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第31回EBRD年次総会日本国総務演説(令和4年5月11日 於:モロッコ・マラケシュ)

第31回欧州復興開発銀行年次総会における大家副大臣総務演説
(2022年5月11日(水)於:モロッコ・マラケシュ)

1. はじめに

議長、総裁、各国総務、並びにご列席の皆様、

第31回欧州復興開発銀行(EBRD:European Bank for Reconstruction and Development)年次総会の開催にあたり、日本政府を代表し、本総会の主催国であるモロッコ政府及びマラケシュ市の皆様の温かい歓迎に対して、心から感謝いたします。本年の年次総会は、3年ぶりの対面での会合を含むハイブリッド開催であると同時に、初の北アフリカでの開催となります。準備にご尽力されたEBRDスタッフの皆様にも敬意を表します。

まず、ロシアによるウクライナ侵略は、力による一方的な現状変更の試みであり、国際秩序の根幹を揺るがす、明白な国際法違反です。また、民間人に対する残虐な行為は国際人道法違反であり、戦争犯罪です。途上国の開発援助を含む国際的な経済・社会協力に当たって平和の維持は不可欠であり、これに反するロシアの行為は断じて許容できず、厳しく非難します。

過去30年以上、EBRDは市場経済への移行を支える銀行として、東欧及び旧ソ連諸国等の市場経済化に取り組んできました。また、その設立協定の前文や第1条に明記されているとおり、複数政党制民主主義、法の支配、人権の尊重、多元主義といった普遍的な価値を重視しています。こうした観点から、EBRD総務会が迅速に、ロシア及びベラルーシによるEBRD財源の利用停止(設立協定第8条3項の適用)を決定したことを歓迎します。

2. ウクライナ及び周辺国への支援

国際社会としては、ウクライナに対する支援に緊急に取り組む必要があり、EBRDが即座に支援パッケージを発表し、20億ユーロの即時支援を決定したことを日本は歓迎します。また、ロシアによるウクライナ侵略の影響はウクライナにとどまるものではなく、避難民発生等により周辺国に波及し、さらに、エネルギー価格や食糧価格の高騰、貿易や金融の経路を通じ、EBRD支援対象国を含む世界全体に波及しています。その影響を受けて苦しむ人々に一刻も早く支援を届けることが重要です。

その観点から、EBRDはウクライナ及びその周辺国における喫緊のニーズに対する支援に注力するとともに、将来の復興ニーズにも支援していく必要があり、そうした方向性の総務決議案を日本は支持します。

日本としても、こうしたEBRDの取組みを支えるため、今般、27.5百万米ドルの技術支援用資金をウクライナ支援向けに移転することを決定しました。また、ウクライナ及び周辺国に対して、日本・EBRD協力基金(JECF:Japan EBRD Cooperation Fund)を通じた支援も前向きに検討してまいります。

3. EBRD支援対象地域の拡大

EBRD支援対象地域の拡大について、日本はこれまで、中期戦略(SCF:Strategic and Capital Framework 2021-2025)の合意に基づいて、建設的な議論を行ってきました。日本は、将来的にサブサハラ・イラクへの拡大について議論をすることは問題ないと考えますが、現状では、EBRDはウクライナ及びその周辺国への支援を最優先すべきであり、今後のウクライナについての情勢や支援ニーズを十分に見極められるようになった段階で、具体的な拡大についての判断を行うのが賢明と考えます。

また、その判断に当たっては、当該拡大がEBRDの余力を活用して行われることに鑑みれば、既存の支援対象地域への影響がないこと、拡大を理由に将来の増資に繋がらないことが必要です。今般の総務決議案では、ウクライナ情勢及びそれに対するEBRDの対応状況を考慮し、いかなるサブサハラ・イラクへの限定的かつ段階的な(limited and incremental)拡大も既存の支援対象国への影響を与えないこと、EBRDのトリプルA格付けを毀損しないこと、将来の増資に繋がらないことについて理事会が再確認することを要求しており、日本としてはこの総務決議案を支持します。

4. 日本としてのEBRDへの貢献

EBRDが非欧州諸国も含むグローバルな機関であることを踏まえ、ルノーバッソ総裁がその組織運営において非欧州諸国の声も反映させる努力を続けておられることを歓迎します。日本は第2位のシェアホルダーとして、引き続き、EBRDの重要政策の議論への積極的な参画はもとより、EBRDのガバナンスにも能動的に関与していく所存です。

EBRDが支援対象国の多種多様で複雑なニーズに対して、柔軟かつ効果的に対応していくためには、EBRD職員の国籍を含む多様性を一層推進する必要があります。日本として、人材を通じたEBRDへの貢献にも更に力を入れたいと考えています。

EBRD東京事務所は、今般、日本とEBRDの協力により、新たな拠点にオフィスを構えるとともに、新しい人員・機能を加えて、その体制が強化されました。日本企業等との連携による案件形成や幅広い日本の関係者等の参画を得たビジネス展開に加え、今後は、EBRDの更なる知名度向上に向けたアウトリーチやリクルートにおいても、東京事務所が重要な役割を果たすことを期待します。日本の技術・知見をEBRDの支援に一層活用するため、同事務所がその機能を更に発揮していけるよう、日本として最大限の協力をしていく所存です。

5. おわりに

ルノーバッソ総裁が就任されて1年半強になりますが、同総裁の強いリーダーシップの下、EBRDが引き続きコロナ危機への対応やウクライナ及び周辺国への支援など、喫緊の課題に能動的かつ柔軟に取り組み、EBRDの強みを発揮して、主導的な役割を果たすことを期待しています。

EBRDが多様な付加価値をもたらす、トランジションを支援する機関であり続けられるよう、日本は、引き続き積極的に貢献してまいります。

(以上)