1.世界経済、日本経済
世界経済は、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックによる未曽有の危機に直面しています。この危機に対応するため、各国は、それぞれの感染状況や経済状況に応じ、あらゆる政策手段を動員してまいりました。こうした努力により、世界経済は急激な縮小から緩やかに回復し始めています。
しかしながら、世界経済の見通しは、依然として極めて不確実な状況です。また、予想よりも早期に経済が回復している国がある一方で、感染の再拡大によりロックダウンの再導入を余儀なくされる国があるなど、回復の程度は一様ではありません。さらに、各国の債務は過去にない規模にまで高まっており、途上国においては、債務持続可能性の確保が喫緊の課題となっています。
日本経済は、依然として厳しい状況にはあるものの、5月末以降、経済活動を段階的に再開させており、個人消費や生産を中心に、持ち直しの動きがみられています。政府としても、感染対策と経済活動の両立を全力で支えるべく、2度の補正予算を編成し、予備費の使用を決定するなど、これまで、事業規模230兆円(約2.2兆ドル)を超える大規模な対策を講じております。さらに、デジタル化、地方創生、少子高齢化といった中長期的課題にも取り組み、本年9月に発足した新政権の下、再び力強い経済成長を実現してまいります。
2.IMF及び世銀グループへの期待
まず、両機関に対する期待を申し上げます。
一部の低所得国における債務の脆弱性の高まりは、国際社会において懸念されていますが、新型コロナウイルスの影響により、この問題は一層深刻なものとなっています。途上国の持続可能な経済成長を確保するためには、債務支払猶予イニシアティブ(Debt Service Suspension Initiative(DSSI)による流動性支援に加え、途上国の支払能力を構造的に改善する措置の実施が必要です。我々は、G20によるDSSIの延長の決定、及び「DSSI後の債務措置に係る共通枠組」への原則的な合意という二点で大きく前進しました。G20は、途上国や国際社会の期待に応えるよう、2020年11月のG20財務大臣・中央銀行総裁会議において、「共通枠組」をとりまとめ、公表しなければなりません。
DSSI及びDSSI後の債務措置の実施については、全ての公的な二国間債権者が、完全かつ透明性高く行うことが不可欠です。また、債務措置には、民間債権者が公的債権者と少なくとも途上国にとって同程度に有利な条件で参加することが必要です。あわせて、途上国の債務持続可能性の確保に向け、IMF・世銀が、当局による着実な改革の実施を効果的に支援することを期待します。br>
さらに、 IMF・世銀には、債務透明性の強化と債務データの正確性を確保する取組の継続を期待するとともに、全ての公的な二国間債権者がIMF・世銀の債務データ突合(Debt Data Reconciliation)に協力することを求めます。
次に、IMFに対する期待を申し上げます。
未曽有の危機への対応において、IMFは極めて重要な役割を果たしてまいりました。緊急融資ファシリティの強化、新たな融資制度の創設、低所得国向けの融資ファシリティや債務救済支援の強化、アクセスリミットの一時的な引上げなど、短期間に様々な対応を行ってきたことを高く評価します。
IMFは、国際収支支援をマンデートとする唯一の機関として、今後も加盟国のニーズに的確に応えていくために、そのツールを積極的に見直していくことが必要です。日本は、現在理事会で議論が行われているlending toolkitsの強化の議論を歓迎し、新たなファシリティの創設も含め、様々な選択肢を前向きに検討する考えです。その際、加盟国からのニーズがどの程度あるのか、資金支援と合わせた構造改革の適時実施をどのように担保するのかといった点について、更に議論を深めていくことが重要です。また、世界経済を取り巻く高い不確実性を踏まえ、緊急融資ファシリティのアクセスリミットの一時的な引上げを、半年間延長したことを歓迎します。
IMFはその役割を果たしていく上で十分な資金動員を行えることが必要であり、各国は新規借入取極(NAB)の倍増と新たな二国間融資取極(BBA)の承認プロセスを着実に進めなければなりません。日本は、NABの倍増に続き、新たなBBAの手続きも、先般完了しました。今後必要となる場合は、機動的にNABの発動を行うことを支持します。迅速で柔軟な貸付資金は重要な役割を果たすものであり、IMFの資金基盤においてより積極的に位置づけ、IMFのガバナンスの在り方にも組込まれるべきでしょう。
不確実性が高い状況下において、世界経済見通し(WEO)をはじめとした、IMFのタイムリーかつ的確な状況分析や政策助言は、加盟国が効果的な危機対応を行うための重要な指針となります。また、各国の異なる感染状況や経済状況に応じた分析や政策助言を行うことの重要性が一層増しており、IMFが、ヴァーチャル形式も活用し、focused なbilateral surveillanceを再開しつつあることを歓迎します。
IMF がグローバル金融セーフティーネット(GFSN)の中核として効果的に機能していくためには、外貨準備や二国間スワップ、地域レベルでの地域金融取極(RFAs)を含む、GFSN の他の要素とIMFの協力も重要です。本年、チェンマイ・イニシアティブ(CMIM)については、より円滑かつ迅速な発動を可能とする改定が行われたことを踏まえ、CMIMとIMFとの協力・協働の作業メカニズムが一層深められることを期待します。
途上国に目を転じると、危機の影響を大きく受けており、資金不足・債務脆弱性・キャパシティ上の制約に直面しています。
日本は、大災害抑制・救済基金(CCRT)に1億ドルの資金貢献を行い、貧困削減・成長トラスト(PRGT)に対してこれまでの貢献額36億 SDRの倍増にコミットし、直ちに利用可能な18億SDRを拠出するなど、積極的にIMFの対応を支援してきたところです。他のドナーも積極的に貢献を行うことを期待します。
債務状況の悪化に見舞われた途上国は、危機に適切に対処するため、知的支援を必要としています。こうした観点から、日本は、COVID-19 Crisis Capacity Development Initiativeに対して、新たに1000万ドルの貢献を表明します。債務管理を中心に、低所得国の能力開発の活動をしっかりと支援していきます。
この他、IMFが取り組むべき課題について申し上げます。
IMFは、各国の対外バランスや為替レートを評価する役割を担っており、その評価の基礎となるモデルは、為替レートが経常収支を調整するとの考え方に立っています。しかしながら、日本のように所得収支の比率が高い国においては、為替レートの経常収支を調整する機能は、短中期的には極めて低いと考えられます。また、日本を含む先進国においては、経常取引と無関係の資本取引が拡大し、為替レートに大きな影響を与えるようになっています。こうした点を踏まえ、各国の異なる経常収支の構造を適切に反映するよう、モデルを抜本的に改善することを求めます。
日本は、IMFが中銀デジタル通貨(CBDCs)の分析を深めることを歓迎します。その際、CBDCsのデザインと発行体のガバナンスに焦点をあてることにより、安全性と健全性との側面に特に着目すべきです。CBDCsの利益とリスクについての認識が広まることにより、潜在的な発行者と利用者が情報に基づいた判断を行えるようになるでしょう。
次に、世銀グループに対する期待を申し上げます。
新型コロナウイルスにより、社会・経済への影響が広がり、国際的な支援が必要とされる途上国、とりわけ低所得国に対して、世銀グループによる緊急支援が迅速に行われていることを評価いたします。
国際保健について、新型コロナウイルスの感染拡大を収束させるためには、ワクチン・治療薬・診断薬をはじめとする保健・医療物資の開発・製造・供給を促進することが重要です。日本は、世銀グループによるワクチン・薬等の製造・供給能力の強化に向けた支援を歓迎するとともに、こうした取組みを支援するために必要な資金として、1000万ドルを国際金融公社(IFC)に対し拠出することを表明します。また、パンデミックに対する予防・備え・対応を強化し、経済・社会活動の持続可能性を確保する上で、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の推進が重要であり、日本が世銀と連携して立ち上げた「保健危機への備えと対応に係るマルチドナー基金」等を活用した更なる取組みを期待します。
新型コロナウイルスからの復興段階を見据え、途上国が包摂的かつ持続的な成長を実現するためには、質の高いインフラ投資をさらに推進するとともに、新たな産業の育成や雇用の創出を図っていく必要があります。生産拠点の多様化を通じた新たなサプライチェーンの構築が重要となっており、世銀グループがその知見を活かしつつ、主導的な役割を果たしていくことを期待します。
最後に、今般の危機に対して特に脆弱な低所得国を支援する国際開発協会(IDA)については、2021財政年度に資金利用の前倒しを予定している中で、資金が不足し、低所得国のニーズに応えられなくなることが見込まれ、持続的な成長の達成に必要な資金の確保に向け、早急に議論を開始することが重要であると考えます。
3.結び
IMF及び世銀グループがこれまで果たしてきた大きな役割と国際社会に対する多大な貢献に敬意と感謝を表すとともに、今後も増え続けるであろう困難な世界的諸課題に対処し、強固で持続可能かつ均衡ある包摂的な成長や貧困の削減の実現に尽力していくことを期待して、結びの言葉とさせていただきます。
(以上)