第59回アジア開発銀行(ADB)年次総会における
片山財務大臣総務演説
2026年5月4日(月)
1.はじめに
総務会議長、総裁、各国総務並びに御列席の皆様、
第59回アジア開発銀行(ADB:Asian Development Bank)年次総会の開催にあたり、日本政府を代表し、ウズベキスタン政府並びにサマルカンド市の皆様からの温かい歓迎に心より感謝申し上げます。また、ADB設立60周年を心から祝い、これまでのADBの功績と、職員の皆様の御尽力に、深い敬意を表します。
2.ADBへの期待と日本の貢献
アジア・太平洋地域の開発途上加盟国(DMCs)は、自然災害の頻発、公衆衛生危機、地政学的緊張といった不確実性に直面し続ける中、経済・財政の脆弱性などの課題への対応を迫られています。このような状況の下、地域の更なる発展に向けてADBが果たすべき役割への日本の期待、及び日本が果たす貢献について、5点申し上げます。
(1)強靱性の構築
第一に、不確実性に対する強靱性の構築です。
足元の中東情勢を背景に、DMCsにおいては、供給制約に起因するインフレ圧力の高まりなど、経済活動への影響が懸念されています。こうした中、ADBが、景気循環対策支援ファシリティ(CSF)や貿易・サプライチェーン金融プログラム(TSCFP)を含む金融支援パッケージを迅速に取りまとめたことを高く評価します。
こうした緊急対応に加えて、中長期的な強靱性構築に向けた支援も重要です。日本は先月、地域のエネルギー・資源供給力を更に強化するため、ADBとの協調による財政支援等を含む、100億ドル規模の「アジア・エネルギー・資源供給力強靱化パートナーシップ(POWERR Asia)」を発表しました。さらに、本取組の一環として、日本はADBとともに、「長期的強靱性に向けたエネルギー行動枠組み(ACCEL)」を今次総会において立ち上げました。これらのイニシアティブは、短期的にはサプライチェーン構成企業を支援しつつ、中長期的には石油依存度の高いDMCsのエネルギー構造の転換を促進することで、地域の強靱性構築を目指すものです。日本は引き続き、ADBと緊密に連携し、危機対応を進めてまいります。
また、エネルギーの安定供給に加え、重要鉱物の安定的なサプライチェーンを確保することも、地域における強靱化の構築に不可欠です。こうした観点から、昨年、ADBが重要鉱物に関する戦略を策定し、この戦略を実施するため、先般「重要鉱物―製造業資金パートナーシップ・ファシリティ」(CMM-FPF:Critical Minerals-to-Manufacturing Financing Partnership Facility)を立ち上げたことは、時宜を得た取組であったと評価します。こうした政策枠組みの下、重要鉱物の精錬・製造といったサプライチェーンの中下流も含めた支援を通じ、DMCsの産業高度化を更に進めるとともに、世界における重要鉱物の安定供給が図られることを期待します。日本は、この趣旨に賛同し、本イニシアティブに2,000万ドルの貢献を行います。同じ志を持つパートナーの皆様の積極的な参加を期待します。また、ADBが、世界銀行のRISEパートナーシップ等とも連携し、重要鉱物分野における支援を一層加速していくことを期待します。
(2)地域協力・統合
第二に、地域協力・統合の推進です。
ADBが比較優位を有する「地域協力・統合」は、連結性の向上やルールの調和を通じ、不確実性への耐性を高めるとともに、持続的成長の基盤ともなります。ADBの「ASEANパワーグリッド」や「アジア太平洋デジタル・ハイウェー」は、その象徴的な事例であり、日本は日本信託基金を通じ、これらの取組を力強く支援してまいります。
日本は本年フィリピンと共に、ASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議の共同議長を務め、アジア域内における地域金融協力の更なる強化に向け、チェンマイ・イニシアティブ(CMIM)、ASEAN+3マクロ経済リサーチオフィス(AMRO)、アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)、災害リスクファイナンス(DRF)の定例議題について議論を行っています。今般、ADBが事務局を務めるABMIにつき、次期ロードマップにおいて、アジア債券・金融市場育成イニシアティブ(ABFMI)へ発展させることに合意したことを歓迎いたします。また、足元で重要性が高まるクロスボーダー・デジタル決済に関しても、メンバー国及び関係機関と緊密に連携しながら、議論を続けています。今後、更なる進展があることを期待します。
日本は、太平洋自然災害リスク保険会社(PCRIC)や東南アジア災害リスク保険ファシリティ(SEADRIF)など、地域の災害リスクファイナンスの取組を長年にわたり支援してきました。本年4月、太平洋島嶼国に災害保険を提供するPICRICに拠出可能な信託基金としてP-PREPAREが新たに設立されたことを歓迎するとともに、今般実現したASEAN+3のDRF事務局のADBへの移管を通じ、ADBがより積極的に地域の災害リスクファイナンスに貢献することを期待します。
また、太平洋島嶼国は、狭小性、隔絶性、遠隔性、海洋性といった固有の脆弱性を抱えており、差別化されたアプローチに基づく支援が不可欠です。引き続き、共同調達の積極的な活用などを通じ、ADBが同地域への支援を強化していくことを期待します。日本も、今次総会の機会を捉え、「第3回 日・太平洋島嶼国財務大臣会議」を共同議長として開催し、コルレス銀行問題、災害リスクファイナンス、国内資金動員等について議論を行いました。日本は、引き続き太平洋島嶼国を積極的に支援していく考えです。
(3)民間セクター開発の強化
第三に、民間セクター開発の強化です。
地域の更なる成長を実現するためには、民間セクターの活力を引き出すことが不可欠です。この観点から、ADBが民間向け支援を4倍にするという目標の下、その業務における民間セクター開発重視への転換を力強く推進していることを、心強く受け止めています。
日本は引き続き、投資環境整備などの上流支援を目的としたAMAP(ADB Market Acceleration Platform for Asia and the Pacific)や、案件形成などの中流支援を目的としたAP3F(Asia Pacific Project Preparation Facility)を通じて、ADBの民間セクター開発強化の取組であるPSD Shiftを支援してまいります。とりわけAP3Fの実績を高く評価し、既に本年3月に同基金への500万ドルの追加拠出を行ったところです。また、ADBとJICAの間で、スタートアップ支援に関するイニシアティブ「SEEK(Southeast Asia Emerging Entrepreneurs Kickstart)」の検討が進められていることを歓迎します。
(4)ADBの対応能力強化
第四に、ADB自身の対応能力強化です。
ADBがリスク管理の高度化を伴う形で、膨大な資金ニーズに対応するため、設立協定の改定を通じ、支援能力を大幅に強化したことを高く評価します。昨年ADBが過去最大となる293億ドルの融資承諾を達成したこと、またアジア開発基金第13次財源補充(ADF14)において約500億ドルの譲許的資金が確保されたことは、いずれも重要な成果です。
資金面のみならず、組織・制度面での強化も必要です。ADBが、ソブリン・ノンソブリン両部門の連携強化や現地事務所の機能強化を含む改革を通じ、開発効果の最大化を図りつつ、職員が能力を最大限発揮できる環境の整備を進めていることを歓迎します。
(5)MDBs間の連携
第五に、開発効果の最大化に向けたMDBs間の連携強化です。
開発効果を最大化するためには、支援の量のみならず、質の向上が不可欠です。ADBが、国際競争入札において価格のみならず質を評価する方式(Merit Point Criteria)の導入や、現地労働力活用の義務化を含む調達規定の改定を行ったことを高く評価します。ADBが他のMDBsとも連携し、調達改革を一層深化させること、そして具体的な成功事例を積み重ねていくことを期待します。
また、MDBs全体の業務効率性を高める観点から、各MDBがひとつのシステムとして機能していくことも重要です。ADBと世界銀行による「完全相互信頼枠組み」は、受益国における取引コストの低減やプロジェクト組成の迅速化等に資するものです。昨年来、複数の共同実施案件が承認されていることは、意義ある前進です。
ADBが本年のMDBs代表グループの議長として、効率的・効果的な支援の実施に向けたMDBs間の連携強化を主導していることを歓迎します。
3.日本の知見の活用
以上の課題にADBが効果的に対応し、具体的な案件形成・実施につなげていくため、日本は資金面のみならず、知識面、人材面においても積極的に貢献していく考えです。以下、日本の知見の活用が期待される分野について、いくつか申し上げます。
(1)防災及び水を含む質の高いインフラ
古くから多くの自然災害に見舞われてきた日本が得た教訓の一つは、備えの重要性です。ハード対策としての災害に強靭なインフラ整備と、ソフト対策としての防災計画の策定など制度面・政策面での支援を、両輪として進めていくことが重要です。近年地域で発生した自然災害においても、多くのインフラが倒壊し、強靱性を備えた質の高いインフラ投資と災害リスク管理の重要性が改めて浮き彫りとなりました。
また、地域において、安全で効率的かつ強靱な水システムの構築に向けた支援ニーズが一層高まっています。日本の企業や地方自治体は、無収水の削減、汚泥リサイクル、公衆衛生の向上などに資する水分野の質の高いインフラに関し、豊富な知見と経験を有しています。
日本は引き続き、AP3Fや日本信託基金等を通じ、日本の知見と経験を活かし、ADBとともに質の高いインフラ投資を推進してまいります。
(2)保健
アジア太平洋地域において急速に進む高齢化やパンデミック等に対応し、社会の安定と持続可能な経済成長を実現するため、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)が極めて重要です。日本は、東京に拠点を置く「UHCナレッジハブ」を通じ、カンボジア、インドネシア、フィリピンをはじめとする途上国の能力強化支援を行うことで、財保連携の促進による、UHCの実現に不可欠な持続可能な保健財政の構築を後押ししています。各国が同ナレッジハブで得た知見を活用し、保健財政課題の解決に向けた政策を立案・実行できるよう、地域の実情に精通するADBと一層緊密に連携してまいります。
(3)国内資金動員
DMCsの自律的な成長の実現には中長期的な財政の強靱性確保も重要であり、そのためにはDMCsが自ら適切な開発資金の確保についてオーナーシップを持ち、国内資金動員(DRM)の能力を強化していくことが不可欠です。日本は、資金・人材の両面から、ADBの国内資金動員信託基金(DRMTF)へ貢献を行っており、また同基金を通じて、税分野での情報共有・政策対話のプラットフォームであるアジア太平洋税務ハブ(APTH)も支援しています。日本は、DRMTFの最大ドナーとして、ADBに対し、昨年策定された中期的な戦略に基づき、DMCsに対するDRM強化の継続的な支援を求めます。特に、支援が行き届きにくい太平洋島嶼国への支援や、IMFや世銀・OECD等との連携の強化を期待します。
(4)日本企業との連携
日本企業は、前述のとおり、防災と水を含む質の高いインフラ、保健等の課題に関し、豊富な経験と高い専門性を有しています。そうした経験・知見を地域の課題解決に活かすため、日本企業、ADB、そしてDMCsを結ぶ橋渡し役としてADB駐日代表事務所(JRO)が果たしている役割が重要であり、同事務所が一層積極的な貢献を果たしていくことを期待します。
4.結語
神田総裁は、2025年2月の就任以来、卓越したリーダーシップを発揮し、数多くの重要な改革・取組を主導してきました。引き続き、神田総裁の下、ADBが複雑化する開発課題に取り組み、地域の更なる成長を力強く支援していくことを求めます。
来年、第60回という節目の年次総会を、世界を先導する製造業と歴史・文化が息づく愛知県・名古屋市と共に皆様をお出迎えできることを、心より光栄に存じます。名古屋市とタシケント市は2019年に「パートナー都市協定」を締結しており、文化、教育、観光など幅広い分野で連携を深めてきました。こうした強固な関係を踏まえれば、サマルカンド総会の成果は、必ずや愛知・名古屋総会へと着実に引き継がれていくものと確信しています。
愛知・名古屋総会は、2030年以降を見据えた長期的なADBの戦略の議論を開始する、絶好の機会となります。ホスト国として、「連携を築き、変革を加速させる(Forging Partnerships, Driving Transformation)」というテーマの下、アジア・太平洋地域、そしてADBの将来に関する議論に重要な指針を与える、極めて意義深い年次総会にしたいと考えております。日本は、この歴史的な総会の成功に向け、関係者の皆様のご協力を得て、引き続き万全の準備を進めてまいります。
ありがとうございました。
(以上)

