1.世界経済の現状と日本の経済財政運営
はじめに、本年次総会をホストしたタイ政府及びバンコク市民の皆さまの温かい歓迎に心より感謝申し上げます。また、先月タイで発生した洪水により亡くなられた方々及びその御家族に心から哀悼の意を表すると共に、被害を受けられた方々にお見舞いを申し上げます。
世界経済は、地政学的緊張や貿易の制限によるサプライチェーンへの悪影響など、高い不確実性と様々なリスクに直面しています。これまでのところ世界経済は一定の強靱性を示していますが、依然としてリスクは大きく、こうした不確実性が金融市場にもたらす影響にも留意が必要です。
現下の中東情勢は、世界のエネルギー供給や物流に大きな悪影響を及ぼしており、一日も早い、ホルムズ海峡の自由で安全な航行の確保が不可欠です。また、重要鉱物に関する恣意的な輸出規制は、世界経済の下方リスク要因であり、撤回されるべきです。
ロシアによるウクライナに対する不法な侵略を一日も早く終わらせ、公正かつ永続的な平和を実現することが重要です。日本が、今後も国際通貨基金(IMF)及び世界銀行グループ(WBG)と共にウクライナ支援を継続していくためにも、ウクライナ国内の各種改革が着実に実施されていくことを期待します。
こうした足下の問題への対応に加えて、各国は、技術革新、激甚化・頻発化する自然災害、人口動態の変化といった構造課題への対応や、それぞれの経済の強靱性を高めることも求められています。そのためには、先進国・途上国を問わず、経済成長と財政の持続可能性の両立が重要です。日本は、国・地方の総債務残高対GDP比を安定的に低下させること等により、インフレ・金利のある世界に変わりつつある中でも、市場の信認を確保しつつ、経済成長と財政の持続可能性を両立させていきます。
2.IMF及びWBGへの期待
世界経済及び開発を取り巻く課題が複雑化・多様化する中、グローバル金融セーフティネット(GFSN)の中心であるIMF、及び国際開発金融機関(MDBs)の中核である世界銀行グループの役割はこれまでになく重要です。IMF及びWBGが、それぞれの比較優位を活かしながら、国際社会において一層大きな役割を果たすことを期待します。
① IMFへの期待
世界経済の構造や危機の発生メカニズムが変化する中、IMFの中立性・専門性に基づくサーベイランスは一層重要です。特に、過度で持続的なグローバル・インバランスは、貿易を巡る緊張の更なる高まりや、金融市場の無秩序な調整につながるおそれがあり、その防止に向けて、客観的かつ専門的な分析に裏打ちされた、IMFによる率直な政策提言が不可欠です。また、非市場的政策・慣行(NMPPs)がもたらす過剰生産等、各国の国内政策が世界経済に及ぼす負の影響について、実証分析やシナリオ分析などをさらに深めることを期待します。
次に、世界経済が様々な構造変容や危機に直面する中、IMFの融資業務の重要性もさらに高まっています。特に、低所得国・脆弱国向け融資プログラムが近年大きく増加する中、低所得国・脆弱国支援は今日のIMFのコア業務の一つとなっており、これを支える貧困削減・成長トラスト(PRGT)が、持続的かつ効果的に実施されていくことが必要です。日本は今後とも、PRGT等に対する自発的資金貢献(VFCs)を継続していきます。IMFには、GFSNの中核として、触媒機能を一層発揮することも求められています。その際には、地域金融取極との協力強化が有用です。
IMFの能力開発は、各国の経済強靱性を高める観点から、これまで以上に重要です。IMFは、①能力開発のサーベイランス・融資との統合や、②能力開発により対象国が獲得した能力の維持、③成果の可視性の向上を通じた説明責任の強化、の3つの取組を今後も強化していくべきです。また、アジア太平洋地域において、IMFアジア太平洋地域事務所(OAP)が、様々な能力開発ツールの相乗効果や関係機関の協業を促進する「架け橋」としての機能を一層果たしていくことを期待します。
最後に、IMFが変化する国際金融環境の中でその役割を果たし続けるためには、以上で述べた機能強化とクォータ・ガバナンス改革を一体的に進めるべきです。IMFの信認と正統性の向上のため、適切なクォータ計算式に基づく透明かつ客観的な改革が必要です。その際、国際金融環境の変容に応じてクォータ計算式を見直すとともに、VFCsなど、IMFのコア機能に対する責任ある貢献を適切に反映することが不可欠です。
② WBGへの期待
世界の直面する開発課題が多様化・複雑化する中、より高い開発効果を実現するには、世銀がOne WBGアプローチをさらに推進し、世銀内の知見を結集するとともに、国際金融公社(IFC)・多数国間投資保証機関(MIGA)を通じて民間資金動員を拡大させること、MDBs間の連携をさらに深化させることが重要です。
また、品質評価を重視するRated Criteriaの導入や調達先の多様化推進など、調達制度改革の進展を歓迎します。ライフサイクルコストを踏まえた質重視の調達は、借入国における開発効果及び持続可能性の向上に資するものです。市場への積極的なアウトリーチや調達人材の能力強化等、更なる取組の推進を期待します。
国際保健については、WBGが世界保健機関(WHO)と連携して、東京に設立したユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)ナレッジハブ等を通じたUHCの進展に取り組むとともに、パンデミック基金を通じて将来の危機に対する予防・備え・対応(PPR)を強化することを期待します。また、日本は母子保健及び栄養を支援するため、グローバル・ファイナンシング・ファシリティ(GFF)に4000万ドルの新規拠出を表明します。さらに、高齢化は新たな民間セクターの発展、ひいては、成長や雇用の機会となり得るとの認識の下、WBGによる高齢化への取組を後押しします。
重要鉱物については、引き続き国別戦略の策定を進めるとともに、本年WBGの日本信託基金に創設したRISE+を通じて具体的な案件形成を進め、サプライチェーンの多様化を実現することを期待します。また、保証・リスク分担機能の強化も重要であり、MIGAの重要鉱物関連支援に関する保証機能の拡充に向けた取組が進められていることを歓迎します。日本はこの取組を積極的に後押ししており、各国にも協力を呼び掛けます。
WBGは、質の高いインフラ投資、防災・災害リスク管理及びエネルギー安全保障の推進を通じて、世界経済の強靱性向上に資する具体的な案件を形成していくべきです。日本は、中東危機を受けて立ち上げられたDRIVEの第1号案件である、IFCと国際協力機構(JICA)による東南アジア及び南アジアのエネルギー移行を支援する共同プロジェクトを歓迎します。
③ IMF・WBG間の連携強化
債務透明性の確保は、借入国が安定的なマクロ経済・財政運営を実現する上で重要な要素であり、G20において、世銀のData Sharing Exercise(DSE)への参加国拡大に向けた議論が進展していることを歓迎します。データの秘匿性に関する懸念を解消するため、世銀が機密保持に係る内部規定を整備したことを評価するとともに、日本は改めて、全G20メンバーのDSEへの参加を慫慂します。また、日本は、債務透明性の向上に資する技術支援を引き続き積極的に供与していきます。その一環として、世銀と日本がインドネシアで実施している、債権・債務データをリアルタイムで自動突合する取組が進展し、その成果が他国に普及していくことを期待します。
債務再編については、プロセスの迅速化に向け、二国間公的債権者が協調して取り組むべきであり、「共通枠組」のMoUテンプレートが公表されたことを歓迎します。今後は、更なる迅速化や債権者間の同等性確保の円滑化に向け、個別の債務措置で合意されたMoUも公表すべきです。また、中所得国への債務再編に当たっても、「共通枠組」に沿って再編を行うべきであり、こうした議論をIMF・世銀が主導することを期待します。
途上国が持続的な経済成長の基盤を整え、投資を促進するためには、途上国のオーナーシップを尊重しつつ国内資金動員(DRM)を強化することが喫緊の課題です。本年3月に東京で行われたDRMに焦点を当てた「税と開発カンファレンス」での議論も踏まえ、日本は、アジア太平洋地域を含む各国のニーズに即した継続的な支援を重視します。世銀・IMFが DRM強化支援に取り組むに当たって、経済協力開発機構(OECD)・アジア開発銀行(ADB)をはじめとした各国際機関との連携を強化し、効果的な支援を提供することを慫慂します。
3.結び
今後も、ゲオルギエヴァ専務理事とバンガ総裁のリーダーシップの下、両機関が、加盟国の抱える問題やグローバル課題に一層効果的に対応し、世界経済の更なる発展において中心的な役割を果たし続けるよう、日本は、両機関の改革に関わる議論を主導し、そのミッションの実現に貢献してまいります。また、日本は、両機関への人的な貢献も積極的に行っていきます。
(以 上)

