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植田日本銀行総裁、神田財務官共同記者会見の概要(令和6年2月29日(木曜日))

【冒頭発言】

財務官)今日はG20財務大臣・中央銀行総裁会議の2日目のセッションが行われました。先程終了したところであります。議論の内容ですけれども、残念ながら共同声明は合意ができませんで、議長総括(chair’s summary)として公表される予定でございます。
 本日午前は財務大臣が出席する国際課税についてのセッション、それから中銀総裁が出席する金融セクターについてのセッションに分かれて議論を行いました。金融セクターのセッションの議論は、後程、植田総裁からご説明があるかと存じます。
 国際課税のセッションにおいては、私から2本の柱(two-pillar)の解決策について、本年6月末までに多国間条約の署名という合意されたスケジュールに沿って迅速に議論を進める必要性や途上国の国内資金動員のための税制面での技術支援の重要性、またブラジル議長国が重視している超富裕層、スーパーリッチへの課税強化については、実効性を確保するために国際協調の一層の強化が重要である点などについて発言をいたしました。日本以外の多くの国からも2本の柱の迅速な実施の重要性を強調する発言がございました。
 午後には債務及び持続可能な開発資金についての議論が行われました。私からは債務問題について、共通枠組(Common Framework)に係る実施の改善、それから債務の透明性向上の重要性、スリランカの債務再編の状況等について発言をいたしました。またMDB、国際開発金融機関について、CAF(Capital Adequacy Framework)やMDB改革のさらなる実施や、IDA、国際開発協会や、ADF、アジア開発銀行にございますアジア開発基金の増資の必要性などを強調いたしました。議論の結果、債務問題について、引き続きG20の優先課題として取り組むべきとの認識が共有されたと考えております。
 先程も申し上げたとおり、会議の成果は議長総括として取りまとめられる予定です。まだ議長国から議長総括が公表されておりませんが、現時点での我々の認識に基づいてそのポイントをご説明いたします。正確な内容については公表版をご確認いただければと思います。
 今回の会議の成果文書の交渉におきましては、ロシアによるウクライナ侵略などの地政学、ジオポリティクスに関する文言についても議論が行われましたが、文言について合意に至らなかったことから、議長であるブラジルの判断として地政学に関する議論について脚注を付しつつ、脚注以外の部分については我々みんなで合意ができた文書を議長総括として公表する予定と承知しております。脚注の文言、脚注をどういうふうに扱うかについては、引き続き現在も調整中でございます。今回の会議では、少なからずの国からロシアによるウクライナの侵略について、強く非難する発言があるとともに、中東情勢に関して、ハマスによるテロ攻撃への非難やガザにおける危機的な人道状況に関する懸念等について発言する国もございました。日本としては、世界経済に甚大な悪影響を及ぼすロシアによるウクライナ侵略は、引き続き、G20において議論されるべき問題であると考えております。
 議長総括の内容ですけれども、まずG20の議論の焦点として、議長国ブラジルが優先課題に掲げる格差(inequality)への対応、それから途上国の代表制、発言力の強化などに加え、よりよく、より大きく、より効果的なMDBsのための取組、国際課税について、第1の柱の多国間条約の本年6月までの署名を目指すことを含む2つの柱の取組の完了、それから債務問題について適宜に秩序立ち、予測可能かつ連携した方法によるコモンフレームワーク、共通枠組の実施の強化、債務の透明性向上など、日本が重視する、主張してきた従来からのG20の取組が記載されることになっております。
 次に、世界経済が直面する課題として、世界各地の紛争、格差、債務の脆弱性の高まりなどを挙げて、今年のブラジル議長下で新たに立ち上げられた飢餓と貧困、それから気候変動に関する2つのタスクフォースに触れられております。また、世界経済の現状としてはソフトランディングの可能性が高まっているものの、不確実性が高いといった認識が共有されております。マクロ経済政策運営については、十分に調整され、よく意思疎通の図られた財政政策、金融政策、金融規制・監督政策、構造政策と負の波及効果、いわゆるスピルオーバーの抑制の必要性、それから財政政策につきましては、中期的な財政の持続可能性を維持しつつ、貧困層及び最も脆弱な人々を保護するために、一時的で的を絞った財政措置を優先すること、また為替相場に関する従来のコミットメントの再確認、金融セクターについて、ノンバンク金融仲介や暗号資産などに係る取組の重要性などが記載されております。世界経済について、上方リスクと下方リスクがさらに均衡しているとした上で、インフレの鎮静化や、より成長に配慮した財政健全化といった上振れリスク、他方、戦争と激化する紛争、一次産品価格や資本フローのより高い変動、公的及び民間部門における過剰債務といった下振れリスクが存在するとの認識も共有されました。
 冒頭、私からの発言は以上で、植田総裁、お願い申し上げます。

総裁)世界経済に関するセッションについては、今、神田財務官から概ねお話がありましたので、私からは今朝ありました金融システムに関するセッションの模様について、ごく簡単にご説明します。そのセッションでは、グローバルな金融システムの安定と金融セクターに関する幅広い課題について、FSBをはじめとする国際機関等が進めている作業について報告を受け、議論を行いました。特にこれまで議論を進めてきました暗号資産やクロスボーダー送金に係る対応に加えて、トークン化、AI等デジタル技術の進展がもたらす恩恵と脆弱性に対する理解を深めていくことが重要であるという認識が改めて共有されました。今後、引き続き作業が進められていくと思いますが、私共も国際的な議論の動向を適切にフォローしていきたいと思っております。

【質疑応答】

問)植田総裁にお伺いいたします。本日、日本の経済の状況ですとか物価に関する動向についてもご共有されたのではないかと思うんですけれども、例えば10-12月期のGDPではリセッション入りとなりまして、中身を見ても、消費ですとか設備投資ですとか内需が弱くて、先行きを懸念する向きもございます。総裁は先週の国会でも好循環が強まっていくとの見方を示されたかと思うんですけれども、こうした足元の経済の弱さが今後の政策判断にどのように影響するのか、こういったことについても伺えればと思います。

総裁)日本の実質GDPですが、おっしゃるように2四半期連続してマイナス成長になったわけです。ただ一応大まかな姿としては、私共は、昨年の初めから半ばにかけてコロナからの経済再開を受けてかなり強い成長をしばらく続けた後の踊り場というような感じで見ております。もちろんこの間の高いインフレ率が、消費、あと一部設備投資に若干の悪影響を及ぼしたということはあるわけですけれども、ちょっと長くなって恐縮ですが、どちらについてもまずインフレ率がヘッドラインを見ますとかなりのペースで減速傾向にあること、それから特に消費の方は春闘での賃金の結果にある程度の期待ができること、したがって実質賃金が直ちにプラスに転じるということはないかもしれないですけれども、追い風の動きが続くということが消費にプラスになるであろうということと、設備投資については、いつもお話ししていることですけれども、計画が非常に強いということは、どこかで実現してくるであろうというふうに見ておりますので、基本的には我が国の景気が緩やかに回復しているという、これがまた先行きもその姿を続けるという見方に、これまでのところ変化はございません。ただ、注意深く見てまいりたいとは思っております。

問)神田財務官と植田総裁、それぞれお願いいたします。神田財務官には、今日、残念ながら共同声明は出ずに、チェアの総括ということですけれども、恐らくはウクライナやガザの戦争をどう表現するかというところがなかなか合意できなかったものと思われますけれども、こういったマクロの議論と直接関係ないところの対立で声明が出せないということで、かえってこのG20の存在意義を問われてしまう事態だと思いますが、そこについてG20の重要性を常に意識されている日本としてどうお考えなのかということをお願いします。
 植田総裁には先程の質問との関連なんですが、今回のG20では、世界経済、ソフトランディングの可能性が高まったということで、日本経済、回復を続けていく見通しということですが、その見通しにも追い風になる議論だったと思いますけれども、マイナス金利の解除のタイミングやその後の利上げのペースにこうした前向きな動きがどう影響するのか。また、総裁は2%の物価安定目標の実現可能性、蓋然性、もう既に見通せる状況になっているとお考えでしょうか。

財務官)まず私へのご下問でありますけれども、戦争とか紛争というもの、これは非常に経済に大きな影響があります。例えば、一番分かりやすいのはエネルギーや食料価格を通じたものでありますけれども、他にもいろいろな意味で世界経済に大きな影響がある、しかもこれは人為的な変数ですよね。したがって経済を中心とするG20であっても、それに対して大きな影響を持っているものをアドレスするのは当然だと思っております。実際、多くの財務大臣・中央銀行総裁から、こういった問題は世界経済に甚大な悪影響を与えているんだというご発言がありまして、それを踏まえて、議長総括においても世界経済の下方リスクとして戦争と激化する紛争が挙げられることになっております。したがって今後も、経済にレレバントである戦争とか紛争についてしっかりと議論していくべきだという考え方に違いはございません。

総裁)世界経済および日本経済と金融政策というご質問ですね。世界経済についてはご質問にありましたように、ソフトランディング、特に米国を中心にソフトランディングがベースラインの見方になりつつあるということは、今回も確認できたかと思います。これはただ、ある意味では、私共直近では1月に展望レポートを作成したわけですが、その時に見ていた世界経済についての姿と大体同じもので、そのときの見通しが世界経済については確認できたというのが今回の収穫であったかなというふうには思います。
 その上で日本について、物価目標はもう持続的・安定的な達成が見通せる状況になっているかどうかというご質問ですが、私の考えでは、今のところ、まだそこまでには至っていないということかと思います。それが見通せるということの確認のためには、これまでもそうしてきましたが、賃金と物価の好循環がうまく回り出しているかどうか、強まりつつあるかどうかということを確認していく作業を続けるということだと思います。ただ、その上で申し上げれば、今年の春季労使交渉の動向は、その確認作業の中で1つの大きなポイントであるというふうには考えております。

問)神田財務官にお伺いします。昨日のG7の議論の中では凍結資産の活用の議論があったかと思うんですけれども、その凍結資産の活用についてG7の中で議論している、そういう部分に向かって取り組んでいるということについて、G20の中で何か立場を表明したりとか、議論を共有するとか、そういったことはあったんでしょうか。

財務官)G20ではそのような議論はしてございません。

問)植田総裁にお聞きしたいんですが、重ねての金融政策に関する質問なんですが、今年の春闘の動向が大事だというご発言がありましたが、これまでにもかなりの大企業で春闘、いい数字が出てきていると思うんですけれども、その春闘の数字が出てきている状況について、コメントとかがあればお願いします。そして市場ではですね、春闘の結果が分かる3月ないし4月の会合でのマイナス金利の解除や金融政策の転換を予想する声がありますが、それに対するコメントですとか、1月の会見の時と比べて確度がどう変化したかとかありましたらお願いします。

総裁)春闘ですけれども、ある程度まとまって数字が出てくるのは3月以降というふうに考えております。ただ、例えば、1月時点で見ていた姿と比べて現在判明しているところでは、労働側の要求がまず昨年をある程度上回っているということ、それから企業側も、特に大企業を中心に前向きの姿勢がかなりの企業から発せられているということ、これらには注目していますけれども、ある程度集計された数字が出てきたところで、それ及びヒアリング等で集められた情報を加えて、いろいろな段階がありますけれども、春闘あるいは賃金の動きについては確認をした上で、その他の賃金・物価の好循環に関する情報と併せて、各回の会合で議論してまいりたいというふうに思っています。

問)植田総裁に質問なんですけれども、今回ブラジルが議長国で、格差とか不平等ということがテーマの1つになっていまして、最初ブラジルの中銀の総裁がインフレを低位に抑えることが格差の是正につながるといった趣旨の話をされていまして、中央銀行としてこういったテーマにどうやって取り組むことができるのか、中央銀行と格差みたいなテーマでどういったことができるのか、この辺り、ちょっとご意見をお伺いしてみたいと思います。

総裁)格差に政策的に対応するということでは財政政策の方が本筋の政策だと思うんですけれども、金融政策に限ってということであれば、直接、格差の是正をターゲットとして金融政策を運営するということは普通ないわけですけれども、おっしゃいましたように、高率のインフレが進行しているというようなことになりますと、インフレと共に利回りが上がっていくような資産をあまり持っていないような貧困層にとっては非常に苦しい事態になるということが一般的によく知られていますので、そういうことを避けるということのためにも、インフレをインフレ目標の辺りで安定化させるということが非常によいことであるという議論は、今回の会合でも複数の方からなされたというふうに覚えております。

(以上)