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巻頭言:SDGs/格差・不平等複雑なテーマだからこそゲームで学ぶ

すなばコーポレーション株式会社 代表取締役社長 門川  良平

絵や言葉、文章、映像…。「人にものを伝える」手法は多種多様です。その中でも、現在私たちの会社で取り組んでいるのは「ゲームで伝える」という方法です。しかも、今時のデジタルゲームではなくアナログなボードゲーム。私自身はベネッセで進研ゼミ小学講座事業に携わった後、公立小学校教員として教壇に立ち、現在は独立起業している立場です。官民通じて小学生年代の学びに関わってきた人間として、ゲームの教育効果に大きな可能性を感じています。昨年から展開しているSDGs学習ボードゲーム「Get The Point(ゲット・ザ・ポイント)」は小学生から大人まで幅広い年齢層の方々に体験いただいています。
「わー!異常気象で植物が減っちゃった…どうしよう…」「動物が絶滅しそうだから、しばらく動物を使うのをやめておこうよ」「リサイクルカードが出て資源が戻ってきた!やったー」これらはプレイ中に実際に子ども達から飛び出してきた言葉。100回以上Get The Pointを活用したワークショップを開催してきた中で、参加した方が「教わる」のではなく、ゲーム体験の中からSDGsの要点を「つかみ取る」、「腹落ちさせる」場面に立ち会ってきました。そして、これこそが教育にゲームを活用する意義だと思っています。
ゲームの良さは主体的な取り組みを前提としていること、そして擬似的な体験を創出できること。「体験・経験」は人間を成長させる大きな要素。中でも「失敗」や「試行錯誤」を重ねることは大切です。Get The Pointを活用したSDGsワークショップの中では、あえて「どん欲に競争してプレイすることで、世界を滅亡させてしまう」という究極的な失敗を経験してもらいます。そして、その失敗を踏まえ、周囲と協力しながら、滅亡する未来を変えるためにどうすれば良いか試行錯誤してもらいます。「競争して滅亡させた世界」と、「協力して持続させた世界」。2つの体験をすることで、参加者の中に自ずと「気づき」が生まれます。
正直、伝達できる知識・情報の「量」という側面では、ゲームよりも講義形式の授業や文章のほうが多いです。しかし、ただやみくもにインプットを促してもSDGsの理解が広がるとは思いません。「自身の体験の中から得た気づき」と知識・情報を結びつけていくことで、単なるインプットではなく「生きた知識」にできると考えています。
現在は別のゲーム開発プロジェクトも進行中です。テーマは「平等性の実現と公共」。あえて不平等な前提条件で、しかもその格差が放っておくと広がっていくゲームシステムのもとで、参加者はどのようなルールを選び取れば「平等性」が実現できるかを考えながらプレイしてもらいます。要するに税制や公共政策の選択をシンプル化したゲームです。現在何度かテストプレイを重ねていますが、Get The Pointとは異なり、良い意味で「モヤモヤ」が残るゲーム体験となっています。平等性の実現は簡単なものではない、しかし、考えて取り組み続けることが大切だと感じてもらえるようなゲームに仕上げていきたいと思っています。
複雑化した課題に向き合うことには二の足を踏みます。だからこそ、ゲームを通じて楽しく取り組んでもらい、その上で簡単な結論に飛びつくのではなく、そこで生まれた「気づきの種」をもとに複雑性に向き合うマインドをもってもらう。そのような体験の場やツールを増やしていくことで、持続可能性や多様性に向き合う担い手育成のお手伝いをしていきたいと思います。