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第57回AfDB・第48回AfDF年次総会 日本国総務演説(令和4年5月25日)

第57回アフリカ開発銀行・第48回アフリカ開発基金年次総会日本国総務演説
(2022年5月25日(水) 於:ガーナ・アクラ)

1.はじめに

議長、総裁、各国総務、並びにご列席の皆様、

アフリカ開発銀行(AfDB:African Development Bank)及びアフリカ開発基金(AfDF:African Development Fund)年次総会の開催にあたり、日本政府を代表して、一言申し上げます。まず、3年ぶりに対面での年次総会が開催されることを嬉しく思います。そして、今次会合のホスト国であるガーナ政府及びアクラ市民の皆様の温かい歓迎に感謝申し上げます。

アフリカ諸国は、複合的な危機に直面しています。その原因はCOVID-19、気候変動、債務と様々ですが、これにロシアの戦争が加わりました。ロシアによるウクライナ侵略は、力による一方的な現状変更の試みであり、国際秩序の根幹を揺るがす、明白な国際法違反です。また、民間人に対する残虐な行為は国際人道法違反であり、戦争犯罪です。途上国の開発援助を含む国際的な経済・社会協力に当たって平和の維持は不可欠であり、これに反するロシアの行為は断じて許容できず、厳しく非難します。

アフリカ諸国が、COVID-19危機から脱却し、気候変動に対応しつつ、デジタル時代における持続可能な成長を目指しているなか、ロシアによるウクライナ侵略の影響はエネルギー価格や食糧価格の高騰、貿易や金融の経路を通じて、アフリカ諸国を含む世界全体に波及しています。さらに、こうした多層的な課題は、アフリカ諸国の債務問題を一層深刻化しています。このような複合的な危機を乗り越えるため、アフリカにおける第一の開発金融機関であるAfDBの役割が更に重要性を増しています。

2.AfDBグループに期待する役割と日本からの支援

アフリカ諸国が直面する複合的な危機を乗り越え、持続可能で包摂的な成長を実現するためには、(1)食糧安全保障・栄養を確保する持続可能な農業、(2)実効的なトランジションと適応対策、(3)保健分野の支援の強化、(4)債務の持続可能性の回復と透明性の確保が必要不可欠です。これらの課題における、AfDBグループへの期待と日本のこれからの協力について、述べさせていただきます。

(1)食糧安全保障・栄養を確保する持続可能な農業

まず、アフリカの経済・社会の発展にとって不可欠なものが農業です。農業生産性の向上、栄養を通じた人々の健康状態の改善・維持が重要であり、これらを環境への負荷を与えない形で実現する必要があります。アデシナ総裁が掲げる「気候変動に強い農業(climate resilient agriculture)」は、革新的な技術を活用して農業生産性の向上を図るとともに、気候変動対策にもつながる取組みであり、高く評価しています。ロシアのウクライナ侵略に起因するアフリカ諸国の食糧危機は、食糧安全保障及び栄養の分野における支援の重要性を再認識させました。AfDBグループが積極的に取り組むことを期待します。日本としては、日本の二国間の信託基金(開発政策・人材育成信託基金(PHRDG:Policy and Human Resources Development Grant of Japan))を通じて、先端のデジタル技術を活用した生産性向上・環境負荷低減に資する農業支援などを実施する所存です。

(2)実効的なトランジションと適応対策

国際社会全体としてカーボンニュートラルを達成するためには、全ての国において温室効果ガスの排出削減を最大限進めることが不可欠ですが、この取組みにあたって、アフリカ諸国のエネルギーへのアクセスや成長が犠牲になるべきではありません。各国の実情を踏まえ、開発と気候変動対応を両立させるための実効的かつ現実的な移行の道筋を描くとともに、それに沿った包括的な支援を行うことが重要であり、AfDBグループがこうした支援を積極的に実施することを期待します。

その際、各国における技術的な実現可能性や経済的な対応能力を踏まえた最良の方策を特定し、それが天然ガスなど、「グリーン」と「非グリーン」の間のエネルギー源であれば、これも支援することが、結果的に温室効果ガスの累積的な排出量を最大限削減することにつながると考えます。また、自然災害にも脆弱なアフリカ諸国においては、「適応(adaptation)」に資する支援を重視すべきであり、質の高いインフラ投資を通じて、自然災害に強靱なインフラの構築を推進していく必要があります。日本は、アフリカ民間セクター向け支援基金(FAPA:Fund for African Private Sector Assistance)を通じて、そうした現実的なエネルギー移行や質の高いインフラ投資を推進する技術支援を実施する所存です。

(3)保健分野の支援の強化

COVID-19パンデミックの経験から一層明らかになったのは、保健分野における予防・備え・対応に向けた保健システムの強化と、それに資するユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の重要性です。アデシナ総裁が提唱する「質の高い保健インフラ(Quality Health Infrastructure)」はまさにこうした考えに繋がるものであり、その具体的な実施において、アフリカの実情をよく知るAfDBの知識を活かした取組みを期待します。また、日本としてもこの取組みを支援するため、日本の信託基金を通じて、域内国における保健インフラ戦略等の策定支援、実施機関等に対する能力構築支援などを積極的に実施したいと考えています。

(4)債務の持続可能性の回復と透明性の確保

債務問題を抱えたアフリカ諸国においては、「共通枠組(CF:Common Framework)」の下で債務持続可能性を回復することが重要です。CFを要請したアフリカの3か国について成功事例を示すとともに、より幅広く債務措置の迅速な実施と予見可能性の向上を推進していく必要があります。日本は、AfDBグループとともに、CFの下で債務問題解消に取り組むことのメリットをアフリカ諸国に広く理解してもらうためのアウトリーチ活動にも取り組みたいと考えています。また、安定的な資金フローの確保のためには債務データの透明性・正確性の向上が重要です。AfDBグループが、債務透明性の分野で主導的な役割を果たし、債務国に対する能力構築支援に加えて、債権国に対する正確な債務データの提供に向けた協力にかかる働きかけを行うことを期待します。日本としても、公的債務管理改善のためのセミナーの実施等を通じて、債務問題への取組みを支援していきます。

3.日本とAfDBグループとの協力

AfDBグループは、日本がアフリカを支援するに当たっての長年のパートナーです。日本としては、これまで述べてきた重要課題に対するAfDBの取組みを支援するため、日本の二国間の信託基金である開発政策・人材育成信託基金(PHRDG)やアフリカ民間セクター向け支援基金(FAPA)を通じて、新たに総額約20百万ドルを貢献するつもりです。PHRDGやFAPAを引き続き効果的に活用し、AfDBグループとの連携を更に強化していきたいと考えています。

また、東京にあるアジア代表事務所が、日本等の企業とのビジネスマッチングをはじめとするビジネス面で重要な役割を果たすとともに、アウトリーチやリクルートの面でも積極的に取り組むことを期待します。

4.結語

本年は、3年に一度のアフリカ開発会議(TICAD 8)が開催される年です。TICADは、日本がアフリカ諸国の皆さんと共に立ち上げ、幅広い関係者と共に、アフリカの持続的かつ包摂的な成長について議論する大規模で開かれた国際フォーラムです。日本は、TICAD8に向けて、アフリカのオーナーシップを尊重し、アフリカ自身が主導する持続可能な発展を一層AfDBグループと共に後押していきます。

最後になりましたが、アフリカ諸国の持続可能で包摂的な成長を実現するために、アデシナ総裁の強いリーダーシップの下、AfDBグループが引き続き主導的な役割を果たすことを期待しつつ、私の演説を終わります。ご静聴ありがとうございました。

(以上)