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新米課長補佐の目から見る激動の国際情勢(第2回)―2020年米国大統領選挙の波乱と米国社会の分断―

国際局地域協力課国際調整室 庄中  健太

2021年1月20日、現職大統領が欠席という異例の事態の中、バイデン新大統領の就任式が行われた。型破りな言動を繰り返すトランプ大統領、コロナパンデミックを受けた郵便投票の増加、前代未聞の議事堂襲撃事件―2020年の米国大統領選挙はまさに波乱尽くしであった。両候補の一挙手一投足に世界中が注目する中、米国の政治・経済情勢の分析を主要業務の一とする財務省国際調整室もこの煽りを免れず、種々シミュレーションを行いながら、日々新たな資料を作成・更新していた。
今回はそんな波乱万丈の2020年米国大統領選挙を振り返りつつ、米国の選挙制度について概説し、当該選挙を通じて改めて露呈した米国社会の深刻な分断についても敷衍していきたい*1。

1.2020年米国大統領選挙の展開
2020年の米国大統領選挙では、共和党の現職大統領ドナルド・トランプと民主党オバマ政権時の副大統領ジョー・バイデンが熾烈な戦いを繰り広げた。
共和党内ではトランプの影響力は絶大であり、しばしば「トランプ党」とも呼ばれていた。対して民主党は一枚岩ではなく、実際、予備選挙においても、大統領候補が一本化されるまで時間を要した。これは米国社会の分断の根深さと、バイデン当選後の民主党内の亀裂を予兆していた。
今回の大統領選挙において、トランプは、SNSを活用して虚実混交の放言を重ね、それは民主主義のレジティマシーすら脅かしかねない様々な危機を生じさせた。
まず、こうしたトランプの軽忽な発言に端を発する、大統領選挙に向けて実際に危惧された(半分冗談のような)懸念事項について紹介する。

コラム1:大統領選挙≠大統領を選ぶ選挙
時は遡り2016年11月9日未明。第58回米国大統領選挙の結果、民主党候補のヒラリー・クリントンは史上最多得票を獲得し、共和党候補のトランプを300万票近く上回った。―しかし、勝ったのはトランプであった*2。
いわゆる米国大統領選挙(一般投票)は間接選挙であり、大統領を選ぶ選挙ではなく、各州に割り当てられた「選挙人」を選ぶ選挙であることは広く知られている。選挙人の総数は538名であり、これは連邦議会議員の定数(上院100、下院435)*3の合計(535)に3を足した数に一致する。各州の連邦議会議員(上院+下院)の選出数を選挙人の数として各州に割り当てることになっているからである。例えば、全米で最大の人口を有するカリフォルニア州は、上院議員2名、下院議員53名、計55名の連邦議会議員を有しているため、選挙人の数も55名となる。では3はどこから来たかと言うと、コロンビア特別区(ワシントンDC)で、3名の選挙人を有している*4。
この538名の選挙人のうち過半数、つまり270名の票を獲得した者が大統領に選ばれることになる。選挙人は原則として勝者総取り(winner-take-all)*5方式であり、例えば、ある州において1票でもA候補への得票が多ければ、当該州の選挙人は全員A候補に投票することになる*6。総得票数で負けているトランプが勝利したのは、まさにこの勝者総取り方式の中において、選挙人獲得数でクリントンを上回ったためである。

懸念1:郵便投票の増加
米国では2020年3月以降、新型コロナウイルスの感染拡大による甚大な被害が生じており、感染予防のために郵便投票*7の利用を拡大する州が増加していた(右表参照)。また、民主党の支持基盤である黒人や中南米系の有権者は投票率が低い傾向にあるため、郵便投票の拡大によって投票率が上がればトランプ陣営に不利に働くとの懸念が生じていた。こうした背景もあり、トランプは登録有権者*8が理由なく一律に郵便投票用紙を受け取る制度は不正を招くとし、全有権者に郵便投票を認めるとした州を違憲として提訴*9する等、郵便投票の不当性を主張した。

図.郵便投票の類型(2020年11月3日時点)

コラム2:裁判所が決した勝者
時は遡り2000年12月12日。第54回米国大統領選挙の投票日(11月7日)から1か月以上が経過してようやく、共和党候補のジョージ・ブッシュ(当時テキサス州知事)の勝利が確定した。
民主党候補のアル・ゴア(当時ビル・クリントン政権副大統領)は、ブッシュの当確速報を受けて11月8日未明に敗北宣言を発したものの、フロリダ州(25票)での得票差が僅差*10であったため、直後に撤回した。フロリダ州以外の票数はほぼ互角で、フロリダ州を制した者が大統領に当選するという状況の中、ゴア陣営は機械による集計方法に不服を申し入れ、フロリダ州最高裁は訴えのあった特定の地区での手動の再集計を決定した。これに対し、ブッシュ陣営は、地区によって異なる基準で集計することは平等保護*11に反するとして連邦最高裁に上告した*12。選挙人を決定する最終期限*13とされる12月12日、連邦最高裁は5(保守)対4(リベラル)*14でブッシュ陣営の主張を認め*15、手作業による再集計を命じたフロリダ州最高裁の決定を破棄したことで判決が確定し、フロリダ州議会はブッシュ側の選挙人団の任命を決定した*16。
ゴアは「裁判所の判断には断固反対するが、私はこれを受け入れる」とコメントし、二度目の敗北宣言を行った。

また、郵便投票の制度は州によって区々であり、集計の混乱も予想された。例えば、郵便投票の締切について、投票日(11月3日)を必着とする州もあれば、それ以降に届いた票についても(投票日までの消印を有効として)集計の対象とする州もあり、さらに開票日前の開封や署名確認といった事前処理の有無、集計開始日等についても州毎に異なっていた。加えて、手作業で封筒を開け署名照合を行うことで、結果確定が遅れる可能性や、無効と判断された票をめぐって訴訟が相次ぎ、結果確定までの混乱の中でトランプが一方的に勝利宣言するのではないか*17との憶測も飛び交った。

懸念2:大統領選日程延期への言及
2020年7月末、トランプは郵便投票で不正が起こるとの疑念から、テレビ番組や自身のSNSで大統領選の延期を示唆するメッセージを発信した(下図参照)。
写真:2020年7月30日のトランプのツイート。郵便投票の導入により、「2020年(の大統領選挙)は史上最も不正確で詐欺的な選挙になる」とし、大統領選挙の日程延期を示唆している。(出典:Twitter ※現在トランプのアカウントは削除されている)
合衆国憲法上、大統領の任期は4年(2期まで*18)と定められており、連邦法上、大統領選挙日は「11月の第1月曜日の翌日の火曜日*19」と定められている。また、大統領には選挙の延期に関する権限はなく、これを実現するには法改正を要するが、議会は下院を民主党に奪われている上に、トランプの根拠のない妄言には共和党内からも反発が強く、実現するべくもなかった*20。

懸念3:「居座り説」
2020年7月末、トランプはテレビ番組で大統領選挙の結果を受け入れない可能性を問われると、「イエスともノーとも言えない」と含みを持たせた回答をしたことから、選挙に敗北しても結果を「不正」として受け入れず、大統領の座から降りないのではないかという「居座り説」がにわかに取り沙汰された。トランプ陣営が選挙結果に納得しない場合、国家安全保障上の「緊急手段」を理由に選挙結果を調査する等、「選挙を盗む」のではないかとの噂が囁かれた。
2020年8月下旬 民主党・共和党の全国大会
選挙戦は同年8月下旬に行われた民主党・共和党それぞれの全国大会を皮切りに本格化した。民主党はバイデンを大統領候補、カマラ・ハリスを副大統領候補として正式に指名し、共和党は現職のトランプ大統領、マイク・ペンス副大統領をそれぞれ指名した*21。特に、「Black Lives Matter」(BLM)運動に見られるような人権問題に対する関心が高まっていたこともあり、女性で有色人種*22のハリスの指名は注目を集めた。
2020年9月18日 ギンズバーグ連邦最高裁判事の死去
9月18日、ルース・ギンズバーグ*23連邦最高裁判事が死去した*24。米国の最高裁判事は終身制であり、欠員が生じた場合は大統領が後継を指名することとなっているため、時の政権が数十年単位で影響力を残すことができる。翌週、トランプは新たな判事としてエイミー・バレット(当時48歳)を指名した。当時、最高裁判事の構成は保守派5名・リベラル派4名(計9名)であったが、リベラル派のギンズバーグの代わりとして保守派のバレットが承認*25されれば、その構成は保守派6名・リベラル派3名となり、司法の保守化が鮮明となる。特に、11月には国民保険制度改革法(オバマケア)存続の是非を巡る審理が予定されていたことから、民主党は保守派のバレットがこれを違憲と判断することを警戒し、新たな大統領の下で民意を反映した最高裁判事が指名されるべきだと主張した。トランプは今回の大統領選が2000年選挙のように最高裁によって決着する(コラム2参照)可能性にも触れ、選挙前の承認に拘った。結果として、10月26日、連邦議会上院(共和党多数)は、賛成52、反対48でバレットの連邦最高裁判事就任を承認した。

コラム3:ロバと象の変遷
米国は現在、民主党(Democratic Party)と共和党(Republican Party)の二大政党制である*26。民主党のイメージカラーは青で、ロバをシンボルとする(注48参照)のに対し、共和党は赤で、象をシンボルとする(下図参照)。また、共和党にはGOP(Grand Old Party)という略称があるが、“Grand Old”というわりに、歴史的には民主党より新しい*27。
民主党は1828年に設立され、アンドリュー・ジャクソン(第7代)を支持し、奴隷制の維持を望む西部・南部の独立自営農民がそのように名乗り始めたのが始まりとされる。それに対し、共和党は奴隷制の廃止を理念に掲げ、北部の資本家を支持基盤として1854年に結党した。共和党が輩出した最初の大統領は、南北戦争を指揮し奴隷解放宣言を行ったエイブラハム・リンカーン*28(第15代)である。この点、現在の民主党・共和党の支持基盤やイデオロギーとは異なっている。
本来、南部の白人を中心とする保守政党であった民主党は、1929年の世界恐慌を契機に、フランクリン・ルーズベルト(第32代)が「ニューディール」と呼ばれる経済政策を打ち出す。ニューディールによって政府が社会経済に積極的に介入し、労働者の権利保護や差別撤廃等のリベラル的政策を推進した結果、貧困層や人種的マイノリティに支持が広がっていった。対して、共和党はドワイト・アイゼンハワー(第34代)以降、かつての民主党支持基盤である南部の白人保守層へ働きかけ、中絶の禁止等を支持するオールドライト・宗教右派を取り込んでいったことで、従来の支持基盤が逆転していった。それでも、戦後しばらくは両党ともに保守からリベラルまで幅広い勢力が混在しており、超党派での協働が多く見られた。しかし、1970年代以降、民主党はリベラル、共和党は保守として分極化が進行*29し、イデオロギー的な対立を深めていった。
また、人口動態に着目すると、米国における白人人口は今世紀半ばには50%を下回るとされる。民主党支持基盤である人種的マイノリティは、白人に比して人口増加ペースが著しいことや、若年層ほどリベラル志向が強いことから、今後民主党の支持が拡大していくことが示唆される*30。
写真:民主党のロバ、共和党の象

2020年9月29日 「史上最悪の討論会」
9月29日に実施された第1回テレビ討論会は、トランプ政権の新型コロナ対策や、人種問題、最高裁判事の任命問題等がテーマとされたが、トランプがバイデンの話を度々妨害したり、両候補が互いに挑発や侮辱を繰り返す泥仕合*31となった。これは「史上最悪の討論会」*32と酷評され、米国の分断を象徴するかのようなイベントであった。
各種世論調査の結果ではバイデンに軍配が上がったが、これは討論の中身が評価されたのではなく、トランプの自殺点があまりに大きすぎたためと言える。バイデンは討論会を振り返り、トランプ大統領の態度を「国の恥」と罵った。
なお、トランプは討論会の場でも(従来の集計ではなく)連邦最高裁による票の確認を期待すると発言し、郵便投票で不正が行われる可能性があり、その場合は結果を受け入れられないと明言したため、「居座り説」が現実味を帯び始めた。
2020年10月2日 トランプ大統領の新型コロナ感染発覚
討論会直前の9月26日、ホワイトハウスで行われたバレットの最高裁判事指名行事にて、新型コロナの集団感染が発生していた*33。討論会翌日の30日、ヒックス大統領顧問の陽性が判明すると、10月2日にはトランプ大統領夫妻の陽性も判明した。この結果、予てより新型コロナの感染リスクを過小評価していたトランプの支持率が低下し、バイデンとの差が拡大した*34。さらに、同月15日に予定されていた第2回討論会が中止*35となったほか、共和党上院議員に3名(うち2名は上院司法委員)の感染者が出たことでバレットの最高裁判事承認プロセスが難航する懸念*36が生じる等、影響は多方面に及んだ。

懸念4:議会投票による大統領選出
テレビ討論会での「居座り」容認とも取れるトランプ発言や、新型コロナ感染後のトランプ大統領の支持率下落を受け、大統領選挙を目前にして、米リベラル系メディア(と財務省国際調整室)を中心に、トランプ陣営が選挙の不正を主張することで議会投票に持ち込む懸念や、大統領の任期が切れた後もトランプがホワイトハウスに居座り自らの正当性を主張するといった可能性が取り沙汰されていた。
2020年大統領選挙は、一般投票が11月3日、各州の選挙人による投票日が12月14日となっており、この間に各州は選挙結果を確定し、どちらの陣営の選挙人を選出するか決定する必要があった。ただし、郵便投票増加による集計の長期化や訴訟の頻発等によって、選挙人団が投票日までに明確に確定しない州が出る可能性も考えられた。

[ケース1]過半数未達シナリオ
いずれの候補の得票も過半数(270名)に満たない場合*37、1月に新たに開始される連邦議会下院が大統領を選出することになっている*38(コラム4参照)。連邦議会下院は民主党が多数を占めていたが、各州1票との規定を考慮すると共和党が優位になると考えられた*39。仮に下院での投票によってトランプが過半数(26票以上)を獲得した場合、トランプの大統領続投が確定する。(下院にて過半数を獲得する候補がいなかった場合は、上院が副大統領を選出する*40。上院投票で過半数(51票)を獲得した者が副大統領となり、1月20日正午のトランプ大統領の任期満了*41と同時に、不在状態の大統領を代行する*42。なお、上院投票においても過半数に達する者がおらず副大統領が定まらない場合は、トランプ大統領の任期満了と同時に、下院議長が大統領代行を務める*43。)
[ケース2]重複投票シナリオ
確率がゼロではない他の可能性として、民主党・共和党両方の選挙人団がそれぞれ連邦議会へ票を送付*44し、連邦議会において選挙人票の正当性が争われるというシナリオも考えられた。選挙人票が1月6日の連邦議会両院合同会議において開票される際、上院議長(ペンス副大統領)が票の集計を行うことになっている*45。そこでペンスが共和党の選挙人票を合法とみなし民主党の選挙人票を退ければ、トランプ大統領・ペンス副大統領の続投が決定する*46。
こうしたシナリオを想定し、民主党のナンシー・ペロシ下院議長は、大統領選挙の混乱によって結果が議会投票に持ち込まれることに備え、同日に実施される連邦議会下院議員選挙において議席数を積み増す必要性を訴えていた。

コラム4:議会が決した勝者
時は遡り1824年。当時連邦議会における唯一の政党であった民主共和党から4人の候補者が大統領選に出馬していた。同年11月に行われた選挙人選挙の結果、アンドリュー・ジャクソンが最も多くの選挙人得票数を獲得したが、過半数を獲得することができなかった。この場合、憲法修正第12条に基づき、連邦議会下院が1州1票をもって大統領を選出することとなる(注38参照)。翌1825年2月9日に下院による臨時選挙が行われ、ジョン・クィンシー・アダムズが過半数の票を獲得し、第6代大統領に選出された。これは憲法修正第12条の成立以降、議会によって大統領が選出された初めての(そして現在のところ唯一の)例であった。
なお、敗れたジャクソンは、次期大統領選挙(1828年)では民主党候補として現職のアダムズ(国民共和党)を破って捲土重来を期し、第7代大統領に就任している*48。

写真:アンドリュー・ジャクソンが印刷された20ドル紙幣

2020年11月3日 投開票日
11月3日、第59回大統領選挙(及び連邦議会上院・下院議員選挙)の投開票が行われた*47。
開票後の動きは、概ね事前に想定されていたシナリオ通りに進展した。投開票日の翌日になっても大統領選挙の結果は判明せず、郵便投票の開票が進むのを見守る展開となった。トランプは4日未明、早々に勝利宣言を発すると、バイデンも「勝利は明白」と応報した。また、トランプ陣営は投票日を過ぎた票集計の差し止めを求めて立て続けに法廷闘争を仕掛けた。
多くの激戦州で接戦が続き、当選判明が遅れたが、開票日から4日後の11月7日、バイデンがペンシルベニア州での勝利を確実にしたとして、CNN等の主要メディアが一斉にバイデン当選を報じた。結果として、民主党が前回選挙で共和党に奪われたラストベルト地域*49を全て奪還し、また従来共和党の地盤であったアリゾナ州やジョージア州等も制した*50ことで、最終的な選挙人獲得数はバイデン306名、トランプ232名となった。
2.大統領選挙後の出来事
大統領選挙後の政権移行についても混迷を極めた。選挙結果が判明した後もトランプは自らの敗北を認めることはなかった*51。トランプは一般投票後も選挙結果を不正として受け入れず、SNS等を通じて選挙の正当性を否定する発言を繰り返した。
同時に、トランプ陣営は「不正投票」が行われたと客観的根拠のない主張を展開し、複数の州で選挙結果の無効を求める訴訟を連発した。裁判が長引けば、各州の選挙結果認定及び選挙人指名の期限である12月8日(セーフハーバー期限(注13参照))までに結果が確定せず、同月14日の選挙人集会において正規の選挙人が投票できないリスクも懸念された。しかしながら、こうした裁判はその殆どにおいて「根拠がない」として訴えを棄却され、トランプ陣営が選挙結果を覆すことはできなかった*52。
2021年1月6日 議事堂襲撃事件
年が明けて2021年1月6日、選挙結果に基づいた新たな議席をもって、連邦議会(第117回合衆国議会*53)が開始された。この日は上院議長であるペンス副大統領を議長とする上下両院合同本会議が開催され、選挙人による投票の集計を行い、次期大統領として民主党候補のバイデンを公式に認定することになっていた*54。他方、トランプはSNSで「副大統領は不正に選ばれた選挙人を拒否する権限を持つ」と発言する等、ペンスが結果認定を取り消すか、結果を変更すべく各州に差し戻すよう要求していた。
この日、トランプはホワイトハウス付近で行われた支持者らによる抗議集会に参加し、「選挙は盗まれた」「我々は戦う」等と演説をして支持者らを扇動し、選挙人投票の集計が行われている連邦議会議事堂へ向かうよう呼びかけた。暴徒化した一部支持者らは議事堂内に侵入し、ペンスによる選挙結果認定のための議事を妨害した。結果として、警察官を含む5名が死亡するという前代未聞の暴動に発展した*55。
写真:連邦議事堂に侵入したトランプ大統領の支持者たち(出典:AFP)
2021年1月13日 トランプ大統領の弾劾訴追
議事堂襲撃事件を受けて、1月12日、連邦議会下院は憲法修正第25条*56に基づき、ペンス副大統領にトランプ大統領の解任を求める決議案を可決した。ペンスは、当該規定は懲罰の手段でなく、徒な適用は社会の分断や対立の激化を煽るとしてこれを拒否した。これに対し民主党側は、翌13日、トランプが暴動を扇動し、民主主義に対する前代未聞の騒乱を招いたとして連邦議会下院に弾劾訴追決議案を提出し、過半数を占める民主党の賛成によりこれを可決した*57。これにより、トランプは米建国史上初めて、在任中に2度弾劾訴追された大統領となった*58。
2021年1月20日 バイデン新大統領就任式
ワシントンDC、数日前の痛々しい記憶が残る国会議事堂前で大統領就任式が執り行われた。しかし、そこにトランプの姿はなかった*59。現職大統領の就任式欠席は、アンドリュー・ジョンソン(第17代)以来152年ぶり*60であった。
1月20日正午、憲法の規定に基づき、バイデンは第46代大統領に就任した(注41参照)。宣誓を終え就任演説に臨んだバイデン新大統領は、「結束」(unity)という言葉を繰り返し用い、分断が進んだ米国社会の修復を呼びかけた。ハリス副大統領を含め、就任式に参加した多くの女性は紫色の服を着用していた。これは、民主党の青と共和党の赤を混ぜた色であり、新しい政権における米国民の結束を象徴するものであった。
2021年2月13日 トランプ前大統領の弾劾裁判
下院による弾劾訴追を受け、連邦議会上院は2月13日、トランプ前大統領の弾劾裁判を行った*61。結果は有罪57票、無罪43票で無罪評決となった。共和党員から7名の造反者が出たが、有罪評決に必要な3分の2(67票)*62には届かなかった*63。閣僚らの人事承認や追加経済対策法案の成立を急ぐ*64バイデン政権は弾劾裁判の長期化を懸念し、実質審理は5日間と異例の短さとなった。無罪評決後、トランプは「米国を再び偉大にする歴史的な運動は始まったばかり」と復権に意欲を示した*65。
3.米国政治の展望
深まる米国社会の分断
2020年の米国大統領選では、バイデンが結果的に史上最多得票(8,100万票)を得て現職大統領のトランプに勝利した。ただし、トランプに対しても過去の全大統領候補の歴代最多得票*66を超える7,400万票が投じられた事実は重く、米国における社会的分断の深刻さを物語っている。また、今回の大統領選挙と同時並行でBLM運動が社会問題として盛り上がりを見せる一方、「プラウドボーイズ」と呼ばれる極右集団や「Qアノン」といったトランプを支持する陰謀論者らも勢力を伸ばし、米国世論の分断が改めて顕在化した*67。
もっとも、米国の分断・二極分化はトランプ以前から指摘されており、トランプが分断を招いたというよりは、分断が深刻化した結果としてトランプが支持されたと言える。議会政治においては、民主党・共和党間のイデオロギー的対立は1970年代以降徐々に激化し、対話や妥協を重視する議会政治からは次第に遠ざかっていった(コラム3参照)。加えて、近年は有権者においても分極化が見られ、時代を経るにつれ一貫したイデオロギー的立場を取る層が増加している(下図 民主党と共和党のイデオロギー的分極化の進展参照)*68。
このように、米国社会の亀裂は根が深く、人種やジェンダー間における社会の溝は政権交代のみによって容易に埋められるものではない。

コラム5:トランプ現象は一過性か?
トランプは「米国第一主義」のスローガンの下、保護主義や反不法移民政策を掲げ、グローバリゼーションによって拡大した貧困・格差に不満を持つ白人労働者層を中心に支持を得ていた。公職経験がなく、歯に衣着せぬ物言いをするトランプに人々は狂信し、「トランプ主義」は社会現象にもなった。
世界に目を向けると、英国のジョンソン首相、フランスのルペン国民連合党首、ハンガリーのオルバン首相等、大衆の不満を吸い上げ、過激な発言を繰り返し、反グローバリズムを掲げる、「ポピュリスト」とも称される政治家が台頭している。トランプもこうしたグローバリズムに対するアンチテーゼ的な文脈で頭角を現し、白人労働者層の支持を取り込んだ。内政では反不法移民政策として、メキシコとの国境の「壁」の建設を進め、外政ではTPP、パリ協定、イラン核合意といった国際的な枠組みから次々と離脱し、中国に対しては累次の制裁関税を課す等、保護主義・孤立主義を強めていった。
増え続ける移民に対する反感や、ポリティカルコレクトネスに対する反発、さらに経済的苦境に立たされた反エスタブリッシュメントの不満の受け皿として、「トランプ」は引き続き待望され得る。今回の大統領選挙ではバイデンが勝利したものの、半数近くの投票者がトランプを支持したことは、今後息の長い現象として「トランプ主義」が米国を席巻し、社会の分断が維持されることを示唆しているかもしれない。米国の根深い格差・分断が解消されない限り、「トランプ」が再び現れる蓋然性は高い*69。

トランプvs反トランプ
今回の大統領選挙をより実態に即して表せば、それはトランプ対バイデンではなく、トランプと「反トランプ」の戦いであった。カリスマ性がなく新鮮味にも欠けるバイデンに対し、人種、世代、性別を超えて多くの支持が集まったことは、社会の分断を煽り、民主主義の正当性を脅かさんとするトランプ政権が続くことへの危機感ゆえと考えられる。バイデンは本大統領選挙をトランプ政権の信任投票と位置づけ、中道リベラル以外にも、無党派層、共和党穏健派、民主党左派(プログレッシブ)といった幅広い層が「打倒トランプ」で結束し、バイデンを支えた。ただし、裏を返せば、バイデンの支持者は「反トランプ」という一点を除けば「烏合の衆」である。そのため、バイデンは民主党内の求心力維持のために議会プログレッシブ*70の意見を取り入れる必要があり、他方で左派寄りの政策が目立てば中道派の支持が離れていくというジレンマに直面する。「打倒トランプ」の目的を遂げた以後は、この絶妙なバランスを保った難しい舵取りを迫られている。
バイデンの議会運営
大統領選挙におけるバイデンの勝利に加え、連邦議会選挙についても上下両院で民主党が制したことで、2009年のオバマ政権(1期目)以来となる「トリプルブルー」の構図となった。下院は、民主党が220議席と定数(435議席)の過半数を超えている(2021年6月15日現在)。また、上院(定数100)は、議席数は民主党・共和党ともに50議席で拮抗しているが、この場合、上院議長(ハリス副大統領)がタイブレーカーとして決裁票を投じるため、実質的に51対50で民主党多数となる。
議事妨害(フィリバスター)
ただし、上院での議決について、共和党は「フィリバスター」(filibuster)と呼ばれる議事妨害による審議引き延ばし戦術を用いることで、実質的な拒否権行使が可能となる。討論の徹底や少数意見の尊重といった観点から、上院には発言時間の制限が設けられておらず、野党は延々と演説を続けることで与党による採決を阻止できる*71 *72。討論を終了させて採決に持ち込むためには、審議打切りを決める「クローチャー動議」(cloture motion)を行う必要がある。しかし、そのためには5分の3以上の賛成が必要となり、実質的に可決ラインが60票まで引き上がる*73。したがって、バイデン政権は、民主党が上院で50議席を確保しているにも関わらず、原則として共和党の協力なくして法案を成立させることができず、議会との対話や調整が必要となる。
財政調整措置(リコンシリエーション)
他方、特定の税制、支出、債務上限に関する法案を迅速に審議するための措置として、「財政調整措置」(reconciliation)*74と呼ばれる手段がある。財政調整措置を用いる際は審議時間が20時間までに制限されるため、フィリバスターを回避し、単純過半数の賛成で法案を可決することができる。ただし、財政調整措置の対象は実質的に財政・税制等に限定*75されており、また、使用回数についても、歳出、歳入、債務上限の3つのカテゴリーごとに、1つの予算決議につき1回ずつまでとされる*76。なお、財政調整措置の使用可否については上院の議事運営専門委員(parliamentarian)*77が解釈・判断することとなっており、強硬手段として上院議長(副大統領)はこの判断を覆すことができるが、慣例的にこれに従っている。
実際、バイデン政権における1.9兆ドルの経済対策である「米国救済計画」については、共和党の反対を押し切って財政調整措置によって可決したものの、当初案に盛り込まれていた最低賃金の時給15ドルへの引上げについては、議事運営専門委員の裁定を受け断念している*78 *79。また、法人税率の引上げ等を含む長期の経済再生プラン(「米国雇用計画」、「米国家族計画」)についても、内容を見直しつつ2022会計年度の予算として超党派で通過させるか、共和党との衝突を辞さず2022会計年度の財政調整措置で決議する必要がある。

コラム6:「核オプション」
時は遡り2017年4月。ドナルド・トランプ(第45代)はニール・ゴーサッチを最高裁判事に指名した。しかし、当時共和党は上院に52議席しか有しておらず、クローチャー動議に必要な60議席を確保できていなかったため、当該人事案の採決は民主党のフィリバスターによって阻止される公算となった。このため、共和党のミッチ・マコネル院内総務は上院規則そのものを変更*80するための採決を提案し、過半数の賛成で可決された。これにより民主党のフィリバスターは無効化され、ゴーサッチは過半数の賛成*81をもって承認された*82。
上院規則の変更によるフィリバスターの阻止については過去にも検討されたことはあるが、議会政治の伝統を破る「禁じ手」であり、その効果の大きさ及び実際に行使されることはないと考えられていることから、核兵器の使用に準えて「核オプション」(nuclear option)と呼ばれる*83。この時、共和党は実際に「核オプション」を用いたことで、超党派合意の精神を放棄し、少数派の権利を奪ったとして糾弾され、党派対立が一層深刻化した。

バイデンの今後の政権運営
上述の通り、トリプルブルーを達成した民主党だが、バイデンの政策実現は依然容易でない。連邦制を根幹とし、中央政府による強権を是としなかった合衆国憲法の建国当初からの精神が今も機能しているともいえる。伝統的に「弱い」権限しか持たない米国大統領制の中で、バイデンは共和党のみならず民主党左派とも折り合いをつけていく必要がある。強硬策に打って出ても議会の協力が得られなければ政策が推し進められないどころか、対立を深めればテクニカルデフォルトや政府機関閉鎖等の危機に晒される可能性もある。バイデンは今後も「結束」(unity)を重視し、強引な議会運営は避けると考えられるが、その中でどこまで「中道リベラル」と呼ばれる自らの政策を実現させ、米国の深刻な分断を解消することができるのか、公私にわたり様々な苦労を重ねてきた歴代最高齢大統領*84の手腕に世界が注目している。

筆者略歴
庄中  健太(しょうなか  けんた)
財務省国際局地域協力課国際調整室 課長補佐
2013年財務省入省。主計局、高松国税局、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局を経て、北京大学、イェール大学に留学。2020年7月より現職。国際調整室では欧米等先進国の政治・経済情勢の分析、財政当局の二国間協議等を担当。

*1)本稿における意見は筆者個人の見解であり、所属する組織を代表するものではない。
*2)下馬評を覆し、当初泡沫候補と目されていたトランプが、本命候補と見られていたクリントンを制し、大統領選挙に勝利した。
*3)上院は人口に関係なく各州2議席ずつ、下院は人口に比例して1議席以上の定数が割り当てられる。
*4)コロンビア特別区についても人口に比例した選挙人が割り当てられるが、選挙人数が最も少ない州(3名)を超えないこととなっているため。なお、コロンビア特別区は下院議員を1名輩出しているが、プエルトリコ等の海外領土選出議員と同様に議決権を有さず、定数の435には含まれない。
*5)得票数に応じて選挙人数を比例配分するメーン州及びネブラスカ州を除く。
*6)候補毎に当該候補に投票することになっている選挙人団が存在し、勝利した候補の選挙人団が選挙人投票で投票することになる。ただし、自身が投票すべき候補に投票しない「不誠実な選挙人」(faithless voter)が生じる可能性もある。
*7)米国では恒常的に軍隊が海外に派遣されていることもあり、全50州が不在者投票の手段として郵便投票を認めているが、従来は投票できない理由がある場合のみ利用する代替手段として用いられていたのに対し、2020年の大統領選においては、新型コロナ感染予防のため原則郵便投票として全有権者に投票用紙を郵送する州が増加し、また、多数の州において「感染の懸念」が郵便投票の理由として認められるようになった。
*8)米国においては、有権者の資格を得るためには居住地において有権者登録を行う必要がある。
*9)8月4日、トランプ大統領陣営と共和党は、ネバダ州が州内全ての有権者に郵便投票を認める法案を成立させたのは違憲として提訴。ネバダ州の新法が「郵便投票の消印がなくても投票日から最大3日後までの票を認めることを義務付けているため、事実上選挙日を延長しており、憲法に違反している」と主張した。(ロイター通信「トランプ陣営がネバダ州提訴、郵便投票認める新法の発効阻止へ」2020年8月6日)
*10)フロリダ州法(2000 Florida Statutes, 102.141(4))には「得票差が総得票数の0.5パーセント以内であれば選挙委員会は再集計を命じなければならない」(筆者抄訳)と定められている。この時、得票数約600万票のうち、わずか1784票の差でブッシュが勝利となっていた。その後、機械による再集計によって票差は327票にまで縮まった。
*11)合衆国憲法修正第14条には「いかなる州も、その管轄内にある者に対し法の平等な保護を否定してはならない」と定められている。(出典:American Center Japan。以下、合衆国憲法の和訳はここから引用。)
*12)合衆国法典(28 U.S. Code §1257)には「州の最高裁判所によって言い渡された終局的な判決または決定は、連邦法が関係する場合、連邦最高裁による審理の対象となり得る」(筆者抄訳)と定められている。
*13)合衆国法典(3 U.S. Code §5)には「少なくとも選挙人集会の日の6日前までに選挙人の任命について最終的な決定をしたときは、その拘束力を有する」(筆者抄訳)と定められている(セーフハーバー条項)。2000年の大統領選においては、選挙人集会が12月18日であり、その6日前の12日がセーフハーバーの期限であった。
*14)賛成した判事はレンキスト(保守)、スカリア(保守)、トーマス(保守)、オコナー(保守・中間)、ケネディ(保守・中間)の5名、反対した判事はスーター(リベラル)、ブライヤー(リベラル)、ギンズバーグ(リベラル)、スティーブンズ(リベラル)の4名。党派性が明確に表れる形となり、司法の在り方にも議論が及んだ。
*15)多数意見の理由として、手作業による再集計は合衆国憲法修正第14条の「平等保護」に反し、また、再集計が合衆国法典(3 U.S. Code §5、注13参照)に定めるセーフハーバー期限(判決と同日)までに完了することは現実的に不可能であり、訴求利益がないという論点が挙げられた。
*16)最終的に認められた票として、総投票数でゴアを54万票下回ったブッシュが、フロリダ州では537票だけ上回り選挙人25名を総取りした結果、獲得選挙人数の合計でゴアを5名上回ったブッシュが第43代大統領に当選した。
*17)民主党支持層の多くは郵便投票を用い、共和党支持層の多くは直接投票を利用することから、開票序盤は郵便投票(バイデン票)のカウントが遅れ、トランプが自身の優勢の間に勝利宣言を出し、その後郵便投票の集計を妨害するのではないかとの懸念があった。
*18)合衆国憲法修正第22条第1項には「何人も、大統領の職に2回を超えて選出されることはできない」と定められている。なお、2期8年を超えて大統領を務めたのは、有事(第二次世界大戦)を理由に4選を果たしたフランクリン・ルーズベルト(第32代)のみ。ジョージ・ワシントン(初代)が3選を固辞したという経緯からそれまでも大統領を務めるのは2期までが慣例となっていたが、ルーズベルトの死後憲法改正が批准され、明文化された(1951年)。
*19)合衆国法典(3 U.S. Code §1)には「大統領および副大統領の選挙人は、各州において、大統領および副大統領の選挙から4年目の11月の第1月曜日の翌日の火曜日に任命される」と定められている。この選挙期日が定められた1845年当時、農業に従事する国民が多かったことから、収穫の終了している11月に選挙期日を設定したとされる。火曜日である理由は、交通機関が発達していなかった当時、厳格に休息日とされていた日曜日と選挙日の間に家から投票所への十分な移動時間を確保するためであった。(出典:CRS(米国議会調査局))
*20)大統領選挙が延期された例は米建国史上一度もなく、トランプの軽率な発言は共和党の重鎮や側近からも批判を浴びた。
*21)二大政党以外からも、リバタリアン党のジョー・ジョンゲンセン(得票率1.18%)や人気ラッパーのカニエ・ウエスト(同0.04%)ら36人の泡沫候補も立候補した。
*22)父親がジャマイカ系、母親がインド系。なお、女性の副大統領候補としては、2008年に共和党のサラ・ペイリンがジョン・マケイン大統領候補から指名を受けている。
*23)ギンズバーグはRuth Bader Ginsburgの頭文字をとってRBGの愛称で広く親しまれており、2018年にはドキュメンタリー映画も制作されている。
*24)ギンズバーグは1993年、クリントン(民主党)によって60歳で連邦最高裁判事に指名され、87歳で死去するまで27年間に亘りその任に当たった。
*25)最高裁判事の就任には、連邦議会上院の過半数による承認が必要。なお、米国では条約や人事の承認権は上院のみに付与されている。(合衆国憲法第2条第2項には「大統領は、上院の助言と承認を得て、条約を締結する権限を有する。但し、この場合には、上院の出席議員の3分の2の賛成を要する。大統領は、大使その他の外交使節および領事、最高裁判所の裁判官、ならびに、この憲法にその任命に関して特段の規定のない官吏であって、法律によって設置される他のすべての合衆国官吏を指名し、上院の助言と承認を得て、これを任命する」と定められている。)
*26)ただし、日本の政党政治と異なり、党議拘束はなく、恒常的な綱領や党首も存在しない。
*27)なお、共和党の前身はホイッグ党と呼ばれ、同党出身の大統領としては、1853年、日本に「黒船」を派遣したミラード・フィルモア(第12代)らがいる。
*28)愛称はAbe(エイブ)。2015年4月、安倍総理(当時)は米国連邦議会で演説を行った際に「私の苗字ですが、「エイブ」ではありません。アメリカの方に時たまそう呼ばれると、悪い気はしません」とジョークを言い、議場の笑いを誘った。
*29)民主党は中道路線のビル・クリントン(第42代)からリベラル路線のバラク・オバマ(第44代)を経て左傾化し、共和党は保守路線のドナルド・レーガン(第40代)、ジョージ・ブッシュ(第43代)らを経て右傾化した。
*30)ただし、民主党支持者は都市部に集中する傾向にあることから、人口増加による共和党州から民主党州への転換には直結しにくいことには留意が必要。
*31)トランプは民主党に対し「社会主義者」とレッテルを貼り、バイデンの知力に対する暴言を放ち、さらに息子ハンター・バイデン氏の疑惑に言及した。バイデンは自身の演説中に何度も話を遮られると「黙ってくれないか」(Will you shut up,man?)と応報し、トランプを「史上最悪の大統領」「人種差別主義者」と非難した。
*32)“US people, biggest losers of presidential debate:CNN” (Sep 30,2020).CNNキャスターのジェイク・タッパー氏は「あれは討論ですらなかった」「敗北は米国民」と批判した。
*33)最高裁判事指名行事に参加したトランプ大統領、メラニア夫人、コンウェイ前大統領顧問、クリスティー前ニュージャージー州知事、ジェンキンスノートルダム大学長、リー上院議員、ティリス上院議員他複数名が陽性となった。
*34)バイデン・トランプ両候補の支持率の差は、9月26日には6.9ポイント差でバイデンがリードしていたが、トランプ感染後の10月8日には9.7ポイント差にまで拡大した。(出所:Real Clear Politics)
*35)主催者は当初バーチャル開催への変更を決定するも、対面形式を希望するトランプ陣営はこれを拒否、代わりに討論会を翌週に延期することを提案したが、今度はバイデン陣営がこれを拒否した。なお、第3回討論会については10月22日に予定通り実施されたが、第1回討論会の惨状を鑑み、相手の発言中はマイクをオフにするなどの異例の措置が取られた。
*36)当時、上院司法委員会(採決に過半数の出席が必要)は共和党12名に対し民主党10名であったが、共和党側は感染者2名と濃厚接触者2名が自主隔離中であり、民主党委員が欠席した場合採決が不可能になる恐れがあった。その後、人事案は上院本会義(共和党53名、民主党47名)に上程されるが、感染者に加え2名の共和党議員が大統領選前の判事承認に反対を公言していたため、承認に必要な過半数を満たせない可能性も指摘されていた。(結果として共和党からの造反はコリンズ議員1名であった。)
*37)例えば、一部州において選挙人団を選出できず、選挙人が連邦議会に対して投票をしない(できない)事態が生じれば、両候補ともに過半数の得票を得られないケースが起こり得る。そのほか、過半数未達となる例としては、接戦となり両候補が選挙人を同数(269名)ずつ獲得する場合も考えられる。
*38)合衆国憲法修正第12条には、大統領として票数が選挙人総数の「過半数に達した者がいないときは、下院は直ちに無記名投票により、大統領としての得票者一覧表の中の3名を超えない上位得票者の中から、大統領を選出しなければならない。ただし、この方法により大統領を選出する場合には、投票は州を単位として行い、各州の議員団は1票を投じるものとする」と定められている。
*39)大統領選挙直前(2020年10月時点)で、連邦議会下院は民主党232議席、共和党198議席で民主党が過半数を占めていたが、州ごとには民主党多数23州に対して共和党多数26州(1州は同数)であり、共和党が過半数を得ていた。ただし、大統領選の結果が決まらず年明けに持ち越せば、当該プロセスは選挙結果を受けて新たに構成された議会に委ねられる。(米国では大統領選挙と同日に連邦議会の上院(2年ごとに3分の1ずつ改選)・下院選挙(2年ごとに全議員が改選)も実施される。)
*40)合衆国憲法修正第12条には、副大統領として票数が選挙人総数の「過半数に達した者がいないときは、上院が、得票者一覧表の中の上位2名の中から、副大統領を選出しなければならない。この目的のための定足数は、上院議員の総数の3分の2とし、選出には総議員の過半数を要するものとする」と定められている。
*41)合衆国憲法修正第20条第1項には「大統領および副大統領の任期は、この修正条項が承認されていなければその任期が終了していたはずの年の1月20日の正午に終了し、上院議員および下院議員の任期は、同じ年の1月3日の正午に終了する。後任者の任期はその時に始まる」と定められている。
*42)合衆国憲法修正第20条第3項前段には「大統領の任期の始期として定められた時までに大統領が選出されていない場合、または大統領として選出された者がその資格を備えていない場合には、副大統領として選出された者が、大統領がその資格を備えるに至るまで、大統領の職務を行う」と定められている。
*43)合衆国憲法修正第20条第3項後段には「連邦議会は、法律により、大統領として選出された者も副大統領として選出された者もともにその資格を備えていない場合について定めを設け、誰が大統領の職務を行うかについて、またはその職務を行う者を選出する方法について、宣明することができる。この者は、大統領または副大統領がその資格を備えるに至るまで、大統領の職務を行う」と定められている。また、合衆国法典(3 U.S. Code §19)には大統領継承順位が定められており、(1)副大統領、(2)下院議長、(3)上院議長代行、(4)国務長官、(5)財務長官(以下略)の順となっている。
*44)選挙人票を認証する州知事の所属政党と、選挙人の選出方法を決定する州議会の多数党とにねじれがある場合が想定された。
*45)合衆国憲法修正第12条には、「上院議長は、上院議員および下院議員の出席の下に、すべての認証書を開封したのち、投票を計算する」と定められている。
*46)しかし、連邦議会の紛糾により1月20日正午のトランプ大統領の任期満了までに正副大統領が決まらない場合、憲法及び合衆国法典に基づき、下院議長が大統領代行を務めることになる(注43参照)。
*47)投票率は66.7%であり、直近に行われた大統領選挙(2016年60.1%、2012年60.1%)と比べても非常に高く(過去100年間で最高)、国民の関心の高さが見てとれる。(出典:United States Election Project)
*48)アダムズがジャクソン(Jackson)をその名に準えて「ロバ」(jackass:まぬけ)と揶揄したことから、ジャクソンは民主党のシンボルとしてロバを用いるようになったとされる(コラム3参照)。
*49)「錆びた地帯」(Rust Belt)を意味し、ウィスコンシン州、ミシガン州、ペンシルベニア州を指す。米北部に位置し、かつて製造業が栄えた地域。伝統的には民主党地盤だが、2016年にはトランプが保護主義を掲げ勝利した。2020年は、両陣営とも国内産業を重視した政策を打ち出し、民主党はウィスコンシン州(ミルウォーキー)にて全国大会を実施し、共和党はトランプがペンシルベニア州で遊説を繰り返す等、本地域を最重要地域と位置付けていた。
*50)アリゾナ州、ジョージア州、ウィスコンシン州では得票率差1ポイント未満の僅差でバイデンが勝利した。(出典:United States Election Project)
*51)1896年に民主党候補のウィリアム・ジェニング・ブライアンが、勝利を確実にした共和党候補のウィリアム・マッキンリー(第25代)に敗北を認める電報を発したのが敗北宣言の始まりとされる。以降、敗北宣言の発出は大統領選挙の勝利を確定させる重要なプロセスとなり、また、敗者が潔く負けを認め、国の団結のために勝者を讃える姿は、多くの国民の記憶に刻まれてきた。トランプは124年間に亘る米国民主主義の伝統を無視し、敗北宣言を拒否したことで、円滑な権力の移行を不安にさせた。
*52)例えば、共和党のテキサス州司法長官は、激戦4州(ジョージア州、ミシガン州、ペンシルベニア州、ウィスコンシン州)の選挙結果について不正があったとして無効化を求める訴訟を行い、トランプや共和党連邦下院議員、18州の司法長官らがこれに追随した。しかし、12月11日、連邦最高裁はこの訴えを退ける決定を下した。
*53)2021年1月3日正午から2023年1月3日正午まで。
*54)各州の集計結果は既に確定していて、「不誠実な選挙人」は現れず、バイデンが306名、トランプが232名の選挙人を獲得していた。
*55)合同本会議にて選挙結果に異議を申し立てることを表明していた共和党の上下院議員百数十名は、この事件を受けて異議を取り下げた。また、トランプ政権の閣僚(デボス教育長官、チャオ運輸長官、ウルフ国土安保長官代行)等、政権関係者の辞任が相次いだ。
*56)合衆国憲法修正第25条第4項には「副大統領、および行政各部の長または連邦議会が法律で定める他の機関の長のいずれかの過半数が、上院の臨時議長および下院議長に対し、大統領がその職務上の権限および義務を遂行できない旨を書面で通告したときは、副大統領は、直ちに臨時大統領として、大統領職の権限および義務を遂行するものとする」と定められている。
*57)合衆国憲法第2条第5項には「弾劾の訴追権限は下院に専属する」と定められている。このとき、共和党からも10名が造反し、トランプの弾劾訴追に賛成票を投じた。
*58)1度目は2019年12月の「ウクライナ疑惑」によるもの。このときの下院の弾劾採決では、共和党議員からの造反は出なかった。
*59)トランプは2016年の大統領就任式において「4年に1度、我々はここに集い、秩序ある平和的な権力移譲が行われる」と演説していたが、皮肉にも、自身でそれを否定する形となった。
*60)アンドリュー・ジョンソンは、南北戦争後に上院の承認なく閣僚(陸軍長官)を更迭したことの違法性を指摘され、弾劾訴追を受けていた。次期大統領のユリシーズ・グラント(第18代)が就任式に向かう馬車への同乗に応じないとしたため、ジョンソンは式への参加を拒否した。
*61)トランプ以前に弾劾裁判にかけられた大統領は、アンドリュー・ジョンソン(第17代、注60参照)、ビル・クリントン(第42代)の2名のみであった。なお、リチャード・ニクソン(第37代)はウォーターゲート事件を受けて下院から弾劾訴追を受けたが、弾劾裁判前に辞職している。
*62)合衆国憲法第3条第6項には「すべての弾劾を裁判する権限は、上院に専属する。(中略)合衆国大統領が弾劾裁判を受ける場合には、最高裁判所長官が裁判長となる。何人も、出席議員の3分の2の同意がなければ、有罪の判決を受けることはない」と定められている。
*63)弾劾裁判で有罪となれば、その後上院は過半数の賛成によって当該人物が公職に就く権利を剥奪する採決を行える。民主党側にはトランプが2024年大統領選挙へ再出馬することを阻止したいという思惑もあった。(合衆国憲法第3条第7項には「弾劾事件の判決は、職務からの罷免、および名誉、信任または報酬を伴う合衆国の官職に就任し在職する資格の剥奪以上に及んではならない」と定められており、実際、過去に過半数の同意によって、弾劾した裁判官の資格を剥奪した例がある。)
*64)2021年1月14日、バイデン次期大統領は、就任に先駆けて1.9兆ドル規模の新型コロナに対応するための追加経済対策「米国救済計画」(American Rescue Plan)を発表した。トランプ政権が決定した個人への現金直接給付(600ドル)を1,400ドル上乗せする等の施策が盛り込まれ、就任後の同年3月11日に成立した。
*65)トランプは退任後の演説で、自身の弾劾に賛同したミット・ロムニー上院議員、リム・チェイニー下院議員ら共和党の造反者17名を名指しし、落選させるよう呼びかけを行った。
*66)オバマが2008年に獲得した6,900万票。
*67)さらに、コロナ禍におけるマスク着用の是非についてすら保守・リベラル間で政治問題化していた。
*68)Pew Research Center(October 5, 2017) “The Partisan Divide on Political Values Grows Even Wider”
*69)なお、トランプは退任後の演説で、2024年の大統領選挙への出馬を示唆している。
*70)例えば、上院ではバーニー・サンダースやエリザベス・ウォーレン、下院ではアレクサンドリア・オカシオコルテスらが挙げられる。
*71)上院規則第19条第1項(a)には「いかなる上院議員も、他の上院議員の討論を、本人の同意なしに中断してはならない」(筆者訳)と定められている。過去には24時間以上にわたり演説を行った例も記録されている。
*72)なお、1975年の上院規則改定により、議事妨害を宣言するだけで議場において演説を行っているものとみなされることとなったため、現在は実際に演説を行う必要はない。
*73)上院規則第22条第2項による。
*74)Congressional Budget Act of 1974 §310“Reconciliation”
*75)Congressional Budget Act of 1974 §313(b)1“Byrd Rule”
*76)Congressional Budget Act of 1974 §310(a)の上院解釈による。
*77)無党派の上院の顧問で院内規則や議会手続きの解釈を行う職員。
*78)Byrd Rule(注75参照)により、歳出・歳入の変更を生じさせないものは財政調整措置の適用対象から除外されており、最低賃金引上げについては要件を満たさないと判断された。
*79)フィリバスターによって最低賃金引上げ等の重要政策を成立させられないことに民主党プログレッシブはフラストレーションを募らせており、フィリバスター改革が叫ばれている。例として、かつてのように議場で演説を続けることを要件として復活させたり、2017年に連邦最高裁判事指名についてフィリバスターを廃止した(コラム6参照)ように、一部の議案についてはフィリバスターを無効化する等の案が議論されている。
*80)連邦最高裁判事の指名候補を承認する際、単純過半数(51票)の賛成で審理を終え、最終採決を行えるようにするという変更。
*81)賛成54、反対45。共和党議員1名が欠席、民主党議員から3名が造反。
*82)以降、現在でも連邦判事の承認については、過半数の賛成で可能となっている。
*83)なお、2013年のオバマ政権時にも、民主党側が「核オプション」を行使し、大統領指名人事についてフィリバスターを過半数で打ち切る規則変更を可決している。
*84)バイデンは大統領就任時点で78歳であり、これまで最高齢であったトランプ(70歳)の記録を上回った。