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コラム 経済トレンド84

副業・兼業の現状と今後
大臣官房総合政策課 祖父江  渉/野口  友菜

本稿では、近年希望者が増加している副業・兼業について考察する。

副業・兼業の現状
・近年、副業・兼業を希望する者が増加傾向にある。(図表1.副業希望者の推移)
・副業・兼業をしている理由として、副業・兼業をしている者の半数以上が「収入を増やしたいから」としており、金銭的な理由が多くみられる中、「自分で活躍できる場を広げたいから」、「様々な分野の人とつながりができるから」、「現在の仕事で必要な能力を活用・向上させるため」といったキャリア形成や自己啓発のために行う層も存在している。(図表2.副業・兼業をしている理由)
・また、足下では新型コロナウイルス感染症の感染拡大によるリモートワークの普及や休業・失業に伴う余暇の増加によって、副業・兼業を始めた者が増加したと考えられる。(図表3.現金給与総額の推移、図表4.副業を始めた時期)

日本型雇用の変容
・近年、副業・兼業を希望する者が増加している背景に、急激な産業構造の変化や人生100年時代に伴う日本型雇用の変容が要因として考えられる。
・「日本型雇用システム」は、長期雇用を前提とした新卒一括採用・年功序列型賃金・人事配置や労働時間管理に関する雇主側の広範な裁量性等の特徴を持ち、労働者は一つの企業で職務転換や転勤といった配置転換を繰り返し経験し、長く勤めることが一般的であった。(図表5.日本型雇用とジョブ型雇用の比較)
・しかし、近年ではグローバル化やデジタル化の進展に伴う産業構造の変化や労働力人口の高齢化等に起因して、賃金カーブのフラット化や企業がジョブ型雇用を取り入れる動きがみられている。(図表6.フラット化する賃金カーブ、図表7.大手企業のジョブ型雇用導入例)
・その結果、副業・兼業を通じた、収入源の多様化、新たなスキルの獲得、スキルのアップデート等に労働者が積極的になっていると考えられる。

副業・兼業に消極的であった企業
・副業・兼業を希望する者が増加している一方で、内閣府の昨年12月時点の調査によれば、企業が副業を許容している割合は全体の3割程度と、企業側が副業・兼業を認めていないケースが多い。企業規模が大きいほどその傾向が強く、「生産性や売上が落ちると考えているから」、「利益相反や情報漏洩を懸念しているから」、「労務管理が困難だから」などが主な理由である。(図表8.副業が禁止されている割合、図表9.企業が副業を禁止する理由(副業が禁止、又は原則禁止の雇用者)
・他方で、従来のように、OJTを通じた従業員教育だけではなく、最近では特に規模が大きい企業において、働き手が自ら能力開発を行う傾向が強まっている(図表10.労働者の能力開発方針(300人以上規模))。こうした動きは、副業・兼業による能力の有効活用や、それを通じた働き手のスキルアップが今後重要になっていく可能性を示唆している。

副業・兼業をめぐる今後の展望
・前述の企業の懸念事項に関して、厚生労働省は昨年「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を改定し、副業・兼業の場合における企業と労働者の一般的な対応を示した。(図表11.副業・兼業の場合の留意点)
・さらに、同年「雇用保険法等の一部を改正する法律」が成立しており、副業・兼業に関する環境は着々と整備されている。今後は、フリーランスとして働く人に対する労災保険の特別加入制度の適用拡大など、副業・兼業をする労働者全体をどのように保護するべきか検討していく必要がある。(図表12.「雇用保険法等の一部を改正する法律」の主な改正内容)
・また、副業・兼業をしない理由として「体力的に余裕がないから」、「時間がないから」が多いことから、企業は副業・兼業に限らず、例えば時短正社員や週休3日制などの新しい働き方にも柔軟に対応することが重要である(図表13.副業をしない理由)。副業・兼業は、従業員の能力開発の機能があり、また、雇う企業にとってみれば、副業・兼業をする労働者は新たな知見をもたらし、イノベーションの萌芽となり得る。多様な働き方を許容することが、結果として副業・兼業を容易にし、中長期的には多くの企業にとってメリットを生む可能性がある。

(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。
(出典)総務省「就業構造基本調査」、内閣府「第2回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」、厚生労働省「毎月勤労統計」、「賃金構造基本統計調査」、「副業・兼業に係る実態把握の内容等について」、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」、ランサーズ「在宅勤務推奨時における副業・複業者のサービス利用状況調査」、日本総研「望ましいフリーランスの普及に向けて-国際比較を踏まえた政策対応」、Human Capital Online「独自ジョブ型に移行。和洋折衷で専門性とチームワーク両立~資生堂」、「ニトリ、三菱ケミカルーー“ジョブ型”の成否はキャリア自律にあり」、日本経済新聞「日立、ジョブ型インターン 来年度から」、富士通、KDDI、SOMPOホールディングス、労働政策研究・研修機構「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査」(企業調査、労働者調査)、「労働保険におけるマルチジョブホルダーへの対応のあり方」、楽天インサイト「副業に関する調査」、海老原 嗣生「人事の組み立て~脱日本型雇用のトリセツ~」、柳川 範之「日本成長戦略 40歳定年制 経済と雇用の心配がなくなる日」