画をし、7月7日には、首相自らが増額された75億ユーロを提示した*18。それでも医療関係者側とは合意できず、7月9日には政府側からの提示額は80億ユーロ「以上」に引き上げられた。
最終的には、2020年7月13日に首相府においてカステックス首相・ヴェラン連帯保健大臣と、労働組合側との間で署名が行われる形で、82億ユーロ規模の報酬引上げで合意が成立した*19。これは、象徴的なミクロのモデルケースとしては「公立病院の看護師の報酬を平均月額183ユーロ引き上げることができる規模である」とプレゼンテーションがなされた。

写真:(写真5)ジャン・カステックス首相(Benoît Granier / Matignon)

5.看護師・パラメディカル等の報酬引上げ合意にかかる視点
この合意について、いくつかの視点から見てみたい。
(1)労働組合との関係
第一に、主な交渉相手だった看護師・パラメディカルの労働組合側からも「歴史的な合意」などの声があがった。ただし、合意に署名したのは、交渉のテーブルについていた五つの労働組合のうちCFDT(フランス民主労働同盟)、FO(労働者の力)、Unsa(独立組合全国連合)の三団体であり、より強硬姿勢のCGT(労働総同盟)とSUD(連帯統一民主労働組合)は署名していない(この点が来月号に述べるように2020年秋以降の政策再調整の一因ともなる)。
いずれにしても、1で見たように政府と労働組合の溝が埋まらない(=ストライキが継続する)状況が続いていたコロナ危機発生以前の状況と対比すると、この合意は、双方サイドの一定の歩み寄りを象徴するものであったとも考えられる。危機が仲介を果たす、というのは皮肉のようでもあり、一つの知恵のようでもある。
(2)合意のタイミング
第二に、この看護師・パラメディカル等の報酬引上げに関する合意は、セギュール医療全体会議が発足した時に掲げた四つの柱のうちの第一の柱に関するものであり、他の三つの柱に先立って、単独でなされた。7月14日(le Quatorze Juillet)はフランスの革命記念日であり、毎年シャンゼリゼ通りでの軍事パレードの後、大統領が参加する式典が開催される。2020年は、コロナ危機の影響により、軍事パレードさえ取りやめとなるなど規模が縮小される中、コンコルド広場での開催となった大統領参加の式典には、かなり限定された参列者が招待された。その中に、この公衆衛生危機において多大な献身を捧げたとして、看護師代表などの医療関係者が含まれ、大統領のメッセージの中ではこれら関係者に対する称賛(hommage)が送られた*20。こうした「晴れの場」を前にして、政治的にもっともトゲとなる報酬引上げ規模については事前に決着をしておきたい、という関係者の思いが働いたのだろう、という見方が有力だった。
写真:(写真6)2020年7月14日の革命記念日式典。看護師代表などが招待された。(フランス政府公式写真)
(3)合意の詳細項目
第三に、子細に見ると、「看護師の報酬、月額183ユーロアップ」というプレゼンテーションの表看板に限定されず、医療関係者の報酬引上げの合意内容は多岐の項目にわたっている。以下(ア)~(ウ)がその主要なものとなる*21。
(ア)非医師の医療従事者の報酬改善(総額年76億ユーロ)
●公立病院・介護施設等の非医師の医療従事者の月額報酬を183ユーロ(ネット)増額(民間非営利施設に関しては160ユーロ増額)。150万人相当分。
●看護師・パラメディカルなど患者と接触のある職種に関しては、俸給表上の報酬を勤務年数に応じて改善することを通じて、月額報酬を平均的に35ユーロ(ネット)増額(上記に上乗せ)
●治療の質向上等の観点からチームによる集団的な態勢整備が図られた場合における月額100ユーロの特別手当
●週5時間分の超過勤務に対する5割増しの残業手当(週35時間労働を基準としているので、週40時間労働が上限)
(イ)公立病院の医師の待遇改善(総額年4.5億ユーロ)
●公立病院医師の俸給表に関して、キャリアの終期に3段階の級を上乗せ創設
●公的サービスへの排他的関与手当(IESPE)の月額1010ユーロへの引上げ(グロス)(従来は勤務年数に応じて月493ユーロまたは704ユーロ。10万人の医師が裨益。)
(ウ)インターン生・学生の待遇改善(総額年2億ユーロ)
●インターン生のベース報酬の5%~10%引上げ、宿直手当の25%引上げ
●医療関係職の学生のベース報酬の引上げ(4年生+130ユーロ、5年生+69ユーロ、6年生+109ユーロ)、過疎地域での見習訓練に対する150ユーロの宿泊手当
このように最も世間の耳目を集めた看護師・パラメディカル等の報酬引上げは一応の決着をみた。しかし、セギュール医療全体会議がキックオフした際に示された柱のうち、第二~第四の柱も同等かそれ以上に重要である。往々にしてそうであるように、こうした論点は専門的で地味であるために多くの人々から看過されやすいが、関係者の相当の作業・努力を要するものと考えられる。また、これらの柱にかかる改革の進展なしには、真に体系的な医療提供体制改革とは言えず、単にコロナ危機に直面しての弥縫策的な給付増に堕してしまうおそれもある。
来月号の「医療提供体制改革編・下」では、こうした問題意識を背景としながら、セギュール医療全体会議の結論の全体像を紹介するとともに、その後、今日に至るまでの関連分野における紆余曲折や進展をみることとしたい。

図表.(イメージ1)フランス政府公表のパンフレットに掲載された個人の医療従事者ベースでの報酬改善のイメージ

【コラム】フランスの医療提供体制概観 その2
総合的に勘案した医療ニーズと医療サービスのミスマッチに関して、フランスはスイス・ドイツ・オランダなどには劣後するものの、EU27か国平均よりは良好である(図6 経済的、地理的、時間的理由により医療診療が行われなかった医療ニーズの割合に関する国際比較(2018年))。
各種がんの5年生存率(図7 直腸がん5年生存率の国際比較(2010年–2014年))、慢性疾患の悪化による入院率(図8 成人における喘息・COPDによる入院率の国際比較(2017年または直近))、回避可能な死亡例発生率(図9 予防可能だった死亡例発生率の国際比較(2017年))などを見ても、OECD加盟国等の平均近傍かそれよりも良好なパフォーマンスが示されている*22。
これら医療の質に関するデータなども背景に、コロナ危機発生以前におけるフランスの医療システムに対する自己評価としては、「医療関係支出の効率的な抑制と医療の質の確保を両立してきており世界に誇るべきものだ」というような声が、関係者へのインタビューなどを通じて多く聞かれた。
しかしながら、コロナ危機に際して蘇生病床、マスク、PCR検査、ワクチンなどの供給局面で思わぬ脆弱性を露呈したことで、こうした評価に対する懐疑が生じ、医療提供体制改革について従来の取組みの不十分さ、今後の改革の必要性が多く唱えられるようになったように感じられる。
客観的にみれば、既に2018年の時点で「私の保健2022」という複数年にわたる医療提供体制改革を開始しており、むしろ先回りして脆弱性を取り除く取組みを開始していた、と見ることもできよう。ただ、危機発生時における政府に対する世間の評価は、いつの世においても、平時の備えの薄さ、危機対応の遅さ・不十分さなどに目が向く傾向があるのかもしれない。

※本稿の内容は筆者の個人的見解であり、所属組織の見解を示す
ものではない。


*1)https://solidarites-sante.gouv.fr/systeme-de-sante-et-medico-social/masante2022/
*2)https://www.lequotidiendumedecin.fr/actus-medicales/sante-publique/face-aux-agressions-repetition-les-urgences-de-saint-antoine-ap-hp-en-greve-illimitee
*3)https://solidarites-sante.gouv.fr/actualites/presse/communiques-de-presse/article/agnes-buzyn-annonce-cinq-actions-pour-repondre-aux-difficultes-actuelles-des
*4)https://solidarites-sante.gouv.fr/IMG/pdf/_urgences_dp_septembre_2019.pdf
*5)https://solidarites-sante.gouv.fr/actualites/presse/communiques-de-presse/article/pacte-de-refondation-des-urgences-point-sur-l-avancee-des-mesures
*6)https://www.lemonde.fr/planete/article/2020/05/16/hopital-macron-reconnait-une-erreur-dans-la-strategie-et-annonce-une-concertation-immediate_6039842_3244.html
*7)前任のビュザン大臣は、パリ市長選挙にマクロン大統領率いる共和国前進(LREM)の候補として急遽立候補するために、2020年2月16日に辞任しており、同日、その後任として着任していたのがヴェラン大臣だった(https://solidarites-sante.gouv.fr/ministere/le-ministre-la-ministre-deleguee-et-le-secretaire-d-etat/)。ちなみに、パリ市長選挙には、もともとバンジャマン・グリヴォー(Benjamin Griveaux)氏がLREMから立候補を予定していたが、本人の性的動画がインターネット上に流出した事件を受けて、候補差替えとなった経緯がある。コロナ危機のために延期されたパリ市長選挙の第二回投票は2020年6月に行われ、ビュザン氏は得票率3位で敗退した(現職であり社会党候補であるアンヌ・イダルゴ候補が勝利)。なお、もともと血液専門医であるビュザン氏は2021年の年明け以降、WHOに参画し、テロドス事務局長のもとで官房機能を統括する地位についていると報道されている(https://www.lemonde.fr/politique/article/2021/01/05/agnes-buzyn-quitte-la-politique-francaise-et-rejoint-l-oms_6065275_823448.html)。
*8)連帯保健省はSégur通りに所在している。1968年に政労使が大交渉の末、最低賃金を含む賃金全般の大幅な引上げなどを決めた歴史的な合意は、労働省が所在するGrenelle通りの名を冠してAccords de Grenelleと呼ばれている。「あの歴史的合意であるAccords de Grenelleに匹敵するくらいの合意を目指す保健(santé)版の会議」という含意を込めたのか、この会議体はSégur de la santéと呼ばれるようになった。
*9)https://www.lemonde.fr/economie/article/2020/05/17/olivier-veran-promet-de-meilleurs-salaires-a-l-hopital_6039907_3234.html
*10)民間非営利機関は、教育・研究・救急等の公的病院活動に参加し、公的機関と同様の役割を果たしており、医療費の支払い、施設整備の補助金等に関して、公的病院と同様の取扱いとなる(厚生労働省海外情勢報告2005~2006年)
*11)例えばhttps://www.leparisien.fr/societe/les-infirmieres-francaises-sont-elles-si-mal-payees-17-05-2020-8318796.phpなど。
*12)公務員の俸給の決定方法については、https://www.fonction-publique.gouv.fr/ma-remu/remuneration-tout-comprendre。医療関係者の俸給表のうち、例えばカテゴリーAグレード1の看護師に関するものは、https://www.fonction-publique.gouv.fr/ma-remu/quoi-de-neuf-par-metiers/infirmier-grade-1。
*13)https://www.vie-publique.fr/discours/274563-edouard-philippe-25052020-segur-de-la-sante-systeme-soins-coronavirus
*14)https://www.lesechos.fr/economie-france/social/il-faut-liberer-lhopital-de-ses-carcans-1205263
*15)イルシュ氏は官界の経歴が長いが、この時期、病院の勤務医等も連名で新聞寄稿をし、以下のような項目について総合的な提言を行っている(2020年5月25日付ル・フィガロ紙)。
  ・地方レベルで病院等医療職委員会(Commission médical d’Etablissement)の議長に決定権限や病院運営権限を付与すべき。
  ・診療所・社会医療院・公私の病院等の協同を進めるべき。
  ・医療センター(CH)、大学医療センター(CHU)における不要な入院を制限すべき。
  ・診療所と救急センターの体系的連携によって不要な救急利用を抑制。
  ・将来の感染症蔓延時における、他の治療の継続を可能とする病院施設の在り方の再考や増床の検討。
  ・国の保健関連支出目標は、必要性と見合った規模であるべき。研究や病院への集中的投資は喫緊の課題。
  ・治療行為に関して、疫学的データに基づいた簡素な基準が必要。
  ・不要な支出を抑えるため、医学的公平性を以って治療行為を適切に評価すべき。効率的な社会保障支出管理とともに、歳入の確保が必要。
  ・公立病院の事務負担軽減を通じて、教育と研究に技術・人材を重点化。
  ・診療科の長(Chef de service médical)に率いられた治療チームが大学病院の中心的役割を果たすべき。自治、決定権限、相応の規模そして十分なスタッフが付与されるべき。
  ・デジタル情報システムの簡素化と流動化が必要。
  ・研究者・評価者の独立性確保やCH・CHUにおける研究プロジェクト実施手続きの簡素化が競争力向上に資する。プロジェクトに伴う収入は同じプロジェクトチームに再投資されるべき。
  ・病院における医療関係者の他国水準への報酬増とそれに伴う民間との格差是正が必要。
*16)https://www.lesechos.fr/economie-france/social/segur-de-la-sante-olivier-veran-met-6-milliards-sur-la-table-pour-les-salaires-a-lhopital-1218195
*17)https://www.lefigaro.fr/social/le-segur-de-la-sante-prolonge-faute-d-accord-20200703
*18)https://www.lesechos.fr/politique-societe/gouvernement/en-direct-remaniement-suivez-linstallation-du-nouveau-gouvernement-et-les-passations-de-pouvoir-1221832
*19)https://www.gouvernement.fr/sites/default/files/document/document/2020/07/dossier_de_presse_-_signature_des_accords_du_segur_de_la_sante_-_13.07.2020.pdf
*20)https://www.vie-publique.fr/discours/275250-emmanuel-macron-14072020-covid-19
*21)https://www.gouvernement.fr/sites/default/files/document/document/2020/07/dossier_de_presse_-_signature_des_accords_du_segur_de_la_sante_-_13.07.2020.pdf
*22)本文に紹介した以外の、医療の質にかかる国際比較の各種データについては以下から参照可能。総体として、本文に書いた「フランスの医療の質はOECD加盟国等の平均近傍かそれよりも良好」という評価をはみ出るものではないと考えられる。Health at a Glance 2019 : OECD Indicators | OECD iLibrary (oecd-ilibrary.org)