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各地の話題/「ファイナンス」令和3年6月号


妙高市
新たな人の流れの創出を目指した妙高市の取組
妙高市企画政策課 主査 柳内  陽子
コロナ禍により、多くの方が、移動の制限や在宅勤務などを経験する中、リモートワークは働き方に大きな変化をもたらしました。一部では、土地代が安価な地方へ事務所移転を進めている企業も多くなっているといわれ、この流れは、地方行政を担う私たちにとって、地方への「新たな人の流れ」を創出する大きなチャンスと言えます。
そこで、地方への都市資源の誘引などを図るため、妙高市が取り組んでいる、新たな人の流れを創出するための施策や考え方の一端について、ご紹介します。
1.はじめに
妙高市は、新潟県の南西部に位置する、人口3万1千人余りの地方都市です。2015年の北陸新幹線(金沢延伸)開業によって、東京から2時間程度で移動できるようになりました。日本でも有数の豪雪地帯であり、ディープスノーを求めて国内客に留まらず、オーストラリアなどからスキーなどを楽しむ訪日観光客が多く訪れています。
新幹線の開業によって、インバウンドを含めた新たな観光需要が喚起され、外資企業による複数のリゾートホテルの開業など、開発投資による一定の効果が見られました。今後は、コロナ禍による社会経済変化を捉えるとともに、新幹線の延伸効果をさらに発揮し、首都圏などからの都市資源の一層の獲得を図るため、観光分野以外での新たな都市需要の掘り起こしや、時間・場所を超える可能性を秘めているリモートワーク等の活用、市内の構造的な地域課題解決への寄与などの視点から、新たな人の流れをつくる取組(施策)を進めていくこととしました。
写真:妙高市の概要
2.「新たな人の流れ」をつくる取組
当市では、首都圏などからの新たな人の流れの創出や都市資源の誘引・獲得を図り地域活性化を目指す新たな施策として、「しごと+休暇」の要素を取り入れた「ワーケーション」事業、ワーケーションをきっかけに当市を訪れる首都圏等企業・人材と市内企業との「ビジネスマッチング」事業、企業とのつながりの中でアウトソーシング業務を受注し、市内の雇用創出につながる「ワークシェアリング」事業を展開させることとし、受け皿として「テレワーク研修交流施設」の整備を合わせて計画しました。
これらの事業を含め、2020年~2024年にわたる事業推進の財源として、地方創生推進交付金の採択をいただき、2020年度から各種施策をスタートしました。
また、2021年度は地方創生テレワーク交付金を活用し、サテライトオフィス等開設運営支援補助制度を設けました。民間によるサテライトオフィス、コワーキングスペース等の開設・運営を支援することで、官民連携の一体的な推進により、企業立地の促進、産業の活性化及び雇用機会の拡大を図ることとし、首都圏などからの新たな人の流れをつくる取組を加速させています。
3.「非日常が学びの場」妙高ワーケーションづくり
具体的な取組として、2020年度は「ワーケーション」事業を進めてきました。
行政だけでは継続的に推進することが難しいことから地域側の受け入れ体制が必要であること、首都圏等の企業との接点が少ないこと、という課題を踏まえ、旅行業を有し、市内で教育体験旅行やアクティビティを提供している「妙高市グリーン・ツーリズム推進協議会」からその役割を担ってもらうこととし、2020年6月から「妙高ワーケーションセンター」を立ち上げ、地域側の受入れ体制をスタートさせました。
また、観光分野以外での新たな都市需要の掘り起こしが必要であることから「観光地があるからワーケーションに来てほしい」というPRにとどまらないワーケーションのプログラムづくりが重要であると考え、当市の豊かな自然等を生かした人材育成、地域課題解決などにより、企業の生産性向上に寄与したり、社員の人材育成が図られたりといった企業視点で価値を提供することのできる「ラーニング型ワーケーション」を目指していくこととしました。
プログラム開発においては、多くの首都圏等の企業と企業研修としての接点を持ち、ワーケーションを中心に事業展開を行っている「株式会社日本能率協会マネジメントセンター」とワーケーション事業の実施に向けた包括連携協定を締結し、ともにワーケーションを推進しています。2021年度からは、妙高の自然を生かし、想定外での対応力を学ぶことができるラーニング型ワーケーションプログラム「Here There」の商品販売を開始します。
写真:自然を生かした妙高ワーケーション
4.今後の取組
コロナ禍によるオンラインやデジタルシフトにより、地方と首都圏企業・人材は、あらゆる距離を縮めることができる可能性があり、それは、企業、地域・社会にとって真に有益な「新しい価値」を創造することができるものと考えています。
当市は、この新しい価値を求めて、行政だけではなく、地域や企業と共に「新たな人の流れ」の創出を目指した取組を進めていきます。

「COOLでHOTな街“妙高市”」を応援します
地方創生コンシェルジュ
関東財務局新潟財務事務所長 山岸徹
妙高市は日本有数の豪雪地帯でもあり、「雪=“寒い”」との印象をお持ちの方も多いかと思いますが、一方で豊かな自然を活かした四季折々の体験ができます。
昨年、本市の入村市長をはじめ職員の方々と対談する機会があり、首都圏からの利便性、魅力ある地域資源を活用した様々な取組・構想について、“熱い”想いを伺いました。
観光業を中心に非常に厳しい状況にある中、コロナ禍をチャンスと捉え、ミライを見据えた新しい価値の創造にチャレンジする妙高市を今後も応援していきます。


田辺市
たなべ未来創造塾~ローカルイノベーターが地域を救う~
田辺市たなべ営業室 係長 鍋屋  安則
1.田辺市の概要
田辺市は、和歌山県の中央部に位置し、県下第二の都市、交通や商業の要衝として栄えてきました。地域資源では、世界文化遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」、世界農業遺産「みなべ・田辺の梅システム」をはじめ、新鮮な魚介類、温泉資源などにも恵まれる自然と歴史が豊かなまちです。
しかし、2015年では74,770人であった人口が、2060年には36,193人と50%以上減少(田辺市人口ビジョン)、全国平均を大きく上回るスピードで人口減少が進むことが予測されています。
2.田辺市の戦略とは
世界遺産登録10周年、翌年には合併10周年という大きな節目を迎え、今こそ未来のために持続可能なまちづくりを目指そうという市長の強い思いから、2014年、市役所内に「たなべ営業室」が創設されました。
新たな戦略を立てるため、地域づくり・地域経済の専門家を探していた中で、富山県内で数々の実績をあげていた富山大学地域連携戦略室長金岡省吾教授(現熊本大学熊本創生推進機構教授)の存在を知り、協力を要請し、金岡教授からまずは地域づくりの変遷、全国の先進事例、マーケティングなど幅広い知識を習得することとなりました。
国では、人口減少社会を迎え、全国総合開発計画から国土形成計画や地方創生へと大きく施策を転換させています。
その中でも、特に重要なのは、地域課題をビジネスで解決するCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)という考え方です。これまで地域活性化という名目のもと、各地で様々なイベントが行われてきましたが、イベントそのものが目的化してしまい、結果として、疲弊していく地域も見られています。
これからの人口減少社会に求められる持続可能なまちづくりとは、地域課題を解決しながら、企業利益に結び付けることで、地域と企業がwin-winの関係性を構築することができ、その結果、地域経済が循環し、最終的には人口減少の歯止めにつなげていくことだと理解しています。
そのため、CSVを実践する地域企業を地道に育成していくことが、持続可能なまちづくりへの一番の近道であると考え、人材育成を柱とした戦略を立てることとなりました。
3.地域を救う!たなべ未来創造塾
こうした戦略を具体的に実践するため、人材育成のノウハウを有する富山大学地域連携推進機構と田辺市との間で「人材育成の連携に関する覚書」を交わし、共同研究員として市役所から職員1名を派遣し、平成28年に「たなべ未来創造塾」を立ち上げることとなりました。
以下の3点に大きな特徴があります。
(1)「産学官金」が一体となった支援体制
大学や商工関係団体等に加え、ビジネスにつなげるためには、金融機関の支援が重要です。そこで、紀陽銀行、きのくに信用金庫、日本政策金融公庫、さらに金融機関を監督する近畿財務局和歌山財務事務所などに協力を要請し、「産学官金」が一体となった支援体制を構築しました。
特に、日本政策金融公庫とは、「経営者育成に係る連携協力に関する協定書」を締結し、カリキュラム作成や塾生選抜など塾の運営に多大なご協力をいただいています。
(2)自ら考え行動できる人材の確保
半年間、全14回の講義、ビジネスプランの発表といった面倒なカリキュラムに自ら手を挙げる地方の若手事業者は少ないというのが実情です。
そのため、公募と並行し、20~40歳代の意欲的な若手経営者の中から、誰と誰がつながるとどんなビジネスができるのかバリューチェーンを意識しながら、農家やシェフ、工務店、グラフィックデザイナー、家具屋など異業種の人材をリストアップし、一人一人口説いていきました。
(3)CSVを段階的に理解し、行動に移すことのできる実践的カリキュラム
まずは、地域課題の根っこである「人口減少」を理解したうえで、将来、地域がどうなるのかを具体的にイメージしつつ、次の段階として高齢化や子育て、観光などの地域課題をディスカッションしながら深く掘り下げることで、自社が解決できる地域課題を探し出すプログラムとしています。
4.たなべ未来創造塾から生まれた事例
「空き家」「中心市街地空洞化」といった地域課題を解決するため、築80年の空き家をリノベーションしたゲストハウス&シェアハウス&カフェバー“the CUE”。
「鳥獣害」の解決に向け、獲る×捌く×食べるを一体的に取り組む“(株)日向屋”。
管理が行き届かなくなる山が広がることで増加している「虫食い材」を活用した木材ブランディング“BokuMoku”。
安く取引されてしまう規格外の梅と価格高騰により気軽に食べられなくなった鰻、両方の地域課題を解決するため、老舗鰻屋が梅農家とコラボした“梅と鰻のひつまぶし”。
他にも修了生同士が新たに商品開発を行うなど、つながりあいながら数多くのスモールビジネスが生まれ、1~4期47名の修了生のうち33名、実に70.2%が新たな一歩を踏み出しています。
5.地域で“輝く”人材が「関係人口」を創る
今では、地方との関わりを求めている都市圏住民を対象とした関係人口養成講座「たなコトアカデミー」や地域の暮らしや文化に触れながら歩く“低山トラベラー”を対象とした連続講座「熊野REBORN PROJECT」などの事業に、たなべ未来創造塾修了生がゲストスピーカーとして登壇したり、フィールドワークを受け入れたりすることで、新たな関係人口の創出にもつながっています。
一つ一つは、小さいかもしれない。
しかし、地域で“輝く”人材を育成し、人と人とをつないでいく地道な積み重ねが、点から線、そして面へと広がり、地域の大きな力となっていく。最終的には人口減少に歯止めをかける原動力になるのではないでしょうか。
写真提供:Katsu Nagai

未来創造塾でストップ人口減少!
地方創生コンシェルジュ
近畿財務局和歌山財務事務所長 木村由典
今年2月には「たなべ未来創造塾」の第5期生修了式に招待され、塾生(11名)からの最終プレゼンを聴く機会を得ました。いずれのビジネスプランもアイディアに富む素晴らしい内容で感服。地方の課題解決に向け大変学ぶべきものが多く、これからもこうした地道な取り組みを支援して参ります。


みやま市
資源循環のまちづくり
福岡財務支局理財部融資課 村本  由紀美
1.はじめに
みやま市は、福岡県の南部、有明海に注ぐ矢部川下流域左岸に位置し、東部の山間部と筑後平野の田園地帯が広がる人口約3万6千人の市です。基幹産業は農業で、米・麦の二毛作を中心に、博多なす、山川みかんなど野菜や果樹の栽培も盛んで、有明海沿岸では海苔養殖など漁業も行われています。
市政運営では、第2次みやま市環境基本計画(2021年3月)において、目指す環境像を「未来へつながる持続可能なまちづくり~資源循環一人ひとりの心がけ~」と位置づけ、市民や事業者と共に環境施策に取り組み、脱炭素社会を構築することを大きな柱としています。
2.バイオマスセンター「ルフラン」
東日本大震災における原子力発電所の事故を契機に、地域分散型の再生可能エネルギー導入の機運が高まる中、市は電力自由化に伴い、市内で発電して売る「電力の地産地消」のしくみを作り、自治体で初めてとなる市民家庭向けの電力小売を行う「みやまスマートエネルギー株式会社」を2015年に設立しました。
一方、「再生可能エネルギー導入調査」や「生ごみ・し尿汚泥系メタン発酵発電設備導入可能性調査」を行い、生ごみ資源化を進める「バイオマス産業都市構想」を2014年に策定しました。折しも、し尿処置施設とごみ焼却施設の更新期を迎えつつある時期でした。
2018年12月に、生ごみを発酵させることで資源に変えるバイオマスセンター「ルフラン」が完成、「ルフラン」は仏語で「詩や音楽など同じ句で曲折を繰り返す」という意味があり、資源循環のまちづくりへの想いを込めているそうです。
本施設では、生ごみをし尿や浄化槽汚泥と共にメタン発酵設備で分解発酵処理し、メタンガス(バイオガス)を発生させます。発生させたバイオガスを利用して電気と温水の供給をする一方で、発酵後の液体を液肥として利用します。電気は本施設の電力の約4割を賄い、温水は桶洗浄などに使用、液肥は有機質の肥料として水稲や麦の栽培に利用します。
各家庭では、市から配布されている生ごみ分別バケツに可燃ごみと分別して生ごみを溜め、生ごみ回収桶(10世帯に1個)に出すという、簡単な仕組みです。回収桶は週2回の回収日前日に配置されるため、動物に荒らされることも、においが気になることもありません。
この仕組みにより、水分を多く含み重量が嵩む生ごみが可燃ごみから無くなることで、可燃ごみの焼却処理量が減少し、余分なエネルギー消費もなくなります。現在、隣接市と共同建設中の新ごみ焼却施設整備事業費の負担割合や、稼働後のごみ処理負担額の削減効果も期待されています。
写真:バイオマスセンター「ルフラン」
写真:生ごみ投入の様子
3.廃校の有効活用
「ルフラン」(処理施設)は、2016年に廃校となった旧山川南部小学校のグランドに建設されています。校舎を改装して、処理施設の管理室のほか、食品加工室、シェアオフィス、チャレンジ施設(カフェスペース)等を整備しています。個人では導入困難な高機能調理器具が設置された食品加工室で、地元食材を生かした6次化商品を製造し、チャレンジ施設で販売することも出来ます。カフェスペースでは、開業を目指す方などが日替わりで食事や喫茶を提供し、人が集まる賑わいの場となっています。また、「ルフラン」の見学や視察に多くの方が訪れており、注目を集めています。(参考:2019年度 150団体2,254名)
廃校を活用することで、整備コストの抑制に加え、地元住民の思い出が詰まった校舎を賑わいの場として再生することを目指しているそうです。
写真:カフェスペース
4.おわりに~効果~
本施設の整備事業費は、国の補助金と財政融資資金を活用しています。
本施設の稼働により、ごみ処理にかかる事業効果はもとより、CO2排出量について、従来のままごみ焼却等の処理を行った場合の2,328t/年に対して、本施設で処理した場合316t/年まで低下することで、地球温暖化防止に貢献しています。また、本施設やごみ収集など資源循環過程において様々な雇用を生み出しているほか、施設電力の不足する分については、みやまスマートエネルギーから購入することで、電力の地産地消にも繋がっています。
さらに、市民の協力のもと、より多くの生ごみを分別回収、生ごみからから液肥を生成、液肥を使った農産物を多く育て、農産物が食品加工・調理され、再び生ごみとなる、資源の循環が生まれています。
エネルギーは地産地消で地域内経済を循環させる地域一体となった「資源循環」のまちづくりが、今後も多くの人を巻き込み、さらに成長していくことを期待しています。
写真及び参考資料提供:みやま市