第34回欧州復興開発銀行年次総会における日本国総務演説
(2025年5月15日(木)於:英国・ロンドン)
1. はじめに
議長、総裁、各国総務、並びに御列席の皆様、
第34回欧州復興開発銀行(EBRD:European Bank for Reconstruction and Development)年次総会の開催にあたり、日本政府を代表し、英国政府、そしてロンドン市の皆様の温かい歓迎に対して、心から感謝申し上げます。
2. ウクライナ支援
3年を超え長期化するロシアの侵略は、ウクライナに甚大な被害をもたらしており、世界経済の見通しに対する不確実性要素であり続けています。ロシアのウクライナに対する違法な侵略の即時の終結を求めます。
戦争が継続する厳しい状況下にもかかわらず、ウクライナ政府が積極的に改革に取り組み、マクロ経済の安定を維持していることを評価します。日本は、信用補完のほか、昨年G7首脳で合意された、ロシア凍結資産から生じる特別収益により返済される融資の枠組み(ERAローン)などを通じて、同国への支援に引き続き貢献します。
ウクライナの膨大な復興需要には、民間の資金・技術・ノウハウを動員して対応していく必要があります。この観点から、地域の国際開発金融機関(MDBs: Multilateral Development Banks)であり、民間セクター支援を主要業務とするEBRDの役割が重要なことは論をまちません。日本は、EBRDがウクライナ侵略開始直後に発表した支援パッケージ、更には2023年12月の増資合意に沿って、重要インフラやエネルギー安全保障を中心とした強力な支援を着実に実施していることを歓迎します。
EBRDの増資について、日本は昨年5月に応募を行い、12月には第一回目の払込を行うなど、EBRD第2位の株主として迅速に対応しました。他国にも速やかな対応を求めます。加えて日本は、EBRDに設置したバイの信託基金に追加的な資金貢献を行い、ウクライナの農業ビジネスの振興や、企業の事業継続に必要な人材育成等を支援してきました。また、EBRDの東京事務所と連携し、ウクライナ投資に係るセミナーが開催されたことを歓迎します。引き続きEBRDと連携のうえ、ウクライナの復興支援に取り組んでいく所存です
3. 次期戦略・資本枠組み(SCF)
本年の年次総会では、次期「戦略・資本枠組み(SCF: Strategic and Capital Framework) 2026-2030」の議論が行われます。
EBRDは、国際経済秩序の基盤の一翼を担う重要な機関です。そのEBRDの戦略的方向性を定める次期SCFは、幅広い株主が納得する形で策定されることが重要です。日本は、株主間の様々な意見を最大限の柔軟性をもって取り纏めたEBRDマネジメントの努力を多とし、次期SCF案の採択を支持します。以下、今後5年間のEBRDの戦略的方向性として、日本が重視する4点について申し述べます。
第一に、自然災害への強靱性の構築です。EBRDは、昨年の年次総会をホスト頂いたアルメニアのほか、近年大地震に見舞われたトルコやモロッコなど、日本と同様に自然災害の影響を受けやすい地域を支援対象としています。現状、EBRDのグリーンファイナンスに占める気候変動への適応の割合は必ずしも多くありません。次期SCFにおいて、気候変動への適応の主流化に取り組もうとしているEBRDの決意を歓迎します。
第二に、民間資金動員の強化です。膨大な開発ニーズに対応するには、公的資金に加え民間資金を動員することが不可欠です。民間セクター支援をその業務の中心に据え、中東欧諸国等で十分な実績を有するEBRDが、MDBsによる民間資金の動員に向けた取組をリードしていくことを期待します。
第三に、適切な地理的優先順位(Geographical Direction)の確保です。日本は、ウクライナを最優先事項として位置づけつつ、市場経済への移行が遅れた国を重点的に支援するとの提案の方向性を支持します。
第四に、G20 による「MDBs の自己資本の十分性に関する枠組(CAF: Capital Adequacy Framework)の独立レビュー」の勧告の継続的な実施です。請求払い資本の取扱いなど、融資余力の拡大に向け、EBRDが不断の努力を行うことを求めます。
我々は、今般の次期SCF案で上記4点が適切に反映されていることを歓迎します。
4. サブサハラ・アフリカ
サブサハラ・アフリカへの地理的拡大については、長きにわたる有意義な議論を経て、2023年の総会で合意に至りました。日本としても、この決定を尊重し、EBRD設立協定改正の受諾手続を速やかに完了しました。日本は、今般の年次総会において提案されている、ベナン、コートジボワール及びナイジェリアの条件付きの受益国化を強く支持します。ガーナ、ケニア及びセネガルについても、早期に加盟を果たし、受益国となることを期待します。
EBRDがこれまで培った民間セクター支援の知見は、他のMDBs等の支援とあいまって、アフリカの発展に大いに寄与するものと確信しています。特に、アフリカ諸国との強いパイプを有するアフリカ開発銀行(AfDB:African Development Bank)等と連携することで、双方の比較優位を活かした、有効かつ効率的な支援が実施されることを期待します。
本年8月、日本は3年に一度のアフリカ開発会議(TICAD9)を横浜で開催予定です。この機会を捉えて、EBRDはもちろん、世界銀行グループ・AfDBを含むMDBsとの連携や、国際協力銀行(JBIC)・国際協力機構(JICA)を通じた民間主導の経済成長支援を一層進めます。ルノーバッソ総裁をはじめ、皆様のTICAD9への参加を心よりお待ちしています。
5. EBRDと日本の協力
EBRDの支援対象国が欧州を超えて広がりを見せる中、多種多様で複雑なニーズに効果的に対応していくことが一層求められます。組織運営、特にSCFのような重要な戦略の策定・実施にあたっては、多様な声が反映されなければなりません。そのためには、EBRDの職員の構成において国籍を含む多様性を推進することが極めて重要です。その観点から、EBRDが本年秋に日本へのリクルートミッションの派遣を予定していることを歓迎します。
前述の通り、EBRDは、ウクライナにおいて破壊されたインフラの復興に大きな役割を果たしています。我々は、EBRDがこうした取組を一層効果的に行うにあたって、日本の防災や復興の知見が活かせると考えています。日本には、自然災害への強靱性構築、地雷対策、瓦礫撤去、エネルギー、通信、保健、アグリビジネスなど幅広い分野に強みを持ち、ウクライナの復興事業に強い関心を示す企業が多く存在しています。EBRD東京事務所の機能とリソースを最大限に活用しつつ、日本の民間セクターによるEBRDの事業への参画促進に向けた取組を更に強化していくことを求めます。
6. 結語
ルノーバッソ総裁は、2020年の就任以降、新型コロナウイルスによるパンデミックやロシアによるウクライナ侵略など、幾多の困難に立ち向かい、大きな成果を上げてこられました。現在、世界が様々な要因で不確定な状況に置かれる中、EBRDを含むMDBsの役割の重要性は一層増しています。ルノーバッソ総裁の強力なリーダーシップの下、EBRDがその使命の遂行に邁進することを期待します。日本は引き続き、資金面のみならず、政策面・人材面でもEBRDの取組を後押ししていく考えです。
(以 上)