1.世界経済・日本経済
世界経済は、貿易政策や地政学的緊張の影響で、先行きが見通しづらく、企業や消費者の行動が制約されています。加えて、技術革新の加速、気候変動の深刻化、人口動態の変化といった長期的な構造変容にも直面しています。世界経済・貿易秩序が流動化しつつある中で、こうした現実に適応しつつ、新たな秩序作りが求められています。このために、各国は、自国の経済・社会の強靭性を高める自助努力を強化するとともに、価値観の異なる様々な国々の間で共有できるルールを模索しながら、二国間、地域間、及び多国間から成る多層的な国際経済体制を作り上げていく必要があります。
この点、長期化するロシアのウクライナに対する不法な侵略は、世界経済全体にとって依然として重大なリスク要因であるだけでなく、秩序ある世界経済の再構築に当たっての妨げとなります。日本は、ロシアに対し、侵略の即時終結と公正かつ永続的な平和の実現を強く求めます。また、世銀グループ(WBG)及び国際通貨基金(IMF)によるウクライナ支援に引き続きコミットし、ウクライナ国内の改革努力を後押ししていきます。
日本経済は、賃上げと投資がけん引する成長型経済に移行しつつあります。この動きを確かなものとするべく、生産性や付加価値の向上及び実質賃金の安定的上昇を目指します。
2.WBG及びIMFへの期待
各国が多様化かつ複雑化する課題に自助努力を通じて対処するために必要な公的資金は限られています。こうした中、国際開発金融機関(MDBs)の中核としてWBGが効率的及び効果的に機能すること、また、グローバル金融セーフティネット(GFSN)の中心としてIMFの機能をさらに強化することは、これまで以上に重要です。
① WBGへの期待
日本は、既存資本の効率的な活用の観点から、WBGにおいて「自己資本の十分性に関する枠組(CAF)」レビューの提言に沿った取組により、融資余力が拡大されてきたことを歓迎します。この融資余力を活用し、真に支援が必要な国に十分な支援が行われることを期待します。
WBGが開発効果を最大化するためには、One WBGアプローチの下でWBGの各機関が有機的に連携することが重要です。開発支援に向けた公的資金が限られる中、民間資金の動員が一層必要であり、国際金融公社(IFC)及び多数国間投資保証機関(MIGA)がより積極的な役割を果たすことを期待します。
WBGを含むMDBsの効率性を高める観点からは、MDBsがシステムとして機能していくことも重要です。世銀とアジア開発銀行(ADB)の「完全相互信頼枠組」において、初めての共同実施案件が先月承認されたことを歓迎するとともに、このような取組が他のMDBsにも拡大していくことを期待します。
効率的かつ効果的な開発支援のためには、WBGが途上国の声をオペレーションにより良く反映することも重要です。このため、WBGがボイス改革に迅速に取り組み、理事室のキャパシティ向上やマネジメント及び職員との関係強化等に速やかに対応していくことを期待します。日本は、実施に向けて必要な貢献に努めていきます。
国際保健については、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の推進と、パンデミックへの予防・備え・対応(PPR)の強化を、両輪で進めることが重要です。WBGが世界保健機関(WHO)と連携して、途上国の持続可能な保健財政の構築に向けた取組が一層加速するよう、日本の知見を活用しつつ、東京に拠点を置く「UHCナレッジハブ」を通じて支援を行うことを期待します。また、本年12月に東京で開催する「UHCハイレベルフォーラム」では、バンガ総裁を始めとする参加者と共に、UHCの実現に向けた取組を加速するための方策について議論します。
気候変動に伴う自然災害の頻度と規模の激化によって、質の高い強靱なインフラ整備は重要性を増しています。日本は、品質を重視する世銀の調達改革を歓迎するとともに、受益国における能力構築や、高い専門的知見や技術を有する多様な企業へのアウトリーチの実施に期待します。また、途上国におけるクリーンエネルギー関連製品のサプライチェーン強靱化に取り組む強靱で包摂的なサプライチェーンの強化(RISE)により、ネット・ゼロ実現のみならず、雇用創出や持続的な経済発展、世界経済の強靱化に資するよう、WBGの積極的な取組に期待します。
② IMFへの期待
IMFは、各国の国際収支問題を解決するというその基本的な役割は維持しつつ、変わりゆく外部環境に適応し、加盟国の変化するニーズに最大限応えていく必要があります。日本は、長期的かつ既存の枠組みに囚われない視点からIMFの役割を再定義し、その機能を一層強化するための議論を提起してきました。こうした視点に立って、以下、IMFの主要な機能・課題について、日本が重視する視点を3点述べます。
まず、中立性・専門性に基づく分析と客観的な政策提言を通じて、各国が必要な改革に取り組むよう促すIMFのマルチ・バイのサーベイランスはますます重要です。その際、サーベイランスの対象は、各国の国際収支に直接影響を及ぼすマクロクリティカルな課題を優先すべきです。今後も、IMFに対し、サーベイランスを通じて得られた知見や分析に基づく各国への具体的な政策提言と、各国が提言を実行に移していく後押しとなるような機会の設定を期待します。
次に、GFSNの中心としてIMFが果たす融資機能について、質と量の両面から、不断の見直し・強化が必要です。その際、GFSNが多層化する中にあっても、地域金融取極やバイ・スワップでカバーされない、外生的ショックに脆弱な低所得国や島嶼国に対する支援を、IMFのコア業務と位置付けるべきです。また、IMFと地域金融取極が、各々の比較優位を活かして加盟国の資金ニーズに対応することができるよう、協業の枠組みを整えることも必要です。
最後に、加盟国が自らの組織や人材の力を高め、課題解決能力を向上させることは、これまで以上に重要です。この点、サーベイランス・融資と並ぶIMFの中核業務である能力開発は、その有効性を一層高める必要があります。長年に亘り、トップドナーとしてIMF の能力開発を支援してきた日本として、①能力開発に係るツール間のシナジー向上、②能力開発とサーベイランス・融資の一層の統合、③成果管理の強化、の3つの取組をIMFに求めます。
以上述べた改革の推進を通じ、IMFがその機能を効果的に発揮し、変化する加盟国のニーズにより良く応えていくためには、クォータ・ガバナンス改革が必要です。この観点から、「ディリヤ宣言」に即して、来年の春会合までに、「Guiding Principles」の策定に向けた議論を進めていくことが重要です。本Principlesが、第17次クォータ一般見直しのみならず、その後に続くIMFガバナンス改革やクォータ見直しの指針となるよう、日本も積極的に議論に貢献する考えです。
③ WBG・IMF間の連携強化
両機関が連携して取り組むべき課題として、債務問題への対応及び国内資金動員(DRM)の強化について、日本の考えを申し上げます。
途上国が中長期的に開発課題を解決し、持続的に成長するため、債務問題への対応は引き続き重要です。本年春、グローバル・ソブリン債務ラウンドテーブル(GSDR)において、「共通枠組」の下での債務再編を含め、再編プロセスに要するタイムラインの目安等を盛り込んだプレイブックが公表されたことを歓迎します。将来における再編プロセスの更なる迅速化及び円滑化に向け、我々は引き続き「共通枠組」の実施の改善に取り組むべきです。また、中所得国についても、スリランカにおける債務再編の経験や教訓を活かした多国間の取組により対応することが重要です。今後とも、プレイブックのアップデートを含め、WBG及びIMFの役割に期待します。
債務持続可能性の確保には、正確で透明な債務データが不可欠であり、WBGが公表した「抜本的な債務透明性」に係る報告書を歓迎します。報告書が提言するとおり、借入国の債務管理能力の強化が重要であるとともに、債権国側も、データ共有の取組(DSE)に全てのG20国が参加して債務データの突合を通じた債務透明性の向上を図るべきです。日本は、来年始動する債務管理ファシリティ(DMF)のフェーズ4に7百万ドルの新規貢献を表明します。
途上国の持続的な経済成長に向けて、財政持続性や財政運営の強化等を通じたDRMの強化も喫緊の重要な課題です。日本は、WBG及びIMF等の関係国際機関から成る「税に関する協働のためのプラットフォーム(PCT)」の活動に引き続き貢献していくとともに、PCTがDRMに焦点を当てた「税と開発カンファレンス」を来年3月に東京で開催することを歓迎します。こうした対話を通じて、途上国の課題やニーズを的確に把握することで、日本がかねてより重視してきた、国内税制と税の執行能力にかかる技術支援の実効性及び効率性が向上することを期待します。
3.結び
本年、国際復興開発銀行(IBRD)とIMFの両機関は設立80周年を迎えます。この間、両機関は、激変する世界経済及び金融環境に適応しながら、各々のミッションの実現に向けて加盟国のニーズに応えてきました。今後もWBG及びIMFが、世界経済の構造変容に適応し、加盟国の抱える問題やグローバル課題に一層効率的・効果的に対応できるよう、日本は、両機関の改革に関わる議論を主導し、それぞれのミッションの実現に貢献してまいります。また、日本は、WBG及びIMFにおける人的貢献にも引き続き取り組みます。
(以 上)