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パンデミック下の途上国支援―其参 長期化する危機に挑むアジア開発銀行―

アジア開発銀行総裁首席補佐官 池田  洋一郎
1.はじめに
本シリーズでは、2020年初に新型コロナウィルス(COVID19)の蔓延が始まって以降、筆者が、アジア開発銀行(ADB)の総裁首席補佐官として、あるいは、マニラの一市民として直接関わってきた問題と、その解決のために採られてきた様々な取組みを、ミクロとマクロ、双方の視点をもって振り返りながら、パンデミック下の途上国支援について考えていく。第三回となる本稿では、COVID19の流行が全世界に広がり、各国が経済・社会・公衆衛生上の危機へ陥っていく2020年第2四半期から年末までの間、ADBがアジア・太平洋地域の発展途上国に対してどのような支援を展開してきたか、そして、長期化する危機に伴う組織経営上の課題に如何に対処したかを紹介していきたい。

2.マニラの貧困層に対する食糧配布プログラムの展開
2020年4月6日月曜日、マニラ首都圏タギッグ市(Taguig City)のピナグサマ地区(Barangay Pinagsama)に浅川雅嗣総裁の姿があった。タギッグ市といえば、マニラ随一の富裕層居住地域、ボニファシオ・グローバル・シティ(BGC:Bonifacio Global City)で知られている。しかし、一歩BGCを出れば、トタン屋根とコンクリートのブロックで作られた質素な家々が密集する貧困地区が広がっている。この日浅川総裁が「Bayan Bayanihan(タガログ語で「母国協働」の意味)」のメッセージが刻まれた約5キロの麻袋を腕に抱えながら歩いたピナグサマ地区もその一つだ。袋には、4-5人家族が二週間ほど食いつなぐことができる米や缶詰食品等が詰まっている。
「Bayan Bayanihanプロジェクト*1」は、ADBがフィリピン陸軍、社会福祉開発省(DSWD:Department of Social Welfare and Development)、民間企業、及び教会と連携して、マニラ首都圏の貧困層・脆弱層5万5千世帯を対象に食料や日用品を配布する人道支援だ。民間企業からの現金・現物贈与に加え、数多くのADBスタッフ、元スタッフからの寄付が500万ドルもの人道支援を展開するうえでの財源となった。
写真:「Bayan Bayanihanプロジェクト」実施のために、マニラの貧困地区に足を運び、人々に直接食料等を手渡す浅川総裁

本シリーズの第一回*2で詳述した通り、この時期、3月15日から実施された極めて厳格なロックダウンにより多くの人々が職を失い明日の生活にも困る状況に陥っていた。また、前号で紹介した通り、ADBの多くのスタッフも不安に駆られながら業務に励んでいた。そんな中、ADBがフィリピンの多様なプレーヤーと気持ちを一つにしてリソースを集め、ロックダウンの影響を最も受けていた人々に生活の糧を差し伸べていく「Bayan Bayanihanプロジェクト」の成功は、人々の不安や恐れを、「危機を共に乗り越えていこう」という前向きな気持ちへと高めていくうえでの大きな力となった。同時にこの時、フィリピンをはじめとする各国政府では、大規模な経済対策の準備が佳境に入り、ADBでは、これを後押しするための新たな融資制度を含む、包括的な支援パッケージの取りまとめに数多くのスタッフが懸命に取り組んでいた。

3.「200億ドル包括支援パッケージ」の公表と展開
前号で詳述した通り*3、ADBは2020年第一四半期、希少なグラント(無償資金)資源を行内各部局からかき集めて、医療防護具や人工呼吸器の調達、検査体制の充実、そして集中治療室の拡充等、途上国政府が抱えていた死活的ニーズにこたえるとともに、民間業務局が、FAST(Faster Approach to Small Non-sovereign Transactions)と呼ばれる融資ツールを活用して、民間企業へ運転資金を緊急融資していた*4。また、トップから現場レベルに至るまで、顧客との密接なコミュニケーションを通じて変化するニーズの把握に務めるとともに、関係国際機関との連携を強化ていたことも、前号で触れたとおりだ。こうした初動を通じてADBは主として以下の課題を認識していた。
(1)ADBが年度当初の借入計画を上回る額の債券を発行して市場から資金を追加調達し、より大規模な支援を途上国に提供できる体制を整えること。
(2)ADB加盟の全ての途上国が、制度改革・法改正等の条件なしに、利用しやすい金利水準で借り入れることができる新しい融資の仕組みを作り、各国政府が実施する経済対策を後押しすること。
(3)融資の内部審査プロセスを省力化、迅速化すること。
(4)さらなる技術協力・グラント資金を動員し、特に低所得国、脆弱国の医療資機材等の調達支援を継続すること。
(5)その際、「ADBのプロジェクトに活用される資機材の調達先はADB加盟国に限定する」とのルール、及び「技術協力のグラント資金は外部専門家をコンサルタントして雇ってプロジェクト準備やノレッジ・ワークを進めるために使うこと」との内規を改めること。
(6)民間企業にスピーディに融資を実行できるFASTプログラムや、貿易金融プログラム等を、必要十分な規模で展開できるよう、利用可能上限を引き上げること。
こうした問題意識を踏まえて、4月13日に公表した「200億ドルの包括支援パッケージ*5」は、新しく導入する融資制度、既存の融資制度の内容や手続きの変更、調達ルールの柔軟化等を通じて、より早く、より柔軟に、そしてより大きな支援を提供するものだ。以下にその項目及び概要をまとめた。

表.ADBによる200億ドル包括支援パッケージ(2020年4月13日)の概要*6 *7 *8 *9 *10 *11 *12

上記(4)「技術協力グラント資金のさらなる拡充」については、APDRFの利用可能額が危機前の2019年末の段階で2,110万ドル、一か国あたりの上限が300万ドルであることを踏まえると、7か国に提供すれば底をついてしまう状況にあった。この点、ドナーからの条件付き拠出を可能とするルール変更の直後に、日本政府からAPDRFに対する「コロナ対策に使途を限定する」との条件付きでの拠出を含む、総額1億5,000万ドルものご支援を頂いたことの意味は極めて大きい*13。日本からの支援のおかげで、ADBは2020年を通じて、30の発展途上国に対し、人工呼吸器、検査キット、医療防護服等の調達に必要な計約5千900万ドルのグラント資金をAPDRFからスピード感*14をもって提供することができた。国内の状況も厳しい中、希少な財政資金をタイムリーに提供いただいた日本政府及び日本の納税者の皆様に、この場をお借りして深くお礼を申し上げたい。
なお上記にまとめた制度や政策変更については、COVID19対策に限るものとして、その有効期間は理事会承認が得られた時点(2020年4月13日)から15カ月とされている*15。以下では、200億ドルの支援プログラムの目玉といえる、新たな財政支援融資-CPRO-について、フィリピンを例に、その内容を紹介していきたい。

4.フィリピン向け財政支援15億ドル(CPRO)の展開
2020年3月15日、ルソン島全土への極めて厳格なロックダウン導入と時を同じくして、フィリピン政府は「COVID19対応戦略」を打ち出した。同月25日には議会の承認なしで予算の組換えをしたり、政府が管理する各種基金の緊急活用ができる権限を大統領に3か月間に限り与える「Bayanihan to Heal as One Act(Bayanihanはタガログ語で協働の意味)」を可決。こうしたプロセスを経て政府が発表したのがGDPの約3.6%にあたる総額約6,556億ペソ(約1兆2,000億円)の経済対策第一弾だ。(1)COVID19感染拡大を抑え込むための医療施設・体制の拡充(約6%)、(2)貧困層や脆弱層に的を絞った現金給付や失業手当の提供(約34%)、(3)中小企業の雇用維持に向けた補助金、減税、及び銀行借入れへの保証(約47%)、(4)小規模農家や地方政府向け支援の実施(約13%)という4つの柱からなる経済対策を実施していくうえで必要となる財源として、ADBによる財政支援のスピーディな提供が期待された。ADBは、戦略政策パートナーシップ局が中心となって、こうしたニーズに応える新たな融資ツール―CPRO―の制度設計を理事会メンバーとも丁寧に協議をしながら作り上げるのと同時に、東南アジア局の公共財政管理と保健の専門家の合同チームが、CPROを含む200億ドルの包括支援パッケージの理事会合意が得られた後、間髪入れずに、財政支援プログラムを展開できる準備を整えていた。
200億ドルの支援パッケージへの理事会合意が得られたその僅か10日後、4月23日に理事会の承認を全会一致で得、同日フィリピン政府との署名に至ったCPRO第一号。総額15億ドルというCPROの国別上限*16いっぱいの規模とスピード感をもって提供されたフィリピン向け緊急財政支援には、その後に続くADBのCPROを通じた支援において重視された以下5つのエッセンスが詰まっている。
(1)既存の社会保障チャネルの活用と的を絞った支援の展開:
危機対応を急ぐあまり、的を絞らないばらまき型の現金給付が展開されれば、支援がなければ生活が立ち行かないほど困っている人々のもとに届く金額が少なくなってしまう一方で、希少な財政資源を必要以上に費消してしまう。他方、危機の最中に現金給付の仕組みを一から作っていたのでは、明日の食事にも困っている人々の手に必要な資金をタイムリーに届けることはできない。こうしたジレンマを乗り越えるべく、フィリピン向けCPROでは、政府がひと月8,000ペソ(約1万6千円)の現金を合計1,800万世帯(全人口の75%)に対して給付するにあたり、ADBが過去10年以上にわたり技術協力やローンを通じてそのデザインや実施体制を強化してきた貧困層向け条件付き現金給付プログラム「4P:Pantawid Pamilayang Pilipino Program(フィリピン家族のための橋渡しプログラム)」*17を活用することで、スピードとターゲット絞込みの両立を目指した。また政府が小規模・零細事業者向けの減税や補助金プログラムをデザインするにあたっては、ADBが並行して実施していた部門別の生産、雇用、収入に関するデータ及びその分析結果が活かされた。
なお、支援対象の絞り込みにあたっては、貧困層、特に女性を重視した。パンデミックの影響を最も強く受けている飲食店やホテル等のサービス業では相対的に女性従業員が多いこと、そして、4P対象世帯の85%の世帯主が女性であることに示されている通り、生活困窮世帯の多くが母子家庭であるためだ。
(2)実施状況のモニタリングと成果管理
危機対応のための、ほぼ無条件での緊急財政融資であるからこそ、実施状況のモニタリングと成果管理は、平時のプロジェクト融資以上に重要だ。この点、ADBはフィリピン政府とともに経済対策の実施状況や効果等について四半期に一度分野別に議論しフォローアップをするための「Country Engagement Framework」を設けている。また、CPROを活用した経済対策を通じて達成するべき成果について、フィリピン政府とADBが共同作業を通じて、「何を、いつまでに実現するか」を項目別に具体的な指標をもってまとめた枠組みを準備段階で作成し、実施段階で定期的にモニタリングをしている。以下に、その一部を紹介したい*18。
(3)多段階アプローチ:
危機が長期化するにつれ、政府は追加の経済対策を打つ必要に迫られる。ADBにも初期のグラントでの緊急支援、そして1,500億ドルのCPRO提供に続き、切れ目なく支援を展開していくことが求められる。但し、その際は、CPROのようにほぼ無条件に財政支援を提供するのではなく、パンデミックからの回復をより力強く持続的なものにしていくための制度改正を後押しするかたちで資金を提供していくことが必要だ。こうした問題意識の元、フィリピンに対しては、CPROに続き、資本市場改革に向けた政策支援型融資(4億ドル:2020年5月)、社会保障拡充プロジェクト(5億ドル:2020年6月)、農業部門の生産性と包摂性向上に向けた政策支援型融資(4億ドル:2020年8月)が実施されている。いずれも危機前から準備が進められていたプロジェクトだが、パンデミックの影響を和らげ力強い回復を実現するために内容の変更が加えられた。
(4)One-ADBのプロジェクトチーム編成:
平時であれば、フィリピン政府向けの財政支援は、ADB東南アジア局の公共財政管理専門のスタッフがプロジェクトチームを構成し、政府との対話を通じてプロジェクトをデザイン、その内容を、最終的に理事会に提出されるプロジェクトの稟議書(RRP:Report and Recommendation of the President)に落とし込んでいく。ただし、稟議書作成の過程で、行内の関連部局に、霞が関風に言えば「合議」をかける必要がある。「環境・社会面の悪影響を予防、緩和する仕組みや、プロジェクト実施に必要な資機材・サービスの調達の方法がADB内規に沿ったものになっているか」、「法律・契約面の文言に問題はないか」、「資金管理の仕組みは十分に強固か」といった視点から、関係部局の専門家たちが寄せる時として膨大なコメントに対し、プロジェクトチームは、チームとしての対応方針を一対一対応でまとめた「コメント・マトリックス」を作成し、修正した稟議書案と合わせて再度担当部局に回付する。こうしたプロセスを通じて寄せられるコメントの多くは「アドバイス」というよりも、それを満たさなければ前に進むことができない「要請」の色彩を強く帯びるため、プロジェクトチームは、関係部局からの納得、支持が得られるまでこのプロセスを粘り強く繰り返す必要がある。
CPROを含めたCOVID19危機対応のプロジェクトでは、よりスピーディ且つ柔軟な支援を展開するために、関係部局の担当者をプロジェクトチームに当初から加え、「One-ADBプロジェクトチーム」で臨む体制を作った。これにより「メールで送られてきたプロジェクトの内容の中で、自分の部局に関係のあるセクションが、自分の所管するルールに即したものとなっているかチェックする」という視点に留まりがちだった関係部局のスタッフが、「問題を如何に解決し、プロジェクトをどうやって前に進めるか」という全体感、柔軟性、そしてオーナーシップある視点をもって関われるようになる。結果、より合理的で迅速な意見集約が可能になり、プログラムの組成にもスピード感が出てくる。しかしこのアプローチは、同時に多数のプロジェクトの内容をチェックしなければならない関係部局のスタッフに、より多くの時間と労力をかけることには留意が必要だ。
(5)他機関との連携・協働
CPROを通じて支援する政府の経済対策を公衆衛生上、疫学上の観点から効果的なものとするには、専門的な知見を擁するWHOとの連携が欠かせない。また、巨額の経済対策に必要な資金をADBだけで融通するには限界がある。他の二国間・多国間援助機関と協働し、それぞれが持つ知見・資金を集めることが必要だ。CPROはその触媒の役割を果たしている。例えば、2020年12月末までに提供された総額約100億ドル、26か国に対するCPROのうち10件がADBのパートナー機関からの総額65億ドルの協調融資を実現している。なお、最大の協調融資相手はAIIB(アジアインフラ投資銀行)*19であり、上記フィリピンを含む8か国*20へのCPROに対して39億ドルの協調融資を提供した。

5.フィジー・エアウェイズ向け民間融資の提供
ADBが2020年4月に公表した200億ドルの支援パッケージのうち約20億ドルは、民間企業向け投融資だ。以下ではCOVID19対応の民間企業向けサポートの中で、最も革新的であり、且つ難産であった取引の一つ、フィジー・エアウェイズに対するADBの支援にスポットライトを当てる。
(1)苦境に陥った太平洋の翼
観光業のGDPへの貢献が極めて大きい一方で、医療体制が脆弱であることから早期かつ長期の国境閉鎖に踏み切らなければならなかった太平洋の島嶼国は、ADBがカバーするどの地域よりもCOVID19危機の影響を大きく受けている。
下のグラフが示す通り2020年においてCOVID19により受けた経済損失はGDPの3割以上に上り、且つその8割近くが海外からの観光客の消滅が原因だ。太平洋島嶼国の雄、フィジーも例外ではない。毎年総人口とほぼ同じ90万人近くの観光客を海外から受け入れることで平均5%の経済成長を過去5年間続け、2019年5月には太平洋島嶼国としては初めて、参加者総数約3,000人の大規模な国際会議-第52回ADB年次総会-を成功裏に催したフィジーであったが、2020年の実質GDP成長率はマイナス17.1%という悲惨な状況に陥っている。早期の国境封鎖により国内のCOVID19感染の抑え込みには成功したものの、その巨大な副作用として、観光業だけでGDPの3分の1を稼いできた一本足打法ともいえる産業構造が脆くも崩れ去ってしまった。
表.アジア途上国への新型コロナの経済的影響試算(「新型コロナなし」のベースラインと比較)

こうしたなか、無事故、ハイクオリティーのサービス、最新の機体をもって過去5年間で旅客数を27%も伸ばし、フィジーの国際線市場の65%のシェアを握っていた同国のナショナルフラッグであるフィジー・エアウェイズは、世界中の他の航空会社と同様、乗客の蒸発により深刻な経営難に陥った。そして、フィジー・エアウェイズの経営難は、同社及びフィジーだけの問題にとどまらない。同社はフィジーだけではなく、太平洋地域全体の航空需要の約6割をカバーしており、キリバス共和国で暮らす20万人、ツバルで暮らす約1万人の人々にとっては、国外への移動を可能とするほぼ唯一の翼だ。その機体は、旅客を運ぶだけでなく、物流の要としても機能している。サイクロン等の自然災害発生時には緊急支援物資を太平洋の島々に届ける役割を担い、COVID19パンデミック発生以降は、医薬品を含め多くの生活必需品を運んでいる。すなわち、フィジー・エアウェイズはフィジーにとって欠かせないナショナルフラッグキャリアであるとともに、太平洋地域の島嶼国全体にとって死活的に重要な「地域の公共財」なのだ。
写真:フィジーの隣国、人口約20万人サモアの国際空港に着陸したFiji Airwaysの機体。フィジーをはじめ、太平洋島嶼国への出張の際は、筆者もFiji Airwaysにお世話になった。
(2)支援をめぐるジレンマ
2020年4月下旬の段階から、フィジーの首都、スバに事務所を構えるADBの現地事務所のスタッフには、同社及びその主要株主であるフィジー政府からフィジー・エアウェイズへの支援要請が寄せられていた。同社が担う極めて重要な役割を認識していたADBのスバ事務所のスタッフは同社への支援実行に向けて具体的な協議を始めた。しかし、そのプロジェクトが合意に至るプロセスは、結果として年末まで約8カ月を要する難儀なものとなった。
フィジー・エアウェイズはフィジー政府が過半数の株を所有するいわゆる国有企業であるが、観光客の消滅による税収の激減と、失業手当の拡充、医療体制の充実等に係る歳出拡大圧力に直面していた政府は、国際機関から借金をしてその救済に充てることには慎重*21であり、ADBに対しては、政府からの保証の付かない、いわゆるノン・ソブリン融資の提供を期待していた。しかしADB内では「パンデミック下で需要回復が見込まれない航空会社に対して政府保証もつかない融資をすることは、リスク管理の観点から極めて困難」という声が大勢。フィジーはADB発足以来の原加盟国であり、ADBとフィジー政府との関係は良好且つ深いものであったが、ADBはこれまでフィジーの民間企業に対して融資したことがなかった。さらに、航空会社に対する融資は未体験ゾーンであったことから、知見のない市場、分野への融資には慎重にならざるを得なかった。
(3)壁を乗り越えるOne ADBチーム
政府のカウンターパートであるADBの太平洋地域局のスバ事務所職員と、民間企業を相手に仕事をする民間部門業務局のスタッフが協議を重ね、フィジー政府及びフィジー・エアウェイズと交渉を続ける中で、ようやく一つの妥結に至った。すなわち、ADBの民間部門業務局からの融資には政府からの100%の保証を付ける。但し、フィジー政府の負担を軽減するためにADBのソブリン融資契約に通常盛り込まれるリスク管理に関わる一部条項を除外。そして、金利や返済期間等の条件は、政府向け融資よりも高い、フィジー・エアウェイズのリスクに見合ったものに設定。これにより本件は政府保証が付きつつもノン・ソブリン向けの融資という異例の「ハイブリッド」となった。また、航空業界に関する知見がADB内に十分に蓄積されていなかったことを踏まえ、民間金融機関の専門チームにファイナンシャル・アドバイザーを引き受けてもらい、航空市場の分析や、ファイナンシング・モデルの前提の妥当性を検証してもらった。さらに、ADBだけで必要な資金を担うのではなく、JICAの民間連携室とADBが2017年に締結・設立した「アジアインフラパートナーシップ信託基金 (“Leading Asia’s Private Infrastructure Fund”:LEAP)」を通じて追加で2,500万ドルの協調融資を実現*22することでリスク分散を図った。
こうしてフィジー・エアウェイズがCOVID19という未曽有の乱気流を乗り切るための「フィジー・エアウェイズ流動性供給ファシリティ」が総額6,000万ドルの規模で立ち上がった。ADBのスタッフが所属部局の壁を越え、苦境に陥った顧客に対してタイムリー且つテイラーメイドな支援を提供するために協働する「One ADBアプローチ」、そしてADBと世界中の多様なプレイヤーが資金と知恵を出し合うパートナーシップが、「太平洋の翼」への支援を実現するうえでの大きな原動力、付加価値となったのだ。
なお、フィリピン向けCPRO際も紹介したが、異なる専門性を持ち、局間の人事異動も稀なことから縦割り思考に陥りがちなADBスタッフが、共通の目的のために、その垣根を越えて協業するOne-ADB Approachの実現や、これまで未体験だった分野に果敢に挑戦していく姿勢は、パンデミックがADBにもたらしたポジティブな副産物といえるだろう。こうした副産物を明確に認識し、そして定着させていくための取組みを進めることが、今後のADBの組織経営、及び途上国への支援にあたって必要だ。

6.史上最大の支援を支えた資金調達
次ページの図が示す通り、2020年4月に打ち出した200億ドルの支援パッケージに基づき、ADBは2020年末までに政府及び民間部門に対して総額163億ドルを、ローン、グラント、保証、技術協力の形で提供した。結果、2020年のADBの総コミットメント額(ADBの理事会合意を経て、政府、民間企業とのローン等の契約に至った金額)は前年の240億ドルを3割以上上回る、総額316億ドル。史上最高となる金額に達した。また、契約締結後、直ちに支払われるCPRO(緊急財政支援)が支援の多くを占めたことから、ADBから政府あるいは企業に対して実際にお金が支払われた額も、史上最高となる236億ドル(対前年比4.3割増)にのぼる。そして、こうした史上最速・史上最大の支援を財務面からの支えたのが、史上最大規模の起債だ。
ADBをはじめとする多国間開発銀行(Multinational Development Banks)は、自らが、資本市場から有利な条件で資金を調達できて初めて、途上国に対して、彼らが市場から調達するよりは低利且つ長期の返済期間で融資をすることができる。この点、2020年は、ピエール・ペテガン局長率いるADB財務部にとっても記録的な年であった。200億ドルの支援パッケージを財務面から支えるべく、数多くのシナリオに基づくリスク分析、市場分析、資産・負債分析を実施したうえで2019年末に策定した借入計画を見直し、総額350億ドルの起債に成功した。様々な返済期間、22の通貨建てで実施された146の取引の中には、MDBs初となる、モンゴル・トゥグルグ連動債(ノマド債210億トゥグルグ)やパキスタン・ルピー連動債(カラコルム債18.3億ルピー)*23といった途上国の現地通貨建ての債券が含まれる。投資家及び途上国政府との緻密な対話を通じてデザイン、発行される現地通貨建ての債券は、借り手及び貸し手双方の為替リスク低減に役立つため、特に民間企業向け投融資に役立つほか、その国の債券市場の深化にも貢献する。さらに、借り入れた資金の使い道をSDGsの主要テーマに限定するグリーン債、ジェンダー債、ウォーター債といったテーマ別の債券を2020年に12億ドル発行し、SDG投資の拡大も後押ししている*24。
なお、ADBがCOVID19危機に際して強力かつ多彩な起債をもって史上最大の支援ができたのは強固な資本基盤を有していたからに他ならない。この点については、中尾武彦前総裁のリーダーシップのもとで実現した株主からの増資に頼らない革新的な資本強化策-ADF(アジア開発基金)の資本金及び貸付債権の一般資本財源への移転・統合-が果たした役割が極めて大きい。この点については、次号にて、ADBがCOVID19危機に際して、迅速・柔軟な対応ができた要因の一つとして焦点を当てる。
図.ADBの新型コロナ対策(2020年)

7.長期化する危機と組織経営上の課題
これまで、パンデミックで経済、財政、社会、そして公衆衛生上の危機に陥ったアジア・太平洋地域の途上国に対し、ADBが刻々と変化する状況や顧客のニーズに合わせた柔軟な支援を、規模感とスピード感をもって、そして多様なプレーヤーとの協業しながら展開してきたことを紹介してきた。ADBのこうした活動を支えてきたのは、いうまでもなく、約3,600人のスタッフ、及び契約社員(コンサルタント)やサポート業者だ。危機が本格化して以来、週末や深夜も含め、また夏休みや年末年始も返上で激務を続けてきたスタッフの使命感に満ちた奮闘、献身に対しては、途上国の政府や企業、そして株主代表である理事会メンバーから、様々な機会を通じてたびたび感謝と称賛のメッセージが伝えられている。しかし、この状況は、持続可能なのだろうか。危機は一体いつ収束するのだろうか。オフィスでの勤務は、いつ、どういう条件が整えば、再開することができるのだろうか。本稿の締めくくりに、2020年3月12日の本部閉鎖以来、浅川総裁が「危機対応チーム」のメンバーとともに、スタッフの声を聞きながら悩み続けてきたこうした問題について向き合っていきたい。
(1)正常化への遠い道のり
ラクシュミ・メノン総務部主席部長が議長を務める危機対応チームが、ADB本部の再開、スタッフの再出勤に向けた四段階のステップをまとめたガイドラインをスタッフに発表したのは2020年5月22日のことだった。
マニラの本部は2020年6月9日より上記ステージ2に移行したものの、同年8月初旬から市中感染が再拡大したことを踏まえてステージ1に逆戻り。9月にはステージ2に復帰したものの、今年3月以降、変異種の拡大等により一日の感染者が一万人を超える事態となり、3月29日から4月11日まで政府が三度ECQをマニラ首都圏及び近隣4州に対して適用した間、またもやステージ1に逆戻りしてしまった*25。
在宅勤務と合わせて、インターナショナル・スタッフの約4割(約400名)は勤務地外からの勤務(WFH-ODS:Work From Home, Outside Duty Station)を選択し、本人あるいは配偶者の本国等から勤務している。マニラの医療体制への懸念、子供の教育や成長への配慮等、理由は様々だが、マネジメントとしては、本人からの希望があった場合、原則認めることとしている。多くの同僚たちがマニラを去ったまま1年以上が過ぎ、そのオフィスや自宅は、いつとも知れぬ主の帰りを待っている。本部は閑散としており、ステージ4はもちろん、ステージ3への移行のタイミングも見通せない。正常化への道は遠い。
なお、浅川総裁、及び筆者も含めた総裁室のスタッフは、ステージ1の段階から、ほぼ毎日本部に出勤し、「社会的距離」を保ちながら対面で仕事をしている。無論、総裁も各局からのブリーフィングや理事会への出席だけであれば、自宅からのオンライン勤務は可能だ。しかし、各国の大臣等との面会、大規模なオンラインイベントでのプレゼンテーション、あるいはスピーチのビデオ収録となると、安定したネット環境とITや広報部門のスタッフの直接のサポートが欠かせない。感染予防のためには、スタッフが入れ替わり立ち代わり総裁の自宅を出入りする状況は避けなければならない。
(2)スタッフの不安や悩み
多くの人々が抱いていた「SARSと同様、半年程度で鎮静化するのでは」との当初の期待を嘲笑うかのように、時がたつほどCOVID19はその広がりと深刻度を増していく。非日常が日常化し、不確実性の霧の中で日々が過ぎていく中、多くのADBスタッフは仕事に奮闘しつつも、生活面、精神面での負担感の高まりを感じている。スタッフの現状や悩みをつぶさに、全体感をもって把握するために、「危機対応チーム」は2020年5月と10月に全スタッフ及び契約社員(コンサルタント)と契約業者に対して在宅勤務に関するアンケート調査を実施した。在宅勤務がスタートした半年後の10月に実施した調査の結果を見ると、82%が「在宅勤務を継続することについて賛成」としている一方、その割合は5月の調査よりも4%ポイント微減、「現状の業務量を在宅勤務で継続することが可能」と答えは5月時点の80%から72%へと減少している。背景にある事情は、アンケート調査で寄せられた「在宅勤務の利点と問題点」を見ることで浮かび上がってくる。
在宅勤務の長期化に伴い、スタッフ同士のコミュニケーション、特に同じチームや課以外の同僚との接点の減少を懸念する声が多く聞こえる。また、業務過多については、COVID19危機対応でプロジェクトの数やスピードが増したことと合わせて、セミナーやイベントへの参加が増したという声も、特にノレッヂを担う部門の職員から多く聞えてくる。平時であれば出張をして物理的に臨むことが求められたため、日程が合わない等の理由で取捨選択ができたが、全てのセミナーやイベントがオンラインで開催される中、参加を断るのが難しくなっているという事情もあるようだ。
また、マニラでは全ての教育機関(インターナショナル・スクールや日本人学校も含む)が2020年3月半ば以降、一年以上閉鎖されたままであり、対面授業は、部分的な再開の目途すら立っていない。こうしたなか、スタッフの子供の教育への懸念は高まる一方だ。日中子供が家で過ごしていれば、その監督や世話で、業務の生産性が落ちることもあるだろう。さらに、頼りのメイドさんが、ロックダウンによる公共交通機関の運行停止で家に来ることができない、ということになれば、状況はさらに深刻になる。こうした事情故、4割のインターナショナル・スタッフがマニラを出て、本人あるいは配偶者の本国等から時差を超えて勤務をしていることは既に述べた。状況がいつ好転し、本部がいつ再開するか、見通しが立てづらい。しかし、子供の学費は学期単位であり、また年度途中の急な、あるいは頻繁な引っ越しは家族への負担が大きいため、どこで勤務をするのか、ある程度長期的な計画を立てていきたい。こんなジレンマが、インターナショナル・スタッフの不安や苛立ちを高める要因となっている。
(3)マネジメントの対応
浅川総裁以下、ADBの「危機対応チーム」は、危機発生当初から、「職員の懸念の丁寧な把握や直接のコミュニケーションは経営上の最優先課題」との認識のもと、様々な取り組みを進めてきた。例えば、2020年3月12日の本部閉鎖以降、2カ月に一度のペースで約3,600人の全スタッフとその家族、理事会メンバー、そして契約社員をオンラインでつないで「E-Town Hall Meeting」を開催。総裁は毎回出席し、冒頭に直接スタッフに対して語りかけている。「E-Town Hall Meeting」では事前にスタッフから質問を集め、当日、危機対応チームのメンバーがプレゼンテーションを通じて質問や懸念に丁寧に答えている。また、毎日全職員宛てにメールで発信される社内報ADB-Todayやイントラネット上に設けた特設サイトでの情報共有については、前号で触れた通りだ。さらに、広報部の主導で、孤独感やストレスがたまりがちな在宅勤務において、気分転換をしたり、仕事の生産性を上げたりするための「ちょっとした工夫」を、有志のスタッフや幹部がユーモアたっぷりに発信する動画「Your WFH (Work From Home)Story」も作成・配信されている。
また、各種手当についても、総裁と予算・人事システム局の幹部が中心となって熟議を重ね、柔軟化や拡充が図られてきた。例えば、インターナショナル・スタッフを対象とする教育手当や住居手当は本人が勤務地(マニラ)で勤務することが支給の前提であるが、約4割のインターナル・スタッフが長期にわたり勤務地外勤務を選択していることを踏まえ、この要件を時限的、例外的に外した*26。これでスタッフ本人が勤務地外にいても、手当を受け取り、子供の教育費やマニラで空き家状態になっている家の家賃に充てることができる。ローカル・スタッフについては、在宅勤務に伴って嵩む電気代、インターネット代や、新たに必要となった業務用のいすや机の購入等のために、四半期に一度200ドルの特別手当を支給することを2020年5月に上旬に決定した。ローカル・スタッフの中には、共働きで家計を支えてきたパートナーが、COVID19に伴うロックダウン等の影響で失業してしまった者もいることにも配慮しての措置だ。また、ステージ2、ステージ3と移行していくにあたり出勤が求められるローカルスタッフに対しては、出勤時の感染リスクを抑えるためにタクシーやグラブでの出勤を奨励、これに係る交通費については補助を出している。
さらに浅川総裁は、2021年2月に全職員に対して発信した「President Planning Direction」の冒頭で「スタッフの福利がマネージメントにとって引き続き最優先課題」と明記し、各局の管理職には、スタッフのワーク・ライフ・バランスに厳に留意しつつ、業務計画を作るよう求めた。その際、「Project quality is more important than volume(プロジェクトの量より質が重要)」とのメッセージも発信し、従来必ず盛り込まれていた、各局別のコミットメント額やディスバースメント額等のボリュームに関する数値目標の設定を見送っている。
こうしたマネジメントの取組みの甲斐もあり、昨年10月に実施した職員等向けアンケートでは、日々厳しい環境下で奮闘をするスタッフの80%が「ADBでの仕事に今まで以上にやりがいを感じる」、83%が「ADBはスタッフのニーズに人事政策や手当を通じて柔軟に対応している」と回答している。
しかし、危機は長期化、日常化している。そして、昨年末からは、安全で効果のあるCOVID19ワクチンを、可能な限り迅速に、そして公平に、途上国の人々に届けるという、新しい課題が浮上。ADBはこの課題にも立ち向かい、途上国ととともに危機を乗り越えていかなければなならない。
「パンデミック下の途上国支援」シリーズ、最終回となる次回は、「危機を乗り越えるアジア開発銀行」とのタイトルのもと、ADBが2020年12月11日に公表したワクチン支援のための90億ドルの新ファシリティー「APVAX:Asia Pacific Vaccine Access Facility」の概要とその展開にスポットライトを当てる。そのうえで、締めくくりとして、ADBがCOVID19危機に際して、史上最大の規模の支援を迅速・柔軟に提供できた要因について、探っていく。

筆者略歴
2001年財務省入省、主計局、広島国税局等を経て、2008年よりハーバード大学院ケネディスクール留学。公共政策修士号取得。以降、国際金融・途上国開発、国際租税分野等の政策立案を担当。2011年夏より3年間、世界銀行に出向、バングラデシュ現地事務所及びワシントン本部にて開発成果の計測・モニタリングの仕組みの立上げと展開に尽力。
2017年7月にアジア開発銀行総裁首席補佐官に就任。中尾武彦前総裁、浅川雅嗣現総裁のトップ外交、組織経営全般を補佐。
著書「ハーバード・ケネディスクールからのメッセージ~世界を変えてみたくなる留学~」、「バングラデシュ国づくり奮闘記~アジア新・新興国からのメッセージ~」(共に英治出版)

*1)出典:ADB News Release | 1 April 2020 “ADB Launches  Million Project to Provide Food Supplies to Philippine Households Hard Hit by COVID-19”
*2)詳細は「パンデミック下の途上国支援~其壱:マニラの最貧地区でコロナ禍を生きる人々の苦悩と挑戦~」(ファイナンス2021年4月号)を参照されたい。
*3)詳細は「「パンデミック下の途上国支援~其弐:危機に起つアジア開発銀行」(ファイナンス2021年5月号)の「6.グラント資金の動員と医療物資の緊急調達支援」を参照されたい。
*4)FASTの制度概要と、これを通じた中国武漢の医療物資物流企業への融資については、「パンデミック下の途上国支援~其弐:危機に起つアジア開発銀行」(ファイナンス2021年5月号)」の「3.最前線での動き(1)中国、武漢の医療物資物流企業への緊急融資」を参照されたい。
*5)出典:ADB News Release | 13 April 2020 “ADB Triples COVID-19 Response Package to 0 Billion”
*6)2009年に導入されたCSFは市場からの借入が出来る一定の信用力と一人当たり1,185ドル以上の国民所得ある途上国(Group-C:15か国、Group-Bの7か国)のみが対象。信用力及び一人当たりの国民所得が低い国や脆弱国等(Group-Aの18か国(アフガニスタン、モルジブ、タジキスタン、太平洋島嶼国等)にはアクセス権がない。
*7)CSFの条件:金利は6か月Libor+200 basis point、返済猶予期間は3年、返済期間は5-8年
*8)PBLの条件:金利は6か月Libor+50 basis point、返済猶予期間は3年、返済期間は15年(ADBの通常資本財源(Ordinary Capital Resources)を原資とする一般条件のPBL)
*9)CPROの条件:Group C向け金利は6か月Libor+50basis point、返済猶予期間は3年、返済期間は10年(但し5億ドルを超える貸付の返済期間は5年に短縮)、Group-B向けの金利は2%、返済猶予期間は5年、返済期間は25年、Group-A向けの金利は返済猶予期間(8年)は1%、返済期間(24年)は1.5%
*10)対象国の危機前のマクロ経済運営及び債務の持続可能性については、CPROの理事会承認前に取り寄せるIMFのAssessment Letterの内容をもって確認することが必要。
*11)Concept Noteはプロジェクトの目的、必要性、所要額、基本的なデザイン、実施体制、環境・社会への影響に関するリスクカテゴリー等が盛り込まれ、関係部局との協議を経たのち、担当局長の承認を得てセットされる。このプロセスに通常数カ月を要する。
*12)2019年のADBの業務純益(Allocable net income)は10億6,900万ドル。2019年末時点でTASFへの9,000万ドルの移転(APDRFへの移転はゼロ)が理事会に提案されていたが、包括支援パッケージを策定する中で、TASFへの移転額を4,000万ドル追加し1.3億ドルとするとともに、APDRFに対する1,000万ドルの移転が提案された。なお、ADB の業務純益を内部留保、ADF(アジア開発基金)やTASF等の特別基金にいくら移転するかは毎年12月に理事会で議論をしたうえで、翌5月の年次総会にて総務の承認を得て決定される。
*13)日本からの1億5千万ドルの拠出のうち半分(7,500万ドル)がAPDRFに、残り半分がJFPR(Japan Fund for Poverty Reduction)に充てられた。出典:ADB News Release | 30 April 2020 “Japan to Support ADB Developing Member Countries' Response to COVID-19 Challenges.”
*14)APDRFを通じたグラント支援は、対象国からの要請がAPDRFの要件を満たすことを確認された後、72時間以内に総裁決裁を経て直ちに全額が支援対象国に対して支払われる。
*15)但し、必要性が認められる場合には理事会の承認を得たうえで最大2年(2022年4月まで)の延長が認められる。
*16)有限なCPROの財源が「早い者勝ち」で費消されることがないよう、グループ別に設けた上限の目安(Group-C:1,500億ドル、Group-B:500億ドル、Group-A:250億ドル)と名目GDPの0.5%かのいずれか小さい額を国別の上限額として設定した。また名目GDPが極めて小さい太平洋の島嶼国等が必要十分な額のアクセスを得られるよう、2,000万ドルを下限として設定した。なお、一人当たりの国民所得や市場からの信用力高いGroup-Cの国々により大きな上限枠を設定しているのは、こうした国々への融資条件が市場金利に即した水準とされているためADBのバランスシートへの負荷が、長期・低利の融資の対象となるGroup-BやAの国々に対する支援よりも低いためである。
*17)4P:フィリピン政府が2007年に導入、社会福祉開発局が所管する貧困層向け条件付き現金給付プログラム。人口の約20%を占める貧困家庭の0歳から18歳までの児童に対して現金を給付。世帯の子ども一人に対して(1)子供の健康向上のための費用として月額500ペソ、(2)教育費用として月額300ペソが政府系銀行(Land Bank of the Philippines)の窓口または携帯電話の送金機能を通じて給付される。また、現金の給付条件として両親およびその子どもに対して以下、全ての要件を満たすことが求められている。
・妊娠している母親は出産前、および出産後のケアを受けること。また、出産時は適切な訓練を受けた助産師が同伴していること。
・保護者は家族開発(育児、健康、栄養等)に関する研修に参加すること。
・0歳から5歳までの子供は定期的に健康診断とワクチン接種を受けること。
・6歳から14歳までの子供は年に2回の駆虫薬の服用、3歳から18歳までの子供は学校に通い、毎月の授業の出席率が85%以上でなければならない(出典:JETRO:ASEANにおけるヘルスケア制度・政策調査)
*18)出典:Design and Monitoring Framework, Appendix1, Proposed Countercyclical Support Facility Loans Covid19 Active Response and Expenditure Support Program (Philippines), COVID19 Active Response and Expenditure Support Program Monitoring Report (July-December 2020)
*19)AIIBは2020年4月3日に「COVID19 Crisis Recovery Facility」の立上げを公表。2021年9月末までの18カ月で総額50億ドル(4月17日に100億ドルに総枠を倍増)の資金を(1)医療部門のインフラ強化プロジェクト、(2)民間金融機関を通じた民間企業に対するツーステップローン、(3)政府向けの財政支援を通じて提供する旨公表。この内(3)については、世界銀行あるいはADBとの協調融資に限って実施するとしている。(出典:AIIB Press Release, April3, 2020, AIIB Looks to Launch USD5 Billion COVID-19 Crisis Recovery Facility)
*20)インドネシア、バングラデシュ、フィリピン、モンゴル、インド、パキスタン、カザフスタン、クック諸島向けCPROはAIIBとの協調融資。なお2016年1月のAIIB創業以来2021年4月までの間、AIIBは23のADB融資プロジェクト・プログラムに対して総額約57億ドルの協調融資を提供している。
*21)フィジーの財政赤字は対GDP比で2019年度の3.6%から2021年度には20.2%にまで増加、債務残高の対GDP比は2019年の49.3%から2021年度には83.4%にまで、それぞれ増加することが見込まれている。
*22)出典:JICAニュースリリース「JICAが出資する信託基金“LEAP”を通じた支援(海外投融資):フィジーの航空運営事業への融資を通じたCOVID-19対策支援」(2021年3月12日)
*23)ノマド債、カラコルム債は、それぞれモンゴルの通貨トゥグルグ、パキスタンの通貨ルピーで価額が表示されるが、決済はドルで行われる(出典:ADB Opens Mongolian Togrog-Linked Bond Market News Release | 3 June 2020)。なお、ADBによる現地通貨建ての貸付残高は2020年末時点で11の途上国現地通貨建てで約23億ドル相当(全て民間セクター向け)となっている(出典:ADB Treasury Report 2020)。
*24)ADBは2010年に初めてのテーマ債―Water Bond-を発行して以来、Gender Bond(約3億ドル)、Health Bond(3.3億ドル)、Water Bond(15.9億ドル)、及びGreen Bond(76億ドル)を発行している(出典:ADB Theme Bonds for Sustainable Development, November 2020)。
*25)2021年4月12日にM-ECQへと規制が緩和されて以降、再びステージ2へと戻っている。
*26)本例外措置は2020年6月に発効。当初は2020年末までであったが、その後2021年7月末に延長され、2021年2月末には、2022年7月末まで再延長することが決定、アナウンスされている。