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植田日本銀行総裁、三村財務官共同記者会見の概要(令和7年10月16 日(木曜日))

【冒頭発言】

財務官)先ほど、G20財務大臣・中銀総裁会議が終わっておりますので、まずは私の方から、全体像あるいは財務省の関連の話をさせて頂いて、その後植田総裁からご発言を頂こうと思います。
 本日は2日目でございます。まず、日本からは、昨日に続いて、財務省からは私、それから日本銀行からは植田総裁にご出席頂きました。本日のセッションでありますが、2つセッションが大きくありまして、1つがアフリカの開発、それから続いて金融セクターの議論を行ったところです。
 昨日の私の発言はもう皆様方にブリーフィングをしておりますので、本日の2つのセッションについての私からの発言について、ご紹介をいたします。まずアフリカの開発に関連してですが、私から、日本はこれまで長らくアフリカのキーパートナー、重要なパートナーでありたいということで取り組んできた、ということを申し上げた上で、ご承知のように今年の8月にTICAD9、第9回アフリカ開発会議を主催しており、その中で民間セクター開発や、債務の持続可能性あるいは債務の透明性の問題、それから国内資金動員やアフリカのオーナーシップ、こういったことについてアフリカ各国等と深く掘り下げて議論を行ったのだということを、まず紹介しております。
 その上で、今回南アフリカ議長国が提案をしたアフリカ・エンゲージメント・フレームワークというものがございます。アフリカ諸国が直面する課題の解決に向けて、5年間ぐらいの契約で中期的に取り組んでいこうというイニシアティブであります。これについて、日本としては支持をするということを表明した上で、今後G20が、ほかにも色々なアフリカの作業、今までにやってきているものがありますので、作業の重複は避けながら、ぜひG20で協調してアフリカ支援に取り組んでいこうということを申し上げました。
 それから、続いて最後のセッション、金融セクター、これが今回の議論の事実上の最後のセッションでしたが、これにつきましては、まずFSBが今回G20金融規制改革の実施モニタリングレビューの中間報告書というのを出しております。ちょっと名前がややこしいですけれども、リーマン・ショック以来、ご承知のようにFSB、バーゼル委員会、その他色々な基準設定主体と、様々な金融規制改革に取り組んできておりますが、これがきちんと実施できているのかどうか、特にFSBがやっている勧告の実施のためのモニタリングの作業が有効だったかどうか、このモニタリング自身の有効性について、この際改めてレビューをしてみようということで、現議長下で取り組んできたものであり、その中間報告書が出たということです。これをまず日本としても歓迎をした上で、ぜひ合意された勧告で実施が遅れているものがあれば、その遅れた理由についてもぜひ深掘りをしてほしいと申し上げました。すなわち勧告の実施の遅れについては、色々な理由があるはずで、それは政治的なモメンタムの欠如ですとか、あるいは各国の能力の制約の問題ですとか、あるいはそもそもこの基準から意図せざる結果が出てきていたり、あるいは逆に合意した実施スケジュールそのものが野心的過ぎるとか色々な理由がありますので、この辺りをしっかりと分析して、その上で、FSBは来年最終報告書を出しますので、ぜひ包括的な分析結果を来年の最終報告書に反映してほしいということを申し上げております。
 それからもう1つ、この金融セクターの中で、暗号資産とステーブルコインについても議論になりました。これについては私から、ご案内のとおり、最近まで含めますと暗号資産、ステーブルコインについて、かなり色々な国・地域が規制を導入し始めているということで、そのこと自体はまず歓迎した上で、ただこういった規制あるいは監督について、各国がそれぞれ違うアプローチをとると、どうしてもこれは市場の分断につながって、それ自体が問題を起こす、あるいは公正な競争環境の確保という観点から問題になるということもあり得るので、そういった観点も念頭にFSBは、暗号資産やステーブルコインについて、recommendationを出していますので、このrecommendationに沿った各国地域の規制監督の取組みが進むように、FSBとしても取り組んでほしいということを申し上げております。
 それから暗号資産、ステーブルコインについて、もう1つよく問題になり、また日本としても重視をしているのが、AML/CFT、マネーロンダリング対策ですとかテロ資金供与対策上のリスクへの対応でございます。それに関連しては今、FATFにおいて、DeFi、Decentralized Finance、いわゆる分散型金融とよく言っておりますが、このブロックチェーンなどでやるような金融の仕組み、それから業者を通さずに顧客同士が相対で直接取引をするP2P、こういったものに起因する新しいタイプのリスクというのがAML/CFTの世界で出てきています。そういったリスクについて、FATFの引き続きの取組を期待、支持するということを申し上げました。
 最後に、G20自体の具体的な文書という意味での成果物ということになりますが、まず議長国から全体のテーマをカバーした議長総括、chair's summaryというものが公表されています。
 それからもう1つは、G20の財務大臣の合意文書ということで、債務の持続可能性に関する閣僚宣言というものが公表されています。これらの文書につきましては、時間の関係もございますので、今この場ではなく、後ほどまた改めて私から皆様にブリーフィングをさせていただきます。
 私からは以上でして、植田総裁から日銀のターンをお願いしたいと思います。

総裁)私からは一言だけ、G20に関する感想といいますか、G20の世界経済に関するところ、議論に関するまとめないし感想のようなことを申し上げます。
 世界経済についてですが、これまでのところは、英語で言いますとresilientですかね、強靱さを見せているわけですけれども、引き続き高い不確実性や、あるいは進行中の戦争及び紛争、それから地政学や貿易の緊張といった複雑な課題に直面していまして、こうした課題が中期的な成長に下方リスクをもたらすほか、金融や物価の安定へのリスクを高める可能性があるとの認識が示されたと思います。その上で、こうした世界経済に関する課題、リスクに対処するために多国間協力を強化することの重要性を強調した議長総括に支持が集まったところでございます。

【質疑応答】

問)植田総裁にお願いいたします。海外経済についてなんですけれども、IMFの世界経済見通しでは、世界経済の成長率、上方修正されましたが、直近では米中貿易摩擦の再燃ということで、先行きの不透明感も高まっています。今回の一連の国際会議や当局者の方々とのやりとりを経て、海外経済、とりわけアメリカ経済の先行きや日本経済への影響をどう見ているのか、訪米前と何か変化があったのか新しい発見があったのか、その辺り教えてください。

総裁)まだ会議全体はIMF分がこれからですので、半分ぐらい過ぎたところですので、今後も情報収集に当たるというところですけれども、全般的な世界経済、アメリカ経済の印象としましては、日本で思っていた姿とそれほどのギャップはないということであります。つまり、例えば3月、4月ぐらいの見方と比べますと、ここまでの経済動向はさっきのresilientという言葉がぴったりするような底堅さを見せているということだと思います。
 その1つの理由が、関税の影響の発現がやや遅れている、したがって、ほかの強さもある中で、世界経済、アメリカ経済がかなり好調に推移している面がある。ただ、遅れているということなので、今後出てくるかもしれない。その分は依然として見通しに織り込んだり、下方リスクとして織り込まざるを得ないというのが、いろんな機関あるいは人々の世界経済、アメリカ経済に対する評価ということだと思います。取りあえず簡単ですが。

問)植田総裁に1点お伺いしたいと思います。今回の会見が10月の政策決定会合前の総裁の公の場での最後の発言機会となる可能性があることを踏まえまして、こちらも伺いたいと思います。
 総裁はこれまで、経済・物価が日銀の見通しどおりに確度が十分高まれば利上げをするという形で発言されているかと思います。その一方で、主に昨今の日本国内の政治状況を受けて、10月会合での市場の利上げの織り込み度合いが大きく低下しておりまして、もし利上げとなった場合、混乱を招くリスクがあります。国内政治情勢が不安定化することで金融政策運営が難しくなるのではないかどうかという点に加えて、会合に向けての確度の高まり具合、利上げの可能性等、市場に何かメッセージがあればお願いいたします。

総裁)まず基本的なスタンスとしまして、私どもとしましては、経済・物価見通し、そしてそれをめぐるリスク、そして見通しの確度、こういうものに従って金融政策を決定していくということでございます。したがって、おっしゃったように、見通しの確度が上がって行けば、その度合いに応じて、適宜金融緩和の度合いを調整していくという姿に全く変わりはございません。
 その上で今回の会合との関連で、10月の会合に向けてどうかということですが、これは先ほど申し上げましたように、まだワシントンでの会合は途中ですので、もう少し情報収集に当たり、それから10月末にかけて出てくるデータあるいは情報も加味した上で、10月の会合であれば、その時点での情報、データ、人々の見方、メンバーの見方をまとめて議論して、そこで決定するということでございます。

問)三村財務官にG20の在り方について伺います。リーマン・ショック以降のG20の議長国は今回の南アフリカで一巡します。来年の議長国のアメリカは、G20の活動の縮小を検討しているというふうに言われていますけれども、それを踏まえてこれまでのG20の歩みをどのように評価されるのか。また、アメリカのG20の縮小についてご見解を教えてください。

財務官)アメリカが来年どういう議事運営をするかは、アメリカが決める話ですから、私どももメンバーの一員ではありますけれども、まずアメリカが決める話ですので、あまり私の方から先走ったことは申し上げませんが、おっしゃるように、今年の南アで議長国が一巡をするということで、私も自分自身が第1回目から、当時はまだ日本のメンバーというよりFSBのメンバーでしたけれども、参加をしているので、その頃と比較して考えると、当初金融危機の中で始まった今のG20プロセスが非常にその後、色々な課題、テーマに間口を広げていき、世界各国の新興国も含めた集まりとして、色々な経済分野でのプレゼンスを非常に高めたという点は、ある意味では良いことではあります。他方で確かに草創期のG20に比べるとテーマも非常に多岐にわたるようになった上、色々なワーキンググループですとかタスクフォースですとか、そういうものまで引っくるめると、ものすごく会議あるいは会議体の数も多くなりましたし、出てくるレポートもものすごく増えているという面もあります。その中で先ほど縮小とおっしゃいましたけれども、縮小というよりはむしろ少し原点に立ち返って、今後整理・合理化もしながら、その中で本当に重要なテーマについて、閣僚や総裁の間で、あるいは私のような代理レベル、次官レベルの間で、より深掘りをした議論をしていくようにしたらいいのではないか、私の理解では、アメリカは多分そういう理解で来年の運営をしようとしているのではないかと思っています。それ自身は実際に長年このプロセスに関与している者の感想として言えば、私自身もそれは一つのあるべき方向かなと思っていますし、当然日本としても来年の米国議長下のG20においても、日米関係も非常に濃密なわけですし、そういった関係も念頭に置きながら、しっかりと議論に貢献していきたいと思っております。

(以上)