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コラム 経済トレンド85

日本のコンテナ港湾について
大臣官房総合政策課 調査員 深澤  瑛介/川原  竜馬/岡  昂一郎
本稿では、日本のコンテナ港湾について考察を行った。

世界における海上コンテナ輸送の潮流
・近年、市場や生産拠点のグローバル化に伴い、世界各地域において貿易額が大きく増加している。それに付随して、アジアを筆頭にコンテナ取扱個数も増加傾向にあり、リーマンショック直前の2008年から2019年までの約10年間でみても世界の港湾におけるコンテナ取扱個数は1.5倍に増加している(図表1 コンテナ取扱個数の推移)。
・足元では、コンテナ取扱個数増加への対応のために、コンテナ船の大型化が年々進行しており、現在は船長400m、最大積載量24,000TEU(2008年対比2.0倍)の船舶が世界最大の船舶として就航中である(図表2 コンテナ船の大型化の推移)。
・海外の主要ハブ港湾は、大型化するコンテナ船を受け入れるべく港湾の整備・拡張や、外国企業誘致の一環として港湾周辺地での物流団地・産業団地の造成に取り組むなど、自国へ貨物を集積させ、競争力を高めてきた。結果として、一度に受け入れるコンテナ取扱量が増加し、コンテナ輸送の効率化がすすめられている(図表3 岸壁の整備水準(2018年)(水深16m級バース総延長/コンテナ取扱量))。

日本における港湾情勢の変遷
・日本の港湾を見てみると、日本の各港湾におけるコンテナ取扱貨物量はほぼ横ばいであり、上海を筆頭とした他のアジア主要港の伸びに比べると見劣りする(図表4 世界の主要港湾のコンテナ取扱貨物量の推移)。
・かつては、日本が世界の中で製造業の大きな生産拠点であったこともあり、神戸港や京浜港は世界でも有数の主要コンテナ港湾であった。しかし、次第に日系企業の海外進出が進み、生産拠点が中国やASEAN地域へ徐々にシフトしたことで、日本の港湾に自然と貨物が集まる環境ではなくなってきてしまった(図表5 製造業の海外生産比率の推移)。実際に世界の港湾ランキングで見ても、順位を大幅に落としている(図表6 世界の港湾ランキング)。
・その流れの中で、基幹航路船の日本の港湾への寄港数が減少し、周辺国の主要港湾へシェアを奪われていった。特に日本と立地面で競合する釜山港が伸びている一方で、京浜港および阪神港は右肩下がりなことが見て取れる(図表7 周辺国の主要港湾における基幹航路の寄港数の推移)。

国内港湾の抱えるリスクと近年の動き
・基幹航路船の寄港数が減少すると、日本から輸出される製品は釜山港等外国のハブ港湾にてトランシップした上で目的地へ輸送される比率が上昇する。その結果リードタイムが長期化し、日本の製造業の競争力も低下してしまうリスクが生じる(図表8 日本企業のリードタイム短縮に対するニーズ)。
・基幹航路船の寄港数が伸びてきている釜山港は、1990年代から国策によりコンテナバースの拡充や、港湾の入港コスト優遇、港湾周辺地の開発による外国企業誘致を実施し、コンテナ船の呼び込みを図ってきた(図表9 釜山港の港湾拡張政策の流れ、図表10 釜山港の入港優遇措置)。
・日本においても、2009年に国際コンテナ戦略港湾政策に基づき阪神港・京浜港を選定して以降、とん税優遇・物流団地整備といった施策をもとに港湾の競争力向上を図ってきた(図表11 京浜港と外国港湾の入港コスト比較(2006年時点)、図表12 とん税及び特別とん税の特例措置)。基幹航路船の京浜港寄港数増加など一時的な結果は表れてきているものの、定期寄港は実現しておらず、現時点では施策の効果が十分に表れているとは言い難い。

効率化に向けたデジタル標準化プロジェクト
・世界全体における海上コンテナ物流網に目を向けると、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う“巣ごもり需要”の拡大などで発生した、港湾混雑・コンテナ船の沖待ちにより、輸送遅延の状態が生じてきた。それによって輸送リードタイムが延びたことで、在庫積み増しや緊急輸送による物流コスト増加が生じている(図表13 Los Angeles/Long Beach港混雑状況)。
・近年、コンテナ船業界では、業務効率化などを目的にサプライチェーンのIT化に向けた取り組みが国ごとに進行している。例えば、韓国では政府機関も加わり、ブロックチェーンを活用し、IT化を進めており(図表14 諸外国の港湾のIT化の事例)、日本でも2021年4月から港湾物流の業務効率化を目指す「港湾関連データ連携基盤(サイバーポート)」の本格稼働を開始している(図表15 日本のIT化の事例)。
・また、海上コンテナ物流網全体の効率化のために、国際貿易プラットフォームの開発や貨物追跡システムの標準仕様モデルの構築などの、船会社や港湾運営会社等を含めた業界横断的なデジタル標準化プロジェクトが並行して進んでいる(図表16 標準化に向けた取り組み)。今後、日本においては、大手船会社だけでなく、港湾運営に関する業務を一元的に担う港湾運営会社を筆頭に、当該プロジェクトへの参入者が増加することで、海上コンテナ輸送の効率化が進み、日本の港湾のプレゼンス維持が図られることを期待したい。
(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。