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第32回EBRD年次総会日本国総務演説(令和5年5月17日 於:ウズベキスタン・サマルカンド)

第32回欧州復興開発銀行年次総会における日本国総務演説
(2023年5月17日(水)於:ウズベキスタン・サマルカンド)

1. はじめに

議長、総裁、各国総務、並びにご列席の皆様、

第32回欧州復興開発銀行(EBRD:European Bank for Reconstruction and Development)年次総会の開催にあたり、日本政府を代表し、20年ぶりの主催国となるウズベキスタン政府、そしてサマルカンド市の皆様の温かい歓迎に対して、心から感謝申し上げます。また、準備にご尽力されたEBRDスタッフの皆様にも敬意を表します。

まず、 ロシアがウクライナに対する侵略戦争を1年以上にわたって継続していることに対し、改めて、最も強い言葉で非難します。この戦争は、EBRDの設立理念でもある、国際社会における法の支配の原則や人権の尊重といった普遍的な価値に正面から反するものであり、断じて許容できないことを改めて強調します。

また、今年2月にトルコ南東部で発生した地震により被災された皆様に心からお見舞いを申し上げます。これを受け、EBRDが迅速に最大15億ユーロの支援パッケージを発表したことを歓迎します。12年前に東日本大震災に見舞われた日本としても、本パッケージの取組を支えるため、被災地域の中小企業向け復興支援として、日本・EBRD協力基金(JECF:Japan EBRD Cooperation Fund)を通じた支援を行うことを決定しました。

2. ウクライナ及び周辺国への支援

国際社会は、ロシアによる侵略戦争が継続する中、ウクライナ及びその周辺国における喫緊のニーズに対する支援に継続的に取り組む必要があります。こうした観点から、日本は、ロシアによるウクライナに対する侵略戦争の開始直後に、EBRDが即座に支援パッケージを発表し、実施してきたことを高く評価します。

また、今後のウクライナの復興段階を見据えた支援の検討も必要です。日本としては、ウクライナやウクライナを支える他の加盟国との連帯が重要であると確信しており、関連法の改正を行うことで、日本の公的金融機関である国際協力銀行(JBIC:Japan Bank for International Cooperation)が、EBRD等の国際開発金融機関(MDBs)によるウクライナ民間セクター向け融資を保証することを可能としました。また、ウクライナの農業セクター等の民間主導による復興を支援するため、JECFに追加の予算措置を行いました。日本はこうした取組を通じ、ウクライナ及び周辺国への支援を引き続き積極的に行ってまいります。

今後のEBRDによるウクライナ支援を考えるにあたっては、資源の最大限の有効活用、開発金融システム全体におけるEBRDの位置付けと強みといった観点から、支援の内容や規模、他の国際機関との役割分担や連携、既存資本の活用策をはじめとする様々な論点について更なる検討が必要です。

まず、想定されるウクライナ支援の内容や規模については、同国にとり現実的に執行可能なものとする必要があるほか、他の国際機関との役割分担を明確にすることにより、効果的かつ効率的な支援を実現することが肝要です。日本は、EBRDが、民間セクター支援や国営企業改革等の独自の強みを持つ分野での支援に重点的に取り組むことを期待します。

次に、既存資本の最大限の活用に向けた取組を強化する必要があります。この観点から、EBRDが設立協定に定められた資本規制(statutory capital limit)の見直しを行うことを支持します。EBRDが、ドナー保証の活用や格付機関との対話強化をはじめとする「MDBsの自己資本の十分性に関する枠組みの独立レビュー」のその他の勧告についても積極的に検討し、実施していくことを強く期待します。

3. EBRDの支援対象地域の拡大

EBRDの支援対象地域の拡大については、日本はこれまで、EBRDの付加価値や他の国際機関等との補完性といった観点から、建設的な議論を行ってきました。サブサハラ・イラクへの支援ももとより重要ですが、一方で現在のEBRDの最優先課題はウクライナや周辺国等の既存の支援対象国・地域に対する支援の実施であり、この現実を踏まえて検討することが必要です。

具体的には、昨年のマラケシュ総会の総務決議にも規定されているとおり、ウクライナ情勢及びそれに対するEBRDの対応状況を考慮した上で、いかなるサブサハラ・イラクへの限定的かつ段階的な拡大も、既存の支援対象国に影響を与えないことや、現在の資本の水準を前提とし、追加的な資本を必要としないことが求められます。まずは、今後のウクライナ及び周辺国の情勢や支援ニーズ、EBRDが果たすべき役割を十分に見極めた上で、サブサハラ・イラクへの具体的な支援の在り方について検討すべきと考えます。

4. EBRDと日本の協力

EBRDは非欧州諸国も含むグローバルな機関であり、その組織運営においては非欧州諸国も含めた多様な声が反映されなければなりません。日本は第2位のシェアホルダーとして、引き続き、EBRDの重要政策の議論への積極的な参画はもとより、EBRDのガバナンスにも能動的に関与していく所存です。

EBRDが支援対象国の多種多様で複雑なニーズに対して、柔軟かつ効果的に対応していくためには、EBRD職員においても国籍を含む多様性を推進することが重要です。日本としても、人材を通じたEBRDへの貢献について更に取り組んでまいります。

EBRD東京事務所は、日本企業等とEBRDの連携促進によるビジネス開発、EBRDの知名度向上に向けたアウトリーチ、日本人職員の採用・活躍の促進という3つの機能を発揮するため、重要な役割を果たしています。昨年12月に東京で中央アジア投資フォーラムを開催した際には、同事務所が、日本企業等とEBRDの支援対象地域である中央アジア・モンゴル、そしてEBRDの関係を深化させるためのハブとして機能しました。また、日本は、食料問題への対応として農業の生産性・持続可能性を向上させるための情報通信技術の活用など、各国が直面する様々な課題の解決に資する、多くの優れた技術を有しています。日本の技術・知見・人材をEBRDの支援に一層活用するため、東京事務所がその機能を更に発揮していけるよう、日本として最大限の協力をしていく所存です。

5. おわりに

EBRDが、ルノーバッソ総裁のリーダーシップの下、ウクライナ及び周辺国への支援など喫緊の課題について、引き続き柔軟かつ効果的に取り組み、主導的な役割を果たすことを期待しています。

EBRDがその使命を最大限に達成できる国際機関であり続けられるよう、日本は、引き続き政策面や人材面を含めて積極的に貢献してまいります。

(以 上)