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第56回ADB年次総会 日本国総務演説(2023年5月4日 於:韓国・仁川)

第56回アジア開発銀行(ADB)年次総会における
鈴木財務大臣総務演説
2023年5月4日(木)

1.はじめに
 総務会議長、総裁、各国総務並びにご列席の皆様、

 まず初めに、今次総会のホスト国である韓国政府の温かい歓迎に心より感謝申し上げます。新型コロナウイルス(COVID-19)からの回復が進み、今次総会のような人的交流が再開する中で、今後日韓両国間の交流がより一層活発化することを期待します。

 アジア・太平洋地域の経済はCOVID-19の影響により大きな打撃を受けましたが、水際措置や行動制限等の関連規制の緩和に伴い、国内消費や観光、投資の回復が進む中、本年は経済成長の加速が見込まれています。加えて、インフレ率についても、パンデミック前の水準に向かって徐々に緩やかになると予測されており、明るい兆しが見え始めています。一方で、ロシアによるウクライナ侵略の長期化や、途上国の債務問題、米国及び欧州における最近の銀行セクターの混乱に見られるような金融リスクの増大等が世界経済の回復を阻害する可能性があります。アジア・太平洋地域の経済安定を図るためには、これらの下方リスクに留意する必要があります。


2.日本の開発プライオリティ
 まず、アジア・太平洋地域における持続可能な成長と一層の発展に向けて、ADBによる更なる積極的な役割を期待する政策課題について3点申し上げます。これらは、日本が議長を務める本年のG7においても優先課題として掲げており、ADBによる一層の取組の強化を期待します。

(1)気候変動
 アジア・太平洋地域は世界全体の温室効果ガスの約半分を排出しており、同地域におけるClimate BankとしてのADBの脱炭素への取組が今後の気候変動の世界的な動向を大きく左右します。それと同時に、アジア・太平洋地域は気候変動に最も脆弱な地域の一つでもあり、気候危機の最前線にあります。近年では気候変動に伴う異常気象や大規模な自然災害による被害が度々発生しており、緩和策に加えて適応策へのバランスのとれた取組も重要です。
 その一方で、保健や教育の充実等、他の重要な開発課題とのトレードオフを防止・管理しつつ、野心的なネット・ゼロ削減目標を達成するためには、適切な気候アクションの整備と十分な気候資金の動員が必要です。
 この観点から、日本は、気候変動対応のための革新的なメカニズムであるIF-CAP(Innovative Finance Facility for Climate in Asia and the Pacific)が創設の合意に至ったことを歓迎します。IF-CAPはドナーによるグラント提供やソブリン融資への保証を通じ、ADBが追加的な気候変動対応を行うための融資余力を生み出すメカニズムであり、ADBの気候変動目標の達成に大きく寄与します。日本は、IF-CAPのグラント枠に対して2,500万ドルの資金貢献を行う用意があり、適切な制度設計のもとでの速やかな運用開始をADBに求めます。なお、本取組は、G20の「国際開発金融機関(MDBs)の自己資本の十分性に関する枠組の独立レビュー」とも軌を一にしており、限られた財源を有効活用する野心的な取組である点を高く評価します。本件を含むADBによる気候変動対応における浅川総裁のリーダーシップを賞賛します。
 ADBのClimate Bank としての役割は融資拡大のみにとどまりません。とりわけ中所得国におけるクリーンエネルギーへの移行やネット・ゼロの推進は、MDBsやソブリンドナーによる支援のみでは達成できず、民間資金を呼び込むための資本市場の強化が不可欠です。ESGファイナンスへの関心が高まる中、民間の気候資金を動員するためには、ESG効果の適切な計測・管理に基づいたインパクト投資の実施を促進することも重要であり、ADBによるナレッジの創出と、組織及び地域全体にわたっての知見共有に期待します。

(2)債務問題、国内資金動員
 COVID-19やロシアによるウクライナ侵略等の複合的危機の影響を受け、低所得国に加え一部の中所得国においても債務リスクが高まっています。低所得国については、「共通枠組」の下、債務再編を迅速に進め、プロセスの予測可能性を高めることが重要です。脆弱な中所得国についても、全ての債権者とドナーが債務持続可能性の回復に向けて協調して取り組むことが必要です。この点、スリランカの公的二国間債権者による協調した債務再編のプロセスが始動したことを歓迎します。また、債務危機を未然に防ぐには、平時から債務データの透明性・正確性を高める取組が不可欠です。この点、日本は債権国による債権データを共有する取組を主導しています。さらに、日本は、ADBが知見を活かし、IMFや世界銀行と共に、アジア・太平洋地域の債務管理能力や債務の透明性向上に関する取組を推進することを期待します。
 加えて、税収基盤の拡大や税務執行能力の向上等を通じた国内資金動員の強化が重要です。また、COVID-19からの回復の過程で、アジアにおいて多くの多国籍企業が活動を再開する中で、2本の柱の合意を含む国際課税の枠組みの着実な実施や、税の透明性の向上にも積極的に取り組むことが重要です。この観点から、日本は、アジア太平洋税務ハブや国内資金動員信託基金を通じ、税務に関する政策対話・知見共有を通じた貢献や資金面の貢献を進めていきます。

(3)保健
 強靱な保健システムや質の高い教育に支えられた人的資本の強化も、アジア・太平洋地域の持続的成長に欠かせない要素です。
 日本は、COVID-19以前からパンデミックへの「予防」、「備え」、及び「対応」の強化や、それに資するユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の推進が、保健衛生の観点のみならず、経済の持続性や開発の観点からも重要であると主張し、ADBを始めとする国際社会とともに、各国の保健システム強化等に取り組んできました。COVID-19は収束の兆しが見えてきましたが、この教訓を活かし、将来起こりうるパンデミックに備えるため、ADBと連携し、「豊かで強靭なアジア太平洋日本基金(JFPR)」を活用したこれらの分野への支援を引き続き行ってまいります。
 また、保健に加え、食料不安への対応や栄養不良対策への支援、公正な教育機会と質の高い教育の拡充に向けた取組の推進も重要です。日本は、ADBによるCOVID-19からの復興を、JFPRを活用しつつ、後押ししていきます。


3.組織改革・Capital Adequacy Framework Review
 アジア・太平洋地域の環境変化や新たな地域的課題に適切に対応していくためには、ADBの組織改革や業務モデルの見直しが不可欠です。量よりも質に焦点を当てて支援案件を組成しつつ、気候変動関連の野心的な目標達成や、民間部門業務の強化を図り、途上国の支援ニーズに戦略的に対応するべきです。この観点から、浅川総裁の強力なリーダーシップの下で行われている組織改革や業務モデルの見直しに係る取組が着実に進められていることを歓迎します。また、ADBにおいてジェンダーを含むダイバーシティが引き続き推進されることを期待します。
 また、他のMDBsと同様、ADBにおいても限られた資本の下で適切なリスク管理を行い、財務健全性を確保して高格付を維持しながら、気候変動や食料危機等も含めて複雑で増大する開発ニーズに対応できるよう貸付能力の強化に取り組む必要があります。この観点から、現在、ADB理事会で議論が行われているCapital Adequacy Framework Reviewの進捗を期待します。こうした取組の結果、ADBが融資だけではなく、民間資金の動員や開発に係る知見の移転の面でも更に重要な役割を担い、地域公共財を提供する組織として、アジア・太平洋地域における中核的な金融機関としての役割を果たすことを期待します。


4.アジア開発基金(ADF)増資
 アジア・太平洋地域における課題に対応するため、ADBがますます重要な役割を担う中、アジア開発基金(ADF)では、これまで譲許的支援を通じて貧困削減に貢献してきました。本年は、ADFの第13次財源補充(ADF14)の増資交渉が予定されています。加盟各国の財政事情も厳しい中、増資交渉を成功に導くためには、ADBが受益国の吸収能力や支援の適切性及び必要性を十分に考慮したうえで、バランスの取れた支援を行うことや、ADBの内部資金を最大限活用するよう自助努力を尽くすことが重要です。日本は、次期ADFが現行のADF13の教訓を適切に反映した制度設計となることを期待します。


5.結びに
 アジア・太平洋地域を取り巻く環境や国際的課題が急速に変化していく中で、地域全体の繁栄を実現していくためには、ADBが関係各国・機関による協調の軸の役割を果たしつつ、課題に挑戦していかなければなりません。浅川総裁の卓越したリーダーシップの下で、ADBのミッションが一層効果的に果たされることを期待します。日本は引き続きADBと密接に協力し、地域の更なる発展に貢献してまいります。

(以上)